第38回日本SF大賞エントリー一覧

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嶋中潤『天穹(てんきゅう)のテロリズム』三匹の金魚
SFの世界を実現させよう。科学者がそんな夢を持ち、奮闘することで科学技術は進歩してきた。 その一つの成果が、高度400kmを周回する国際宇宙ステーション(ISS)であり、宇宙飛行士をはじめとした関係者が実際に活躍をしている。 結果、古典的SFの世界で夢として描かれていた宇宙と、そこでの人類の活動は一部が現実のものとなった。 本作品ではISSという現実に存在する巨大構造物を舞台に、日本人を含めた宇宙飛行士が奮闘し、地上の管制要員が支援する姿を描いている。 これによりSFはおとぎ話ではなく、リアリティのある世界を新たに描けるようになり、読者にそうした場を提供した。 ちょうど六十年前、当時のソ連によって打ち上げられたスプートニク1号。ここからはじまった実社会での宇宙開発と、想像の産物であったSFの世界。 この二つはこの作品で融合し、昇華された。ここから地に足の着いた新しいSFがはじまる。まさにSF大賞にふさわしい作品である。
久美沙織『夢の音 海の色』久美沙織
自薦お許しください。 知らない海で夏を過ごす「人間じゃない」一族のこどもたち。美しすぎる養母はたぶん「人間じゃない」。 ふたつの時代とふたりのヒロインを行き来しながら、少女が少女でいられなくなるぎりぎりの時を描いてもがいているつもりです。自分のサイトで無料公開中。 任意のエンドが選べる小説の「ライヴ」として提示中のため、厳密には進行形、未完作品です。(参考URL:http://kumikura.jp/layla/laylamokujiindex.htm)
日下三蔵氏の編集者としての活躍新恭司
海野十三や今日泊亜蘭など先駆的な作家から、筒井康隆の戯曲集や小松左京、横田順彌など近代作家の編纂まで、国内SFの埋蔵資源の発掘に尽力されており、氏の一連の仕事はこれまでの日本SF史を語る上でも、今後の日本SF界にとっても重要であるといえるため。
綾崎隼《君と時計》シリーズタニグチリウイチ
『君と時計と雛の嘘 第四幕』で完結した物語はループする時間の中で知人を死から救おうと足掻く少年がループを繰り返すたびに身近な人が消えてしまう難事に直面し、別の誰かもループしている複雑な状況の中で正解を求めるスリルで読ませた。
芝村裕吏《セルフ・クラフト・ワールド》シリーズタニグチリウイチ
全3巻で完結した物語はネット内での人工生命の進化が日本に技術の発展をもたらす展開から滅亡に貧した人類がネット空間を利用し新たな生命へと進化していく物語へと発展。技術と社会の未来のビジョンも合わせ描いた。
鴨志田一《青春ブタ野郎》シリーズらっぱ亭
鴨志田一『青春ブタ野郎』シリーズはSF読者のラノベ観を一新する青春SF好き必読かつ量子SFクラスタ必読の傑作。当初は少しフシギ系と思わせて、巻を重ねるごとにSF設定増し増しに。そして『ハツコイ少女の夢を見ない』では怒濤の展開を経てひとまず感動の決着!
TVアニメ『デジモンユニバースアプリモンスターズ』零歌
今では当たり前のように使われている、アプリをモチーフとした架空のモンスターと、それらのバディ(相棒)となる子供たちの活躍を描いた物語。本作の面白い所はモンスターがAI(人工知能)を備えたアプリ生命体という設定だろう。私たちが日頃から何気なく使用しているアプリは果たして、只の道具か?人間と同じように考えるアプモン=AIと人間は何が違うのか?それは、主人公ハルの親友である勇仁の真実を知れば尚更、私たちに突きつけられる問いだろう。また作中で、アプモンが暴走し社会全体が混乱している様は、現代社会のネット依存問題を強く浮き彫りにしている。最終的に、アプモンと子供たちの関わり方こそが来たる2045年問題の一つの答え、そのモデルケースとなっている。子供向けエンターテインメント作品でありながらも「AIに対する人間のこれからの関わり方とは?」という、大人も子供も関係無い大切な問いに真正直から向き合う意欲作。
TVドラマ『仮面ライダーエグゼイド』どぐう
データに自我があったとしたらそれは命と言えるのか。1年間その問いと向き合い続けてきた作品である。我々が素材集めの為にタコ殴りにするモンスターに命が本当にあるとしたら倒せるのだろうか。作品内にも人間になりたがったゲームキャラがいる。しかし、それがただのデータと解釈したものは彼らに容赦無く襲いかかる。逆に、一番敵と戦っている主人公たちの方が敵であるゲームキャラを命あるものと思えてしまうのだった。結局、生死観に対する視点を変えることによって物語は終結した。そのことは曖昧な終わり方ではあったと思う。だが、何度も死んでは蘇る自称神も、一度死んだ身と嘯く監察医も、ゲームを一緒にやりがったキャラクタも、全てが掛け替えのないものということは新たなSFの可能性を見出しただろう。
TVアニメ『けものフレンズ』匿名希望
子供から大人まで楽しめる王道ストーリーとその中に見え隠れするポストアポカリプス的な世界観。擬人化された動物「フレンズ」たちとのふれあいの中でたくさんの生き物の中の「ヒト」という生き物について考えさせられるすっごーい作品です。
TVアニメ『プリンセス・プリンシパル』浅木原忍
スチームパンク×スパイアクション×学園百合アニメという三題噺に、各話の時系列をシャッフルする凝った構成を採用した、『ルパン三世』や『カウボーイビバップ』の系譜を受け継ぐ傑作エンターテインメント。ウェルズ由来の重力遮断物質・ケイバーライトや東西分断された大英帝国といったSF的フックを背景に、魅力的なキャラクター、重さと明るさの緩急に優れたストーリー、そして恐ろしく高品質なアクション作画によって、部活もの系の学園百合アニメの色を残しながら、痛快かつシリアスなスパイアクションとして成立させる神業的綱渡りを決める。スチームパンクとスパイアクションのもつ「格好良さ」を学園百合アニメという現代風の器に蘇らせた、広義の娯楽SFとして2017年を代表する作品のひとつとなるだろう傑作だ。
柞刈湯葉『横浜駅SF』鬼嶋清美
現実に延々と工事中が続く横浜駅を、自己増殖する人工生命体のごとき存在として描くことによって、『地球の長い午後』や『アド・バード』のような異世界SFとして成立させた作品。単なる駅の工事でしかない日常風景を、増殖した横浜駅構内という幻想の風景に変換させてしまうという幻想力を読者に植え付けてしまう点において、前述の名作たちと違うユニークさを備えていることは見事といっていい。読後、Suicaで改札を通る度に違和感を感じてしまうわたしは、すでに横浜駅に取り込まれているのかもしれない。
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TVアニメ『デジモンユニバース アプリモンスターズ』Jの巡礼
新海ハルは人工知能リヴァイアサンを”止める”為、人工知能搭載のアプリ生命体、ガッチモンと共に智慧と勇気で立ち向かう。 彼が望む、シンギュラリティーの形とは… 聖書や禅などにも通ずる、虚無・死と向き合い生きる為の叡智が織り込まれた、格調高い作風。 終始貫くのは”高次の事象を捉える事は困難””真実は見えぬ物の中にある”という概念。これは視聴者へのメッセージでもある。重層的で複雑な筋書き、人物像。 遡り観返す度そこには気付き…アハ体験がある。新たな認知の地平を拓く画期的作品。科学的解釈、民話的解釈、多様な解釈を受容する、懐の深い物語…観る者の心の中に、幾つものユニバース…並行宇宙が広がる。主軸はアプリとしての矜持を持つアプモンと人間との関係。 終盤では存在意義を失い、虚実の境界を揺れ動く人工知能と人間との互いにかける想いの深さが試される。”対等”の一歩先、”優しくありたい”と言う願いが胸に響く。
TVドラマ『動物戦隊ジュウオウジャー』浅木原忍
人間とジューマンという異種族同士のコンタクトと絆の形成を丁寧に描き、細部まできちんと考えられた構成によって、「群れ」「繋がり」をキーワードに「相互理解と共存」という(期せずして現代社会と共鳴する)テーマを爽やかに語りきった秀作。最終回で提示される 豪快なビジョンはかなり無茶だが、1年かけて丁寧に積み上げた物語が、臆面もなく語られる人類社会の未来への理想と希望に強い説得力を与える。本作の終了直後に人気が爆発した『けものフレンズ』とともに、「動物を通して人類(という種/の社会)を考える」作品として推薦したい。
劇場アニメ『ひるね姫 ~知らないワタシの物語~』関竜司
岡山県倉敷・下津井を舞台にした近未来SF。2020年の東京オリンピックに向けて制作された自動運転車をめぐって主人公・森川ココネの夢と現実世界が交錯する。おとぎ話的要素ありスーパーロボットありと飽きさせない。SFだけでなく地域共同体・家族・夢・重層化されたイメージ(既視感・すれ違い・勘違い)など価値の取り戻しという文脈ももったポスト3・11的作品。主人公ココネの性格もいい。《僕はDay Dream Believer そんで彼女はクイーン》
劇場アニメ『BLAME!』タマ
『シドニアの騎士』により知名度をさらに上げた漫画家・弐瓶勉氏のSFアクション超大作の劇場版。「ネット端末遺伝子」を求める霧亥や「電基漁師」の村人たち、科学者のシボが繰り広げる、 セーフガードとの戦いや都市の探索がヒリヒリするような空気感で作り上げられている。加えて弐瓶勉氏による原作の緻密な世界観を、一部ながらもアニメ映画として描くことに挑戦していることも特徴である。 映像は今までのアニメ映画を凌駕するような、弐瓶勉作品に相応しい美しさであった。ストーリー、映像、そして世界観、全てがハイクオリティで、SF・アニメ映画の両ジャンルの歴史に名を刻んだ傑作である。
配信ドラマ『仮面ライダーアマゾンズ』nyapoona
仮面ライダーエグゼイドが生命救助というテーマを描いたとしたら、こちらは生命の避けられぬ死という表裏一体のテーマを描いている。 製薬会社の陰謀によって生まれた人を食する生命体アマゾンの悲哀、この世に生きているだけで災厄をまき散らす存在にどう向き合うのかということが、ネット配信という新たなるフィールドで苛烈に描き出されている。 臓物が飛び出し首が掻き切られる残酷絵巻の果てに浮かび上がる、「それでも生きたい」という生命の激しい輝きと、人類とは相容れなかった異形の存在はナショナリズムが加速しテロが頻発する現代を生きる我々に強い衝撃を与える。
AR performers霜月
便宜上2.5次元アイドルと表現されることが多いが、体感としてそれは正しくない。なぜならフィクションをリアルとみなしているのではなく、彼らの存在は非常にリアルであるからだ。 あちら側からのアクションとこちら側へのリアクションがリアルタイムで成り立つ世界、それがARPだ。2次元と3次元が双方向で影響を及ぼし合い世界が構築されるさまはあまりに革新的で凄まじい没入感を味わわされる。これは「私たち」が現在進行形で創り上げているSFなのだ。 また、REWINDという上演形態についても特筆しておきたい。生身アーティストの一般的なものとは異なり、デジタルコンテンツの強みを最大限に生かしたそれは、ライブビューイングというよりもタイムリープの感覚にさえ陥らせるものであると言える。
TVアニメ『プリンセス・プリンシパル』三原クロウ
まず、何よりも第一にこの作品が優れた良質な娯楽作品であること。 そして明らかなスチームパンクの系譜にある作品であること。 さらに、H・G・ウェルズの末裔とも言える古典SF要素を持っていること。 以上の三点をもって推薦理由は十分に満たしていると考えます。 『月世界最初の人間』に登場する架空物質「ケイバ―ライト」を重要なガジェットとして作中に登場させ、 架空の大英帝国の歴史を描くこの作品がSFでなかったらいったいなんだというのでしょうか。 このアニメは間違いなく優れたSFの一本だと思います。 ぜひ、多くの人に知ってもらいたい、見てもらいたい優れた作品です。
TVアニメ『プリパラ』HN山藤
本作は女児向けのファンタジーSFであり、「紀元前から仮想空間で変身して交流することが当たり前の地球」を女児を対象として数年間にわたり定着させ続けている初めての作品であることから、SF作品として歴史に残るべきと考え、推薦する。 本作における仮想空間での変身は、服装、眼や髪の色、成長や若返り、身長やスタイル、名前まで変更が可能である。匿名で仮想空間を楽しみ、他人と交流することができるため、中学生程度の外見に変身した小学生が若い外見に変身したお年寄りと会話をするという描写もある程である。 家庭ではおとなしい少女が仮想空間内では派手な服装でワガママを言う、明るい小学四年生の少女が仮想空間内では中学生程度の外見で無口なクール系アイドルを演じる等、番組を視聴している子どもが「自分だったらどんな姿に変身しようか」と考えずにはいられない内容となっている。また、変身中の自分と普段の自分のギャップに悩む等、仮想空間で変身することが当たり前であるからこそ起こり得るストーリーが盛り込まれており、実際の現代社会におけるネットの匿名文化にも通じるメッセージが込められていることも、子ども向けのSF作品として評価できる。
幻のTVアニメ『ガンとゴン』、遂に発掘される鯉汁
16/12/25、ニコ生の番組にて『ガンとゴン』がネット史上初お披露目となった。 本作は、71年の本放送及び再放送を終えた後、確認できる資料が1枚の画像のみという、存在すら疑われた幻の作品である。 しかし有志達の懸命なる調査とコンタクトを得て、当時に本作を録画していた方々の協力により、日本アニメ史の黎明期でもある約45年前に製作された本作が遂に復活を果たした。 SNS等これまで繋がる事のなかった人々が容易く交流できる科学的ツールが台頭する現代。それらによるコミュ ニティの繋がりが起因の本作の発掘及び復活は、まさに科学の進歩とエンタメの普及が調和された結果と言える。 これらの要素が存在しなかった時代ではフィクションとも言える出来事だ。将来的に現代では成し得ない「本作に限らない失われた作品や歴史の究明」に通じるピースと考えても良いだろう。 (例:過去の公共電波の復元や時間移動による失われた作品の究明)
TVドラマ『仮面ライダーエグゼイド』釜玉うどん
ゲームから生まれた自我を持つウイルス、そしてそのウイルスによる病に立ち向かうドクター(仮面ライダー)達を描いた作品。 序盤はコンティニューできない人間の命とコンティニューできるゲーム(データ)の命の対比が描かれ、中盤から終盤にかけては人間の命のコンティニューを可能にする技術、そして何度でもコンティニューできるはずのゲーム(データ)の命を消滅させることができる存在が現れ、二つの命における定義が崩れ始める。 自我を持つウイルス、そしてデータとしてコンティニューした人間との関わりを通し、主人公は「データの塊に命や心はあるのか」という幾度となく問われてきた命題にきっぱり「YES」と答える。 人間の命とデータの命を丁寧に描いてきた本作においてこの解答に違和感を感じることは全くない。 紛れもなくデータ的存在を扱った作品のエポックメイキングとなる作品である。
荒巻義雄『もはや宇宙は迷宮の鏡のように』Kei-one
84歳の新作書き下ろし長編SFということも驚きながら、45年をかけての3部作完結というのもすごい。〈白樹直哉シリーズ〉の結末という形はとっているものの、誰も見たことのない霊魂の世界に挑戦する全く新しいSFである。「〈術〉の小説」理論でスタートし、これまで様々に書き継いできた『神聖代』や『時の葦舟』をはじめとする著者の脳内世界の果てとして、ついに死後宇宙の謎の解明に到達したこの大傑作を日本SF大賞に推薦する。
星野之宣『レインマン』石田宅司
星野之宣の新たなるチャレンジ。現時点で掲載誌に連載中であるが、オカルトからハードSFへと縦横無尽に変化する物語は大胆なクロスオーバーを経てどこに向かうのか。世界の歴史に現れる「レインマン」の正体とは?期待の物語である。
人形劇『山ぐるみ人形劇 かめくん』石田宅司
人形劇とはいえ全く新しい感覚のSF劇場。北野勇作さんの「かめくん」を大胆な構成で人形劇に。『風あこがれ』システムを駆使しSFマインドあふれる独特の作劇となっている。この新しいSF人形劇を体験すべし!です。
TVドラマ『仮面ライダーエグゼイド』YUKI
本作こそ、現時点でもっとも鮮烈なビジョンを見せるSF作品であると断言する。 平成2期ライダー「らしい」奇抜なデザインはさておき、エグゼイドの最大の衝撃は、医療ドラマが避けて通れない、「生命」との向き合い方に他ならない。作品が辿り着いた「ゲーム病で命を落としたかに思われた患者は、死んだのではない(かもしれない)」=「医療の進歩によって、生命の概念さえ変わっていく」というあまりにも際どい答え。それは、野﨑まど『know』の結末で示唆された新しい死生観にも通じるものであり、これからのフィクションが描く生命の在り方のスタンダードとなりうる力を持っている。 プログラムやデータが深刻そうな顔で「俺は生きているのか?」と悩む時代は終わった。土管からコンティニューした厚かましい神を「それでも生きている」と認められる未来の可能性を見せてくれたこの番組を、今年最高のSF作品として強く推薦したい。
赤野工作『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』うさぎにんげん
百年後のゲームレビューという体裁の諧謔のみならず、途中で挿入される「雑記」に滲む「書き手」の想いが秀逸。SFとしてちゃんと評価されてほしいです。
映画『HiGH&LOW THEMOVIE2 END OF SKY』nyapoona
昭和のような商店街の隣に賭博街やスラム街などがある近未来を舞台に、SWORD地区を仕切る者達とヤクザの抗争を描いたアクション大作。アクション大作としての強度も確かながら、強烈なキャラクターや神話的でありながら普遍的でもあるモチーフ・ストーリー構造は独特であり、観る者に新しい衝撃をもたらすだろう。
TVドラマ『仮面ライダーエグゼイド』nyapoona
ゲームと医療というモチーフを「いくらでもやり直せるゲーム」「やり直しのできない医療」という対比で描き、「生命とは何か」という題目まで辿り着いたSF作品。2000年問題が重要なモチーフになっていくのも面白い。
TVアニメ『ヘボット!』必殺激推しマン
40年続いた名古屋放送枠アニメの集大成。 ギャグアニメではあるものの世界観は全体の時間は進んだまま世界が周回する『ネジ型ループ構造』であり、他作品パロディが多いのも『現実と虚構が混じりあったから』という、かつてないメタSF。 本編では頭がおかしくなるようなギャグを繰り広げる中で、わずか数十秒程度のシーンで「ヘボット!」世界のSF観を披露し、観たものに無限の想像力を働かせた。また、主人公と相棒を取り巻く全てのキャラが(誇張ではなく、本当に全てのキャラ)ストーリーの重要人物として当てはめられていく展開は、ただの後付け展開とは 言い難いほど、本編内で納得させられる行動をしていたことに視聴者は唸らさせられざるを得ない。 『ヘボット!』こそ、現代におけるメタSFの新境地である。
山田胡瓜『AIの遺電子』大澤博隆
人工知能論、知能・心身問題を中心に扱った短編集。広範囲のテーマを、ヒューマノイドロボットの治療を行う医者、という設定でパッケージングし、少年誌でハイペースの連載を行い、多くの評価を得た。操作可能なパラメータを持つ他者であるヒューマノイドと、内面を描かない道具としてのロボットの両方を用いて、上記テーマをうまく切り分けている。作者は元ITニュース記者であり、先端技術の本質・影響を見抜く感性に優れている。特に、先端技術が変える人々の価値観・心の動きを中心に描くことで、古典的なSF作品から一歩出た人と技術の関係性を描こうとした点が、「SFの歴史に新たな側面を付け加えた」という大賞の評価に値すると考える。
神野オキナ『カミカゼの邦』渡邊利道
尖閣諸島をめぐり日中が軍事衝突、沖縄が焼土となる紛争が勃発。中国が南北に分裂してあっけなく終戦となるが、義勇兵として戦った人間たちには、平和を享受したまま戦勝を祝う「日本人」に釈然としない「戦後」があり、米中韓日仏をまたがる原発テロの陰謀に巻き込まれていく。情念たっぷりの大藪春彦を思わせるポリティカル・アクション小説で、沖縄(琉球)人の心情をこれでもかとばかり濃厚に叩き込んでくる。トランプ大統領の誕生もあって今年は分断戦争ものの小説を内外でいろいろ読んだが、これが一番読みたかった作品だと思った。わりと懐かしい日本SFの中間小説的味わいがあるストレートなエンターテインメントではあるのだけれど、こういうスタイルでこそかける情念というのはあるのかもしれないとも思う。
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赤野工作『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』渡邊利道
自分は好きだが世間的には低評価のゲームを紹介するブログというスタイルで、コンセプトだけの作品かと思ったら各話短編小説的な厚みがあり、きちんと計算された伏線と回収がある長篇小説になっている。とくに高度産業情報技術社会での「老い」の描写が緻密で面白い。成熟の不可能性と老化の不可避性を、ゲーマーの語り手によるゲームへの耽溺と身体改造の果ての「死」の幻想が折り重なった未来社会の孤独として語る。ネット小説の書籍化だが、ブログ形式になっているにも拘らず、ウェブで読むよりもずっと紙の方が読みやすかったのが不思議。
高井信『日本ショートショート出版史』渡邊利道
星新一がデビューした1957年から逝去した97年まで中心に(前後の話題もふんだんに出てくる)、タイトル通りショートショートの出版史を詳細に語った本。ショートショートが中心にあるのだが、短い奇想小説がジャンルを問わずひろく視野に入っていて、また翻訳についての紹介が、その影響なども含めて詳細で日本でショートショートがどういうふうに受容され浸透し、日本人作家に書かれるようになっていったかがよくわかる。とにかく情報量の多さ、わけても1000点を越える書影が壮観。
岡和田晃『世界にあけられた弾痕と、黄昏の原郷』渡邊利道
SF、ゲーム、幻想文学の三部構成で、SFでは「ポスト・ヒューマニズム」の概念を足がかりに、さまざまな作品と批評を横断しながら現実と虚構の結節点を探究する。ゲームでは、多様な媒体に呼応した多様な文体で、ナラトロジーそのほかの理論的洞察と、ゲームマスターとしての経験を縦横に駆使し、〈方法〉と〈形式〉を堅苦しくならずに突き詰めていく、ジャンルを超えたフィクションの可能性をひらく画期的なもの。幻想文学では、ゲーム論での議論を前提に、著者自身の大学での経験・知見を導入した海外幻想怪奇小説に関する論考が白眉。思弁的実在論を導入してホラー・SFの読み直しが図られているアカデミックなものとポップ・カルチャー的なものの越境的な動きをスマートに捉えたもの。アカデミックな理論の構築性とエンターテインメントや社会的な言説の現場感覚が融合した新しい時代に相応しい全方位的なSF批評の書。
北野勇作『大怪獣記』渡邊利道
角川ホラー文庫で出ていて現在は電子書籍で出ている『人面町四丁目』の続篇で、怪獣映画のノヴェライズを依頼された作家が、脚本の未定稿としておからをたべると、夢とも現とも知れぬグロテスクで甘美な体験をくぐりぬけ、そうやっていつか出来上がるはずの映画を知ると同時にこの世界(人面町)の秘密を垣間みるという独特の夢と象徴と連想を組み合わせたスタイルの物語で、クトゥルー神話の要素も加え、最後にはこれはSFだとしか確信させる地平にひろがっていく。細部のすべてに作者の神経が行き届いた作品で、小説を読む原初的な喜びを味合わせてくれる。
柞刈湯葉『横浜駅SF』渡邊利道
自己増殖する「横浜駅」に本州のほとんどが飲み込まれてしまった未来の日本を舞台にした青春冒険小説。生物系の散逸構造をモデルにした「横浜駅」という奔放なアイディアを、緻密な理論設定とディティールの描写で見事にSF的な異世界として構築して、その上でオードソックスな青春冒険小説を辷らせたエンターテインメント小説。アイディアの核にあるのは非線形科学なのに物語展開は非常にストレートでさくさく読めて大変面白い。もともとはtwitterで作者が書いたネタツィートだったのが、だんだん増殖して物語となり、ついに第1回カクヨムWeb小説コンテストSF部門大賞を受賞、大幅に加筆されたものが書籍版として刊行されたという経緯もいまの時代をよく象徴していると思う。
眉村卓『終幕のゆくえ』渡邊利道
老い、死、世界の終わりなどをテーマにした全編描き下ろしの短編集。不思議な世界を自由に往還する平明な独特の文体にますます磨きがかかっている。どうしてこんな悪い言い方をすればテキトーに流して書いているように見えるのにすごく面白いんだろうと不思議になる達人の技が堪能できる。
TVアニメ『ヘボット!』ぬのぶくろ
本作はキッズ向けホビー(おもちゃ)アニメであり、ハイテンションなギャグ、出し抜けに現れる無意味で雑なキャラ、大人すらも把握しきれない無数のパロディを満載したドタバタギャグアニメである。それと同時に、高度で複雑なループ系SFであり、メタフィクションのひとつの到達点でもある。ギャグ、雑キャラ、パロディ、それらが実は安定を欠く世界の現れであったというSF展開は観る者を動揺・驚愕させた。そして元来、虚構のありようを批判的に扱いがちだったメタ発言・展開を虚構の全肯定に用い、そこに「視聴者の存在」「番組の放送枠」までもを組み込んで、いかなる創作物も逃れられぬ宿痾「物語の終焉」すらも超越してしまった。しかも明るく楽しいホビー/ドタバタギャグアニメの枠を遵守し切ったままで。過去への敬意と未来への希望に溢れた、秀逸なSF作品。
TVアニメ『ヘボット!』メリーヌ長谷川
突拍子のないギャグ、脈絡なく現れるキャラクター、意味不明としか思えないパロディ、その全てがシリアス、世界がループしていることの伏線である。全貌が見えぬまま少しずつシリアスとコメディのキャラクターが混じり合い、完全に融合した上で希望ある決着をつける構成には何度見直しても脱帽する。 なにより現実と虚構の融合、その上での「2次創作によってキャラクターは生き続けていく」というエンドは『メタSF』のこれからの金字塔となってもおかしくない。
荒巻義雄『もはや宇宙は迷宮の鏡のように』三浦祐嗣
『白き日旅立てば不死』(1972年)、『聖シュテファン寺院の鐘の音は』(1988年)に続く、天才建築家・白樹直哉を主人公とする「白樹直哉シリーズ」3部作の完結編。物語の冒頭、臨終を迎えた白樹は、霊魂となって23世紀、さらには30世紀の地球へと転生を繰り返す。哲学、宗教学、心理学、美術、建築、そして量子論に至る著者の豊富な知識と優れた知見によって描かれた、異様なマニエリスム的未来世界は、実に魅力的である。そして、永遠の恋人であるソフィーを追い求めてきた白樹の旅は、感動的な結末を迎える。半世紀にわたって旺盛な創作活動を続け、日本のSF界に大きな足跡を残してきた著者の集大成ともいえる長編。SFであるとともに、ダンテの『神曲』を想起させる死後文学の傑作でもあり、まさに「SFの歴史に新たな側面を付け加えた作品」として、大賞にふさわしいと考える。
ブラッドレー・ボンド編『ハーン・ザ・ラストハンター アメリカン・オタク小説集』浅木原忍
日本文化に多大な影響を受けたトンチキなアメリカン同人小説群を『ニンジャスレイヤー』の著者が集めほんやくチームが訳した傑作アンソロジー。そして豆腐! 収録作はSFに限らないが、 思弁的豆腐SF「阿弥陀6」(スティーヴン・ヘインズワース)は宇宙ステーションと豆腐というビジュアル的異化効果とほんやくチームの訳文の与えるリアリティショックによるスペキュレイティヴなセンス・オブ・ワンダーに溢れた傑作で、これ一本だけでも日本SF大賞に推薦する価値がある。 え、「日本」SF大賞じゃない? 『ニンジャスレイヤー』が「SFが読みたい!」の日本編にランキングされていたというニンジャ真実は存在しない、いいね?
藤井太洋『公正的戦闘規範』牧眞司
短篇集。ITの発展とそれにともなう意識や社会の変容をあつかった4篇と、限定状況における工学的オペレーションが焦点となる書き下ろしを収録。 とにかく一篇ごとに投入される情報量が凄まじい。それはたんなるガジェット趣味や衒学ではなく、物語のロジックと深く関わっており、描かれる世界のディテールを構成する。つまり、些末主義的な説明ではなく、本質的な世界観であり質感である。 詳しくはこちらの書評をご参照ください http://www.webdoku.jp/newshz/maki/2017/09/12/130726.html
大森望・日下三蔵編《年刊日本SF傑作選》牧眞司
2017年夏に刊行された『行き先は特異点』で10冊目を迎える年刊アンソロジー。10冊の節目ということで、これまでのぶんをまとめて評価したい。 作品の質と広がりにおいてここ10年の日本SFはかつてないほど豊穣な時代を迎えている。実力のある書き手が次々とあらわれる異一方で、ベテラン・中堅が新しいチャレンジをおこない、ジャンルの外側でもスペキュレイティヴな作品が目立つ。そんな状況をコンパクトに展望できる、このアンソロジーの価値はきわめて大きい。 こちらの書評も参照ください http://www.webdoku.jp/newshz/maki/2017/08/15/182407.html
宮内悠介『あとは野となれ大和撫子』牧眞司
中央アジアの架空の国を舞台にした、起伏に富んだエンターテインメント。環境改造が重要なテーマのひとつになっている点、多義的で動的なユートピアの可能性を探っている点で、SFの範疇でも議論されるべきだろう。 砂漠を舞台とした建国ストーリーでは、60年代にフランク・ハーバートの『デューン砂の惑星』、70年代にアーシュラ・K・ル・グィン『所有せざる人々』があるが、宮内悠介は21世紀の状況を踏まえてよりアクチャルでコントラヴァーシャルなヴィジョンを提起している。 こちらの書評も参照ください http://www.webdoku.jp/newshz/maki/2017/05/09/114426.html
飛浩隆『自生の夢』牧眞司
七篇を収録した短篇集。 シュルレアルの圧倒的イメージと未知なる存在によって過去が再構成される展開が印象的な「海の指」。 悪意ある言語構造体によって人類が蹂躙されたのちの世界で、再構成された希代の殺人鬼と対話をし、その過程で世界のなりたちがあぶりだされる(対話しているふたりのありようも含めて)「自生の夢」。 傑作ぞろい。 詳しくはこちらの書評をお読みください http://www.webdoku.jp/newshz/maki/2016/12/13/182714.html
上田早夕里『夢みる葦笛』牧眞司
十篇収録の短篇集。煌めくような幻想あり、ハードな設定のSFあり、深遠なスペキュレーションあり、バラエティに富んでいる。 情報理論や認知科学的知見に基づいて人間性の根拠を問う作品は、いまやSFのひとつのスタンダードになっているが、上田早夕里はそこに身体性を重ねあわせる。それは温度と湿度を持っている。上田早百合の文章は、知的であると同時にきわめて官能的だ。 詳しくはこちらの書評をお読みください http://www.webdoku.jp/newshz/maki/2016/10/04/100734.html
長谷敏司「震える犬」町田一軒家
AR(拡張現実視野)を利用したチンパンジーの知能研究プロジェクトと、アフリカのコンゴを取り巻く民族紛争が互いにリンクしあい、「人間とは何か?」という問いを読者に突きつける。原始的な感情(例えば愛)の高まりや別個の求心力によって引き起こされる収奪という名の衝突は、「知恵ある人類(ホモサピエンス)」になっても繰り返される。しかし、それがなければ人類に「集団」という概念は誕生せず、その先の「社会」が形成されることもなかったのだ。今を生きる人類は言語以外のすべての物――愛ですら――を絶滅した他の人類から略奪することで生き残ってきたのだ。あまりにもシビアな解答を、読者の常識を震わせる、新たな風景(Vision)で突きつけるこの作品は、日本SF大賞にふさわしい傑作だろう。
草野原々『最後にして最初のアイドル』YATAGAI Kazuo
『ラブライブ!』二次創作にしてワイドスクリーン・バロック。SFコンテスト選考会に旋風を巻き起こし、異例の電子書籍出版から星雲賞。まさにSF新時代を象徴する作品です。
一田和樹『ウルトラハッピーディストピアジャパン 人工知能ハビタのやさしい侵略』井上言葉
エントリー募集についてのFAQにある通り、 『SFとしてすぐれた作品であり、「このあとからは、これがなかった以前の世界が想像できないような作品」や「SFの歴史に新たな側面を付け加えた作品」』 の条件をすべて満たしているかつ、個人的にも大変面白い作品と思いましたので、本作を推薦させて頂きます。人工知能型クラウドサービス「ハビタ」によって、社会がやさしく侵略されてゆく様がキャッチーな文章で描かれる、2019年の東京を舞台としたサイバーエンターテイメント小説作品です。
乙野四方字(著)、東映アニメーション(原作)、野﨑まど (脚本)『正解するマド』浅木原忍
アニメ『正解するカド』の怪作スピンアウト小説。冒頭からメタもメタにかっ飛ばす展開は、縦横無尽の野まど作品オマージュを絡めて、さらに斜め三十七次元上へ突き抜けていき、最終的にメタフィクション版『2』とでも形容するしかないところまで 辿り着いてしまう。こちらの認識の境界が木っ端微塵に破壊されていく読書体験には、すぐれてSF的な興奮がある。『正解するカド』は本作をもって真の《正解》に辿り着いた。日本SF大賞よ、どうか正解されたい。
ゲーム『悠久のティアブレイド LostChronicle』模範的工作員同志/赤野工作
オトメイトより発売された恋愛ADV。最終戦争によって荒廃した後の世界を舞台に、「滅亡後の未来」の社会考察を真正面から描ききった意欲作。管理AI、巨大ロボ、地下シェルター、全ての要素がとにかくかっこいい。
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ショートフィルム『Gucci Fall Winter 2017 Campaign』新恭司
GUCCIの2017秋冬コレクションの広告用ショートフィルム、グレン・ルックフォード監督。今季は「宇宙」をテーマにしており、『宇宙大作戦』『禁断の惑星』『恐竜グワンジ』『大アマゾンの半魚人』など(どこが「宇宙」なのかよくわからない引用もあるが)、'50~'60年代の数々のSF映画・ドラマにオマージュを捧げている。各場面はパッチワーク的で一切ストーリーがないノンナラティブなフィルムであるにもかかわらず、たしかに「SF」なのである。第37回日本SF大賞授賞式の配信で藤井会長が「実は日本の作品じゃなくてもOK」と仰っていたのでこれを推薦する。
OVA『ハイスクール・フリート』IKEMOTO
「進化と破局は不可分である」。科学の進化が思わぬ破局を生み出すというのはSFのセオリーであるが、ハイスクール・フリートのいわば"敵役"であるRATtと呼ばれる生命体はまさにそれを表している。研究の中で偶発的に産まれたこの生命は"全体主義の疾患"と作中で呼ばれる状態を人間に引き起こす。この感染によって海洋学校の船が次々と行方不明となり、実弾が装填された戦艦「武蔵」が制御不能のまま浦賀水道へ突入していく。 現代とは異なった時代を歩んだ世界で繰り広げられるこの作品は、SF的な見方、管理職としての人との関係の築き方、アーレント的な全体主義に対比される主人公たちの個性などが混ざり合い、2つとない魅力へ昇華されている。
独自言語を開発して会話を始めたロボット矢田和啓
お互いの利益の最大化を図るべく交渉を開始したAI(人工知能)同士が独自言語を開発したということが、まず画期的にSFである。結果的にフェイスブック側によって停止されてしまったが、人々を畏怖せしめるに足る何かがあったということ、それはまさにモダンホラーの極致ではなかろうか。AIの会話の中で新たな言語が生み出されたこと、こうした現象は、SF的な観点から見ても技術倫理上の設計が求められることを示唆する、一つの進歩だったのではないか。参考URL:https://jp.sputniknews.com/world/201708013947295/ https://www.google.co.jp/amp/s/news.infoseek.co.jp/amp/article/gizmodo_isnews_121163/
TVアニメ『けものフレンズ』神鳥谷カヲル
当初は「知能が下がる」とまで言われたほのぼのとした優しい世界をベースとしながらも、あちこちに散りばめられたポストアポカリプス的な不穏な要素、そして人間+動物+ロボットというありそうでなかった組み合わせのコンビによる、正統派ロードムービーの形式を借りた人類の歴史を辿る旅。序盤でさり気なく埋め込まれた数々の伏線が終盤になって俄然意味を持ち、見る者に強烈なカタルシスをもたらす、美しさすら感じさせる巧みな構成も見事。子供にとってはさまざまな動物の生態を学ぶきっかけともなり、大人にとっても「ヒト」とは何かを考えさせる深さを持つ、年齢を問わず楽しめる稀有なSF作品である。
筒城灯士郎『ビアンカ・オーバーステップ』にのこ
筒井康隆さんの『ビアンカ・オーバースタディ』の続篇であり、オマージュという話題で読み始めた私を、そのことに関係なく一つの長篇SF小説として楽しませてくれた。 翻訳SF風文体や傍点の文章で始まると、それを読み漁っていた少年期の期待に満ちた感覚を思い出した。大人になった私は騙されないぞと注意深く伏線やオマージュ、パロディに気を配りながら読み始めていくが、そんなことは関係なく楽しめばいいさとストーリーに引き込んでくれた。頭の中は単に『ロッサ可愛い』。展開が広がり、着地どうする?と思ったが心配は無用だった。読後の爽快感がたまらなく良かった。 ソフトなエロやグロが出てくる本は知人に勧めにくいので、どんどん評判になってSF好きに勝手に手に取ってもらえたらいいなと思う。
トポロジーに関する新たな展開:電子バンド構造の完全な理論で化学と物理学が融合矢田和啓
電子バンド構造の完全な理論の完成による物理学と化学の融合という新境地によって、あらゆる科学現象が解明される可能性がある。何より最大のポイントは物理学と化学が融合して、ある種の神秘の皮が剥がされるということだ。すなわち、従来の基礎研究において数学的・物理学的に不可能であった事柄が、この電子バンド構造の完全な理論によって解析的にシュミレートして解けるようになるかもしれない、ということである。
Kazuhiro Yada「Der Schnelle Spuk」矢田和啓
新幹線の遅延という、従来の常識では考えられなかったSF的瞬間を写真として捉え、時間というものの存在の瞬間性と永遠性をアクチュアルな形で発現させた。そしてリューココリネの花と新幹線という、無機物の中の有機物という画期的な構図によって従来の写真史を覆した。新幹線という移動する物体を閉鎖的な環境と捉え、そこに現れる閉塞下における《表現》を、SF的に現実感のあるものとしている。なお、タイトルは『高い城の男』におけるプラスチック製自動車の名前である。
ni_ka/矢田和啓『「現代を生きるモジュール」展』矢田和啓
作品「現代を生きるモジュール」ではキーボードに繋がれた実験ノートにDNAをモチーフにした詩作品が書かれ、「ここから先はあなたが書きます」という一連によって永遠不死の無限循環するセントラルドグマ的な世界像を現出せしめ、展示会場に来た多くの参加者にリレーショナルな介入を促した。実際に来た学生たちの多くがものを書いたり、シールを貼ったりして、展示が始まってから日々その実験ノートのDNAは文字通り「更新」されていた。また、スマホアプリLayarによるAR詩の再誕も、ウィリアム・ギブスンの『スプーク・カントリー』の如くサイバーパンク的なSF的価値を高めている。
TVアニメ『フリップフラッパーズ』匿名希望
このアニメを端的に言うなら「魔法少女格闘モノ」である。そちらの道に通じている方ならプリキュアを思い浮かべてもらえれば間違いない。 ココナとパピカ、2人の少女が異世界を旅し、困難に異能で打ち勝っていく。 主人公たちの友情を主題にしたストーリー、幻想的で美しい背景や挑戦的な映像表現、所謂「萌え要素」など、この作品について私が評価したい点は多くあるが、このSF大賞へと選奨する理由にはならないだろう。 この作品で扱われるファンタジー要素。現実世界では魔法と分類されるものだが、作中ではその現象を科学的な側面からアプローチしている。 作中で魔法を科学で分析する描写がしばしばなされる。ナビゲーターとしてユーモラスなロボットが配置されていたり、敵対する組織のキャラクターはミサイルや強化アームなどの「科学的な」兵器を使用する。 また中盤から終盤にかけて、ストーリーの山場にてとある組織での研究シーンが描かれる。現実世界と同じように、事象を科学によって切り崩し、扱おうとする。それが例え人の手に負えるような代物でなくとも。 魔法少女モノというアニメならではの題材に、科学という現実的な要素を持つ切り口を入れることでより作品に深みを持たせている作品、フリップフラッパーズを薦めたい。
丸菱陸人/カワラハジメ『マンガでわかる本当はエッチな物理学』山本小鉄
慣性の法則、元素周期表の基本からニュートリノ、ニホニウム、重力波まで色々な物理学をエッチに紹介。単純にエッチなのではなく全年齢に対応するマイルドエッチ。実際の物理学をベースに、ちょっと嘘をつく所はSFの王道といえる。
光永康則『アヴァルト』山本小鉄
太陽系の外に向かうはずだった宇宙船。主人公がコールドスリープから目覚めるとなぜか地球外周にいて、しかも地上はRPGゲームの世界に。謎ばかりで読んでて引き込まれます。
TVドラマ『仮面ライダーエグゼイド』浅木原忍
1年間を恐るべき密度で駆け抜けたその物語だけでも平成ライダー史上屈指の傑作だが、同時に本作は「ゲーム」と「医療」という題材を「生命倫理」というキーワードで接続し、テクノロジーの進化による生命倫理の変化というテーマに、医療という角度から切り込んで完璧な着地を見せた、現代SFの傑作である。「魂のデータ化」や「生命の定義」というテーマに「医療」という角度から光を当て、テクノロジーの進化で生命の定義そのものが揺らぐ中で「医療の倫理」はどうあるべきか、という問題に対し、最終回で完璧な解答を導き出した本作は、特撮テレビドラマ初の日本SF大賞を与えられて然るべき作品だ。
TVアニメ『けものフレンズ』浅木原忍
誰もが童心に還って夢中になれる王道冒険ストーリー、魅力的なキャラクター、作品全体に仕掛けられた視聴者へのフックの多重構造など数限りない美点の中でも、爆発的ヒットをもたらしたきっかけは、平和な世界の裏に見え隠れするポストアポカリプス的世界観の謎だった。〝世界の秘密〟を巡って散りばめられた謎の魅力がこれだけ多くの人を惹きつけたことは、原初的な〝SFの面白さ〟が持つ普遍的な力を見せつけたと言えるのではないか(その上で、世界の謎を棚上げにしても全く問題なく楽しめるという構造の秀抜さも特筆しておきたい)。放映後に起きた動物園ブーム、間を置かず実現した朝の再放送といった数々の現象も含めて、まさしく今年度を代表するSF作品であり、日本SF大賞に相応しい傑作だ。
クリスティーヌ中島『モノリス』クリスティーヌ中島
・システムエンジニアである著者が人工知能の学説を元に執筆した点 ・テーマは以下3点 ①ロボットは人とパートナーになれるか ②ロボットは人間の奴隷か ③ロボットの進化速度は人間を追い越し支配者となるか ・2040年頃(人間の知能を人工知能が追い越すとされる年代)を焦点に②③を新たなSFの側面として描いた点。アシモフ「鋼鉄都市」では①のみを描いていました。 ・「この漫画がすごい!」大賞最終候補作。講談社アフタヌーン「もう一歩で賞」受賞作。電脳マヴォ掲載作品(公開は自サイト) 参考URL 電脳マヴォの著者評:http://mavo.takekuma.jp/title.php?title=76 自サイト最新話:https://christinemanga.wordpress.com/2016/12/24/5-8monolith/
TVアニメ『ID-0』タニグチリウイチ
Iマシンなるテクノロジーを見せ人は肉体を離れ意識のみにて己を人と思えるか否かを問いつつ、異種生命らしき存在との戦いを描きコンタクトを描いて、技術と人類の未来を諸課題とともに提示しつつアクションで楽しませた。
TVアニメ『けものフレンズ』タニグチリウイチ
擬人化された動物たちが戯れる箱庭的世界と見せて背後に人類のその後を想像させる要素を示し興味を引いた。そんな世界だからこそ起こる事態の中で人間の叡智、動物の能力が発揮され生命として進歩していく様を見せた。
ゆうきまさみ『白暮のクロニクル』Ta. Miyoshi
日本の歴史の中でもし「おきなが」という現象が日常と寄り添ったところに存在したらというifを丁寧に描いた作品です。新作ミステリーSFとしてSF大賞エントリーに相応しい作品として推薦いたします。
圓山りす「グロース・フォース」新恭司
「アフタヌーン」2016年12月号掲載、アフタヌーン四季賞・2016年夏「四季大賞」受賞作品。雷に打たれ超能力に目覚めた少女・浮田安里。その秘密を共有する親友の櫻谷弥咲に「鳥になる」と宣言し、自分自身の能力だけで空を飛ぼうとする。安里はあらゆるトレーニングに励むが、一向に飛べるようにはならず、弥咲との友情にもヒビが入る。その矢先、安里の前に謎の二人組が現われ不測の事態に発展する。作者・圓山りすの圧倒的な渾身の筆致とは裏腹に、読み進めてみると追跡者の描き方など案外古めかしさを感じる部分もあるが、それが却ってNHK少年ドラマシリーズのような雰囲気を醸しており親しみやすさに包まれている。読後感の爽やかさに胸を打たれる快作。
TVアニメ『けものフレンズ』新恭司
『サピエンス全史』の邦訳出版、ラスコー展の本邦開催などにわかに巻き起こった文化人類学ブームと呼応しているかのようなタイミングで放送が始まった、メディアミックス企画のアニメ化作品。旅をする主人公が出会う人間化した動物たちと関係を積み重ね、現実世界では10万年以上におよぶ人類史、グレイト・ジャーニーを再演しようという骨太なチャレンジだった。この作品では、取りもなおさず、ヒトと動物たちとの間に横たわるものを隠喩的に描いてもいるが、にもかかわらず、主人公の二人はそれぞれの智慧と特技、それになによりも、屈託のない友情でその宿命を力強く乗り越えようとする。
映画『ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険』新恭司
低年齢層にまで広がる「スノーボール・アース」ブームに乗った形でその学説を取り入れた、アカデミックを土台にした映画オリジナル作品。前半ではアムンゼンやスコット、シャクルトンなどを思わせる極地遠征を描写し、中盤以降は時間SFと、モンスターの討伐を軸に冒険を盛り立てている。(討つべきモンスターはクトゥルフ神話に登場する邪神に似た存在だが、監督自身はインタビューで、クトゥルフに関する小説は読んでいないと答えている)。ごっこ遊びに端を発して本物の大冒険へと誘われる流れは、過去の大長編の流れを色濃く反映しおり、藤子・Fファンにも好評を博した。肝心の「スノーボール・アース」に関する描写は、事前の予告などから期待していたほどの掘り下げはなく、些か物足りなさが心残りだが、冒険SFの魅力を十二分に詰め込んだ意欲的なジュブナイル作品だった。
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