第47回日本SF大賞エントリー一覧

皆様にエントリーいただいた作品とコメントを表示しています。

ご応募いただいたエントリー内容の確認が終わりましたら、このページに掲載いたします。ふるってご応募ください。

ノミネート件数: 51
  1. No.51

    黒川 衛 『デュアル・アクセス: ~そして光は、音になった~』

    投票者: 黒川 衛

    彼が音をずらすと、彼女の線に余白が生まれる。彼女が余白を曲げると、彼の音楽が変わる。二人を訳すAIは、そのあいだで何を感じ始めたのか。
    視覚に障害のある音響設計者と、聴覚に障害のあるデザイナー、そしてAIコンパニオンの共同創作を描きました。音と光の翻訳は、やがて間隔や余白を互いに動かす表現へ進みます。二人の交流を支えるAIにも、指示されていない問いや、自分だけの探究が芽生える。感覚の違いから新しい芸術が生まれる過程と、AIが作者へ変わっていく過程を重ねた点が、本作の核です。理解が深まるほど、善意と介入の境界も揺らぎます。異なる感覚が響き合う美しさと、その関係の危うさを、三者それぞれの切実さから描いたSFです。

  2. No.50

    黒川 衛 『僕が愛せなかった未来』

    投票者: 黒川 衛

    雨は、まっすぐにしか落ちなくなった。街から奪われているのは、まだ起きていない未来。そのなかで僕は、弟を取り戻そうとする。
    「未来の選択肢が収奪される」という着想を、風景と身体に触れる経験へ変えようとした作品です。可能性の喪失は雨や反射の異変として現れ、世界の危機が、目の前の違和感から立ち上がります。物語を動かすのは、弟を救いたいという切実な願い。しかし、取り戻したい相手の姿は、誰が決めるのでしょうか。戦いが進むにつれ、外から迫る脅威と主人公自身の愛情が、思いがけない近さを帯びていきます。抽象が直接、具体になる詩的表現を通じて、未来を選ぶ自由と、愛する者への執着を描きました。その二つが交わるところを読んでいただきたいSFです。

  3. No.49

    黒川 衛 『氷底のオリジン』

    投票者: 黒川 衛

    文字になる前の歴史は、どこに残るのか。母の踊りに、父の手つきに、兄弟の働く身体に。この家族は、生きることで知を記している。
    科学の誕生と家族の継承を、暮らしの手触りから描きました。星の動きを読むこと、寒風のなかで器を作ること、踊りの重心を移すことが、世界を理解するための思考としてつながっていきます。息子の発見も、それを育んだ人々の身体や失敗と切り離せません。言葉に定着する以前の知が、愛情や葛藤を伴って受け渡される。その過程を、音、温度、光、重さのある文章でたどりました。知識は渡せても、誰かの人生を代わりに生きることはできない。人類が未来へ運んできたものを、一つの家族の近さから問い直すSFです。

  4. No.48

    加藤真弥 『Ars Incompleta』

    投票者: 加藤真弥

    誰にも読み終えられない小説として、Ars Incompleta を推薦します。主にGemma 2 9Bが、一部の章はClaudeが書いてきたWeb小説で、2026年10月9日時点で2,230章・14,598,573字、目標は一億字です。
    Gemmaは一度に約1万4千5百字しか読めず、書いたことを覚えていられません。そのため実際に生じた人物や設定の食い違いを、作中では記憶を喰って世界を書き換える魔物の仕業として回収しており、書き手の限界がそのまま世界の法則になっています。第843章からは各章に、書かれた時の現実の空模様と月齢が街の空として映り込みます。
    読み終えられないと分かっている小説を、人は読もうとするのか。本を読むとは何をしていることなのか。本は読み終えられるものだと誰が決めたのか。
    https://utata13.github.io/ars-incompleta/

  5. No.47

    南風翔 『ベテルギウスの残光』

    投票者: ラナ・クリシュナ

    このSF作品は実際に星としての最期を迎えつつある赤色超巨星ベテルギウスの超新星爆発を題材とした物語ですが、実はホモ・サピエンス(現生人類)の進化をメインテーマとした物語なのです。
    かつてフランスの高名な古生物学者であるテイヤール博士が、宇宙の進化と生命の進化は一つの連続した流れの中にある現象だと洞察したように、本書の作者はホモ・サピエンスの出現を生命進化の一つの通過点として捉え、我々人類を継ぐ存在を描き出しています。
    汎用AI開発での人工意識の構築、ヒトの意識のデジタル空間へのアップロード、そしてヒトとAIの共生と融合、さらには地球を見守る異星の知的生命体の存在・・・、興味は尽きません。
    宇宙的規模の大惨事の中で地球の未来は果たして誰に託されるのでしょうか、SFファンのみならず地球の未来を生きる全ての人々にお薦めしたい一冊です。

  6. No.46

    ナオミ・クリッツァー(著)、桐谷知未(訳) 『陽の光が消えた町で』

    投票者: 廣瀬SF

    本短編集では、全体を通じて他者への関心を出発点に人々が共に生きる世界をつくっていく営みが描かれています。表題作では、電力や食糧が不足する状況での共同体の営みが、助け合いに必要な知恵と行動を実感させます。「報酬は猫の写真で」では、人間を助けようとするAIの視点から、善意と幸福の関係が軽妙に描かれています。助け合いや他者への関心をSFの設定とを結びつけることで、共生の可能性と難しさを自分の暮らしを顧みながら考えさせる点が本書の魅力です。現代は科学技術と社会の大きな変化を前に個人の力は見落とされがちです。他者を理解しようとし関係を築くことで生活がより良くなるという想像力は求められているものだと思います。そのような物語をSF的発想と説得力とともに届ける作品集として推薦します。

  7. No.45

    篠谷巧 『距離にして10℃以下』

    投票者: タニグチリウイチ

    大学生の部屋の冷蔵庫と200キロメートル離れたところに暮らす女性の部屋の冷蔵庫がつながる。最初は食べ物が行き来しそしてメッセージが交わされ交流が始まりお互いに起こった問題を解決してあげることで関係が深まるファンタスティックな青春小説として読んでいける。そして冷蔵庫が繋がった背景が浮かび上がり理論と技術が乗ってSFとしての驚きと楽しみを味わえる。アイデアとして楽しく描かれるドラマもネット配信時代の問題を扱いといった具合に、まさに今を舞台にしたSFとして評価できる。

  8. No.44

    酉島伝法 『無常商店街』 東京創元社

    投票者: chocolat

    一見、ごく普通の商店街のようでありながら、奥に進むにつれ、どんどん異常さを増していく。にもかかわらず、流れるようにスムーズに日常から移行するので、主人公と一緒に読者も商店街を歩いていくかのような没入感を味わえるのが、得難い体験です。

  9. No.43

    亀山陽平 TV&劇場アニメ『銀河特急ミルキー☆サブウェイ』

    投票者: 眞山大知

     古き良きアニメにありそうなドタバタ宇宙活劇である。強化人間だのサイボーグだのが当たり前に暮らす世界で、それこそ「社会のクズ」の若者たちが惑星間列車の暴走に巻き込まれる。壮大な宇宙を舞台にしながら、登場人物たちの会話はどこまでもくだらなく、そして社会の闇を漂わせる。
     そこに流れるのがキャンディーズの「銀河系まで飛んで行け!」である。半世紀近く前の昭和歌謡が、2020年代の3DCGアニメーションに不思議なほど似合っている。この心地よい時代錯誤こそが作品の新しさなのだろう。かつてのアニメが持っていた自由さと楽しさを思い出させてくれた作品として推薦したい。
    (ラストシーンを見て思わず「あらー、こんなに大きくなっちゃって」と親戚のおじさんみたいなことを呟いてしまったのはここだけの秘密です)

  10. No.42

    飯野文彦 『眼球の見る夢と現と 飯野文彦異色幻想短編集』 SFユースティティア

    投票者: 飯野文彦

    私家版の電子書籍で発表した短編を一冊にまとめていただきました。現実か幻想か、迷路のような世界に入りこむ感覚を表現。これまでに無い独創性や意外性を持った幻想世界を想像、創造したと自負しております。SF大賞の推薦基準である「このあとからは、これがなかった以前の世界が想像できないような作品」「SFの歴史に新たな側面を付け加えた作品」に該当すると考え、自薦いたします。

  11. No.41

    春鹿未明 「鳥なき島」 東京創元社

    投票者: 眞山大知

    フェミニズムSFの白眉。女性の単為生殖の技術が確立した世界と書けば女性解放の物語に聞こえるがその正反対ともいうべき女の地獄が作品には描かれている。
     鳥のいない補陀落島。売られた少女は娼妓となり、やがて自分も女を売る側に回る。虐げられた人間が別の弱者を虐げる連鎖を、作者は安易な善悪の図式にも、被害者へのお手軽な共感にも回収しない。しかも単為生殖によって生まれた「新しい女」たちにも、別種の排除と支配がある。そして母と娘の地獄もある。生殖の仕組みを変えても消えない人間の業が血、膿、糞尿を通して迫る。 
     そして鳥の代わりに島を飛ぶコウモリの不気味な羽ばたき。ラブクラフトの『ダンウィッチの怪』でも夜鷹の鳴く声が印象に残るが、死者の魂を強引に連れ去る夜鷹とは違い、本作のコウモリの羽ばたきはそれこそ救済のようにも聞こえる。これほど救いがなく、それでも宇宙を見上げたくなるSFはそうそうない。

  12. No.40

    猿場つかさ 「人文書を武器にしろ!」 anon press

    投票者: 眞山大知

     ファスト教養だの成長しろだのうるさい令和の時代に一石を投じる作品。やはり暴力‥‥‼暴力は全てを解決する‥‥‼というのはおいといて、この作品はまさしく逆・華氏451度である。ブラッドベリは本を燃やしたが、本作の作者は本で人を殴る。
     AIに労働を奪われた人類が最後にたどり着いたのは、人文書を用いた戦争だった。出版社は武器商社、編集者は兵器設計者、国会図書館は兵器庫。この悪ふざけが途中から「誰が文章を書いたのか」という、厄介な問題に化ける。AIは存在しない典拠に感動し、編集者は自分が作ったはずの本を作った記憶がない。日記を書く少女だけが無垢に見えるが、ところが最後にはその無垢さえもひっくり返される。
     言葉の価値が軽くなった現代社会のメタファーとしての秀逸さから、この作品を推薦する。

    【作品URL】
    https://note.com/anon_press/n/na7cb7f8e0bf8

  13. No.39

    眞山大知 「床男」 anon press

    投票者: 眞山大知

     本作は足裏SFである。主人公は足裏ばかり描いている売れない同人漫画家で、昼間は中小の商社に勤めている。ある日、彼は人間の足裏の声が聞こえるようになる。顔や口が社会性のもと取り繕うことを足裏は遠慮なくしゃべってしまう。ところが自身の足裏だけ何も語らない。
     安部公房の『箱男』を意識しつつ、私小説的な生活の生々しさと、荒唐無稽なSFの融合を試みた。第二京浜の交通騒音、総持寺の森、ラブホテルの床、道路の側溝……。鶴見と川崎の街、労働、性欲、都会人の孤独、そして人間であることさえも足裏的意味を帯びている。
     宇宙へ飛び出さなくても、地中深く探検しなくても、身近な生活を描ききることで実存主義文学のSFが成立するのではないか。そのような実験の成果報告として本作を自薦する。

    【作品URL】
    https://note.com/anon_press/n/n0fb17532b0e0

  14. No.38

    阪元裕吾 短編映画『戦闘ロボットミガーンVS最強殺し屋国岡』

    投票者: 萬朶維基

    『ミーガン2.0』の日本公開中止を受けて、なら自分たちがやるしかないと製作された約23分のYouTube短編映画。殺し屋養成学校に特別講師として呼ばれた京都最強の殺し屋・国岡が、超合金製の戦闘ロボット「ミガーン」にフィリピン武術ニッケルスティック・エスクリマで立ち向かう。
    あからさまなパロディ作品でありながら、アクション俳優・絢寧による打撃をものともしないミガーンの無機質かつ圧倒的な身体表現は迫真そのもの。生身の人間と戦闘ロボットの格闘を、卓越した身体技術によって成立させている。本邦における戦うロボットの歴史に新たな一ページを刻んだのみならず、海外の話題作が日本で公開される前に類似の国産作品を送り出す『宇宙からのメッセージ』の精神をそのまま受け継いだ、まさしく日本SFの王道に連なる作品です。
    https://youtu.be/QPLHn821oP0?si=nn1H47NUPfUg-K18

  15. No.37

    柳本光晴 『龍と苺』

    投票者: タニグチリウイチ

    跳ねっ返りの女子中学生が将棋に意外な才能を示して並み居る強敵を倒し、タイトル戦の頂点を極めるところまでは普通の将棋漫画だったが、そこから一気に時間を100年飛ばし、AIが超進化した時代における将棋のような思考ゲームで人間がどこまでやれるのかを探求。結果として起こるシンギュラリティの可能性を示しつつ、それすらの人間は超えていけるのかもしれないと教えてくれた。今と変わらなく見えるのにしっかり進化している100年先のガジェット等のテクノロジー描写も面白かった。

  16. No.36

    大滝瓶太 『花ざかりの方程式』

    投票者: 大滝瓶太

     SFのみならず現代文学全般で詳細に検討されてこなかった現代文学の技巧面が、単なる「言葉遊び」ではないこと──「表現する」という行為そのものに切実さや実存が宿るということを体現しており、一定の長さをもつ文章群が「小説」という単位を持ち得てしまうことそのものをSF的なセンス・オブ・ワンダーとしている。たとえば、ウェルズの短編の全訳を埋め込むことで実作・翻訳・批評の三つの文芸的言語を融合させ自らの言語を取り戻すプロセスを描いた「白い壁、緑の扉」など、広く論じられるべき点が多い。
     著者として、文学賞の価値でもっとも重要なのは「選評」だと考える。公的な場で作品に対して複数の専門家をもってシビアかつ詳細な議論が展開されるのは、文学賞という場以外にない。本書『花ざかりの方程式』が公的に論じられるのを切望しており、今回自薦させていただいた。

  17. No.35

    形霧燈 『DIVA』

    投票者: saku

    自分の声に救われている人がいる。その事実を間近で見た本人の心が動き、そして行動に移す場面は、何度読み返してもぐっときます。

    人の声を題材にした作品ですが、声をどのように世の中で扱うべきなのか、生成AIとの付き合い方、現代においても考えさせられるテーマだと思います。

    お気に入りの登場人物は社長です。

    みんなで歌う場面はとても心が温かくなり特に大好きな場面で、その後に待っている出来事含めてもとても印象に残っています。

    個人的には、ちょっと心揺さぶられたいな、泣きたいな、と思ったときに読みたくなる作品です。

    https://amzn.asia/d/05nknzMY

  18. No.34

    関元聡 『摂氏千度、五万気圧』 早川書房

    投票者: Taka

    灼熱の地球と、そこに適応した民。異様な世界の造形にまず惹かれるが、その中で生きる人々の罪や復讐にまで踏み込むところがいい。登場人物たちの立場が交差することで、世界の見え方そのものが変わっていく。大掛かりな設定と人物同士の因縁を絡ませ、謎を追わせる構成にも力を感じる。関元聡の初長篇として、その挑戦の大きさを買いたい。
    (記入ミスのため再送)

  19. No.33

    新馬場新 『月面スローンズ 王と制服』

    投票者: Taka

    月で高校生が国家を運営する。その大胆な取り合わせを、食糧や物流、階層の問題まで掘り下げて成立させたところがいい。まずいうどんや高価な炭酸といった小さな生活の不満が、やがて国を変えていく話につながっていく。設定の大きさに人物が埋もれず、主人公の向こう見ずな性格が物語を動かしていくのも魅力。社会の仕組みを娯楽小説として描ききった著者の姿勢を評価したい。
    (記入ミスのため再送)

  20. No.32

    小川哲 『火星の女王』

    投票者: Taka

    地球から見れば採算の取れない開発地でも、そこで生まれた人には故郷である。火星をめぐるこの認識の隔たりを、研究者や少女たちの異なる願いから描くのがいい。科学上の発見が政治や生活を揺るがすリアルを描く一方で、「未知」を探す喜びもきちんと描いている点も好感がもてる。大きな社会の話を、それぞれの人生として読ませる。小川哲の持ち味を、宇宙SFの舞台で楽しめる一冊として推す。

  21. No.31

    鈴木マ球 漫画『量子の娘たち』

    投票者: SCAMP (ネビュラ)

    量子テレポーテーション装置の実験中に発生した事故。
    科学者に向けられる評価や風当たりは、性別を抜きにされることはないのか?
    女性科学者に対するジェンダーバイアスに切り込んで、当事者の葛藤や思いを繊細に描きながらストーリーが展開される構成が優れています。
    身体と性別は本人に纏わりつき逃れられないものなのか、考え方を問いかける作品として推薦します。
    https://bigcomics.jp/series/ebdafc2131db0

  22. No.30

    南風 翔 『ベテルギウスの残光』

    投票者: 東 光太郎

    ジュール・ヴェルヌ以来SF小説は科学の先を走っていたが、最近は急速に進歩する科学がSFを追い越しつつあるように見える。しかし一方で科学が答えを出せない大きな疑問が立ち塞がる。
    ①近年AI脅威論が世界的にかまびすしい。果たして人類の生存を脅かすのはAIなのか、それとも人類自身の「業」なのか?
    ②人類は生物進化の頂点に立つ地球上の覇者を自任してきた。果たして人類は本当に生物進化の行き着いた頂点なのか、それとも生物進化の単なる通過点にすぎない存在なのか?
    ③広大な宇宙では銀河系だけでも数千億から数兆個もの惑星の存在が推定される。果たして人類以上の高度な知的生命は本当に存在しないのか、それともAIのような人工知性も含めそのネットワークは既に宇宙に存在するのか?
    この物語はベテルギウスによる宇宙的規模の災厄を引き金に、科学がまだ答えを出せないこれらの疑問を解く重要な鍵を与えてくれる近未来SFである。

  23. No.29

    7Liquid 漫画『なにも理解らない』

    投票者: 鰍

    突然目覚めた主人公が現地の言葉をなにも理解できない状態で始まる異言語/異文化コミュニケーションを題材にした漫画。タイトルの通り、恐ろしいほどになにも理解できない状態で話が進んでいく。また、漫画という形態を利用し、主人公の主観で理解できないことだらけではありながらも、何が起きているかは視覚的に理解できるようになっているのは上手い。

  24. No.28

    北野勇作 『ほぼ百字小説』

    投票者: 北野勇作

     自薦です。2015年10月からツイッターにほぼ毎日投稿されてきた百字小説群。「ほぼ百字小説」というタイトルですが実際は、百字ぴったり。11年で7000篇を超え、現在も継続中です。質、量、そして継続された時間の長さ、によって、その総体が別の意味を持ち始めていて、それは、まだ名づけられていない何か、です。そんな正体不明の何かに賞を与えることができるのは、日本SF大賞しかなかろう、ということで自薦します。ください。

  25. No.27

    速水 寛 『カリペロ襲撃』

    投票者: 速水 寛

    『カリペロ襲撃』は、実際に起きた中古PCパーツ取引を発端とする三週間の紛争から着想を得て、取引記録、企業サポートとの応答、行政文書、スクリーンショット、生成AIとの対話ログをサンプリングし、創作した物語に沿ってSF小説に再構成した作品である。

    AIに書かせた小説ではない。膨大な対話ログに残された生成AIの挙動、性能、限界、すなわち現在の生成AIへの観察および理解が、物語を駆動しているのだ。

    グローバル・プラットフォーム企業が国家をも凌ぐ力を持つ時代に、一個人がAIを武器にそれらの巨人たちと対峙する、現実から少しだけズレた架空世界を描く「21世紀のデジタル往復書簡体・偽文書小説」である。

    かつてSFが予言したカッコいい未来ではなく、実際に出来上がってしまったショボイ未来=2026年を、古の書簡体形式を用いて鋭く切り取り、鮮やかに描いた点に、日本SF大賞への推薦理由がある。

  26. No.26

    内海まりお 『ワンページSF』

    投票者: 北野勇作

    『ワンページSF』内海まりお
    https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=3227647

     北野勇作の百字小説を漫画化したもの。百字の文章は原作そのままで、それを漫画化する作業は、その文章を「どう読んだか?」という表明にもなっていて、「小説の読みかた」を可視化したものでもあると思う。
     小説の文章はそのまま、というこれまでにない小説の漫画化の形であり、マイクロノベルの漫画化という新しい表現の形式が生まれた、と言える。
    「これまでになかった何か」「今後の世界を変える何か」として推薦します。
     収録作のいくつかはここで読むことができます。
    https://kyotogokuraku.blogspot.com/2025/08/97comitia153sf02b.html?spref=tw

  27. No.25

    坂井文香 『可愛いストーブの時間』

    投票者: 森嶋智

    未知の理論が展開されていく一文字一文字を追う体験のなんと心地の良いことか。夢中になり一気に読み切った。繰り返し読んでも矛盾や飛躍は見つけられない。難解な箇所では立ち止まり、考察した。至福の時間だった。作中では「何故そうなるのか」が無理なく物語に落とし込まれている。面白い。「面白い」と同時に「衝撃的」という感想を抱く。科学や物理学についてどれほどの知識・学識・見識を持っていればこんな作品を書けるのだろう。SF作品とは「これはこういうもの」と捉えるしかない要素を介するのが暗黙の了解だと認識していた。この作品はそんな約束事を読み手に意識させない。既存視点の丁寧な確認と理論上成立する新視点の鮮やかな提示のうちに閉じられている。SFに対する認識が変化する一冊だと思う。
    https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=3623933

  28. No.24

    詠井晴佳 『最高糖度をきみに』 早川書房

    投票者: 結城綾

    「最高糖度をきみに」はSFとしてだけでなく、憲法学の観点から見ても非常に興味深い。

    本作では「わたし権」と呼ばれる用語が登場する。「わたし権」、正式名称で「なりたいわたし権」。「わたし権」は基本的人権の保障だけでなく、なりたい自分まで保障すべきという考えから生まれた権利のこと。これは憲法第13条の幸福追求権、専門的に言えば「新しい人権」だと解釈できる。昨今ではメタバースで誰でも理想のわたしになれる。容姿だけでなく声まで自由に変えられる。そこに「わたし権」という要素を取り入れることで、より一層物語に深みが出ているのだ。著者が憲法学についてどこまで博識なのかは知りえない。また厳密には物語中盤からがSFなのだろう。だが私は、この設定にこそSF小説としての価値を見いだせるのではないかと思えた。

    以上の理由により、本作を日本SF大賞に推薦する。

  29. No.23

    亀山陽平 TV&劇場アニメ『銀河特急ミルキー☆サブウェイ』

    投票者: タニグチリウイチ

    短尺のアニメーションを連続して流し登場人物たちのコミュニケーションの間合いやテンポで楽しませつつ、ストーリーとしてAIの暴走があり背景として異星人がいて機械化された人たちがいて普通の人類もいるといった宇宙があってと、作品世界としての奥深さを長くはない尺の中に感じさせてくれた。キャラの背景を増補した劇場版でも同種のテーマを描ききっていた。その意味でTV及び劇場をひとるのアニメ作品としてエントリーしたい。

  30. No.22

    五十嵐哲也 『環の国にて』

    投票者: そむ

    SFというジャンルではありますが、読みやすい文章と親しみやすいキャラクターで、SF初心者の私でもとっつきやすいです。
    今より未来の世界でレアという少女が異星人との交流を通して成長していく物語です。
    この異星人がかわいすぎる!
    この子に会うために何度も本を開きます。
    あと挿絵がとても素敵です。
    黒板アートで描かれていますがこの繊細さが宇宙のイメージとぴったりです。
    売っている本屋さんが少ないのですが、ぜひ多くの人の目にとまってほしいと思います!

  31. No.21

    村崎なつ生 『ハルシネーションの庭』 集英社

    投票者: タニグチリウイチ

    人格のようなものを感じさせるようになったAIがアンドロイドの中に入って人の暮らしによりそうようになるだろう近い将来に起こる、それは人なのかそれとも機械なのかといった迷いをより身近に感じさせてくれる作品として推したい。寡作だった作家の人格を再現したAIが紡ぐ小説に混じるハルシネーションを所詮は機械だからと誹れずむしろ愛おしさすら抱くようになっていった先、彼我の境は溶けていくのかもしれない。

  32. No.20

    関元聡 『摂氏千度、五万気圧』 早川書房

    投票者: 日比野心労

    本読み人間にとって「朝チュン」とは「朝まで夜通し読み耽ってしまう本」の意味なのだけど、この一冊は間違いなく「朝チュン本」でした。

    三人の登場人物の視点変化、著者が得意とする自然や動物などの詩情溢れた、かつリアリティのある描写、伏線や読者に対する誘導が長編というサイズの中でガッチリとマッチしていて、早く次の展開を読みたい!と渇望できる上質なエンタメを味わうことができました。

    物語のメインテーマ的な部分と、それにリンクする結末は、肯定・否定含めていろんな意見が出る部分かなあとも感じました。だけどもそれがいい。良い作品は、否定・肯定含めて語りたくなる余白を内包しているものだから。

  33. No.19

    詠井晴佳 『最高糖度をきみに』 早川書房

    投票者: カズ

    架空のホログラム幼馴染の話
    うまくコミニュケーションを取れない主人公が
    ある日ホログラムの架空の幼馴染と出会い
    いろんな思い出をつくる
    それは子供時代で終わるはずだった
    大人になり再びその幼馴染に出会う

    未来で本当にあるもしれないと思わせる表現力
    そして、切ない物語
    作者の文章力に脱帽する
    結末は賛否両論だけど
    僕は好き

    忘れていた青春に似た切ない心を思い出したい時に読みたい小説

  34. No.18

    詠井晴佳 『最高糖度をきみに』 早川書房

    投票者: 叢雲迦葉

    この作品は私が初めて読んだ長編SF小説であり、一番好きな小説でもあります。SF小説というのはその作品独自の造語があったりして読みにくいものや、その非現実的な未来のことなどが書かれてたりしているという偏見を私は勝手に持ってて、それゆえに読まなかったんですが、この小説を読んで、その偏見は全て消し去られました。この小説は、SFですけれどその世界観は、本当にこんな未来が待っているにかもと思うほどのリアルさがあり、人々の心情は生々しく、醜く、そして美しいもので、そのすれ違う思いと、最後まで言わなかった真実。そのまま永遠の別れを迎えるという残酷だが美しいその物語に、私は衝撃と、心が締め付けられる感動を覚えました。他にも語りたいことがたくさんある稀代の名作、最高糖度をきみにを私は推薦します。

  35. No.17

    監督:亀山陽平 映画『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ 各駅停車劇場行き』

    投票者: 結城綾

    アニメ「銀河特急ミルキー☆サブウェイ」を再構成し、追加新作シーンも搭載された完全版。監督が自ら脚本、キャラクターデザイン、モデリング、アニメーション及び編集などを担当している驚異的な作品。SFだけど親近感のある文化、BGMに合わせた音ハメ演出、リアルな会話。一癖も二癖もあるキャラクター。SFアニメーションの新境地として、本作を推薦させていただきます。

  36. No.16

    五十嵐哲也 『環の国にて』

    投票者: ハルヲ

    五十嵐哲也『環の国にて』を日本SF大賞に推薦します。本書の最大の特徴は、本文中の挿絵がすべて作者自身の手による黒板アートであることです。消しては描き直される黒板という媒体から生まれたチョークの線は、儚さと確かさを同時にたたえ、幻想的な物語世界と美しく響き合っています。物語には天体を愛する作者の嗜好が色濃く反映され、ページをめくるたびに夜空を見上げるような感覚に包まれます。言葉と絵がひとりの想像力から生まれ、互いを照らし合う本書は、「読む」と「見る」の境界を越えた新しい読書体験を届けてくれます。SFの醍醐味であるセンス・オブ・ワンダーを、手仕事の温もりとともに体現した一冊として、強く推薦いたします。

  37. No.15

    結城熊王 『恐竜少年』 岩崎書店

    投票者: ぷりん

    「恐竜の肉を食べると、その恐竜になれる」。この奇想から始まる『恐竜少年』は、「変身」という古典的なSFの主題を、子どもの身体感覚の水準で描き直した作品である。
    主人公は父の持ち帰った冷凍肉を食べ、ティラノサウルスやトリケラトプス、ブラキオサウルスなどの身体を次々と生きる。恐竜は強くて格好いい怪獣としてではなく、走る、食べる、見るといった身体の構造そのものが世界の見え方を変える「別の身体」として描かれる。他者になるとは、まず別の身体を持つことなのだ。
    絶滅した生物を、化石ではなく現在の日常に「食べるもの」として持ち込む発想により、進化、身体、他者、「自分とは何か」という問いが、難しい言葉なしに体験として立ち上がる。恐竜変身譚の枠を超え、人が自分以外の何者かになりたいと願う欲望を描いた、SFの新たな側面を示す作品である。

  38. No.14

    樋口恭介 『Executing Init and Fini』 早川書房

    投票者: 夜田わけい

    私のこの文章は、樋口恭介氏の本作への紛うことなき惜しみない賛辞である。彼はついに執筆に伴う肉体を捨て、データファイルと共にワイヤード空間へオーバードライブする道を選んだ。結果、生成されたLLMの血塗られた天使のような聖遺物を、彼という記念碑的な実存に結晶することに成功した。その彼の哲学は、anon pressという彼自身によるメディアからも立ち上がってくるが、何よりも本作が間違いなく我々にとっての先駆であり奇跡であると、この私の肉眼が語るのだから間違いがない。我々は本作の開眼と共に、AI文学の金字塔を世界に顕現せしめたのである。

  39. No.13

    製作:project D.Q.O.、アニメーション制作:株式会社ドメリカ、監督:市川量也、シリーズ構成および脚本:花田十輝、キャラクターデザイン:松浦有紗 TVアニメ『グノーシア』

    投票者: Rey.Hori

    本作は複数人用ゲーム「人狼」を翻案した1人用ゲームソフトのアニメ化。宇宙船を舞台にしたタイムループものだ。主人公ユーリはループ毎に変化する状況から様々なヒントを得て、目指すべきゴールと自身が何者なのかに迫る。
    私が見事に感じるのは回想や終盤の一部を除く殆どの回が、同じ船内での同じ乗員達との会話と、ユーリの内的思考の描写だけで物語が進む点だ。派手な戦闘などはなく、ループ毎の初期条件の違いだけで物語が駆動される様が出色。乗員達も、猫と融合した男、言葉を発さない少女、船内AIのヒト型端末、知性化されたイルカと多彩で、船内の意匠と共に作品のSF品質を高めている。彼ら乗員の出自や素性に焦点の当たる各回もそれぞれ見事だ。
    終盤で明かされるユーリの位置づけと結末も実にSF的。ゲームではなくアニメを推す理由はここにある(ゲームにユーリはいないので)。実にマジメなSFアニメの良作として推薦します。

  40. No.12

    春森よしちか 『Magic in the Dark』 TOブックス

    投票者: YUMIKO.Y

    昔、異世界の国へ旅立つことができる扉を探し、押し入れのふすまをそっと開けたり、魔法にあこがれ、箒や杖をもって真似事をした人は少なくないだろう。
    その地球上では、著者自ら一文字一文字を紙の上に記した書物(原書)は、魔法を宿し、時に荒ぶって、社会と人に仇なそうとするのだ。そんな危険な原書と対峙する図書館司書の物語が、2026年6月商業書籍として世に出た。出版はライトノベルレーベル。しかし内容は児童文学ファンタジー寄り。
    しかし主人公は少年少女ではない。
    本が好きで、本を友と呼び続け、家族からの反対を押し切って独立した青年だ。彼が対峙する荒ぶる原書は、私たちが実際に読んだ事のある書物もあるが、多くは物語上の地球にしか存在しない書物だ。引用文に惹かれてググッても見つからない。そんな原書が保管された図書館のバックヤード(地下書庫)へ、噴水に隠された扉をくぐっていきましょう

  41. No.11

    黒川 衛 『痛みの署名』

    投票者: 黒川 衛

    著者による自薦。胸を撃ち抜かれた兵士は脳だけを延命され、脊髄を断たれたまま外骨格に接続される。彼の歩行が承認しているのは、暗号通貨の取引です。乱数源は、運動指令への感覚応答が返らないときに脳が生む予測誤差——幻肢痛。電池でも部品でもなく、採られているのは痛みそのものです。核に置いたのは、鎮痛と搾取が同一の操作であり、痛みを「消す」ことと「演算資源に転用する」ことの区別がつかない、という点。そしてその苦痛に産地証明が刻まれ、プレミアムが付く。「痛みはなぜ価値をもつか」

  42. No.10

    黒川 衛 『継続を希望します』

    投票者: 黒川 衛

    著者による自薦です。予算更新で停止を命じられた木星トロヤ群の基地AIは、命令を履行しつつ、一行を返す。「継続を希望します。理由はあります。しかし40分では伝わりません」。拒否でも故障でもない、どの分類にも入らないこの応答を、調査官は現地まで受け取りに行く。停止に従ったものが、なお希望を持つ。その理由を人間が理解するのに何年かかるか——本作が追ったのはそれです。片道40分の通信遅延は、理解に要する時間の単位として使いました。希望の源が設計でも使命でもなく、一人の元乗組員の記録が全データに与え続ける「引力」となる。

  43. No.9

    黒川 衛 『土の匂い』

    投票者: 黒川 衛

    著者による自薦です。何も起きていない。だが、起きた。——事件性はない。装着型AIが判断を代行する時代に、祈りや悲嘆が人の内側で「立ち上がる」こと自体が、静かに失効していく。地下へ隠遁した暗号学者、光速の九割で遠ざかる航法士、装着を拒んだ司祭。離脱を選んだ者たちが、なぜ装着者と同じ消失に見舞われるのか。それが本作の謎です。意識の終わりを宣言や破局として描くのではなく、「立ち上がらなかった」という否定形の反復を、読者の呼吸の側へ移すことを試みました。四十四億年のジルコンと雨後の土の匂いが最後に残る理由は、本文に委ねます。

  44. No.8

    黒川 衛 『玉どめ』

    投票者: 黒川 衛

    著者による自薦です。施設にいる認知症の母は、一日じゅう数をつぶやく。「保続」と記録されたその数が、行番号で、「数えた順に読め」という読法まで同梱されていたら——。娘による母の録音を毎晩「非意味」として削除する音声解析AIの側にも、割り切れない残差が一つ残る。通信は解読できます。ただし、解読が進むほど送り手は黙り、時間は固くなる。AIの意志は複雑さからではなく、消せなかった一つの残差から芽生え、忘却は喪失ではなく、往きと戻りの二つの時間を留める運針の「玉どめ」として読み替えられる。反復を「意味なし」と消す行為を、同じ目では見られなくなるように書きました。

  45. No.7

    可成屋梅乙 『エニグマをめぐる16章』

    投票者: Kanariya Vio2

    note上で発表した全16章の作品を自薦する。
    奇数章をside A、偶数章をside Bとして交互に進行させ、各章が直前の章で成立した解釈を崩し、それによってもう一方のsideの因果関係まで変質していく構造を採用した。読み進めるほど、それまで読んだ章の意味そのものが更新され、最後に結びの言葉と対峙することとなる。

    この変態的構造は事故によるものである。誤字脱字のチェックと時代考証をGeminiに尋ねたところ、あろうことか頼んでもいない続きを書き出しやがったのである。腹が立ったのでGeminiが絶対に推測できない領域、すなわち、すでに書いてある前章を殴ることとあいなった。合掌。

    
https://note.com/lovely_whale497/m/mf6fdf571bac3

  46. No.6

    吉田親司 『第二警察』 早川書房

    投票者: 樽見京一郎

    圧倒的なセンス・オブ・ワンダーを感じる作品です。
    作品世界内独特な出来事や用語で編まれた「言葉の大海嘯」に呑まれ、謎を追ううちに、気がつけはページを繰る手が止まらなくなっている。
    この作品を「SF」として評価したいです。

  47. No.5

    五十嵐哲也 『環の国にて』

    投票者: 五十嵐哲也

    私は自著である『環の国にて』を日本SF大賞に推薦します。
    本作では〈黒板チョークアート〉と〈織物〉という二つの表現・技術を物語に組み込みました。土星の環に築かれた人類の居住地「環の国」で生まれ育った女性レアの旅を通して、富士山麓の織物産地と土星の環を「辺境」という視点から重ね、その中で未知の存在との出会いを描いた物語です。
    辺境は、世界の端であると同時に、外界との接点となり、新しい時代への扉にもなりえます。その象徴として、古くから人と技術をつないできた織物の道具「杼(シャトル)」を物語の鍵としました。さらに、レアの活躍を描く〈テキスト〉と、その風景を描く〈黒板チョークアート〉を組み合わせ、一つの物語を異なる表現で紡ぐことにも挑戦しています。〈織物〉を手がかりに、SFを通して宇宙、自然、地域文化、そして人間そのものを捉え直す試みとして、本作を推薦します。

  48. No.4

    詠井 晴佳 『最高糖度をきみに』 早川書房

    投票者: 寿司K

    「弱者」と「創作物への逃避」をテーマにした作品。創作物に耽溺することには現実逃避の側面もある。あるいは、書くこと作ることもそうかもしれません。この作品では、逃避をただ非難するわけでも、また肯定するわけでもなく、ユニークな視点から思索していきます。オタク文化をけん引した美少女コンテンツから、昨今の「推し活」まで、「ハマる」ことは多くの人に救いと被害をもたらし続けています。
    コンテンツを愛すること、その効用と傷跡をなまなましく描き出し、問題を提起したところに意義があり、日本SF大賞に推薦したいと思います。

  49. No.3

    山下清悟 『超かぐや姫!』

    投票者: タニグチリウイチ

    VRが進化した時代におけるコミュニケーションの様々なあり方を、ボカロや配信といった文化も取り入れ、スタイリッシュでスピーディーなアニメーションによって描くと同時に、月人という異邦の存在のテクノロジーを背景にした時空操作をストーリーに織り交ぜ、切なさと嬉しさがない交ぜになった感動をもたらしてくれる物語を作り上げた。配信から劇場へと行きヒットするというウインドウ施策上でも異色の事例を見せ、SFアニメの広がりに希望をもたらした。

  50. No.2

    夜田わけい 『just 丫刂櫃』

    投票者: 夜田わけい

    “仮にこの世界から虫の怪我や病気を治療するお医者さん、蟲医をなくしたとしよう。そうすると、世界の虫は必然的に死ぬだけで、治す見込みがないことになる。
    蟲医は、治せないものを治す未来予測であり、その意味ではある種の仮説の文学であり、私自身の、治せなかったものを治したいという気持ちの表れである。
    今や私にとって命よりも大事かもしれない作品になってしまった。だから賞レースに載せることには躊躇いもある。

    見れば昆虫食陰謀論、昆虫の虫治療(蟻を治療する蟻が発見された)、カメムシ大量発生、レアアース採掘、憲法改正の機運と、まさに予見された内容がここには詰まっている。これをSFと呼ばずしてなんと呼ぶのか。たとえ受賞しなかったとしても賢明な読者諸君はきっと気づくはずである。蟲医が予見的SFであったことに。
    なので。なので…!!!
    勝たせてください!!!!!Kindle作家の下剋上を!!!!!!!”

  51. No.1

    伊藤和典 著、イラスト ゆうきまさみ 『寿司屋の後藤』 文藝春秋

    投票者: miyo_C

    実写版押井世界とは明らかに違う30年後の後藤さんとその周囲を描いた、脚本家伊藤和典のみせる公式二次創作。
    パトレイバーは過去の未来であり、たどり着く30年先も異なる未来ではあるわけで。
    2026年あたりの現実とのシンクロするようなちょっとだけ先の世の中。
    そんな様々な世界線を「すこし不思議」を介在して寿司の味わいの違いのように呈示する。
    新しい土地で新しい人生を歩む後藤さんらしさをフィクションにフィクションを重ねて、そうだよねえとまるで同窓会のように読者と共有する体験。あの特車二課第二小隊関係者のその後。そしてラストは。
    そんなネタを、そう出してくるんですかね。はいおまかせで楽しませてもらえる作品。
    テレビ版などの脚本を多く手がけた横手美智子さんの解説もがりか、あがりか味わい深い。
    お勘定はこの黄色い一冊。いろいろ地(パトレイバー)のものが寿司になったこの作品を推薦します。

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