第34回日本SF大賞
『皆勤の徒』
特別賞
『NOVA』全十巻
『ヨハネスブルグの天使たち』
第34回日本SF大賞選考経過(文責:日下三蔵)
第34回日本SF大賞の選考会は、北野勇作、篠田節子、谷甲州、長山靖生、牧眞司の全委員出席のもと、2014年3月1日に行われた。運営委員会からは議長として東野司会長、オブザーバーとして北原尚彦事務局長、記録係として日下三蔵の三名が出席した。
まず各委員から、大賞に推したい作品を一作品あげてもらったところ、ほぼ全員が『皆勤の徒』をあげた。牧委員は『NOVA』をあげたが、小説作品に限るなら『皆勤の徒』。逆に北野委員は『皆勤の徒』が一位だが、日本SFの状況を変えたという点で『NOVA』も捨てがたいという意見であった。
また、どの委員も異口同音に候補作のレベルの高さについて触れ、その中で順位をつけることの難しさと、高い水準での選考になることが予測された。
続いて個別の作品についての講評にうつった。
野崎まど『know』については、「SFのタイプとしては古いが有無を言わさぬ面白さとスピード感がある」「講談のような面白さ」「最後が禅問答になってしまうのがSFとしては肩透かし」「思索に踏み込む一歩手前という印象」などの評があった。
長谷敏司 『BEATLESS』については、「心の有無を突き詰めていく正統派のSF」「SFとしては『know』より踏み込んでいるが書き過ぎが気になる」「説明の重複が多い。連載を単行本化する際に刈り込むべき」「戦闘シーンはよくできている。アニメ向き」「世界観が見えてくるまでが長い」などの評があった。
藤井太洋 『Gene Mapper―full build―』については、「遺伝子崩壊の危機感が描写不足で物足りない」「もっとも大人の小説という印象。息詰まるほど緻密」「盛り込まれている要素が現代的。外形的な事件が地味なのが惜しい」「登場人物が性善説に基づいて行動しているために地味に見えるのではないか」などの評があった。
宮内悠介『ヨハネスブルグの天使たち』については、「作品としては二位。ただし既受賞者なので扱いが難しい」「モチーフの展開の仕方は『盤上の夜』より上。作品本位で評価すべき」「SF的な嘘のつき方がうまい。「ロワーサイドの幽霊たち」が特に良い」「アフガンの戦争描写が非常にリアル」「『盤上の夜』を大きく超えるところまでは行かない」などの評があった。
大森望(責任編集) 『NOVA』については、「出版形態としてエポックメーキング」「特別賞に推したい」「賞をリニューアルしたのだから大賞でもよい」「いずれにしても何らかの形では評価すべき」「編集者としての能力は高く評価せざるを得ない」などの評があった。
酉島伝法『皆勤の徒』については、ほぼ受賞が決まっていたため他の作品に比べて発言は少なかったが、「日本SFの流れの本道にある作品」「意外とサイエンスの要素が濃い」「表題作だけで受賞に値する」などの評があった。
まず、この時点で『皆勤の徒』の大賞受賞が決まり、次いで評価の高かった『NOVA』と『ヨハネスブルグの天使たち』の扱いが議論されることになった。
『NOVA』については、やはりアンソロジー企画と小説作品を同一の基準で評価するのは難しいという意見が多く、『異形コレクション』の前例にならって特別賞という結論に落ち着いた。
『ヨハネスブルグの天使たち』については、前年の受賞作『盤上の夜』との比較が議論の焦点となった。『ヨハネスブルグの天使たち』はいい作品だが『盤上の夜』を大きく超えるとまではいえない、という委員と、いや大きく超えている、という委員の間で意見が分かれた。ただ、受賞に値するという点では全委員の意見が一致したため、さらに議論を重ねた結果、『NOVA』と並んで特別賞を贈るという結論となった。
続いて功績賞の検討に移ったが、贈賞の基準が曖昧なままだったこともあって、お名前のあがった何人かの方に賞を贈るには至らなかった。功績賞の扱いについては改めて運営委員会で検討が行われることが確認された。
第34回 日本SF大賞 選考委員 (敬称略・ 五十音順)
- 北野勇作
- 篠田節子
- 谷甲州
- 長山靖生
- 牧眞司
第34回 日本SF大賞 候補作 (作者/ 編者・ 五十音順)
- 『NOVA』全十巻
大森望 責任編集 (河出書房新社) - 『皆勤の徒』
酉島伝法 (東京創元社) - 『know』
野﨑まど (早川書房) - 『BEATLESS』
長谷敏司 (角川書店) - 『Gene Mapper
-full build-』 藤井太洋 (早川書房) - 『ヨハネスブルグの
天使たち』 宮内悠介 (早川書房)