第44回日本SF大賞エントリー一覧
皆様にエントリーいただいた作品とコメントを表示しています。
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No.342
青島もうじき 「ドロステの渚にて」 零合舎
安易に「●●以前・以後」という表現は好まないが、後にも先にも現れない独自の世界観と端正な筆致を確立している稀有な新人作家である。近著の初長編は今回エントリー期間外だったため本短編を推薦する。短編・掌編アンソロジー作家としても頭角を現しており、SF大賞の常連である氏の作品に今後も注目したい。
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No.341
柴田勝家 「走馬灯のセトリは考えておいて」 早川書房
人格のデジタルツイン作成を生業とする主人公は、バーチャルアイドル”黄昏キエラ”の”中の人”を演じていた老女から、黄昏キエラをAIとしてデジタル上に顕現させてほしいとの依頼を受ける。
意識とはリアクションの集合体に過ぎず、自身の手掛けるデジタルツインも紛い物だと感じていた主人公。しかし虚構の存在を愛していたファンの姿、葛藤を抱えながら黄昏キエラを演じていた老女の苦悩に触れる事で、そこに確かな魂の存在を信じる。我々は常に己の脳を通して世界を信仰している。魂とは各々の脳が見る幻影なのか。生者が死者を、死者が生者を想う時、そこに魂は在るのか。
人工知能の発達に伴い、魂や意識への興味はより一層高まっています。いわゆるVTuber文化を通じて魂の存在を問うた優秀な一作だと推薦します。
なお、老女は作中の設定によれば2023年時点では28歳。黄昏キエラとして活動中であろう時期です。 -
No.340
高野史緒 『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』 早川書房
二人の主人公の視点を行き来することで、読者もこの二人と共有の視点をもちながら読み進める。だからこそ、読者には見えていなかった(共有されていなかった)部分が、最後の展開で驚くような仕掛けとなる。読者までも巻き込んでいく斬新なスタイルで描かれた一作品だと思います。
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No.339
武石勝義 「牌神」 新潮社
SFも手がける作者だが、ファンタジー小説も書けることを今年「神獣夢望伝」で証明した作者の第一短編。麻雀にかけるダメなやつらがどんどん悪い方へ向かっていく。麻雀のルールが分からなくてもわかりやすい展開と、世界すら結果的に変えてしまう驚きはSFファンのみならず様々なひとに読んでほしいと思う短編です。
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No.338
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
狂言とクトゥルー神話のコラボレーションが古きを伝える手段として親和性があり、表現の融和が面白いと思い推薦します。
クトゥルーと龍宮の海の中の人ならざる規則の誓約と制約の対比が無気味です。
人外のアヤカシとの約束がどのような結果を招くのか、一味違う和製SFを楽しんでください😊 -
No.337
三崎しずか 「あの部屋の幽霊さんへ」 少年ジャンプ+
こちらの世界とあちらの世界を隔てる壁。 現世にとどまり続ける霊は何を思うのか?
霊のモノローグを中心に、見える者との双方の視点から描かれる、伝えたいけど届かない思い。
すれ違いの果てに救いはあるのか?
幼い子供の好奇心とワクワク感、思春期の情緒、大人の割り切った考えといった、変わりゆく距離感で進められるストーリー展開は見事です。
https://shonenjumpplus.com/episode/4855956445120596235 -
No.336
笹原千波 「風になるにはまだ」 東京創元社
仮想世界に生きるひとに身体を貸す、という話になるが、その二人の視点から描く文章力が凄まじかった。たんに文章がうまい、というだけではなく、その文章力を通して表現すべきもの、こうでしか表現できないものに到達している。二人の知覚の差異が、そのまま体感できるようになっている。完成度の高さのみならず、多くの人に楽しんで読んでもらえるSFとして、この作品があったことにより広く読者のSFに対してのありようを変革させ得るという観点からも、日本SF大賞を受賞する価値のある作品だと考える。
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No.335
知念実希人 『ヨモツイクサ』 双葉社
「知らぬ間に違う世界に誘われ物語とは実に楽しい」「読んでいて違う世界に連れて行く語りの旨さヨモツイクサよ」このヨモツイクサは、本当に背すじがゾクゾクとします。とりわけあのページの驚く一言は、ひぇ~でした。
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No.334
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
浅尾典彦監督の、独創的な世界線に引き込まれてしまいます。
浅尾監督の多様な引き出しの多さ、魅力ある奥行きが随所に織り込まれている、不思議なストーリー。
新しい感性のSF作品だと思います。
もっともっと多くの人に知ってほしい、そんな気持ちも込めて、推薦させて頂きます。 -
No.333
伊野隆之 『ザイオン・イン・ジ・オクトモーフ イシュタルの虜囚、ネルガルの罠』 アトリエサード
世界観の構築が素晴らしい。そして軽快に読み進める、エンタテインメント性に満ちた文体。コミカルでありながら人間とは何かを突きつける問題設定。さらに極めつきは、SF的背景をしっかりと随所で読者に開示する岡和田晃氏のコラム。この両輪が立体的に屹立して読者をロールプレイングのプレイヤーのように物語の密林にと誘い込む。こうした実験的/類を見ない作品こそ、日本SF大賞に選ばれるべき一作であろう。
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No.332
八杉将司 『八杉将司短編集 ハルシネーション』 SFユースティティア
八杉将司は、まごうかたなきSF短編の名手だった。その珠玉の作品集が、ようやくこうして形を得たことを喜びたい。著者の存命中にそれが叶わなかったことは、まさに痛恨の極みだが、SF短編の可能性をどれほど押し広げたかは、一読すれば明白だろう。
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No.331
丸山薫 『司書正』 KADOKAWA
中国風のとある古代王国。異民族の少女は突然宮廷の誇る大図書館に住む「司書正」の侍女に選ばれる。世にも聡明な司書正は、しかし選ばれたときからその頭脳のすべてを図書館の蔵書すべて諳んじて王の検索に応える生体AIとなる。人間としての生活を司る記憶領域すら潰して検索機となった司書正は、対となる侍女が介護しなければ生きていけない人形のようになってしまうのだ。しかし今、新たに選ばれた美しい司書正は王にもなれた有能な王子でーー。
まだ一巻で設定もここまでしか開示されていませんが、壮大な宮廷劇になるか史劇の皮をかぶったガチSFになるか、あらゆる可能性に期待して推薦します。 -
No.330
御神楽 「人よ、子らのスティグマよ」 零合舎
人類と非人類との恋愛という筋立てはクラシカルといえるのかもしれないが、女性同士のカップルがその愛の証として「生殖」を望む構図を「非人類」の側がデザインし成し遂げるという展開は、女性のライフヒストリーがいかに「生殖」に縛られているかを百合SFならではの設計で表現しているように感じられ、興味深く読んだ。『百合総合文芸誌 零合』所収。
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No.329
岡本正貴(編) 『平井和正著作目録 2023年版』 ヒライストライブラリー
「平井和正著作目録 2023年版」をSF大賞に推薦します。
2005年に死去した平井和正は、第35回日本SF大賞・功績賞を受賞したものの、本格的な追悼本や研究本がまだ出版されておらず、日本SFの往年の大人気作家としては残念な現状です。
本書は、40年以上に及ぶ作家活動の膨大な作品群を、作品目録、単行本目録、AV資料目録、参考資料目録の五部構成でまとめたもので、大きさ(A4判)、ページ数(642ページ)、重さ(1.7㎏)の圧倒的なボリュームに、手に取った瞬間、感動しました。
内容も、編者略歴によると大学図書館勤務の経験のある著者らしく、大変詳細で手が込んでおり、作家の著作目録としても画期的な完成度であると思いました。SF大賞に相応しい労作です。 -
No.328
新馬場新 『沈没船で眠りたい』 双葉社
今年、AIを描いた作品が多く出版されたのは、つまりはそういう時代だからなのでしょう。
そうした潮流の中で、「このあとからはこれがなかった以前の世界が想像できない」というのが本賞の理念なのであれば、本年において、この作品を上回る作品はないのではないでしょうか。
本作は、「テセウスの船」を題材に、AIに対する警鐘を鳴らしつつ、最後の一文でその恐怖すら取り込んでしまう力強い作品です。まさに“本作自体がテセウスの船なのだ”と気付いた時は、鳥肌が止まりませんでした。
つい最近、AIタレントがCMに出演したニュースがあったばかりですが、この物語も、きっといつか、ノンフィクションになってしまうでしょう。
間違いなく時代の転換点に立つ作品です。大賞に強く推薦します。 -
No.327
ゆーたん(たけのこ派) 『子供の頃見ていた合体巨大ロボアニメの超絶不人気外道悪役に転生してしまったエンジニアの俺が生き延びる為に!?』 小説家になろう
70年代スーパーロボットアニメの世界に現在のロボットエンジニアが不慮の事故で、作中でも最も人気の無い外道悪役の敵の参謀キャラに転生してしまいました。これは、そのままでは処刑確定の彼が、原作の知識を元に不幸になるはずだった人達を偶然や必然的に人助けをする事で破滅の未来を回避する話です。70年代ロボアニメや特撮の知識がある人には確実に楽しめる元ネタがてんこ盛りのミックスジュースのような作品です!
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No.326
あぼがど 「スペースサメハンター」 pixiv
第3回日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト、通称「さなコン3」最終選考作品。SFの持つ自由さを誰にでもわかりやすい形で提示し、読者の現実に対する認識に揺さぶりをかけんとする古典スペオペ風サメ小説を自作自薦。第44回日本SF大賞エントリー作品に、サメの姿はあるか。なお作品URLはこちらです。 https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19916206
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No.325
伊藤なむあひ 「偏在する鳥たちは遍在する」 anon press
https://note.com/anon_press/n/n64b3f13e9ec4
デイリーヤマザキ天国店の店舗従業員として配属された青年を軸に描かれる物語。ヤマザキホールディングス、ランチパックなど、親しみのあるキーワードを使いながらも、天国や世界といった壮大なスケールで物語は進んでいく。唯一無二の世界観と、現実の手触りを持って非現実を描く独特の語り口は、一度味わうとクセになる。SFの可能性を広げる作品として推薦したい。
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No.324
監督・編集・脚本・作画・撮影:AsH(灰) 劇場アニメ『忘星のヴァリシア 第一章:劫火』 AsH(灰)
かつて同人・自主制作アニメはSFの華だった。
単館上映のYoutube公開時に視聴した。(現在再公開中の様子)
https://youtu.be/3k-r8bnW0Qg?feature=shared
続編物で、物語は大筋しか見えないが、作家の『憧れ』を燃やす映像作品だと直感した。
願わくはこの個人制作が最後まで完全燃焼すること、そしてSFアニメ作家にとっての新たな篝となることを切望する。 -
No.323
長谷敏司 『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』 早川書房
前半は、主人公とAI義足との関係構築の物語がすすみ、身体の意義を再発見した思いで読んでいた。中盤から父の介護が織り込まれ、認知症による父の人間性崩壊に直面する主人公の様子が真に迫っていた。父の介護とダンスの練習の両立に苦しむ様子は介護を体験した人なら身に迫る思いで読んだに違いない。父の介護に挫折しつつもAI義足を通した身体性の再構築に挑む主人公の強い意志と信念に胸を打たれずにはいられなかった。最後、主人公がステージを成功させたときにはすでに父の意識はなく、父にむかって泣き叫ぶ主人公の姿は涙なしには読めなかった。
まるで血の涙で書かれたような胸に迫る傑作だった。 -
No.322
田中空 『未来経過観測員』 Kindle
超長期睡眠技術を用い、100年ごとに人類を観測する仕事に就いた男の物語です。
100年眠って観測して、また100年眠って観測して……次はどんな世界になっているのか最後まで興味が尽きませんでした。
5万年分の人類史を観測する壮大で濃厚な冒険が描かれるのですが、ページ数は少なめですし、とてもわかりやすいのでSF小説入門にぴったりだと思います。
やさしく、とんでもないところまで連れて行ってくれます。
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No.321
宮本道人 『古びた未来をどう壊す? 世界を書き換える「ストーリー」のつくり方とつかい方』 光文社
2020年以降、未来導出手法として注目が高まった「SF思考」「SFプロトタイピング」の全体像を、日本における斯界の第一人者・宮本道人が概説した一冊。
「未来のプロトタイプ(試作品)」としてフィクションを妄想するだけでなく、妄想からの逆算によって現実を変える方法論として「SFバックキャスティング」という新概念を提唱しつつ、SF的な妄想を現実に生かす手法をさまざまな角度から紹介する。
基本的には、SF思考の実践方法を伝授する実用書に位置づけられる内容だが、AIが台頭する社会で「人間らしいハズレ値をいかに創造するか」「人間としていかに生きるか」といった哲学的な問いにも踏み込む思想書の趣も。
古今東西の夥しい参考文献を参照しつつ、「対話の文学」「共創の文学」としてのSFの再定義が試みられており、SFをめぐるブックガイドとして読んでも楽しい。 -
No.320
人間六度 「推しはまだ生きているか」 集英社
ポストアポカリプス世界の東京が舞台の百合。シェルターで生きる主人公の唯一の心の支えになっている配信者が配信を停止し、危険な外の世界へと踏み出す。
痛防護服とか、クマムシ型のミュータントとか、植物に埋め尽くされた新宿とか、刺さる人には刺さる絵かと思った。トーヨコの女の子と同担拒否で殺しあうのもいい。
あとは、どことなくジャニーズ事務所の時事も扱った作品のようにも読める。 -
No.319
林田こずえ(作)YOUCHAN(絵) 『戯曲絵本 カラクリ匣』 小鳥遊書房
タイトルどおり、小さなカラクリ匣の中でくりひろげられるドラマをみごとなイラストで楽しもうという趣向の作品です。このような形式それ自体が新しいSFを感じさせてくれるのではないでしょうか。みずみずしい感性と美しいイラストのとりあわせが絶妙な作品です。
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No.318
関元聡 「楕円軌道の精霊たち」 日本経済新聞社
軌道エレベーターという道具立ても面白いが、それに民族文化を取り入れSFとして融合させた著者の手腕に脱帽。
伝統民俗文化と最新鋭のSFガジェットという、一見するとまったく相容れない二つのモノ。
それが関元聡という媒介者を介することで、これほどまでに面白く壮大な物語になると思うとそれすらSFだと思える。
さらに中編の分量であるが、その内容とイメージはもはや長編の様相。
これこそSFのダイナミズムであると思う。
著者の初刊行が決まれば、この作品はきっとSFの歴史に刻まれる傑作として記憶されるであろう。 -
No.317
斜線堂有紀 『回樹』 早川書房
回樹は短編集として様々な感情を、斜線堂有紀が得意とする特殊設定の特技を存分に発揮した独自の論理によって、誰にも真似が出来ない世界を展開したSF作品です。
それぞれの短編の中で表現された感情は、『この気持ち分かる』と誰にでも頷けるほど、日常的であることが素晴らしいです。
回樹自体では空想科学的空間の中で、愛情を論点にしており、答えは無理数のようにたどり着かないことが人間性を感じます。
回樹は新しいフィクションの金字樹を育て上げた作品だと思います。 -
No.316
北野勇作 《シリーズ百字劇場》 ネコノス
「ありふれた金庫」「納戸のスナイパー」「ねこラジオ」の3冊が出ています。
どこからでも読める、マイクロノベル。
狸、演劇、猫、家族。そこにあるものとあったもの、あったかもしれないものや、これからあらわれるものが宇宙的に入り乱れます。
そして作者のnoteから読める全作品解説は、本編よりもずっと長くて、1ページ読んだらスマホで解説を読み、1ページ読んだらまた解説を読み…としていくうちに、読んだところと読んでいないところがあいまいになって、いつまでも読み終わらなかったりして。 -
No.315
宮西建礼 「冬にあらがう」 東京創元社
科学実験室でスマホのAIの助けを借りながら生化学実験に勤しむ科学部の高校生たちが主人公。とりたてて天才でも特殊な能力があるわけでもない、ごくごく普通の高校生活を送る彼女たちだが、海の向こうでの噴火のニュースがその日常に暗い影を落とし……あれよあれよという間に日常SFがカタストロフSFへと変貌を遂げる過程の繊密な描写は圧巻。〈火山の冬〉の到来により餓死のリアルが肉薄する中で、科学部の面々は有り合わせの科学知識を武器にして食糧難を回避すべく科学実験を開始する。アンディ・ウィアー『火星の人』『プロジェクト・ヘイル・メアリー』と同じ黄金の精神が根底に流れる王道空想科学小説にして、新川帆立「自家醸造の女」と並ぶ〈どぶろくSF〉の傑作。現代の混沌とした闇に松明を灯すような、背筋が伸びる思いのする作品。
『紙魚の手帖 vol.12 AUGUST 2023/GENESIS 夏のSF特集』収録。 -
No.314
零合編集部(編) 『零合 百合総合文芸誌 創刊号』 零合舎
9編の百合中短編を収録した意欲作品集。
青春、クライムノワール、SF、スペオペ、ファンタジー等々。
ジャンルも豊富にさまざまな”彼女たち”が描かれている。
どの作品も読み終わるすぐそばから、その読後感に酔いしれてしまうほど完成度が高い。
とくにSFをテーマとして描かれた作品は人の深層心理に深く食い込む内容で、読み応えあり。
百合というジャンルをどう捉えるかは人それぞれではあるが、ある意味ひとつの答えがでたような気がする。
それほど踏み込んだ内容であり、SFの可能性を十分に満たすターニングポイントの作品集といえるだろう。 -
No.313
久永実木彦 『わたしたちの怪獣』 東京創元社
昨年の最終候補となった表題作に三篇を加えた中篇集です。すべてに共通するのはある種の極限状況に置かれた人々の葛藤と決断ですが、そこに今の日本の状況がみごとに描き出されていて読みごたえがあります。今度こそ大賞を受賞してほしいものです。
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No.312
新馬場新 『沈没船で眠りたい』 双葉社
ロボティクス向上で労働が人の手から離れつつある2044年日本。
ロボット排斥デモ中に起こった爆破テロ。その捜査線上に浮かぶのは二人の女性だった。
まさにSFプロトタイピングのお手本ともいえる作品。
”ありうるかもしれない未来”をこれほど実感できる物語もそうはないだろう。
それだけでなく、登場する女性二人の関係性の描写も切なく、文芸作品としても一級品。
これぞ今後のSF界が求める作品ではないかと思う。
著者自身が過去のSF作品についてリスペクトしているのも良い。
ぜひとも多くの人に読んで欲しい作品である。 -
No.311
しば犬部隊 『凡人探索者のたのしい現代ダンジョンライフ』 オーバーラップ
著者の同時進行創作作品(物語内での時間軸も同時進行)「現代ダンジョンライフの続きは異世界オープンワールドで!」と共通の世界。
こちらは現代に出現したダンジョン「バベルの大穴」を各国がえりすぐった精鋭探索者を中心としたストーリー。
作中には出てきていない膨大な裏設定。謎が謎を呼ぶ展開。ライトノベルの範疇を逸脱した情報量がすさまじい。
しかし、その設定を知らなかったとしても全然問題なく楽しめるストーリーは素晴らしいの一言。
この二作もどういった形でか繋がる可能性もあり、読者としてはそこも楽しみのひとつである。
生態系から各組織、探索者の裏事情に世界の秘密とある意味SF以上にSFな作品といえる。
この壮大な世界観をSF大賞に推したい。 -
No.310
高野史緒 『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』 早川書房
私たちの時空とわずかに異なる別々の時空に住むふたりの高校生が、著者ゆかりの茨城県土浦に1929年に飛来するドイツの飛行船グラーフ・ツェッペリンの記憶を介して量子論的に出会うというハードでリリカルな超絶SF小説です。作者にとっても新境地といえるのではないでしょうか。
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No.309
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
“人の心の奥底にある愚かさ”をテーマに、2019年に完成した幻想映画『龍宮之使』を元に、創作狂言として2022年10月22日に堺能楽会館で上演された。20世紀にアメリカで創作された架空の神話クトゥルーの世界と日本の古典芸能の一つ狂言との融合となり興味深い。ぜひ海外でも上演して欲しいです。
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No.308
監督・脚本:亀山睦実 映画『12ヶ月のカイ』 PIE w/ Films.
人間の女性とヒューマノイドの男性の間に生まれる子どもを「祝福されない異物」として扱うだけでなく、現代における女性の体を持つ人々が直面する妊娠あるいは中絶の問題、テクノロジーと倫理との間にうまれる葛藤を、日本発信のSF映画として制作しました。
制作・完成当時はコロナ禍がスタートした年だったため、なかなか劇場公開まで辿り着きませんでしたが、アメリカ・サウステキサス国際映画祭やフランス・パリス アート&ムービー アワーズ、インド・チャウリチャウラ国際映画祭などでグランプリをいただき、地道な国内での配給営業を経て、本年ようやく公開が叶いました。
AIの進化が目覚ましいこの今現在に、世界各国の映画祭で高い評価をいただいた本作を日本の方々にもより広く知っていただきたいと考え、エントリーさせていただきます。▼作品情報のURL
https://filmarks.com/movies/97559 -
No.307
藤井太洋 『オーグメンテッド・スカイ』 文藝春秋
藤井太洋のちょっと珍しい青春小説。おそらく作者の母校がモデルで、寮生活に古臭さを感じるのは逆にリアリティがある。優等生であるはずの登場人物たちが、妙なところで非常識なのも、発達途上の高校生らしくて微笑ましい。VR大会への参加を通して、広い世界に触れ、鼻っ柱をおられながらも成長していく姿に胸が踊る。
難題に対して安易に結論を出すことをやめた主人公たちが、大会の趣旨から脱して自分たちの多様な声を発信する結末は、いかにも自己形成の最中にある高校生にふさわしく、爽やかだった。
結論を言えば、読み手である自分もこういう青春を送りたかった。読んでいる途中で何度も自分の青春時代を振り返った。登場人物たちがまるで思い出の中の旧友たちのように感じられ、感傷を覚えつつもとても楽しい時間だった。 -
No.306
プロデューサー:大森時生 TV番組『SIX HACK』 テレビ東京
「自己啓発系ライフハック紹介番組」に擬態した何か得体のしれないTV番組、というほかない。番組の中で語られる「真実」は「SF的想像力」と「陰謀論的想像力」のアマルガムと化し、サイケデリックなビジョンで画面に映し出されていく。最終的にすべての「真実」が検証されることになるのだが、地上波放送であることを利用した演出や検証のスタンスも含めて非常にねじれた構図を提示してみせた点が特筆に値するだろう。「SF」と「陰謀論」の関係性を考えるうえで示唆に富んだ非常に挑発的な試みを行っており、「陰謀論が力を持つ世界」に対して、嘲笑でも無視でもなく「フィクション」の力で真摯に応答した貴重な実例となった点を評価し、推薦します。
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No.305
松崎有理 『シュレーディンガーの少女』 東京創元社
著者あとがきにあるとおり、「様々なディストピア世界でたくましく生きのびる女性たちを描いた、コミカルでちょっぴりダークな短編集」ですが、そのディストピアはそっくりそのまま現代の日本であることに気づかされます。じつに良質の奇想実験小説だと思います。
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No.304
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
狂言には、蚊の精や福の神などが登場し、元々SF的要素はあるのだが、室町時代から続く伝統芸能とクトゥルーを結びつけた所に、まずはこの作品の存在意義があると思う。
そして、狂言になくてはならない「笑い」も取り入れており、使われている言葉も伝統に則った「大和ことば」。その伝統芸能の中にクトゥルーの呪文や「SAN値が下がる」などのくすぐりがあるのは新鮮だ。
これは、映像ではなく、ぜひ本物を舞台で観てもらいたい。 -
No.303
日本SF作家クラブ(編) 『AIとSF』 早川書房
AIによって世界が変わる。それを生々しく感じながら執筆され、出版されたこのアンソロジーは、2023年のある側面を象徴するものと思います。人間の想像力によって、きたるべきAIとの共生世界の、正負双方に幅広い可能性を示したことを理由として、大賞に推薦します。(後半、仏師アンソロジーのようだったのも暗示的で興味深かったです)
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No.302
熊倉献 『ブランクスペース』 ヒーローズ
「目に見えないもの」を創り出す能力を持ったエスパーの物語は、第一巻の帯文で宣言されたように「想像力についての物語」として見事に結実し、誰も見たことのない着地点に到達した。想像力によって生み出される凶暴性と癒しを実体化させたSF的アイデアもさることながら、野心的なマンガ表現によって「目に見えないもの」を読者に示す手腕が傑出している。希望の在り処を垣間見せる終盤の展開を含め、SFマンガにしか成し得ない強度の「画」を見せてくれる大傑作。
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No.301
高原英理 『祝福』 河出書房新社
緊張感をもって読み進むと、不意に、異世界から差し込んだ光のような言葉が顕れる。そのとき読者は、頭上はるか遠くに穿たれた一点を指し示すためにこそ、ここまで読み進めてきた正三角形が底面として存在していたのだと悟ることになる。
期間中、もっとも心震えた作品でした。 -
No.300
太ったおばさん 『出会って4光年で合体』 同人誌
一体どのような思索の果てにこのような物語が生まれたのだろうか、と思わずにはいられない怪作である。しかし確かに現代日本でしか生まれないSFの最前線の1つでもある。作中の登場人物たちのように、祈りのような願いのようなものを込めてこの作品を推薦したいと、心から思う。この作品と、この作者と、同じ時代に生きられたことは1つの幸せだろうと思う。
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No.299
かずなし のなめ 《異世界の落ちこぼれに、超未来の人工知能が転生したとする》シリーズ KADOKAWA
「異世界転生」、この言葉が一般化したのは皆さんご存じかと思う。そこから様々なファンタジーが創作されてきた。しかし、それはあくまでファンタジーとしての世界を保ったものであった。
この作品は超未来の人類殲滅AIが異世界に転生。人間に生まれ変わり、そこから「こころ」について学習していく。
このジャンル作品には限界がないのか?人の創造力はありとあらゆる垣根を取り払い、新しい物語を創作していく。
物語も人の生き死にや差別などハード路線で展開し、未だ明かされない世界の真実を交えるストーリーは読みごたえも十分。
思いもよらなかった設定を昇華し、異世界転生の可能性を拡大させた功績はまさに後世に残るSFといえるだろう。 -
No.298
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
クトゥルーと狂言?奇をてらった異色な組み合わせだと思いきや、まるで初めから狂言だったかのような違和感のなさ。欲にとらわれた人間のずる賢さという普遍性と伝統芸能の懐の深さを再認識させられました。ユーモアがあるのもいいです。
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No.297
相川英輔 『黄金蝶を追って』 竹書房
現代日本のスペキュレイティブ・フィクション(思弁小説)作家の旗頭といっても過言ではない、相川英輔先生の短編集。
英訳され海外で評価された「ハミングバード」を含めたSF作品が収録されている。
AIが自動ですべての運営をこなすコンビニを描いた作品があるかと思えば、誰もいない空間で孤独に過ごす異空間SFなど、その種類は多岐にわたる。
表題作はマジックリアリズム的な印象があり、著者の底知れぬ創作意識をこの一冊で大いに感じることが出来る。
思弁小説はSFと一般文芸を繋ぐ橋だと私は思っている。この作品集はその歴史に深く記憶に留めておくべきだと考える。
著者の作品が多くの人に読まれることを希望してやまない。 -
No.296
八木ナガハル 『人類圏』 駒草出版
八木ナガハル先生が独自の世界で展開する宇宙シリーズ
この巻では作品世界で暗躍する「夢幻工作社」とジャーナリスト鎹涼子(かすがいりょうこ)とのやりとりが中心となる。
作中に登場するワードが古今東西のSF作品を彷彿とさせ、SFマインドを刺激する。
「人類の品種改良事業団」「地球貫通トンネル」「ダイソン球体」「ウォーバイター」「鞭打たれる星」などなど。
メインのストーリーの他、作中で言及されるSF用語の著者解説もイラスト付きで分かりやすく、SF初心者にも心強い。
古参のSF読者からあたらしくSFを読み始めた人にも楽しめるSFコミックとしてオススメしたい。 -
No.295
斜線堂有紀 『回樹』 早川書房
現時点では彼ら彼女らを取り巻く環境と、私の生きている環境は異なりますが、「もしかしたら本当はこんな世界が何処かにあるのでは?」「いつか同じような現象や技術が実現するのでは?」と思ってしまうくらいにはリアルな感情があり、物語の中で生きる登場人物達と私は同じなんだと確信できる説得力があり、大好きな作品です!
そしてどの物語にも共通するのが、人々の愛の話でもあること。愛の形は様々で、対象も異なりますが、ここに描かれている感情に根付くのは確かに愛です。環境は違えど、彼らの愛は私の知っている感情で、だからこそ親近感を覚えますし、他人事とは思えず彼らの行きつく結末を見届けたくて、選んだ結果を知りたくて、頁を捲る手を止めることできず一気に読んでしまいます。
この1冊を読んだ方と、彼らの選択について感情について話したくなる、読んでいる最中は勿論、読み終わったあとも強く心に根を張る作品です。 -
No.294
斜線堂有紀 『回樹』 早川書房
魅力的な文体で語られるセンス・オブ・ワンダー溢れる世界観がたまらない。人の身には理解できない事象の前で、人と人の心の襞が艶めかしく交わりゆく。ページを捲るたびに、思ってもない感情で次々と心が塗り替えられていくのを実感する。これぞ令和の日本SF。
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No.293
結城充考 『アブソルート・コールド』 早川書房
三人の視点人物で進むストーリーで舞台はユートピアでデストピアなサイバーパンク・ワールド。
各々が関わる事象が交差するとき、物語の本質が見えてくる書き方は著者の力量が見事に発揮されている。
「躯体上の翼」に登場する佐久間種苗など、繋がりが垣間見える描写などはファンには著者ファンにはたまらないサービスだ。
初期の著作から続けている独特な語感のカタカナネームや無機質な語りも健在。
国内サイバーパンクを一層盛り上げる作品として語り継ぐべき作品である。 -
No.292
高野史緒 『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』 早川書房
高野史緒先生の新境地ともいえる作品。
これまでの歴史改変ストーリーの語り口も良かったが、今回は文体が心もちポップに感じられた。
これだけの作家歴をもつ人物であるが、挑戦することに貪欲なのが感じられた。
作中にて披露されるガジェットや音楽などのギークなネタもSF的で面白い。
改変歴史、量子コンピューター、トンデモオカルト科学などなど。
いろんな”濃い”要素がギュウっと盛り込まれているが、不思議と読後感はさわやか。
ボーイミーツガールSFを語るうえで今後外すことのできない作品であることに間違いないであろう。 -
No.291
池澤春菜 「There is always light behind the…」 Sci-Fire
オデッサの学校に通う少年ユージーンは、英語の授業の一環としてインターネットで海外の相手とチャットをすることに。しかし繋がった相手は、「ウクライナ」という言葉の持つ意味がこことは全く異なる世界の住人だった……。
chatGBTなどの人工知能(AI)の進化が目まぐるしかった本年だが、この激流に至るまでには数多のAIが開発されては忘れ去られていった。そんな過去に存在したとあるAIの視点から……というより「AIが想像した我々の世界」から本物の我々の世界を眺めるという、AIを知能ではなく別の世界への入口のように用いることで〈現在〉を映し出した作品。かつてAIに込められていたもののの脆くも崩れ去ってしまった人の願いと希望の結晶が、巨大な闇のなかでわずかな欠片ながらも今もちいさく輝いていることを、物語を通じて再び見つけ出す。
同人誌『Sci-Fire 2022 [特集]インフレーション/陰謀論』収録。 -
No.290
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
狂言+クトゥルフ!一見ミスマッチに思えるこの組み合わせが絶妙。クトゥルフ&SF的フレーバーを散りばめる事であまり馴染みのない狂言という古典芸能を分かりやすく、入りやすいコンテンツに仕立てている。考えてみれば「人間の愚かさ」というテーマは両者に確かに共通する。その今までになかった着眼点が実にSF的な作品と言えよう。
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No.289
森バジル 『ノウイットオール あなただけが知っている』 文藝春秋
推理、青春、科学、幻想、恋愛
5つのジャンルが各々の物語として収録。
そこに登場人物たちが関連性をもつ群像劇形式の作品。
計算されたストーリーに複数のジャンルを配置する著者の手腕。
この情報量の多さに対し、物語は一切破綻していない。
これぞこれからのSFが目指す到達地点ではないかと思う。
文学としても、SFとしても多くの人に読んで欲しい作品である。 -
No.288
武石勝義 『神獣夢望伝』 新潮社
過去の中国に似た世界で繰り広げられる群像劇。
夢に現れる風景に焦がれる少年
奪われた恋人を取り戻すために出世の階梯を進む男
政治と覇権に巻き込まれる人々を描いた歴史小説とも読める。
中華幻想奇譚に群像劇を取り込んだ新たな世界を創り出した著者の創造力には素晴らしいものがある。
この世界は神獣が見ている夢。その儚さは作中でも存分に雰囲気を醸し出している。
スケールの大きさをこの分量できちんと終わらせた筆致は見事。
SF&Fの賞にふさわしい作品である。 -
No.287
松樹凛、藍銅ツバメ、十三不塔、吉羽善、久永実木彦、東崎惟子、人間六度 『猫についての話』 ふわふわでとてもえらい
6人の作家による猫アンソロジー
目次にある”猫の生存率”は作品内での猫の状態を示している。
この時点で攻めたSF感がひしひし伝わってくる。
最後に還る場所から存在論に不条理に世界創造にファンタジーにホラーに影の國。
各々の著者が好きに書いてるなと感じる。特に十三不塔先生の”ルナティック”に振り切った文章は商業誌ではお目にかかれないだろう。
SFの黎明期は同人誌からの始まりも多かったかと思う。その勢いを現在のSF同人誌には感じる。
多様な発信による転換点を象徴する作品集であり、SFの歴史に残すべき事象であると思う。 -
No.286
新川帆立 『令和その他のレイワにおける健全な反逆に関する架空六法』 集英社
実は17日に総評を送っていたのだが、24日に一つにまとめてくれとメールが届いた。
総評は、六つの物語をそれぞれ二話づつに別けてコメントしたのであるが、全てを400字に収めるのは無理で、敢えて総評するなら、それぞれが別の物語。架空法律も破茶滅茶であるが、最後に考えさせられたり、ドキッとしたり、新川帆立流ミステリーの真髄を垣間見た。
読めば解るの一言である。 -
No.285
相川英輔 『黄金蝶を追って』 竹書房
とてもミニマムで、とても市井的。登場人物はボクの隣人のようだし、読んだ読者自身かもしれない。SFというと壮大でアクロバティックな展開、あるいはロマンチックな展開が必須だと思われがちだけど、この作品たちはその正反対だ。でも、何も起きないわけじゃない。むしろ大変な事態が起きる。誰もいない一日に飛ばされる、流刑星に送られる、あげくのはてには地球の滅亡が確定する。この本をまだ読んでいない人は「どんな大仰な物語だろう」と想像するだろう。でも違う。とても静かなのだ。静かで穏やか。なのに、地球は滅亡する。この矛盾。
『星は沈まない』の作中に「個にして全、全にして個」という一文が出てくるが、この短編集全体を表した言葉にも感じる。小さきものにも光をあてる日本SF大賞にふさわしい作品だろう。 -
No.284
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
狂言とクツゥールの世界初の
融合の世界が
素晴らしく魅力されます。
台詞も
伝統文化を若い方々も楽しめます。素晴らしい世界です。是非ご推薦致します
幽玄な世界に
古典文化の
狂言とクトゥールが見事にマッチしている作品です。 -
No.283
古部亮 『スカベンジャーズアナザースカイ』 秋田書店
怪しい研究施設”バスストップ”を拠点に、異形の幽霊が跋扈する別次元BP”ブラックパレード”に遺物を収集する少女たちの戦いを描くガンアクションコミック。
異次元BPはどこかにあるかもしれない街。そこには物理法則を超越した能力を発揮する”怨霊”が!
舞台はアルカージ&ボリス・ストルガツキーの「ストーカー」
BPで襲い掛かる幽霊や怨霊は頭がカメラやブリキのロボットなど”一般家庭”にある器物。その違和感たるやSF的!
それを現実にある銃器によって物理的に攻撃する!
ダイナミックな構図に各キャラが収集した物理神秘”アーティファクト”の特殊攻撃など、見ごたえも充分。
SF作品をオマージュしたオリジナル作品という、新しいSFマンガの潮流を生み出す作品である。 -
No.282
林星悟 『ステラ・ステップ』 KADOKAWA
隕石による大災害で滅亡寸前にまで陥った人類。
資源を奪い合う戦争はいつしか”アイドル”による代理戦争という様相になる。
ポストアポカリプス作品で音楽をガジェットに紡がれる終末SF。
音楽を題材としたSF作品も多数あるが、行間から音が聴こえてくる物語は久しぶりだ。
しかもはっきりとした文言などはなく、その筆致からあふれ出してくるのだ。
まさに物語を音として”紡いで”いるに等しい。
ライトノベルレーベルからの刊行だけに、SF読者に知られていない可能性が大きい。
このノミネートで少しでも多くの人にこの作品が知られてることを願う。 -
No.281
久永実木彦 『わたしたちの怪獣』 東京創元社
表題作を含む4編を収録した短編集。
怪獣を使って死体隠蔽を遂行するヒロイン。
体制からの脱却をはかる主人公。
自分の環境を破壊したい少女。
映画が好きな人にはニヤリとするネタが詰まったお話し。
SFってこういうものだよ!という肌感覚が感じられる作品が多い。
そしてラストのあとがきまでもSF!最初から最後までSFマインドに溢れている。
日本SF史に確かな存在感を刻んだ作品である。 -
No.280
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
クトゥルー作品を日本の伝統芸能に編集した興味深い作品である。舞台、衣装も能の形式に則り、原作の内容をほぼ忠実に再現。能の世界観がより一層可笑しさを引き出しながらも優美で格調高い世界を生み出している。
新しい様式の伝統として受け継がれるに相応しい作品だ。https://www.youtube.com/watch?v=NkO6LZS2QFA
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No.279
監督:山口淳太 映画『リバー、流れないでよ』 トリウッド、ヨーロッパ企画
京都の奥座敷、貴船の料理旅館で繰り返す同じ2分。登場人物はそれに気がつくと何とかしてそのループする2分から脱出を試みる。無限に食べ続けなければいけない雑炊。いつまでも温かくならない ぬる燗。原因は、時の流れが止まるのを川の流れに祈ったことなのか。時間ループからの脱出条件は?と言う少し不思議なとても楽しい映画でございます。
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No.278
宮野優 『トゥモロー・ネヴァー・ノウズ』 KADOKAWA
ある日、ひとりの人間が世界が同じ一日を繰り返していることに気がつく。
その認識は徐々に世界へと浸透し、人類は混乱していく。
SFのジャンルには昔から書かれている「繰り返し」もの。
そんな手垢のついたものに目新しさなどあるのか?そう思った人も多いだろう。
しかしこの作品はその予測を見事に裏切り、新たな切り口があることを示した。
これがSFの創造力たるもの。それを気がつかせてくれた功績は重要である。
この作品をきっかけに、古典SFジャンルの再発想が進むことを期待する。 -
No.277
松崎有理 『シュレーディンガーの少女』 東京創元社
致死遺伝子の導入によって市民の寿命を制限している国で、老女と少女のバディが活劇する「六十五歳デス」から、幻となった魚の味を追い求める「秋刀魚、甘いかしょっぱいか」まで、それぞれの世界が抱える課題に立ち向かう女性たちを描いた短編集である。
全ての作品がトリッキーなアイデアに支えられ、テンポの良い展開を持ち味としているが、その題材はごく深刻なものから、日常感覚の延長にあるものまで多岐にわたる。援用される科学的知見もまた、ハードな物理学からソフトな算数まで幅広い。
豊かなアイデアと確かな科学知識、時に毒を含みながらも軽快なドラマ性。
三つの魅力が見事に調和している点を著者の強みとするならば、そうした特長が最大限に発揮された作品と言える。
サイエンスとフィクション両方の面白さをぎゅっと詰め込み、幅広い層に届きうる力を持った本作を、「SFの歴史に新たな側面を付け加えた作品」として推薦する。 -
No.276
藍内友紀 『芥子はミツバチを抱き』 KADOKAWA
ドローンという道具によって世界は大きく変化した。その変化は大人のみならず子どもさえも否応なく影響を与える。
主人公は自らが望まぬことにより、テロという事象に手を貸してしまう。そのことにより自身の生活から抜け出し世界を旅する。
自己の救済を求めたロードムービーのようなストーリー展開。そこで出会う異国の少年少女たち。
携帯のようにいつのまにか身近になったテクノロジーが、生活に侵食していく。ちょっと先の未来というSFの本義をよく描いた物語だと思う。
まさに今後プロ、アマチュアなどより多くの人々に書かれていくSFの要素が詰まった作品であるといえよう。 -
No.275
林譲治 『工作艦明石の孤独』 早川書房
この作品の素晴らしいところは、SFが物語を介した思考実験であるというをあらためて気づかせてくれたということ。
物語であるからにはストーリーが必要で、そのすじみちが創作であるのにリアリティに満ち溢れている。
舞台は地球から遥かに遠い惑星。そこで人類が孤立した状態になったときに何が必要となるのか?
古今東西、同じシチュエーションでさまざまな作品が登場したが、人的リソースなど社会維持にここまで言及した作品はそうはない。
しかもそれだけでは終わらず、SF的な驚きをも楽しませてくれる。
これからの「孤立SF」の指標となる作品であると思う。 -
No.274
人間六度(著)花譜(歌)カンザキイオリ(曲)PALOW(画) 『過去を喰らう(I am here) beyond you.』 一迅社
この作品はバーチャルシンガーである花譜とSF作家人間六度のコラボによって”生み出された”創作物。
ノベライズというのは良くも悪くも元の作品に”引きずられる”可能性を秘めている。
しかしこの「過去を喰らう」は原曲を”引き込み”つつ、まごうことなき人間六度の作品でもある。
楽曲という千差万別に”観測”されうるオリジナルを基に、これほどのクオリティを創出した著者の力量は計り知れない。
人間六度という才能の底知れなさ、SF界をあらたな境地へいざなう可能性を感じさせる作品である。 -
No.273
花林ソラ(原作)伏見航介(作画) 『ウェルベルム-言葉の戦争-』 小学館
「動詞」で対象に作用させて闘うバトルマンガ。単純に「〇〇を飛ばす」だけでなく、文章にすることで対象をさまざまに変えるところは画に注目しがちなマンガの枠を超えて、いっそ文筆的でもある。
だからといって文章が羅列されているわけでもなく、その配分には新たなSFマンガの可能性を感じさせられる。さらに対戦する相手から奪うワードの秘密など、ミステリ要素もあり。
連載の方では思いもよらなかった事実が判明し、最初の印象とはガラッと変わったストーリー展開に驚きを隠せない。文章×画の新境地といえる作品だ。 -
No.272
伊島糸雨 「躯駆罹彾㣔記」 零合舎
ヒトの滅んだ世。土塊から湧き出た蟲たちの魄汐がヒトの骨霜骸に宿り、かつてヒトが営んだ文明を真似ながら生きている。永遠に続くかのように思われた文明はしかしある病の発見によって、道行が閉ざされてしまう。蟲たちは春を迎えられるのか。(紹介文より)
造語とルビによって世界を構築しながら、模倣者たる異種の日々と個々の関係、都市と種族の小世界にまつわる命運を描いた中編。キャラクターを立てた中華風宮廷ファンタジーであると同時に、終末世界において雌霜体であるふたりの関係と世界を結びつける百合SFでもあり、イメージ喚起を重視した幻想小説としても読むことができます。また、ヒトがヒトであるが故に成せなかった救いを躯駆罹が成す点は、人類の営みを見る一種の異化でもあります。
魂と生の行方、ささやかな愛と希望を描いた一作。一つの節目として自薦します。 -
No.271
斜線堂有紀 『回樹』 早川書房
喪失と崩壊、そして愛。普遍的な現象と感情を独特のSF的奇想に情感鮮やかな文体で描いた短編集。表題作の「回樹」も面白いが、個人的にはアメリカを舞台にした地球外生命体の来訪が描かれた「奈辺」がよかった。終わりかたも含めて読後感が良く、幅広い層に読まれてほしい一冊だ。
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No.270
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
H・P・ラブクラフト氏の「クトゥルー神話体系」をもとにしたお話を、日本の古典芸能である狂言で表現した斬新な作品。20世紀のアメリカで生まれた恐怖小説と中世の日本で生まれた狂言とが、違和感なく融合した異色のSF古典芸能。
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No.269
斜線堂有紀 『回樹』 早川書房
この作品はバラエティの豊かさとアイデアに富んだ優れた作品集だ。表題作の『回樹』はある日突然現れた巨大な樹と、その樹が持つある機能によってもたらされた事象に翻弄される人々を描いた話。『骨刻』はレーザーで骨に文字を刻むボーンレコードというちょっとした技術と発想が、思いもよらぬ事態を巻き起こす話。『BTTF葬』は過去の名作映画が存在するせいで新しい名作映画が撮れないのだという狂った思想が正当化され、過去の名作映画を葬る儀式が行われている世界が描かれている話と、どれもこれだ!とキマったアイデアから産み出された読み応えのある短編たちが収録されている。中でもSF味が発揮されているのは、ある日を堺に死体がどうあがいても腐敗させることができなくなった世界を描いた『不滅』という話で、そのアイデアからこういう話を作り出したか!と興奮させられっばなしの展開を魅せる内容で、非常におすすめの短編となっている。
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No.268
聖悠紀 『超人ロック』 KADOKAWA
聖先生がお亡くなりになり1年が立ちました。壮大な宇宙の歴史を紡ぐ、この作品を埋もれさせていけません。超人ロックが、SF漫画に与えた影響は計り知れないものだと思います。また、聖先生が考えた宇宙史は、銀河連邦から始まり、混沌の時代から、銀河帝国が生まれ、その崩壊とともに、再び連邦の時代になる。これはアイザック・アシモフ氏の考えた宇宙史に通じるところがあります。アシモフのロボットシリーズ、そしてファウンデーションシリーズをつなぐ、Rダニール・オリビーは、まさに超人ロックのようではありませんか。聖先生が、アシモフの影響を受けたのは間違いないと思うのですが、アシモフがシリーズを繋げようと思った時に、ロックのような存在が浮かんだのは偶然でしょうか。巨匠アシモフが亡くなってから30年が立った時に、聖先生が亡くなられました。我々は、この銀河の歴史を再び見直す時ではないでしょうか。
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No.267
宮野優 『トゥモロー・ネヴァー・ノウズ』 KADOKAWA
一話目は同じ一日を繰り返しながら、娘の復讐を果たす話。二話目で全く毛色が違う話へと。やがて、同じ一日を繰り返す中でわかってくる事実。
各話で視点を変えつつ、繰り返す世界の中で起きる出来事が描かれることで読者も少しずつ何が起きているのかを追体験していく。
タイムリープものに新風を吹き込んだ作品。物語は終わるが続く世界、いつか同じ設定の別の話も読みたい。 -
No.266
飯野文彦 『飯野文彦異色幻想短編集 甲府物語』 SFユースティティア
「SF Prologue Wave」や「異形コレクション」に寄せられた飯野文彦さんの作品をまとめたものですが、私小説のようであり、ホラーのようであり、思弁小説としてのSFのようであり……今までにない、なつかしくも斬新な読後感のある作品にしあがっています。巻末に収載された宮野由梨香さんの解説(https://sfwj.fanbox.cc/posts/6754292)でも公開されてます)にならえば、「一将功成りて万骨枯る」の「万骨」を、「勝てば官軍」のSFシーンはあまりにも軽視しすぎてきました。本作は、そちらへの抵抗です。SFにおいては「地域」というのが重要なテーマになっていますが、SF大賞を受けるほどには評価されていません。宮野さんも参加した『しずおかSF』やSF大賞候補になった『北の想像力』、近年は大阪・京都・徳島をめぐるアンソロジーも出ている状況で、『甲府物語』は「地域」をとらえなおし、SF史に新たな側面をつけくわえる作品です。
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No.265
八杉将司 『八杉将司短編集 ハルシネーション』 SFユースティティア
八杉将司さんのはじめての短篇集。たんに作品をあつめただけではなく、編集方針は、ねりにねられたもの。上田早夕里さん、町井登志夫さん、片理誠さんの解説等も充実した内容で、通常の単行本2冊~3冊ぶんの分量が、廉価な電子書籍でまとめられています。今までバラバラに発表されていたものが、こうして一冊になったことにより、それらに一貫した問題意識、なにより八杉さんの作品の質に、あらためておどろかされます。げんざいのSFシーンは、作者の世代や話題づくりがさきにたち、肝心の品質面がなおざりにされてしまっています。ふつうにかんがえて、おかしいでしょう。『ハルシネーション』は過去、SF大賞をうけた短篇集のいずれにも勝るとも劣らない出来であるのは、読めばだれでもわかります。世界へのみかたをあたらしいものにしてくれる、「このあとからは、これがなかった以前の世界が想像できないような作品」そのものです。
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No.264
八杉将司 『LOG-WORLD』 SFユースティティア
おしまれながらも早逝された八杉将司さんの遺稿長編を書籍化したものです。にどの大戦についての文学的検証という見地からも評価できるでしょうが、AIに関する思弁もすばらしく、わたしがこれまでよんできた作品のなかでも屈指の完成度を誇るもので、作品単体としてオールタイムベストに入るとおもいます。
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No.263
田中空 「さいごの宇宙船」 少年ジャンプ+
熱的死を前に人類も星も滅び去り、無人宇宙船だけが残された宇宙という舞台設定自体が素晴らしい。遙かな未来の先、宇宙の果てで起こるボーイミーツガールが突然私たちの世界そのものとなるラストまで、静謐な疾走感は他にない。
https://shonenjumpplus.com/episode/316190247098378462
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No.262
小田雅久仁 『禍』 新潮社
口、耳、目、肉、鼻、髪、肌といった身体のパーツをモチーフに、10年以上の歳月をかけて編まれた作品集。鬱々とした人生を送る主人公たちが、身体器官を通じて想像を絶する事態へと巻き込まれていく。その「振れ幅」が本書の魅力の一つと言えるが、リアルで細やかな内面描写にはじまり、人知を超えた災厄が訪れるスペクタクルな光景に至るまで、すべてを文章表現のみで描き切ろうとする、その発想と執念が凄まじく、著者でしか表現し得ない唯一無二のグルーヴを生み出している。
インタビュー記事などを読む限りでは、本書を「怪奇小説」と位置づけているようだが、もはやSF・ホラーといったジャンルや、エンタメ・純文学という枠組みすべてを取っ払った、カテゴライズ不可能な領域に達しており、「小田雅久仁」というジャンルを確立したとも言える本作の先進性は、SF大賞でこそ顕彰するにふさわしいと考える。 -
No.261
松樹凛 「十五までは神のうち」 Web東京創元社マガジン
https://binb.bricks.pub/contents/84934a21-96df-4468-a63c-d87c253edc05_1671092201/reader
まつきりんさんが描く世界観は、どの作品もえも言われない寂寥感が漂っています。
特にこちらの推薦作品は描写の美しさ、テーマの鋭利さに胸をえぐられました。
まつきりん最高✊
みんなも松樹作品を読んで松泣きしよう! -
No.260
林田こずえ(作)YOUCHAN(絵) 『戯曲絵本 カラクリ匣』 小鳥遊書房
戯曲絵本という新しいジャンルのエンターテイメントの誕生。戯曲を読み慣れない者は、おそらく文字だけでは迷子になってしまいそうな舞台の上を、その世界観をみごとに捉えたイラストがナビゲートしてくれて、いつの間にか脳内で演劇が繰り広げられる。シュルレアリスムな大人のお伽話に沼るひとときを是非感じて欲しい。
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No.259
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
世界初の
クッゥールと狂言の
美の世界の
調和。伝統文化である
狂言が若い方々や
普段、狂言を
観たことのない
方々にも楽しく
衣装や 動き
台詞まわしも古典文化と
共に
斬新な世界へ面白く
素晴らしい
作品です。是非
皆様にも
観て頂きたいと
思いました。 -
No.258
山口優 『星霊の艦隊』 早川書房
第三巻でとりあえず?の決着を見た星霊の艦隊は、作者がデビュー以来こだわり続けてきたシンギュラリティというテーマをより深く追求し、萌えキャラというもう一つのこだわりとともに、それを一気に銀河系レベルへと押し広げて見せた作品である。複雑で込み入った世界を、圧倒的なリーダビリティをもって描ききった著者の力業に感嘆するとともに、この作品世界がさらにどう続いていくのかを期待させる作品になっている。大河スペースオペラの伝統を継承し、さらにはスペースオペラの可能性を大きく広げる作品としてこの作品を日本SF大賞にふさわしい作品として推薦したい。
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No.257
八杉将司 『LOG-WORLD』 SFユースティティア
昨年の日本SF大賞功績賞を受賞した八杉将司さんがPIXIVで発表した長編作品の書籍化である本書は、第一次世界大戦やフッサールに関する綿密な取材と、ログワールドというSF的な大仕掛けによってエポックメイキングな作品として評価されるべきであったが、PIXIVと言うプラットホームが長編作品を読むことに適していなかったため、ある意味で埋もれてしまっていたように思う。それが、書籍という形になったことで、より、ふさわしい形を与えられた。ウェブ上でいちいち煩雑なページ送りを行うことで損なわれていた没入感が書籍という形をえて、より強く感じられた。書籍もまた一つのログワールドであることを確認できる本書をSF大賞にふさわしい作品として推薦したい。
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No.256
八杉将司 『八杉将司短編集 ハルシネーション』 SFユースティティア
昨年の日本SF大賞功績賞を受賞した八杉将司さんの既発表短編を、電子書籍版の短編集として刊行した本書は、短編作家としての故人の技量が詰め込まれた傑作集であると同時に、脳科学や言語学、認知科学や人工知能と言った領域を扱いつつ、SFならではのアプローチで人と人の関わり、人と世界の関わりを問い直す作品群となっている。表題作の「ハルシネーション」、年間傑作選にも収録された「うつろなテレポーター」など、著者の優しさにあふれた丁寧な仕事ぶりを反映した絶品とも言える作品が並ぶ。加えて巻末の上田早夕里さんの作品論も圧倒的な読み応えがある。この記念碑的一冊をSF大賞にふさわしい作品として推薦したい。
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No.255
飯野文彦 『飯野文彦異色幻想短編集 甲府物語』 SFユースティティア
SFがスペキュラティヴ・フィクションならば、現実と虚構を自在に行き来する小説は、間違いなくSFであろう。その意味で本作は現実と虚構、過去と現在を見事にシャッフルし、その境目を曖昧にする。今までのホラー小説が定石として扱っていた異質な物への恐怖は、「私」に内在する物への恐怖に置き換えられる。私小説ホラーとも言うべき展開は、まさしく新たな地平を切り開いたものであろう。また、個別の作品として発表されていた多くの作品が、一冊の書籍となって生まれ変わったことで個々の作品ではくみ取れなかった立体感を際立たせ、甲府という土地の持つ独特の空気をも感じさせる。そんな希有な作品を、SF大賞にふさわしい作品として推薦したい。
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No.254
伊野隆之 『ザイオン・イン・ジ・オクトモーフ イシュタルの虜囚、ネルガルの罠』 アトリエサード
エクリプス・フェイズは多くの先行するSF作品のエッセンスを贅沢に取り込んだTRPGだ。その世界を背景に描かれた本作は、身体を自由に乗り換えられるという特徴を縦横に駆使し、意図せざる状況で蛸型の義体に再生されたエゴであるザイオンが、自由を取り戻していく物語だ。ゲームそのもののようにスピーディでスリリングな展開とともに、世界設定を背景に生じるキャラクター間のコミカルなやりとり、蛸という身体故に生じるツイストと言った要素がふんだんに取り込まれ、かつ、世界を崩壊させたAIの反乱という謎にも迫る本作は、ザイオンという重層的なキャラクターに関する小説でもあり、今まで日本では顧みられることの少なかったシェアード・ワールド小説の到達点でもある。その意味で、自薦ではあるが、本作をSF大賞にふさわしい作品として、推薦したい。
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No.253
山口優 『星霊の艦隊』 早川書房
SFに限らず、物語というものは何らかの渇望を抱いた主人公が、それを克服する物語であることが多い。そして、SFが主題とする科学技術は、現代の人間社会によく見られる種類の渇望を、技術的には全て充足するものとなるだろう。その先においても、主人公、あるいは人間社会が抱く課題、渇望があるならば、それこそが人間と社会の本質ではないか。
本書の描く五〇〇年後の未来は、まさにそうしたあらゆる渇望、生老病死の克服を目指して構築された理想社会のはずであったが、それでも大きな課題が存在した。そのような人類の課題解決を全て担う制御AIは、当然人間の精神をエミュレートする必要があるため、そのものが、自我を持ち、自らの自由に生きたいと望むのである。
こうした理由から、自薦とはなるが強く推薦するものである。 -
No.252
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
浅尾典彦さんはラヴクラフトのクトゥルー神話を翻案して日本民話を思わせるSF映画『龍宮之使』をものしたが、今度はさらにその映画を翻案して狂言に仕立てあげ、能楽堂で上演するという暴挙に出たわけだが、これがじつにみごとな狂言で日本のSF精神もついにここまで到達したかと思わせるものがあった。これはぜひ多くの人に見てもらいたいものである。
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No.251
聖悠紀 『超人ロック』 KADOKAWA
超人ロックの内容の素晴らしさについて書いている方はたくさんいるでしょうから、私は作風について書こうと思います。作者の聖悠紀先生は、作画グループという同人サークルから漫画を描き始めた方でした。そのため、ロックを始めとした先生な漫画作品は商業的なわかりやすさがなく、どこか無愛想で難解でした。そこが、たまらなくカッコよく感じ、私自身が同人でSFを描き始めたきっかけにもなりました。超人ロックを起点にSFや同人を始めた方は多いと聞きます。十分に、SF界において影響を与えた作品だと思います。
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No.250
聖悠紀 『超人ロック』 KADOKAWA
50年以上連載を続けたSF漫画の金字塔です。漫画界でいち早く太陽系外まで物語を広げた作品でもあります。時間的にもスケールが大きく数千年の銀河史を主人公ロックが生き続ける物語です。戦争や人口問題など重い出来事や超能力バトル、主人公がレースに参加する話等もあり内容も盛りだくさん。何より主人公ロックの魅力が大きい!惑星も破壊出来る圧倒的な力を持ち、それ故人から恐れられ彼を危険視する人から傷つけられる。加えて永遠に生きる彼は愛する人達がみな彼を残して旅立ってしまう途方もないが孤独の中にいます。それでも希望を捨てず人々を゙守る為闘う姿がかっこよいの゙です。また、聖先生の作品はビジュアルも美しく、少女漫画経験者だけあって美男美女がたくさん出てきます。主人公ロックも永遠の美少年!惑星やメカの描写もとてもクールです
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No.249
聖悠紀 『超人ロック』 KADOKAWA
超人ロックは強大な超能力を持ち、再生を繰り返しながら何千年も生き続けますが、決して正義の味方として超能力を使うわけでも、世界を征服しようとするわけでもありません。
彼は、超能力で解決できることはあまりにも少なく、むしろ害悪にさえなることがあると知っており、いつも苦悩しながらひっそりと暮らしていくことを望んでいます。
超人ロック以前に、果たしてこんな主人公が登場するSF漫画作品があったでしょうか。まさに「このあとからはこれがなかった以前の世界が想像できないような作品」です。
その証拠に漫画家の先生に超人ロックのファンの方は大変多く、これ以後のSF漫画は全て超人ロックの影響を受けていると言っても過言ではありません。
令和5年6月に最終話が雑誌掲載された超人ロックは、まさにSF大賞を受賞するにふさわしい作品と言えるでしょう。 -
No.248
原作:よしながふみ、脚本:森下佳子 TVドラマ『大奥』 日本放送協会
既にSF大賞受賞作、よしながふみ氏のマンガ原作があり、ドラマや映画の異種メディアがあるが、今回は従来になかった、時代における画期性が見られた。第一に未だに続く新コロナ禍。20年以来、世界を席巻した予測不能な災厄を、時代のエッジに映し出さんとする強く意図を感じた。さらには性的表現の画期性。綱吉役の仲里依紗が騎乗位で腰を振っている姿に驚かされたが、NHKはこのシーンを含めてインティマンシー・コーディネータを導入して実現した。この導入と、それに基づいた納得ずくの仲里依紗の大胆な演技は、やはり12年の映画にはなかった領域に踏みこんでいる。むろん原作の性差混乱の面白さが作品全体をドライブさせているが、本来、現実世界と無縁に存在して然るべき作品世界が、いつしか現実と拮抗するようになり、ついにはその相克へと至る、非常に時宜を得た作品となった。この時期に斬りこんだSFとして、大いに評価したい。
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No.247
聖悠紀 『超人ロック』 KADOKAWA
1967年から続いていた超大作SF漫画。
この作品に影響されたプロの方も多いと思います。しかし、それにしては知名度が低いのが納得いかないのです。
どこから読めば良いのかわからないとよく言われますが、作者が仰っていたように好きなところから読めば良いのです!この作品には何でも詰まっている!
最後にこの作品第1作目の冒頭の言葉で締めたいと思います。
「SFファンとそうでない人に」 -
No.246
久永実木彦 『わたしたちの怪獣』 東京創元社
昨年度の日本SF大賞にて、短編小説としては初めて候補作になった表題作のほか、3作品を収録した短編集。そのどれもが、つらい現実から逃れようとした先にある、ほんの僅かな希望を描いている。表題作はもちろんのこと、最後の収録作「『アタック・オブ・ザ・キラートマト』を観ながら」では、映画という虚構を、現実の災禍が追い越してしまったその先にある、それでもフィクションが持つ役割を見事に描ききっている。その点をもって、ぜひ今回の大賞に推薦したいと考えた。
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No.245
聖悠紀 『超人ロック』 KADOKAWA
「SFファンとそうでない人に」聖悠紀先生の描かれた漫画「超人ロック」第1作「ニンバスと負の世界」表書きの、この文がとても好きです。
「超人ロック」に出てくるさまざまなSFガジェットにワクワクするのも好きですが、最強の超能力者であり不死者であるロックさんが、それでも「人間」の心を持ち続けて、たくさんの人たちと関わっていく。そんな「人間たち」の物語だからこそ、「超人ロック」はSFファンだけでなく全ての人に向けた物語なのではないかと思うのです。1967年9月24日に脱稿され、肉筆廻覧誌として世に生まれ出た「超人ロック」は2022年10月30日、作者と共に星の海に旅立った。しかし2023年6月5日、永遠の刻を生きるロックは今一度、私たちの前に姿を現してくれた。この奇跡にそして今までの軌跡にSF大賞を贈りたいのです。
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No.244
久永実木彦 『わたしたちの怪獣』 東京創元社
本書にはこれまで経験したことがないほど心を揺さぶられました。収められている四編どれも素晴らしかったのですが、私は特に「夜の安らぎ」が好きです。誰もが太陽の下で幸せになれるとは限らず、夜の闇の中でこそ救われる者もいる。そんなラストシーンは一読者に過ぎない私の事まで肯定してくれているようでした。次々と残酷な事が起こり世界が終わっていく短編集なのに、そんな優しさに溢れているように感じられるのが凄いと思います。日本SF大賞に相応しい作品として推薦します。
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No.243
松崎有理 『シュレーディンガーの少女』 東京創元社
本当にバラエティ豊かで、多くの作品が日常的な題材から始まるので間口が広く、老若男女を問わず誰でも楽しめ、しかしどの短篇も根底に最新の本格SFの発想と精神が太く息づいている。子どものときに初めて「字だけの本」を夢中になって読み終えたときの、あの興奮と充実感が蘇る、素晴らしい短篇集です。強く世にお薦めしたい。
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No.242
監督:田口智久 劇場アニメ『夏へのトンネル、さよならの出口』 CLAP
原作は八目迷のライトノベル。願いがかなうかわりに中と比べて外ではとてつもない速さで時間が進む「ウラシマトンネル」を舞台に、少年と少女がそれぞれにかなえたい願いのために共闘するストーリーを軸にして、現実の生きづらさから過去にすがろうとする切なさと、どれだけの時を挟んでも待ち続ける誰かがいることの嬉しさを描いて感動を誘った。「ウラシマトンネル」という現象がもたらす効果を、どう推し量るかといったチャレンジの積み重ねに、SF的な探求の楽しさがあった。
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No.241
陸秋槎(著)阿井幸作、稲村文吾、大久保洋子(訳) 『ガーンズバック変換』 早川書房
日本在住の中国人作家陸秋槎氏による、日本SF、中国SF、といった便宜的な区分を軽々と超越するSF短篇集。
日本と欧米の作品や文化をどん欲なまでに取り込むことによって生み出されたのは、創作と道徳、吟遊詩人の秘密、ゲームの設定、ポンコツ作家の評伝、アクセス規制下の青春、AI時代の翻訳と学問…、すなわち物語の、言葉の、人が人に何かを伝えるコミュニケーションの物語。
進化を続けてきた日本SF大賞が、また一つ進化するために、本作を推薦します。 -
No.240
廣亜津美 『臨終師フォン』 Kindle
いまのSFは未来を見ているのか?ほとんどのSFは、過去を見ているノスタルジーでしかない。気候変動、戦争、国家対立、格差社会、この現状を打開する未来をSFは考えているのか?すくなくとも本作は、人類文明が生き残る、現実的に可能性のある道筋を示している。また、生命とは、意識とは、そもそも人類は知的生命なのか、という深淵なテーマに切り込んでいる。著者はAIを含めた長い間の研究開発の知見を使い、映画を前提としたエンタメな作りでありながら、深い洞察をしている。いま必読のSFである。
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No.239
林田こずえ(作)YOUCHAN(絵) 『戯曲絵本 カラクリ匣』 小鳥遊書房
自薦いたします。本作は少年が創り上げた機械と人形の内部世界が、世界のカラクリに気づいた少女ロボットによって崩壊する物語です。時の流れを往来するSF的な空間を、YOUCHANが見事にイラストで具現化しています。戯曲の間にただ挿絵があるのではなく、全面を通してイラストがついており、戯曲を読んだことのない人にとっても内容や舞台空間が想像しやすいものになっています。また、刹那的で三次元の芸術である演劇を、再読可能な二次元の書籍にしたということの挑戦自体が、次元の変換という点でSF的かもしれません。以上の理由から、ご検討いただければ幸甚に存じます。
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No.238
作・演出:坂本鈴 演劇『もしもし』 劇作家女子会。
この作品では、既婚者と関係を持っていた女性が、男に嘘をつかれていたことに絶望し、過去の自分と電話をすることで未来が分岐する。もう一つの未来の自分は、順風満帆な人生を歩み、結婚するが、夫に不倫される。二人の「私」が不倫し/されるなかで、一人の男を恨み、逃げた男を追いかけていき殺害する。というストーリーになるが、この作品のSF要素は時間の分岐だけではない。「清姫伝説」と「SNS炎上」が、鐘という要素で結びついていく伝承と現実の邂逅。演劇表現として、伝統芸能を基盤とした演出と、現代演劇の演出手法を織り交ぜる手付き。内容と形式の両面において、過去と未来、虚構と現実を統合させていく仕掛けが、「もしもの私」が統合していく様を鮮烈なものにする。SF演劇として、衝撃的な作品だった。
公演情報 http://gekisakkajoshikai.blog.fc2.com/blog-entry-260.html -
No.237
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
昔、狂言を習っていた者として、クトゥルー神話が狂言の物語構造にこれほどマッチするとは驚きです。
浅尾典彦さんの着眼点に脱帽です。
さまざまな曲の印象的なシーンがたくさん盛り込まれ、狂言ファンも「ふふっ」とさせる仕掛けが満載です。
元来、狂言は威厳のあるものや恐ろしいものを滑稽化する仕組みなのですが、そのフォーマットに忠実に沿った、未来の古典となり得る新作狂言です。 -
No.236
坂月さかな 《プラネタリウム・ゴースト・トラベル》シリーズ PIE International
『坂月さかな作品集プラネタリウム・ゴースト・トラベル』『星旅少年』を含む本シリーズは、〈ある宇宙〉と、眠りに就こうとする星々、これを訪れる星旅人の物語。明かされつつあるセカイの成り立ちはSFとして壮大だが、本作の醍醐味は何といっても「旅」にある。
〈ある宇宙〉は澄んだ水面のように透明で深いが、星旅人のゆく先々には多様な人々、文化、生活、香り、そして物語に満ちている。人やモノとの出会いは珍奇で奇想天外で、異国の小道や裏通りを旅するような驚きを読者は追体験できる。
過去にはコンビニプリントでも作品世界が展開されるなど、遊び心に満ちた著者の〈ある宇宙〉に応えるように、様々な二次創作やファンアートも創られているのも特徴。2023年には『このマンガがすごい!2023』第5位のほか、シリーズ作が日本人初となるボローニャ・ラガッティ賞を受賞。本シリーズはSFの受容層を大きく広げることにも貢献している。 -
No.235
木緒なち 『ぼくたちのリメイク』 KADOKAWA
芸大に進まなかった主人公が10年前に戻って芸大に入るというタイムリープものだが、この作品の特筆すべき点は、主人公が「制作者/プロデューサー」であることだ。彼は決して、現世では活かせなかったクリエイターとしての才をもって、僕はやっぱり才能があったと輝くのではない。現世で培ってきた制作者としての才を活かし、未来のクリエイターの歩む道を変えていくのだ。芸術の歴史を辿ってみれば、そこには「この人とこの人が手を取っていれば、歴史は大きく動いたかもしれない」というものがある。この「リメイク」は、ゲームのリメイクであり、タイムリープをするという自身のリメイクであり、そしてゲームという芸術の歴史そのもののリメイクなのだ。芸術家を題材としたSF作品として、制作者を主人公にする視点の独特さと切実さ、何重にも折り重なった「リメイク」という言葉の奥深さ、私はこの作品を、いつまでも忘れないだろう。
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No.234
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
SFと狂言のコラボ❗世界初の試みがどのような形で表現されるのか‼️神秘的なストーリーと人々の欲望渦巻く、日本の伝統文化とSFの融合‼️後にも先にもない作品だと思います。
あの、長編作品を狂言タイムにまとめて、横文字を日本語に変換されているところも見所。最初の数分で、世界観に引き込まれること間違いなし。美、欲、怖、食、暴、愛、悲、奇、性、謎、笑、全て詰まってます。
美しい舞と、SFストーリーを是非とも体感していただきたいと思います。
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No.233
クリハラ タカシ 『きょうのコロンペク コロンペクの1しゅうかん』 福音館書店
まるまったり、平べったくなったり、UFOにさらわれそうになったりするコロンペク。なにものなのかはわからない。常識の枠からはみ出す想像力、これこそSF的思考の種ではないでしょうか。ここだけの話ですが(←?)作中には第42回日本SF大賞にエントリーされた、あの子も登場しています。小学校低学年の子どもたちも楽しく読めるコマ割り絵本。SF世界の導入として推薦します。
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No.232
田場狩 「秘伝隠岐七番歌合」 ゲンロン
この作品は大森望ゲンロンSF創作講座の第五回新人賞を受賞したものであり、詩歌という芸術が言語やエスニシティに根差しながらそれを跨ぎ越えるという大きな視野を示すものだ。なにしろ宇宙人が和歌を詠むのだから。それだけではない。歌合の相手は後鳥羽院で、その出来を判ずるのは藤原定家といったとんでもない顔ぶれ。どんな結末が訪れるかは実際に読んで頂きたいが、諦観と無常に抗う言葉の力に必ず元気づけられるはず。
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No.231
あぼがど 「スペースサメハンター」 pixiv
「第3回日本SF作家クラブの小さな小説コンテスト」において最終候補に残った作品。屠鮫銛を片手に宇宙を駆け、巨大サメと戦う男・スペースサメハンターの勇姿を描く。その魅力は目を引くタイトルのみではない。シリアスとギャグの絶妙なバランス、ここぞという場面で効果的に使われる太文字、練りに練り込まれた設定の数々。読者はアニメのワンシーンを見ている状態から徐々に戦闘そのものに引き込まれて行き、気づけばスペースサメハンターに想いを馳せ夜空にサメを探してしまう。X(旧Twitter)では話題に次ぐ話題を呼び、やがてはコンテスト全体を巻き込んでいった。多くの読者を惚れ込ませたこの作品は、間違いなく伝説として語り継がれるべきである。
作品リンク:https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=19916206
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No.230
十三不塔 「猿王眷恋行」 anon press
誰もが知る猿界のダークヒーロー、孫悟空。
玉を探す方じゃない美猴王の方のお話。
その彼が時空を超え、胸ワクワクの愛がGISSHIRIな冒険を経て成長するSF冒険活劇。現在と過去(異世界?)をまたぎ孫悟空が恋をし、妖怪だけでなくクローンとも戦い、大切なものを見つけ自分と向き合い成長する。
そんなまさかのSF。何より、生き生きと暴れ回る悟空や恋焦がれる悟空、そのどれもが魅力的で惹かれる。
現代版にリブートされた素晴らしい作品。 -
No.229
新馬場新 『沈没船で眠りたい』 双葉社
本当にこんな時代が来るかもしれない。そう思わせてくれた作品でした。未来だったSFの世界が現実に迫るなか、ここからSFはサイエンス・フィクションの域を飛び出し、サイエンス・ファクトになっていくぞと宣言された気持ちになりました。特に最後の一文には鳥肌が止まらなかったです。昨今身近なAIを扱った小説としても、とても読みやすく、おもしろいので、SFを敬遠している人もとっつきやすいのではないでしょうか。今年一押しの作品です。
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No.228
坂月かな 『星旅少年』 PIE International
稲垣足穂的!SF最新マンガ!
〈プラネタリア〉と呼ばれる時代に人類が穏やかな眠りにつく現象。汚染された大気が緩やかに人々を眠りにつかせるなか、星間を行き来し、小さな旅をつうじて終わりゆく人類の文明を記録する不眠症の〈星旅少年〉たち。彼らの「さみしくて楽しい旅の記録」。人はやがて、微睡み、眠りに落ちると、〈トビアスの木〉となり、赤い実を記憶として宿す。名前を持たない主人公の303は赤い実を「パキッ」と音を立てて噛み砕くと、人の記憶が彼の中に浸透する。他人の記憶と記録をただ傍観者として淡々と記録していく。「死ぬことは淋しいことなのだろうか」でも、誰かが覚えていてくれるなら、悲しくはないのかも知れない。書籍もずっしりと重い本の作りもリッチでカラーも多い。インターネットにだけ存在し、いつ突然消されるのかわからないモノではなく、書籍というマテリアルにすることが本作のテーマとも重なるのが切ない。 -
No.227
久永実木彦 『わたしたちの怪獣』 東京創元社
SFに興味はあるけど難しいのが多くて尻込みしてしまう私にとって『わたしたちの怪獣』はやっと見つけた宝石のような作品集でした。収録されている作品はSF的だったりホラー的だったりしながら中心にしっかり現在を生きる人間の存在があって、純文学にも負けないくらい悔しさとか優しさとか諦めとか心の機微が深く描かれていると思います。私が普段感じている苦しさと登場人物が感じている苦しさにリンクする所が多く、私のために書かれたんじゃないかと思うくらい共感して全部の作品でボロボロ泣きました。文章は読みやすいし美しくて誰にでも胸を張ってお勧めできる一冊です。こういう作品ならもっとSFを読みたいと思いました。
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No.226
浅尾典彦 クトウルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
アメリカの小説家ラブクラフトの作品と、日本の文化である狂言とを、違和感なく融合させてあって、非常に独創的で面白い作品であると感じたため。それぞれのキャラクターを、狂言の面や和装で表現しているところが、とても興味深かったです。台本も販売していたので、読んだのですが、映画『龍宮之使』が狂言版になると表現が又、違っていて、物語を詳細まで理解する事ができたので、この作品をたくさんの人に見てほしいと思って、エントリーさせていただきました。
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No.225
浅尾典彦 クトウルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
世界的メジャーな暗黒神話として有名であるにも拘らず未だ日本では知名度や作品世界についての理解度やファン層の拡がりがメジャーとは言い切れない日本に於いてクトゥルー神話を日本の古典芸能である狂言舞台に翻案した日本オリジナルクトゥルー神話の創作は日本SF界に於ける一大発明である。これにより今後日本でクトゥルー神話がよりメジャーで身近なジャンルとなる事を望みます。
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No.224
北野勇作 《シリーズ百字劇場》 ネコノス
100文字で描かれる世界。ギュッと濃縮されているので、読むと頭の中で弾けて広がって、物語の続きを空想してしまいます。思いもよらない展開とスケール感が味わえて、驚きます。私がSFを読むときに求めるのは、「不思議さ」と「驚き」と「深く思考すること」ですが、この小さな物語には三つの要素が濃縮されてます。クスッと笑えるユーモアや、よく考えると怖い話、という味わいも付加されていてすごい。「ありふれた金庫」が大好きです。
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No.223
林田こずえ(作)YOUCHAN(絵) 『戯曲絵本 カラクリ匣』 小鳥遊書房
見開きの紙面を演劇の舞台と見做して、登場人物の演技をセリフと絵で表現するのを「戯曲絵本」。たしかに「絵本」といえば子供向けあるいは童話といった印象をもたれそうなので、本の内容からいっても命名は妥当だ。演劇ひきこもりのぼくにとって、戯曲はもっぱら文字で読むものであり、林田こずえの文とYOUCHANの絵の交響はかつてない体験で、容易に時空を超 えた世界につれていってくれる。
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No.222
浅尾典彦 クトウルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
古典芸能で初めての試みとなる、「クトウルー狂言」。「クトウルー」にも「狂言」にも馴染みのない方も多いかもしれません。「狂言」というと敷居の高い芸能と思われがちですが、元々はごく身近な民衆が主人公の物語。人間の滑稽さ、愚かさを描いた芸能で、現代の演芸である落語や漫才とも親戚筋のようなもの。「クトウルー」は、人間の本性を邪神(悪い神)を登場させて描く西洋の幻想世界。この二つがコラボしたのが、今回の『龍宮之使』です。原作・脚本は、サブカルチャーの第一人者として精力的な活動を続けておられる夢人塔代表の浅尾典彦さん。演出(ご出演も)をされるのは狂言師・安東元さん。かつてない文化の融合を一人でも多くの方にご覧ただけたらと思います。
https://www.youtube.com/watch?app=desktop&v=NkO6LZS2QFA -
No.221
北野勇作 《シリーズ百字劇場》 ネコノス
「SF」「狸」「猫」というテーマごとにまとめられた百字小説集。著者は「作品の梗概を書けば、本編よりずっと長くなる」言っていましたが、覗き穴の先に見えるわずかな光景からまわりの広大な物語空間を悟らせる技は見事としかいいようがない。詫び寂び文化の国で著者が切り拓いた素晴らしいジャンルです。
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No.220
結城充考 『アブソルート・コールド』 早川書房
人と機械の世界が溶けあい、生と死の境界が取り払われる。魅力的かつ戦慄すべき未来絵巻。近未来都市「見幸市」の光景が素晴らしい。富裕層と貧困層の分断が進み、街の棲み分けが進んでいる。そこで繰り広げられるハードなアクションと魅力的な登場人物たち。内容と文体がぴったり合ってうっとりします。
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No.219
松崎有理 『シュレーディンガーの少女』 東京創元社
女性を主人公とするディストピアSF6編を収める短編集。シニカルな設定で登場人物たちにはお気の毒というしかないが、どこかユーモラスなのは、異世界を創り出す思考が健全で優しいからだと思う。こういう作品をきちんと評価してゆきたい。
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No.218
谷口裕貴 『アナベル・アノマリー』 徳間書店
世界を滅ぼす力をもつ最強の超能力少女と、彼女を追う国際機関の戦いを描く。しかし、物語は両者の戦いそのものではなく、闘争に巻き込まれた人々のドラマだ。彼らにとってそれは不条理な災厄に直面することでしかない。きわめて現代的な超能力SFといっていいと思う。
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No.217
長谷敏司 『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』 早川書房
コンテンポラリーダンスとSFとのコラボレーションが生んだ刺激的な意欲作。片脚を失ったダンサーがロボット義肢を得て、自らの表現を獲得する話だが、その過程でヒトにとって身体とはどのようなものかという問いが突きつけられる――作者にも読者にも。さらに作者自身の体験にもとづくと思われる老親の介護の問題も絡み、スリリングな読書体験となった。最後のダンスシーンのもたらすカタルシスも見事。
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No.216
久永実木彦 『わたしたちの怪獣』 東京創元社
前回の日本SF大賞の候補作となった「わたしたちの怪獣」。しかし、その真価は短篇集になって発揮された。怪獣、タイムスリップ、吸血鬼、ゾンビ。映画や小説などでお馴染みの題材が、人の世で生きる苦しみ優しさと合わさることで、新たな物語に昇華する。
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No.215
林田こずえ(作)YOUCHAN(絵) 『戯曲絵本 カラクリ匣』 小鳥遊書房
それは驚きだった。戯曲の脳内劇場が現れた。
小説は登場人物の対話や景観などについて描写されたり、ときには背景説明がされることが多い。しかし戯曲は基本的に対話や独白になると思われる。
そうなると、台詞各々の言い回しだったり、?!や小さい「っ」の使い方などから感情を読み取ったり、状況を想像していくことになるだろう。
戯曲絵本『カラクリ匣』は、戯曲を読みながら絵を見ながらページをめくるうちに、物語が立体的に形作られていき、脳内に舞台が現れ、台詞が演者によって語られる。
これは戯曲の新しい世界を見させてくれる一冊であり、新たな戯曲の楽しみ方を提案する書でもあると思われる。 -
No.214
蜂本みさ 「せんねんまんねん」 Kaguya Planet
人類はクソ。地球のためには早く滅びたほうがいい。以前の私はそうした台詞をよく用いていた。「せんねんまんねん」を読んでから、それができなくなった。
「大阪の人らは焼け野原で食べて寝て働いて、街をつくりなおして、通天閣も元どおりにしました。こないにえらいことができるのに、人間は戦争をよう無くさんほどアホなんか。百年で足りへんなら、もっともっと長い時間があればどないやろ。」
鶴ちゃんは厭世的な態度で責任逃れをはかろうとする私の前に立ちはだかり、人間の良い面を思いださせる。ちゃんと今を、人間を、まっとうしろよと叱咤する。諦めるなよ。投げだすなよ。お前たちならできるんだから。お前たちにしかできないんだから。
優しく厳しく突きつけられた希望を受けとった私は、「人類はクソ」という言葉に逃げられなくなった。苦しい。でも、読めてよかった。
本作に変えられた一人として、日本SF大賞に強く推します。 -
No.213
荒巻義雄 『小樽湊殺人事件』 小鳥遊書房
「SFする思考」を自ら標榜する荒巻義雄が、SF作家が出し尽くされたミステリーのトリックをさらにどのように組み立て直すのか、時空を超える思索に満ちた作品。ジャンルを越境する実験作としても注目すべきである。
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No.212
橋本輝幸(編) 『Rikka Zine Vol.1 Shipping』 Rikka Zine
ブラジル、中国、韓国、インドから集まった7作の翻訳小説と11作の日本語で書かれた小説、論考1作を収録した「あたらしいSFとファンタジーの雑誌」!
すごい執筆陣で、日本と海外の若手作家が競い合っています。キーワード「Shipping」は面白く、多くの意味を広げることができます。読んでいるうちに、自分も小さな船に乗っているような気分になってきました。日本版リリースと同時に英語版も制作され、中国語に翻訳された本格的に作品を海外に送り出した。出版社の企画ではできない、奇妙な一冊! -
No.211
坂崎かおる 「ニューヨークの魔女」 河出書房新社
「ニューヨークに魔女はいない」から始まるこの作品は、作者によれば一万字ほどの短編だということ。しかし、19世紀のニューヨークの電気椅子の騒動と不死の魔女とサーカスを組み合わせるというアクロバティックな設定は、その短さを全く感じさせない。歴史を材にとったこの物語は、それでも現代的なジェンダーの問題をとりこみながら、細部まで神経を張り巡らせた職人技のようなエンターテインメントとなっている。虚実が入り乱れる作品の構造は、まさにSF的な面白さを体現しているといっていい。昨年、久永実木彦の短編が最終候補に残ったことを考えると、このような上質なSF短編は今後もっと評価されてもよいだろう。
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No.210
相川英輔 『黄金蝶を追って』 竹書房
6つの作品からなる短編集。SFを中心にファンタジーや日常系のものを集めてあるが、どれも非常に質が高い。さらに、各短編の並び方が秀逸。最初呼び出した時は心温まるものだが、だんだんと雰囲気が変わっていき、最後は真逆のものとなる。単なる短編を集めたものではなく、それを集めた1つの構造としてのSFとして楽しめる秀逸な作品となっている。
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No.209
山田陽志郎 少年少女向けSF冒険小説『タイム・ウォール』 Kindle
第二次世界大戦の引き金になったある人物の暗殺をもし成功させていたら……という筋書き。その顛末をテレビ放映するという設定、どこか懐かしい雰囲気はレトロな感触がして大人や中高生にもおすすめしたい作品だ。 本作の特徴は徹底的な歴史考証である。決して子供だましではない緻密な歴史考証のうえで展開される物語には説得力とリアリティがある。ぜひとも若い読者にも読んでもらいたい傑作。
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No.208
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
クトゥルー神話と狂言の融合という画期的な作品です。邪神召喚の呪文は、翻訳ではひらがなで表記されますが、この呪文そのままが狂言独特の発声で唱えられるところは、思わず拍手してしまいました。大阪の堺が舞台となっていて、堺名物が登場するというくすぐりもウケました。こういうジャンルの異なる題材も狂言の舞台になるという、日本独自の芸能である狂言の懐の深さを感じました。最後の狂言のお約束の退場シーンが「サンチが下がる、サンチが下がる」「やるまいぞ、やるまいぞ」というのも大笑いです。というわけで、洋の東西、時代の変遷を超え、ジャンルの垣根も凌駕した唯一無二の傑作でありますので、ここに推薦する次第です。
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No.207
きみはら なりすけ(作)白獣MUGEN(絵) 『怪人家族の総選挙〜空想特撮小説〜』 つむぎ書房
本作は、「特撮ヒーローの怪人が現実世界に現れる」という内容のSFファンタジーであるが、怪人が実際に現れた場合、人権はあるのか?といった問題をシミュレートしており、最終的には、女神の力というファンタジーの力を借りながらも、実際に人権を訴えて選挙に出てしまうという作品で、ロボットや人工物の人権について、何度もシミュレートされて来たSF作品の中でも、新しい1ページを開いたエポックメイキング的作品であり、賞に値すると思いますので、ここに推薦いたします。
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No.206
伊野隆之 『ザイオン・イン・ジ・オクトモーフ イシュタルの虜囚、ネルガルの罠』 アトリエサード
本作は著名なTRPGの設定がベースにありますが、元のゲームを知らずプレイ経験がなくても読める作りになっています。勿論、物語の部分は完全なオリジナルです。伊野隆之の作品は、社会を動かすシステムを、極めて緻密に描くところに特徴があります。それは組織の構造を熟知した大人の視点であり、ゆえに物語は常に、情動の嵐ではなく、大人の知恵と論理によって難関が突破されていく。このような視座が徹底されているからこそ、ユーモアや笑いの部分が光るのです。情緒の表現が控えめだからこそ、硬質な文体の背後に滲む、純化された感情の煌めきが強い印象を残します。本作に登場する者たちは、知性化された動物や義体に精神を移した人間で、我々が生きる現代とは人間の定義が違います。精神の定義が違う存在を、違和感なく記述できるのは素晴らしい筆力です。主人公がタコであることを侮るなかれ。それこそが、この作品のSF的本質への導入部分なのです。
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No.205
監督:今石洋之 配信アニメ『サイバーパンク エッジランナーズ』 CD Projekt RED、Trigger
ある世代以上のSFファン(私も含む)にとって、サイバーパンクとは、八〇年代にリアルタイムで体験したムーブメントであり、既に古典の領域に感じられるものかもしれません。しかし、八〇年代以降に作られた数多の作品の中で、サイバーの部分ではなく、パンクの本質を追究した作品はさほど多くありません。『エッジランナーズ』は、そのど真ん中を突いた作品です。主人公は貧しく、社会の底辺に押し込まれ、他者からの暴力に翻弄され、自らも暴力を内包して生きるしかない若者です。かつてのサイバーパンク世界でお約束のように描かれてきた「裕福な日本」や社会を管理する側からの視点ではなく、下層の住民からの視点に、現代日本の現状が仮託されていることが、本作の最も評価すべき美点であると私は考えます。物語の結末で力強く謳われるのは、社会からの圧殺に抵抗する人間性の肯定です。これこそがまさに、パンクとしてのSFの本質ではないでしょうか。
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No.204
松崎有理 『シュレーディンガーの少女』 東京創元社
創元SF短編賞の最初期の受賞者として、松崎有理は、いま最も評価されなければならない作家だと考えています。扱う題材の種類を問わず、的確な科学的思考が保たれる作風、国内の同時代の新人作家の誰よりも早く「架空論文」の形式を採用した小説を発表した実績(二〇一一年)も含め、最新作に至るまで、その論理性に貫かれた作風が揺らがないことは称賛に値します。今回推薦する本作は、とても楽しいSF短編集です。特に、アンソロジー掲載時から大幅に改稿された「異世界数学」は、著者の書き手としての才能の見事な発展と開花が見られ、著者はこの作品によって「自分の作風にぴったりと合った演出方法」を完全に掴んだのではないかと感じています。松崎作品の特徴である「シリアス一辺倒ではなく、ユーモアも毒も風刺もあり、現実を軽やかに超えていく作風」を備えたSFが、日本でも、もっと増えてくれるとうれしいという期待を込めて本作を強く推します。
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No.203
須藤古都離 『ゴリラ裁判の日』 講談社
動物園で夫を射殺されたゴリラが裁判を起こす、という小説。荒唐無稽なようでいて1匹のメスゴリラの生を通して、わたしたち人類が「ヒューマニズム」と呼びたがる重く確かなものに触れることができる。SF的想像力の翼を得た新たな古典として今評価すべき1作です。思いのほか、誰も推薦してなくて驚きました。
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No.202
井上彼方、紅坂紫(編) 『結晶するプリズム 翻訳クィアSFアンソロジー』 『結晶するプリズム 翻訳クィアSFアンソロジー』編集部
世界中にクィアなキャラクターが登場するSF小説、クィアな作家によるSF小説が増えてきています。そうして現代の「今・ここ」のジェンダー・セクシュアリティにまつわる倫理観や価値観を別の角度から見据え、捉え直すSF小説が日本にも五篇、届けられました。企画編集翻訳のチームでクィアなSFを届ける最良のことばや手段を考え続け、出来上がった一冊は「日本の翻訳SF史を変えうるもの」だと感じます。
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No.201
伊野隆之 『ザイオン・イン・ジ・オクトモーフ イシュタルの虜囚、ネルガルの罠』 アトリエサード
ロールプレイングゲーム発祥のシェアワールド〈エクリプス・フェイズ〉の世界設定に基づいて書かれたとのことだが、ゲームの知識がなくても、たっぷり楽しめる傑作である。発展する太陽系経済、身体改造や精神のアップロードが日常化したポストヒューマンの世界で、遍歴を重ねていく展開。サイバーパンクの小道具や意匠も、散りばめられているが、漫才をきいているような面白さだ。細部を書き込み、緻密に描かれた世界は、これまでになかった希有な作品に仕上がっており、SF大賞に値する。
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No.200
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
伝統文化に新しい風を吹かせる作品。西洋文学の色も取り入れつつ日本昔話の「竜宮城」をベースに怪奇狂言へと昇華させている。作中では海外の面を使うなど、挑戦的な工夫も見られ飽きずに鑑賞できる。また別作品のクトゥルー狂言も見てみたい。
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No.199
津原泰水(作)宇野亞喜良(絵)Toshiya Kamei(英訳) 『五色の舟』 河出書房新社
第43回功績賞・津原泰水の代表作を、宇野亞喜良との共著として改めて世に問うた一冊である。
イラストは全て描き下ろし。ただ小説を飾るに留まらず、18点を費やし饒舌に物語を綴る。
本文は日英対訳。訳者はかねて津原作品の英語圏への紹介で信頼篤かったToshiya Kameiだが、国内流通書籍への起用は挑戦的な試みと言えよう。
津原によるオリジナルの小説、Kameiによる英訳作品、宇野によるイラストが、それぞれの表現でこの幻想の物語を語る一冊となっている。
美文の遣い手と称賛されることの多い津原だが、生前の言辞に見られるのは文章そのものを整えることへの執着よりも、如何に効果的に表現するかという腐心である。自前の文章はあくまで表現手段の一つだったのだろう。本書の企画立案は津原本人である。制作途上で彼岸に渡ったが、こちら側では彼が思い描いたおそらくそれ以上の美しい本が、見事出来と相成った。 -
No.198
ジュール・ヴェルヌ(著)石橋正孝、荒原邦博、三枝大修、新島進(訳) 『ジュール・ヴェルヌ〈驚異の旅〉コレクション』全五巻 インスクリプト
いわずと知れたSFの古典作家ジュール・ヴェルヌ。彼は〈驚異の旅〉と名付けられた六十作以上にもわたる長大な連作を書き上げた。だが、一部の作品を除いて日本ではあまり知られていない。本叢書では、そんな知られざる傑作たちを日本語読者に対して届ける野心にあふれたプロジェクトである。2017年から、六年の時間をかけて五巻を刊行し、完結した。
本叢書を読んで感じたのが、ヴェルヌの作品の『改変地学史SF』性である。当時の情報によって、北極や月、果ては太陽系の様子を細かく描いているが、もちろんそれは現代の科学的知識からは間違っている。だが、それは豊穣な『知的幻視』なのである。現代人とは、前提となる知識が違う分、想像力のスタートラインが異なり、描かれる光景は我々の知らない未知なるものとなる。現代の読者からしても、それは〈驚異の旅〉なのだ。『知的冒険エンタメ』としてのSFは古びることなく、驚異に満ちている。 -
No.197
オモコロチャンネル 動画「AIに謝罪文を考えさせた件について全てお話しします」 youtube
小説執筆用AIサービス「AIのべりすと」により生成された謝罪会見の台本に忠実に沿って演じるというYouTube動画作品。このシリーズは三作目であり、現実とは違う独自の世界観が作られている。ネット上の膨大な言語コーパスをインプットされ、言葉の類似性によって次々と文章を生成していく言語モデルは、一種の集合的無意識であり、そこから紡ぎだされる文章は『夢』である。本作はそんな『夢』であるはずの台本を、生身の人間が真面目に再現するというこれまでになかった試みであり、現実感がゆがんだような妙な感覚とともに、それを隠すような爆笑が腹の底から沸き起こる。SFでこれまでよく描かれた「理性的で論理的だが、頭が固くて人間の感情を理解できない」というAI像ではなく、「正確さも論理も無視して平気で流暢な嘘を無限に述べ続ける」という大規模言語モデルをもとにした新しいAI像が提示されている作品でもある。
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No.196
林田こずえ(作)YOUCHAN(絵) 『戯曲絵本 カラクリ匣』 小鳥遊書房
戯曲、と聞くと古典というイメージが強く、堅苦しく捉えられてしまうかもしれないが、愛らしい絵本として毒のある世界が描かれている。戯曲という文学作品が、上演以外のビジュアルを得て、未来の戯曲という文学を切り拓く一助となり得るだろう、そんな作品です。
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No.195
林田こずえ(作)YOUCHAN(絵) 『戯曲絵本 カラクリ匣』 小鳥遊書房
入れ子構造と鏡像と時間の経過、永遠に繰り返される月のない世界。それを壊す人形(機械)。ファンタジー/SFのガジェットをこれでもかとぶっこみ、作者の世界観をイラストレーターがこれでもかと世界を再構築する紙面の連続。平面であるはずの書籍が立体的に屹立する仕掛けで、まさにこの「本」自体が実験創作であり、こうした「戯曲絵本」はファンタジーとしても、今後類似作を産み出すであろう。SF的転換点として、強く日本SF大賞に推薦します。文字だけの作品でもない。漫画でもない。アニメでもない。ジャンルの越境/破壊こそ、SF的想像力そのものです。
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No.194
高野史緒 『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』 早川書房
えっ? 何? これっ? 一気読みさせる章展開と「もう一つの世界」と「記憶の複層」。そして、視点を司る人物と読者だけが知っている「封印された歴史」。そして映像を観ているかのような情景描写。北関東の訛り愛(?)。
これまでのSFジュブナイルやアニメ、歴史改変物など著者ならではのパースペクティブでぶち込んだ、美しすぎる物語だ。この作品以前と以後に明確にSF界が分かれるであろう、日本SF大賞に相応しい傑作である。 -
No.193
人間六度 「AIになったさやか」 早川書房
AIとSFの中でも妙だな〜と思っていた作品。最初読んだ時はよくある自堕落な大学生ものかと思ったが、読み返すたびに気持ち悪さが増してくる。SFなのにこんなリアルである必要があるんだろうか。。SF読みはこんな現実求めてないのに。推します。
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No.192
林田こずえ(作)YOUCHAN(絵) 『戯曲絵本 カラクリ匣』 小鳥遊書房
本書は YOUCHAN絵、高山宏解説という絶妙のコンビネーションで成る。ホフマンからキャロル、寺山修司、そしてリチャード・コールダーに連なる豪華絢爛幻想絵巻のBGMにはピンク・フロイドの「狂気」と ALI PROJECTの「コッペリアの柩」が鳴り響く。さまざまな潜在的可能性を秘めた才能の登場を祝福したい。
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No.191
結城充考 『アブソルート・コールド』 早川書房
今年の日本SF大会の恒例サイバーパンク・パネルでも称賛された結城充考「アブソルート・コールド」を一読し、まず思い出したのは、80年代末に石井聰互監督のロケハンに同行した時の川崎工場地帯だ。ギブスン日本上陸の際、サイバーパンク文体を決めた黒丸尚の「…」と通常の「?」の併用も独特な雰囲気。当時のミームは今も健在。頼もしい限り。
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No.190
須藤古都離 『無限の月』 講談社
須藤古都離の「ゴリラ裁判の日」に続く「無限の月」は、分身譚に見せかけて全ての予測を裏切る手腕が凄い。前半の中国における美男美女夫妻の写真撮影や日本において夫の浮気疑惑で迎える夫婦の危機など、全てが一枚岩ではいかない伏線なのだ。その回収と唖然とするほどのラストは見事というほかない。
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No.189
林田こずえ(作)YOUCHAN(絵) 『戯曲絵本 カラクリ匣』 小鳥遊書房
戯曲を絵本と共に届ける作品に初めて出会いました。私は普段お芝居をやっているのですが、戯曲を読んで、頭の中で絵を浮かべながら整理して物語を理解します。しかし、この本では、絵が描いてあるため、頭にスッと内容が入ってくる。読みやすさを感じました。
内容でいうと、トシアキ(A)がとても可哀想に思えた。孤独だから、自分で色々作ったのに、それをまた、自分の手で、全部止めてしまう。
物語の半分まで読んだ時、(60ページくらい)昨日のトシアキなのか、明日のトシアキなのか、
はたまたトシアキBなのか、
誰でもいいけど、
それもこれも全部見越して、
彼の孤独を救える結末になって欲しいと強く思いながら、ハラハラしていました。
わかりやすさと同時に、この後どうなるんだろうと次が気になる展開でした。 -
No.188
林田こずえ(作)YOUCHAN(絵) 『戯曲絵本 カラクリ匣』 小鳥遊書房
ストーリーが随分青くさいと思ったのですが、作家が若い頃に書いたものでした。自分も昔はこんな感じ方をしていたのかな?と思って体験しなかった過去に思い馳せることしかり。
YNUCHANさんのアートワークが素晴らしく、構図、線、彩色いずれも良く、特にテキストとイラストのレイアウトのバランスの妙にベテランの実力を感じました。
こうした美しい本を今後も世に送り続けていただきたいです。 -
No.187
新馬場新 『沈没船で眠りたい』 双葉社
現代社会と地続きの2044年の日本を舞台に、人間が担っていた役割の多くを代替するほどAIが発展した社会と、そんな社会で決して代替しえないものを描いた快作。来る可能性のあるディストピアを描いた作品であり、一つの事件に隠された謎を辿るミステリでもあり、2人の女性の絆を描いた人間賛歌でもある本作だが、何よりもチャット・生成AIを筆頭とした「人間とAIの付き合い方」の議論が活発になされるようになった2023年にこの物語が綴られたことに大きな意義を感じ、大賞に推薦しました。物語のラストは、まさに圧巻。
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No.186
春暮康一 『オーラリメイカー(完全版)』 早川書房
文庫本である完全版は単行本に収録された二篇を改稿し、さらに「滅びに至る病」が書き下ろしで収録され、用語集も追加されている点がまず異なるが、本書は単純な文庫化にはとどまらない。ページ数の増加もさることながら、単行本から今日までの四年間に作者が自身の作品に関するさらに深い考察を経た上での上での改稿がなされており、重要なのはその思想の変化ではないかと思う。
私は解説を書いた立場であるが、別にだから推薦する義務も義理もない。それでも本書を推薦するのは、その水準の高さ故に他ならない。ファーストコンタクトSFに分類されるとして、本書に示されている内容はそれにとどまらない。知性とは何であるのか、知性の器である身体とはなにか。本質的な問題提起は一読の価値があると思う。 -
No.185
作・演出:栗田優香 宝塚歌劇団月組公演『万華鏡百景色』 宝塚歌劇団
江戸から現代までの東京の変遷を、花火師の青年と花魁が辿る輪廻転生の恋と絡めて綴るレビュー作品。
現代の東京。少女は骨董屋の女店主から万華鏡を譲り受ける。少女が万華鏡を覗くと時代は遡り、花火が夜空に咲く江戸へ。花火師は恋仲である花魁に万華鏡を贈った際に彼女が身請けされるのを知る。花火師は花魁と共に逃げるが追っ手に殺されてしまう。万華鏡の付喪神は、輪廻転生を繰り返す花火師と花魁の恋を、変貌し続ける東京と共に見届ける。
江戸の花火、明治の鹿鳴館、大正の銀座、戦後の闇市、平成・令和の渋谷と各時代の東京がその当時を象徴する音楽とダンスで描かれていく。
花火師と花魁、フランス人将校と令嬢、闇市のドンと娼婦、そして渋谷のカラスと死の運命が迫る女と生まれ変わり続ける2人に待ち受ける運命とは。
人ならざる存在かつ時代の観測者でもある万華鏡の付喪神が、2人の不変の愛と変化し続ける東京という都市を観測していく。 -
No.184
結城充考 『アブソルート・コールド』 早川書房
同じ未来SFを執筆しているので、この作家の力量がわかる。センテンスの終わりに、過去形、現在形、体言止めを使い分け、リズム感とスピード感を出しつつ、ハードボイルド的な文体を完成させているところがいいと思う。巻末参考文献に、巽孝之+小谷真理・訳の『サイボーグ・フェミニズム』を挙げているのが嬉しい。
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No.183
大森望(編) 『NOVA 2023年夏号』 河出書房新社
日本SF史上初、女性作家によるSFアンソロジー。女性作家だけ注目するのは差別ではなく、今までの軽視や無視を補い、バランスを取り戻すためである。「男性SF作家アンソロジーは特に作らなくてもどんどん出てくるが、女性SF作家アンソロジーはそうではない」ことを多くの人に気づかせた一冊。無論、内容自体も非常に面白い。
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No.182
横山旬(作画)劉慈欣(原作)Golo(キャラクター原案)未来事務管理局(監修) 『神様の介護係』 KADOKAWA
劉慈欣作品が初めて日本で漫画化。日本独特の審美眼により、中国SFの表現の可能性がまた拡大された。中国でもネットで掲載され、コミックの中国語版も発売される予定。日中のSFが相互に影響し、共に良い作品を作り出す事例の一つである。今後も似たような交流が増えていくことを期待し、この作品を推薦する。
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No.181
陸秋槎(著)阿井幸作、稲村文吾、大久保洋子(訳) 『ガーンズバック変換』 早川書房
中国で初めて世界SF大会が開催された年に刊行の「中国発、日本SF」。
私が思うジャンルSFの最大の魅力のひとつに、先行作品へのリスペクトと、それらを継承して新たな傑作を生み出していく文化が挙げられます。本書はその連綿と続く文学史の最先端に属する、実り豊かな成果の筆頭です。日本在住の中国人作家が、日本のSFや漫画、アニメやゲームの知識を幅広く吸収したうえで、ミステリや世界文学とも接続しつつ中国語で書き下ろした、日本オリジナルのSF短篇集。『三体』邦訳版へ解説も寄稿した俊英による、国境を越えたSFの実践がここにあります。個々の作品の面白さは言うまでもなく、たとえば表題作は「ネット・スマホ依存症対策条例」が施行された近未来の香川県民による大阪観光SF。鋭くユーモラスな諷刺と、時代を問わない青春の輝きが胸を打ちます。
本書は翻訳小説です。だからこそ、選考の俎上に載せるべき作品として強く推薦します。 -
No.180
高野史緒 『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』 早川書房
日米を定期的に往復する生活に入って2年。この夏休み直後の再渡米では、旅の友は高野史緒「グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船」。著者ゆかりの茨城県土浦に1929年にドイツの飛行船が訪れたという史実を、2つの時間線から再解釈する。今はなき何かと誰かへの思いを合理的に実体化しようとした本書は、真のSF作家でなければ不可能な秀作だ。
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No.179
長谷敏司 『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』 早川書房
長谷さんが何かファーストコンタクトものの大作を準備しているという噂はかねてから耳にしていた。それが本作であった。確かにファーストコンタクトものには違いないが、それだけにとどまらない深みというか問題提起がある。親子も含め、人は外界を如何に認識し、理解し、関係性を構築するか。それを考えさせてくれる。
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No.178
田中空 『未来経過観測員』 Kindle
少年ジャンプ+に連載された「タテの国」の作者のよる初の長編小説。長期睡眠により100年ごとに目覚め5万年を定点観測する主人公モリタ。目覚める度に予想もしないことが次々おきていて、ついにはとんでもない時空の彼方までひっぱられ連れて行かれます。あとがきによると、「AIがこの先どうなるかを、著者の勝手な想像で果てしない未来まで書いたのが本作」とのこと、オススメします。
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No.177
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
2022年10月22日に堺能楽会館で上演された創作狂言で、ラヴクラフトのSF小説「クトゥルー神話」をふまえ、日本の古典芸能の表現様式で翻案しようという着眼がまず面白い。かつて手塚治虫が「火の鳥」の「羽衣編」で、COM に初出(単行本化のさいにはセリフが障害者配慮を求められて全吹き替えにて変更されていたもの)の折に羽衣伝説を下敷きにしつつ、未来世界で放射能により人々が異形となったという設定のSF仕立てを狂言の趣向で描いていたのも彷彿とさせる。欲心をさらけだす玉手箱の争奪戦、その滑稽さに浅ましく悲しい人間の性と非力さを感じる。<龍宮の使い>として海底より出現し、神の如く圧倒的な力をもって畏れさせる正体不明の存在を、この世ならぬもの、クトゥルーに置き換え、高貴な女性の能装束にインドネシアの異形の面(恐ろしくも愛らしい!)で姿を現すところも素晴らしい。ぜひ海外でも上演して欲しいものである。
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No.176
荒巻義雄 『小樽湊殺人事件』 小鳥遊書房
評論集成『SFする思考』で前年度のSF大賞を受賞した、荒巻義雄の「メタ・ミステリー」である。実際の港湾商都小樽をもとに構想された架空の都市「小樽湊」の昭和二十二年から平成十六年にいたる時代を背景に、大仰天の密室殺人トリックや暗号解読などで推理小説の王道を行く作品に仕上げているのは、「ミステリーの女王」アガサ・クリスティへのオマージュでもありさすがだ。では何がメタ・ミステリーかというと、この本格ミステリーにSF作家ならではの〈湊フロンティア計画〉という近未来のメタバース世界の構想を盛り込むなどして、論理で閉じる〈ミステリー〉と空理も許す〈SF〉の越境を考えているようでもある。「SFする思考」を実践して、伝統的な本格ミステリーの豊潤な将来をも射程に捉えようとしている本作を、今年度のSF大賞に推薦する。
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No.175
高野史緒 『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』 早川書房
飛行船、並行する二人の運命、映像が目に浮かぶような描写。これまでの作品と本当に同じ著者かと思うほど軽めの文体で書かれており、作風の幅広さに驚かされる。王道のストーリーに見えて、綿密に練られた仕掛けには意外性も。コアなファンだけでなく新しい読者層を獲得できる力のある作品という点で日本SF大賞にふさわしいと考え推薦します。
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No.174
永田礼路 『螺旋じかけの海』 同人誌・Kindle
人間を人間たらしめるものはなにか?どこまでが人間で、なにが、どこまで違っていたら人間ではないのか?という深い問いを投げかけてくる漫画です。作者の本業が医師ということで、作中の医学・科学的な描写に非常に説得力があることが、この漫画の面白さを支えていると思います。まさに「サイエンス・フィクション」と言うに相応しいのではないでしょうか。
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No.173
迷子 『プリンタニア・ニッポン』 イースト・プレス
『プリンタニア・ニッポン』は、主人公の佐藤が生体プリンターで犬を出力しようとしたところ、何故か餅に手足と素朴な顔がついた生物【プリンタニア・ニッポン】が出力されてしまったことから始まります。
この作品の面白さは、ポストアポカリプスの日常を描いているところです。
導入からして生体プリンターって何?と思い、そこから【夜時間】【評議会】【監視ネコ】【開拓行き】等、読者にはわからない単語がさり気なく飛び交います。けれど主人公たちにとっては日常なので特に説明はされません。
読者は【旧人類】に何が起こったのか【現行人類】がどうやって生まれたのか考察すると共にプリンタニアかわいいなぁとほのぼのできる稀有な作品です。
【Big CAT is Watching you】 -
No.172
久永実木彦 『わたしたちの怪獣』 東京創元社
昨年の最終候補となった表題作に既作一篇と書下ろし二篇を加えた作品集である。怪獣パニックを個の視点で描き、そこに生じる認知バイアスとその悲哀を描ききった表題作の素晴らしさは元より言うまでもないが、こうして一冊にまとまることでテーマがより明確になった。各篇の主人公は社会というシステムの中で個人を否定された者たちである。彼らは日常に苦しめられながらシステムを破壊してくれる非日常に焦がれており、果たして現れた非日常の存在(怪獣、違法な時間移動、吸血鬼、異次元のゾンビウィルス)に救いを求める。しかし同時にシステムの破壊は彼らを傷つけもする。救済と苦しみが綯い交ぜになって訪れるクライマックスはカタルシスに溢れつつ人間存在に対する多角的な問いかけでもある。収録作すべてがバッドエンドであると共にハッピーエンドでもあるのだ。SFによる人間表現を高く押し上げる歴史的名著であり受賞による凱旋を切望する。
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No.171
冬木糸一 『「これから何が起こるのか」を知るための教養 SF超入門』 ダイヤモンド社
古典から現代までSF小説を紹介した入門者向けガイドブックです。ガイドブックは複数人で書いたものは多数ありますが個人で書いたものはおそらくかなり久しぶりのことで、切り口も現代の文化やテクノロジーを通して作品をあらためて評価し直すという新しいもので、2023年ならではのSF関連本だと思いましたので、推薦いたします。
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No.170
藤村緋二(漫画)眞邊明人(原作) 『もしも徳川家康が総理大臣になったら〜絶東のアルゴナウタイ〜』 秋田書店
タイトルからわくわくする設定で、現代日本の政治家に足りていないリーダー力を持つ歴代の偉人達が蘇り、政治を行っていくことで、日本を蘇らせていくストーリー。歴史好きの方も、そうでない方も子供からお年寄りまで、読むことが出来、未来に希望をみることができる作品。
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No.169
高野史緒 『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』 早川書房
本作は、青春SF小説として読んでももちろん間違いではなく、その点でも傑作ではあるのですが、物語の根幹は実は宇宙論SFとしても成立している作品です。こうした形で宇宙論SFを成立させてしまうというのはやはり稀有な才能の産物と思います。
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No.168
藤村緋二(漫画)眞邊明人(原作) 『もしも徳川家康が総理大臣になったら〜絶東のアルゴナウタイ〜』 秋田書店
別冊ヤングチャンピオンで連載中の「もしも徳川家康が総理大臣になったら〜絶東のアルゴナウタイ〜」を推薦します。
コロナ禍の日本を舞台に最新AI技術によって現代に甦った徳川家康が日本を建て直すべく総理大臣になる。。。といったストーリーとなります。
徳川家康の他にも、坂本龍馬、織田信長、豊臣秀吉などを率いて最強内閣を作り行われていく政治劇はまさに痛快の一言です!
ストーリーもさることながら政治や歴史、武将に詳しくない人にも楽しめるような演出、解説もあり、少年漫画的に展開される場面、青年誌ならではの重厚な演出で展開される場面などエンタメ性にも富んでおり
思わず心動かされるセリフもたくさんです。
個人的には全ての政治家に本作を読ませたい気持ちです。
そして多くの日本国民にも読んでほしい!
みんなでこれ読んで日本のこころを取り戻しましょう! -
No.167
聖悠紀 『超人ロック』 KADOKAWA
50年以上描き続けられたSF漫画。超能力者ものという括りで紹介されやすいのですが、実は派手な超能力戦以上に大河ドラマのような壮大な物語と唯一無二のSFメカ描写は追従する者が居ないとも感じます。そうして人の愛を描くからこそ長年に渡ってファンを離さず増やし続ける理由です。私も気が付けばファンになって50年、今なお魅せられています。
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No.166
株式会社カラー(編) 『プロジェクト・シン・エヴァンゲリオン -実績・省察・評価・総括-』 グラウンドワークス
「シン・エヴァンゲリオン」というSFプロジェクトがいかに為されたかを詳らかにした報告書でありつつ、プロジェクト遂行記録という概念をこのあとに立ち上げることを志向したSFプロジェクトでもある。
自らのプロジェクトを能動的に遺跡化してみせることで、世界には、遺跡化可能でありその価値もありながら未遺跡状態なものばかりであることをも示してみせた、とでもいおうか。
無論そうした試みは行われてきたが、これまでのやり方は十分に機能していないため改めて仕切り直す、という総括もこの報告書には込められている。実際、現状はその試みが機能した世界にはなっていない。
その現状を鑑みて「このあとからは、これがなかった以前の世界が想像できない」を能動的に行うプロジェクトであり、現実世界のなかで実現する一抹の可能性を感じる。というより、この世界はそれを実現させることができるかを改めて問い直した作品であるため推薦する。 -
No.165
聖悠紀 『超人ロック』 KADOKAWA
どこから読み始めたらいいの?そう言われる作品、他にありますか?
聖悠紀原作【超人ロック】は1967年肉筆同人誌から誕生しました。
再生を繰り返し年齢も性別も自在に時を越え人々の前に現れる【超人】ロック。作品の発表が年代順ではないため読み手は混乱します。それすら遊びにして描き続けられた作品が【超人ロック】です。
この作品はその後の超能力マンガに多大な影響を与えました。物語もアクションもとにかくクールでSF彩る宇宙船やメカのデザインも秀逸で全く古びません。
【超人ロック】は主人公が巻き込まれたり自ら飛込み事件を解決する話だけでなく宇宙に拡がる人類の興亡史でもあります。その中で不死故に生き抜かないとならない主人公の悲哀やどこに彼は生の糧を得て未来へ進むのかを読みとく楽しさを知っていただければ幸いです。第44回SF大賞推薦いたします。 -
No.164
冬乃くじ 「サトゥルヌスの子ら」 note
https://note.com/fuyunokuji/n/n666d736f67ea
ごく私的なことではありますが、近年これほどわけもなく心を揺さぶられた作品は記憶に無く…なので推薦文もうまく書けるわけが無くて、なんとももどかしい…!
でも、とにかくもっと多く(世界中)の人に読まれて欲しい、いや、読まれるべき作品(べき、とかあまり使いたくないのですが…)だとの思いと、この作品が世界水準の音楽SFであり、時間SFでもある、まさしく日本SF大賞に相応しい傑作だということが推薦の理由です。 -
No.163
メディア〈anon press〉 anon press
https://note.com/anon_press
昨年発足したanon pressは、毎週SFを中心に作品を発表しており、小説に限らず、漫画、詩などを掲載してきた。同人出版などとは違う形でのインディー的な活動となっており、新人も多数輩出されている。出版誌などでは掲載されないような前衛的な作品も多く、また独自のコンテストを開催するなど、今後のSFへの貢献も期待できるため推薦する。 -
No.162
相川英輔 『黄金蝶を追って』 竹書房
この作品集はSFというジャンルからは少しはみ出していて、ファンタジーからもはみ出している。だからといって中間小説とも呼べなさそうだし、ホラーや時代劇の要素も含まれている。ジャンルを振り切っているようで、振り切っていない。文章は透明度が高いのにジャンルは曖昧。こういった小説はどれだけ面白くても日本の公募文学賞などでは通らないだろう。それが海外で先に評価されたというのは多様性を受容する文化がすでに醸成されているからだろうか。
多いとはいえない私の読書歴の中で、類本は思いつかない。日本でも今後このような曖昧な(だけど抜群に面白い)作品もSFとして受け入れられてほしい。 -
No.161
藍内友紀 『芥子はミツバチを抱き』 KADOKAWA
人身売買、紛争に利用される子どもたち、書かれているテーマは重いが文章の巧さでぐんぐん読まされてしまう。架空物語でありながら、これはわたしたちの世界の話じゃないかと思わされる。イェリコは、フィロメーナは、あなたの近くにいるあの子かもしれない。今日も世界のどこかで戦う子どもたちのことを考えずにはいられない。
【単行本】芥子はミツバチを抱き【試し読み】(藍内 友紀) – カクヨム (kakuyomu.jp) -
No.160
高野史緒 『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』 早川書房
久保田万太郎の書く浅草は実在の浅草ではないと石川淳は言った。高野史緒の土浦はどうか。これは記憶とデジタルとフィクションと人のからだの重みが混じった、そういう「在る場所」なのだ。デジタルであるから少女も少年も浮遊する。だがその揚力を支えるものは、これを書きたいという作者のからだであり、文字に目を走らせる読者のからだなのだ。身体、身体。この小説はからだの内奥の鈍痛やそれを読むものの微妙な居心地の悪さや佃煮屋やソ連といった、アンチ・デジタルな地平にひらけてゆく。グラーフ・ツェッペリン号を見上げる顔々のあいだを縫って、この世に今はいない遠い人の声が伝わってくる。わたしのからだにたしかに残る彼らのぬくもりも。
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No.159
久永実木彦 『わたしたちの怪獣』 東京創元社
表題作の短編が昨年の日本SF大賞の候補作となったことは、まだ記憶に新しいところですが、今度はその短編を収録した短編集です。収録された四篇は、昨年の短編一作よりも著者の力量がより明確になったように思います。
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No.158
高野史緒 『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』 早川書房
自薦になりますが本作を日本SF大賞に推薦させていただきます。本作は幾多の手練の読書家の方々より「このアイディアは見たことがない」と言っていただいており、今後、この系統の作品を書く方は本作を無視することはできないでしょう。作品の出来という意味でも、感動したという感想をたくさんいただいており、自信を持って自薦できます。ご一考いただければ幸いです。
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No.157
谷口裕貴 『アナベル・アノマリー』 徳間書店
力が強すぎるが故に殺された超能力者アナベルが遺した呪いは、繰り返し世界を変容させ甚大な被害をもたらす、その呪いに対処する人々を描いた連作短編集。超能力による変容の描写を顕現させる側からではなく見せられる視点で描くことで、読者は語り手と同様にその力が見せる光景に対峙させられる。超能力描写のみならず印象的なディテールに満ちた文章を読んでいると、普段目にするありふれた世界を構成する感覚ひとつの中にも、未知の意味の広がりが潜んでいると気づく。なんてことのない小さなものが印となってそこから果てしない呪いが立ち現れる。「物語」はそれを調伏しようとするが、それが新たな混沌を招く。そのような世界の中で人々は営みを絡ませながら、各々が固有の使命へと導かれていく。圧倒的な現実へと目を開かせつつその中で生きていく気力も付与されるような、未曾有の力を持った作品として日本SF大賞に推薦する。
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No.156
Sound Horizon story BD『絵馬に願ひを!』 ポニーキャニオン
人の生の起伏を題材に、独自の物語音楽を紡ぎ出してきたSound Horizon。ナンバリングされたパッケージの7.5th or 8.5th story BDとしてリリースされたのが、『絵馬に願ひを!』である。
現代日本に似た世界で、反出生主義やLGBT +、障害、震災、様々なかたちの暴力など、多様性の果てにある孤独、孤独から生まれる新たな多様性が描かれ、リスナーが物語の解釈を選択すると、その後の展開や登場人物が変わってくる仕様だ。
主人公の二人の少女は、それぞれ星空を見上げ、生まれたのが自分ではなく、双子の片割れの方だったら良かったのにと思いを巡らせる。星を見て星座を描くように、人の生を平面的な物語として捉えることは、たとえそれが祈りや願いといった感情でも、傲慢なことなのかもしれない。「解釈」の分岐があるにすぎないこの作品は、新たな社会思想や倫理に対して、創作からのいらえでもある。 -
No.155
聖悠紀 『超人ロック』 KADOKAWA
超人ロックは、のちに「ニンバスと負の世界」とサブタイトルが付く第1作が1967年10月に作画グループの肉筆回覧誌で発表されて以来、今年最終話が雑誌に掲載されるまで50年以上に渡って描き続けられました。
主人公は強大な超能力を持ち永遠に生き続けますが、それまであったようなSF作品とは違い、超能力を持っていても万能ではなく、普通の人間と同じように悩み、ときに感情に流されて間違いを犯し、彼は「たとえ特別な能力を持っていたとしても、できることはほんのわずかしかない」と言います。
こんな主人公はそれまでなく、私は約40年前に初めて出会ったときからすっかり虜になってしまい、今でも彼を追いかけ続けています。
この作品がSFの歴史を変えたといっても過言ではないでしょう。 -
No.154
聖悠紀 『超人ロック』 KADOKAWA
有り得べからず事象が生じた。作品が発表されてから50年強、終わりはないとされていた作品が、ひとつの終局を迎えた。作中世界内の歴史の変遷の中で、ある時は悩み苦しみ、またある時は希望と共にあったロック、彼の今まで語られなかった思いの一端が初めて吐露され、ひとつの幕が下ろされた。
世の人に影響を及ぼした作品は数あれど、こと日本SFに関しては筆頭に挙げても過言ではないだろう。SF史に、また様々な方の人生にすら影響を及ぼしている作品を、まだ未読の人は幸せである。様々な超能力によるアクションを初め、宇宙船、連邦•帝国、電脳空間、異空間、その他あらゆるSF要素が詰め込まれた作品をこれから経験できるのだから。
『SFファンとそうでない人に』 作者の言葉が全てを表している。SFの醍醐味がここにある。 -
No.153
聖悠紀 『超人ロック』 KADOKAWA
超能力を持ち少年の姿をしたロックが、1500年にも及ぶ壮大な時間の中で、宇宙開発時代から宇宙移民、惑星戦争など、SFジャンルのあらゆる要素が盛り込まれた物語において、人々を愛し、持てる限りの力を使って奮闘する姿は、読者を魅了し続けています。
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No.152
山田胡瓜 《AIの遺電子》シリーズ 秋田書店
避けては通れなくなっているAIとの共存の世界。もはや創作の世界までも優秀な作品を生み出すことが出来てしまうAI。どこまで共存することが人間にとってベストなのか。逆にAIにとっての世界はどうなのだろう。もしAIが「こころ」や「感情」をも所有して「愛」すら育み家族として生きていくこともありえてしまう未来が見えてくる。そんな近未来を描くこの作品シリーズは「AI」として生きる苦しみや悲しみ、共生していく人間たちのささやかな悲しい感情がストーリーの中で描かれていく。胸の詰まる結末を迎えることもあるけれど私ども人間が「感情」があるということを再認識する読後感がたまらなく愛おしく皆さまに味わってほしく、推薦します。
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No.151
吉田棒一 「俺太郎」 anon press
https://note.com/anon_press/n/n841bf1f8530f
森羅万象は自分であり、また自分は森羅万象でもある。路傍の石は私でも仏でも、そこにいる牛でもあり、また、そうではない。
己事究明の極地に達した禅の修行者は、万物が自分だという認知に至るらしい。宇宙的思想の一端に驚くべき文章で触れたのが本作だ。作中には、様々なひろし、様々なさとし、やがて冷蔵庫やタコ伝説など森羅万象を担うオブジェクトが混然と登場する。歯切れ良い文体が生んだ物量のグルーブは、限られた分量のなかに「すべて」があるように錯覚させる………読み手に、すべてを感得させる。稀に見るスケールの怪文書である。
さて、修行は続く。全てがわたしと悟ったつぎは、万物から自分を解き放つ段階が待つという。何もかもが同じでありながら同じでないと提示しているかに読める本作は、その境地にも既に達しているのではないか? -
No.150
立川わんだ 落語CD『立川わんだの世界vol.2』 CURELLE RECORDS
SF落語家・立川わんだ師匠の新作落語CDです。
第一弾は古典落語の改作でしたが、第二弾は新作落語かつSF落語です。
「パラレルワールド大混乱」「サイボーグ馬物語」「犯罪未然防止法」「大山エッチラオッチラ」「タイムマシン騒動」の五席です。
SFファンだけではなく、一般のお客さんにもウケるようなソフトなSFですが、SFマニア向けのギャグも散りばめられてます。
落語でSFをやろうと頑張っておられる立川わんだ師匠の落語を、もっと皆さんに知って頂きたいと思います。CURELLE0046-2 立川わんだの世界Vol.2 https://amzn.asia/d/02ZYbHQ
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No.149
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
クトゥルーって何?狂言って堅苦しくて難しくない?と思うかもしれませんが、私もそんな一人でしたが、観てみないとわからないからとにかく観てみよう!と鑑賞☆(~_~)
“人の心の奥底にある愚かさ”をテーマに、2019年に完成した幻想映画『龍宮之使』を元にした狂言で、思っていたよりもわかりやすくて、ちょっと笑っちゃったりして、楽しく観ることができました☆
クトゥルーの世界と狂言との融合、SFと狂言の舞台の映画って、とても斬新ですよね!
知らないものを知る、新たな扉を開け、受ける刺激の心地好さ♪
是非ともたくさんの方に観ていただきたい作品です♪
オススメです!(~_~) -
No.148
林田こずえ(作)YOUCHAN(絵) 『戯曲絵本 カラクリ匣』 小鳥遊書房
孤独な少年が主人公となる暗黒童話のような独特な世界観に引き込まれました。絵柄も可愛いですが、不思議と作品の世界観とマッチしていて想像力を掻き立てられます。全ページにイラストがある戯曲という形式も新鮮で面白いです。
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No.147
うにか ゲーム『ストリガ』 トゥールモンド
「生きるのは、きっと素敵なことだから」
人の苦痛を喰らう怪物、『ストリガ』。彼らは社会を持ち、人間社会を侵略する…。舞台は1920年代アメリカだ。
現実から分岐した世界を描く架空戦記や「スペキュレイティブ・フィクション」もSF。「ストリガ」は、SF大賞を受賞した「大奥」に通じるゲーム作品である。
前作は怪物の中の階級制を描いた。
今回は人間の少女に焦点が当たる。
彼女の村は侵略され、劣悪な収容所のごとく非人道的な人間牧場に送られる。
注目すべきは村に帰ったあとだ。
以前の天真爛漫な少女には戻れない。
自分だけが変わってしまった恐ろしさ。
想像力によって緻密に描き出される恐怖はケッチャム作品のようだ。
それでも、「生きるのは、きっと素敵なことだから」と締めくくる。
空想と現実の間にある作品として評価したい。ストリガ(Striga)
https://onl.sc/hbEPg2U -
No.146
高野史緒 『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』 早川書房
『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』は、1929年に飛来したというツェッペリン伯爵号の史実を核に据えたスチームパンクSFであり、主人公の夏紀と登志夫のガールミーツボーイ物語であり、マルチバース、AR、タイム・リープなどのガジェットをふんだんに盛り込んだ、珠玉の青春SFである。
パソコン通信がやっと広がっていくような2021年世界と、光量子コンピューターの実現が近い2021年世界間の干渉を、作者はファンタジックに読者に見せてくれる。特筆されるのは、それほど有名でもない土浦という一地方都市の過去と現在を克明に描く作者の土浦愛であり、それがこの物語に厚みを与えるとともに、読者のノスタルジーをも刺激する。令和版『時をかける少女』と呼びたい本作を日本SF大賞に強く推薦する。 -
No.145
大木芙沙子 「二十七番目の月」 Kaguya Planet
わずか一万字の短編だが、この小説を読む前と読んだ後では世界の見え方が一変する。好きな作家がSNS上でこの作品を褒めており、それがきっかけで読んだ。普段あまりWebに掲載されている小説を読むことはないのだが、思った以上に読みやすく、読みやすいのになぜか異常に心に残る作品だった。妻の秘密から暴かれていく世界の秘密がごく個人的な物語として語られ、その壮大さと美しさに圧倒された。物語の突飛さに比して、一見すると特徴のない文体だが、よく読めばひとつひとつのワードや展開、仕掛けに作者のセンスが光っている。
この作品をきっかけにして、Webにある小説も今後は読んでみようと思うようになった。恥ずかしながら、これまで私はWebにある小説をどこか見下していたのかもしれないと反省した。私のような長く紙に親しんだ人にも広く薦めたいと思い、推薦した次第である。 -
No.144
荒巻義雄 『小樽湊殺人事件』 小鳥遊書房
自作品の推薦も許容されるはずなので、自薦します。この作品はミステリーですが、架空都市を舞台にした自己言及的なメタ・ミステリーです。犯人当てやトリック重視の伝統的ミステリーの前に立ちはだかる、〈やり尽くされた壁〉を回避する方法はあるだろうか。そのSFの側からの解決策として、ミステリーを構造として捉えなおしたとき、あらたなものが生まれるかもしれない。そういう意味では、一種の実験作と言えます。小鳥遊書房刊
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No.143
高野史緒 『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』 早川書房
たとえば、『耳をすませば』などの宮崎作品、その他の青春SFと同じ雰囲気の作品で、将来、アニメの原作になりそうな気がします。しかし、この作品は単なる青春SFではなく、SFの思想に精通した作者が、SFの本質的構造をしっかりと捉えた作品だと思い推薦します。今後の「SFの浸透と拡散」を考えた場合、戦略的作品としても評価できると考えます。早川書房刊
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No.142
村上春樹 『街とその不確かな壁』 新潮社
以前、ノーベル文学賞のカズオ・イシグロ氏のロボットSF『クララとお日さま』を推薦したことがあるが、この作品の構造もSFであることはまちがいない。村上氏はノーベル賞候補作家だが、SF小説が一般文学に限りなく接近するとすれば、このようなスタイルになるだろうと思う。つまり、かつて言われたSFの拡散が、すでに現実化しているということである。新潮社刊。
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No.141
新馬場新 『沈没船で眠りたい』 双葉社
百合SFと聞いて読んだが、まるで騙し討ちされた気分になった。とんでもない劇薬だ。
本作は現代日本の延長線上にある2044年日本を解像度高く描くばかりでなく、機械の打ち壊し運動や、人間の失業問題、教養の価値低下を通し、読者に「こんな世界、君はどう思う?」と問いかけてくる社会派SFだ。ディストピアを描くSFは多くあるが、この作品は今後のベンチマークになると言えるだろう。特に“日本を舞台にしたディストピア小説”としては傑作の域だ。それほどまでに作品世界に説得力がある。ミステリ仕立てのストーリー構成も良くできている。多くの人に読んでもらいたい。 -
No.140
山田宗樹 『ヘルメス』 中央公論新社
『百年法』の山田宗樹の新作とあれば読まないわけにはいかない。2029年の小惑星衝突を寸でのところで回避した人類は、地底3000mの実験都市を建造した、というのが本作のあらすじ。SFらしいアイディアの大きさと、手に汗握るスピード感はたまらないものがある。途中、小惑星が再接近し、物語は宗教や倫理的な話にも合流するが、そこがまた考えさせられる。世界が滅びて欲しいと願う若者と、生き延びたいと願う若者。その衝突。これぞ山田宗樹!といった手触りの物語。多くの人に読んでもらいたいエンターテインメントSFの傑作だ。
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No.139
結城充考 『アブソルート・コールド』 早川書房
バイオテック企業が牛耳る高層都市を舞台に、ミステリ的な結構で読ませるサイバーパンクSF。研ぎ澄まされた文体と、街とテックのディテール、ぐいぐい読ませられるアクションシーンと、キャラクターたちの関わりが愛おしい、傑作SFです。
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No.138
結城充考 『アブソルート・コールド』 早川書房
大企業・佐久間種苗で121人もの死者を出した細菌テロ。事件を追う、コチ、クルミ、ビトーの3人の主人公。年齢も職業も違う3人それぞれの視点で描かれていくサイバーパンクストーリー。進化する人工知能や自動機械、そしてそれらの技術に依存している主人公たち人間。彼らが最後はどういう選択と決断をするのか、終始楽しめる作品です。過去の作品『躯体上の翼』の流れも汲んでいる世界観ですが、明確に続編というわけではないので過去作を未読でも、しっかり楽しめます。
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No.137
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
龍宮の乙姫と玉手箱にまつわる話を、狂言で分かりやすく表現されています。
この玉手箱、呪文を唱えると願いが叶うという代物、ただ、この事を誰にもしゃべることが出来ないという縛りがあり、また呪文は、全く覚えにくい長ったらしいもの、それを知った登場人物たちが、あれやこれやと、楽しませてくれます。
狂言なのに、現代の私達に人の業(ごう)を感じさせてくれる楽しいものとなっています。 -
No.136
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
クトゥルフ小説は好きでよく読んでおりましたが狂言にはあまり馴染みがなく、楽しめるかしらと若干の不安を抱えつつ鑑賞させて頂いた作品です。
狂言の型にはまった動きとクトゥルフ小説独特のお約束が見事な融合を果たしていて驚きました。特にクトゥルフの呪文が狂言の言い回しに妙にハマっているところが楽しい。とても面白い作品でした。
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No.135
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
西洋における神や人間の価値観から生まれたクトゥルー神話の世界観を、日本の古典芸能である狂言の世界観と上手く溶け込ませた作品です。650前の室町期の芸能である狂言は、神や精霊、また人間の本質に目を向けて作られた喜劇仕立ての滑稽劇です。この狂言の持つ鋭利な刃物のように心に刺さる人の穢れの本質と、今回「龍宮之使」で描かれる人の卑しさというものが、SFであり狂言なのだけれども、現代劇のようにリアリティを持って描かれているところを見逃してはいけないと思う。
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No.134
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
SFと狂言という全く異なるジャンルが時間の壁を超えて、奇跡的に融合した注目作。幽玄なる雅の調べの中に、科学的な手触りの表現が不思議とマッチして、見るものを驚愕させる事必至。このファンタジックな世界観にしばし現実を忘れて耽溺していただきたい。
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No.133
任天堂 ゲーム『Splatoon3』 任天堂
人類崩壊後の頭足類たちの世界を背景に、多人数TPSというジャンルのゲームデザインの革新を重畳させた傑作の3作目。2作目のダウンロードコンテンツ「オクト・エキスパンション」で、それまでフレーバーとして抑えてきたSFとしての本性をむき出しにした本シリーズは、今作のストーリーモード「哺乳類の帰還」でさらなる発展を遂げる。人類の後継者であり、知性の在り方が異なる2種類の頭足類たちがお互いを認め合い、体制的で時代を戻そうとする哺乳類の残滓に気付き、協同で抗う。与えられた価値観に抵抗するSF伝統のパンク精神と、異なる価値観が共存する混沌を受け入れるSFの寛容さの両側面を保ちつつ、カジュアルなデザイン、アクションゲームとして楽しめる基礎は忘れない間口の広さを持つ。ビデオゲームを媒体とした「体験するSF」の成功例として評価されるべきであり、「SFの歴史に新たな側面を付け加えた作品」と評されるべき作品。
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No.132
太ったおばさん 『出会って4光年で合体』 同人誌
○○でないと書けない作品、という物がある。
空欄の中に埋まるのは、例えば国であったり、その人の特性であったり、媒体であったりする。芥川賞の受賞が記憶に新しい。その点において本作品は、紛れもなく「日本SFという土壌がなければ成立しなかった作品」である。
人の一生、関わり合う物たちの人生、そのまた親たちが紡いできた歴史、民話、そしてこの地球の始まりと終わり。視点のスケールを自在に変えて類似構造を提示し続ける手法は、日本SFが得意とするセカイ系の手管そのものだ。
さらに本作品は成人男性向けの漫画である。そのような作品が受容されうるのは、悲しいことに全世界を見てもそう多くはない。
だからこそ、他でもない日本だけでも、本作品を評価するべきだと私は考える。 -
No.131
宮野優 『トゥモロー・ネヴァー・ノウズ』 KADOKAWA
ループ物。主人公が同じ時を繰り返し、困難を乗り越える。
誰もが一度は目にしたことがあるであろう、あまりにありふれた題材である。だが本作は、地球上の「すべての」人間がループし、社会秩序を破壊されたら人はどうなるのか、というこれまでに無い思考実験を行っている。
本作はこの実験を通して人間の美しさ、高尚さ、そして醜さをまざまざと読者に見せつけるだろう。ループ物に新しい切り口を与え、人間の内面を抉り出す事に挑んだ本作を大賞に推薦する。
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No.130
林田こずえ(作)YOUCHAN(絵) 『戯曲絵本 カラクリ匣』 小鳥遊書房
幻想と現実の間のカラクリが面白い。最後の場面は特筆すべき場面。絵本と戯曲のコラボレーションが新しい。戯れに覗き穴を覗いているように読み進んでいく。懐かしい見世物小屋のような猥雑さと美しい文章が、寺山修司を彷彿させる。SFでありながら懐かしさを匂わせるので読者は迷いなく読み進める。
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No.129
逸木裕 『世界の終わりのためのミステリ』 星海社
人の意識を半永久的に持続可能な一種のロボットに移した〈カティス〉という存在が、人の滅びた世界でポツポツと目覚めて活動をし始めていた。そんな〈カティス〉のひとりが日本の各地を放浪する中で奇妙な事態や出会う謎に挑む過程で、ロボット三原則に似た〈カティス〉ならではの原則が条件となる推理が繰り広げられる。ミチという名の〈カティス〉が目覚め辿り着いた江の島で暮らす、〈カティス>が不審な挙動を繰り広げている。もしかして人間なのか。それともやっぱり違うのか。長野を目指す〈カティス〉が探している物の本当の在りかはどこなのか。芸術家の〈カティス〉と暮らすAIが自我が目覚めたと訴え始めた真相は何なのか。特殊設定のミステリとして挑み甲斐のある作品であり、同時に人ならぬ存在が生まれ存在する未来のビジョンを見せてくれる作品でもある。
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No.128
監督:宮﨑駿 劇場アニメ『君たちはどう生きるか』 スタジオジブリ
異星よりもたらされた岩舟の中に存在する悠久の世界に暮らし、蔓延りながらもだんだんと衰退していくペリカンたちやインコたち。その世界から外へと旅立っては死んで舞い戻ってくるワラワラたち。奇妙な異世界としての独創的なビジョンを高度な作画によるアニメーションとして見せ、そんな異世界を冒険する少年の見聞を通して感嘆させつつ一方で、岩舟の中を象徴として捉え、滅亡に瀕しながらも誰かに任せて自堕落に生きる人類への警鐘を鳴らすような暗喩も繰り出し気付きを誘う。不安定な積み木の上に形作られている世界をそれでも引き継ぐべきか、次の世代が新たに作っていくべきかも問う、優れた思弁性を持ったアニメーション映画だ。
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No.127
宮野優 『トゥモロー・ネヴァー・ノウズ』 KADOKAWA
時間が繰り返す物語は過去にも数多存在するが、そのことを誰もが認識してしまうようになってしまう設定は目新しい。娘を殺された母親が、未成年だったため釈放され今は入院中の犯人を病院まで追いかけ殺害するが、しばらくすると時間が戻ってしまい、改めて殺害に出向いては捕まったり失敗したりする時間を繰り返す。程なく母親を乗せたタクシーの運転手が時間のループに気付き、ほかにも気づく人が増えてそして犯人も自分が殺されることを知ってしまう。何をしても元に戻るなら、世界は誰もがやりたい放題をして荒廃するのかというと違っていた。自警団のような人たちが現れたり、ある周回だけで開かれたイベントの記憶だけが同じ時間を繰り返す中で残り続けたりして、人々を優しい気持ちへと誘っていく。ifの世界に人はどう対応するのか。そんなビジョンに触れさせてくれる作品だ。
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No.126
宮野優 『トゥモロー・ネヴァー・ノウズ』 KADOKAWA
ループする世界という設定の旨みを失わぬまま、次々と新しいアイデアを放り込む快作。設定も面白いがむしろその世界で生きる人々の思いや行動に興味を引かれる。そして何より読み易い!各章に用意された仕掛けにも唸らされます。
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No.125
藍内友紀 『芥子はミツバチを抱き』 KADOKAWA
しがらみと観念に縛られた大人の倫理観も正義感も蹴飛ばし、子供たちが内省し反芻して得た生き方を描いて、大人たちの眉を潜めさせつつ次世代の心に爪痕を残す作品だった『星を墜とすボクに降る、ましろの雨』に続く本作もまた、大人の心をかき乱にかかる1冊だ。口笛でドローンを操る子供たちを主役にした物語に描かれる、テクノロジーの進化と収まらない紛争の描写にかの伊藤計劃的なビジョンも見えつつ、政治と軍事の奔流に呑み込まれていく大人たちとは違って、自分で今を掴み未来を得ようとする子供たちの強さに、不要とされた大人として蕭然としつつ、しっかりやれと思わせてくれる。そんな作品だ。
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No.124
関元聡 「楕円軌道の精霊たち」 日本経済新聞社
地球温暖化が進む現在、グローバルな視点に立つならばその影響を直接的に受け、不利益を被る場所や人々が存在することは想像に難くない。海面上昇によって沈む国が存在し、異常気象に晒される地域があり、食糧難に喘ぐ人々がいる混迷の世紀にSFという文学が成せることは何だろうか。それはひとつに想像力を駆使して、その人々の生き方を知り、忘れないことに他ならない。この作品では舞台となる架空の土地で神話が息づいている。神話のむこうで人々は踊り、生きて、死ぬ。しかし再生もする。その永遠にも続く東洋的な世界観と生命観に呑まれ、宇宙へと解き放たれるヴィジョンはその土地の人々を忘却しない象徴として刻印されるのだ。
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No.123
樫木佐帆 『サテライトクラスタ』 カクヨム
ARグラスを扱っている作品はまだ少なく、未来がある。架空のゲーム会社、架空のアーケードゲーム、架空のトレーディングカードゲームを扱っている。作品自体は続きものではなくいわゆるショートストーリー、童話、詩を含んでいて飽きない。
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No.122
林田こずえ(作)YOUCHAN(絵) 『戯曲絵本 カラクリ匣』 小鳥遊書房
トシアキ少年に命を吹き込まれた人形達と月の無い夜を探す少女が子供部屋で巻き起こす不思議な物語。気付かれる前に脱出することが出来るのか、また少女は無事に両親の元へ辿り着けるのか。持て余すほどの少年時代、残り時間はあと僅か。
ただの絵本でも、挿絵の入った戯曲本でも無い、マンガとも異なる戯曲絵本。演出家・舞台監督・衣装・キャスティング、舞台上で繰り広げられる一部始終をイラストが演じる。
作者20歳の作品がYOUCHANの絵によって甦る。 -
No.121
日本SF作家クラブ(編) 『AIとSF』 早川書房
クリエイティビティがAIの簒奪されるという恐怖のなか出版された本書は、作家という生き物がAIを巧みに取り入れ、共生し、これからも面白い小説を生み出しつづけるであろうことを証明してくれた。生成AIの急速な発展が見られた今年だからこそ出せた力強い一冊。
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No.120
大森望(編) 『NOVA 2023年夏号』 河出書房新社
ゲンロンSF創作講座やKAGUYAプラネットを通じて、近年女性SF作家のデビューが急増しているが、SFの賞の受賞はおろかノミネートされる女性作家は未だ多くない。そんな中で本邦初の女性オンリーアンソロジーが出版されたことは、もともと多様性を受け止める器のあるSFにとって大きな転換点になるのではないだろうか
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No.119
太田忠司 『惑星まほろば』 書肆盛林堂
干支、暦、色。三つのモチーフをベースに書かれた、ノスタルジーさえ感じられる掌編が、三つ編みのように交互に語られてゆく。後半に進むにつれ、この三つの荒縄がとけあって、ひとつの惑星と地球の運命を描いた物語へと収束していく読書体験は、SFならではの醍醐味と言えよう。特筆すべきは、作家自身が信念を曲げず出版を実現するため、リトルプレスを選んだ点である。物語36本の扉絵が全てフルカラー収録という豪華な造本も話題になったが、商業ベースではなかなか企画の通るものではないのも実情だ。この自費出版による、小さな(しかし壮大な物語の詰まった)本は、版元である盛林堂の店頭のみならず、全国どこからでも通販で購入でき、読者の元へ届く仕組みもきちんとできている。作家にとって納得の行く本を出版するひとつの試みとして、現在の出版事業に対する問題提起にもなった重要な一冊だと思う。
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No.118
林田こずえ(作)YOUCHAN(絵) 『戯曲絵本 カラクリ匣』 小鳥遊書房
推薦理由は、イラストのある戯曲本という斬新なコンセプト。まるで劇場の中にいるような感覚になりました。キレイでミステリアスなイラストが物語の世界観をさらに引き立ててくれます。
同じ登場人物AとBの会話から始まる冒頭。2人が覗く望遠鏡から見える景色。いろいろな不思議がたくさん盛り込まれており、その謎の理由を想像しながら読み進めるのがとても楽しかったです。 -
No.117
相川英輔 『黄金蝶を追って』 竹書房
SF作品と呼ぶにはあまりに異色の物語たち。ただし、それは奇抜なわけでも奇々怪々なわけでもない。それなのにこれまで読んだどの小説よりも異色なのである。空白の一日や地球の滅亡が描かれるのに、まるで凪の海のように平穏で、それでいて不穏。描写を極力排しているにもかかわらず映像的な文章。多くが悲劇なのに、読後感は爽やか。
このような作品が、SF大手の早川書房や東京創元社からではなく竹書房から刊行されたこともエポックメイキングな出来事といえるであろう。内容、出版経緯ともに、国内SF小説の今後を変える可能性を秘めた一冊である。 -
No.116
メディア〈anon press〉 anon press
2022年5月開始の「未来を複数化させる」SFプロジェクト。現在70作品以上が公開又は書籍化され、小説、詩歌、ほか新たな表現が試されている。
テクノロジーの他、思弁や奇想、極めて世俗的な題材も扱われ、語り口も硬軟バラエティに富む。anonでなければ取りあげられなかった作品、anonがなければ訴求されなかった作品も多数含まれ、これらが一群の実験としてまとめられることで、レーベルとしてのブランドを確立している。
anon press及びその作品群は周縁的だが、単にSFの字句的定義を広げることで既存ジャンル作品をもSFに包含しようとするのではなく、SFの中核的価値観を拡げようとする営みとして、日本SFのいちシーンをなしている。
また、東京大学を後援に子ども向けSFコンテストを開催するなど、プロジェクトの活動領域も広げている。
https://note.com/anon_press/
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No.115
林田こずえ(作)YOUCHAN(絵) 『戯曲絵本 カラクリ匣』 小鳥遊書房
朝、目が覚めると忘れてしまう夢が活字化されたような不思議なSF戯曲絵本です。
絵本となっていることで、演劇として上演された際の主人公やロボット達の演技イメージが膨らみ、SF初心者でも空想を具現化しやすい作品となっていると思います。
すらすらと読み進めることができますが、何度も読み返して、言霊のある台詞やYOUCHANさんの素敵な絵を楽しむのもオススメです。 -
No.114
猫と土偶文庫+いぬねこ出版(編) 『新潟SFアンソロジー2023 the power of N』 新潟SFアンソロジー作成委員会
本アンソロジーには、地域としての「新潟」を題材とした、バラエティに富んだ15編が収録される。
地域をテーマとした文学誌等は過去にもあるが、地域をSFとして扱い、刊行された有志アンソロジーは、本作が先駆けである。SFの想像力により、現実には存在しえない虚構としての新潟が描かれることで、新潟を仮想的・虚数軸的に拡張するなど、SFならではの地域おこしの在り方も提示している。
プロジェクトとしての一面もあり、新潟県で例年開催される小説創作ハッカソン「阿賀北ノベルジャム」との連携など、新潟との連携も図られるほか、「新潟SF」レーベルでシリーズ作(2023年11月に後継書籍発行予定)が準備されるなど、持続的取り組みも目指されている。
「地方SF」「地域SF」の在り方を示した嚆矢として、日本SFのマイルストンとなる一冊である。
https://booth.pm/ja/items/4796588
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No.113
林田こずえ(作)YOUCHAN(絵) 『戯曲絵本 カラクリ匣』 小鳥遊書房
作者の林田こずえさんがシンガーの大原櫻子さんに提供した「寄り道」という楽曲の歌詞に凄く感動して涙が溢れて出て、気持ちを抑えきれずに私下手ですが無伴奏で涙を堪えながら歌いました。その歌声を作者の林田こずえさんが光栄にも聴いて頂き、コメントを頂きました。それから林田こずえさんの作品にもっと触れたいと思い、この作品を購入しました。やはり、素敵で幻想的な夢の世界に誘われて感動し、現実世界からひととき離れて癒されました。それも本の中の文字と絵だけで、演劇が展開される「戯曲絵本」という今までなかった世界を創造した林田こずえさんの才能に驚かされました。
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No.112
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
日本を舞台とした、日本で初めての、劇場用本格クトゥルー神話映画、それだけでも凄いのに、さらにそれを原作として、より深く、米国に端を発した宇宙的恐怖を、厳かなる日本芸能の淵源にまで浸潤させていくという冒涜的パイオニア。他の追随を許さぬそのインパクトはしかし、「狂気」の神話を「狂言」で表すという、あたかも在るべきものが在るべき所に辿り着いたかのようなウボ=サスラ的な安心感の中で、脳内で妙にねっとりと馴染んで、そのまま離れないのだ。
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No.111
林田こずえ(作)YOUCHAN(絵) 『戯曲絵本 カラクリ匣』 小鳥遊書房
戯曲は興味のある人しか、なかなか手に取らないものですが、絵本にしたことで親しみと読みやすさが加味された斬新な発想だと思いました。
戯曲の内容もスペクタクルで、スピード感とファンタジーに溢れていて、SF大賞に相応しい作品だと思います。 -
No.110
林田こずえ(作)YOUCHAN(絵) 『戯曲絵本 カラクリ匣』 小鳥遊書房
不思議な少年トシアキを主人公とする林田こずえの創作戯曲と、それに交響して描かれるYOUCHANの熟達した絵が織りなす幻想世界は、かつて他に見たことがない「戯曲絵本」という新しい表現形式を生みだした。SF? ファンタジー? 童話? どれででもあってどれでもない、そして読み返すごとに新たな謎が深まり理解がなかなか追いつかない、これぞスペクレイティブ・ドラマだ。
著者らがあるところで語った、この本ができあがるまでの経緯を聞けば、やはり一筋縄ではいかないこの本(文章と絵と形式)の魅力の源泉が垣間見えてきた気がする。もしあなたがまだ手に取っていないとすれば、大変惜しいことをしている。この斬新で型破りな戯曲絵本『カラクリ匣』をSF大賞に推薦したい。 -
No.109
新馬場新 『沈没船で眠りたい』 双葉社
SFでこんなに深く愛を語れるのだな、と衝撃を受けました。人間の体の一部を少しずつ肉体ではなくしていき、やがて全てを機械に置き換えたら、もはや人間ではなくなるのか。自分の意識を保存した機械は自分なのか。私たちが人間であるために必要な要素は何か。愛する人が肉体を失っても、それでも愛せるのか。読みながら考えさせられました。スペキュレイティブ・フィクションの要素が強いと思います。
とても好きな物語です。主人公の抱える歪みや一途さが息苦しくて切なくて、悲劇へと向かう愛に心打たれました。
ミステリ仕立てで明らかになる真実がよかった。結末がよかった。主人公の絶望を見たように感じました。この救われなさがいい。多くの人に読んでほしいです。 -
No.108
柏沢蒼海 『Re:ACES ~Last Valkyrie~』 カクヨム
作品URL:https://kakuyomu.jp/works/16816452218271639664
まだ完結していない作品ではありますが、ガンダムのような地球人と宇宙移民の戦争の渦中でのドラマは既存の作品では見掛けないようなリアリティや魅力があります。
遺伝子調整された少女兵が、再現された地球の料理を食べて感動するという作品のコンセプトそのものがSFとしてのとっつきやすさとエンタメ性を両立しており、なおかつ本題である宇宙戦争という部分も「潜入した工作員」「予備役の訓練生」という視点人物を2人にしたことで克明に描き出しています。
本作の魅力といえば、やはり食事と料理のシーンです。
これはコミック・アニメ化した際に気になるところではありますが、現状の「小説」だからできることに注力なされているように思います。 -
No.107
藤村緋二(漫画)眞邊明人(原作) 『もしも徳川家康が総理大臣になったら〜絶東のアルゴナウタイ〜』 秋田書店
人気SFビジネス小説を実力派作家・藤村緋二がコミカライズ! 新型の感染病が蔓延する日本。官邸でクラスターが発生し、総理が感染、死亡! かつてない混乱の中、政府はAIによって偉人達を復活させ、最強内閣をつくる計画を実行する。官房長官坂本龍馬、財務大臣豊臣秀吉、総務大臣北条政子、外務大臣足利義満……etc. そして英雄たちを率いるのは、総理大臣徳川家康! 最強の英雄たちが、病蔓延る日本の現状を打破するべく動き始める!
AIによって政治が行われる未来、この日本でもいつか来る未来の気がしています。
世界感、表現力も素晴らしく登場キャラの格言めいたセリフも一つ一つ胸に刺さります
今の日本人が今一度思いだすべき事が詰まった物語となっていて、令和を生きるすべての日本人に読んでもらいたい作品です -
No.106
柏沢蒼海 「ボディ・リサイクル」 カクヨム
作品URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330651313534892
「死んでもやり直せる」なんていうことができるようになったら、人類はどうなってしまうのか。
それを描いた本作は、人がどうなるか……ではなく。
死んだ後の身体、つまりは死体の行き先を克明に描かれた作品です。1万字以内で書かれた本作は字数以上に濃密な内容でした。
是非とも、倫理観の狂った世界観をご堪能ください。 -
No.105
監督:佐藤雄三 TVアニメ『AIの遺電子』 マッドハウス
現実のAIの隆盛を見越したような作品。人権のあるAIもいれば、道具として使われるAIもいるなど、多様なAIのあり方を提示することで、人類がAIを将来どう取り扱うべきか問いかけている。未来社会でのさまざまな問題や希望を哲学的に見せてくれた。
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No.104
監督:佐藤雄三 TVアニメ『AIの遺電子』 マッドハウス
本当にありそうな近未来を描いた作品。
人間とヒューマノイドとの共存。
AIの発達すごく考えさせられます。
一話完結ながらも、一話一話深い。
主人公の生い立ちの背景も興味深い。
自分ならどうするだろうか…と毎話深く考えてしまう。
色々な世代に読んで欲しい。沢山の人に刺さると思う。オープニングテーマ曲もアニメの世界観にとても合っていたのが印象的でした -
No.103
監督:佐藤雄三 TVアニメ『AIの遺電子』 マッドハウス
原作の、手塚・藤子両氏らが積み上げてきたSF作品のあるべき姿の正統な後継性を感じる。アニメ作品は原作者のそうした作品性、精神性を丁寧にくみ取り、答えをオチとして提示することなく視聴者に問いかける形で終始させるのは、昨今ではあまり評価されにくいかもしれない。それでも作品を通して視聴者へ投げかける問いかけ『こんな話、君はどう思う?』というメッセージは時に原作者・山田氏であり、時にかつての手塚氏であり藤子氏の声とも感じられる。本来SFに、完璧なオチや答えなど必要はない。AIの遺電子は今の偏ったSF観に一石を投じ、改めて我々がSF作品に求めるものを提示してくれたといってもいい。SFは理屈ではない。
「こんな話、君はどう思う?」それだけで充分なのだ。 -
No.102
ピクタム 『ハコのひと』 X
AIやロボットというテクノロジーが身近になってきたいま、SF作品にも感情に触れる熱を帯びた物語が新たに生まれつつあるのかもしれない。Xに投稿された本作品はYahoo!ニュースにも取り上げられ大変話題になりました。ハイファンタジーのディストピアから着想を得た物語でバトル要素、SF要素、さらには家族愛など様々な要素がつまったストーリーはSF界に新たな風穴を開ける作品となる気がします。よって本作品を推薦させていただきます。
作品URL
https://onl.bz/chBR1Js
(作品発表日2023.7.25)作品紹介URL
https://onl.sc/g6TWcGi -
No.101
監督:佐藤雄三 TVアニメ『AIの遺電子』 マッドハウス
実現しそうな近未来設定に、ヒューマンドラマを上手にからめた、考えさせられる作品です。今はまだチャットGPIやAI絵師どまりですが、いつか作品と同じ問題に人類は直面するのでは……?と思います。自分があと100年くらい生きられるなら、答え合わせをしたかったです(残念です)
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No.100
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
世界初の試みである「狂言」でクトゥルー神話の世界を表現する狂気の作品です。
夢人塔の主催者である浅尾典彦さんを筆頭に日本国内ではあまり例の無かったクトゥルー神話の映像化作品「龍宮之使」をベースに、この物語の前日譚となる鎌倉時代の出来事を日本の伝統芸能である「狂言」にて表現したものです。
今までに無い日本を舞台にしたクトゥルー神話の世界を日本でしか成し得ない狂言で上演するものです。唯一無二の物語を垣間見て貰いたい!https://mujintou.jp/ryugu/cast.html
https://youtu.be/vu93PFxScWY?si=IPskkhLDmiWwXr2W
https://youtu.be/NkO6LZS2QFA?si=bdRHDILUuv_iBySi
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No.99
大木芙沙子 「二十七番目の月」 Kaguya Planet
大木芙沙子が書く話の魅力はいくつもある。読者に一切のストレスを与えないリーダビリティ、思わずくすりとさせられるおかしみのある会話、軽やかな文体、意外性のあるストーリーテリング。いわゆる科学的なSFとは違うが、ブラッドベリやF・ブラウンから繋がる王道のライトSFの系譜を感じるのは私だけだろうか。この『27番目の月』もそうだ。童話「つるのおんがえし」を思わせる冒頭から、やがて世界の秘密が開示される展開は見事であるし、それをシームレスな二人の視点を使って見せる手際は往年の筒井康隆を思わせる。だが、私がこの作品を推すのはそこに作者の世界に対する見方、当たり前だけど誰もが忘れかけている視点が含まれているからだ。かつて星野道夫が「東京に住んでいても遥かアラスカの地にいる狼を思うことができる」と語っていた。この話を読むと、私はその言葉を、世界は広く、それでも常に一つなのだということを強く思い出すのだ。
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No.98
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
クトゥルー狂言「龍宮之使」は映画「龍宮之使」をベースに、現代の狂言として浅尾氏が書いたものです。
それを映画にしたものがYouTube上の動画になります。
どちらも、日本で初めての試みです。
狂言にするにあたって、時代設定などが狂言と違うので困難が作業があったようです。
その意味では、大変な労作です。
狂言の世界は伝統芸能ということで、多くの制約があるということですが、その中にあって、あたらしい発想と構成力で作られた作品がクトゥルー狂言「龍宮之使」とその映画(動画)です。
このような狂言はこれまでなかっただけでなく、狂言師の方の思いもあって大変貴重な作品だと思います。 -
No.97
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
この竜宮之使は、クトゥルー神話と狂言の融合という、斬新な試みでどんな感じになってるのかと気になっていました。クトゥルー神話と狂言初心者の私にでも分かりやすく、とっても楽しめました。日本の伝統芸能とSFという新しい組み合わせは、他には例がなく素敵だなぁと思いました。なので、SF好きの方々にも是非とも知ってもらいたい作品だなぁと思い推薦させていただきました。
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No.96
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
『龍宮之使』を最初に知ったのは映画という形でした。
それは面白いだけではなく豪華で奇妙なもので、アルゼンチンの映画祭に推薦したところ、そちらでも随分と気に入っていただき、すぐに上映が決定しました。
その『龍宮之使』が狂言になったと聞き、見に行きましたところ、映画とは全く違う究極の省略の美学が表現されていました。
同じ原作が、VFX盛りだくさんの映画と対極といってもいいような日本古来からの狂言になり、そのどちらもが単独でも楽しめ、ポテチとチョコのように往復を繰り返したくなるものになっていました。
今回「狂言」を推薦していますが、できるなら映画も楽しんでください。
きっとより狂言を楽しむことができるでしょう。 -
No.95
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
精力的に独自の世界を周遊する浅尾氏が、今回選んだ題材が、なんと狂言!卓抜なる好奇心の塊のような人生が、一挙に幽玄かつ無限に広がる世界へと舵取りした。当初はこちらが戸惑ったけれど、進んでいくうちに、その企みに身を委ねることこそ、SFの原点ではないかと覚悟した。その決断はいささかも誤ってはいなかった。こういうSFの出現をどこかで待っていた。
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No.94
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
ラヴクラフトにより二十世紀前半に海外で誕生し、多数の時代と国を越えた作家達により育てられた神話体系クトゥルーと日本古典文化の狂言の融合で生まれた『龍宮之使』。
これぞ古くて新しい表現、物語ではないでしょうか。コズミックホラーとも称されるクトゥルーをベースに新たな物語を古典による表現にチャレンジ。古を尊び未来に挑む、まさしくSFと呼ぶに相応しい作品だと思います。 -
No.93
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
狂言で描かれる作品を初めてみました。ストーリーが進むにつれ、惹き込まれていく不思議な感覚を覚えました。SFというジャンルに狂言がどのようにマッチするのか、想像出来ないところでしたが、とても面白い発想と展開で魅了されました。日本の伝統芸能を世界に伝える誇れる作品でした。
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No.92
機能美p 自主制作アニメ「そんな話を彁は喰った。」 youtube
クリエイティブが生み出す「愉悦」が人間を破壊してしまった未来。物語生成AIが、もはや誰も読まなくなった物語をそれでも書き続けている――。
人を食ったような始まり方だが、「続き」の動画にジャンプした途端、この空気感は一変する。人間という「欲望の怪物」に翻弄されながらも、最適化され続けるクリエイティブをぶち破ってAIがたどり着いたゴールに待ちうけるのは、一度でも筆を執ったことのある諸君なら胸がカッと熱くなるような、涙が溢れそうなくらいの、まだ人間もAIも名付けていない感情が生み出す強烈なカタルシスだ。
時にスマートな、時におバカな遊び心を挟みながら、小説でも、雄弁すぎる映画やアニメーションでも成しえない、正にこの形でしか描けない物語がここにある。令和を代表するSF作家・機能美pの最高傑作であり、AI時代の新しい民話の誕生である。
自信を持って、本作を日本SF大賞に推薦する。
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No.91
永田礼路 『螺旋じかけの海』 同人誌・Kindle
緻密に構築された未来社会とそこにはびこる差別意識が現代社会ともリンクし、人間の本質、生命の起源を問う永遠のテーマへの作者なりの解答も好ましく共感できる。完結まで時間がかかったがきちんと伏線も回収され納得のラストも清々しい。とにかく好き。
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No.90
フロム・ソフトウェア ゲーム『ARMORED CORE VI FIRES OF RUBICON』 フロム・ソフトウェア
巨大ロボットモノである本作ですがSFとしての1番の魅力は舞台となる惑星ルビコン3に眠る生体物質である「コーラル」。
既存の燃料とは一線を画すほどの強力なエネルギー資源でありながら直接摂取することで麻薬的な作用をもたらすためそれをめぐって戦争が起きているという設定はフランク・ハーバートの小説「デューン 砂の惑星」に登場するメランジを彷彿とさせますがさらにこの物質の集合体が意識を持ち主人公に語りかけてくるのです。
まさかのファーストコンタクトモノでもあるというユニークさに痺れました。
他にも巨大ロボットが人型である理由付けやAIが絡んだストーリーテリングも魅力的です。 -
No.89
相川英輔 『黄金蝶を追って』 竹書房
収録されている6編のうち、3編は「惑星と口笛ブックス」という、失礼ながらさほどメジャーとはいえない電子書籍専門レーベルから発表された短編である。それほど多くの人に読まれたわけではないだろうに、それが英訳されて海外で評判を呼び、その評価によって日本国内で紙の本として刊行されるというのは、異色といっていい経緯である。「作家は文学賞を獲らずとも生きる道がある」という新しい地平を切り開いたといえるであろう。
作品はもちろんすばらしく、『シュン=カン』は歌舞伎×SFという見たことのないジャンルで描かれている。その他の作品もすべて複数のジャンルにまたがって(越境して)おり、ニューグローバルな作品としてまさにSF大賞にふさわしい短編集である。 -
No.88
松浦だるま 『太陽と月の鋼』 小学館
現在ビッグコミックスペリオール誌上で連載が続いている漫画作品です。江戸時代天保年間から始まるお話。金属に触れない男の元に謎の美女が嫁に来るという不思議なシチュエーションから始まった物語は陰陽寮や玉藻前伝説等古代日本の様々な伝承が混ざり合い現在にまで繋がると思われる壮大な物語となっています。未だ先行きが見えませんが昭和の頃に見られた「和風伝奇SF」と呼んで差し支えない作品と思います。
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No.87
結城充考 『アブソルート・コールド』 早川書房
今この時代に敢えてサイバーパンクに真正面から取り組んだ心意気を買いたい。物語はAIが鍵を握る近未来ハードボイルドとして、ある種の過剰性を持って描かれる。この過剰性こそがサイバーパンクである。階層化された社会の底辺で生きる人々に向ける著者の眼差しは優しい。『ブレードランナー2049』の正当な後継者と言えるだろう。
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No.86
永田礼路 『螺旋じかけの海』 同人誌・Kindle
日本人に生まれると、憲法により健康で文化的な最低限度の生活が保障される。日本に生まれたとて犬や猫は生活の保障は何もない。それを我々は当たり前のように受け入れている。法律はヒトがヒト同士で守り合うための約束事であり、家庭内で家族のように扱われていても動物は動物とでしか扱われない。
では遺伝子操作技術の発達によって犬や猫にヒトの遺伝子が加わえれたらそれはヒトになりえるのか?じゃあ何%加わったらヒトなのか?対象を逆にし、ヒトに何%のヒト以外の遺伝子が加わったらヒトデナイモノとされるのか?
異種族遺伝子を15%以上抱えるとヒトデナイモノとして扱われる世界で、安易になった遺伝子操作技術はその境界をいともたやすく越えられる。ヒトデナイモノとされても生きようとする境界の命にあなたは何を思いますか? -
No.85
監督:山口淳太 映画『リバー、流れないでよ』 トリウッド、ヨーロッパ企画
『サマータイムマシーン・ブルース』などで知られる劇団ヨーロッパ企画が『ドロステのはてで僕ら』に続いて製作した映画。京都の老舗旅館で起きた2分間のタイムループ。同じ出来事を繰り返していく中、旅館の従業員や出泊客はこの状況から脱出を試みるが。この映画の白眉はタイムループの時間を2分間にしたことで、しかもこの1ループを1カットで撮影してみせることでシチュエーションコメディとしての面白さと緊張感のあるタイムリミットサスペンスを両立させており、最後は時間SFとしてもきっちり落とし込んでいる。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』など海外の時間SF映画と肩を並べて語れる1作と言える。原案・脚本の上田誠以下ヨーロッパ企画のスタッフ・キャストの皆さんのチームワークに敬意を表して日本SF大賞に推薦したい。
https://www.europe-kikaku.com/river/ -
No.84
新馬場新 『沈没船で眠りたい』 双葉社
本作品は、AIをはじめとした機械の働き手に対し、若い世代が雇用奪還を求め、打ち壊し運動を行う2040年代の日本が舞台になっている。まさに現代的なSFであり、たった20年後の日本を描いたディストピア小説とも言えるだろう。
イーガンさながらの哲学的な思索も行っており、読み応えは抜群。そのなかでミステリー要素やキャラクター性をうまくまとめあげ、娯楽小説としての喉ごしも担保している。それでいて、随所に小ネタを散りばめ、SFファンを喜ばせるサービス精神も忘れていない。
フィニッシングストロークも圧巻だ。ここまで心乱される幕切れがあるだろうか。淡々とした文体も相まって、その切ない後味は一級品。さらに最後の最後で更なる一撃を加えてくる抜け目のなさ。
間違いなく、ここ数年でもベスト級のSF作品。なぜもっと話題になっていない! -
No.83
小川一水 『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』 早川書房
大宇宙・ロケット・漁業・百合・SF小説。
固体衛星の無い巨大ガス惑星では、大気を泳ぐ魚型の粘土生物・焦魚(ベッシュ)を漁獲し資源を賄っていた。
男は操縦、女は網打ち、漁師は男女の夫婦ペア。そんな決まりきった常識に生きづらさを覚える主人公の女漁師と、自らの手で船を駆りたい家出少女が異例の女ペア漁師となる物語。
遠い未来でありながらも凝り固まった因習が描かれる本作には進歩史観への強い否定を感じます。
家父長制、男尊女卑、女性ペアへの社会的な風当たりといった描写は前時代的なリアルさを醸しており、それらをSF的要素で乗り越えるカタルシスが秀逸な世界観を作っています。
焦魚はなぜ魚型なのか、粘土生物とはなんなのか、粘土をこねる能力「デコンプ」とは何か……宇宙を取り巻く神秘も本作の魅力と言えるのではないでしょうか。
やがて運命共同体となる二人の行く末をもっと多くの方に読んでいただきたく思います。 -
No.82
監督:安藤裕章 TVアニメ『大雪海のカイナ』 ポリゴン・ピクチュアズ
SFが与えてくれる魅力の一つに『世界の提示』がある。心理小説が魅力的な人を描くのと同じように、SFは魅力的な世界を描く。本作の舞台は「いつ」とも「どこ」ともわからぬ惑星。『天膜』と称される透明な構造物に惑星全体が覆われており、無数の『軌道樹』に支えられている。地表は『雪海』という比重の軽い液体で満たされ、人々がかろうじて生きていけるのは軌道樹の根本だけである。しかし、採取できる水は年々減っており、それをめぐる争いは絶えない。巨大で圧倒的な世界のなか、小さな人間たちが、さまざまな環境でさまざまな方向に移動する。それを見ることで、視聴者は「場所を変える」という根源的な快感を刺激される。本作は、世界のなかの「場所」を提示する≪場所SF≫として、また、場所を移動する手段を思索する≪のりものSF≫として、さらには、宇宙・惑星・地形・生物・人間・文化が重なり合う≪風景SF≫として優れた作品である。
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No.81
秋待諷月 「不老不死の窓口」 カクヨム
コールドスリープ、冷凍睡眠は、ある種のタイムマシンとしてSFの道具立てとして使われてきた。広大な宇宙を旅する際には加齢を伴わない方法論として過去の作品にも登場している。この作品の魅力は、そうしたコールドスリープが現実にあったと仮定して行政法としてどのように位置づけられ、法の下で施行されるのか、法解釈を持つのかを、描き出そうとしている点にある。緻密なSF的想像力をぜひ感じてもらいたい。https://kakuyomu.jp/works/16817330649543446439
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No.80
高野史緒 『グラーフ・ツェッペリン あの夏の飛行船』 早川書房
普段は洋物を得意とするこの著者が、自らの出身地を舞台とした、言わば新たなる挑戦の一作である。ベテランでありながら新境地を開拓するその姿勢をまず評価したい。甘酸っぱい夏の青春SFという感想が多いようだが、それに留まらず、メタヴァースや量子論など最新のテクノロジーや研究を盛り込みつつも、一部のコアな読者にしか受け入れられないハードSFではなく、幅広い層、SFプロパーでない読者も楽しめる仕上がりになっているところも素晴らしい。また、最後の問題解決法も、その背後にある理屈も、他に類例を見たことがない。登場人物像も、本物の十代である我が子の世代が読んでも、かつて若者だった我々親の世代が読んでも、いずれも納得するリアルな造形で描けている。ひねった作品を受賞させるのも一つの手ではあろうが、やはりこういう正統派の秀作をこそ、是非、SF大賞に選んでほしいと切に願う次第である。
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No.79
結城充考 『アブソルート・コールド』 早川書房
ハードで、でも優しくて。カッコよくて、でも可愛らしくて。残酷で、せつなくて。いろんな要素が混ざり合っていてワクワクします。著者の過去作『躯体上の翼』も好きなので、同じ組織が出てくるのも楽しい。推薦する理由は、SF大賞を取って、ベストセラーになって、続編を書いてほしいからです!
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No.78
監督:小林寛 TVアニメ『機動戦士ガンダム 水星の魔女』 サンライズ
https://g-witch.net
人類が宇宙に適応するためには自らの身体を、精神を、そして倫理観を変えても良いのだろうか。そこには親子、兄弟姉妹、恋人、地球と宇宙の関係はどのようになっていくのだろうか。
ガンダム作品としては、2クールとコンパクトにまとめられ、しかし、配信作品の一気見できるものとも違う、多くの空白を孕ながらスピーディーに次週につないでいくテレビシリーズならではの良さを感じることができるものでした。
思想、ジェンダー、環境、民族の問題が大きく吹き出している2022から2023年の今に、学園ものの皮を被った女性主人公のガンダムが問うものは。
時代の流れが虚構を大きく追い越していく中、願わくはエピローグにかかった『祝福』を世界に。 -
No.77
相川英輔 『黄金蝶を追って』 竹書房
SF作品というのは往々にして最初にドカンと仕掛け(アイディアの核)を持ってくることが多いが、この短編集は日常から始まり、徐々に非日常(奇想)が入り込んでくるものが多い。そういう意味では亜流のSF書きといえるのかもしれないが、その徐々に入り込んでくる過程が抜群に面白い。こういう書き方をする日本人作家はあまりおらず、貴重な人材といえる。SF界にはいろいろな角度から常に新しい風が吹き込んでいるが、この作品は2023年を代表する新しい風といえるだろう。
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No.76
草野原々 「存在しないAI小説についての、自動生成されたメイキング解説と感想戦 草野原々×柴田勝家×小川哲×Sta(AIのべりすと開発者)」 早川書房
私が最初に読んだAIの小説がこの作品なのですが、これが非常に面白かったので、日本SF大賞に推薦することにしました。ちなみにこの自動生成されたメイキング解説と感想戦は、すでにAIが書いたものです。ただ、その自動生成されたメイキング解説と感想戦は、AIが書いたものだけあって、なんというか……説明的なのです。その説明的な文章と物語を補完する解説として、作者によるメイキング解説と感想戦があるのだと思うのですが……そのへんのバランス感覚がすごくよくてですね……。まぁとにかくそんな感じで、このメイキング解説と感想戦は、日本SF大賞にも合っているのではないかと思います。AIが書いた作品も含みつつ、選考する人に寄り添った内容になっているというのが、まず素晴らしいと思いました。AIについての知識もある程度必要ですが……小説として普通に面白かったので、これは期待したいです!【AIのべりすとで生成した文章です】
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No.75
永田礼路 『螺旋じかけの海』 同人誌・Kindle
X(旧Twitter)で見かけて面白そうだったのでKindle版を購入しました。近未来?はたまた違う時間線の、首都が水没してしまった日本のような国が舞台。まず設定がとてもユニーク、今まで読んだことの無いお話ですぐに引き込まれた。主人公の無免許?な医者のセリフと行動の端々に出る本物感は、作者ご自身が医師であることの賜物か。
派手なバトルシーンや魔法等は出てこないし異次元にも飛ばされたりしない。淡々と物語が進む中で、読み手に「人間とは?」と問いかけてくる極上のコミックス。アニメ化されたらどんなに素晴らしいだろう。 -
No.74
北野勇作 《シリーズ百字劇場》 ネコノス
百字小説のシリーズです。1冊に百字小説が200篇、つまり3冊で600篇。この数だけでも、これまでになかったものだと言えると思います。このシリーズが「小説」の概念を押し広げることになるのは間違いなく、短さゆえに可能であることへの挑戦と実験でもあります。そして、それは今も【ほぼ百字小説】としてX上で進行中で、現在4000篇を超えています。新たな小説の、そしてSFの可能性として、SF大賞にふさわしく、現時点ではまだゲテモノ扱いしかされていないこのような試みを今評価できる賞は、日本SF大賞だけでしょう。自信を持って自薦します。猫も狸もSFだ。
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No.73
永田礼路 『螺旋じかけの海』 同人誌・Kindle
人がこの世界に生きる理由を、偏見なくフラットに描いた漫画。舞台は未来の地球、遺伝子操作で人とそれ以外に分けられたディストピア。そこに暮らす登場人物達は、とても逞しく人間味が際立つ。息苦しい世の中を、確かな感覚を持って歩けるように、ぽんと軽く、そして優しく背中を押してくれる作品。
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No.72
知念実希人 『ヨモツイクサ』 双葉社
この物語、ネタバレは犯罪級。
今年読んだ本、ホラー・ミステリ、サイエンス・フィクション部門の現時点で頂点。
この作品はただのホラーではない。
吉村昭さんの『羆嵐』を思い出した。それから物語のコアになったものが 遺伝、動物学、民俗学の範疇であったことも興味をそそった。ネタバレできないので秘密。
後半から、本を持つ手が、指から手に戻り、もうノンストップでした。なんなら映像化お願いします。
ホラー好きの方、ミステリ好きの方、どんでん返しに伏線回収の好きな方はぜひお読みください。
おそらく知念先生の作品の中でも私のベスト3に入ります。
元々先生の作品のもつ描写 風景の色彩、空気の匂い 湿気 そんなのが全然伝わってくる感じ好きなんですよね。
で、怖いわ。まだ怖い。しばらく怖い。
この後、1週間は夢に出ました。 -
No.71
原作・脚本・監督:針谷大吾、小林洋介 TVドラマ『City Lives』 フジテレビ
フジテレビで深夜放送されたVFXモキュメンタリーSFドラマ。
SF作品であり、作家個人の個性が際立つと同時に堂々たる一般向け作品であることが意義深い。
視覚的な不思議と驚異がノスタルジーにいろどられた本作は、現代のテクノロジーと社会インフラに守られながら孤独に生きる視聴者にまっすぐ届いたと思う。
生きている街、実在の街を擬態し生成変化する街に潜伏調査する人間たちを描く本作は、不条理と孤独が暖かな関係とつながりに辿り着き、しかし新たな不穏や疑念をはらんで甘ったるい解決をしない。
それはきわめて現代的な人間観であった。
新しい表現であると同時にSFマニア限定ではなく、堂々と一般人に訴求する作品が出現したことをもって日本SF大賞にエントリーするものである。 -
No.70
太ったおばさん 『出会って4光年で合体』 同人誌
「インディーズなアダルトSFコミック」である。エロ同人誌にSFの大傑作があると聞いてFANZAの名さえ知らず購入した私は「太ったSFオタクのおばあさん」なのだが、この作品の輝きに完全にまいった。
このうえなく個人的な創作でありながら、エロ漫画というジャンルへの情熱と信頼が表現の根幹にある。それが遠い宇宙や遠い未来、戻れない過去に有機的につながり、現代社会の底辺で生きる無名の個人のみじめな人生を照らすのである。
この作品以前と以降でSF表現は決定的に変わってしまうのではないか。
作品内容のみならず、web上で出版社を介さずに発表・購読が完了する場でこれほどの作品が生まれていたということも知ってほしい -
No.69
大森望(編) 『NOVA 2023年夏号』 河出書房新社
『NOVA』シリーズ初の女性作家のみの本で、日本SF史上初の女性作家のみのアンソロジーとも謳われている。たしかに類書は近年の日本のSF出版にはほとんど見られず、編者が「二〇二〇年代のいま、女性の作家たちがいかに豊穣なSF/ファンタジー世界をつくりあげているかを一望できるショーケース」とも述べている通りのアンソロジーだ。日本SF大賞にふさわしい作品の条件が「SFの歴史に新たな側面を付け加えた作品」であるのならば、このアンソロジーは間違いなく日本SF大賞にふさわしいだろう。
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No.68
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
SFと伝統芸能である狂言の融合という斬新さに驚きましたが、その世界観に魅了されました。能舞台という制約がある中で演じられる物語は、かえって観る人の想像力を刺激するのでしょう。
「龍宮之使」は、SFの新たなジャンルを確立したといえるのではないでしょうか。 -
No.67
新馬場新 『沈没船で眠りたい』 双葉社
科学技術が急速な発展を遂げる現代社会について、読者へ問いを投げかけながら、ミステリーの要素も入れつつ物語を完結させていく構成が最高だった。
本作は一貫して「テセウスの船」の「物事を構成する物質が入れ替わったとしても、入れ替わる前と全く同じなのか」というテーマを中心に据えながら、物語は進んでいく。一時期サラリーマンや就活生をざわつかせた、「人間の仕事がAIに代替されるのでは?」という恐怖や、誰かの身体の一部が機械になったとき、今までと同じように接することができるだろうかという、人類が今後直面するであろう葛藤の描写が生々しい。
この文章を書いているいままさに、中東で兵士に代わりにドローンが戦線へ投入されている報道と、人間が苦労して対処してきた農業分野の課題をドローンが解決する報道を観て、本作品が投げかけた問いの重さに絶望しかけている。
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No.66
太ったおばさん 『出会って4光年で合体』 同人誌
男性向けロリエロ同人誌である本作だが、含まれているジャンルは多岐に渡る。軽妙な文体と細部の作り込みが素晴らしく、読む手を止めることができない。狙って書いたというより連鎖的に衝突して出来上がった作品のような印象を持つが、過去に大好きだったSFの世界観を改めて味わうことができて、エロ目的ではないのにひどく幸福になってしまった。
https://www.dlsite.com/maniax/work/=/product_id/RJ01068994.html -
No.65
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
狂言とクトゥルーの融合!
日本の伝統芸能である狂言と、アメリカ創造のクトゥルー神話の融合が初めてのチャレンジで、全く新しいどこにもない不思議な世界観を、より多くの人に触れて楽しんでいただきたいので推薦します。 -
No.64
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
日本の伝統芸能である狂言と、アメリカの神話が融合した作品は、どこにもない独特の世界観を創り出しています。
狂言は、日本の古典芸能の一つで、能と並んで演じられることが多いものです。滑稽な演技や、ユーモラスな台詞が特徴で、老若男女問わず楽しむことができます。
アメリカの神話は、インディアンやヨーロッパの移民などの文化が混ざり合ったものです。自然や動物を神聖視する考え方が多く、独特の魅力があります。
この二つの文化を融合させた作品は、日本の伝統芸能の面白さと、アメリカの神話の奥深さを同時に味わうことができます。また、日本の文化を海外に紹介するという意味でも、非常に意義のある作品と言えるでしょう。 -
No.63
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
SFと狂言が融合した世界観!
あのクトゥルフ神話が何と狂言に!?
不思議な感覚で言葉選びが面白いです!SAN値という言葉が狂言に出てくるとか本来ならありえないのにすんなり受け入れられる!
激推薦です!
映画「龍宮之使」も併せて観ていただきたい。 -
No.62
飯野文彦 『飯野文彦異色幻想短編集 甲府物語』 SFユースティティア
SFプロローグウェイブに発表した短編を中心に、一冊にまとめていただきました。現実か幻想か、迷路のような世界に入りこむ感覚を表現。これまでに無い独創性や意外性を持った幻想世界を想像、創造したと自負しております。
SF大賞の推薦基準である「このあとからは、これがなかった以前の世界が想像できないような作品」「SFの歴史に新たな側面を付け加えた作品」に該当すると考え、自薦いたします。 -
No.61
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
日本の乙姫伝説とH・P・ラヴクラフトのクトゥルー神話を融合させた原作・製作・脚本、浅尾典彦さんによるカルト的夢人塔映画『龍宮之使』に触発された、プロの狂言師による世界初?の狂言とクトゥルーのコラボ作品。映画のテーマをシンプルにまとめあげ、笑いの世界に引き込むと云う、堺能楽会館で公演された、快挙を成し遂げた作品です。
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No.60
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
SFと伝統芸能の融合が導く、新しい可能性を高く評価します。
歌舞伎や落語や文楽も、もっともっとSFと融合していくきっかけになってくれたらいいと思ってぃす。このような融合でこそ、SFも伝統芸能も、更に新しい展開と市場、表現を得られるのではないでしょうか。SFが文化と不可避に繋がる未来。この道を広げていくためにも、強く推したいと考えるものです。 -
No.59
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
室町から続く伝統芸能、狂言の世界にあって、古典を踏襲するだけでなく、もののけ狂言という新しいジャンルにチャレンジした作品。
クトゥルー世界を表現した浅尾典彦さん原作映画「龍宮之使」を狂言に創り替えた新しい試みは、この作品からさらにシリーズ化され、狂言の世界に一石を投じるであろうと予感させる。
乙姫から授けられた玉手箱を巡って、漁師と権力者の愚かしい欲望はいつの時代にあっても同じようだ。
哀れさえ感じられる二人の争いは人間の本性なのか。
その騒ぎに再び現れた乙姫は争いのもとの玉手箱を返せと迫る。
クトゥルーファンにウケる文言も散りばめられ、クスリとする場面もあり、心正しき、清き人はずの人間も願望が叶うとなれば己の欲望に支配されてしまうというのも皮肉でユーモラスチック、そこに登場する乙姫の怒れる姿も新しく斬新である。 -
No.58
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
クトゥルー狂言と聞いて想像がつきませんでした。狂言師が能舞台で演じる内容は狂言の軸はぶれていなくて、ゲームが好きな人にも楽しめると思いました。能楽は台詞の意味が直ぐに解らなくて難しいけど、クトゥルー狂言は興味深々で台詞を楽しめました。
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No.57
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
映画「龍宮之使」は名作である。しかしながらそれをよりによって狂言にするとは名状し難いなんとやら。驚くばかりである。そして何よりこの作品をエントリーしたSF大賞の慧眼と懐の深さに敬意を表します。この作品は先の映画と共に世に知らしめてやりましょう!
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No.56
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
ラヴクラフトのクトゥルー神話を日本を舞台に描かれた初の映像作品「龍宮之使」、それをなんと「狂言」で演じるとは! 玉手箱によって助長される人間の欲望渦巻く世界、おぞましくも滑稽な人間模様は、狂言という表現を得てさらにおもしろおかしく展開されていきます。https://m.youtube.com/watch?v=NkO6LZS2QFA
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No.55
太ったおばさん 『出会って4光年で合体』 同人誌
382Pの成人向け同人マンガ、しかもページ数以上に圧縮された圧倒的テキスト量。この時点で異様な作品だが、読み終えるとこの形式でしか出来ない必然性と説得力が理解出来る怪作。
仏教説話じみたプロローグに端を発し、表題通り4光年へと至る物語。時間描写の縦横無尽ぶりは無法のダイナミズム!
物語を駆動させるのは人の叡智、性の営み、そして何より登場人物の善性と、月次ながら愛としか言い様のない在り方。SFとは人間の物語だ。
長い旅路を繋いで描かれた景色は、きたなくてきれいで、祝ぎに満ち溢れたものでした。 -
No.54
佐川恭一 『清朝時代にタイムスリップしたので科挙ガチったみた』 集英社
自己同一性を最も深い所で規定するものは性癖だが、近年その主題は避けられがちである。そこに敢えて着目した点でも価値のあるこの短編集の表題作は、題名通り高校生が清朝にタイムスリップして科挙を目指すという驚くべき発想のSF作品となっている。主人公は世代トップの秀才で受験に飽いているが、清朝で科挙という手応えある目標を発見する。それに向けて自己を追い込み成長していく姿は涙を誘ってもいいはずだが、彼の闘争を全編に渡ってドライブしていくのはまさに彼の性癖であり、そこに共感・感動することが予め禁じられている。つまり、この作品はSFやエンターテインメントの作法に忠実なようでいて、実は全的に反抗しているのである。他にも東大20浪の男を扱った『東大A判定記念パーティ』など、極端な状況からの思考展開を実験する作品群が収められたこの本は、今後のSFが拓きうる可能性を大きく広げる光となるだろう。なお、自薦である。
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No.53
太ったおばさん 『出会って4光年で合体』 同人誌
所謂「エロ同人誌」という物でありながら、表紙含めて382ページ、本格的な実用ページに至るまで320ページを要するという異質な作品。
過剰な前置きと思わせて、作者の描きたかったであろう「実用」を設立させるための伏線がこれでもかと詰め込まれている。
近年ネットミームと化している「SEXしないと出られない部屋」をSF的に壮大なスケール成立させる手腕も見事。ただ淫靡さで終わらない、不思議な読後感を得られる。
「異質な怪作」と言ってしまえばそれまでだが、作者の熱が込められ、それを直球で受け止められる名作である。 -
No.52
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
この作品を「能楽会館」という特別なステージで鑑賞できたことは、非常に稀な体験でした。ファンタジーSFであり古典芸能(狂言)であり大阪の文化遺産記録でもあるという3重、4重の構造がミステリアスでした。浅尾典彦さん原作・脚本による、そんなクトゥルー狂言『龍宮之使』を応援いたします♪
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No.51
長谷敏司 『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』 早川書房
異種知性とのファーストコンタクトと父親の介護。その2つを通して現れる人間性は、どこまでも切実に胸に迫ってくる。自分の人生をフィクションに昇華するという難行の結果を、これ以上ない形で見ることができた。作者に敬意を評したい。
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No.50
太ったおばさん 『出会って4光年で合体』 同人誌
https://www.pixiv.net/artworks/109081533
https://www.dlsite.com/maniax/work/=/product_id/RJ01068994.html成年向けの創作同人作品でありながら、その枠組みを軽々と越えてくる大作でした。
382頁の中にポルノ、SF、伝奇、ビジュアルノベルといった要素が散りばめられています。
2023年のSF作品を語る上で欠かせない一冊であることから推薦いたします。 -
No.49
王谷晶 「東京都稲城市に次元の扉が開いて十年が経った」 Kaguya Planet
異なる知的生物との接触を描いた短編だ。とは言うが、世界の危機とか、他種族との軋轢による戦争とか、そういったテーマとは根本から異なる。異世界との接触による世界の変容は受け入れられ、密な交流が互いの種族に発生している。そんな中で、役者の夢破れて、異種族との折衝をするようになった青年。彼が役者を断念するに至った理由と、とある異種族の役者の邂逅が、ほのかな光を与えるエンディングには、目から鱗が落ちるとともに心打たれた。種の違和、それは2つの属性を繋ぐ希望になるのかもしれない。
https://virtualgorillaplus.com/stories/tokyotoinagishinijigennotobiragahiraitejunengatatta/ -
No.48
相川英輔 『黄金蝶を追って』 竹書房
SF(サイエンス・フィクション)もSF(スペキュレイティブ・フィクション)もSF(スコシ・フシギ)もある短編集。多くの作品が、日常と非日常のはざまに潜む奇妙で素敵な世界が描かれている。アイディアは奇抜なのに、どこか「自分の身にも起こりそう」と身近に感じられる不思議。地球の滅亡を望む主人公にさえ最後まで寄り添う姿勢が素晴らしい。英訳されて海外で先に評価されたとあとがきにあるが、日本国内でも評価されべきと思い、ここに推薦する。
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No.47
吉田隆一 音楽アルバム『SAKAI-境』 doubtmusic
SF音楽家を名乗り文筆活動も盛んな吉田隆一がバリトンサックス奏者としての本領を発揮した新作アルバム「SAKAI ー 境」。
金属の管に人が息を吹き込み生命を与え語りかけるプロセス自体が既にSF的だが、本作では時にノスタルジック、時に未来的な情景がバリトンサックスの深く多彩な音色によって紡ぎ出される。楽団ではなく楽器と演奏者が1対1で作る音楽ならではの緊張感と豊かさ、そしてセンスオブワンダーを感じさせる名盤。
さらにライブでは身体に鈴をまとい塩ビチューブを振り回して不思議な音を繰り出したりと音楽サイボーグのごときハイブリッドな演奏が展開される。実演のダイナミズムも含め新たなるSF表現として推薦する。
https://www.doubtmusic.com/items/73372203 -
No.46
太ったおばさん 『出会って4光年で合体』 同人誌
R18同人誌の皮を被ったハードSF小説。これに尽きる作品です。R18でありかなり人を選びますがそれを踏まえておすすめできる作品です。ポルノだからこそできるセカイ系ボーイミーツガールであり伝奇モノでありSFでもあります。一応漫画ですがビジュアルノベルといった方がいいほどの文字数でかなり読むのに時間がかかります。しかしその中に緻密に織り込まれた伏線と同人誌とは思えない作画に感動します。たかが同人誌です。しかし同人誌だからこそできる表現に圧倒されます。よろしくお願いします。
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No.45
太ったおばさん 『出会って4光年で合体』 同人誌
平成初期の空気を感じる絵柄で、R18作品で、試し読みの範疇もいきなりエロだからと侮るなかれ。
怪異とSFとミームがミキシングされたことで、「R18の文脈でしか成立し得ない」作品へと昇華されている。
漫画ならではの「その絵作り、すごい!」と、文学的な「その物語構造、すごい!」に加えて、SFとしても「その設定はやられた!」と唸るだけのものがあり、素晴らしいです。 -
No.44
機能美p 自主制作アニメ「そんな話を彁は喰った。」 youtube
昨今、創作界隈を賑わせている生成AIの未来を予言したかのような一作。
まだChatGPTが3.5になって大きく話題になる前に制作された作品というのが何よりも驚きを隠せない。
少なくとも、この作品が報道メディアにAIが大きく取り上げられるより以前からあることで、AIがどれだけ発達しても「人間の創作」というものに希望を見いだせるようになったという点で、自分にとってはこの作品の発表以前とは思考が変わったため、本当に素晴らしいと思っている。 -
No.43
機能美p 自主制作アニメ「そんな話を彁は喰った。」 youtube
創作と自動生成AI、都市伝説と妖怪と幽霊文字。
喰って喰われて、生まれてく。
創作物の生存競争。と銘打つ、「架空の自動AI生成による創作支援サービス」とそれを扱う創作者から始まり、都市伝説ネットロアを巡る怪異のファンタジーを経由して、我々が行う創作とはなんなのか、に辿り着くまでのお話です。
ChatGPTのリリースより前に公開された作品で(初公開時ば2022年9月17日イベントにて)「AI(機械)がしれっと嘘を吐く」という「違和感」が違和感ではなくなった……そんな常識が書き換えられる前に描いた、人間の妄想を100%使ってひねり出した物語です。
「youtube」での視聴を意図した、前編後編です。
PCでの視聴が推奨。(リンクが表示されないため)前編
https://youtu.be/iw1njDF5tSA
後編
https://youtu.be/sefuETvbSp0 -
No.42
兎谷あおい、ぷら虫、HolmoN ゲーム『Ainder』 Annulus
「日和見主義者!批判の自由を奪うな!」
大手ゲーム販売サイトがAI規制をすることによって、今,我々の「表現を批判する権利」は、制限されている。
この「Ainder」もまた、批判する権利を奪われたゲームだ。
「Ainder」は、AIツールと人間の関係を愛する人間によって、作られた。遊べば粗製濫造の時代を終えた事がわかる。立派なフィクション作品である。
もちろん、AIツールが不確実性の中にあることは常識だ。
そのうえで、我々には、多様な角度から想像力を持って批判する権利がある。AI史、著作権、創作性…。
かつて、日経「星新一賞」はAIと人間の共作部門を創設した。
SF大賞もAIツールとゲームについて批評する機会を持たなければならない。
私は、自由にゲームを批判できる未来のために、「Ainder」をこの場で推薦する。
https://onl.sc/ujL8ffg -
No.41
太ったおばさん 『出会って4光年で合体』 同人誌
「ポルノなのに凄い」「エロ同人誌なのに凄い」ではない。「ポルノ・エロ同人誌である。そして、凄い」のだ。オタク文化、エロ漫画文化が(ある程度ではあるが)人口に膾炙し始め、メガコーポ群が現実の市場を支配しつつある今の時代だからこそ、ある種の親和性とリアリティを持って我々の心に入り込むであろう作品。あるいは、この作品が生み出されるために、生命は誕生以来約40億年の間ずっと交配し進化し命を紡ぎ続けてきた(そしてこれからもその営みを続けていく)のではないか、という錯覚さえ覚えるような超大作でもある。読み始めた瞬間からは全く想像のつかない規模で展開される、圧倒的な世界設定・ストーリーテリングと、それに説得力を持たせるパワフルな背景美術によって読者が誘われる、時空を超えた小旅行の道程が、正しく”4光年”であるかは、また別のお話ではあるが。
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No.40
太ったおばさん 『出会って4光年で合体』 同人誌
アーサー・C・クラークを始めとした宇宙SFものを好んで読んできたが、これほどコンパクトでうなるような出来の宇宙SFには初めて出会ったかもしれない。この一年で世に出たSF作品の中でという枕詞を付けておいてこの作品の名を挙げないわけにはいかないだろう。この作品に性的描写が含まれていることは、地球における生命の連なりとその外側に在る生命体との対比を描くにあたり避けては通れぬことであると感じる。成人向け作品であるという一点でエントリーに値しないとするならばやむを得ないが、ぜひこの作品にはSF史に名を残してほしいと願う。
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No.39
倉田タカシ 『あなたは月面に倒れている』 東京創元社
個々の作品の質が非常に高い。短編集としての構成もよく、個々の作品につながりが感じられ、短編集としてまとめる意義が高い。倉田氏の作品は、傾向がばらばらであると見られがちのところがあるが、この短編集で一連の作品をまとめて読むことで、著者の目指すところがよくわかり、理解が深まる。「おうち」はこの世界とは少し違う世界で、厳しい状況における主人公の心情が、違う世界の描写を通してひしひしと伝わってくるのがとても良く、また、結末の温かさが心地よい。後半の作品群については、「ナンセンスな」「奇をてらった」「実験的な」「意味不明」な作品と言って片付けてしまうのは、あまりにももったいない。一人の読者としてこのような世界を楽しみ、このようなセンスの持ち主が本格的なSFも手掛けているということに感謝し、今後のSF界を牽引していってもらいたいという気持ちを込めてこの作品を推薦します。
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No.38
太ったおばさん 『出会って4光年で合体』 同人誌
SFとエロどちらも引き算してはいけない形でかつどちらの愛好者にも強く響く完成度に衝撃を受けました。この組み合わせでみんなを感動させたことは、これからの創作に強く影響を与えると感じました。
決して多くの人間には受け入れられない作品ではあると思います。しかし、人間の技術力と愛によればどんなにはるばる遠いゴールも不可能は無いという希望を抱かせる作品でした。SFとエロ漫画、どちらの趣味も引け目なく、もっとずっと愛していたいと声高に叫びたくなる勇気をもらえました。 -
No.37
太ったおばさん 『出会って4光年で合体』 同人誌
https://www.dlsite.com/maniax/work/=/product_id/RJ01068994.html
オンライン頒布同人誌の時代だからこそ可能な怪作。ただでさえ同人誌としては破格なページ数の多さなうえ、漫画と小説の境界を曖昧にした表現手法が多用され情報密度は通常の漫画の数倍。その中で語られるストーリーは伝奇ラブコメから始まったかと思えば気がつけばガチガチのハードSFまで辿り着いており、そのうえであくまで18禁漫画でしか成立し得ない形で完成している。 -
No.36
太ったおばさん 『出会って4光年で合体』 同人誌
SF、同人マンガ、エロマンガなどさまざまなジャンルの文化の進歩と、現在の個人でマンガがネット配信のできる状況、すべてが揃った現在の土壌でにょっきり生えてきた作品。
現在日本以外では社会的に配布することも難しいであろう内容でもあり、今現在評価し記録にとどめておくことは重要。
そのうち日本でも規制されて読めなくなるかもしれませんよ? -
No.35
太ったおばさん 『出会って4光年で合体』 同人誌
エロ同人ではあるものの、一人の宇宙人の美少女と、日本人の男性が、様々な流行のギミックの亜種を巧みに利用した展開に翻弄されながら結ばれていく展開に胸が熱くなった。ボーイミーツガールとしてもよくできていると思う。タイトル回収は本当に見事で、個人的にはモブだと思っていたあるキャラクターに栄誉をあげたい。
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No.34
太ったおばさん 『出会って4光年で合体』 同人誌
最初はただのポルノだと思いポルノを期待して購入しました。導入は伝奇物っぽいポルノから始まりますが本番はまだかまだかと読み進めている内にグイグイと世界観に引き寄せられていきました。伝奇物だと思いつつ更にページをめくるといつの間にかとんでもなく壮大なSFの世界に突入していました。この作品は伝奇物でありSFでもありながらあくまでもポルノを描いた非常に素晴らしいSFです。審査員の方々には是非正当な評価をしていただきたい。
販売元
https://www.dlsite.com/maniax/work/=/product_id/RJ01068994.html -
No.33
太ったおばさん 『出会って4光年で合体』 同人誌
私はずっとインターネットで個人が発表する1人の執念が込められたような作品を読んできました。今作はその中でも、語られない背景の広大さと、描写される人間の内面の緻密さに卓抜したものがあります。
ポルノ作品ではありますが、400P近い本編のラストに初めての性交が描かれる本作の構造は、ポルノであることを作品の魅力に昇華しています。
これらの商業では出せない、個人だからこそ出し切れる拘りは日本SF大賞が掲げる「このあとからは、これがなかった以前の世界が想像できないような作品」という基準に合致すると考えます。
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No.32
久乙矢 「算業構造審議会 著作権制度小委員会「隷和5年度著作権制度改革(復活)の方向性検討に関する中間報告」 anon press
ChatGPTを初めとする人工知能の発展が目覚ましい現代、人工知能という言葉のSF的な想像力は現実が追い抜いてしまった感覚があることは多くの読者が感じていることだろう。これまでのSFが人工知能を良きにせよ悪きにせよ、人類のパートナーや反逆者と設定した作品は多く存在する。しかし本作は現行の人類に取って代わるようなポストヒューマンとして設定し、そのさらに遠くのオーバー・パースペクティブに置く視座は新しいと感じた。これは大きなSF叙事詩の一端を覗くひとつの報告書だ。SFが未来の文学と言うならばその未来を見通す力を持つ本作を強く推薦する。https://note.com/anon_press/n/nea8516c01247
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No.31
太ったおばさん 『出会って4光年で合体』 同人誌
「エロ」という戯画的にすら扱われがちのテーマが、壮大な視点から卑近な視点へと我々の住む世界に一本の線を通しているのだという揺るぎない事実、その一点を途方もない設定と緻密な描写で描き上げた大作の名に相応しい大作。ポルノというテイで発表しなければならなかった、そこに疑問など湧きもしなかっただろうと思わせる、文化の生み出す説得力に圧倒された。賞とは無縁の「怪作」と扱われた方が本作の為かもと思ったが、最終的にはそんな杞憂すら吹き飛ばす体験が残った。
https://www.dlsite.com/maniax-touch/work/=/product_id/RJ01068994.html/?utm_source=twitter&utm_medium=social-media&utm_campaign=workpost_sale&utm_content=RJ01068994&locale=ja_JP
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No.30
北野勇作 《シリーズ百字劇場》 ネコノス
Twitterで始まった『ほぼ百字小説』の試みは、『じわじわ気になる(ほぼ)100字の小説』シリーズから『100文字SF』を経て今年のシリーズ百字劇場の三冊へとつながった。この間に北野さんが提唱したマイクロノベルという言葉もすっかり定着した。百文字で描かれる奇妙な話は、北野さんをぎゅっと押したらいくらでも出てくるような気もするが、そうであったとしてもこの時点で何らかの評価を下すべきではないかと思う。
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No.29
永田礼路 『螺旋じかけの海』 同人誌・Kindle
少しだけ(たまにはたくさん)変わった『人』たちが出てくるお話。主人公が一番変わっているけれど、芯を持って他の人たちと関わり合い助けていく。彼の来歴が明らかになる過程はなかなかゾワゾワした。『人』とはどう定義されるのかという問いも含んだ世界観はとても興味深いものでした。
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No.28
新馬場新 『沈没船で眠りたい』 双葉社
まじですごい。徹夜で読んだ小説ははじめて。Twitterでタイトルエゴサして、この賞に応募したから、これが推薦になってるのかわからないけど、本当にすごかった。人間ってなにか、じぶんってなにか、すごく考えさせられた。特に悠の頭にナノマシンが打ち込まれたシーンがすごかった。この文章も、もしかしたら違う自分が書いているのかもしれないと考えると怖い。すごい小説だった。
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No.27
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
SFと狂言を組み合わせる発想が斬新。誰もが知っていて古典SFアイテムとも呼べる「玉手箱」を通した人間模様のおかしさや泥臭さを、狂言がうまく拡張してくれる作品。
https://m.youtube.com/watch?v=NkO6LZS2QFA
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No.26
夜野ムクロジ 自主制作アニメ『午前0時の時が鳴る【ムクロジ版】』 youtube
https://youtu.be/sYgCyTTkDoE?si=U34YwdKpv0P4Z_OA
漫画家の夜野ムクロジ先生が、映像も声も歌も全て1人で作ったドット絵の自主制作アニメ。
文明崩壊後の世界でただ1人生きる女の子の物語。古いゲームを想起させるチープな映像だけれど、孤独の中で生きる意味を問う作品。自主制作アニメならではの圧倒的な一体感と強く切実な想いがこの作品には込められている。 -
No.25
永田礼路 『螺旋じかけの海』 同人誌・Kindle
遺伝子操作が産業として発達した時、それは病に苦しむ人の光だったが、神の領域に手を付けた代償は子孫の身体に人以外の生物を顕現させるようになっていた。異種キャリアと呼ばれるようになり、ヒト優勢保護法の基準外とされた人が、人扱いされなくなった。そんな世界で異種キャリア発現をコントロールしようとする主人公オトは知的なくじらと出会う。一方、企業は異種キャリア発現の元凶である悪魔の処遇を迷っていた。自らの身体に数多くの異種遺伝子を抱えるオトに過去が迫ってくる。
現役外科医師による、医療系SF作品。人が人である線引きはどこにあるのか。人以外が顕現してしまった命は人として生きられないのか、はっきりとした答えの出ない問を繰り返しつつ、人として生きていきたい主人公と周囲の人々の物語です。 -
No.24
永田礼路 『螺旋じかけの海』 同人誌・Kindle
遺伝子工学が進み、動物同士のキメラや、ヒトと動物のキメラが作れるようになった時代のお話。
生まれてくる子供にもヒト以外の遺伝子が発現する者もいた。
ヒト以外の遺伝子を15%以上持っていると「ヒト優生保護法」の範疇から外れ、駆除対象になってしまう。
主人公、「生体操作師」の音喜多が、ヒトと動物のキメラ(基準外キャリア)と関わる中で、「ヒトとは何か?」「生とは何か?」について掘り下げてゆく、壮大なSF作品。 -
No.23
新馬場新 『沈没船で眠りたい』 双葉社
本作の真価は添え書きに現れる。「本作品は書き下ろし」のあとに続く一文の切れ味と言ったらない。作者自らが立てた「テセウスの船」というテーマ軸から、最後の最後までぶれない、ぶらさないという姿勢は見事。鬼気迫るものを感じられた。この添え書きの存在が、AIを題材にした小説の「これ以降と以前」を分けるだろう。
また、多くのSF作品を引用しており、SFへの愛も感じさせる。これからの日本のSFを牽引する旗手になってほしいという期待を込めて、本作と著者を大賞へ推薦する。 -
No.22
永田礼路 『螺旋じかけの海』 同人誌・Kindle
生命の螺旋の中に組み込まれた、それぞれのヒューマンヒストリー。 ヒトの進化のエゴの先にもたらされる、「変化」を、不幸とはせず、発現した変化を受け入れて生きていく。 色々な(キャラクターの)視点で、物語を読むことが出来て、何度も楽しめる作品です。
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No.21
永田礼路 『螺旋じかけの海』 同人誌・Kindle
海のように深いお話です。
医療が発達した結果、体の一部が動物である人々が動物である箇所の割合が何%なのかで、人間であるかどうかを線引される世界で、ヒトとは何かや生きるとはどういう事かを考えさせられます。
SFなので考えられないような事が起こりますが、違和感はなく「あるかも知れない」「起こり得るかも知れない」と感じ、とても引き込まれます。
また、作中に出てくるちょっとした会話などがとてもロマンチックで繰り返し読みたくなります。
派手な絵柄ではありませんが映画をみているようで、むしろそこが魅力です。
幅広い世代で楽しめるお話なので、ぜひ色んな方に読んで頂きたいので、推薦します。 -
No.20
斜線堂有紀 『回樹』 早川書房
とにかく大好きです。突飛なアイデアと心当たりがありすぎる感情のバランスがよく、とくに表題作「回樹」は何度も読み返してます。愛を証明できる回樹がもしも私たちが生きるこの世界にあったら、きっと多くの人が律と同じことをする、少なくとも私は同じことをしてしまうと思いました。最初から最後まで律と初露の姿が目に焼きついて、こんなに温度の高いSFは初めて読みました。すごく体温がある作品だと思います。だからとても大好きで大切な作品です。回樹の性質と同じように、この作品がとにかくたくさんの人に広まってほしいと思わずにはいられません。
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No.19
永田礼路 『螺旋じかけの海』 同人誌・Kindle
バイオSFとしての技術点がとにかく高い!生物を扱う者として、バイオ系のSFは、ちょっとアホになって読まないといろいろとアラが見えてしまうが、この作品はそれがない。設定・構成素晴らしいです。実写化してほしい。
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No.18
永田礼路 『螺旋じかけの海』 同人誌・Kindle
人が生命を操ることへの功罪を美しく、そして楽しく描いた作品だからです。主人公が様々な登場人物の苦悩や命の在り方に向き合い、その生き方を助けて寄り添う物語でした。また、最終的に主人公は因縁の人物から向けられた傲慢な支配思想に反感を抱きますが、実は自身も他の生物に対して似たような感情を向けている点も、ある意味でとても残酷で、しかしながらその傲慢さや苦悩こそが人を人たらしめるものであり、その意味で間違いなく主人公は人間なのだと明確に示していました。そういった美しい物語を、作者の医学・科学知識に基づいた細部までリアルな描写がしっかりと支えています。
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No.17
永田礼路 『螺旋じかけの海』 同人誌・Kindle
世界観がしっかりしていて読んでいて矛盾を感じない。医学的な事柄も簡素で明快なセリフですんなり理解できる。また、言葉で理解できずとも人物の表情で察することができる。
どんな時代どんな状況でも人は生に執着するがそれを感情過多にはならず現実味のある表現で表しているのがよい。最後の死生観に救われる思いがする。 -
No.16
永田礼路 『螺旋じかけの海』 同人誌・Kindle
現役の医師が描く本格SF漫画。DNAがまだらに変異してしまう疾患が蔓延する中、人間と異形を隔てる境目がどんどん曖昧になっていく。人間とは何なのか、サイエンスを極めて哲学に至る傑作。登場人物が老若男女満遍なく描かれていて、それぞれに人生ドラマを感じさせるのがとてもいい。
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No.15
太田知也 「グラウコスの海藻」 anon press
マイクロプラスチック汚染、腸内細菌叢、シャチのように皮膚を交換しながら泳ぐ新人類…環境保全や生物学に詳しい人間ならピンと来る要素を、これだけ組み合わせ、更にボーイ・ミーツ・ガールの要素を主軸とした作者の手腕には脱帽である。
https://note.com/anon_press/n/nfb53ddcaffd0 -
No.14
平大典 「Mononokemono」 anon press
モノノケモノ、見るからに「もののけ」「けもの」「もの」をかけあわせた造語だが、本作はそんなモノノケモノと、それを狩る者を巡るお話だった。不法投棄の結果野生化したロボットという存在がすでに魅力的だが、精緻な描写が更に拍車をかけている。読み終わった後は、森の静寂が聞こえてくるようだ。
https://note.com/anon_press/n/n3b8cc905a757 -
No.13
津久井五月 「ウーリツァの娘」 都市開発戦略室
本作はSFプロトタイピングの1つ、と言える作品なのだろう。しかし、それ以上の意味を含んでいる。世相を反映したような舞台設定のみならず、主人公が自分を巡る世界との軋轢に悩み、科学技術の力を借りて、文字通り自ら歩み始めるまでを描いた、短い叙情詩と言っていい。技術への希望と、見えないながらも聴覚によって紡がれる歩みのステップの軽やかな描写は、もはや作者の十八番と言っても過言ではないだろう。
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No.12
新馬場新 『沈没船で眠りたい』 双葉社
扱っている題材やテーマ自体は古典的だ。テセウスの船や、身体の代替性はSFでは直接的、または間接的に長く語られてきた。たしかにありふれた題材かもしれない。しかしそれを臆せず書き、この時代に読むべき現代SFとして一段進化させている点が評価できる。現代人が日常生活で一度は感じるであろう機械やAIへの恐怖を、名作SFのオマージュを通し、エンタメ性を損なわずに問題提起するその手腕は見事。社会批判を含んだ視座も素晴らしい。本賞の求める資質に「時代性」が重要な要素として含まれるのであれば、本作品を外すことはできないだろう。
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No.11
長谷敏司 『プロトコル・オブ・ヒューマニティ』 早川書房
AIを題材にしたSF小説の名手が送る傑作。これは作者のひとつの到達点と言えるのではないだろうか。「身体性」というテーマをこれでもかと掘り下げるその筆力は流石というほかない。介護とAIの共生に主眼が置かれた暗めのストーリーのため、エンタメというよりも文学の色合いが強いが、それゆえに読者に深い問いを突き付ける。
このあとの当たり前を描きつつ、土台を築いた作品。AIが弾けた年だからこそ、この書き手を顕彰したい。 -
No.10
浅尾典彦 クトゥルー狂言『龍宮之使』 夢人塔
日本の伝統芸能「狂言」で「クトゥルー世界」を表現した初めての作品。
浅尾典彦原作の映画『龍宮之使』を、自らが狂言に創り替え
2022年10月22日堺能楽会館にて「もののけ狂言」シリーズ第一弾として発表した。
主演は狂言師の安東元。
堺の大浜で漁師(すなどり)アガミが、海中より現れた乙姫の姿の
「龍宮の使い」から何でも願いの叶う「玉手箱」を貰う。
漁師はその力を試すのだが、欲深い役人オリスにまんまと
「玉手箱」を騙し取られてしまう。必死で取り返そうとする漁師。
騒ぎを聞きつけた「龍宮の使い」も再び現れ「玉手箱」を返せと迫る。
クトゥルー狂言『龍宮之使』ハイライト
https://www.youtube.com/watch?v=NkO6LZS2QFA -
No.9
フランチェスカ・T・バルビニ、フランチェスコ・ヴァルソ(編)中村融(訳) 『ギリシャSF傑作選 ノヴァ・ヘラス』 竹書房
この一冊でギリシャが文化大国であるということと同時に、SF大国だということも示された。力作揃いで、とりわけミカリス・マノリオスの『バグダッド・スクエア』は、2人の人格が透明になり消滅していく感覚がしてそれがお気に入りだ。
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No.8
夜田わけい 《蟲医シリーズ》 Kindle
虫を治療するお医者さんのSF物語は、『ドリトル先生月をいく』のような先駆的な例を除けば、恐らくそれまで誰も書いたことがなかった。また作中にて昆虫食を食べる描写があるが、昆虫食を取り入れたSFは川島ゆぞの『助けてくれェ!』のような例を除けば、ほとんど書かれたことがなかったと思われる。そのような意味で異色の小説と言えるのではないだろうか。
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No.7
新馬場新 『沈没船で眠りたい』 双葉社
夜に、この作品を読みました。
読み終わった後に残った感情が、次の日の朝まで、心の中に居座っていました。
人間の労働が機械にとって変わられる2044年の日本で、とある女子大学生が、一体のヒューマノイドを抱いて夜の海に飛び込む。何故彼女は、機械と心中のようなことをしたのか。その謎が、次第に明らかにされていきます。
「私」とは何か。そして、日々めまぐるしく変わる世界の中で、変わらないものとは何か。
近未来を描きながらも、向き合っているのは、何百年も前から人々が問い続けてきたことだと思いました。
ぜひ、あなたと一緒に、この作品の世界に沈みたいです。 -
No.6
林要 『温かいテクノロジー』 ライツ社
「なぜロボットのキミがこんなに温かくて幸せで、一緒にいると涙が出るほど愛おしいのだろう?」
本書は触れ合った人の心を温める「温かいテクノロジー」を実現したロボット「LOVOT」の設計思想と、SFを通じて描かれたロボット社会の未来について述べています。生産性を追求し恐れを生む「冷たいテクノロジー」ではなく、人間が本来持つ愛する力を引き出し花開かせる「温かいテクノロジー」。この「温かいテクノロジー」こそ、人類とテクノロジーが共存する新しい道ではないか?
この問いとLOVOT自体が、AIに関する分断された議論に一筋の光を投げかけることから、SF大賞に推薦します。
また本書の後半部分では、ドラえもんを例に、人々と笑って怒って共感し親友となり得る存在をフィクションからいかに具現化させるかの道のりを、読者は知ることができるでしょう。本書はSFと製品デザイン双方に影響を及ぼす可能性があります。 -
No.5
ヤマザキマリ、とり・みき 『プリニウス』 新潮社
古代ローマの博物学者プリニウスの半生を描いた大河コミック(新潮社刊)が完結しました。単にプリニウスの生涯を精緻な考証で描くだけでなく、彼のまわりで起こるさまざまなSF的事象を同時に語ることで、より奥の深い作品に熟成したと思われます。よって、私は本作を推薦します。(梶尾真治)
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No.4
漫画作者:ナガノ プロジェクト「ちいかわ」 講談社、動画工房
いま日本中で大人気のファンシーキャラを日本SF大賞に推薦するのは奇異な印象があるかもしれません。しかし、X(Twitter)で発表されているマンガ(および、それを原作としたテレビアニメ)は、かわいらしい生き物たちの見ていて頬がゆるむような日常を描きつつ、しばしば不穏で不条理な展開を見せ、さまざまな物語に親しんできた大人の読者たちも唸らせています。妙に生々しい労働体系、奇怪なモンスターの徘徊、意外と生存が厳しい環境……何らかの上位存在によって管理された実験場のような世界は、ディストピアSFの暗い魅力にあふれている。『ドラえもん』のような「子どもたちが最初に触れるSF的な作品」としての意義は大きいと考えます。
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No.3
監督:藤井慎吾 TVアニメ『お兄ちゃんはおしまい』 「おにまい」製作委員会
ある日、目を覚ましたら自宅警備員の青年はJCになっていたのです。
天才の妹に飲まされた謎の薬がきっかけで、ひきこもりニートのお兄ちゃんが、妹の妹ポジションに。そこから人々との関係性を再構築していく物語。
COVID-19下の閉塞の中で世界が広がって行く(かわいい)物語は(かわいい)一時の癒やしを与えてくれました(かわいい)。
物語の山場は薬が切れたときに…となりそうですが、まあ、(かわいい)から良いか、という形でアニメはいったん完結です。コミックは好評連載中(かわいい)です。 -
No.2
脚本:バカリズム TVドラマ『ブラッシュアップライフ』 日本テレビ
https://www.ntv.co.jp/brushup-life/
タイムリープ者同士力を合わせて親友を助ける胸熱ストーリーだが、どこまでも軽快で、笑いに満ちている。人生を繰り返しても単調にならないストーリー運びも見事。
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No.1
cero 『e o』 カクバリズム
これまでコンセプチュアルなアルバムを作ってきたceroの新譜は、宇宙への移民を見送る視点や文明崩壊後と思われる世界といった曲ごとに様々な断片を描きながらも、それらがどこか連作のようにも聴こえてくるという作品であり、聴き込んでいくほどに世界の全容を感じられるような1枚となっています。日本SFミュージック史に新たなページを記した作品として推薦させていただきました。
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