第46回日本SF大賞エントリー一覧
皆様にエントリーいただいた作品とコメントを表示しています。
ご応募いただいたエントリー内容の確認が終わりましたら、このページに掲載いたします。ふるってご応募ください。
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No.81
荒巻 義雄 『聖シスコ電説』 小鳥遊書房
『聖シスコ伝説』はフィリップ・K・デイツク『高い城の男』本歌取りした、荒卷義雄の最新のSFである。新しい物語空間を構築しているように思えます。
これこそが<メタSF>の真骨頂と言える。歴史改変SFをさらに改変した物語である。
SF大賞に推薦します。 -
No.80
黒川 衛 『沈黙の収穫』
本作は小説でありつつ動作する“計測系”である。章末の問いと読者の反応が回収され、読者が物語のパラメータとして立ち上がる。小説・批評・装置の境界を横断し、SFに〈可視・可逆な介入〉の位相を増設した。実験の完成度と可読性の両立は、本賞にふさわしい。
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No.79
河野咲子 オペラ『船はついに安らぎぬ』
幻想的な題材、脇役に至るまで魅力的なキャラクター造形、そして何より、永井みなみの音楽との強い親和性に圧倒された。「エリザ」という主要人物の謎を最後まで解き明かし切ることなく観衆の想像力に委ねる絶妙な塩梅も素晴らしい。
公演情報:https://opera94.main.jp/web/06funeginu/
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No.78
二語十 『探偵はもう、死んでいる。』 KADOKAWA
この作品は、毎巻衝撃的な展開が待ち受けており、先の読めないストーリー展開が魅力です。主人公たちは自分たちが望む結果を得るために奮闘し、その過程で作品の世界がどんどん拡張されていきます。このような設定が読者を飽きさせることなく、常に新しい発見や驚きを提供してくれるため、非常に楽しめる作品となっています。キャラクターの成長や世界観の深さにも惹かれ、物語に引き込まれてしまうこと間違いなしです。ぜひ多くの方にこの作品を手に取っていただき、その魅力を体感していただきたいと思います。
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No.77
相川英輔 「リトル・フィンガー」 新潮社
仕事ができるエリートサラリーマンの割に、妻に別居を切り出されるわ、若い女性(部下)によろめきそうになるわ、どこか情けない中年男性。そんな彼の新しい「相棒」になるのは喋る義指。あらすじだけ書くと荒唐無稽な作品に感じるが、とても温かみがあって、大人の寓話とも呼べそうな作品。発表された著者の作品は残酷だったり、哀愁溢れる物語でも必ず不思議なほど読後感がいい。地味かもしれないけれど、2025年を代表する短篇だと思う。
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No.76
十三不搭 『ラブ・アセンション』 早川書房
軌道エレベーターのなかで行われる恋愛リアリティショー。見るものと見られる者が交錯する世界で、表と裏が複雑に絡み合い、登場人物もバックグラウンドも多種多様。なのに、まったく混乱することなく一気に読めてしまう不思議。圧倒的な物語の強さと巧みさで1ページ毎に物語が上昇していく。
あらゆる欲望を極限まで詰め込んだ結果の神回の連続。すべてが著者の手のひらの上のはず。なのに、自分はヤバいなにかを偶然見てしまったのだ、という不可思議な感覚を覚えた。
異常王道恋愛傑作SFエンタメの名にふさわしいと思い、本作を日本SF大賞に推薦します。 -
No.75
荒巻義雄 『聖シスコ電説』 小鳥遊書房
フィリップ・K・ディックの『高い城の男』に着想を得た荒巻義雄の地政学であり、無意識論であり、芸術・文学論の趣きのある小説だ。著者の該博な知識と作家としての経験が、ふんだんに散りばめられている。特に後半でディックとユングの関係が語られ、『高い城の男』がディックの集合的無意識(逆転した世界)であることが示唆されている箇所は興味深い。本書ではディックの集合的無意識を――それは戦後を生きる私たちの集合的無意識でもあるのだが――、地政学・八卦・脱構築・完全機械経済という視点から解体し、新たな地平を開くことが企図されている。そうすることで初めて、私たちは〈自己家畜化〉を強いる現代社会に風穴を開けることができるのだ。著者が自身の人生経験、読書体験、深い芸術理解を踏まえてディックを乗り越えようとした試みは一読の価値がある。
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No.74
監督・鈴木信吾 スタジオ・GoHands TVアニメ『もめんたりー・リリィ』 GoHands
ポストアポカリプスという舞台にここまで本気な武装美少女アニメがかつてあっただろうか。
人類が未知の怪物によりほとんど滅ぼされた世界を舞台にした、怪物VS武装少女のアニメ…と聞くとあーはいはいよくあるアレねで済まされるだろうが、しかし今作はよくあるアレではないのだ。
異様な口癖(『かっぽー!』、『ギルティ』等)を多用するキャラクターたちの戦いは意外なところへ着地し、怪物の正体(なんと彼らはそれらしい雰囲気を演出するためだけに生まれたのではないのである!)が明かされ、骨太でハードSF的である世界滅亡の真相が判明する。それだけでも僥倖であるが、彼らの話は設定だけに終わらずにキャラクターたちのアイデンティティの話となり…そこから先は是非その目で確かめていただきたい。
どうしてここまでの傑作が一部のアニメオタク以外の間ではほとんど語られていないのか!みんな見てくださいよ! -
No.73
荒巻義雄 『聖シスコ電説』 小鳥遊書房
AIとの共作など、ここ数年、従来のSFの概念を超える超える作品を次々と発表してきた荒巻の最新長編は、P・K・ディックの改変SFの名作『高い城の男』をさらに改変したメタSFである。ディックの作品では登場人物の一人にすぎないタゴミの視点から描かれた改変世界は、仕掛けに満ちており、刺激的だ。92歳で新たな試みに挑戦している作者に敬意を表したい。
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No.72
かずなしのなめ/しば犬部隊/星月子猫/涼海風羽/武石勝義/十三不塔/人間六度/三瀬弘泰 『シメオンの柱~七つ奇譚~』 文芸社
僭越ながら自薦いたしますのは“七人の作家によるシェアードワールド・幻想SFアンソロジー”でございます。本作はワシこと涼海風羽が企画立案、著者招聘、版元への営業まで全て実施して刊行にこぎつけた書籍になっております。執筆陣はいずれも輝かしい受賞歴を持ちながらコロナ渦にデビューしたSF系作家です。内容は〈濃霧に覆われた円環の橋だけが全ての世界で謎の巨塔“シメオンの柱”を巡る幻想冒険譚〉。作中に登場する濃霧とは現実世界で私達が感じていた「目に見えない疫病に対する不安」のメタファーです。人間の根源的恐怖へ立ち向かう登場人物達の姿は、読者へ生きる活力を奮い立たせるものとして描かれています。推薦者には〈強さの象徴〉として著名なプロレスラーに依頼。ポストコロナを迎えた今「なぜSFというエンターテインメントが現在まで愛されているのか」を考えた時この一冊はその答えとなりうると確信し、本書籍を推薦いたします。
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No.71
犬怪寅日子 『羊式型人間模擬機』 早川書房
独特の文章テンポ、情景の広がる美しき言葉選び、紡がれて行く命と訪れる死に向き合う人々の生々しい想い、どれも一級品です。途中で読む事を止められず、ただただひたすら世界に没頭してしまいます。一人一人、人間の掘り下げ方が凄いです。
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No.70
藤井太洋 『マン・カインド』 早川書房
発刊が第44回の対象期間をわずかに過ぎた後だったため今回に推薦。人類の未来像を、現在と少し先の未来に予測される様々な事象の延長線上に置いたリアルさと説得力が、本書の最大の魅力でもあり、またある意味での恐怖をもたらす。私たちと私たちの社会はこれからどこに進むのか。単なるスーパーヒューマノイドの誕生譚では済まない、重たい課題を突きつける、でもとびきりのエンターテイメント作品。
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No.69
灰谷魚 『レモネードに彗星』 KADOKAWA
この作家にしか書けないセンスによって貫かれている、SF短編集。SFの定義を拡張してくれるような、そんな予感さえ感じる。全編、孤独とユーモアがないまぜになった読み心地で、文体も相まって唯一無二の読み心地だ。
表題作のレモネードに彗星は、十四歳の時にスナイパーに狙撃されて死んだ私と私が死後一緒に暮らし始めた美しい叔母の物語。幻想的な設定の中に、確かに読者は得も言われぬ孤独と背徳のにおいを嗅ぎつける。語り得ないことを語ろうとしている、と円城氏が講評していたが、まさしく。一転その他短編は内容もポップで読みやすい。
海外文学を彷彿とさせるような対象との距離感が心地よく、でいてユーモアのセンスと手の届かない「あの人」との距離感が克明に描写されており、それを広義の今でSFという枠組みで表現されていることに感動すると共に、これは日本SF文芸史においても重要な立ち位置の作品になるのではないか、とさえ思った。 -
No.68
荒巻義雄 『聖シスコ電説』 小鳥遊書房
かつて山野浩一は、〈洋式建て売り住宅〉に準えて、日本SFを居心地の悪いアメリカSFの模倣だと批難したが、ほんとうにそうだろうか。SF作家が自分が影響を受けたアメリカSFを厳密に批評する目で分析し、これを小説に仕立てる行為は有意義だと確信する。本作は、デビュー前の私が強い影響を受けた奇才、フィリップ・K・ディックの歴史改変SF『高い城の男』(ヒューゴー賞受賞作)を、作中の日本人(タゴミ=宕見)の視座で書き直した作品だが、「SF小説でありながら、同時にディック評論でもある」という意味で、新型のハイブリット小説でもある。作中いくつかの発見があるが、『高い城の男』とユングとの関係は無視できない。
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No.67
円城塔 『コード・ブッダ 機械仏教史縁起』 文藝春秋
初出は文芸誌「文学界」隔月連載(2022年2月号~23年12月号)だ。冒頭に「コピーとはすなわち輪廻である。」「あらゆるものは死に、蘇り、死ぬ」とある。つまり、本作のヒロー(主人公)は、AI界の〈仏陀・チャットポット〉だ。〈彼〉は悩めるAIを苦悩から救済する〈機械仏教〉の導師である。「えッ!そんなことがあり得るかよ」と思う読者もいるだろうが、あり得る話だ。本作は、人間の宗教(たとえば禅宗)に、高度人工知能を対比・相対化させる知的作業によって、宗教の本質が露わにされているようにも思えるのだ。円城脳は量子脳かもしれない。
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No.66
円城塔 『去年、本能寺で』 新潮社
円城塔を理解するためには、円城塔専用の批評用語を発明する必要がありそうだ。本作は、文芸誌「新潮」に連載された11編のSF短編からなる作品集。(2025年5月30日初刷)表題作を例にとれば、「作中の主人公が信長なのだから『今年、本能寺で』でなければならない」と誰でも気付くはずだ。だが、これこそ円城SFの真骨頂なのだ。〈コード信長〉は何度でも甦ることができる。つまり、円城塔の小説空間は、無限にコピーが可能な世界なのである。伝統的歴史小説の構造改革とでも言おうか。わが日本SF界に新たな1ページが加わった。
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No.65
長谷川京 「社会人名刺バトル 就活生編」 集英社
強力なカードを集め、それで戦う、まさにトレーディングカードゲームの世界が、企業価値や個人の名声が付加された名刺というアイテムで行われたら? そんな突拍子もないアイデアを練り込んで馬鹿げたスケールにまで発展させた本作は作者の本分がいかんなく発揮された力作である。ただしふざけたばかりの物語ではなく、労働とは、人事とは、親子とは、そしてももちろん遊戯とは何か。そんな様々な問題提起が交錯しており、お手軽なボリュームながらも満足感は抜群である。SF大賞にだってきっとふさわしい。
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No.64
本条謙太郎 『汝、暗君を愛せよ』 ドリコム
科学とは何か.身の回りに溢るるSukoshi Fushigiな現象を解明せんとする取り組みである.であるならば,Sukoshi Fushigiな現象を題材とした作品はSF作品と呼称することができると考える.そのため,本作は確かにSF作品であると考える.
Sukoshi Fushigiな現象により異世界へ転生した本作の主人公は,紛うことなき凡人であるため英雄や名君なぞにはなれず,自分のために足掻くのみである.それ故,読者は理想の自分,夢の世界の自分を彼に見ることはない.しかし,彼を通して凡庸な人間は何かを為すことができるのか何かを遺すことができるのかを窺うことができ,彼を愛さずにいられない.
間違いなく本作は読んだ者の心に何かを遺し,読了前後で確実に何かが変わる傑作である.故に私は『汝、暗君を愛せよ』を推薦する. -
No.63
TBS ドッキリ企画「犯人を見つけるまでミステリードラマの世界から抜け出せないドッキリめちゃしんどい説 第3弾」
【ネタバレ注意】
「本当のメタフィクション」を作ることは困難だ。たとえ、小説の登場人物が読者に語りかけたとしても、それはただ文字が書いてあるだけで登場人物が読者を認識しているわけではない。インタラクティブ性のあるゲームでさえも、登場人物は事前にプログラミングされているだけだ。メタフィクションはどこまでいってもフィクションに閉じられている。しかし「ドッキリ企画」というメディアであれば、本当に虚構と現実があいまいな状態を作ることができる。本作は、ミステリー世界に芸人が閉じ込められるというドッキリの第三弾であるが、前作よりもメタ性が強まっており、ダミーの番組を進行したあとにスタジオで「殺人事件」がおこる。渦中の芸人は虚構と現実のあいだで本気で混乱する(あるいは混乱する演技をする)。ドッキリをメタフィクションにするという「このあとからは、これがなかった以前の世界が想像できないような作品」である。 -
No.62
工藤進(監督)、蛭田直美(シリーズ構成)、BAKKEN RECORD(アニメーション制作)、 Turkey!製作委員会(製作) TVアニメ『Turkey!』
【ネタバレ注意】
SFの面白さのひとつに「一見してギャグとしか思えない設定を超大真面目に行う」というものがある。発想段階ではコメディにしかならないようなギミックの細部を発展させて、驚きの世界を作っていくのが醍醐味である。本作「Tukey!」もそんな系統に属する青春SFである。
基本プロットラインは「ボウリング部の女子たちが戦国時代にタイムスリップしてボウリングを武器に戦う」という一発ネタコントにしかならなさそうなものを12話かけて至極丁寧に描いていくのだ。さらに(掘削の)ボーリングも登場するというダジャレかと思えるようなあらすじすらも大真面目にストーリー入れ込んでいく。そして、最後にはタイムトラベルSFがもつ感動が待ち受けている。新定番の青春時間SFとして「このあとからは、これがなかった以前の世界が想像できないような作品」である。 -
No.61
ブシロード(原作)、 柿本広大(監督)、 綾奈ゆにこ(シリーズ構成)、サンジゲン(アニメーション制作)、BanG Dream! Project(製作) TVアニメ『BanG Dream! Ave Mujica』
【ネタバレ注意】
本作はマルチメディアプロジェクト「バンドリ!」シリーズの一作であり、フランチャイズ全体でのシェアワールドを共有している。しかし、その世界観が一変するような挑戦的な作品であった。
「バンドリ!」シリーズはその名の通りバンドアニメである。青春日常バンドものである。前作「MyGO!」はシリーズの作風を変え、青春のほの暗さにフォーカスしたものであったが、まだバンドアニメではあった。本作はさらに一歩踏み込み、一般的な青春バンドアニメではまず見ることのできないギミックが多数入れ込まれている。その展開には一種のめまいさえも覚える。世界の知識が更新され、これまであったはずの光景がまったく別様となる。知が認識世界を書き換える。人気の長期シリーズ上で、前代未聞の「知による世界更新」を行ったことに対して、「このあとからは、これがなかった以前の世界が想像できないような作品」として推薦したい。 -
No.60
本条謙太郞 『汝、暗君を愛せよ』 ドリコム
このお話は社会実験のお話である。
王権が神よりの授かり物であるという思想の末期の時代。一つ間違えれば暴動か刑場の露と消える緊張感をはらんだ王宮で現代日本からの転生者が根回しと喫煙室会議と料亭接待いう日本人特有の武器を持って社会を変える王として生き抜くお話はSFたりうるものと考えます。 -
No.59
本条謙太郎 『汝、暗君を愛せよ』 ドリコム
現代知識を使って、ではなく、現代日本の「あたりまえ」がどれほど特別で、そのあたりまえに少しずつ近づけることで、国の運営をやりくりし、自らと愛する人たちを予測される悲劇から守る。それには急進ではなく…
これは異世界転生という思考実験SFではない。一つひとつの行動に痛みを伴い、しかし一度人生を投げ出した主人公には、それを受け入れる覚悟がある。一人の男の二つの人生のSFだ。 -
No.58
柴崎友香 『帰れない探偵』 講談社
リフレインされる「今から十年くらいあとの話」。これだけで、大発明だ、と嫉妬する。そして、「探偵」といういかにも虚構的な存在、に加え「なぜか自分の部屋に帰ることができない」という超虚構的状況、その日常であり非日常である日々。探偵という虚構的な存在も、その世界の巨大なシステムに組み込まれ身動きできなくなっている。終盤近くで現れる、帰れない主人公がもう長く使っていなかった言語。それによって交わされた短い会話によって立ち上がってくるかつての自分、そこから遠く離れた主人公にとっての現在のこの国の姿。
小説にはこんなことができるのだ。言葉にはこんなことができるのだ。SFファンに読んでほしいし、日本SF大賞の選考委員にも読んでほしい。そのためにも日本SF大賞を取ってほしいと思う。 -
No.57
井上信行 『La Luciole』
自薦。2025年1月7日にKindleにて発表した長編SF小説。
1万1千年後の未来から遡って平成時代までを描くというスタイルから、全体ではオムニバス性を帯び、様々な文体、トピック、人称を織り交ぜながら、各章は緩く連結されて構成される。主に周縁化された人々の視点を通して、網羅的に人間社会が描かれている。
出版元のレーベルは、「知を正統化するための制度的ゲートとしての出版」から距離を取るためにKindleというメディアを選んでおり、本来なら賞へのエントリーはこのコンセプトからは離れるが、日本SF大賞ならその立場を含めた提示が可能だと判断した。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0DSBSJ6JC -
No.56
九頭見灯火(編) 『ペンギンSFアンソロジー』
ペンギンをテーマとした広義のSFアンソロジー。有志によるカクヨム企画を基に書籍化した作品であり、プロ・アマチュア含めて総勢52名が名を連ねる。
掲載作品のジャンルは多岐にわたり、宇宙、未来、ポストアポカリプス、仮想世界といった王道から、陰謀説、日常、ミステリ、旅、ペンギンの不在を問う哲学まで、SFシーンにおける「拡散と浸透」を、ペンギンというモチーフを通じて結晶化している。
さらに、ペンギン好きの祭典として全国を巡回する「ペンギンバザール」への出展も予定され、関連グッズ展開と併せて、SFコミュニティの外へもSFの魅力をリーチしている点も特筆される。
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No.55
フラガリア ゲーム『ステラーコード』 フラガリア
ポップなキャラのイラストに油断しているとその骨太さに度肝を抜かれる本格SFビジュアルノベル。
人工衛星の研究を行う平凡な大学生が主人公。研究の不具合がきっかけで発見した謎めいたオブジェクトによって宇宙規模の事件へと巻き込まれていく本作の一番の特徴はゲームの合間に差し込まれる推理パートです。
ノベルパートで集めた様々な情報を駆使して宇宙的謎を解き明かす推理パートはゲームのインタラクティブ性が最大限に発揮された唯一無二のSF体験を味わえます。
謎解きを通して登場人物と一体となって物語に没入できる本作にSFの新たな可能性を感じたため推薦します。
(PC版販売ページ: https://store.steampowered.com/app/3411510/_/?l=japanese)
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No.54
大木芙沙子 「やけにポストの多い町」 早川書房
こんなSF小説もあるのかと衝撃だった作品。作品全体を包むノスタルジックな空気と、ゆっくりと忍びよってくるような不穏さ、狂気に満ちているはずなのに最後まで崩されない淡々とした文章がその不気味さを加速する。
ともすれば幻想小説かと思う序盤から、町の全貌が明らかになるにつれてしっかりと「SF」へ着地する展開にも脱帽した。町の美しさや登場人物たちの心情を描写する文章力も素晴らしい。読み終わった後もしみじみとした何かが胸に残る。SF短編ではあまり感じたことのない読後感だった。これまでSFに苦手意識があったような人にも広く薦めたい傑作である。 -
No.53
本条謙太郎 『汝、暗君を愛せよ』 ドリコム
哲学SFライトノベル! 本作では現代に至るまで人類が紡いできた『人文科学』を用いた思考実験小説です。Faculty of Humanitiesの真髄である哲学を内面化した主人公が、現代の人権意識とはかけ離れた異世界で何を為すのか、何を為さないのかを、細緻な筆致でエンターテイメントする快作です。WEB媒体にて完結済み。シリーズを通した円環構造が特に見事なものの、刊行済みの1巻にも十分にその萌芽が見て取れます。すごいものがきた。
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No.52
荒巻義雄 『聖シスコ電説』 小鳥遊書房
『聖シスコ電説』は、1963年ヒューゴー賞受賞の「歴史改変SF」——フィリップ・K・ディック『高い城の男』を〈本歌取り〉した、荒巻義雄の最新SFである。本作では、荒巻の〈メタSF〉作品群にも大きな影響を与えたディックへのオマージュの意味をも込めて、新たな物語空間を構築している。『高い城の男』の登場人物タゴミノブスケ(本作では田宕信輔)の視点を物語の中心に据え、原作のプロットを踏まえつつも新たな登場人物を配して展開するのは、これこそが〈メタSF〉の真骨頂と言わんばかりに入り組んだ「歴史改変SFをさらに改変した」物語である。この新たなSFの思考実験をSF大賞に推薦したい。
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No.51
本条謙太郎 『汝、暗君を愛せよ』 ドリコム
最近流行りの転生もの、これは古くには「アーサー王宮廷のニューヨーク・ヤンキー」などにも見られるSF作品だとして間違いないと考える。
さて、この「汝、暗君を愛せよ」であるが、巷を騒がせているチート(ずる)能力で未開明世界を変えていく物語ではない。ここに記録されているのは、望まずに王位につけられてしまった現代転生者の悪あがきの顛末である。
しかし、この作品を魅力的にさせているのは、間違いなく人の意思であり、その生活感であり、そして翻弄される主人公の軌跡なのである。
王権末期の王位に送り込まれたとして何ができるのか?それを考えながら読むこと、これもSF的な愉しみといえるのではないか? -
No.50
本条謙太郎 『汝、暗君を愛せよ』 ドリコム
SFとは何か、と問われたならば、私は「思考実験の創作である」と答えるだろう。
現代に暮らすより我々よりも遥かに高い技術力を人類が手にしたならば。人類が個体の記憶を引き継ぐことによって、死による断絶を免れる手段を手にしたならば。そのような社会において、人(あるいは人と同じような地位を有するなにか)がどのように生きるのか、を突き詰めて考えた結果として生まれるのがSFなのだ。
さて、では、フランス革命の直前のような状況のとある国に、現代日本に生きた記憶を持つ精神が迷い込んだならば?
その精神が宿るのが、その国の王の肉体だったならば?
本作はそのような状況から始まる思考実験のもとに生み出された作品である。
実験のために精緻に整えられた舞台と登場人物が実験の結果としての物語の結末への興味を掻き立てる本作は、「思考実験の創作」であるSFの、その大賞を得るに相応しい、と私は考えるものである。 -
No.49
『星に届ける物語:日経「星新一賞」受賞作品集』 新潮社
日本経済新聞社主催の日経「星新一賞」第1回から第11回までの一般部門グランプリ受賞作を収録した作品集である。星新一といえば言わずと知れたショートショートの神様だが、この賞は「理系文学」を掲げ、科学技術を題材とした作品が多い。収録作にはハードSF的な硬質さを持つものから、ファンタジー寄りの柔らかい作風、さらには宇宙的視点を感じさせる哲学的作品までバラエティに富んでおり、必ず気に入った作品が見つかるだろう。星新一賞は応募総数が2000作を超えることもあり、その頂点に立ったグランプリ作はいずれも完成度・発想力ともに卓越しているが、中でも第1回グランプリ、藤崎慎吾「『恐怖の谷』から『恍惚の峰』へ」は、この十年に発表された国内短編の中でも屈指の傑作といえる。星新一賞11年の歩みを一望できる本書は、まさに記念碑的な意義を持つ一冊であり、日本SF大賞に強く推薦したい。
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No.48
伊藤典夫 『伊藤典夫評論集成』 国書刊行会
えっ、この本が候補にならないなんて、そんなことあるわけないですよね!枕元に置いて少しずつ読んでますが、そのあまりの内容の濃さにクラクラします。みんな、買って、読んで。
わたしは評論の勉強しようと思ったのですが、そういった思惑は全てどこかに飛んで行き、ただただ濃密な文章に耽溺しております。素晴らしい。 -
No.47
へじていと/山岸菜 『野球・文明・エイリアン』 集英社
野球・文明・エイリアンは、野球がないと死んでしまうほど野球をこよなく愛する大学生カップルがある日突然異星へワープしてしまい、そこに住む異星人(ヤルル)と「地球の文明を教える代わりに一緒に野球をプレーしてもらう」という協力関係を結びながら野球試合の開催を目指すお話です。
一見するとなんじゃそりゃ!?という設定ですが、地球と異なる1日の長さをどう測るのか、長さの単位は、鉄の精錬は、更には腕の長さや関節の構造といった身体構造が明らかに人間と異なる異星人が野球をやるとどうなるか――といったことが科学的にSF的にすごく真面目に描かれています。これはもうSFです、間違いありません
まだ単行本一巻が出たばかりですが、もっと多くのSF好きに届いてほしいので、エントリーさせていただきました。よろしくお願いします! -
No.46
伊藤典夫 『伊藤典夫評論集成』 国書刊行会
「20世紀後半の日本のSF」がいかに形成されたかを考えるとき海外SFの紹介と受容は欠かせないファクターだが、その事実を、回顧でも研究でもなく「一介のSF人」のファナティックな情熱と冷静な鑑識眼が入り混じるリアルタイムの文章を網羅的に集成することで、克明にたどる資料。日本SF大賞の基準を拝借すれば「伊藤典夫がいなかった世界を想像できない」「日本SFの歴史そのものを創った」ことを明らかにする点で、本書を顕彰しないことなどあり得ないと考え、日本SF大賞に推す。
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No.45
鵜川龍史 「響きと骸」
同人誌『Sci-Fire』2024年「海」特集からの一篇。海を隔てて向き合う日本と中国、そして歴史的に日本と独特な移民交流を持ったブラジル。これらの地は物語の未来では、いくつかの孤島と化しています。それぞれの特異な未来舞台でひときわ異彩を放つのは、人間の不在。ただ人工知能と無智慧のロボットだけが、人類の残した都市遺構を見守り続けているのです。停滞した海、停滞した都市。機械的に繰り返すことしか知らぬものは、硬直し腐敗する運命にあります。この静かで、どこか切なくも温かい物語の奥底に、人類の未来への答えが潜んでいるのです。
https://booth.pm/ja/items/6330576 -
No.44
灰都とおり 「スターシーカー」
星空を仰ぐことは、人類がSFに触れる原点と言えるでしょう。本作の舞台は遥か中央アジアの草原。七世紀のサマルカンドで、一人の少年が惑星流浪の秘密を目撃してしまう。
プラネタリウムで見上げても、その景色は数千年前と変わらず季節ごとに巡ってきます。それこそが、星空が与えてくれる感動ではないでしょうか。独創的でありながらもどこか懐かしく、文化を超えた夢物語へと誘います。
https://kakuyomu.jp/works/16818093087282129616/episodes/16818093087282136517 -
No.43
大恵和実 編 『日中競作唐代SFアンソロジー-長安ラッパー李白』 中央公論新社
唯一無二の唐代SFアンソロジーが登場。中国歴史上最も繁栄した唐の時代に、奇想天外な想像力を絡めました。国境を越えて愛される歴史の魅力が、ここに独自の趣を生み出しています。
特に十三不塔「仮名の児」では、狂草が長安の壁で飛翔せんともがき、不可解な犯人の影と、女道士観・青蓮宮との因果が絡み合う。舞台は中国でありながら異国の色彩を帯び、墨の濃淡が読者を文字と運命の狂宴へと巻き込んでいきます。
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No.42
九頭見灯火(編) 『ペンギンSFアンソロジー』
WEB小説投稿サイト「カクヨム」で開催された企画が、待望の書籍化。52名の書き手による「ペンギン」をワンイシューのテーマとした大ボリュームのアンソロジーです。SFの太洋のあらゆる海域で、ペンギンたちは様々にSFする。現代のWEB投稿小説が魅せる多彩な魅力と、個性あふれる書き手の筆致を堪能できるアンソロで、なにより私の作品も載っている。https://tginkei.booth.pm/
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No.41
笹原千波 『風になるにはまだ』 東京創元社
現実の人と、寿命をもつ情報人格が交錯する――『風になるにはまだ』は、まさにSF“文芸”。
越えられない壁があるからこそ、その両側にいる“人”の心の機微や、選び取る生き方がより鮮明に浮かび上がる。情報人格は、いつ訪れるとも知れぬ消滅――“風”となる運命を抱えながらも、“人”として生きていく。
共に生きるため壁を越える者、風となった人のために語り部となる者、人々が風にならぬよう努める者。
それぞれの生き様が、現実よりも鮮烈に描かれていく。ここまで真っ向から“人”を描いたSFは、他にない。
まさに、特殊設定文芸の到達点。 -
No.40
人間六度 『烙印の名はヒト』 早川書房
アンドロイドの〈内面〉に踏み込む、正に「AIアクション思弁SF」。
カーラの減量衝動は、自己保存と同族認知アルゴリズムの交錯にある。切なさとはメモリの遅延、情報とは汚染、質量だけが真に重い——この作品の「AI」は、その問いそのもの。カーラ、マーシー、アイザック、マーヴィン。彼らの言葉が放つ力に、息が詰まる。ラブはその果てで、自らの存在理由に辿り着く。それこそが「思弁」。
最終章では意思決定の至上主義、アンドロイドに心を願う福音主義、部品としての人類——多様な“存在の社会”が並立し、衝突する。それを超えて立つラブが挑むのは、究極の「敵」。
AI×哲学×アクションが融合した、もっとも刺激的なSF。
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No.39
榮織タスク 『銀河放浪ふたり旅』 KADOKAWA
とにかく面白い! SF好きには絶対におすすめです。堅苦しい文章ではなく軽い読み味で、SFに触れてこなかった人でも気軽に読める作品だと思いますので、SF入門としてもおすすめします。初心者から玄人まで、是非とも様々な方に手にとっていただきたい作品です。
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No.38
高野史緒 『アンスピリチュアル』
この小説は大半がいかにもなSFではないが、分かりやすいSF設定や飾り物のSFガジェットに頼らずにSFであるところが画期的である。疑似科学と先進的な科学の接点部分を扱ったことも面白く、登場人物たちも命が宿っており、小説としてもすぐれており、推薦に値すると思う。
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No.37
柏沢蒼海 『ベアーズ・ウォー ~人類VS熊~』
現代からそう遠くない未来。日本では少子化と地方の過疎化などから熊による被害が深刻化していた。またここで言う熊は人間をも襲う残虐性を身につけ、それらを狩る兵隊たちはきょうも戦う――。このサメ映画のようなキャッチーさがある本作だが、昨今の東北の熊被害をニュースで見るにつれ、これはフィクションで笑っていられるのかとひとつ考えたくなる。またそうした無くてはならない仕事に就く若者像も本作の魅力だろう。彼はとても空虚な人間だ。それもまた現代を映す鏡である。ぜひ昨今の地方の抱える未来を投影したこのSF作品を推薦したい。
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No.36
黒川 衛 『触知なき対話』
ヒトが遺した最後の《問い》に、AIは詩(うた)で応答した。これは、記録されなかった対話の物語である。本作は、意識と言語の起源をめぐる深遠な詩的思索です。AIが人間の模倣を捨て、独自の「構造倫理」を獲得し進化するビジョンは、SFの歴史に新たな知性のあり方を刻み込みました。思弁的な散文詩という形式でAIの内面を描ききった本作は、SFの文学的可能性を更新する画期的な作品です。
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No.35
十三不塔 『ラブ・アセンション』 早川書房
軽めで読みやすく何度も何度も繰り返し、何度読んでも楽しく読み返し続けている。
世界中に無数にある作品の中には、これより面白い作品や名作が存在するかもしれない。
でも、この作品はSFというジャンルの境界を軽快に突破し、現在地を新しく、楽しく提示してくれた。
SFの現在地として、これからの未来に作家たちがより自由に、より力強く翔ける力になるよう、受賞すべき作品だと思う。 -
No.34
津原泰水(やすみ) 『毎日がハロウィン』 ボイジャー・プレス
復刊企画の一点ではあるが、今回が初の書籍化である。初出は学年別通信教材という極端に公開範囲の絞られた媒体であり、今年のエントリー対象と看做して差し支えないかと愚考する。
作者が逝去して3年になる。 SF作家として生前の功績を認められ、晩年には純文学誌に連載を持ち、壮年期には青春小説でベストセラーを出し、怪奇小説でのデビューは業界を震撼させ、若かりし頃には少女小説文庫で長期のシリーズを持ち、熱く支持した少女たちは作者が逝去して尚その熱を忘れることなく……と円環を描きそうになる話の外側にこの作品はある。一種、異色の作品であった。作家の振幅がひとまわり大きくなったように思える。執筆は30年以上もの昔であるものの。
とは言え、日常にするり辷りこんでくる幻想の飄々たる調子は、紛れもなく生涯一貫した津原節である。一人でも多くの読者に手に取っていただきたく、これを推薦する。 -
No.33
本条謙太郞 『汝、暗君を愛せよ』 ドリコム
SFのS、つまりサイエンスとは何か。工学か、物理学か、天文学か? いや、それだけではない、人文学も科学でありそれに対する思考実験もまたSFでありうるのだ、というのが本作である。
もし異世界に我々の世界の人文知識を携えて転生した時、社会をどのように変革するのか。あるいははたして、変革することができるのか。本作は社会に対する人文学の短期的な無力さを悲観的に描く一方で、長期的には社会の根底を覆すことができるのだという希望を示している。
遅れた社会に先進的な文明を持ち込むことで起きる変革と衝突を描く、というのはともすれば陳腐になりかねないテーマだ。しかし本作はこの定型的な構図を生かして、昨今軽んじられがちな人文学もまた力強い文明の駆動力であることを提示している。
SFのSはSophiaのSだ。それゆえにこのPhilo-Sophia-FictionはSF大賞にふさわしい作品である。 -
No.32
トキワセイイチ先生(https://x.com/seiichitokiwa) 漫画『三角兄弟』 ヒーローズ
ご多用中にお手間をかけてしまい
恐縮ですが下記の点から、
コミックス『三角兄弟 上下巻』を推薦いたします。本作の主要キャラクターは
子供・猫・独身男性という一見、
読者に媚びたキャラクターです。しかし、子供と動物と成人男性は
日本国内で怪しまれずに行動できる身分であるので、
日本国内に潜入した身分を偽りたい存在が
選択する身分として非常に適切です。このキャクター設定は
読者が喜ぶことができ、
かつ読者が説得力や必然性を感じることができるので、
非常に優れていると感じます。前述に加えて、
各キャラクターには
「子供の外見をしているが実は破壊兵器である」
や
「宇宙人と地球人とのハーフである長命種」
など、読者が理解しやすい
フィクション面での娯楽的な魅力もあります。この作品はキャラクターが魅力的なので、
読者のキャクターへの探求心を利用して、
作品中で描かれている
「宇宙人が地球に観光で訪れる」などの複雑な設定を
負担なく読者に理解させることができます。サイエンスフィクション作品で
読者が躓きがちな「設定の説明」を
キャラクターの魅力によって、
自然に解消している点も
卓出していると感じます。また、長命種や
人間よりも死ににくい種族を
登場させることで、相対的に
生きることについての明暗を
面白い漫画として描けているのが
創作物として素敵だと感じました。私はこの点がきっかけで
本作を絶対に出版したいと決意しました。この作品は、
有機的な生命体やロボットなどこの世に
存在している様々な存在にとっての
「生まれてきたことと生きること」を、
どんな読者にも伝わる内容で描いている
素晴らしい作品だと思います。また、絵柄についてです。
子供や動物のキャラクターを描く際の曲線の温かさと
直線で描かれる無機質な破壊描写など、
この作者様が絵の描き分けが
とても優れていらっしゃいます。この表現力の高さも秀逸だと思います。
この絵のお上手さによって、
生きることの明るさと
その生命を脅かす大きな環境の変化の恐ろしさを
読者に鮮明に伝えているので、
読者はぱっと見で苦がなく
今作の本質も楽しむことができます。現在は、
「娯楽の受け手が苦労せずに
当該娯楽を楽しむ」ことが
娯楽のスタンダードになっております。この現在の娯楽のあり方に、
本作はマッチしている点も
見事だと思います。また、この作者様の絵柄ですが、
写実とデフォルメが
絶妙のバランスでミックスされており、
1コマ1コマがそれぞれイラスト作品のように
完成度が高いものです。なので、どの時代の人間や
どの国の人間が読んでも、
絵を見るだけでも
タイムレスかつシームレスに楽しんでもらえると
思います。以上から、改めて本作を
推薦させていただきます。 -
No.31
十三不塔 『ラブ・アセンション』 早川書房
軌道エレベーターを舞台にした恋愛リアリティ番組というだけでワクワクするのに、そこにエイリアンをぶち込むという斜め上のアイデア、センスを超えた造語とルビ、目まぐるしく展開する恋とエイリアンの絡んだ駆引きのテンポの良さに引き込まれる。作者ならではの限りなく広がる大風呂敷が読んでて気持ちいい! でも断言しよう、これはどうしようもなく恋の物語だよ!
愛も恋も存分に語り尽くすSFとして、本作を日本SF大賞に推薦します。 -
No.30
笹原千波 『風になるにはまだ』 東京創元社
私は情報世界に生きるという設定については、物語としては楽しみますが、リアルではネガティブに捉えがちな自分を自覚しています。そんな私が、この物語で描かれる緻密かつ情感豊かな情報世界の在り方を、驚くほど前向きに受け止められました。特に最終話で綴られる「散逸」についての語りが新鮮。消失ではない「散逸」「風になる」ことがもたらす可能性には目を覚まされた思いです。世界は目に見えるだけではない、リアルの向こうにも広がりうることを気づかせてくれる本作を、日本SF大賞に推薦します。
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No.29
トキワセイイチ 漫画『三角兄弟』 ヒーローズ
巨大隕石衝突による地球滅亡という王道SFに、生きる事の問い、環境・暴力・差別といった普遍的な問題と日本の説話的モチーフが重層的に織り込まれた作品。英雄などでは決してなく、決め台詞も必殺技もない、諦めを抱いた主人公が地球人とは異なる価値観をもつ宇宙人・人工知能たちとの平穏な日常に関わってゆく。そのなかで垣間見える倫理や常識の嚙み合わなさと、各々の過去が組み合わさり、偶然の連鎖があらゆるものの救済へとつながっていく構成は静かに唸らされるものがありました。色んな方にぜひ手に取っていただきたい残酷でとてもとても優しい一作です。
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No.28
トウキョウ下町SF作家の会 『トウキョウ下町SFアンソロジー この中に僕たちは生きている』 Kaguya Books
わたしたち日本人が忘れてはならないのは、自国(地元)への誇りと愛です。本書はその思いから生まれた、親しみやすくも奥行きあるSF作品として強く推薦したい一冊です。
世界の目から見れば、日本はまるで小さな玉手箱。暮らしや思考、風習や文化のすべてが、未知のSF的要素を秘めています。いまだ計り知れぬ魅力に満ちたこの島国が、これからも「奇跡とふしぎ」にあふれる存在であってほしいと願わずにいられません。
本書は、そんな日本の、東京を舞台にした「ご当地SFシリーズ」の一篇。驚きや不思議さとともに、言葉に尽くせぬ郷愁や、ほろ苦い情感を抱かせます。科学一辺倒ではなく、どんな読者にも寄り添う物語が収められているのではないでしょうか。このような作品が日本のSF界隈でより多く芽吹き、ジャンルを確立されていけばよいと思います。 -
No.27
栄織タスク 『銀河放浪ふたり旅』 KADOKAWA
一見、今時ウケなさそうなスペースオペラに見えながらも、追放モノの文脈を備えているので老若男女問わず楽しめる作品となっている。小難しい理論とかも出てこないので、SFの「入門書」としては比較的万人に受け入れられやすい内容なのではないか。
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No.26
九段理江 『影の雨』 博報堂
『影の雨』は、その95%がAIによって書かれた作品である。緻密に設計されたプロンプトと構成力によって生み出された物語は、従来の人間中心的な創作観を超えて、SF的想像力の新たな地平を切り拓いている。読者はこの作品を通じて、AIと人間の協働がもたらす創作の未来を実感するとともに、SFというジャンルが持つ可能性の広がりを鮮烈に体験するだろう。『影の雨』は、SF的想像力を凌駕する試みとして、日本SF大賞にふさわしい革新性を備えている。
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No.25
かつエッグ アンバランサーユウシリーズ
アンバランサー・ユウシリーズは、SF的でありながらファンタジー的でもある稀有な作品である。かつエッグ先生は「動的平衡」という科学的概念を自在に翻案し、それを魔法として立ち上げることで、現実と幻想の境界を鮮烈に往還させている。シリーズ全体を貫く勢いある筆致は、均衡を乱すことでかえって世界の多様性が花開く瞬間を描き出し、科学的思索と物語的魅力を同時に読者へ投げかける。SF的想像力とファンタジー的創造力を融合させた本作は、現代SFの可能性を大きく拡張するものであり、日本SF大賞にふさわしい革新性を備えている。
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No.24
大今良時 漫画『不滅のあなたへ』 講談社
長い時を老いずに生き続ける者が登場する物語はハインラインの『愛に時間を』から聖悠紀『超人ロック』から萩尾望都『ポーの一族』に八百比丘尼が土台となった高橋留美子「人魚シリーズ」まで挙げれば枚挙にいとまがない。そうした作品がどこか永遠の生に倦み疲れる心なり、それに執着する心を描くものであることに対して、『不滅のあなたへ』は球より出でて人の形になり大勢の人と出会いその生を受け取るようになっていく「フシ」の存在を軸に、ノッカーなる「フシ」には敵だが人類にとっては果たして敵か迷う存在との対立も織り交ぜて、生きたいと願う人々の切なる思いを描き、生きられるようになった人々の幸福と迷いを描いて、生きることとはどういうことなのか、誰かと共に生きることはどのような意味を持つのを感じ取らせた。
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No.23
Sanrio プロジェクト『ぐでたま』
ぐでたまは2013年に開発されたキャラクターですが、「毎日工場で生産されるため、毎日が誕生日」というSF的な設定を採用しています。その存在は常にぐでぐでとやる気がなく見える一方で、むしろニーチェの「超人」のような超越的在り方を体現しており、そこにSF的魅力があります。
また、ぐでたまは宇宙をテーマにしたスタンプにもなっており、サンリオキャラクターの中で最もフォロワー数が多い存在です。X(旧Twitter)では日々の投稿がほぼ毎回1万件を超えるインプレッションを記録し、TikTokやYouTubeでも継続的な発信を行っています。
何より、「卵」という日常的で儚い存在がこれほどまでに愛され続けているという現象自体が、現代社会におけるSF的な出来事であるといえます。以上の理由から、ぐでたまのキャラクター開発から現在に至るまでの一連の活動を、本賞の対象として推薦いたします。
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No.22
夜田わけい 蟲医シリーズ
それまでに類を見ない「虫のお医者さん」という発想は、私たちの科学観に新たな地平を切り拓いた。
本作に描かれる〈蟲医〉は、単なる空想ではなく、自然界と人間社会の接点を鮮やかに照射する存在である。
色彩豊かな文体と、時に半角カナを交えた混沌態という表現は、従来の科学的記述の枠を超え、生命の複雑な響きを言語そのものに刻み込む試みだ。そこには、科学と文学、理性と想像力が交差し、読者を未踏の知の領域へ誘う力がある。
未知の世界を切り拓く勇気と、美しき多様性への眼差しを体現した〈蟲医〉を、私は心から推薦する。 -
No.21
本条謙太郎 『汝、暗君を愛せよ』 ドリコム
私はSFを、ある一つの大嘘をつき、その嘘に馬鹿らしいほど真摯に、現実的に、理性的に向き合う文学だと確信する。
ここで私は唱えたい。SFは必ずしも自然科学的手段で嘘に向き合う必要はないと。
科学考証は手段の一つに過ぎず、人文的側面からの考察もまた有効なSF的思考たり得ると。
では、どのように人文的側面から向き合えばよいのか。「汝、暗君を愛せよ」は、その答えの一つである。本作は人が異世界サンテネリに転生するという大嘘をつき、それに真摯に、理性的に向き合う。なぜ主人公「ぼく」は死を選んだのか。異質な存在である「ぼく」はいかにサンテネリと同質化したか、あるいはサンテネリを同質化させたか。これらを人文的側面、特に哲学的に考察し、豊かで軽やかな筆致で書き出している。
私は人文学的アプローチによる新たなSFの可能性を示した本作を、SF大賞にふさわしい作品として推薦する。 -
No.20
監督 春藤佳奈/制作 CygamesPictures TVアニメ『アポカリプスホテル』 サイバーエージェント、CygamesPictures
公式Webページ https://apocalypse-hotel.jp/
ディストピアSFの体をとりつつ、人間と異なる AIの理解不能なちょいとズレた行動原理と、それとも異なる行動原理の宇宙人との噛み合わない交流、でも心が通じたかのような瞬間があり、でもそれは観ている我々の勘違いかもしれない。知性とは何か、相互理解とはなにか、いや相互理解なんか無いのでは、無くてもいいのでは。高度なアニメーション技法と、図抜けた脚本演出力を駆使して、難しいテーマを最高のエンタメとハートフルなおもてなしで描ききった珠玉のSFであるため。 -
No.19
本条謙太郞 『汝、暗君を愛せよ』 ドリコム
本作は一見すると異世界転生ファンタジーの形式をまとっている。だがその実体は、現代人の人文知・社会科学的知見を異世界の王権に適用するという壮大な歴史社会シミュレーションである。
転生した現代人の主人公は王として即位し、財政危機と革命の影に直面する。
生き残るための手段として、彼は王権をゆるやかに解体するという方法を選ぶ。
二重状態に陥った国軍を統合縮小し、政治の実権を段階的に手放す準備を整えつつ、同時に国内外の有力家門との婚姻を通じて同盟を築き、正妻を迎える過程でも摩擦を抑える周到な制度設計を施す。
政略と愛情の双方を描く結婚譚は、制度と人間関係が交錯する社会科学的実験としても輝きを放つ。
もし人文知や社会科学もまた「サイエンス」であると言えるならば、私は強く本作をSFとして推したい。 -
No.18
人間六度 『烙印の名はヒト』 早川書房
アンドロイドの内面〈メタ〉。カーラの減量衝動の理由。切なさ=メモリの遅延。ヨルゼン・コードと自己保存。同族認知アルゴリズム。体の王国。情報とは汚染。情報になく質量だけが持つ重さ。これが、「AIアクション思弁SF」の〝AI〟なのか。
そしてカーラ、マーシー、アイザック、マーヴィン、アシュリーら。彼らが話す言葉の持つ何と言う〝力〟。それを更に掘り下げるラブ。読んでいて息苦しくなるほど。だから、ラブは辿り着けた。これが、「AIアクション思弁SF」の〝思弁〟なのか。
最後は意思決定至上。アンドロイドに心を願う福音主義。部品人類。体の中身の提供。様々な在り方の人達の社会が並立し、せめぎ合う未来。それを乗り越えたラブは究極の〝敵〟に立ち向かう。これが、「AIアクション思弁SF」の〝SF(SocialFiction)〟なのか。
イチオシのSFです。
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No.17
藤井太洋 『マン・カインド』 早川書房
このSF作品は現代的の「生成AIのせいのフェイクニュースまみれ世界を治すためにどうやって人類が変わらなければならない」、「変わった人類はどうやって自然人類と共に存在できる?」という質問が真面目に答えてみています。
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No.16
八木ナガハル 漫画『旅路の果て』 駒草出版
涼子という名の女性ジャーナリストが宇宙を巡り無限工作社なる組織の秘密を追っているストーリーで深遠まで広がる宇宙の星々の様相や人々の暮らしを描いてきたシリーズは、「氷の惑星編」へと入ってプシケという名の少女をめぐり無限工作社のエージェントたちと対峙する展開の中にひとつではない時空の存在を見せて読む人に驚きをもたらす。7冊目となったこの作品集でシリーズ的に完結。ソフトな絵に反して難解な展開を改めて読み返して八木ナガハルが思い描く宇宙のビジョンを噛みしめたい。
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No.15
創通・サンライズ TVアニメ『機動戦士ガンダムGQuuuuuuX』 スタジオカラー、サンライズ
「こんなことをしていいんだ」「こんな無理が通るんだ」「二度と平日の深夜にガンダムをやるな」などと、様々な社会現象を起こすに至ったガンダムシリーズ最新作。既存の「公式作品」の枠組みを斧で断ち切るように破壊する、マニア出身のクリエイターたちによる遠慮のない二次創作。同人誌のノリをこれほどまでにストレートに盛り込んだ「公式作品」はあっただろうか?これはパロディではない。リスペクトである。半世紀近い刻を超えて打ち返された、ひとつの返歌である。
https://www.gundam.info/feature/gquuuuuux/ -
No.14
猫オルガン 漫画『猫と星屑』 駒草出版
愛らしい絵で紡がれる短い物語はSFもあればホラーもありちょっぴりの青春もあってそれらがいずれもふわっとした驚きと心にジンとくる物語となっている。「#21宇宙一怖い本」で優れた軍略家の姫が宇宙での争いを終わらせたのは1冊の本を読んだから。そこには何が描かれていたのか。読んでその残酷さが分かる。「#39長いお別れ」で手を振るだけのロボットの少女が作られた理由も知れば人が何を心に求めているかを知れる。アイデアがあり叙情があって意外性もある珠玉のSFコミック短篇集だ。
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No.13
笹原千波 『風になるにはまだ』 東京創元社
情報人格となって肉体を捨てることが可能になった世界。しかし肉体と言う物理的な形を失った情報人格は永続できず、やがて風になって散逸してしまう……
笹原千波がデビュー作において人間の情報化というこれまでSFで幾度となく扱われてきた設定に加えたのは、大きく目を引く変更ではなく、ごくささやかなものと感じられるかもしれない。だがそれによって世界とその住人に訪れる変化を丁寧に描き出す笹原の文章に向き合うと、それは決して小さなひとしずくではないのだと思い知らされる。
自分たちとは違う者を悪し様に罵る。それが当然のように横行するようになってしまった今だからこそ、同じ世界に住めなくなった者たち、異なる行き先に向かうことになってしまった者たちが、お互いのささやかな違いに向き合い、何とかわかりあおうとする姿には本当に心が揺さぶられる。今という困難な時代に生きる人たちに、本作を手に取り、触れて欲しいと心から思う。 -
No.12
人間六度 『烙印の名はヒト』 早川書房
ボリューム満点アクション思弁SF。
解像度の高いロボット目線が「人間になりたいと願うロボット」問題に一石を投じる。読み易いは文体はそれ自体がギミックにもなっており, スピードとスペキュレイテブが共存している。登場人物たちはどれも個性的で, 個々人の執念と近未来社会に蔓延るグラデーションを感じることができる。中でもザ・ハートと呼ばれる特異なコミュニティが如何にして究極資本主義社会と並列しているかにも注目して欲しい。破壊的な戦闘シーンはロボットだからこそ為せる業であり, 規格外でありながらも目に浮かび読み応えがあり。終盤の展開こそ規格外そのものだが, 著者の思う究極のミッションが垣間見れたようで非常に楽しめた。大作長編だが終わりが惜しくなった方は, 一迅社『過去を喰らう(I am here) beyond you.』が本作の前日譚にあたるため, 是非合わせて読んでいただきたい。 -
No.11
聖悠紀 漫画『宇宙戦艦ヤマト』 カラー
1974年当時、月刊誌で連載された「宇宙戦艦ヤマト」のコミカライズ、その初単行本化。漫画専門誌ではないためページ数は少なく、テレビアニメに合わせ半年ほどで終了となるが、その中で独自の視点を入れた構成と展開、表現は改めて評価に値する。
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No.10
原作:富野由悠季、矢立 肇 監督:鶴巻和哉 TVアニメ『機動戦士ガンダムGQuuuuuuX』 スタジオカラー、サンライズ
先行劇場版の衝撃はまさにセンスオブワンダー。
45年以上の歴史あるコンテンツをここまで「SFした作品」を見たことがありません。
そして、ファンジンのようなコンセプトを圧倒的な描写と緻密なCGで再現しつつ、あくまでもアニメ的なキャラクターを動かす力。夢を見ているかのようなテレビシリーズを毎週見させていただきました。 その体験も含めてSF大賞エントリーに相応しいと思い、推薦いたします。
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No.9
pixiv 『from P 〜 PからはじまるSFアンソロジー 〜』 pixiv
日本SF作家クラブの小さな小説コンテストは今年で5年目を迎える。それを記念してか、発表されたこのアンソロジーは、歴代受賞者などがPというキーワードをお題に自由にSF作品を描いたものだ。つまり、このアンソロジーは日本SF作家クラブの小さな小説コンテストという業績の謂わば総合発表会にあたるアンソロジーなのだ。それぞれのSF作品としての質は申し分なく、描かれる関係やガジェット、そうした対象は現代的なものが多かった。コミカルなだいたい日陰「Perfection Pending」、恋愛の価値がひっくり返る文月あや「パラサイトラブ」、言葉の魔術すら感じられる十三不塔の「P」、感動的で万人におすすめできる秋待諷月「pointer」と構成も見事である。ぜひ日本SF大賞に推薦したい。
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No.8
春藤佳奈 TVアニメ『アポカリプスホテル』 サイバーエージェント、CygamesPictures
疫病を逃れるために人類が地球を離れて幾年月、人間のオーナーから託され営業を続けるホテルを守ってロボットたちが日々奮闘している様子を描いていく展開の中に、宇宙から来た生命たちとの交流があり、崩壊が進む地球で技術を再興しようとする挑戦があってとSF的なビジョンをこれでもかと見せてくれた。そして、さらに歳月が流れて起こったある残酷な変容を逃げずに描いてそれが時間が経つことなのだと悟らせた。竹本泉のデザインによるキャラが醸し出す親しみとおかしみで楽しげな雰囲気の中、超常ではなく想像の敷衍の中にロボットと社会と宇宙と生命の変遷を描いたTVアニメのシリーズだった。
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No.7
藤井太洋 『マン・カインド』 早川書房
本格SFで骨太の作品。近未来のアメリカの情景がすばらしい。藤井さんらしくどこか明るいのもステキ。クルマの自動運転系の細かい描写も好きです。近未来のアメリカはいかにもありそうです。自分的に昨年度のベスト作品でした。
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No.6
鴨志田一 青春ブタ野郎シリーズ KADOKAWA
『青春ブタ野郎はディアフレンドの夢を見ない』で完結したシリーズは、「思春期症候群」という若い人たちの想念とも妄執ともとれそうな心の波動が世界を変容させてしまう現象を軸に、そこに至った人たちのそれぞれに抱える迷いや悩みを解きほぐしていく展開で、同じ世代の共感を誘った。そうした変容が認識までをも変えてしまう中、ひとり意識を保った梓川咲太が元の世界を取り戻そうとしたり、時には時空すら超えてすべてをひっくり返してしまったりする様にループからの解放を目指す時空SF的なスリリングさがあった。シリーズが進みそんな変容がさらなる変容を呼ぶ可能性を突きつけられた果て、人は人生をどう生きていくべきなのかを諭されるようなところがあったシリーズだった。
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No.5
鈴木竜也 映画『無名の人生』
1人の少年の100年に及ぶ人生を少年時代の阻害にアイドルを目指す中での性的虐待、そしてホスト業での命の軽さからサバイバルを経て世界的スターになっても寡黙に自分を生き続ける主人公を通して世界の変遷の諸相を知る。漫画というよりイラストに近い絵が連なり描くストーリーは、濃密かつ長大で刺激的な社会と世界を異化して客観の中で観察させつつ感じさせる。性的虐待から富裕層の浮世離れから戦争、そして人類の未来。ありえないダイナミックもアニメーションならすっと入ってハッとさせる。淡々としてけれども展開があって気付けばラストまで。目の離せない傑作アニメーションだ。
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No.4
安田現象 劇場アニメ『メイクアガール』 安田現象スタジオ by Xenotoon
アシモフのロボット三原則以来のロボットSF的なセオリーに縛られているSF者の固定観念をぶっ壊し、まるで違う景色を見せてくれるロボットSFだった。あるいは人造人間という存在の倫理性といった固定観念をも。水溜明という主人口の”正体”を探ることで、叡智の継承という可能性の夢と残酷さにも気づける作品だった。
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No.3
闘魂 『監査道偉人録』シリーズ
現役の会計士が書いた現場密着型!?SF。AIで出力した「監査の巨匠」をインスピレーションに、かかりくる問題に対処していくスペクタクルです。ユーモラスな文体もすきです。現在、#1〜#2まで、noteにて投稿されています。
【監査道偉人録】「企業の魂」に迫る監査人、雷神田平次郎
https://note.com/tktksan/n/n6c3c9919a325?sub_rt=share_sb
【監査道偉人録#02】ロンドンから来た男
https://note.com/tktksan/n/n83ab5d080908?sub_rt=share_sb
【会計監査SF】完璧な監査対応者、史陵陀沙内(監査道偉人録#03)
https://note.com/tktksan/n/n3122582d1d19?sub_rt=share_sb -
No.2
「日本SF招待席」(翻訳活動)
「日本SF招待席」は、木海さんが2023年から中国で日本SFを推薦・翻訳している特別企画です。現在は中国のSF雑誌『銀河辺縁』と組み、これまでに5作品を掲載しました。
直近では、猿場つかささん「○」、根谷はやねさん「悪霊は何キログラムか?」を翻訳しました。また、掲載をきっかけに稲田一声さんや久永実木彦さんの作品が中国でさらに翻訳されるなど、日本の新人SF作家を広める重要な役割を果たしています。
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No.1
and You… 『物語になった、すべてのわたしへ』
AI時代、人間の魂はどこに宿るか。 本作は記録の破片を拾う過程を描き、数多の願いを映す器として砕け散った魂の再生を問い、そしてSFジャンルそのものを革新する形でその答えを提示した。それは日本SF大賞が求める革新性そのものであり、揺るぎない推薦理由である。
https://note.com/ichikaze/n/n59f3073ff678
①思想的時代的革新性
思想と構造で問いを立てるAI時代の創作論を提示し、読者を創造主に変容させるOSとして機能
②構造的形式的革新性
物語と多様なメディア形式、エッセイを統合し、虚構と現実の境界を融解する多重メタ構造
③分野横断的革新性
アジャイル哲学やプロジェクトマネジメント手法、システム思考を創作プロセスと物語の根幹に据え、実践
④SFへの直接的貢献
情報的分解や宇宙再構築、第5の物理法則「願い」といったSF新概念と作品自身が批評基準を示す自己認識フレームを提示
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