第35回日本SF大賞

2016年2月23日 | 協賛 株式会社ドワンゴ

『オービタル・クラウド』 藤井太洋(早川書房)

『My Humanity』 長谷敏司(早川書房)

功績賞

平井和正

第35回日本SF大賞選考経過(文責:日下三蔵)

第35回日本SF大賞の選考会は、北野勇作、篠田節子、長山靖生、牧眞司の各委員出席のもと、2015年2月21日に行われた。自作が候補になっている谷甲州委員は書面での参加となった。運営委員会からは議長として東野司会長、オブザーバーとして森岡浩之事務局長、記録係として日下三蔵の三名が出席した。

まず各委員から、大賞に推したい作品をあげてもらったところ、ほぼ全員が『My Humanity』および『オービタル・クラウド』をあげた。

続いて個別の作品についての講評にうつった。

岡和田晃・編『北の想像力 《北海道文学》と《北海道SF》をめぐる思索の旅』については、「コンセプトは面白いが、個々の論考のレベルにばらつきがある」「飛び抜けて素晴らしい評論(横道仁志「武田泰淳『ひかりごけ』の罪の論理」)があったが、それがSFを対象にしたものでないのが惜しい」「当該年度の編者の仕事としては『「世界内戦」とわずかな希望』や『向井豊昭の闘争』の方を高く評価したい」「せっかく「北海道文学」「北海道SF」という概念を提示したのに、それがストーリーとして繋がっていない」「これだけの論者を取りまとめて大部の著を編んだ能力は凄い」などの評があった。

菅浩江『誰に見しょとて』については、「皮膚がインターフェースである、という発想に感心した」「化粧がもっとも最初の肉体改造であるというアイデアの素晴らしさ。小説としての完成度も高い」「こんなに見事な文章の小説が読めてうれしい。純文学ならば最高レベルで評価されるべき文章力」「化粧と呪術、化粧の起源をフェミニズムの視点から描いている」「後半のエピソードでは起承転結の結がないまま次に移ってしまう場合があり、連作短篇を長篇として着地させる難しさも感じた」「化粧は男のためにではなく自分のためにするもの、という一貫したテーマ性がタイトルに端的に表現されている」などの評があった。

谷甲州『星を創る者たち』については、「地味な工学SFだが、ドラマの積み重ねで環境を改造することが人間の本能だと感じさせる」「さらに最終話でそのこと自体をSFとしてひっくり返すというアイデアに感動した」「エピソードの一つ一つにロマンを感じたが、日常からかけ離れ過ぎて頭の中で映像として再現できないもどかしさがあった」「特に文句をつけるところのない手練れの仕事だ」「最終話での飛躍が大き過ぎるのではないか」「読者に対してもある程度の知識を要求する作品」「いや、まったく知識がなくても楽しめるはず。そこは読者によるのではないか」「仕事をしている人ならば誰でも共感できると思う」などの評があった。

長谷敏司『My Humanity』については、「必ずしも共感できるストーリーばかりではないが、SFのアイデアを駆使することで納得はさせられる」「候補作の中では一番とがっている。今のSFだと思った」「作品の中で安易な決着を描かないところを評価したい」「「父たちの時間」が突出していい。この一作だけでSF大賞に値する」「テーマや長さなどがまちまちで、短篇集としてバランスが取れていない。しかしそれは弱点になっていない」「この一冊の中で作者の文章力、構成力の成長が、はっきりと見て取れる」「自作のスピンオフが何作か含まれているが、作者の演繹的な発想法により単なる焼き直しではない優れた作品になっている」などの評があった。

藤井太洋『オービタル・クラウド』については、「敵が単純な悪役ではなく、人類が進歩するステップの一つとして描かれているのがいい」「バランスの取れたサスペンスSFで、往年のマイクル・クライトンを思わせる大作」「科学技術の点では分からないところもあったが、それでも充分に面白かった」「昨年の『Gene Mapper―full build―』に比べると長足の進歩が見られる」「悪者を出さずに世界をまるごと切り取ってみせたようなエンターテインメントのお手本のような作品。ただ、これがSFの面白さなのかという疑問はある」「テクノロジーについて入念に取材したうえで、つくべところでは大きな嘘もついている。やはりSFならではの収穫といえると思う」「作中での危機的状況を、もっと読者に分かりやすく伝える工夫が欲しい」などの評があった。

議論の結果、大賞については『オービタル・クラウド』と『My Humanity』のいずれか、または二作の同時受賞ということになり検討が続けられたが、「甲乙つけがたい」「お二方とも昨年の候補作よりも格段に良くなっている」などの意見が出て、出席の全委員の総意で二作同時受賞と決まった。

功績賞についてはSF界に対して多大な功績が認められる方が亡くなられたとき、もしくはその方の業績の中で非常に大きな節目となる出来事(例えば星新一さんのショートショート1001篇に相当するようなもの)があった際に、会員からの推薦を参考にしつつ、会長が選考委員会に諮ることになった。

今年度は今年一月十七日に亡くなった平井和正元会員に功績賞を贈る提案がなされ、全委員からの賛成によってこれが承認された。

また大賞については、前年九月から当年八月までに刊行・発表(奥付に準拠)された作品を対象とするものの、功績賞については期間は柔軟に対応することが確認された。

第35回日本SF大賞選考委員(敬称略・五十音順)

  • 北野勇作
  • 篠田節子
  • 甲州
  • 長山靖生
  • 眞司

第35回日本SF大賞候補作(作者/編者・五十音順)

  • 『オービタル・クラウド』藤井太洋(早川書房)
  • 『北の想像力《北海道文学》と《北海道SF》をめぐる思索の旅』岡和田(寿郎社)
  • 『誰に見しょとて』浩江(早川書房)
  • 『星を創る者たち』甲州(河出書房新社)
  • 『My Humanity』長谷敏司(早川書房)

第35回日本SF大賞エントリー

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