第38回日本SF大賞エントリー一覧

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劇場アニメ『ゼーガペインADP』東雲明日香
10年前のTVアニメ『ゼーガペイン』は、「夕方にこんなハードSFを」とSFファンの目を引き、SFの入り口に立っていた子どもたちの心に切なく熱い夏の記憶を刻み込んだ。虚構と現実、ループする世界といったモチーフは『ゼーガペイン』以降のSFアニメでも度々使われているが、それらが『実質ゼーガペイン』と評されるほどの強い印象を残した。 そのTV版『ゼーガペイン』の映像に新作画を加えて再構築した『ゼーガペインADP』は、従来の『TVアニメの総集編映画』とは一線を画したものとなった。TV版から進化したSF性が盛り込まれた新作の物語が描かれただけでなく、既存のTV版の意味さえ書き換えてしまったものだった。それはゼーガペインがSFであるからこそ出来たものであり、後にも先にもADPでしか出来ない、日本のSFアニメ史においてエポックメイキングとなった作品と思える。
上田早夕里『夢みる葦笛』池澤春菜
身体的感覚と論理性は相反するようで一体なことを、上田早夕里さんの作品を読むとつくづくと思い知る。丁寧に構築された、日常のすぐ横にある異世界。人と人でないものの境、この世とあの世の境。時間帯で言うなら、常に黄昏の世界。境界の作家が描く全10編は、美しく恐ろしい。
飛浩隆『自生の夢』池澤春菜
圧倒的幻視の力。向こう側を見る力、言葉で世界を象る力を持った作家の唯一無二の物語。読み終わった時、自分の中の言葉に他する感覚が解体され、再構成されるような不思議な感覚を覚える。世界を変える言葉だ。
スミダカズキ『OUT TO LAUNCH!』継堀雪見
スミダカズキが撮影したどこか懐かしいモノクロ写真と、北野勇作・小林泰三などSF・ファンタジーを得意とする第一線の作家たちによる掌編/詩/イラストが見事に融合した楽しい同人誌。写真とSFが手を取り合うことで、何気ない日常の一コマが物語によって異世界へと変貌する醍醐味をたっぷり味わることができる。
やくしまるえつこ『わたしは人類』継堀雪見
微生物シネココッカスの塩基配列から楽曲を創り上げ、DNA変換したのち再度微生物に組み込んだ作品『わたしは人類』。DNAを50万年の寿命を持つ記録媒体とみなし、突然変異の可能性にも期待しながら、遥か彼方の未来のポストヒューマンに向かって楽曲を託す「壮大な悪戯」は、センス・オブ・ワンダーに満ち溢れた前人未踏の試みとなって結実している。SF的想像力を駆使した音楽活動を繰り広げてきたやくしまるえつこが、新たな音楽の未来/未来の音楽の可能性を切り拓いてみせた比類なき傑作。
小林銅蟲『寿司 虚空編』継堀雪見
巨大数、ただひたすらに、巨大数。矢継ぎ早に繰り出されていく数式とよく分からない跳梁跋扈の蠢きに目を奪われた末に広がる光景は混沌であり、不意打ちのごとく理路整然と巨大数は顕現する。(巨大数の「参考書」としても機能しうる点も素晴らしく、凄まじい。)とりわけ、第2話の10頁分にわたる驚異の「展開」は尋常ではない〈速さ〉で読者を襲う。ナンセンスと数学と謎の抒情が混然一体に溶け合った奇書。
久永実木彦「七十四秒の旋律と孤独」よしお
SFは「ジャンル」として語られ、また制作のツールとして扱われることはあっても、それ以上の意義を提示するのは容易なことではないと思います。 その意味で今作はSFの「視点」としての強みを感じる作品で、この視点に立つことで語れる命の捉え方やテーマがあることを教えてくれました。推薦します。
立川ゆかり『夢をのみ 日本SFの金字塔・光瀬龍』匿名希望
SFマガジンに連載された「是空の作家・光瀬龍」がようやく一冊の本になりました。大橋博之さんの『光瀬龍 SF作家の曳航』と合わせて読むと、日本SFに一時代を築いた光瀬龍というすばらしい作家の輝かしい航跡を立体的にとらえることができます。膨大な書簡からこれだけの大著をまとめあげた立川ゆかりさんの功績は大なるものがあると思います。
屋冝知宏『レッドスプライト』匿名希望
スチームパンク風の異世界。雷髄という化石燃料を注入することにより、超常の力を発揮する雷髄人間たち。ある者は超速の電流を自らの体内に巡らせることにより超速の運動能力を得、ある者は自分の周囲に磁力を発生させあらゆる金属を電磁砲として発射し、そしてある者は巨大な電力源として落雷を引き落とす。この、「びっくり人間大集合但し全員雷属性」は留まるところを知らず、しまいには死後もなお自分の意志を電気信号として留め、雷と化して長距離を移動する「遺灰人間」まで出てくる始末。雷髄人間は協力な電磁波を発するためレーダーでトレースが可能、電磁力で水を分解して雲を発生させ飛行船をカムフラージュする、など、魅力的なガジェットも出てくる。あいにく努力と友情がたいていの物理法則に勝利する某少年誌では不評だったようだが、どこかで続きが読んでみたい、正統派SFである。
TVアニメ『ID-0』魂木波流
オリハルトという謎の鉱物の力によって、人類が宇宙へと進出した未来を舞台に、巨大メカに意識を移しかえた主人公が、なくした過去の記憶を求めてアドベンチャーと思いきや、最終的にとてもBL、SFでBLになるという、たいへん楽しく有意義かつすばらしい作品です。
TVアニメ『Re:CREATORS』マリ本D
アニメ・マンガ・ゲームなど、あらゆる創作世界のキャラクターたちが現実世界へと現れるという事態を、極めてリアリティ高く描いた作品。「被造物」として現れたキャラクターたちと彼らの現界によって起こる事態に対して、当事者となった人たちがどのように動くかというシミュレーション作品としての一面がある一方、構造的に持つ「物語を創造し、それを受容すること。そしてその多様性」というテーマにおいてメタフィクショナルな面も持っている。なぜ私たちは物語を創造せずにはいられず、また受容せずにはいられないのか。その点を私たちに深く考え直させたことに大きな意義があると思われるので、本作を賞に推薦する。
劇場アニメ『ポッピンQ』マリ本D
中学の卒業式を前にそれぞれ後悔や悩みを抱えた5人の少女が「時の谷」と呼ばれる不思議な世界に迷いこみ、危機に瀕した「時の谷」や自分たちの世界をダンスによって救おうとする姿を描いた作品。最初はバラバラだったダンスが、自らの胸のわだかまりを見つめお互いを理解しあっていくなかで段々とシンクロするようになっていくなど、彼女たちの成長を描くビルドゥングスロマンとしてまず素晴らしい。同時に、決してやり直すことのできない過去とどう向き合い、どうやって未来へと進むことができるかという「時間もの」としても傑出したファンタジー作品であるため、本作を賞に推薦する。
TVアニメ『プリンセス・プリンシパル』マリ本D
19世紀末、東西に分断された架空のロンドンを舞台に女子高生スパイたちの活躍を描く作品。「スパイ=嘘つき」という構図を基本にあちこちにしかけられた“嘘”が物語の姿を二転三転させていき、放送順と時系列をあえて一致させずにバラバラに配置された1話完結型のストーリーがパズルを組み合わせていくかのごとく先に進むにつれて全体像を見せていくことで、1話ごとの満足度と全体構成の完成度を見事に両立させた。重力を操ることのできる「ケイバーライト」をはじめとしたスチームパンクとしての世界観と、「ケイバーライト」の特性をいかしたアクションシーンも素晴らしく、エンタメSFの快作として賞に推薦したいと思う。
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冲方丁《シュピーゲル》シリーズ匿名希望
著者が10年を費やして書き上げた傑作。近未来を舞台に、機械化された身体を操る少女たちの闘いを圧倒的熱量で描き切った。特殊な文体を使いながら、夥しい登場人物が活躍し同時並行で展開するいくつもの物語を成立させる筆力には圧巻の一言。日本SF大賞に推薦いたします。
岡和田晃『世界にあけられた弾痕と、黄昏の原郷』増田まもる
渡邉利道さんがコメントでのべているとおり、本書は「新しい時代に相応しい全方位的なSF批評の書」であるが、それに加えて、タイトルが示しているとおり、岡和田晃が本質的に詩人であることを示した作品でもある。ときにアカデミックに、ときに軽やかにくりひろげられるさまざまな論考を思弁的な散文詩として味わうとき、バラードのコンデンスドノベルにも似た感動が押し寄せてくることに気づくのである。
オキシタケヒコ『おそれミミズク あるいは彼岸の渡し綱』増田まもる
オキシタケヒコもまたすばらしい詩人であり、それゆえすばらしいSF作家である。これだけ読みやすく読者をぐいぐいとひっぱっていく小説であるにもかかわらず、ことばのセンスが抜群なので、それが作品世界に豊穣なイメージをあたえている。そして信じがたいことに、読後感はまことにほのぼのと幸福なのである。
飛浩隆『自生の夢』増田まもる
飛浩隆は詩人である。それも飛びきり鮮烈なイメージ喚起力をもった最上の詩人のひとりである。本書には意匠の異なるななつの短編がおさめられているが、そのすべてが思弁的でスリリングな言語感覚によって構築されており、内面に秘めた強烈な前衛的情熱が読むものの心をゆさぶるのである。
荒巻義雄『もはや宇宙は迷宮の鏡のように』増田まもる
藤元登四郎さんがコメントでのべているように、本書は荒巻義雄が初期作品から生涯かけて追及してきた「絶対の詩」のひとつの到達点であり、ことばによる実験のすべてがうねるような壮大な思弁となって展開していく「絶対のSF」でもあって、このようなすばらしい作品を生み出すことのできるSFという芸術運動に参加できた幸運を心から寿ぎたいと思う。
林美脉子『タエ・恩寵の道行』増田まもる
おもいがけないことばとことばの出会いによって人々の世界観を根底からくつがえすこの詩集は、まさにSFと詩の本質的同一性を証明するものであり、そのうねるような情念と鮮烈なイメージの奔流はすぐれた芸術そのものであって、SFとは魂をゆさぶるまったく新たな芸術にささげられた輝かしい名称であることがよくわかる。
天瀬裕康・編著『SF詩群~評論と実作』増田まもる
SFとはだれも見たことも聞いたこともないものを表現することによって人々の世界観を根本からくつがえそうという芸術運動であり、詩もまたことばを既存の意味から解放することによって人々の感性を一新しようという営みだとするなら、SFと詩は本質的におなじものをめざしているといえるだろう。そういう意味で、本書からことばとイメージの清新な出会いがはじまるのである。
嶋中潤『天穹(てんきゅう)のテロリズム』匿名希望
SFといえばアシモフ。アシモフといえば宇宙。そんな世代のためか、ソ連のスプートニク、アポロの月着陸の時代からずっと宇宙好きです。 そんな中、未来の話と思っていた宇宙ステーションができた時はおどろきました。そして、その宇宙ステーションを舞台にした秀作を手にしました。 それが推薦作の『天穹のテロリズム』です。SFが未来を描くフィクションであることは重々承知ですが、あまりに先の世界の話はちょっと気持ちが入りません。 けれどもこの作品は、たった今、頭の上を周回している宇宙ステーションを舞台にした、それでも現実からは少し離れたミステリー仕立てとなっています。 SFが「科学小説」であるなら、遠い未来の話である必要はないはずです。ぜひ、手に取って読んでみてください。
藍月要『俺たちは異世界に行ったらまず真っ先に物理法則を確認する』匿名希望
ロボコンに出場を控えた高専のメンツが、たまり場のガレージごと異世界へ移転してしまう。よくある異世界無双……ではない。高専生の知識と手持ちの道具を駆使し、まず彼らは重力加速度や摩擦係数、あらゆる物理法則と運動係数を調べ始めるのだ。そして偶然手に入れたマジックアイテムを、モンスター退治を、そしてその死骸を、魔法の原理も法則もわからないながらも、実験と観測を重ねることにより使いこなしてゆく。この作品には理系ヲタクの屈折とプライドと、そして得手なジャンルに賭ける熱い思いで溢れている。トラックに轢かれて飛ばされた先の世界で、なぜ元の世界と同じ10進法が使われてるんだと納得のゆかないSFクラスタも必ずや満足できるSFである。
TVアニメ『ヘボット!』匿名希望
毎回、ハイテンションでシュールなギャグとメタ発言が息をするように展開し、有名SF・ホラー映画のパロディを始め、画面の隅々まで何かしらのネタが仕込んであり、とんでもなく情報量が多い一話完結コメディである。しかし、本作の重要アイテムの『ネジ』が時空間ループ・平行世界SFに繋がると誰が予想出来ただろうか。そんな登場人物達と時空間が永遠に繰り返す世界の最終回は、視聴者各々の想像力へと舞台を変え、各々の中で在り続けるメッセージは『日曜日の朝に早起きをしてテレビアニメを観るという一つの文化』が終わる寂しさを吹き飛ばす見事さであった。
WEBサイト『翻訳作品集成』稼働20年曽根卓
SFや周辺ジャンルの膨大な作品群について、雑誌・レーベル・作者単位ほかでデータベース化。ともすれば埋もれてしまう無数の作品の情報に、読者、編集者、翻訳者、作家がアクセスしやすい環境を構築してきた。このようなサイトが90年代からの長きに渡り、出版社や営利団体ではなく個人によって維持されてきたことは驚きであるが、現在でも、日本国内でSF作品に触れようとする人々にとって、読書の航海図として大きな助けであり続けている。  「もし明日『翻訳作品集成』が突然消失したら」と想像するだけでも(それは、『S-Fマガジン』『奇想天外』『SF宝石』『SFアドベンチャー』の創刊以来の目次をWEBで容易に閲覧できる状況が崩れるということでもある)、その存在の大きさが知れるだろう。サイトに1997/ 4/ 8 ver.1.00 Upとあり、公開から20年管理されてきたこと、その間、SFファン/紹介者/クリエイターに、直接あるいは間接的に大きな恩恵を与えてきたことをもって、日本SF大賞に推したい。
荒巻義雄『もはや宇宙は迷宮の鏡のように』新戸雅章
『白き日旅立てば不死』『聖シュテファン寺院の鐘の音は』に続く、白樹直 哉三部作の完結編で、鋭利な「術の小説論」の批評家として、またシュールな内宇宙の作家として出発した荒巻SFの集大成といえる傑作。マニエリスム文学の系譜を継ぐメタSFの最高峰であり、サイエンス・フィクションを新たな高みに昇らせた点でも受賞にふさわしい。
ヒグチユウコ『BABEL Higuchi Yuko Artworks』ナイスミドル・シャア
ボスとブリューゲルをモチーフに圧倒的な画力を元に再構築をした作品。さらに箔押しなどの造本装丁の工夫で、より独自の世界感を深めている。様々なクリーチャー達との融合が未完成のバベルの塔に新たな意味をトレースする。
TVアニメ『けものフレンズ』匿名希望
ジャパリパークという超巨大総合動物園を舞台に、主人公が自分は一体何者なのか探す旅の物語 行く先々で出会う動物が人に変貌したフレンズや、謎の敵セルリアンといったSF要素がそこかしこに仕込まれてる作品です
TVアニメ『けものフレンズ』苫澤正樹
この作品は一見「萌え」作品に見えます。しかし本作は「萌え」を右に置いて、動物の元の姿をどれだけキャラクターデザインに反映出来るかを工夫した上、動物の仕草・習性・思考をあたうる限り落とし込み、単なる「萌え」と言わせぬキャラクター造形を行いました。また、通常ならば通りいっぺんでお茶を濁す植生や気候も正確な再現を行うなど、科学的な手法があちこちで採られています。 ですが、この作品の肝はそれだけではありません。SF要素が隠れているのです。まずそもそもの擬人化現象を起こした原因が「単に不思議」という曖昧模糊としたものではなく、考察にたえうるだけの設定を持って語られています。そして本作の世界は非常にほのぼのとしているようですが、要所要所で「ポストアポカリプス」要素が見られます。これが絶妙な配置なのです。巨大な人工物を安易に出すのではなく、ちらりちらりと見せては引っ込める。また人間のいない原因についてもちらりちらりと出す。こうして提示された不穏な「謎」を、視聴者は科学的・論理的説明をもって解き明かすことになります。 その一方で、話そのものは2人の少女の旅を通じての成長物語をつづった作品としても見ることが可能です。通常ならば齟齬を来すであろうこの2つの要素を、うまくかみ合わせることに成功したのは驚くべきことではないでしょうか。私はこの作品を変形的ながらSF作品として推薦するに足るものと思います。
宮内悠介『あとは野となれ大和撫子』板橋哲
中央アジアを舞台にしたルリタニアもの。惑星環境改造テーマでもある。干上がったアラル海の跡地に建国した難民受け入れ国家アラルスタンの内戦でお偉いさんが逃亡。独裁者の後宮で学んでいた女性たちが臨時政府を建てて大活躍と言う痛快な物語。自分はイスラーム社会について無知のためステレオタイプで固定的に捉えがちだったが、宮内の手にかかればどの登場人物もいきいきと走り出す。アラル海を居住可能とした架空のテクノロジーを背景とし、ハードSFの風味も楽しめる。エンターテイメントの枠を守りながら、多様性と共存のシュミレーションでもあり、戦乱止まぬ現代への異議申し立てでもある。読書中のワクワク感は別格で、読み終わるのが惜しくてならなかった。映像化に向いた作品だと思う。中央アジア、イスラーム圏に翻訳されればバカウケ間違い無しの傑作だと思った。
田辺剛『ラブクラフト傑作集 狂気の山脈にて』板橋哲
ラブクラフトの傑作を本格的に漫画化。これまでも同作品の漫画化はあったが、ラブクラフト作品の紹介が目的の断片やダイジェストであることが多く、納得出来ないでいた。今回の田辺による漫画化は原作をよく読み込んだ上で、ラブクラフト作品世界の再現に良く成功している。ラブクラフト作品内の登場人物、怪物、世界の狂気を描ききる書き込みの濃さには圧倒される。田辺のこの画力こそ狂気なのではないかと思うほどである。田辺はこの他にも既にラブクラフトの短編を漫画化しており、ライフワークとしてラブクラフトに挑んでいるらしい。いったいどこまで田辺が描ききろうとしているのか現時点では分からないが、それこそ狂気の沙汰であろう。応援せずにはいられない。
吉上亮『PSYCHO-PASS GENESIS』吉上亮
TVアニメーション作品『PSYCHO-PASS サイコパス』のスピンオフ小説。いわゆるノベライズ作品に分類されるが、アニメ本編に至る前史の物語として、ひとつの社会において価値判断の大転換が起き、新たな法秩序が構築される過程で、そこで生きる人間や組織がどのように順応し変化し、また社会システムがいかにして更新されていくのか、その顛末を描き、近未来を舞台とした警察小説・SF小説として一定の水準を超える作品を書いた自負がある。拙著ながらSF大賞候補作に挙げた。
小川哲『ゲームの王国』吉上亮
新鋭作家による第二長篇。丹念な取材と資料の読み込みが伺える舞台カンボジアの情景、現実と虚構の境を曖昧にする登場人物たちの描写、そして「ゲーム」という理を通して描かれる主人公とヒロインの対峙と運命のドラマ。確固たる作品世界のリアリティを構築したうえで、それを踏み台にして見事なSF的想像力を発揮してみせる。著者が第三回ハヤカワSFコンテスト大賞を受賞して以来、二年にわたる歳月を費やして書かれた本作は、その執筆期間に相応しい渾身の出来、だと思う。SF大賞候補作として推挙する。
飛浩隆『自生の夢』吉上亮
非常に佳作でありながら、発表する長篇/短篇作品すべてが高く評価される著者の最新短編集。本作もまた高水準の作品が収められ、特に表題作となる『自生の夢』や、『海の指』は白眉の出来。現代を代表するSF作品として、本作をSF大賞候補作に推挙する。
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冲方丁《シュピーゲル》シリーズ吉上亮
SFジャンルは、技術と未来の有り様を描くものであり同時に現代社会を映し出す鏡でもある。オイレン/スプライト/テスタメント――三つのタイトルを冠し、一〇年以上の歳月を経て完結した本シリーズは、四肢を機械化された特甲児童と呼ばれる少年少女たちの戦いを通し、テロリズムと国際政治、少年兵や民族紛争、人種差別と経済格差、貧困と犯罪に至る現代社会を巡るあらゆる問題とその超克のドラマを、SFとクライムサスペンスを融合させた語り口により、超一級のエンターテイメント作品に昇華させた比類ないSF小説である。よって本作をSF大賞候補作として推挙したい。
野尻抱介「新しい塔からの眺め」板橋哲
岩手県とSF界が国際リニアコライダー誘致を目的にコラボした短編集の中の一編。本作が特に優れていると思ったので単独でエントリーする。 国際リニアコライダーが建設された近未来。岩手にやってきた素粒子研究者の異文化体験を通して、岩手の科学史上の功績と東日本大震災の傷跡を知る物語。少ない枚数の中に、岩手の文化風俗と科学史を込め、更に東日本大震災の避難者家族のエピソードを盛り込んだ手腕には唸る他無かった。避難者の少年が成長し、宇宙リニアコライダーの所長として再登場するエピローグには、我が意を得たりと膝を叩いた。リニアコライダー計画に賭けた期待を予想以上の形で示したと言えよう。本作を収録した「ILC/TOHOKU」は岩手県内の全学校に配布されており、これを読んだ少年たちから本当に未来の素粒子研究者が輩出されるかも知れない。
山田正紀『ここから先は何もない』鼎 元亨
なぜこの時点までエントリーがなかったのか不思議ではありますが。この作品を咀嚼するには、顎(学)力と味(美)覚が必要ですが、器官(期間)があれば消化(昇華)はできます。きっと皆さん、まだ消化できてないのでしょう。後悔しないため一票を投じます。
TVアニメ『けものフレンズ』井波真琴
知識も、複雑な設定も、重厚なシナリオも必要ない。これは、情報過多の時代に一石を投じる、大胆な引き算の実験だ。作品の背景は、単なる人間が絶滅した後の世界(ポストアポカリプス)ではなく、あらゆる動物が絶滅してしまった特殊な環境である。ここで生活するのは、あたかも動物が人間のコスプレをしているかのような、不気味にカワイイ「フレンズ」と呼ばれる「アニマルガール」だ。生殖とは別の原理で偶発的に生まれるフレンズたちは、進化論の消去された世界、いわば「ポスト・ポストアポカリプス」世界の住民である。それは、人間/動物の境界線をどうでもよくしてしまう、生物学的にヴァーチャルな存在であるだろう。主人公の「ヒトのフレンズ」を含めたキャラクター同士の特異かつあまりに多幸症的なやりとりは、人間なき時代の「けもの」の産声だ。この異様に喜ばしい光景には、日本SFのラディカルな変化が縮約されているのではないか?
梶尾真治『デイ・トリッパー』板橋哲
作者が得意とする愛と時間もの。夫の突然の死に心揺れる主人公が、再び夫との時間を過ごすため、怪しげな航時機を頼って意識を過去へ飛ばす。主人公はタイムパラドクスに対する制約と夫を救いたい気持ちとの間で葛藤し、ついに後者の気持ちが勝ってしまう。本作は九州熊本地震の後に出版された。物語中に大地震とその被害を思わせる描写は無いが、発表時期から重ねて読まずにはいられなかった。突然もたらされた永遠の別れはどこまでも深く悲しい。揺れ動く主人公の心情に、震災遺族の思いを連想するのは自然なことだろう。かく言う自分も東日本大震災で故郷の町を失った。その喪失感は計り知れない。現在、東北において震災文芸とでも呼ぶべき分野がたちあがり、多くの人が文芸に心情の吐露や慰めの場を求めている。このデイ・トリッパーも九州熊本地震の震災文芸と言えよう。最後に量子論的多宇宙論を用い、主人公の願いを掬い上げた優しさにそれを見た。
山野浩一の全業績に対して岡和田晃
2017年7月20日に山野浩一が亡くなった。かつては日本SF作家クラブとも、一種の対立関係にあった山野だが、ワールドコン・Nippon2007およびspeculativejapanに参加してから入会を決め、その後は折に触れ、日本のニューウェーヴSFの立役者としての貴重な体験談を年少世代へ共有してくれた。振り返れば、「NW-SF」やサンリオSF文庫というオルタナティヴ・メディアにしろ、「週刊読書人」のSF時評にせよ、はたまた「内宇宙の銀河」をはじめとした自身の小説についても、おしなべてSF文壇はアウトサイダーとして扱うに留まり、充分な評価を与えてこなかった。ところが、SF外の状況はむしろ山野の予見した方向へ進み、今ではSF大賞に象徴される評価軸の再考を余儀なくさせるものとすらなっている。物故作家ということで功績賞をという声も出るかもしれないが、駄目押しの意味でもエントリーしておきたい。(参考:「SFマガジン」2017年10月号および「TH(トーキング・ヘッズ叢書)」No.72)の拙稿)
東山翔『Implicity』ぶるじょわ鰻
表現の極北にかがやくハードコアSFロリマンガ。"ロリータポルノ"という一部の国では違法化された表現技法を用いながら、復読に耐えうる精緻な設定、重厚で淫靡な世界観が作り上げられた連作長編である。茜新社の成年コミック誌「COMIC LO」の連載作品で、2017年2月25日に単行本第1集「Donors make human world peace.」が発表され、同10月21日の掲載分をもって完結した。一つの指輪の流転を軸に、人間と人型の人工生命「ドナー(Donor)」とが織り成す群像劇。特筆すべきは演出手法であり、台詞のみならず、各コマにおける背景画、ブックデザインに潜まされた文字列を読み解くことで劇中世界の全容が浮かび上がる。読者は、二つの人型生命が交錯する劇中世界をさまよい、やがて一つの答えに至る。ポルノグラフィとして見ても、サイエンス・フィクションとして見ても、優れた意欲作。
早瀬耕「眠れぬ夜のスクリーニング」板橋哲
人工知能学会がSF界のコラボして仕掛けた短編集に収録された一編。人工知能がありふれた社会をシュミレートした作品群はいずれも傑作だったが、本作が特に白眉と思ったので単独でエントリーする。人工知能とロボティクスの発達した近未来、登場人物たちは現実感の乖離や性自認のゆらぎによる不安に苛まれている。高度に発達した人工知能が身体性をともなうとき、人間のような自我意識が生まれるのか、生まれたとして人間同様の実存的不安や他者への不信あるいは信頼を抱くのか、なかなか興味深かった。
山田胡瓜『AIの遺電子』匿名希望
この作品内でヒューマノイドは「人間らしく生きる」という条件で人間とほぼ変わらぬ権利を持ち生活しているが、何が人間らしいのかを決める権利は、彼ら自身にはない。ヒューマノイドだからこそできるはずの可能性にフタをして「生きている」ヒューマノイドたち。その枠は社会を保つのに大切なものであり、同時に可能性をせばめるものでもある。その摩擦面から生まれるドラマはテクノロジーで自らを拡張しながら生きる現代の私たちに十分共感できるし、普遍的な人間ドラマでもある。同時に来るべき未来の姿をかいまみる好奇心も満たしてくれる。ありそうで無かった、はっとするような瞬間に満ちた名作。
冲方丁《シュピーゲル》シリーズWarehouse
十年を経て完結した物語は未来都市で生きる少年少女たちの戦いを描ききった。その展開と文体が発する過剰なまでの熱量・情報量は圧倒的です。個人と社会をめぐる未来のビジョンが、青春の終わりという普遍的な感情と結ばれる傑作。
テレビアニメーション及びメディアミックス~劇場版アニメーション《ゼーガペイン》シリーズ七里
《ゼーガペインシリーズ》を推薦する理由は、3点あります。1:テレビシリーズ『ゼーガペイン』(2006年)から、2016年に公開された『ゼーガペインADP』まで、一連の作品自体が優れたSF作品であること。 2:(作品のネタに触れます)本作品は特定の期間を繰り返す一種のループ物です。そして、アニメーションという表現形式では、バンク・同一の画像シークエンスを繰り返すという技法があります。テレビシリーズでもこの二点が相乗効果をもたらしていましたが、 『ゼーガペインADP』ではさらに、総集編でありながら新規のストーリーという、例のない作品となりました。この先進的な構成があること。 3:作品世界を再現するようなVRミーティング、スマートフォンアプリ展開など、10年を経た現実の技術革新を、作品内でも実世界でも有機的に取り込んだこと。 以上3点を理由とし《ゼーガペインシリーズ》を推薦します。
TVアニメ『けものフレンズ』ボス
動物が人の姿になるというSFを上手く作品に落とし込んだ作品だと思います。 動物を人化したキャラクターは「なぜか人間側の欲望むき出しで理性がない」または「獣耳をつけただけで中身は普通の人間とかわらない」という変化させた理由が見当たらない作品が多く見られます。しかしけものフレンズでは実際の動物の習性、本能、ナワバリをキャラの個性として表現されています。動物の個性は環境に関わり 環境が変われば生活も変わる、といったキャラクターそれぞれの会話が作品の世界観を構築しています。 動物の耳や尻尾はアクセサリーでは決してなく、人の姿になっても大切な一部であり さらに人型だから親しみやすく、どうしてそうなのかと理由を尋ねやすいといった動物を上手に擬人化したSF作品だと思います。
斎藤肇『ひゃくぶんのひゃく』井上雅彦
今年、最も刺激を受けた作品集。百篇のショートショートが収められているが、短い物語という以上に、思いがけないほど深い思考の悦びを与えてくれる。いわば、奇想による思想集。一作一作に、新しい視野を覗かせ、思いも寄らぬ視界を拡げて、「考える」ということがどういうことなのかを「魅せ」てくれる。星新一ショートショートコンテスト出身者でもある作者は、1987年の新本格ミステリーで長編デビューを果たし、国産ファンタジーの旗手としても注目されてきた経歴を持つが、その作家性の根源にあるのは、この国のSFを読み込んできた読者ならではの思考性であることは、すべての著作に滲み出ている。そのなかでも、本書は、作者らしさがあますところなく発揮されており(商業出版ではなくオンデマンドによる私家版ならではの妥協の無さも評価したい)、現在の小説界、ショートショート界、そして、SF界に一石を投じる力があると思う。
高井信『日本ショートショート出版史 ~星新一と、その時代~』野川さんぽ
星新一がデビューした1957年から逝去した1997年までの、日本のショートショート出版を丹念に記録した労作。ふんだんに掲載された書影が記憶を刺激し、とても楽しい。自費出版ながら、全300ページ、表紙絵YOUCHANという、本格的な造り。限定的ながら一般店頭でも市販されたので、特別賞にふさわしいと思います。
柞刈湯葉『横浜駅SF』野川さんぽ
突拍子もない設定と、それを裏付ける「科学理論」のでっちあげ。ありえない世界で右往左往し、懸命に生きる登場人物たち。柞刈湯葉の小説は、SFのもっとも楽しい部分を押さえている。観念の冒険と、精神のゆとりを感じさせる遊び心。これこそがSFの醍醐味だ。
飛浩隆『自生の夢』野川さんぽ
世界を言語で表現することの可能性に賭けているのが、飛浩隆だと思う。この短編集の中の「海の指」は、その成果がもっとも見事な形で表れた一編。他の作品も〈自生の夢〉シリーズとして、テキストの意味、現実との相関を鋭く追究している。
山田正紀『カムパネルラ』野川さんぽ
近代日本の文学者たちを素材に「もうひとつの日本」「夢の中の現実」を描くのは、山田正紀の重要な仕事のひとつ。宮沢賢治をテーマとした本書は、賢治の狂おしい理想追究と、妹・トシの賢治への想い、美しい名作『銀河鉄道の夜』の世界が混然として、眩暈をもよおさせる。
劇場アニメ『ゼーガペインADP』大谷津竜介
テレビ放送開始から10年を経て制作された劇場版において、旧作の映像も使いながらも編集の妙で単なる総集編でもエピソードゼロでも無い新たな物語を創造し、さらには、ループや人工知能、量子サーバーなどの扱いの新規性を受け継ぎながら、新解釈やその先を提示したと思います。
ケン・セント・アンドレほか/安田均・グループSNE訳『トンネルズ&トロールズ』完全版岡和田晃
私は毎年優れたゲーム作品をSF大賞にエントリーするようにしているが、今回はT&Tを措いて他にないだろう。1975年発売、世界で2番目に古いと言われるRPG作品が、本国ではクラウドファンディングで復活し、日本語ではBOX版の豪華コンポーネントで完全版として発売された。40年にわたって作り込まれた背景世界〈トロールワールド〉の全貌が紹介されているが、その規模たるや、パルプ時代のファンタジーやSFにあった根源的なダイナミズムを、現代に再生せんとする気概に満ちている。ルールやクリーチャーについての記述の隅々に至るまでセンス・オブ・ワンダーに満ちている。グループSNEと冒険企画局がタッグを組んだ『トンネルズ&トロールズでTRPGをあそんでみる本』、専門誌「トンネル・ザ・トロール・マガジン」、未訳のソロ・アドベンチャーやシナリオの翻訳等、怒涛の展開も素晴らしく、ユーモアに満ちた世界観を絶えず広げ、深めることに成功している。
荒巻義雄『もはや宇宙は迷宮の鏡のように』匿名希望
本書は白樹直哉シリーズの最終巻とされている。しかしメタSF全集から入った私でも、これはシリーズのようでありながら、どの荒巻作品とも間テクスト性を楽しめるのではないかと気づく。本書は、主人公が多面的な鏡で自己を見ていたがごとく、登場人物すべてが自分でありすべてが宇宙一体であることに気づく自己言及的な話でもあるが、先のように考えると、これは著者自身の「これまで」に言及するメタ的構造になっているのだろう。終章の見出しに「あるいは遺書」とあるが、まさに著者自身の最終巻のつもりだったのかもしれない。この合わせ鏡のような迷宮の謎解きは84歳でしか見せることのできない世界であり、自身の構築したSFへの挑戦と逸脱に見える。しかし物語の最後、著者の分身である遠藤は生きているのだ。著者のこれからを楽しみにしていいだろうか。附記や用語解説も必読。著者のバイタリティー、そしてSF界への挑戦状を評価すべきである。
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幻のTVアニメ『ガンとゴン』発掘ラーラ
元々の事の発端は「星の子ポロン」という権利不明の幻のアニメがネット上で人気を催し、それに釣られて同じ制作会社の作品である「ガンとゴン」にも注目が集まった事です。 当初はアニメ書籍に一枚の写真が載っているだけの知る人ぞ知るマイナーな作品でしたが、現代に台頭するSNSの繋がりを得て遂に映像が発掘された奇跡の作品です。 遂にはNHK発表の1970年代アニメランキングで7位になる程の熱狂的なファンを獲得しました。昔ではフィクションのような出来事だと思います。
天瀬裕康・編著『SF詩群~評論と実作』穂井田直美
つくづく、SFって間口の広いジャンルだなと思う。本著は、タイトルで「詩群」と謳っているように、自由詩だけでなく、俳句、短歌、漢詩など、さまざまな形のSF詩を紹介し、論じた作品である。特に、SF詩って何なの、何故SF詩なんだろうと思われた方には、著者を突き動かしている熱い想いがひしひしと伝わり、更に、まだまだ発展途上だが、大きな可能性を持つこのジャンルへの刺激・飛躍になるはずだと、本作品を推薦したい。
でもん『人類は滅びますが、電子の世界で生きていきます』でもん
マイナビ出版eBooks編集部主催の第2回お仕事小説コン 楽ノベ文庫賞受賞作品。人類の魂をネットワーク上に移行する技術を発明した人類は、貧困、飢餓、病気、紛争といった問題への抜本的な解決策として全人類の移行、すなわち自ら滅びることを選択した…という世界の最後の数年間、移行を担当するオペレーターと移行に反対する組織に所属する女子大生が出会いが、移行センターとテロリストがぶつかる大きな事件へ発展する…というストーリーとなっています。人類の移行というSF的な題材、そこにいきついてしまった資本主義社会の限界、そして全体のメインテーマ「家族になる」という思いを抱えた登場人物たち。これら素材を活かし、充分なエンターテイメント性を持った作品に仕上がっていると自負しており、このたび自薦させていただきました。一読いただけると幸いです。
TVアニメ『けものフレンズ』匿名希望
かつて超巨大総合動物園だった場所「ジャパリパーク」。そこには少女や女性の姿となった動物「フレンズ」がいた。 ある日、さばんなちほーで生まれた正体不明のフレンズ、かばんちゃんは自らの正体を探るべくサーバルキャットのサーバル、パークガイドロボットのラッキービーストと共にバスで探求の旅へ出る。 フレンズは基となった動物の能力や特徴が反映されている。様々なちほーで出会うフレンズのトラブルや悩みを、かばんちゃんは知恵を活かしてフレンズと協力して解決していく。同時にかばんちゃん一行はパーク内の人類の遺物や文化にも触れていくことにもなる。 物語の横軸はかばんちゃんの叡智とフレンズの個性による助け合いの話、縦軸はかばんちゃんの正体やジャパリパークの謎の探求である。 横軸と縦軸が重なる時、物語は動物たちの共存と連携、ヒトと動物とロボットの友情、地球史や人類史を巡る旅を紡ぎ出す。
吉上亮『PSYCHO-PASS GENESIS』一般読者
アニメスピンオフだが、本編よりも好きで繰り返し読んでいる。結末は苦いが、小さな救済もあり、読者に成長を与え読みごたえがある作品だ。作中の価値観やシステムの始まりが書かれているが、世界情勢の構築にすぐれており、受け入れざるを得ない状況を納得させられる。自分が読後に行った行為は、登場人物や時代背景の参考にしたと思われる満州、1970年代の連続テロ、浅間山荘、9.11などの近代史を調べなおす事だった。制作中大変な労力であったと思うが、他のスピンオフシリーズ、アニメ本編、主題歌の内容までも余すところなく、構成に使いきっている事に感心する。セリフや独白が巻をまたいで応報されており再読しては発見がある。優れた良い仕事をしたSF作品として推薦したい。
立川ゆかり『夢をのみ 日本SFの金字塔・光瀬龍』板橋哲
日本SFのオールタイムベストに燦然と輝く光瀬龍の異色の評伝。光瀬の書簡、夫人の思い出、膨大な資料と、交流のあった人々への細かいインタビューを重ね、光瀬の人物像を見事に書ききった。前半は戦後の日本SF黎明以前の光瀬の青春物語であり、その青雲の志と挫折の繰り返しにかつて青年だった全ての者が胸の痛みをともにするだろう。後半は教師、作家、家庭人としての光瀬が描かれる。大成した光瀬だったが、その内面は常に葛藤し、飽くなき向上心と創作意欲に溢れていた。前半と後半を分けるのは夫人との愛の有り方で、私人としての光瀬は愛に苦悩した人であり、愛に満たされた人であった。名作「百億の昼と千億の夜」が光瀬の心象小説であることも、その人生を知れば容易に頷ける。最後に岩手県人作家との交流に触れた場面があり、同時期に出版された道又力「文學の國いわて」と並んで、東北文学史の貴重な資料となっている。
山浦玄嗣『ホルケウ英雄伝』板橋哲
三陸地方をモデルとした架空の世界を舞台に、蝦夷の少年英雄の冒険と少女との悲恋が描いたファンタジー。ボーイミーツガールなのはお約束として、作者の意図は少年英雄の活躍を描くことにはない。少年の冒険を通して、国家権力が生んだ不正に対する怒りを描く。山浦は熱心なローマ・カトリックの信者で、世の不平等、差別に強い怒りをもって筆をすすめる。自分の生き方がままならぬことでは蝦夷も倭人も等しく、その苦しみを生む原因は国家権力の支配にある。少年を殺すはずだった刺客が、逆に少年に命を助けられ、思想的な大回心を果たす場面は、いかにもキリスト教的で、涙なしには読めない。蝦夷は伏わぬ民であり、蝦夷を主人公に描くことは必然的に理不尽な支配への抵抗の文学となる。権力と同一化し、他者を罵倒してやまぬ者の跋扈を許せない正義の人は、ホルケウ英雄伝に強い共感を抱くに違いない。
白井智之『おやすみ人面瘡』匿名希望
全身に“脳瘤”と呼ばれる“顔”が発症する奇病“人瘤病”が蔓延した日本。人瘤病患者は「間引かれる人」を意味する「人間」という蔑称で呼ばれ、その処遇は日本全土で大きな問題となっていた――というSF設定で展開されるミステリ作品。ミステリ作家として注目されていますが、その才能はSFとして評価されてもよいと思うので、推薦します。
高野史緒『ハンノキのある島で』青井宙也
短篇であり、SF的な設定としては、ある種の焚書世界というディストピア一点のみで、SF度は低く(というよりほとんどないと言っていい)SFとしての新奇性はないのは認めます。しかしむしろ、SF度がこれ以上ないほど低いからこそこの小説を推薦したい。純文学寄りの小説にSF的な要素をほんのわずか加えただけで、人間の心性や行動の洞察や表現がどれほど広がることか。SFがもたらす可能性の無限さ、影響力の大きさを証する一編と言えるでしょう。SF大賞といえばSFてんこ盛りとは限らないのです。もちろん、文芸作品としての完成度の高さは言うまでもありません。
TVアニメ『終末のイゼッタ』高野史緒
レトロ疑似科学と魔法少女という、まあそんなに驚くほどでもない組み合わせながら、そのSFガジェットから紡ぎ出される人間模様や社会考察のレベルは非常に高い。「核」の比喩としての魔法も教訓臭さや嫌味もなく、安易な恋愛要素や萌えに頼らず物語世界を構築する制作の姿勢も素晴らしい。舞台は疑似ヨーロッパだが、現実の文化や伝承、制度をよく研究した上で構成されており、それが作品世界に奥行きとリアルな質感を与えるという成果にちゃんとつながっている。SF大賞に映像作品が多く推薦される今日であるからこそ、単に「ステキ」を超えた評価ポイントを持った作品をきちんと評価しておきたい。
草野原々『最後にして最初のアイドル』ぽこぽん
ラブライブ二次創作SFを改稿した作品が第4回ハヤカワSFコンテストで特別賞を受賞したことで話題を呼び、今までSFを読んだこともなかった、SFというジャンルを知りもしなかった新しい層にSFの読者を飛躍的に増やした。これはSFの歴史に新たな側面を付け加えたと言っていいのではないだろうか。また、デビュー作での星雲賞受賞は、山田正紀「神狩り」以来42年ぶりの快挙であることもたたえたい。
佐藤究『Ank:a mirroring ape』山岸真
脳科学と遺伝子が絡む進化SFであり、類人猿(チンパンジー)SFであり、(パニック・イン)京都SF。参考資料に『2001年宇宙の旅』(小説・映画とも)があがっていて、「月を見るもの(ムーンウォッチャー)」が重要なモチーフになる(ただしモノリスという超越的ブラックボックス抜きで)。
松崎有理『5まで数える』山岸真
短篇集。各篇はサスペンス、オカルト(疑似科学)、サバイバル、ジェントルゴーストストーリー、ホラーのアイコン、等の要素を含みますが、じっさいの読後感はどれもひとつのジャンルに押しこめない。それでも根底の世界観はSF的なものだと思います。
石黒浩&飯田一史『人はアンドロイドになるために』山岸真
短篇5つとリンク部からなるオムニバス長篇。リンク部が「石黒教授と三人の生徒」と題されているので石黒氏の研究を小説・講義仕立てで紹介した本と勘違いしそうだが、じつはどまん中のポストヒューマン&宇宙進出SF。さらにそのリンク部にもひとすじ縄でいかない仕掛けが。
藤崎慎吾『深海大戦』三部作山岸真
二作目までも海洋SF、巨大ロボットSFの力作だったが、最終的に予想をはるかに超えた宇宙論レベルの壮大な話に。神秘(超常)現象も多々描かれるが、みごとにSF的に回収される。
赤野工作『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』山岸真
レム『完全な真空』的な、21世紀のゲームの“回顧”レビューをする22世紀のサイトという造りで、全体を通して21世紀史がテクノロジー、価値観倫理観、政治経済、国際情勢、軍事、医療、等々多角的に“ほの見えてくる”。低評価ゲームのレビューサイトと称しているけれど、ゲーム自体の出来とは別のところでバッシングされるなどして消えていったゲームが多く、そこが“21世紀史”につながっていくのが巧み。レビューの書き手はひとりだけで、ゲームの発売年代順ではなくレビューが書かれた順に並んでいる。その中からこの書き手の姿も浮かんできて、そこに脳科学・ナノテク・人格コピーなどが重なり、人間に関するイーガン的問いかけがなされる。
立川ゆかり『夢をのみ 日本SFの金字塔・光瀬龍』匿名希望
SFマガジンの連載を加筆修正した形で刊行された光瀬龍評伝。遺族から提供された膨大な資料と大勢の関係者からの取材を元にまとめられた労作である。光瀬夫人との出会いから描かれるその評伝は、作家への親愛に満ちて、温かく心地よい。日本SFが生まれた熱い時代を追体験できる一冊でもある。注釈や収録資料、参考文献リストもかなり充実しており、今後の光瀬龍研究のみならず、日本SF第一世代研究においても欠かせない重要な本だと思う。
荒巻義雄『もはや宇宙は迷宮の鏡のように』藤元登四郎
冒頭にマラルメの「詩・イジチュール」が引用されている。この詩は詩人の精神的な死を主題とする。絶対の詩を書くためには死ななければならないが、生きていないと詩は書くことはできない。これはパラドックスである。 『もはや宇宙は迷宮の鏡のように』は『白き日旅立てば不死』(1972年)に続く作品である。高校時代に、白樹直哉の同級生で恋人である加能純子は雪の山中で自殺した。だが彼は彼女の死を追って死ぬことはしなかった。純子の死は鏡のように、永遠なるもの、絶対的な美の世界を映し出したからである。このときから彼は絶対的な美の世界に魅せられることになった。 荒巻は初期作品以来、死と詩のパラドキシカルな関係の主題を追求してきた。マラルメの言う「絶対の詩」を求めて、SFというゲリラ的かつ過激な方法で挑戦し続けた。その主題は45年の歳月を経てここに結晶した。壮大なこころみの完成に対してSF大賞を送って祝福すべきであろう。
荒巻義雄『もはや宇宙は迷宮の鏡のように』たんぽぽのお酒
足かけ45年にわたる「白樹直哉シリーズ」3部作完結編であるとともに、荒巻義雄文学の到達点。死後の世界へと旅立つ主人公の魂は量子状態となり、心的・霊的世界でもある未来社会を体験する。そこは壮大な宇宙と一人の人間が一体となった、まさにマニエリスム的世界。博学多識な筆者の描く世界観は、森羅万象、ありとあらゆる知識が詰め込まれると同時に、自由自在な空想と幻想に満ち溢れ、心を奪われる。SFとしてのみならず、哲学、神話学、心理学、言語学、美学。あらゆる視点から読み解くことのできる大作であり、50年後・100年後にも文学史の中に生き残る大著であると確信し、日本SF大賞にふさわしい作品として推薦する。
中村安伸『虎の夜食』 中村邪悪衛門
五七五でSFは可能か? 〈鳥帰る東京液化そして気化〉〈行春や機械孔雀の眼に運河〉。一句でひとつの世界を創造する俳句300余句と、超短編小説40編を組み合わせ、一冊でひとつの物語作りを試みた画期的な句集。〈京寒し金閣薪にくべてなお〉〈手をつなぐときに地獄が見えていた〉〈殺さないでください夜どおし桜ちる〉SF的世界のみならず、ホラー、エロス、ハードボイルド……さまざまな分野を浸食しながら彼岸を目指す、十七文字の旅。
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山田胡瓜『AIの遺電子』真田棗
人間、ロボット、ヒューマノイドという3つの異なる存在が共生する世を描く一話完結ヒューマノイド・オムニバス。 現在から想起出来る未来の問題への切り口もさることながら、人間特有の『温かみ』を機械であるはずのヒューマノイドたちに与えることで、従来のヒューマンドラマでは表現しえなかった境地をサラリと描いていることに驚愕する。 人間を、人間とは違う側面から覗いてみたらどう思う? 大人はもちろん子供にも読ませたい、世の中の「これから」に思い馳せる道標を与えてくれる作品です。
『BLAME! THE ANTHOLOGY』マリ本D
弐瓶勉氏の代表的作品『BLAME!』の劇場アニメ化に際して編まれたアンソロジー。アニメ作品に際してアンソロジーが出た前例として『楽園追放 rewired サイバーパンクSF傑作選』や『誤解するカド ファーストコンタクトSF傑作選』が挙げられようが、本作がその二つと異なるのは、原作となるコミックに強い影響を受けた5人の作家たちによる書き下ろしアンソロジーという点だ。その顔ぶれも、小川一水・酉島伝法など日本SFの第一線にいる作家ばかりで、その豪華さには目を見開かせられる。個々の作品のクオリティはもちろん、一種の記念碑的なアンソロジーとして推薦する。
宮澤伊織『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』マリ本D
ネット上で語られる実話怪談・ネットロアをモチーフに、廃墟探検と実話怪談収集が趣味な大学生の空魚と銃器の扱いが手慣れている「めちゃめちゃ美人」な鳥子の二人が、現実の裏側にある「裏世界」で繰り広げる冒険を描いた作品。まるでクトゥルフ的に迫ってくる実話怪談の存在たち(「くねくね」やら「八尺様」やら)に対して、それらが「どう」こっちに干渉してきてそれに対してこっちは「どう」対処していくのかがSF的に大きなキモとなる。シリーズとして二人の冒険は続いているが、その記念すべき1作目として、推薦する次第である。
オキシタケヒコ『おそれミミズク あるいは彼岸の渡し綱』マリ本D
“ミミズク”こと逸見瑞樹と“ツナ”と呼ばれる謎の少女との10年に渡る不思議な交流を語る前半部分は実話怪談のおもむきで、主人公である瑞樹の体験や作品内に出てくる都市伝説的なエピソードがしっかりと怖く描かれているあたりでしっかりと読者を掴んでくる。しかし謎の男の登場から転調して、物語が真の顔を見せてきてからが本作品の真骨頂であり、ホラーとして語られてきた部分や瑞樹とは違う謎の視点人物による章などがすべて伏線としてSFとしての設定に結実する様は見事の一言である。最後にボーイ・ミーツ・ガールとして綺麗な着地を決めるところまで含め、推薦に値する快作であることに間違いない。
飛浩隆『自生の夢』マリ本D
飛浩隆氏のオリジナル短編集としては、『象られた力』に次いで2冊目。他の著作となると《廃園の天使シリーズ》の長編『グラン・ヴァカンス』と短編集『ラギット・ガール』のみという寡作具合だが、それでも新作を待たずにはいられないインパクトが氏の作品にはある。特に表題作を中心とした連作のイメージ喚起力は凄まじい。文章によって読者のイマジネーションを働かせるそれは詩の持つ力と同じで、主要登場人物となるアリス・ウォンが詩人なのも必然であろう。氏の作品をもっと読みたいという願いも込めて、賞に推す。
つくしあきひと『メイドインアビス』ganzfeld
『WEBコミックガンマ』連載中。7月29日現在で単行本既刊6巻。 地球上に、唯一残された最大最後の秘境『アビス』。それは、どこまで続くとも知れない深く巨大な縦穴である。その内部には、広大な空間が広がり、深くなるにつれ、生物や環境は奇怪な様相を呈し、古代の高度なテクノロジーの存在を示す謎の遺物が眠っていたりする。なぜこのような穴ができたのか? なぜこの穴には奇妙なものが存在するのか? 人々は抑えがたい冒険心に突き動かされ、ひたすら深淵の奥底を目指す。主人公はアビスの探窟家を目指す少女リコ。メガネ少女が主人公のほのぼの冒険ファンタジーにみせかけ、さらにその持ち味を失うことなく、深淵をのぞきこむときは深淵もあなたを見ているという警句をそのまま物語にしたような悪夢的ダークファンタジーに仕上げた。未完だが、物語は人間存在の意味に迫る勢いで、現時点にてすでに傑作。それはもう恐ろしくて悲しくて醜くていやらしくしなやかで美しい。
林美脉子『タエ・恩寵の道行』岡和田晃
この詩集の帯に、私は以下のように記した。「終りなき「テロルと惑乱」に晒される私たちの日常。神々の血涙が染み出す宇宙は、不定形に拡がりゆき、その公法秩序を瓦解させる。星辰にて嗤うものの声は、孤立する人聞の身中にこそ響き、巣食うのだ。」と。この帯文と書中の栞文、あるいは「北海道新聞」2017年5月30日夕刊での拙稿に付け加えるべきことがあるとしたら、本書は詩人によるSFへの(正面からの)応答となっている点が挙げられる。伊藤計劃、『エクリプス・フェイズ』、あるいは……。「伊藤計劃以後」のSF界は、品質面において、お世辞にも活気づいているとは言い難い。現代詩のような表現を――意識的にしろ無意識にせよ――商業性に見合わないからと排除してきたからだ。短期的なスケールで書かれた作品ではないが、本書を「SFとして」評価できるか否かは、私たち自身が「詩」から試されているのだということを意味する。
浅木原忍『Dr.レイテンシーのなぜなに?相対性精神学』匿名希望
原作である東方Projectの作中に名称とごくごく簡単な設定のみが登場する近未来の架空の学問「相対性精神学」の入門書。主観と客観、現と夢といった一般に対をなすものと考えられるものに対する魅力的な考察で読者を魅了する。 推薦者の思考をその"客観的矯正力"でもって大きく変えた本誌を、日本SF大賞に相応しい作品として推薦します。
梶尾真治『デイ・トリッパー』巽孝之
「美亜に贈る真珠」から『黄泉がえり』まで、梶尾 SFのすべてを凝縮しつつ、タイム・パラドックス SFの新境地へ挑んだ秀作である。本書では明示されていないが、おそらく本書の背後には昨年 2016年の熊本大震災が色濃く影を落としているだろう。タイトルはビートルズの名曲だが、そこで示唆されるような女性はとくに登場しない。むしろ人類にとっての時間というもの自体が「デイ・トリッパー」なのではないかと考え込ませる点でも、本作品は深い。しかも、梶尾 SFの最大の特徴として、これもまた読者を選ばず、誰にでも勧めることのできる SFになっているところが心憎い。
《スタニスワフ・レム・コレクション》巽孝之
2014年の『ソラリス』新訳以来であるから足掛け 13年、これまでロシア語からの重訳で親しまれて来た 20世紀SF最大の巨匠の代表作をほぼすべてポーランド語原典から訳し直した日本オリジナル選集全六巻が、ついに 2017年 7月の『主の変容病院・挑発』で完結した。この 13年間、レムを尺度に考えれば、まず『ソラリス』の沼野充義によるポーランド語からの初翻訳により印象の変わった同作品は新たな読者を獲得し、日本 SF評論賞から同新訳を論じた新鋭がデビューした。また、レム『完全な真空』や『虚数』『挑発』の精神を継ぐ円城塔がデビューし芥川賞作家となった。そして、 2013年にはレム原作をアリ・フォルマンが映画化した傑作『コングレス未来学会議』が話題を呼んだ。以上の意味で、本コレクションに象徴されるレム SFの国際的意義を強調してやまない。
劇場アニメ『虐殺器官』巽孝之
伊藤計劃の原作小説が圧倒的迫力であったために、その映像化がいかなるかたちで可能になるのか、いささか危ぶまれるところがあった。しかし、その懸念は杞憂に終わった。原作の精神を忠実に引き継ぐばかりか、むしろ文字だけでは表現しえない細部のガジェットについて、精妙なデザインを繰り広げている。美しくもおぞましい未来戦争の光景は、映像だからこそ可能になったものであることを評価したい。
虻川枕『パドルの子』匿名希望
世界五分前仮説の思考実験を青春王道のボーイ・ミーツ・ガールものに落とし込見つつ、SFの要素もふんだんに含んだ快作。“水たまりに潜るごとに世界が少しずつ変わる(=パドルする)”ことで積み重なる些細な違和感、その先々に広がる世界はとてもユニークで、現実と半歩ズレて歩いているような、不思議な読み心地を味わえました。  ポプラ社小説新人賞受賞のデビュー作ということですが、壮大な世界観をまとめ上げる構成力と、鮮やかな世界を見たかのように記すその描写力に、作家の確かな実力とエネルギーを感じました。
荒巻義雄『もはや宇宙は迷宮の鏡のように』ナッシー
まず、84歳にして本文のみで426ページを完全に書き下ろすバイタリティに対して。続く世代の書き手に、この歳まで書き続けることのできる可能性を実作で示した意義は非常に大きい。タイトルは「迷宮」「鏡」とマニエリスムそのもので、自己言及するメタ構造を用いながら、膨大な文献を横断して舞台を遠い未来の宇宙に設定している「死後文学」であり、新たなジャンルの可能性も示す。本文もフォントの大きさが意味をもち変化され、斜めに歪みマニエリスムを表象している。それはまさに「詩」であり、「詩=死」を物語る。また、臨終の際のたったの「3秒間」が、「永遠」にすり替わるロマン主義そのもので、氏の脳内を一挙に凝縮して拡張、放出されたSF界の金字塔として大賞に強く推す。最終候補に残った場合、高山宏氏の解説に対しても、どのような“選評=読み”が提示されるのか興味深い。
東京都写真美術館「杉本博司 ロスト・ヒューマン」展タニグチリウイチ
<今日、世界は死んだ もしかすると昨日かもしれない>という共通の書き出しを持った、政治家や善人独裁者やカーディーラや遺伝子学者やロボット工学者らの言葉が似つかわしい調度と共に並ぶ展覧会。それはそれぞれが自分の所見で世界がどういう道を辿って滅びへと向かっていったのかを綴ったもの。それら滅びへと至るプロセスが、今をとらえ未来を伺うSFとしてのビジョンに溢れている。1編1編がショートショートSFとして読めるくらいに想像性に富んだ作品だ。
小川哲『ゲームの王国』高槻真樹
ハヤカワSFコンテスト受賞第二作で、はや巨匠の風格すら身につけている。現代文学の物語作法を意識しつつも、SFとして着地させることにこだわった心意気がすばらしい。ポル・ポトの虐殺をテーマのひとつとしつつも、より大きな物語を強烈な牽引力とともに描いてみせる力業に圧倒された。原初の物語から近代SFを経てさらにその先へ。新人がこれほどまでの超大作を成功させ、SFを一歩先に進める成果を挙げたことには、驚異すら感じる。
高井信『日本ショートショート出版史 ~星新一と、その時代~』井上雅彦
本書は、ショートショートの実作家にして、ショートショート研究の第一人者である著者によるライフワークの結実。ショートショートという文芸様式のみを題材にし、国産・翻訳を問わず日本で出版されたショートショートの単行本や、ショートショートの重要な掲載雑誌、ショートショート作家による重要な活動やムーヴメントまでをも紹介した、この分野に関しては、我が国のみならず海外にも例を見ない、唯一の文学史研究書である。ジャンルを超えて、あらゆる小説の核となるショートショートを、その第一人者にして、日本SFの開拓者・星新一の活動史と重ね合わせることで、日本SFそのものの出自や特性、文化への影響までをも紐解こうとする手法も意欲的である。短い文字数の物語が再注目されている現代への意義も大きい。オンデマンド本だからこそ収録可能となった千を超える書影は、ショートショート専門図書館を内覧しているかのような悦楽を与えてくれる。
ゲーム『悠久のティアブレイド Lost Chronicle』南瓜タルト
「女性向け恋愛ゲーム」に、SF要素を組み込んだファンタジーSF作品が「オトメイト」から発売された。 古代人が遺した地下シェルターに眠っていた人型兵器「ティアブレイド」。彼の目覚めが、この物語の始まりである。 ティアブレイドは「古代文明」のひとつで、「転換炉」、「ナノマシン」、「管理AI」等、様々な科学技術を携えていた。最終戦争が原因で、それらは全て失われることになる。 本作の舞台は、最終戦争によって荒廃した地上。そして、失われた文明がそのまま残されていた地上シェルター。過去と未来が交錯する壮大な物語である。 「乙女ゲーム」と「SF」。2つの異色の組み合わせで描かれたこの作品は、SF界に新たな歴史を刻んだといえるだろう。
荒巻義雄『もはや宇宙は迷宮の鏡のように』天瀬裕康
もう40数年もの昔、私が渡辺晋の本名でファン活動をしていた頃、多くのSF作品とは違う本質的属性を感じたのが本シリーズ第1作『白き日旅立てば不死』だった。以来、お子様SFとは違う何かを荒巻作品に読み取ってきたのだが、今回の『もはや宇宙は迷宮の鏡のように』が出るに及び、その頂点に達したような気がした。これは通常の機械的なタイムマシンでは到達し得ず、ワープ航法その他の空間移動では行けない世界なのだ。私の独断と偏見に満ちた「絶対評価」かもしれないが、いうなればSFの世界に異質なものを発生させた記念すべき作品として、SF大賞に推薦する。
TVアニメ『ヘボット!』浅木原忍
意味不明なギャグ、対象年齢無視のパロディの嵐、際限なく増え続ける謎キャラ……玩具のギミックであるネジを世界のループ構造の象徴とし(天才の発想)、作品を構成する全てがメタSFとしての作品構造・世界設定の伏線として読める作りでありながら、野暮な説明は所詮野暮と、たまに明かされる世界の謎もみんな大好きループSFの胸熱展開も全ていつもの意味不明なギャグに落とし込まれるヘボ空間は、21世紀のオタクカルチャーにおける鉄板ネタだったループものに対する総括だ。その上で、どれだけループを繰り返す物語でも避けがたい「最終回」の「その先」を指し示してみせた本作は、今世紀のあらゆるループSFに対する総決算的傑作であり、日本SF大賞を獲ってしまってもイインダヨ~。
荒巻義雄『もはや宇宙は迷宮の鏡のように』匿名希望
白樹三部作の完結編であり、同時に「遺書」として今までの荒巻の仕事を総まとめにした感がある。影響を受けたクラークなどの話もあり、マニエリスムやヘルダーリンなど芸術や思想への言及は自己解剖的でもある。メタ好みの荒巻による自作へのメタ批評なのだろう。そして、衒学的な未来世界の訪問話は、『神曲』だけでなく、どこか沼正三の『家畜人ヤプー』を連想させた。
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久美沙織『夢の音 海の色』小泉浩子
ウェブ小説はちょっと苦手。パソコンで読むと、肩はこるし、背中は痛いし、目もつらくなる。でも大好きな久美沙織さんの作品だから、迷わず読んだ。高校一年生の美少女・マハネと「人魚姫のように美しい」母・レイラの少女時代が、交互に描写され、物語は進んでいく。レイラには秘密があり、「菩提樹」で、いつか「ひめ」になる運命だ。みずみずしくて、きらきらしていて、ときに毒を吐く「人間ではない」少女たち。わくわくした。ドキドキした。クスッと笑った。泣いた。驚愕した。そして、心が動かされた。物語に広がる「夢の海」のなんと美しいこと! レイラが体験した本物の海にも、負けない。夏の海で食べる揚げたてコロッケとメンチのサンドイッチは、どんなにおいしいのだろう。今回、もう一度最初から読み直した。もちろん、肩も背中も目もしんどい。だけど、遠い夏の日に全力で泳いだ心地よい疲労感と興奮につつまれたような気がした。(参考URL:http://kumikura.jp/layla/laylamokujiindex.htm)
TVアニメ『けものフレンズ』匿名希望
一見すると可愛い系の女の子が登場するありがちなアニメに見えるが、この作品はそれだけでは終わらない。 全て見終えた頃には私は、キャラクターの容姿と退廃的な世界設定のギャップや、王道のストーリー、優しい登場人物にのめり込んでいた。 背景に隠された小ネタや、モチーフとなった動物についても学べる作品である。 単純ながらも奥深い、子供でも楽しめる作品なので推薦します。
荒巻義雄『もはや宇宙は迷宮の鏡のように』十四行詩
荒巻義雄文学の集大成とも言える本作は、これまでのさまざまなシリーズや作品と関連させ、広大な宇宙と深遠なる荒巻世界とを結びつけた稀有なる傑作である。これまでの荒巻作品愛読者への一つの解でもあり、同時に世界へ問いかける大胆な謎でもある。本作を理解するには、三部作のみならず多くの荒巻作品を読み直さねばならないが、その作業さえもが知的興奮へと導く、日本SF界に燦然と輝く一作である。よって本作品を日本SF大賞に推薦したい。
TVアニメ『けものフレンズ』ラッテ
一見作風はほのぼのとしていて、且つ王道のストーリーで子供向け作品の様ですが、その中に潜む廃墟や墜落した爆撃機といったポストアポカリプス感やセルリアンという敵等々考察の材料がそこかしこに仕掛けられていて、それを見つけ考えていくのがたーのしー作品です。 ほのぼのとしたストーリーに癒されながら、「裏でこんな事があったのかもしれない」と考えさせられる一粒で二度美味しいです。
劇場アニメ『虐殺器官』匿名希望
軽妙な文体をそのまま映像にしたようなハリウッド大作調のアクション。思いきって主人公の内省的な描写を外し、スクリーン越しの「感情を調整された」状態の我々に主人公と同じ戦闘用ナノディスプレイ越しの凄惨な戦場を見せつけることで作品が語らずとも観客が「地獄の上に浮かんでいる世界」を語り出す構造。いずれを取っても、本人も熱心な映画レビューワーであった伊藤計劃の作品のアニメ化シリーズのラストにふさわしい映画だったと思いますので推薦いたします。 ゆっくり世界観を浸透させていくSF映像作品が多い中、原作を彷彿とさせる「映画の冒頭十五分」にショッキングな映像とガジェットを盛り込んで惹きつける構成も印象的でした。
天瀬裕康・編著『SF詩群~評論と実作』宮本英雄
SFの形態として短詩型の可能性を追求したきた著者が、これまでのSF俳句やSF短歌、SF漢詩のほか、SF詩を加え、これをSF詩群となずけ、まとめたのがこの作品です。 著者のこれまでの実作の紹介から、著書と様々な交際のある人々の作品を概観し、SFの新しい表現の可能性を探る姿は80歳を越えている著者の年齢を考えるとその情熱には執念さえ感じます。 SFというジャンルにはまだまだ新しいものを生み出す力があると感じさせてくれる作品です。
大今良時『不滅のあなたへ』若木未生
誤解をおそれずにいうと「きもちのわるい漫画」だ。 世界の外側から投げ入れられた一個の不死者「フシ」が、「関わった生き物の死」をトリガーとして、死者の姿を己に取り入れ、変容しながら旅をする。 無垢なフシに感情や自我が生じていくさまを、物語は丹念に執拗に追う。人々の文化は土着的で寓話的だが、優しくない。死が隣にある。そしてフシの旅は、異文化のぶつかりあう軋みを聞くことと等しい。この軋みが、ものすごく「きもちがわるい音」なのだ。黒板を擦るあの感じ。 そもそも作者は前作『聲の形』という物語で、聞こえる音が異なる者同士による「異文化遭遇」の、いかんともしがたい軋みを描ききった人だった。より苛烈な異文化の「コンタクト」を描くことは自然な流れなのだろうが、このヘヴィなテーマを少年漫画的スペクタクルをまじえて娯楽作品に仕上げようとする志に、感嘆するほかない。
小林泰三『わざわざゾンビを殺す人間なんていない。』匿名希望
あらゆる生物がゾンビウイルスに感染した世界。ゾンビ(活性化遺体)に噛まれるなどしなければ、免疫によってウイルスは抑制されて即座に影響はでないが、ペットや家畜にいたるまでウイルスに感染しているために、食料生産体制や生命に対する価値観にも大きな変化が生まれ、あげく立法にまで影響を及ぼすという混沌した世界。そんな世界でも人々の日常は続いていく。そこに発生した密室殺人事件。主人公が過去の因縁もあり、その謎に挑む。小林節ともいえる登場人物たちの噛み合っているようでズレた軽妙な会話の応酬と、ゾンビを逆に喰らうために国がゾンビを管理・出荷するというゾンビ牧場や、ゾンビを躍り食いする集団など、なんとも奇怪でグロテスクな物語を、著者独特の筆致で描き出すことに成功している。
TVアニメ『けものフレンズ』gimmikc
美少女へと擬人化した動物達(フレンズ)が幸せに暮らす、閉鎖されて久しい総合動物園「ジャパリパーク」。 そこにたったひとりの「人間」という異物として彷徨うことになった"かばんちゃん"がフレンズの"サーバルちゃん"をはじめとする友達を作り、 冒険を通して「ジャパリパークという世界の中で人間という種が生きる事」を描く作品です。 「この世界にとって、人間はもはや不可欠の存在ではないという不安」が話が進むにつれて増していくのと同時に、 「かけがえのない友達」に成長していくかばんちゃんとサーバルちゃんの友情の素晴らしさに見ることができます。 人間以外の生物が人間化した世界で、果たして人間は人間である価値を何をもって発揮できるか? この問いに、かばんちゃんは優しさ、知恵、勇気などの答えを教えてくれます。
嶋中潤『天穹(てんきゅう)のテロリズム』三匹の金魚
SFの世界を実現させよう。科学者がそんな夢を持ち、奮闘することで科学技術は進歩してきた。 その一つの成果が、高度400kmを周回する国際宇宙ステーション(ISS)であり、宇宙飛行士をはじめとした関係者が実際に活躍をしている。 結果、古典的SFの世界で夢として描かれていた宇宙と、そこでの人類の活動は一部が現実のものとなった。 本作品ではISSという現実に存在する巨大構造物を舞台に、日本人を含めた宇宙飛行士が奮闘し、地上の管制要員が支援する姿を描いている。 これによりSFはおとぎ話ではなく、リアリティのある世界を新たに描けるようになり、読者にそうした場を提供した。 ちょうど六十年前、当時のソ連によって打ち上げられたスプートニク1号。ここからはじまった実社会での宇宙開発と、想像の産物であったSFの世界。 この二つはこの作品で融合し、昇華された。ここから地に足の着いた新しいSFがはじまる。まさにSF大賞にふさわしい作品である。
久美沙織『夢の音 海の色』久美沙織
自薦お許しください。 知らない海で夏を過ごす「人間じゃない」一族のこどもたち。美しすぎる養母はたぶん「人間じゃない」。 ふたつの時代とふたりのヒロインを行き来しながら、少女が少女でいられなくなるぎりぎりの時を描いてもがいているつもりです。自分のサイトで無料公開中。 任意のエンドが選べる小説の「ライヴ」として提示中のため、厳密には進行形、未完作品です。(参考URL:http://kumikura.jp/layla/laylamokujiindex.htm)
日下三蔵氏の編集者としての活躍新恭司
海野十三や今日泊亜蘭など先駆的な作家から、筒井康隆の戯曲集や小松左京、横田順彌など近代作家の編纂まで、国内SFの埋蔵資源の発掘に尽力されており、氏の一連の仕事はこれまでの日本SF史を語る上でも、今後の日本SF界にとっても重要であるといえるため。
綾崎隼《君と時計》シリーズタニグチリウイチ
『君と時計と雛の嘘 第四幕』で完結した物語はループする時間の中で知人を死から救おうと足掻く少年がループを繰り返すたびに身近な人が消えてしまう難事に直面し、別の誰かもループしている複雑な状況の中で正解を求めるスリルで読ませた。
芝村裕吏《セルフ・クラフト・ワールド》シリーズタニグチリウイチ
全3巻で完結した物語はネット内での人工生命の進化が日本に技術の発展をもたらす展開から滅亡に貧した人類がネット空間を利用し新たな生命へと進化していく物語へと発展。技術と社会の未来のビジョンも合わせ描いた。
鴨志田一《青春ブタ野郎》シリーズらっぱ亭
鴨志田一『青春ブタ野郎』シリーズはSF読者のラノベ観を一新する青春SF好き必読かつ量子SFクラスタ必読の傑作。当初は少しフシギ系と思わせて、巻を重ねるごとにSF設定増し増しに。そして『ハツコイ少女の夢を見ない』では怒濤の展開を経てひとまず感動の決着!
TVアニメ『デジモンユニバースアプリモンスターズ』零歌
今では当たり前のように使われている、アプリをモチーフとした架空のモンスターと、それらのバディ(相棒)となる子供たちの活躍を描いた物語。本作の面白い所はモンスターがAI(人工知能)を備えたアプリ生命体という設定だろう。私たちが日頃から何気なく使用しているアプリは果たして、只の道具か?人間と同じように考えるアプモン=AIと人間は何が違うのか?それは、主人公ハルの親友である勇仁の真実を知れば尚更、私たちに突きつけられる問いだろう。また作中で、アプモンが暴走し社会全体が混乱している様は、現代社会のネット依存問題を強く浮き彫りにしている。最終的に、アプモンと子供たちの関わり方こそが来たる2045年問題の一つの答え、そのモデルケースとなっている。子供向けエンターテインメント作品でありながらも「AIに対する人間のこれからの関わり方とは?」という、大人も子供も関係無い大切な問いに真正直から向き合う意欲作。
TVドラマ『仮面ライダーエグゼイド』どぐう
データに自我があったとしたらそれは命と言えるのか。1年間その問いと向き合い続けてきた作品である。我々が素材集めの為にタコ殴りにするモンスターに命が本当にあるとしたら倒せるのだろうか。作品内にも人間になりたがったゲームキャラがいる。しかし、それがただのデータと解釈したものは彼らに容赦無く襲いかかる。逆に、一番敵と戦っている主人公たちの方が敵であるゲームキャラを命あるものと思えてしまうのだった。結局、生死観に対する視点を変えることによって物語は終結した。そのことは曖昧な終わり方ではあったと思う。だが、何度も死んでは蘇る自称神も、一度死んだ身と嘯く監察医も、ゲームを一緒にやりがったキャラクタも、全てが掛け替えのないものということは新たなSFの可能性を見出しただろう。
TVアニメ『けものフレンズ』匿名希望
子供から大人まで楽しめる王道ストーリーとその中に見え隠れするポストアポカリプス的な世界観。擬人化された動物「フレンズ」たちとのふれあいの中でたくさんの生き物の中の「ヒト」という生き物について考えさせられるすっごーい作品です。
TVアニメ『プリンセス・プリンシパル』浅木原忍
スチームパンク×スパイアクション×学園百合アニメという三題噺に、各話の時系列をシャッフルする凝った構成を採用した、『ルパン三世』や『カウボーイビバップ』の系譜を受け継ぐ傑作エンターテインメント。ウェルズ由来の重力遮断物質・ケイバーライトや東西分断された大英帝国といったSF的フックを背景に、魅力的なキャラクター、重さと明るさの緩急に優れたストーリー、そして恐ろしく高品質なアクション作画によって、部活もの系の学園百合アニメの色を残しながら、痛快かつシリアスなスパイアクションとして成立させる神業的綱渡りを決める。スチームパンクとスパイアクションのもつ「格好良さ」を学園百合アニメという現代風の器に蘇らせた、広義の娯楽SFとして2017年を代表する作品のひとつとなるだろう傑作だ。
柞刈湯葉『横浜駅SF』鬼嶋清美
現実に延々と工事中が続く横浜駅を、自己増殖する人工生命体のごとき存在として描くことによって、『地球の長い午後』や『アド・バード』のような異世界SFとして成立させた作品。単なる駅の工事でしかない日常風景を、増殖した横浜駅構内という幻想の風景に変換させてしまうという幻想力を読者に植え付けてしまう点において、前述の名作たちと違うユニークさを備えていることは見事といっていい。読後、Suicaで改札を通る度に違和感を感じてしまうわたしは、すでに横浜駅に取り込まれているのかもしれない。
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TVアニメ『デジモンユニバース アプリモンスターズ』Jの巡礼
新海ハルは人工知能リヴァイアサンを”止める”為、人工知能搭載のアプリ生命体、ガッチモンと共に智慧と勇気で立ち向かう。 彼が望む、シンギュラリティーの形とは… 聖書や禅などにも通ずる、虚無・死と向き合い生きる為の叡智が織り込まれた、格調高い作風。 終始貫くのは”高次の事象を捉える事は困難””真実は見えぬ物の中にある”という概念。これは視聴者へのメッセージでもある。重層的で複雑な筋書き、人物像。 遡り観返す度そこには気付き…アハ体験がある。新たな認知の地平を拓く画期的作品。科学的解釈、民話的解釈、多様な解釈を受容する、懐の深い物語…観る者の心の中に、幾つものユニバース…並行宇宙が広がる。主軸はアプリとしての矜持を持つアプモンと人間との関係。 終盤では存在意義を失い、虚実の境界を揺れ動く人工知能と人間との互いにかける想いの深さが試される。”対等”の一歩先、”優しくありたい”と言う願いが胸に響く。
TVドラマ『動物戦隊ジュウオウジャー』浅木原忍
人間とジューマンという異種族同士のコンタクトと絆の形成を丁寧に描き、細部まできちんと考えられた構成によって、「群れ」「繋がり」をキーワードに「相互理解と共存」という(期せずして現代社会と共鳴する)テーマを爽やかに語りきった秀作。最終回で提示される 豪快なビジョンはかなり無茶だが、1年かけて丁寧に積み上げた物語が、臆面もなく語られる人類社会の未来への理想と希望に強い説得力を与える。本作の終了直後に人気が爆発した『けものフレンズ』とともに、「動物を通して人類(という種/の社会)を考える」作品として推薦したい。
劇場アニメ『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』関竜司
岡山県倉敷・下津井を舞台にした近未来SF。2020年の東京オリンピックに向けて制作された自動運転車をめぐって主人公・森川ココネの夢と現実世界が交錯する。おとぎ話的要素ありスーパーロボットありと飽きさせない。SFだけでなく地域共同体・家族・夢・重層化されたイメージ(既視感・すれ違い・勘違い)など価値の取り戻しという文脈ももったポスト3・11的作品。主人公ココネの性格もいい。《僕はDay Dream Believer そんで彼女はクイーン》
劇場アニメ『BLAME!』タマ
『シドニアの騎士』により知名度をさらに上げた漫画家・弐瓶勉氏のSFアクション超大作の劇場版。「ネット端末遺伝子」を求める霧亥や「電基漁師」の村人たち、科学者のシボが繰り広げる、 セーフガードとの戦いや都市の探索がヒリヒリするような空気感で作り上げられている。加えて弐瓶勉氏による原作の緻密な世界観を、一部ながらもアニメ映画として描くことに挑戦していることも特徴である。 映像は今までのアニメ映画を凌駕するような、弐瓶勉作品に相応しい美しさであった。ストーリー、映像、そして世界観、全てがハイクオリティで、SF・アニメ映画の両ジャンルの歴史に名を刻んだ傑作である。
配信ドラマ『仮面ライダーアマゾンズ』nyapoona
仮面ライダーエグゼイドが生命救助というテーマを描いたとしたら、こちらは生命の避けられぬ死という表裏一体のテーマを描いている。 製薬会社の陰謀によって生まれた人を食する生命体アマゾンの悲哀、この世に生きているだけで災厄をまき散らす存在にどう向き合うのかということが、ネット配信という新たなるフィールドで苛烈に描き出されている。 臓物が飛び出し首が掻き切られる残酷絵巻の果てに浮かび上がる、「それでも生きたい」という生命の激しい輝きと、人類とは相容れなかった異形の存在はナショナリズムが加速しテロが頻発する現代を生きる我々に強い衝撃を与える。
AR performers霜月
便宜上2.5次元アイドルと表現されることが多いが、体感としてそれは正しくない。なぜならフィクションをリアルとみなしているのではなく、彼らの存在は非常にリアルであるからだ。 あちら側からのアクションとこちら側へのリアクションがリアルタイムで成り立つ世界、それがARPだ。2次元と3次元が双方向で影響を及ぼし合い世界が構築されるさまはあまりに革新的で凄まじい没入感を味わわされる。これは「私たち」が現在進行形で創り上げているSFなのだ。 また、REWINDという上演形態についても特筆しておきたい。生身アーティストの一般的なものとは異なり、デジタルコンテンツの強みを最大限に生かしたそれは、ライブビューイングというよりもタイムリープの感覚にさえ陥らせるものであると言える。
TVアニメ『プリンセス・プリンシパル』三原クロウ
まず、何よりも第一にこの作品が優れた良質な娯楽作品であること。 そして明らかなスチームパンクの系譜にある作品であること。 さらに、H・G・ウェルズの末裔とも言える古典SF要素を持っていること。 以上の三点をもって推薦理由は十分に満たしていると考えます。 『月世界最初の人間』に登場する架空物質「ケイバ―ライト」を重要なガジェットとして作中に登場させ、 架空の大英帝国の歴史を描くこの作品がSFでなかったらいったいなんだというのでしょうか。 このアニメは間違いなく優れたSFの一本だと思います。 ぜひ、多くの人に知ってもらいたい、見てもらいたい優れた作品です。
TVアニメ『プリパラ』HN山藤
本作は女児向けのファンタジーSFであり、「紀元前から仮想空間で変身して交流することが当たり前の地球」を女児を対象として数年間にわたり定着させ続けている初めての作品であることから、SF作品として歴史に残るべきと考え、推薦する。 本作における仮想空間での変身は、服装、眼や髪の色、成長や若返り、身長やスタイル、名前まで変更が可能である。匿名で仮想空間を楽しみ、他人と交流することができるため、中学生程度の外見に変身した小学生が若い外見に変身したお年寄りと会話をするという描写もある程である。 家庭ではおとなしい少女が仮想空間内では派手な服装でワガママを言う、明るい小学四年生の少女が仮想空間内では中学生程度の外見で無口なクール系アイドルを演じる等、番組を視聴している子どもが「自分だったらどんな姿に変身しようか」と考えずにはいられない内容となっている。また、変身中の自分と普段の自分のギャップに悩む等、仮想空間で変身することが当たり前であるからこそ起こり得るストーリーが盛り込まれており、実際の現代社会におけるネットの匿名文化にも通じるメッセージが込められていることも、子ども向けのSF作品として評価できる。
幻のTVアニメ『ガンとゴン』、遂に発掘される鯉汁
16/12/25、ニコ生の番組にて『ガンとゴン』がネット史上初お披露目となった。 本作は、71年の本放送及び再放送を終えた後、確認できる資料が1枚の画像のみという、存在すら疑われた幻の作品である。 しかし有志達の懸命なる調査とコンタクトを得て、当時に本作を録画していた方々の協力により、日本アニメ史の黎明期でもある約45年前に製作された本作が遂に復活を果たした。 SNS等これまで繋がる事のなかった人々が容易く交流できる科学的ツールが台頭する現代。それらによるコミュ ニティの繋がりが起因の本作の発掘及び復活は、まさに科学の進歩とエンタメの普及が調和された結果と言える。 これらの要素が存在しなかった時代ではフィクションとも言える出来事だ。将来的に現代では成し得ない「本作に限らない失われた作品や歴史の究明」に通じるピースと考えても良いだろう。 (例:過去の公共電波の復元や時間移動による失われた作品の究明)
TVドラマ『仮面ライダーエグゼイド』釜玉うどん
ゲームから生まれた自我を持つウイルス、そしてそのウイルスによる病に立ち向かうドクター(仮面ライダー)達を描いた作品。 序盤はコンティニューできない人間の命とコンティニューできるゲーム(データ)の命の対比が描かれ、中盤から終盤にかけては人間の命のコンティニューを可能にする技術、そして何度でもコンティニューできるはずのゲーム(データ)の命を消滅させることができる存在が現れ、二つの命における定義が崩れ始める。 自我を持つウイルス、そしてデータとしてコンティニューした人間との関わりを通し、主人公は「データの塊に命や心はあるのか」という幾度となく問われてきた命題にきっぱり「YES」と答える。 人間の命とデータの命を丁寧に描いてきた本作においてこの解答に違和感を感じることは全くない。 紛れもなくデータ的存在を扱った作品のエポックメイキングとなる作品である。
荒巻義雄『もはや宇宙は迷宮の鏡のように』Kei-one
84歳の新作書き下ろし長編SFということも驚きながら、45年をかけての3部作完結というのもすごい。〈白樹直哉シリーズ〉の結末という形はとっているものの、誰も見たことのない霊魂の世界に挑戦する全く新しいSFである。「〈術〉の小説」理論でスタートし、これまで様々に書き継いできた『神聖代』や『時の葦舟』をはじめとする著者の脳内世界の果てとして、ついに死後宇宙の謎の解明に到達したこの大傑作を日本SF大賞に推薦する。
星野之宣『レインマン』石田宅司
星野之宣の新たなるチャレンジ。現時点で掲載誌に連載中であるが、オカルトからハードSFへと縦横無尽に変化する物語は大胆なクロスオーバーを経てどこに向かうのか。世界の歴史に現れる「レインマン」の正体とは?期待の物語である。
人形劇『山ぐるみ人形劇 かめくん』石田宅司
人形劇とはいえ全く新しい感覚のSF劇場。北野勇作さんの「かめくん」を大胆な構成で人形劇に。『風あこがれ』システムを駆使しSFマインドあふれる独特の作劇となっている。この新しいSF人形劇を体験すべし!です。
TVドラマ『仮面ライダーエグゼイド』YUKI
本作こそ、現時点でもっとも鮮烈なビジョンを見せるSF作品であると断言する。 平成2期ライダー「らしい」奇抜なデザインはさておき、エグゼイドの最大の衝撃は、医療ドラマが避けて通れない、「生命」との向き合い方に他ならない。作品が辿り着いた「ゲーム病で命を落としたかに思われた患者は、死んだのではない(かもしれない)」=「医療の進歩によって、生命の概念さえ変わっていく」というあまりにも際どい答え。それは、野﨑まど『know』の結末で示唆された新しい死生観にも通じるものであり、これからのフィクションが描く生命の在り方のスタンダードとなりうる力を持っている。 プログラムやデータが深刻そうな顔で「俺は生きているのか?」と悩む時代は終わった。土管からコンティニューした厚かましい神を「それでも生きている」と認められる未来の可能性を見せてくれたこの番組を、今年最高のSF作品として強く推薦したい。
赤野工作『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』うさぎにんげん
百年後のゲームレビューという体裁の諧謔のみならず、途中で挿入される「雑記」に滲む「書き手」の想いが秀逸。SFとしてちゃんと評価されてほしいです。
映画『HiGH&LOW THEMOVIE2 END OF SKY』nyapoona
昭和のような商店街の隣に賭博街やスラム街などがある近未来を舞台に、SWORD地区を仕切る者達とヤクザの抗争を描いたアクション大作。アクション大作としての強度も確かながら、強烈なキャラクターや神話的でありながら普遍的でもあるモチーフ・ストーリー構造は独特であり、観る者に新しい衝撃をもたらすだろう。
TVドラマ『仮面ライダーエグゼイド』nyapoona
ゲームと医療というモチーフを「いくらでもやり直せるゲーム」「やり直しのできない医療」という対比で描き、「生命とは何か」という題目まで辿り着いたSF作品。2000年問題が重要なモチーフになっていくのも面白い。
TVアニメ『ヘボット!』必殺激推しマン
40年続いた名古屋放送枠アニメの集大成。 ギャグアニメではあるものの世界観は全体の時間は進んだまま世界が周回する『ネジ型ループ構造』であり、他作品パロディが多いのも『現実と虚構が混じりあったから』という、かつてないメタSF。 本編では頭がおかしくなるようなギャグを繰り広げる中で、わずか数十秒程度のシーンで「ヘボット!」世界のSF観を披露し、観たものに無限の想像力を働かせた。また、主人公と相棒を取り巻く全てのキャラが(誇張ではなく、本当に全てのキャラ)ストーリーの重要人物として当てはめられていく展開は、ただの後付け展開とは 言い難いほど、本編内で納得させられる行動をしていたことに視聴者は唸らさせられざるを得ない。 『ヘボット!』こそ、現代におけるメタSFの新境地である。
山田胡瓜『AIの遺電子』大澤博隆
人工知能論、知能・心身問題を中心に扱った短編集。広範囲のテーマを、ヒューマノイドロボットの治療を行う医者、という設定でパッケージングし、少年誌でハイペースの連載を行い、多くの評価を得た。操作可能なパラメータを持つ他者であるヒューマノイドと、内面を描かない道具としてのロボットの両方を用いて、上記テーマをうまく切り分けている。作者は元ITニュース記者であり、先端技術の本質・影響を見抜く感性に優れている。特に、先端技術が変える人々の価値観・心の動きを中心に描くことで、古典的なSF作品から一歩出た人と技術の関係性を描こうとした点が、「SFの歴史に新たな側面を付け加えた」という大賞の評価に値すると考える。
神野オキナ『カミカゼの邦』渡邊利道
尖閣諸島をめぐり日中が軍事衝突、沖縄が焼土となる紛争が勃発。中国が南北に分裂してあっけなく終戦となるが、義勇兵として戦った人間たちには、平和を享受したまま戦勝を祝う「日本人」に釈然としない「戦後」があり、米中韓日仏をまたがる原発テロの陰謀に巻き込まれていく。情念たっぷりの大藪春彦を思わせるポリティカル・アクション小説で、沖縄(琉球)人の心情をこれでもかとばかり濃厚に叩き込んでくる。トランプ大統領の誕生もあって今年は分断戦争ものの小説を内外でいろいろ読んだが、これが一番読みたかった作品だと思った。わりと懐かしい日本SFの中間小説的味わいがあるストレートなエンターテインメントではあるのだけれど、こういうスタイルでこそかける情念というのはあるのかもしれないとも思う。
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赤野工作『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』渡邊利道
自分は好きだが世間的には低評価のゲームを紹介するブログというスタイルで、コンセプトだけの作品かと思ったら各話短編小説的な厚みがあり、きちんと計算された伏線と回収がある長篇小説になっている。とくに高度産業情報技術社会での「老い」の描写が緻密で面白い。成熟の不可能性と老化の不可避性を、ゲーマーの語り手によるゲームへの耽溺と身体改造の果ての「死」の幻想が折り重なった未来社会の孤独として語る。ネット小説の書籍化だが、ブログ形式になっているにも拘らず、ウェブで読むよりもずっと紙の方が読みやすかったのが不思議。
高井信『日本ショートショート出版史 ~星新一と、その時代~』渡邊利道
星新一がデビューした1957年から逝去した97年まで中心に(前後の話題もふんだんに出てくる)、タイトル通りショートショートの出版史を詳細に語った本。ショートショートが中心にあるのだが、短い奇想小説がジャンルを問わずひろく視野に入っていて、また翻訳についての紹介が、その影響なども含めて詳細で日本でショートショートがどういうふうに受容され浸透し、日本人作家に書かれるようになっていったかがよくわかる。とにかく情報量の多さ、わけても1000点を越える書影が壮観。
岡和田晃『世界にあけられた弾痕と、黄昏の原郷』渡邊利道
SF、ゲーム、幻想文学の三部構成で、SFでは「ポスト・ヒューマニズム」の概念を足がかりに、さまざまな作品と批評を横断しながら現実と虚構の結節点を探究する。ゲームでは、多様な媒体に呼応した多様な文体で、ナラトロジーそのほかの理論的洞察と、ゲームマスターとしての経験を縦横に駆使し、〈方法〉と〈形式〉を堅苦しくならずに突き詰めていく、ジャンルを超えたフィクションの可能性をひらく画期的なもの。幻想文学では、ゲーム論での議論を前提に、著者自身の大学での経験・知見を導入した海外幻想怪奇小説に関する論考が白眉。思弁的実在論を導入してホラー・SFの読み直しが図られているアカデミックなものとポップ・カルチャー的なものの越境的な動きをスマートに捉えたもの。アカデミックな理論の構築性とエンターテインメントや社会的な言説の現場感覚が融合した新しい時代に相応しい全方位的なSF批評の書。
北野勇作『大怪獣記』渡邊利道
角川ホラー文庫で出ていて現在は電子書籍で出ている『人面町四丁目』の続篇で、怪獣映画のノヴェライズを依頼された作家が、脚本の未定稿としておからをたべると、夢とも現とも知れぬグロテスクで甘美な体験をくぐりぬけ、そうやっていつか出来上がるはずの映画を知ると同時にこの世界(人面町)の秘密を垣間みるという独特の夢と象徴と連想を組み合わせたスタイルの物語で、クトゥルー神話の要素も加え、最後にはこれはSFだとしか確信させる地平にひろがっていく。細部のすべてに作者の神経が行き届いた作品で、小説を読む原初的な喜びを味合わせてくれる。
柞刈湯葉『横浜駅SF』渡邊利道
自己増殖する「横浜駅」に本州のほとんどが飲み込まれてしまった未来の日本を舞台にした青春冒険小説。生物系の散逸構造をモデルにした「横浜駅」という奔放なアイディアを、緻密な理論設定とディティールの描写で見事にSF的な異世界として構築して、その上でオードソックスな青春冒険小説を辷らせたエンターテインメント小説。アイディアの核にあるのは非線形科学なのに物語展開は非常にストレートでさくさく読めて大変面白い。もともとはtwitterで作者が書いたネタツィートだったのが、だんだん増殖して物語となり、ついに第1回カクヨムWeb小説コンテストSF部門大賞を受賞、大幅に加筆されたものが書籍版として刊行されたという経緯もいまの時代をよく象徴していると思う。
眉村卓『終幕のゆくえ』渡邊利道
老い、死、世界の終わりなどをテーマにした全編描き下ろしの短編集。不思議な世界を自由に往還する平明な独特の文体にますます磨きがかかっている。どうしてこんな悪い言い方をすればテキトーに流して書いているように見えるのにすごく面白いんだろうと不思議になる達人の技が堪能できる。
TVアニメ『ヘボット!』ぬのぶくろ
本作はキッズ向けホビー(おもちゃ)アニメであり、ハイテンションなギャグ、出し抜けに現れる無意味で雑なキャラ、大人すらも把握しきれない無数のパロディを満載したドタバタギャグアニメである。それと同時に、高度で複雑なループ系SFであり、メタフィクションのひとつの到達点でもある。ギャグ、雑キャラ、パロディ、それらが実は安定を欠く世界の現れであったというSF展開は観る者を動揺・驚愕させた。そして元来、虚構のありようを批判的に扱いがちだったメタ発言・展開を虚構の全肯定に用い、そこに「視聴者の存在」「番組の放送枠」までもを組み込んで、いかなる創作物も逃れられぬ宿痾「物語の終焉」すらも超越してしまった。しかも明るく楽しいホビー/ドタバタギャグアニメの枠を遵守し切ったままで。過去への敬意と未来への希望に溢れた、秀逸なSF作品。
TVアニメ『ヘボット!』メリーヌ長谷川
突拍子のないギャグ、脈絡なく現れるキャラクター、意味不明としか思えないパロディ、その全てがシリアス、世界がループしていることの伏線である。全貌が見えぬまま少しずつシリアスとコメディのキャラクターが混じり合い、完全に融合した上で希望ある決着をつける構成には何度見直しても脱帽する。 なにより現実と虚構の融合、その上での「2次創作によってキャラクターは生き続けていく」というエンドは『メタSF』のこれからの金字塔となってもおかしくない。
荒巻義雄『もはや宇宙は迷宮の鏡のように』三浦祐嗣
『白き日旅立てば不死』(1972年)、『聖シュテファン寺院の鐘の音は』(1988年)に続く、天才建築家・白樹直哉を主人公とする「白樹直哉シリーズ」3部作の完結編。物語の冒頭、臨終を迎えた白樹は、霊魂となって23世紀、さらには30世紀の地球へと転生を繰り返す。哲学、宗教学、心理学、美術、建築、そして量子論に至る著者の豊富な知識と優れた知見によって描かれた、異様なマニエリスム的未来世界は、実に魅力的である。そして、永遠の恋人であるソフィーを追い求めてきた白樹の旅は、感動的な結末を迎える。半世紀にわたって旺盛な創作活動を続け、日本のSF界に大きな足跡を残してきた著者の集大成ともいえる長編。SFであるとともに、ダンテの『神曲』を想起させる死後文学の傑作でもあり、まさに「SFの歴史に新たな側面を付け加えた作品」として、大賞にふさわしいと考える。
ブラッドレー・ボンド編『ハーン・ザ・ラストハンター アメリカン・オタク小説集』浅木原忍
日本文化に多大な影響を受けたトンチキなアメリカン同人小説群を『ニンジャスレイヤー』の著者が集めほんやくチームが訳した傑作アンソロジー。そして豆腐! 収録作はSFに限らないが、 思弁的豆腐SF「阿弥陀6」(スティーヴン・ヘインズワース)は宇宙ステーションと豆腐というビジュアル的異化効果とほんやくチームの訳文の与えるリアリティショックによるスペキュレイティヴなセンス・オブ・ワンダーに溢れた傑作で、これ一本だけでも日本SF大賞に推薦する価値がある。 え、「日本」SF大賞じゃない? 『ニンジャスレイヤー』が「SFが読みたい!」の日本編にランキングされていたというニンジャ真実は存在しない、いいね?
藤井太洋『公正的戦闘規範』牧眞司
短篇集。ITの発展とそれにともなう意識や社会の変容をあつかった4篇と、限定状況における工学的オペレーションが焦点となる書き下ろしを収録。 とにかく一篇ごとに投入される情報量が凄まじい。それはたんなるガジェット趣味や衒学ではなく、物語のロジックと深く関わっており、描かれる世界のディテールを構成する。つまり、些末主義的な説明ではなく、本質的な世界観であり質感である。 詳しくはこちらの書評をご参照ください http://www.webdoku.jp/newshz/maki/2017/09/12/130726.html
大森望・日下三蔵編《年刊日本SF傑作選》牧眞司
2017年夏に刊行された『行き先は特異点』で10冊目を迎える年刊アンソロジー。10冊の節目ということで、これまでのぶんをまとめて評価したい。 作品の質と広がりにおいてここ10年の日本SFはかつてないほど豊穣な時代を迎えている。実力のある書き手が次々とあらわれる異一方で、ベテラン・中堅が新しいチャレンジをおこない、ジャンルの外側でもスペキュレイティヴな作品が目立つ。そんな状況をコンパクトに展望できる、このアンソロジーの価値はきわめて大きい。 こちらの書評も参照ください http://www.webdoku.jp/newshz/maki/2017/08/15/182407.html
宮内悠介『あとは野となれ大和撫子』牧眞司
中央アジアの架空の国を舞台にした、起伏に富んだエンターテインメント。環境改造が重要なテーマのひとつになっている点、多義的で動的なユートピアの可能性を探っている点で、SFの範疇でも議論されるべきだろう。 砂漠を舞台とした建国ストーリーでは、60年代にフランク・ハーバートの『デューン砂の惑星』、70年代にアーシュラ・K・ル・グィン『所有せざる人々』があるが、宮内悠介は21世紀の状況を踏まえてよりアクチャルでコントラヴァーシャルなヴィジョンを提起している。 こちらの書評も参照ください http://www.webdoku.jp/newshz/maki/2017/05/09/114426.html
飛浩隆『自生の夢』牧眞司
七篇を収録した短篇集。 シュルレアルの圧倒的イメージと未知なる存在によって過去が再構成される展開が印象的な「海の指」。 悪意ある言語構造体によって人類が蹂躙されたのちの世界で、再構成された希代の殺人鬼と対話をし、その過程で世界のなりたちがあぶりだされる(対話しているふたりのありようも含めて)「自生の夢」。 傑作ぞろい。 詳しくはこちらの書評をお読みください http://www.webdoku.jp/newshz/maki/2016/12/13/182714.html
上田早夕里『夢みる葦笛』牧眞司
十篇収録の短篇集。煌めくような幻想あり、ハードな設定のSFあり、深遠なスペキュレーションあり、バラエティに富んでいる。 情報理論や認知科学的知見に基づいて人間性の根拠を問う作品は、いまやSFのひとつのスタンダードになっているが、上田早夕里はそこに身体性を重ねあわせる。それは温度と湿度を持っている。上田早百合の文章は、知的であると同時にきわめて官能的だ。 詳しくはこちらの書評をお読みください http://www.webdoku.jp/newshz/maki/2016/10/04/100734.html
長谷敏司「震える犬」町田一軒家
AR(拡張現実視野)を利用したチンパンジーの知能研究プロジェクトと、アフリカのコンゴを取り巻く民族紛争が互いにリンクしあい、「人間とは何か?」という問いを読者に突きつける。原始的な感情(例えば愛)の高まりや別個の求心力によって引き起こされる収奪という名の衝突は、「知恵ある人類(ホモサピエンス)」になっても繰り返される。しかし、それがなければ人類に「集団」という概念は誕生せず、その先の「社会」が形成されることもなかったのだ。今を生きる人類は言語以外のすべての物――愛ですら――を絶滅した他の人類から略奪することで生き残ってきたのだ。あまりにもシビアな解答を、読者の常識を震わせる、新たな風景(Vision)で突きつけるこの作品は、日本SF大賞にふさわしい傑作だろう。
草野原々『最後にして最初のアイドル』YATAGAI Kazuo
『ラブライブ!』二次創作にしてワイドスクリーン・バロック。SFコンテスト選考会に旋風を巻き起こし、異例の電子書籍出版から星雲賞。まさにSF新時代を象徴する作品です。
一田和樹『ウルトラハッピーディストピアジャパン 人工知能ハビタのやさしい侵略』井上言葉
エントリー募集についてのFAQにある通り、 『SFとしてすぐれた作品であり、「このあとからは、これがなかった以前の世界が想像できないような作品」や「SFの歴史に新たな側面を付け加えた作品」』 の条件をすべて満たしているかつ、個人的にも大変面白い作品と思いましたので、本作を推薦させて頂きます。人工知能型クラウドサービス「ハビタ」によって、社会がやさしく侵略されてゆく様がキャッチーな文章で描かれる、2019年の東京を舞台としたサイバーエンターテイメント小説作品です。
乙野四方字(著)、東映アニメーション(原作)、野﨑まど (脚本)『正解するマド』浅木原忍
アニメ『正解するカド』の怪作スピンアウト小説。冒頭からメタもメタにかっ飛ばす展開は、縦横無尽の野まど作品オマージュを絡めて、さらに斜め三十七次元上へ突き抜けていき、最終的にメタフィクション版『2』とでも形容するしかないところまで 辿り着いてしまう。こちらの認識の境界が木っ端微塵に破壊されていく読書体験には、すぐれてSF的な興奮がある。『正解するカド』は本作をもって真の《正解》に辿り着いた。日本SF大賞よ、どうか正解されたい。
ゲーム『悠久のティアブレイド LostChronicle』模範的工作員同志/赤野工作
オトメイトより発売された恋愛ADV。最終戦争によって荒廃した後の世界を舞台に、「滅亡後の未来」の社会考察を真正面から描ききった意欲作。管理AI、巨大ロボ、地下シェルター、全ての要素がとにかくかっこいい。
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ショートフィルム『Gucci Fall Winter 2017 Campaign』新恭司
GUCCIの2017秋冬コレクションの広告用ショートフィルム、グレン・ルックフォード監督。今季は「宇宙」をテーマにしており、『宇宙大作戦』『禁断の惑星』『恐竜グワンジ』『大アマゾンの半魚人』など(どこが「宇宙」なのかよくわからない引用もあるが)、'50~'60年代の数々のSF映画・ドラマにオマージュを捧げている。各場面はパッチワーク的で一切ストーリーがないノンナラティブなフィルムであるにもかかわらず、たしかに「SF」なのである。第37回日本SF大賞授賞式の配信で藤井会長が「実は日本の作品じゃなくてもOK」と仰っていたのでこれを推薦する。
OVA『ハイスクール・フリート』IKEMOTO
「進化と破局は不可分である」。科学の進化が思わぬ破局を生み出すというのはSFのセオリーであるが、ハイスクール・フリートのいわば"敵役"であるRATtと呼ばれる生命体はまさにそれを表している。研究の中で偶発的に産まれたこの生命は"全体主義の疾患"と作中で呼ばれる状態を人間に引き起こす。この感染によって海洋学校の船が次々と行方不明となり、実弾が装填された戦艦「武蔵」が制御不能のまま浦賀水道へ突入していく。 現代とは異なった時代を歩んだ世界で繰り広げられるこの作品は、SF的な見方、管理職としての人との関係の築き方、アーレント的な全体主義に対比される主人公たちの個性などが混ざり合い、2つとない魅力へ昇華されている。
独自言語を開発して会話を始めたロボット矢田和啓
お互いの利益の最大化を図るべく交渉を開始したAI(人工知能)同士が独自言語を開発したということが、まず画期的にSFである。結果的にフェイスブック側によって停止されてしまったが、人々を畏怖せしめるに足る何かがあったということ、それはまさにモダンホラーの極致ではなかろうか。AIの会話の中で新たな言語が生み出されたこと、こうした現象は、SF的な観点から見ても技術倫理上の設計が求められることを示唆する、一つの進歩だったのではないか。参考URL:https://jp.sputniknews.com/world/201708013947295/ https://www.google.co.jp/amp/s/news.infoseek.co.jp/amp/article/gizmodo_isnews_121163/
TVアニメ『けものフレンズ』神鳥谷カヲル
当初は「知能が下がる」とまで言われたほのぼのとした優しい世界をベースとしながらも、あちこちに散りばめられたポストアポカリプス的な不穏な要素、そして人間+動物+ロボットというありそうでなかった組み合わせのコンビによる、正統派ロードムービーの形式を借りた人類の歴史を辿る旅。序盤でさり気なく埋め込まれた数々の伏線が終盤になって俄然意味を持ち、見る者に強烈なカタルシスをもたらす、美しさすら感じさせる巧みな構成も見事。子供にとってはさまざまな動物の生態を学ぶきっかけともなり、大人にとっても「ヒト」とは何かを考えさせる深さを持つ、年齢を問わず楽しめる稀有なSF作品である。
筒城灯士郎『ビアンカ・オーバーステップ』にのこ
筒井康隆さんの『ビアンカ・オーバースタディ』の続篇であり、オマージュという話題で読み始めた私を、そのことに関係なく一つの長篇SF小説として楽しませてくれた。 翻訳SF風文体や傍点の文章で始まると、それを読み漁っていた少年期の期待に満ちた感覚を思い出した。大人になった私は騙されないぞと注意深く伏線やオマージュ、パロディに気を配りながら読み始めていくが、そんなことは関係なく楽しめばいいさとストーリーに引き込んでくれた。頭の中は単に『ロッサ可愛い』。展開が広がり、着地どうする?と思ったが心配は無用だった。読後の爽快感がたまらなく良かった。 ソフトなエロやグロが出てくる本は知人に勧めにくいので、どんどん評判になってSF好きに勝手に手に取ってもらえたらいいなと思う。
トポロジーに関する新たな展開:電子バンド構造の完全な理論で化学と物理学が融合矢田和啓
電子バンド構造の完全な理論の完成による物理学と化学の融合という新境地によって、あらゆる科学現象が解明される可能性がある。何より最大のポイントは物理学と化学が融合して、ある種の神秘の皮が剥がされるということだ。すなわち、従来の基礎研究において数学的・物理学的に不可能であった事柄が、この電子バンド構造の完全な理論によって解析的にシュミレートして解けるようになるかもしれない、ということである。
Kazuhiro Yada「Der Schnelle Spuk」矢田和啓
新幹線の遅延という、従来の常識では考えられなかったSF的瞬間を写真として捉え、時間というものの存在の瞬間性と永遠性をアクチュアルな形で発現させた。そしてリューココリネの花と新幹線という、無機物の中の有機物という画期的な構図によって従来の写真史を覆した。新幹線という移動する物体を閉鎖的な環境と捉え、そこに現れる閉塞下における《表現》を、SF的に現実感のあるものとしている。なお、タイトルは『高い城の男』におけるプラスチック製自動車の名前である。
ni_ka/矢田和啓『「現代を生きるモジュール」展』矢田和啓
作品「現代を生きるモジュール」ではキーボードに繋がれた実験ノートにDNAをモチーフにした詩作品が書かれ、「ここから先はあなたが書きます」という一連によって永遠不死の無限循環するセントラルドグマ的な世界像を現出せしめ、展示会場に来た多くの参加者にリレーショナルな介入を促した。実際に来た学生たちの多くがものを書いたり、シールを貼ったりして、展示が始まってから日々その実験ノートのDNAは文字通り「更新」されていた。また、スマホアプリLayarによるAR詩の再誕も、ウィリアム・ギブスンの『スプーク・カントリー』の如くサイバーパンク的なSF的価値を高めている。
TVアニメ『フリップフラッパーズ』匿名希望
このアニメを端的に言うなら「魔法少女格闘モノ」である。そちらの道に通じている方ならプリキュアを思い浮かべてもらえれば間違いない。 ココナとパピカ、2人の少女が異世界を旅し、困難に異能で打ち勝っていく。 主人公たちの友情を主題にしたストーリー、幻想的で美しい背景や挑戦的な映像表現、所謂「萌え要素」など、この作品について私が評価したい点は多くあるが、このSF大賞へと選奨する理由にはならないだろう。 この作品で扱われるファンタジー要素。現実世界では魔法と分類されるものだが、作中ではその現象を科学的な側面からアプローチしている。 作中で魔法を科学で分析する描写がしばしばなされる。ナビゲーターとしてユーモラスなロボットが配置されていたり、敵対する組織のキャラクターはミサイルや強化アームなどの「科学的な」兵器を使用する。 また中盤から終盤にかけて、ストーリーの山場にてとある組織での研究シーンが描かれる。現実世界と同じように、事象を科学によって切り崩し、扱おうとする。それが例え人の手に負えるような代物でなくとも。 魔法少女モノというアニメならではの題材に、科学という現実的な要素を持つ切り口を入れることでより作品に深みを持たせている作品、フリップフラッパーズを薦めたい。
丸菱陸人/カワラハジメ『マンガでわかる本当はエッチな物理学』山本小鉄
慣性の法則、元素周期表の基本からニュートリノ、ニホニウム、重力波まで色々な物理学をエッチに紹介。単純にエッチなのではなく全年齢に対応するマイルドエッチ。実際の物理学をベースに、ちょっと嘘をつく所はSFの王道といえる。
光永康則『アヴァルト』山本小鉄
太陽系の外に向かうはずだった宇宙船。主人公がコールドスリープから目覚めるとなぜか地球外周にいて、しかも地上はRPGゲームの世界に。謎ばかりで読んでて引き込まれます。
TVドラマ『仮面ライダーエグゼイド』浅木原忍
1年間を恐るべき密度で駆け抜けたその物語だけでも平成ライダー史上屈指の傑作だが、同時に本作は「ゲーム」と「医療」という題材を「生命倫理」というキーワードで接続し、テクノロジーの進化による生命倫理の変化というテーマに、医療という角度から切り込んで完璧な着地を見せた、現代SFの傑作である。「魂のデータ化」や「生命の定義」というテーマに「医療」という角度から光を当て、テクノロジーの進化で生命の定義そのものが揺らぐ中で「医療の倫理」はどうあるべきか、という問題に対し、最終回で完璧な解答を導き出した本作は、特撮テレビドラマ初の日本SF大賞を与えられて然るべき作品だ。
TVアニメ『けものフレンズ』浅木原忍
誰もが童心に還って夢中になれる王道冒険ストーリー、魅力的なキャラクター、作品全体に仕掛けられた視聴者へのフックの多重構造など数限りない美点の中でも、爆発的ヒットをもたらしたきっかけは、平和な世界の裏に見え隠れするポストアポカリプス的世界観の謎だった。〝世界の秘密〟を巡って散りばめられた謎の魅力がこれだけ多くの人を惹きつけたことは、原初的な〝SFの面白さ〟が持つ普遍的な力を見せつけたと言えるのではないか(その上で、世界の謎を棚上げにしても全く問題なく楽しめるという構造の秀抜さも特筆しておきたい)。放映後に起きた動物園ブーム、間を置かず実現した朝の再放送といった数々の現象も含めて、まさしく今年度を代表するSF作品であり、日本SF大賞に相応しい傑作だ。
クリスティーヌ中島『モノリス』クリスティーヌ中島
・システムエンジニアである著者が人工知能の学説を元に執筆した点 ・テーマは以下3点 ①ロボットは人とパートナーになれるか ②ロボットは人間の奴隷か ③ロボットの進化速度は人間を追い越し支配者となるか ・2040年頃(人間の知能を人工知能が追い越すとされる年代)を焦点に②③を新たなSFの側面として描いた点。アシモフ「鋼鉄都市」では①のみを描いていました。 ・「この漫画がすごい!」大賞最終候補作。講談社アフタヌーン「もう一歩で賞」受賞作。電脳マヴォ掲載作品(公開は自サイト) 参考URL 電脳マヴォの著者評:http://mavo.takekuma.jp/title.php?title=76 自サイト最新話:https://christinemanga.wordpress.com/2016/12/24/5-8monolith/
TVアニメ『ID-0』タニグチリウイチ
Iマシンなるテクノロジーを見せ人は肉体を離れ意識のみにて己を人と思えるか否かを問いつつ、異種生命らしき存在との戦いを描きコンタクトを描いて、技術と人類の未来を諸課題とともに提示しつつアクションで楽しませた。
TVアニメ『けものフレンズ』タニグチリウイチ
擬人化された動物たちが戯れる箱庭的世界と見せて背後に人類のその後を想像させる要素を示し興味を引いた。そんな世界だからこそ起こる事態の中で人間の叡智、動物の能力が発揮され生命として進歩していく様を見せた。
ゆうきまさみ『白暮のクロニクル』Ta. Miyoshi
日本の歴史の中でもし「おきなが」という現象が日常と寄り添ったところに存在したらというifを丁寧に描いた作品です。新作ミステリーSFとしてSF大賞エントリーに相応しい作品として推薦いたします。
圓山りす「グロース・フォース」新恭司
「アフタヌーン」2016年12月号掲載、アフタヌーン四季賞・2016年夏「四季大賞」受賞作品。雷に打たれ超能力に目覚めた少女・浮田安里。その秘密を共有する親友の櫻谷弥咲に「鳥になる」と宣言し、自分自身の能力だけで空を飛ぼうとする。安里はあらゆるトレーニングに励むが、一向に飛べるようにはならず、弥咲との友情にもヒビが入る。その矢先、安里の前に謎の二人組が現われ不測の事態に発展する。作者・圓山りすの圧倒的な渾身の筆致とは裏腹に、読み進めてみると追跡者の描き方など案外古めかしさを感じる部分もあるが、それが却ってNHK少年ドラマシリーズのような雰囲気を醸しており親しみやすさに包まれている。読後感の爽やかさに胸を打たれる快作。
TVアニメ『けものフレンズ』新恭司
『サピエンス全史』の邦訳出版、ラスコー展の本邦開催などにわかに巻き起こった文化人類学ブームと呼応しているかのようなタイミングで放送が始まった、メディアミックス企画のアニメ化作品。旅をする主人公が出会う人間化した動物たちと関係を積み重ね、現実世界では10万年以上におよぶ人類史、グレイト・ジャーニーを再演しようという骨太なチャレンジだった。この作品では、取りもなおさず、ヒトと動物たちとの間に横たわるものを隠喩的に描いてもいるが、にもかかわらず、主人公の二人はそれぞれの智慧と特技、それになによりも、屈託のない友情でその宿命を力強く乗り越えようとする。
映画『ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』新恭司
低年齢層にまで広がる「スノーボール・アース」ブームに乗った形でその学説を取り入れた、アカデミックを土台にした映画オリジナル作品。前半ではアムンゼンやスコット、シャクルトンなどを思わせる極地遠征を描写し、中盤以降は時間SFと、モンスターの討伐を軸に冒険を盛り立てている。(討つべきモンスターはクトゥルフ神話に登場する邪神に似た存在だが、監督自身はインタビューで、クトゥルフに関する小説は読んでいないと答えている)。ごっこ遊びに端を発して本物の大冒険へと誘われる流れは、過去の大長編の流れを色濃く反映しおり、藤子・Fファンにも好評を博した。肝心の「スノーボール・アース」に関する描写は、事前の予告などから期待していたほどの掘り下げはなく、些か物足りなさが心残りだが、冒険SFの魅力を十二分に詰め込んだ意欲的なジュブナイル作品だった。
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