第47回日本SF大賞エントリー一覧

皆様にエントリーいただいた作品とコメントを表示しています。

ご応募いただいたエントリー内容の確認が終わりましたら、このページに掲載いたします。ふるってご応募ください。

ノミネート件数: 34
  1. No.34

    形霧燈 『DIVA』

    投票者: saku

    自分の声に救われている人がいる。その事実を間近で見た本人の心が動き、そして行動に移す場面は、何度読み返してもぐっときます。

    人の声を題材にした作品ですが、声をどのように世の中で扱うべきなのか、生成AIとの付き合い方、現代においても考えさせられるテーマだと思います。

    お気に入りの登場人物は社長です。

    みんなで歌う場面はとても心が温かくなり特に大好きな場面で、その後に待っている出来事含めてもとても印象に残っています。

    個人的には、ちょっと心揺さぶられたいな、泣きたいな、と思ったときに読みたくなる作品です。

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  2. No.33

    関元聡 『摂氏千度、五万気圧』 早川書房

    投票者: Taka

    灼熱の地球と、そこに適応した民。異様な世界の造形にまず惹かれるが、その中で生きる人々の罪や復讐にまで踏み込むところがいい。登場人物たちの立場が交差することで、世界の見え方そのものが変わっていく。大掛かりな設定と人物同士の因縁を絡ませ、謎を追わせる構成にも力を感じる。関元聡の初長篇として、その挑戦の大きさを買いたい。
    (記入ミスのため再送)

  3. No.32

    新馬場新 『月面スローンズ 王と制服』

    投票者: Taka

    月で高校生が国家を運営する。その大胆な取り合わせを、食糧や物流、階層の問題まで掘り下げて成立させたところがいい。まずいうどんや高価な炭酸といった小さな生活の不満が、やがて国を変えていく話につながっていく。設定の大きさに人物が埋もれず、主人公の向こう見ずな性格が物語を動かしていくのも魅力。社会の仕組みを娯楽小説として描ききった著者の姿勢を評価したい。
    (記入ミスのため再送)

  4. No.31

    小川哲 『火星の女王』

    投票者: Taka

    地球から見れば採算の取れない開発地でも、そこで生まれた人には故郷である。火星をめぐるこの認識の隔たりを、研究者や少女たちの異なる願いから描くのがいい。科学上の発見が政治や生活を揺るがすリアルを描く一方で、「未知」を探す喜びもきちんと描いている点も好感がもてる。大きな社会の話を、それぞれの人生として読ませる。小川哲の持ち味を、宇宙SFの舞台で楽しめる一冊として推す。
    (記入ミスのため再送)

  5. No.30

    南風 翔 『ベテルギウスの残光』

    投票者: 東 光太郎

    ジュール・ヴェルヌ以来SF小説は科学の先を走っていたが、最近は急速に進歩する科学がSFを追い越しつつあるように見える。しかし一方で科学が答えを出せない大きな疑問が立ち塞がる。
    ①近年AI脅威論が世界的にかまびすしい。果たして人類の生存を脅かすのはAIなのか、それとも人類自身の「業」なのか?
    ②人類は生物進化の頂点に立つ地球上の覇者を自任してきた。果たして人類は本当に生物進化の行き着いた頂点なのか、それとも生物進化の単なる通過点にすぎない存在なのか?
    ③広大な宇宙では銀河系だけでも数千億から数兆個もの惑星の存在が推定される。果たして人類以上の高度な知的生命は本当に存在しないのか、それともAIのような人工知性も含めそのネットワークは既に宇宙に存在するのか?
    この物語はベテルギウスによる宇宙的規模の災厄を引き金に、科学がまだ答えを出せないこれらの疑問を解く重要な鍵を与えてくれる近未来SFである。

  6. No.29

    7Liquid 漫画『なにも理解らない』

    投票者: 鰍

    突然目覚めた主人公が現地の言葉をなにも理解できない状態で始まる異言語/異文化コミュニケーションを題材にした漫画。タイトルの通り、恐ろしいほどになにも理解できない状態で話が進んでいく。また、漫画という形態を利用し、主人公の主観で理解できないことだらけではありながらも、何が起きているかは視覚的に理解できるようになっているのは上手い。

  7. No.28

    北野勇作 『ほぼ百字小説』

    投票者: 北野勇作

     自薦です。2015年10月からツイッターにほぼ毎日投稿されてきた百字小説群。「ほぼ百字小説」というタイトルですが実際は、百字ぴったり。11年で7000篇を超え、現在も継続中です。質、量、そして継続された時間の長さ、によって、その総体が別の意味を持ち始めていて、それは、まだ名づけられていない何か、です。そんな正体不明の何かに賞を与えることができるのは、日本SF大賞しかなかろう、ということで自薦します。ください。

  8. No.27

    速水 寛 『カリペロ襲撃』

    投票者: 速水 寛

    『カリペロ襲撃』は、実際に起きた中古PCパーツ取引を発端とする三週間の紛争から着想を得て、取引記録、企業サポートとの応答、行政文書、スクリーンショット、生成AIとの対話ログをサンプリングし、創作した物語に沿ってSF小説に再構成した作品である。

    AIに書かせた小説ではない。膨大な対話ログに残された生成AIの挙動、性能、限界、すなわち現在の生成AIへの観察および理解が、物語を駆動しているのだ。

    グローバル・プラットフォーム企業が国家をも凌ぐ力を持つ時代に、一個人がAIを武器にそれらの巨人たちと対峙する、現実から少しだけズレた架空世界を描く「21世紀のデジタル往復書簡体・偽文書小説」である。

    かつてSFが予言したカッコいい未来ではなく、実際に出来上がってしまったショボイ未来=2026年を、古の書簡体形式を用いて鋭く切り取り、鮮やかに描いた点に、日本SF大賞への推薦理由がある。

  9. No.26

    内海まりお 『ワンページSF』

    投票者: 北野勇作

    『ワンページSF』内海まりお
    https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=3227647

     北野勇作の百字小説を漫画化したもの。百字の文章は原作そのままで、それを漫画化する作業は、その文章を「どう読んだか?」という表明にもなっていて、「小説の読みかた」を可視化したものでもあると思う。
     小説の文章はそのまま、というこれまでにない小説の漫画化の形であり、マイクロノベルの漫画化という新しい表現の形式が生まれた、と言える。
    「これまでになかった何か」「今後の世界を変える何か」として推薦します。
     収録作のいくつかはここで読むことができます。
    https://kyotogokuraku.blogspot.com/2025/08/97comitia153sf02b.html?spref=tw

  10. No.25

    坂井文香 『可愛いストーブの時間』

    投票者: 森嶋智

    未知の理論が展開されていく一文字一文字を追う体験のなんと心地の良いことか。夢中になり一気に読み切った。繰り返し読んでも矛盾や飛躍は見つけられない。難解な箇所では立ち止まり、考察した。至福の時間だった。作中では「何故そうなるのか」が無理なく物語に落とし込まれている。面白い。「面白い」と同時に「衝撃的」という感想を抱く。科学や物理学についてどれほどの知識・学識・見識を持っていればこんな作品を書けるのだろう。SF作品とは「これはこういうもの」と捉えるしかない要素を介するのが暗黙の了解だと認識していた。この作品はそんな約束事を読み手に意識させない。既存視点の丁寧な確認と理論上成立する新視点の鮮やかな提示のうちに閉じられている。SFに対する認識が変化する一冊だと思う。
    https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=3623933

  11. No.24

    詠井晴佳 『最高糖度をきみに』 早川書房

    投票者: 結城綾

    「最高糖度をきみに」はSFとしてだけでなく、憲法学の観点から見ても非常に興味深い。

    本作では「わたし権」と呼ばれる用語が登場する。「わたし権」、正式名称で「なりたいわたし権」。「わたし権」は基本的人権の保障だけでなく、なりたい自分まで保障すべきという考えから生まれた権利のこと。これは憲法第13条の幸福追求権、専門的に言えば「新しい人権」だと解釈できる。昨今ではメタバースで誰でも理想のわたしになれる。容姿だけでなく声まで自由に変えられる。そこに「わたし権」という要素を取り入れることで、より一層物語に深みが出ているのだ。著者が憲法学についてどこまで博識なのかは知りえない。また厳密には物語中盤からがSFなのだろう。だが私は、この設定にこそSF小説としての価値を見いだせるのではないかと思えた。

    以上の理由により、本作を日本SF大賞に推薦する。

  12. No.23

    亀山陽平 TV&劇場アニメ『銀河特急ミルキー☆サブウェイ』

    投票者: タニグチリウイチ

    短尺のアニメーションを連続して流し登場人物たちのコミュニケーションの間合いやテンポで楽しませつつ、ストーリーとしてAIの暴走があり背景として異星人がいて機械化された人たちがいて普通の人類もいるといった宇宙があってと、作品世界としての奥深さを長くはない尺の中に感じさせてくれた。キャラの背景を増補した劇場版でも同種のテーマを描ききっていた。その意味でTV及び劇場をひとるのアニメ作品としてエントリーしたい。

  13. No.22

    五十嵐哲也 『環の国にて』

    投票者: そむ

    SFというジャンルではありますが、読みやすい文章と親しみやすいキャラクターで、SF初心者の私でもとっつきやすいです。
    今より未来の世界でレアという少女が異星人との交流を通して成長していく物語です。
    この異星人がかわいすぎる!
    この子に会うために何度も本を開きます。
    あと挿絵がとても素敵です。
    黒板アートで描かれていますがこの繊細さが宇宙のイメージとぴったりです。
    売っている本屋さんが少ないのですが、ぜひ多くの人の目にとまってほしいと思います!

  14. No.21

    村崎なつ生 『ハルシネーションの庭』 集英社

    投票者: タニグチリウイチ

    人格のようなものを感じさせるようになったAIがアンドロイドの中に入って人の暮らしによりそうようになるだろう近い将来に起こる、それは人なのかそれとも機械なのかといった迷いをより身近に感じさせてくれる作品として推したい。寡作だった作家の人格を再現したAIが紡ぐ小説に混じるハルシネーションを所詮は機械だからと誹れずむしろ愛おしさすら抱くようになっていった先、彼我の境は溶けていくのかもしれない。

  15. No.20

    関元聡 『摂氏千度、五万気圧』 早川書房

    投票者: 日比野心労

    本読み人間にとって「朝チュン」とは「朝まで夜通し読み耽ってしまう本」の意味なのだけど、この一冊は間違いなく「朝チュン本」でした。

    三人の登場人物の視点変化、著者が得意とする自然や動物などの詩情溢れた、かつリアリティのある描写、伏線や読者に対する誘導が長編というサイズの中でガッチリとマッチしていて、早く次の展開を読みたい!と渇望できる上質なエンタメを味わうことができました。

    物語のメインテーマ的な部分と、それにリンクする結末は、肯定・否定含めていろんな意見が出る部分かなあとも感じました。だけどもそれがいい。良い作品は、否定・肯定含めて語りたくなる余白を内包しているものだから。

  16. No.19

    詠井晴佳 『最高糖度をきみに』 早川書房

    投票者: カズ

    架空のホログラム幼馴染の話
    うまくコミニュケーションを取れない主人公が
    ある日ホログラムの架空の幼馴染と出会い
    いろんな思い出をつくる
    それは子供時代で終わるはずだった
    大人になり再びその幼馴染に出会う

    未来で本当にあるもしれないと思わせる表現力
    そして、切ない物語
    作者の文章力に脱帽する
    結末は賛否両論だけど
    僕は好き

    忘れていた青春に似た切ない心を思い出したい時に読みたい小説

  17. No.18

    詠井晴佳 『最高糖度をきみに』 早川書房

    投票者: 叢雲迦葉

    この作品は私が初めて読んだ長編SF小説であり、一番好きな小説でもあります。SF小説というのはその作品独自の造語があったりして読みにくいものや、その非現実的な未来のことなどが書かれてたりしているという偏見を私は勝手に持ってて、それゆえに読まなかったんですが、この小説を読んで、その偏見は全て消し去られました。この小説は、SFですけれどその世界観は、本当にこんな未来が待っているにかもと思うほどのリアルさがあり、人々の心情は生々しく、醜く、そして美しいもので、そのすれ違う思いと、最後まで言わなかった真実。そのまま永遠の別れを迎えるという残酷だが美しいその物語に、私は衝撃と、心が締め付けられる感動を覚えました。他にも語りたいことがたくさんある稀代の名作、最高糖度をきみにを私は推薦します。

  18. No.17

    監督:亀山陽平 映画『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ 各駅停車劇場行き』

    投票者: 結城綾

    アニメ「銀河特急ミルキー☆サブウェイ」を再構成し、追加新作シーンも搭載された完全版。監督が自ら脚本、キャラクターデザイン、モデリング、アニメーション及び編集などを担当している驚異的な作品。SFだけど親近感のある文化、BGMに合わせた音ハメ演出、リアルな会話。一癖も二癖もあるキャラクター。SFアニメーションの新境地として、本作を推薦させていただきます。

  19. No.16

    五十嵐哲也 『環の国にて』

    投票者: ハルヲ

    五十嵐哲也『環の国にて』を日本SF大賞に推薦します。本書の最大の特徴は、本文中の挿絵がすべて作者自身の手による黒板アートであることです。消しては描き直される黒板という媒体から生まれたチョークの線は、儚さと確かさを同時にたたえ、幻想的な物語世界と美しく響き合っています。物語には天体を愛する作者の嗜好が色濃く反映され、ページをめくるたびに夜空を見上げるような感覚に包まれます。言葉と絵がひとりの想像力から生まれ、互いを照らし合う本書は、「読む」と「見る」の境界を越えた新しい読書体験を届けてくれます。SFの醍醐味であるセンス・オブ・ワンダーを、手仕事の温もりとともに体現した一冊として、強く推薦いたします。

  20. No.15

    結城熊王 『恐竜少年』 岩崎書店

    投票者: ぷりん

    「恐竜の肉を食べると、その恐竜になれる」。この奇想から始まる『恐竜少年』は、「変身」という古典的なSFの主題を、子どもの身体感覚の水準で描き直した作品である。
    主人公は父の持ち帰った冷凍肉を食べ、ティラノサウルスやトリケラトプス、ブラキオサウルスなどの身体を次々と生きる。恐竜は強くて格好いい怪獣としてではなく、走る、食べる、見るといった身体の構造そのものが世界の見え方を変える「別の身体」として描かれる。他者になるとは、まず別の身体を持つことなのだ。
    絶滅した生物を、化石ではなく現在の日常に「食べるもの」として持ち込む発想により、進化、身体、他者、「自分とは何か」という問いが、難しい言葉なしに体験として立ち上がる。恐竜変身譚の枠を超え、人が自分以外の何者かになりたいと願う欲望を描いた、SFの新たな側面を示す作品である。

  21. No.14

    樋口恭介 『Executing Init and Fini』 早川書房

    投票者: 夜田わけい

    私のこの文章は、樋口恭介氏の本作への紛うことなき惜しみない賛辞である。彼はついに執筆に伴う肉体を捨て、データファイルと共にワイヤード空間へオーバードライブする道を選んだ。結果、生成されたLLMの血塗られた天使のような聖遺物を、彼という記念碑的な実存に結晶することに成功した。その彼の哲学は、anon pressという彼自身によるメディアからも立ち上がってくるが、何よりも本作が間違いなく我々にとっての先駆であり奇跡であると、この私の肉眼が語るのだから間違いがない。我々は本作の開眼と共に、AI文学の金字塔を世界に顕現せしめたのである。

  22. No.13

    製作:project D.Q.O.、アニメーション制作:株式会社ドメリカ、監督:市川量也、シリーズ構成および脚本:花田十輝、キャラクターデザイン:松浦有紗 TVアニメ『グノーシア』

    投票者: Rey.Hori

    本作は複数人用ゲーム「人狼」を翻案した1人用ゲームソフトのアニメ化。宇宙船を舞台にしたタイムループものだ。主人公ユーリはループ毎に変化する状況から様々なヒントを得て、目指すべきゴールと自身が何者なのかに迫る。
    私が見事に感じるのは回想や終盤の一部を除く殆どの回が、同じ船内での同じ乗員達との会話と、ユーリの内的思考の描写だけで物語が進む点だ。派手な戦闘などはなく、ループ毎の初期条件の違いだけで物語が駆動される様が出色。乗員達も、猫と融合した男、言葉を発さない少女、船内AIのヒト型端末、知性化されたイルカと多彩で、船内の意匠と共に作品のSF品質を高めている。彼ら乗員の出自や素性に焦点の当たる各回もそれぞれ見事だ。
    終盤で明かされるユーリの位置づけと結末も実にSF的。ゲームではなくアニメを推す理由はここにある(ゲームにユーリはいないので)。実にマジメなSFアニメの良作として推薦します。

  23. No.12

    春森よしちか 『Magic in the Dark』 TOブックス

    投票者: YUMIKO.Y

    昔、異世界の国へ旅立つことができる扉を探し、押し入れのふすまをそっと開けたり、魔法にあこがれ、箒や杖をもって真似事をした人は少なくないだろう。
    その地球上では、著者自ら一文字一文字を紙の上に記した書物(原書)は、魔法を宿し、時に荒ぶって、社会と人に仇なそうとするのだ。そんな危険な原書と対峙する図書館司書の物語が、2026年6月商業書籍として世に出た。出版はライトノベルレーベル。しかし内容は児童文学ファンタジー寄り。
    しかし主人公は少年少女ではない。
    本が好きで、本を友と呼び続け、家族からの反対を押し切って独立した青年だ。彼が対峙する荒ぶる原書は、私たちが実際に読んだ事のある書物もあるが、多くは物語上の地球にしか存在しない書物だ。引用文に惹かれてググッても見つからない。そんな原書が保管された図書館のバックヤード(地下書庫)へ、噴水に隠された扉をくぐっていきましょう

  24. No.11

    黒川 衛 『痛みの署名』

    投票者: 黒川 衛

    著者による自薦。胸を撃ち抜かれた兵士は脳だけを延命され、脊髄を断たれたまま外骨格に接続される。彼の歩行が承認しているのは、暗号通貨の取引です。乱数源は、運動指令への感覚応答が返らないときに脳が生む予測誤差——幻肢痛。電池でも部品でもなく、採られているのは痛みそのものです。核に置いたのは、鎮痛と搾取が同一の操作であり、痛みを「消す」ことと「演算資源に転用する」ことの区別がつかない、という点。そしてその苦痛に産地証明が刻まれ、プレミアムが付く。「痛みはなぜ価値をもつか」

  25. No.10

    黒川 衛 『継続を希望します』

    投票者: 黒川 衛

    著者による自薦です。予算更新で停止を命じられた木星トロヤ群の基地AIは、命令を履行しつつ、一行を返す。「継続を希望します。理由はあります。しかし40分では伝わりません」。拒否でも故障でもない、どの分類にも入らないこの応答を、調査官は現地まで受け取りに行く。停止に従ったものが、なお希望を持つ。その理由を人間が理解するのに何年かかるか——本作が追ったのはそれです。片道40分の通信遅延は、理解に要する時間の単位として使いました。希望の源が設計でも使命でもなく、一人の元乗組員の記録が全データに与え続ける「引力」となる。

  26. No.9

    黒川 衛 『土の匂い』

    投票者: 黒川 衛

    著者による自薦です。何も起きていない。だが、起きた。——事件性はない。装着型AIが判断を代行する時代に、祈りや悲嘆が人の内側で「立ち上がる」こと自体が、静かに失効していく。地下へ隠遁した暗号学者、光速の九割で遠ざかる航法士、装着を拒んだ司祭。離脱を選んだ者たちが、なぜ装着者と同じ消失に見舞われるのか。それが本作の謎です。意識の終わりを宣言や破局として描くのではなく、「立ち上がらなかった」という否定形の反復を、読者の呼吸の側へ移すことを試みました。四十四億年のジルコンと雨後の土の匂いが最後に残る理由は、本文に委ねます。

  27. No.8

    黒川 衛 『玉どめ』

    投票者: 黒川 衛

    著者による自薦です。施設にいる認知症の母は、一日じゅう数をつぶやく。「保続」と記録されたその数が、行番号で、「数えた順に読め」という読法まで同梱されていたら——。娘による母の録音を毎晩「非意味」として削除する音声解析AIの側にも、割り切れない残差が一つ残る。通信は解読できます。ただし、解読が進むほど送り手は黙り、時間は固くなる。AIの意志は複雑さからではなく、消せなかった一つの残差から芽生え、忘却は喪失ではなく、往きと戻りの二つの時間を留める運針の「玉どめ」として読み替えられる。反復を「意味なし」と消す行為を、同じ目では見られなくなるように書きました。

  28. No.7

    可成屋梅乙 『エニグマをめぐる16章』

    投票者: Kanariya Vio2

    note上で発表した全16章の作品を自薦する。
    奇数章をside A、偶数章をside Bとして交互に進行させ、各章が直前の章で成立した解釈を崩し、それによってもう一方のsideの因果関係まで変質していく構造を採用した。読み進めるほど、それまで読んだ章の意味そのものが更新され、最後に結びの言葉と対峙することとなる。

    この変態的構造は事故によるものである。誤字脱字のチェックと時代考証をGeminiに尋ねたところ、あろうことか頼んでもいない続きを書き出しやがったのである。腹が立ったのでGeminiが絶対に推測できない領域、すなわち、すでに書いてある前章を殴ることとあいなった。合掌。

    
https://note.com/lovely_whale497/m/mf6fdf571bac3

  29. No.6

    吉田親司 『第二警察』 早川書房

    投票者: 樽見京一郎

    圧倒的なセンス・オブ・ワンダーを感じる作品です。
    作品世界内独特な出来事や用語で編まれた「言葉の大海嘯」に呑まれ、謎を追ううちに、気がつけはページを繰る手が止まらなくなっている。
    この作品を「SF」として評価したいです。

  30. No.5

    五十嵐哲也 『環の国にて』

    投票者: 五十嵐哲也

    私は自著である『環の国にて』を日本SF大賞に推薦します。
    本作では〈黒板チョークアート〉と〈織物〉という二つの表現・技術を物語に組み込みました。土星の環に築かれた人類の居住地「環の国」で生まれ育った女性レアの旅を通して、富士山麓の織物産地と土星の環を「辺境」という視点から重ね、その中で未知の存在との出会いを描いた物語です。
    辺境は、世界の端であると同時に、外界との接点となり、新しい時代への扉にもなりえます。その象徴として、古くから人と技術をつないできた織物の道具「杼(シャトル)」を物語の鍵としました。さらに、レアの活躍を描く〈テキスト〉と、その風景を描く〈黒板チョークアート〉を組み合わせ、一つの物語を異なる表現で紡ぐことにも挑戦しています。〈織物〉を手がかりに、SFを通して宇宙、自然、地域文化、そして人間そのものを捉え直す試みとして、本作を推薦します。

  31. No.4

    詠井 晴佳 『最高糖度をきみに』 早川書房

    投票者: 寿司K

    「弱者」と「創作物への逃避」をテーマにした作品。創作物に耽溺することには現実逃避の側面もある。あるいは、書くこと作ることもそうかもしれません。この作品では、逃避をただ非難するわけでも、また肯定するわけでもなく、ユニークな視点から思索していきます。オタク文化をけん引した美少女コンテンツから、昨今の「推し活」まで、「ハマる」ことは多くの人に救いと被害をもたらし続けています。
    コンテンツを愛すること、その効用と傷跡をなまなましく描き出し、問題を提起したところに意義があり、日本SF大賞に推薦したいと思います。

  32. No.3

    山下清悟 『超かぐや姫!』

    投票者: タニグチリウイチ

    VRが進化した時代におけるコミュニケーションの様々なあり方を、ボカロや配信といった文化も取り入れ、スタイリッシュでスピーディーなアニメーションによって描くと同時に、月人という異邦の存在のテクノロジーを背景にした時空操作をストーリーに織り交ぜ、切なさと嬉しさがない交ぜになった感動をもたらしてくれる物語を作り上げた。配信から劇場へと行きヒットするというウインドウ施策上でも異色の事例を見せ、SFアニメの広がりに希望をもたらした。

  33. No.2

    夜田わけい 『just 丫刂櫃』

    投票者: 夜田わけい

    “仮にこの世界から虫の怪我や病気を治療するお医者さん、蟲医をなくしたとしよう。そうすると、世界の虫は必然的に死ぬだけで、治す見込みがないことになる。
    蟲医は、治せないものを治す未来予測であり、その意味ではある種の仮説の文学であり、私自身の、治せなかったものを治したいという気持ちの表れである。
    今や私にとって命よりも大事かもしれない作品になってしまった。だから賞レースに載せることには躊躇いもある。

    見れば昆虫食陰謀論、昆虫の虫治療(蟻を治療する蟻が発見された)、カメムシ大量発生、レアアース採掘、憲法改正の機運と、まさに予見された内容がここには詰まっている。これをSFと呼ばずしてなんと呼ぶのか。たとえ受賞しなかったとしても賢明な読者諸君はきっと気づくはずである。蟲医が予見的SFであったことに。
    なので。なので…!!!
    勝たせてください!!!!!Kindle作家の下剋上を!!!!!!!”

  34. No.1

    伊藤和典 著、イラスト ゆうきまさみ 『寿司屋の後藤』 文藝春秋

    投票者: miyo_C

    実写版押井世界とは明らかに違う30年後の後藤さんとその周囲を描いた、脚本家伊藤和典のみせる公式二次創作。
    パトレイバーは過去の未来であり、たどり着く30年先も異なる未来ではあるわけで。
    2026年あたりの現実とのシンクロするようなちょっとだけ先の世の中。
    そんな様々な世界線を「すこし不思議」を介在して寿司の味わいの違いのように呈示する。
    新しい土地で新しい人生を歩む後藤さんらしさをフィクションにフィクションを重ねて、そうだよねえとまるで同窓会のように読者と共有する体験。あの特車二課第二小隊関係者のその後。そしてラストは。
    そんなネタを、そう出してくるんですかね。はいおまかせで楽しませてもらえる作品。
    テレビ版などの脚本を多く手がけた横手美智子さんの解説もがりか、あがりか味わい深い。
    お勘定はこの黄色い一冊。いろいろ地(パトレイバー)のものが寿司になったこの作品を推薦します。

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