第43回日本SF大賞エントリー一覧

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清水玲子《秘密 -トップ・シークレット-》シリーズbee
故人の脳が”見た”記憶を映像化し、今まで闇の中に沈んでしまった難事件を解決する爽快警察ドラマ…と思って読んでいたらむしろそれ自体はエッセンスでしかなく、これは人間誰しもがこころに抱える「秘密」がえがかれています。過去の失敗や恥ずかしい記憶なんてものよりもっと深層の、他人に絶対に知られたくない部分がつまびらかにされ、もしもこれが自分ことだったら…と思うと非常に考えさせられてしまいます。複数の難事件が絡み合う中で明るみになる個々の「秘密」とそれを暴かざるを得ない捜査員の苦悩や葛藤、絶望、そして希望。あなたはもし明日、自分が殺されたとしたら事件の「真実」と、誰にも言わず・言えずにいた「秘密」のどちらを選びますか?死んだ後ならもう、いつ誰に見られてもいい?もしそうなった時に私は…答えが出る日は来るのだろうか。そんなことばかり考えてしまいます。
久永実木彦「わたしたちの怪獣」岸本健之朗
ここでは活字が着ぐるみである。
腸獣、あるいは白腸という二文字は、紙面の上で「怪獣」の輪郭を強固にかたちづくる。
「わたしたちの怪獣」は、言葉だけで怪獣を表現するという難題に対する様々な工夫が随所に張り巡らされた傑作だ。
怪獣を映すものではなく怪獣を語るものとして、怪獣小説は怪獣映画からの独立を果たしつつあるが、本作はまさにその素敵な宣言だと考える。
福井健太(編)『SFマンガ傑作選』継堀雪見
「SFマンガのアンソロジー」を編む、という難題に対する見事な回答となり得る一冊。あえてオールタイムベストではなく、「1970年代の短編読切を中心としたセレクト+SFマンガ史概説」でもって幅広い層の読者のニーズに応えるアンソロジーが出来たのは、編者の膨大な読書量と選定眼の賜物であろう。青年漫画から少女漫画まで幅の広いチョイスを成し得たバランス感覚や収録作に対する的確なコメント、2020年代の作品までカバーしたSFマンガ史概説が素晴らしい。
久永実木彦「わたしたちの怪獣」空木春宵
徹頭徹尾、個の視線、ヒトの目線から描かれた「怪獣」のおはなし。怪獣映画やドラマの多くに対して「人間ドラマのパートが邪魔」という言葉が無造作に投げかけられることに違和感を覚えていた者として、こうした作品が書かれたことに感動を覚えました。ディザスター映画のようにようにあらゆることが「個」の目線を通して描かれていますが、それでいて、読み手にとっても決して「他人事」ではない切実さが感じられる物語として仕上がっていることに脱帽。個々の場面ごとのイメージも鮮烈でありながら静謐な美しさを具えていて素晴らしいです。
音無白野『その日、絵空事の君を描く』プロキシ
SF的なアイデアを使った恋愛小説だ。よくある恋愛SF小説と違うのは、作中の一ページに機械にしか読めない文字で埋めつくされたページがあることだろう。この読めない一ページは印刷ミスではなくアイデア賞もののギミックとなっている。近年イラスト作画AIの進歩が目新しいが、それよりも未来で主人公とヒロインは絵を描く「何のために絵を残すのか?」といったクリエイター的な原動力から、「存在とは何か?」といった生きる理由を描くジュブナイル小説。
笹公人(短歌)北村みなみ(絵)『パラレル百景』継堀雪見
日常から離れたファンタジックな世界を、「短歌」と「一枚絵(イラストレーション)」のラボレーションによってスパークさせていく異色のイラスト歌集。テレポート・タイムトラベル・ユニコーンなどSFやファンタジーのギミックを巧みに用いて抒情性を打ち出す笹公人の短歌と、明るさと切なさを湛えた北村みなみのイラストレーションが共に響きあい、豊かな非日常を作り上げていく。描きおろしのオリジナル漫画もSF・ファンタジーの要素を巧みに取り入れた秀作が並ぶ。SF/ファンタジー・短歌・イラストレーションの三要素が見事に噛み合った、非常にユニークな歌集として推薦する。
久永実木彦「わたしたちの怪獣」ペロシ
怪獣の東京上陸を家族の問題に苦悩する一般人の一人称視点で描きながら怪獣による侵攻と社会の混乱を個人の人間ドラマと有機的に融合させることに成功した傑作である。怪獣小説として読んでも人間小説として読んでも一級品の面白さがあることを保証する。首相演説の欺瞞、ネットの低俗な反応、蔓延する陰謀論、軍拡の是非といった現代日本の問題を要素として数多く散りばめながら短編として完璧にまとまっている点も見事の一言に尽きる。一見爽やかに見える景色の中を不穏に向かって突き進むラストには感嘆の声が漏れた。怪獣小説の可能性を大きく広げた「わたしたちの怪獣」こそ日本SF大賞に相応しい作品といえるだろう。
TVドラマ『TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇』へのや
芸術家岡本太郎の太陽の塔をモチーフにしたTAROMAN が同じく岡本太郎の作品モチーフの奇獣と戦うという内容の、1970年代に放送された巨大変身ヒーロー物の特撮作品を、現存する10話を再放送するという体で全くの架空作品をさも実在したかのように紹介するという、メタフィクション作品。大阪で開催されたタローマンまつりでは、現代の子どもに大人気になり、見事に昔のヒーロー番組を夏休みに見たという偽の番組の記憶を植え付けることに成功した。
荻堂顕『ループ・オブ・ザ・コード』リベリオン
「歴史の一切を抹消された国家」という設定の奇抜さ、反出生やアイデンティティといった題材の妙、細部の描き方、ときにシニカルでありながらウィットに富んだセリフまわしをはじめとする文章の巧さ。構成としても完璧に近く、SFとして出色の出来であるとともに、良質なエンターテイメントとして完成されている。特に後半に出てくるメキシコでの「死者の日」の回想シーンが泣かせる。多くの人に読んで欲しい。
円城塔『ゴジラS.P〈シンギュラポイント〉』白龍
2021年に放映された同名アニメのノベライズでありながら、アニメ本編の出来事はアニメ見てね、というスタンスを貫き、アニメでは語られなかった設定や世界観、登場人物の背景などを詳細に描くことに徹した異色の作品である。でもちゃんとユンと銘のボーイミーツガールの物語でもある。
冒頭から円城塔氏のメタな文体で、生物でもあり、特異点という高次元存在でもあるゴジラ視点で物語が語られ始めるのだから、引き込まれずにはいられない。ユンと銘が唱えたアーキタイプや超時間計算の理論に関する記述はまるで「異常論文」だ。語り部は怪獣たち、AIたちに引き継がれ、破局とその回避の真相と過去と未来の物語を紡いでいく。そうしてその先に脈々と続いてきたゴジラの世界がさらに広がる瞬間に出会えるのだ。そんなノベライズの常識を覆す本作をぜひ読んで欲しいと思う。
山口優『星霊の艦隊1』雀部陽一郎
表紙は美少女、しかも「百合」系。展開は「銀英伝」もかくやというべき会戦SF。テーマは、SFでは王道の「絶対的な正義というものは存在しない」ことと「人類とAIの共存」。設定は、人工ブラックホールとポスト・シンギュラリティを扱った宇宙ものという極北ハードSFの傑作シリーズ一巻目です。
山口先生は、昔から美少女が主人公で、「人間の仕事を肩代わりするほどに知性が発達した存在は、人間と同等の権利を持たなくて良いのか」というテーマの小説を書き続けていらっしゃっていて、今回のこの《星霊の艦隊》シリーズは、その総決算に位置づけられると思います。特に、「美少女とハードSF」という組み合わせは、ユニークで面白いと思います。
人間六度『永遠のあなたと、死ぬ私の10の掟』人間六超度
メディアを問わずに濫用されまくっている「不死」という装置。そのロジックは多様で、古典的にはヴァンパイアものが持つ副次的設定として登場したり、呪いのような超常的な力として付与されたり、あるいは科学発展の末路としても描かれ得る。
そんな不死について大胆に切り込み、不死身と人間が共に生きる手段を主人公の男女が交わす「掟」という一点から覗き込み、暴いていく。新しい不死小説に挑もうとした本作であるが、特筆すべきはこのような意欲的な作品がメディアワークス文庫から出ているということだ。
「なんでメディアワークスから出した?」ってめっちゃ言われるので開き直って自薦しました。一回SFとして読んでみて???
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熊倉献『ブランクスペース』匿名希望
主人公のふたりの少女と文学、街を舞台にしたSF要素のある青春作品。
女子高生のショーコと、自分の頭の中に思い浮かべたものを透明な物体として作り出すことができるクラスメイトのスイ。人気のない私有地で透明な傘を差しながら立ち尽くしていたスイと、その場を偶然通りかかったショーコの出会いからふたりの"空白"をめぐる物語がはじまる。不思議で不穏な日々を描いた物語は、予想外の展開をはじめ先が読めない。秀逸すぎるSF漫画です。
荒巻義雄『SFする思考 荒巻義雄評論集成』えふえぬえる
800ページを超える大冊。お値段もかなりのもので購入を躊躇していましたが、思い切って購入し、読むことができて本当によかった。
私がSFを読み始めた頃の文庫の解説再録が当初の目当てだったのですが、発行年をはじめ、近年書かれた評論も多数。当たり前かも知れませんが、現役の評論家であることも、実感できました。
著者の小説作品の一部や評論は、難解であるという印象を持っていましたが、本書はリーダビリティーも素晴らしく、あっというまに読み進めることができました。巽孝之さんの解説も素晴らしい。
れむれむ「BSoD/NEA GENESIS - 14+17:20.9999」匿名希望
同人誌『殺伐百合アンソロジー』の一作だが、同書所収の14本の内、後半で毛色の異なるSFが5本並ぶ点に編著者の意図を感じる。

ラストの本作は、題名通り20.9999=新世紀前夜と、14+17=14歳と17歳――大人になれない子どもたちが、もう一つの「20.9999」と対峙する物語だ。
設定でピンと来る者もいるはずだが、これほど明確に「エヴァ」以後を意識した作品がタイムラグなく・憚らず世に出るのも同人の良さだろう。リメイクも記憶に新しい「ピングドラム」的な鉄道モチーフの昇華をやってのける点にも驚きを覚えた。

読みやすいか否かで言えば明らかに人を選ぶ。だが「飲まされる」ような一種のアニメーションめいた文体と重層的なテーマの操り方において、比類なきアマチュアである。
「百合SF」でも「SF」でもなく「百合」として世に出たのが如何せん勿体なく、改めて広く見られることに期待してSF大賞に推挙する。
小谷真理『性差事変-平成のポップ・カルチャーとフェミニズム-』海老原豊
私が大学・大学院であたりまえのようにフェミニズム批評やジェンダー理論を学んでいたのは、今から20年ほど前。本書を読んで「あたりまえ」には「あたりまえ」になるまでの歴史があるというのを感じた。例えば、アメリカの本屋をめぐってフェミニズム関係の本を買っては段ボールに詰めて日本に船で送る(実話)。という、先人たちの偉大な「肉体労働」を経て実った果実を、私が大学で「あたりまえ」として摂取していたのだ。本書のサブタイトルには「平成のポップ・カルチャーとフェミニズム」とあるが、平成とくくられる一時代を見ても、発展は凄まじい。
林譲治『不可視の網』海老原豊
監査カメラSFの新展開。監視カメラにより、犯罪事件の捜査のみならず、犯罪の抑止にも効果をあげている実験都市。犯罪とは無縁に思えたが、不可能としか思えない事件が発生する。カメラを増やせば増やすほど見えるものは多くなるはずなのに、なぜ見えないものがあるのか? まるで盲点。
空木春宵「R _____ R _____」増田まもる
SFを愛し、デヴィッド・ボウイを愛し、デストピアを愛するすべての読者のために書かれたすばらしいロック小説。精緻をきわめる文体は圧倒的なスリルとグルーヴを生み出すことに成功している。まさしくSLADEのCum On Feel The Noizeにも比肩する傑作である。
井上彼方・編『新月』匿名希望
VG+のKaguya SF PlanetはSF短編・SF掌編の発表媒体として、オンラインメディアの強みを生かし、書き手が安心して作品を発表できる環境を整えながら、新たな才能を次々に発掘しています。そこから生まれた本書は、すべての書き手をエンカレッジし、新たな時代のSFを作り出していく試みとして高く評価できるため、推薦します。
木村風太『運命の巻戻士』ガトネロ
主人公であるクロノが交通事故に遭ってしまった妹を救うべく、時空警察特殊機動隊、通称巻戻士となって時間を巻き戻す力を使いながら人々を救っていく作品です。決まった運命を変えるには1000000分の1という確率を乗り越えなければならず、何百回何千回と同じ時間を繰り返すクロノの忍耐や、わずかな手掛かりをも見逃さない観察眼と集中力、誰一人傷つけず悲しませない優しさがあってこそ導かれるクリアルートからは目が離せません。
吉村萬壱『CF』海老原豊
責任を無化の請け負う企業CF。いちおうそれっぽい理屈は述べるものの、実際に何が行われているのかは、そこに働くもの(末端労働者)には謎である。それでも「なぜか」責任が消えた、と実感される更なる謎。事件事故の加害者の責任が消えると、被害者の怒りも消える謎。謎ばかりだが、それでもなんとなく、あるなぁと思えてしまうリアリティ。実に巧妙。
李琴峰『生を祝う』海老原豊
生まれる前の胎児が、生まれたいか生まれたくないかを伝えられるとしたら、どんな世界になるか? 胎児の意志とは何か、意志を伝えるとはどういうことか、伝えられた意志をどう尊重すればいいのか、考えたくなる論点がいくつもある。個人的には過剰なまでに数値で可視化する現代社会の極北が見えたように思った。
久永実木彦「わたしたちの怪獣」東京ニトロ
巨大怪獣が出現しパニックに陥る東京へ、妹が殺した父親の死体を棄てに行く姉の物語。この短編小説の最大の魅力は、東京を襲う怪獣災害のリアリティと、そして主人公である「わたし」とその家族の物語を、空中分解させることなく両立させ、世界の破滅と個人の悲劇とを見事に接続している点にある。都内を蹂躙し始めた怪獣の動向は、SNSや報道機関の記事という形で作中では表現されるが、一方で「わたし」の物語は、都内へ向けてトヨタ・カローラを走らせる「わたし」自身によって直接語られていく。そして、怪獣駆除のために核攻撃が始まろうとする東京で「わたし」と怪獣が出会ったその瞬間、「わたし」の眼を通じて目にした光景によって、読者ははっきりと、これが自他の壮絶な経験に触れながら日々生きている「わたしたち」の怪獣であることを悟る。分断された社会においてこの作品が持つ意義は、大賞にふさわしいと考え、エントリーさせていただいた。
東山彰良『怪物』匿名希望
『ブラックライダー』『罪の終わり』にて文明崩壊以後のメキシコ~アメリカの格調高い神話を日本語で作り上げた著者が、一般小説の世界で広く成功した『流』以後の「台湾もの」側に壮大な虚構を引き寄せた意欲作。
広く東アジアにまたがる著者のルーツ、そして「現在の著者の変奏」をフィクションに深くコミットさせ、そこに近代史を重ねつつピンチョン的陰謀論すら展開して「語り直す」こと、「物語を書き直すこと」で現代の神話を構築しようとした豪腕をSFのフィールドにおいて推薦したい。
山上たつひこ「モニュメント」新恭司
エツアとウユシュは遠い昔、この土地を天災から護るために遣わされた。二人は長い時間の中で仮の姿と名前を乗り換え続けながら人間社会に紛れ込んで生活していた。社会派、不条理、ギャグマンガ家として一時代を築き上げた著者はいま小説家として金沢に根を下ろしている。老練の作家であるにもかかわらず瑞々しさに満ちている、地域に根差した温かな眼差しのファンタジー掌編。大作家の新境地に敬意を表して。
北國新聞、富山新聞2022年3月26日付掲載。
魚豊『チ。-地球の運動について-』板橋哲
中世ヨーロッパ風異世界ものが大流行りであるが、これもそのひとつ。ただしドラゴンもオークも出てこない。中世ヨーロッパ風異世界が地動説に目覚めたらと言うのがこのお話。ドラゴンやも魔法使いも登場しないが、代わりに、異端者の身体を当然のように破壊する審問官の狂気と地動説を伝えようとする科学者の勇気さ(これも狂気)が、刃となって読者に突き刺さってくる。現実の中世ヨーロッパはほとんど地動説を弾圧していなかったので、この作品は歴史物語ではない。昨年度受賞作「大奥」と同様の歴史改変SFにあたる。日本SF大賞のエントリーに相応しい作品だと思う。
山野浩一(著)岡和田晃(編)『いかに終わるか 山野浩一発掘小説集』カワウソ
山野浩一氏の短編小説を岡和田晃氏がまとめた一冊。単行本未収録の作品を集め、今まで入手困難だった作品が読めるようになった。また、岡和田氏による解説には、初めて山野作品に触れる読者に向け、難易度が示されており、何から読んでいけばわからず手をつけられないという状況が生まれないように工夫されている。故人の仕事を広めるための繊細な心遣いだ。作品はもちろん面白く、匝線を描くような内容はまさにエッシャー的である。SFを語る上では欠かせない山野作品を後世に繋いでいく見事な仕事と言えるだろう。
川野芽生『無垢なる花たちのためのユートピア』yamabatu
美しい花の名を持つ少年たちを乗せた船、少女たちがあらゆるものから守られて生活する学園、二人の女性が交わす手紙。人々が人形化する街。この本に書かれた物語はどれも閉じられている。中に居るものに外界の様子はわからない。歌人である著者が紡ぐ言葉はとても美しく、そして物語は残酷だ。「生と性」とは何か。ここ数年このテーマで描かれる物語は多いけれど、著者の描き出す世界は手が届きそうで届かないもどかしさも感じさせる。
山野浩一(著)岡和田晃(編)『いかに終わるか 山野浩一発掘小説集』忍澤勉
私的なことで恐縮だが、今から数十年前、私のやや曖昧なSF観に鋭いナイフを突きつけてくれたのが、SFマガジンに掲載された山野作品だった。当時、まだ幼かった私のSF観といえば、未来の世界に何らかの危機が訪れ、それを人類の英知で解決するといった類のもの。しかしそのことに微かな疑問を持っていたことも確かで、その疑問に新たな認識と読むことの意義を与えてくれたのが、山野作品だったのである。しかし昨今、彼の作品を本として読むことは極めて困難だった。そんな時代に楔を打ったのがこの「発掘小説集」である。この一冊を突破口となり、第二、第三のナイフが生まれ出ることを期待したい。
荒巻義雄『SFする思考 荒巻義雄評論集成』じゅぴちゃん
荒巻義雄氏がどのように思考を巡らせ、どのように書物を読んでいるのか、まるでパカっと頭の中を覗いているかのような雑記・評論集。収録されている文章は50年間様々なところに掲載されてきたものらしく、一冊はかなりボリュームがあるが、このボリュームはそのまま「荒巻SF史」になっていると考えられるかもしれない。書評やSF論などはもちろん、助詞や副詞に関する考察まで収録されており、作家を目指している方にもかなり参考になる。SF作品を考えるための基礎から応用まで含まれており、大賞にふさわしい一冊と言えるだろう。
劇場アニメ『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』板橋哲
「機動戦士ガンダムtheORIGINE」の外伝的作品だが、製作中ロシアによるウクライナ侵攻が重なり、はからずも現代的にとても意義のある作品となった。劇中、モビルスーツの戦う音や振動に怯え、泣き止まない子供たちの姿に現実の戦争避難民の姿を重ねざるを得なかった。映像SF作品において活劇を重視する必要があり、その足元でふるえる普通の人間を置き去りにしがちであることは否めない。「ククルス・ドアンの島」は、SFの作り手にとっても鑑賞者にとっても、一石を投じる作品だったのではないか。
林譲治『大日本帝国の銀河』板橋哲
冒頭は作者得意の歴史改変戦記を思わせるのだが、異星人オリオン太郎が登場するや面白さが加速していく。彼らのオーバーテクノロジーを理解しようとする地球人側の努力や、肩透かしをクタわせられたときのやるせなさも(読者からは他人事なので)楽しい。最終巻で、時間スケールの異なる宇宙戦争が背景にあることが明かされるが、オリオン集団への地球人の意趣返しが痛快である。
予想外の展開が連続し、良い意味で読者を裏切り続けたエンタメSFの手本のような傑作だった。
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ゲーム『メトロイド ドレッド』大澤博隆
ビデオゲーム史に残る女性主人公であり、女性プレイヤーのエンパワーメントの象徴と位置づけられることもある「サムス・アラン」のナンバリング作品の第五作目であり、シリーズの区切りを刻む作品。従来のメトロイドとサムスを巡る複雑な関係に加え、これまで背景となってきた鳥人族との関係を重層的に描いている。また、「意図を持つ追跡障害物」E.M.M.I.を用い、ゲームシステムとの読み合いを強制させ恐怖を煽る演出は、探索型アクションゲームである本シリーズのプレイ体験を類型的なところに落とし込まず、従来にない緊張感を与えることに成功している。SFにおける異生物とのコンタクトテーマを、様々な形で翻案しビデオゲームに落とし込んできたメトロイドシリーズが、現在のビデオゲーム技術がなし得る語り方を持って、逆にSFに対し新たな語り方を刻んたという意味で、本作は「SFの歴史に新たな側面を付け加えた作品」と言える。
SFPW掲載の川嶋侑希その他によるUtopiaのシェアード・ワールド小説忍澤勉
webでデビューした川嶋侑希の中編小説「Utopia」は、SFとファンタジーの垣根を超えた秀作。各章には自身によるオリジナル楽曲を添えられていて、作品世界の表現領域が大きく広がっています。まさに表現手法としても画期的な作品で、ネット時代が可能にしたテキストと音楽が醸し出す、まったく新しい創作活動の一作といえるでしょう。さらにこの作品世界は自身の「Utopiaへの通信」、伊野隆之「Utopiaの影」、忍澤勉の「<情報街>のメンテおじさん」と、まったく趣きを異にするシェアード・ワールドの広がりを見せています。https://prologuewave.club/?s=Utopia
音楽『YC2.5』N
出版物ではないので迷ったがこの作品がSFファンの視界に入らないまま日本SF大賞が決まるのはどうかと思ったため推薦する。
攻殻機動隊やAKIRAを思わせるSF的世界観や初音ミク等を使用した音楽と最新のHIpHopが見事に融合されたアルバム。疎結合するようにゆるやかにつながる各曲のストーリーテリングに夢中になり聴きいるうちにやがて最後にすこしすくわれたような読後感(聴後感?)を覚える。
YouTubeにはMVがあげられてる曲もありそれぞれSF的世界観が前面に出た映像でより世界観に浸ることができる。
創作物である関係上ほかの表現では難しい「SF的世界観内に表現者自身が入り込んだうえでの実存を含む表現」が可能となる音楽であり且つ言語芸術でもあるラップ表現。そこにおけるSFの現在を知る為に必聴のアルバム。
https://809.lnk.to/kamui_yc25
ゲーム『T&Tビギナーズバンドル・魔術師の島』吉里川べお
会話型ロールプレイングゲーム『トンネルズ&トロールズ(以下T&T)』のサプリメント、今回推すのは分冊2『魔術師の島』だ。表題作となる(ゲーム用)シナリオは、SFドラマ『バビロン5』の脚本家の一人、故ラリー・ディティリオの若き日の作。T&T創始者たちのそれとは少し異なる世界で、謎めいた魔術師の棲む閉ざされた島を探索する。最初に立ち寄る名もなき村の、うさんくさげな住人たち。暗くシビアな地下迷宮。酒場でエールを空けるたび、扉を一枚開けるたび、冒険者たちを蝕む呪い。その光景は陰鬱だが、なぜかどこかユーモラスだ。同書はディティリオの小説2本とコラム1本が掲載され、同氏の追悼本を兼ねるばかりか、岡和田晃氏がオマージュとなるソロ・アドベンチャー(分岐型小説をゲームと組み合わせたもの。T&Tを嚆矢とする)2本を追加。日本のT&Tファンの代表たる“あの人物”が、ディティリオの世界に挑戦する。
南木義隆『蝶と帝国』長嶋巽
帝政ロシア末期に超能力を持つ同性愛者の女性が栄光を駆け上がり破滅する物語だが、伴名練の推薦文に「ひとしずくの力は、あたたかな奇跡も胸踊る活劇も与えなかった」とあるように従来のサイキックSFのように超能力が活躍しないことが特徴的。歴史改変要素も幾つか見られる。
劇中で超能力が発揮される場面は強い虚無感を与えるシーン数ヶ所くらいで、そこには「性的少数者が抑圧されてきた長い歴史は仮に一人の人間に超能力があった程度では変えられない」という「活躍しない」ことを逆手に取った強いメッセージ性があるのではないか。
また折しも現実のロシアで2022年10月27日に「反LGBT法」が成立した。そのような時代に本作が広く紹介されることは、日本SFがあらゆる差別を穿つ可能性も込みで推薦したい。昨年に大ヒットした『同志少女よ、敵を撃て』と国は同じでも扱う時代とテーマは対象的な、SFからの回答でもある。
上田早夕里『獣たちの海』からのなもいに
オーシャン・クロニクルシリーズの中短編集です。ある程度シリーズを読んでいることが前提の作品集ですが、壮大な大傑作で日本SF大賞候補となった「魚舟・獣舟」と『華竜の宮』の直系である本作がちゃんと評価されないのはおかしいと思い、エントリーしました。
海で生きる、遺伝子改良を受けた誇り高き海上民、魚舟、獣舟、そしてルーシィに加え、今回は海上民と陸上民の間で交渉を担当する保安員(リンカー)という新たな役割を持つ者が登場。保安員と、海上民の長(オサ)との心の交流を描き、海上民と陸上民の一触即発の対立現場でそれでも相手を信じようと踏ん張る者たちの信念を描き抜いた「カレイドスコープ・キッス」は、上田SF文学の到達点の一つだと思います。その上で、全収録作「迷舟」「獣たちの海」「老人と人魚」「カレイドスコープ・キッス」を含む中短編集『獣たちの海』を候補作としてエントリーします。
高橋葉介『夢幻紳士 夢幻童話篇』匿名希望
誕生から40年が過ぎ、さまざまな形態でのシリーズが進んでも主人公が夢幻魔実也と名乗り黒衣の探偵であること以外、仔細は明らかでない。彼は夢と現実の狭間を自由に往来する。

童話仕立ての残酷なファンタジーの中で冷笑とともに見せる悪夢は、対峙した相手を自身の罪や因果に向き合わせる。そして永久に抜け出ることの出来ない呪縛を軽やかに刻みつける。

本来、夢は夢でしかない。覚めれば消える。だが夢幻魔実也が関わることで夢が現実に侵食して現実を変えてしまう。

ミステリマガジンで連載され幻想怪奇色の強い本作だが、円熟味を増した独特の世界観と相まって、主人公夢幻魔実也の説明のつかない不可思議な個性は、あらゆる創作において後にも先にも現れ難い独創性を放っている。
ゲンロンSF創作講座匿名
https://school.genron.co.jp/sf/sf-2019/ 日本SF界のみならず、各界に才能ある新人を次々と送り出しその功績が大きいこと、これ以前には組織的な育成がなかったように思うので推薦致します。すそ野を広げることはとても大事です。あちこちに散逸しがちなコミュニティのひとつのハブとして機能していくことを期待。
宮澤伊織『神々の歩法』むぎちゃ
第6回創元SF短編賞を受賞した表題作を連作化した作品。魚座の超新星爆発で起きた高次元の生命体が地球に降ってきて、人間に憑依したことで超人化(憑依体と呼ばれる)。一人で北京を破壊し尽くした……というあらすじからは想像できないほど読みやすい、エンタメSF。サイボーグ化されたアメリカ軍の特殊戦闘部隊がまったく対抗できずにいたところに、憑依されつつ奇跡的に理性を残して共存に成功した少女が現れて助けてくれる。その後も次々と出現する憑依体を倒すため、特殊部隊の軍人たちはアニメに癒やされながら、少女の成長を見守りつつ世界各地を回る……という展開もいい。
吾嬬竜孝『宇宙戦艦ヤマトNEXT スターブレイザーズΛ』新恭司
誰もが知っている超有名SFアニメの看板を掲げているため、期待して読んだ古参オタクが「思ってたんと違う……」となること請け合い、友情とチームプレイのSFマンガ。作者の前作『鉄腕アダム』を継いだハードSFマインドで、読者からの戸惑いも批判も意に介さず突き進む。
荒巻義雄『SFする思考 荒巻義雄評論集成』阿佐谷 袤
現代は見えるリアルを追い求め、まだ見ぬリアルには関心が薄い時代だ。そんな中作家荒巻は長きに渡り数々のSF作品を創り出してきた。本書は様々な「知」のジャンルを縦横無尽に
横断しながら、そこに自らの「思考」の在り方を凝視しまとめあげた評論集。広袤とした自由な「知」への探究心は89歳の現在も全く衰えず、独自の理論で創作する力は驚異的ですらある。これまでに積み重ねられてきた「思考」は、ジャンルを超え多くの読者に見えないリアルと思考する喜びを与えてきた。次に続く者達が更なる地平に躍り出るためにも、SFを知り尽くした作家によるこの一冊は、長い道程の一里塚となるに違いない。この度の大賞に相応しい記念すべき作品であると考える。
南木義隆『蝶と帝国』匿名希望
表紙の静かな美しさとは対照的にキーラの思慕、愛が、力強くて重くて激しくて最高だった。本当の自分を伝えられないまま、離れて行く者に執着するキーラと、彼女を支えようとしてくれる周囲の人のすれ違いも苦しくて好き。他の誰かの愛じゃなくて代替不可の特定のあの人じゃないと埋められない傷って一途過ぎて辛そう。エピローグまで一気に駆け抜けた後、キーラの壮大な愛と無力感に思いを馳せて無性に涙が出てきて力が抜けた。素晴らしい読後感だった。
山野浩一(著)岡和田晃(編)『いかに終わるか 山野浩一発掘小説集』Nassy
単行本に未収録だった作品を、初出媒体に丹念に当たってそれこそ「発掘」した編者の岡和田晃氏の熱誠に敬意を称したい。そして、作者亡き後、こうした熱情ある編者がいなければ作品は時間とともに忘れ去られてしまう運命にあろう。このような単行本によって「現在の読者」にSF界の鬼才であった山野浩一の知られざる作品が届くことの「奇跡」を実感してもらいたい。
荒巻義雄『SFする思考 荒巻義雄評論集成』礒部剛喜
かつて筒井康隆氏はSFは拡散と浸透の時代だと言った。主流文学と大衆文学であるSFとの間の隔てている障壁を超えてSFが主流文学に影響を及ぼすことを予見したわけだ。いまはその結果をわれわれは享受していると思われえる。SFの主流文学との関係を顧みるならば、SFとは何かいう問題を再考しなければならない。本書は創作のみならずSF評論をリードしてきた著者の思考を知ることで、われわれはSFの現状と真価を探ることができるのではないだろうか
天沢時生「すべての原付の光」匿名希望
この夏、SFマガジン8月号に掲載されたこの短編を目にした方、少なくないはず。中学生の坊やを弾丸として神に撃ち込む滋賀ワイドスクリーン・バロック、治安の悪いSFです。読めばわかる。ヲさかなさんのイラストも素晴らしかった。
まさに、天沢時生の前に天沢時生なく、天沢時生の後に天沢時生なし、と言うにふさわしい作品だと思います。
SF読みの層を厚くしつつ、古参も納得させるのは彼しかいない。
津原泰水氏の業績に対して青の零号
津原泰水氏が本年10月2日に逝去されました。
津原氏は様々なジャンルで数々の作品をものしてきましたが、SFにおいても『バレエ・メカニック』「五色の舟」と長短編のそれぞれでオールタイム・ベストに挙げられる傑作を遺されました。また幻想文学やホラーの名手でもあり、生前は自作のすべてについて「広義の幻想文学」と語っていたとも伝えられます。
海外での紹介が始まったばかりの訃報は本当に残念でなりません。日本のスタージョン、いや世界の津原泰水と呼ばれる日も遠くなかったはずなのに。
その才能の大きさ故にどのジャンルにも収まらない作家がSFや幻想文学において高い評価を受けた例がありますが、津原氏の業績もまたそれに相応しいものと確信して大賞に推薦させていただきます。
宮澤伊織『神々の歩法』匿名希望
宇宙から飛来した生命体と共存する少女と、アメリカ軍の特殊部隊(しかもサイボーグ化されてる!)が、ともに戦うという設定がまず読んでいて楽しかった。特撮の要素が小説でこんなにおもしろくなるとは。4つの作品の中で、彼女たちの関係性が変化していくのも良い。疑似親子のような友人のような、ニーナと特殊部隊員たちの物語をもっとよみたい。
小谷真理『性差事変-平成のポップ・カルチャーとフェミニズム-』巽孝之
本書はフェミニズムSF批評の金字塔『女性状無意識』(1994年)でデビューした著者の十冊目の著書であるが、その筆鋒は鋭さを増すばかりだ。なにしろ彼女は、ル=グィンやティプトリー、クライトン、宮崎駿といった作家たちからプリンスやマドンナといったポップスターたちまでを精緻に読み解くばかりか、さらには今日、笙野頼子を中心に渦巻くキャンセル・カルチャー論争への先駆的洞察までを展開している。 SNS論争華やかなりし今日、 SFについてもサブカルチャーについても「読まずに参戦する」「好きでも理解もしていないが口だけは出したい」輩が増えているようだが、著者の鋭利な「読み」はそうした現象の限界をあらかじめ喝破し、フェミニズム 批評がいかに SFジャンルの未来を見据えるかを力強く明かす。 その意味で、『性差事変』は「本書のあとからは、これがなかった以前の SF批評が想像できないような作品」にほかならない。
M・ジョン・ハリスン(著)大和田始(訳)『ヴィリコニウム-パステル都市の物語』高槻真樹
翻訳作品としての業績を推薦。日本での紹介が何度も挫折してきたイギリスの巨匠M・ジョン・ハリスンを本格的に知らしめるべく、作品選定と訳文にも慎重な準備を重ねられている。大部分を占める『パステル都市』はサンリオ版と同一だが、復刊ではなく、細部に至るまで訳文を検証しなおし、後年の難物『ライト』との落差を埋める画期的な一冊となった。翻訳作品は、話題作や代表作を出せばいいというものではない。作家を理解し長期的な視野に立ったビジョンを提示したという意味でも、日本SF界における翻訳のあり方に一石を投じている。
荒巻義雄『SFする思考 荒巻義雄評論集成』藤元登四郎
「SFする思考」とは、著者の実践する新しい幻想の様式である。それは夢でも空想でもなく覚醒の思考である。すなわちSF、評論、哲学、歴史、詩、俳句などを包括して処理する精神の緊張であり知的好奇心であり、エクリチュールへの欲望である。
著者の処女評論『術の小説論』は「SFする思考」の核爆発を起こし、その結果がこの大著として集成された。
 もし将来、世界中の本が自国語に翻訳されて読めるようになったとすれば、この大著は世界のSF研究家が日本のSFを研究する際の最も重要な資料となるだろう。
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川野芽生『無垢なる花たちのためのユートピア』匿名希望
表題作やその他の作品も素晴らしいけれど、その中でも白昼夢通信という作品が素晴らしいと思います。女性2人の手紙のやり取りの話なのですが、とても幻想的でSFに近いと思います。竜、鬼、人形とただの手紙のやり取りにしては不思議なワードが出てきて読んでてドキドキしました。この作品以外にも言えるのですが、恋愛について希薄なので誰でも読みやすいと思います。SFというと難しいイメージがありますが、この本はどんどん読み進められました。SF初心者にもオススメの本だと思います。
新馬場新『サマータイム・アイスバーグ』まち
三浦海岸に突然現れた、氷山と幼馴染に似た少女を機に描かれる、4人の高校生の日常と非日常。物語の緩急や、それぞれの葛藤の描かれ方、随所に散りばめられたSFの小ネタなど、ライトノベルということで敬遠されるのはもったいないと感じた一冊。アニメ映画としても栄えそうなので、今後のメディア化等にも期待。
TVドラマ『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』レフトバンク
毎回毎回日曜日の朝に何を見せられているのか良く分からない超展開の連続ですが、毎回毎回とても面白い。嘘を付くと死んでしまう主人公など、各キャラの個性が立ちまくっていて、それだけでも十分お腹いっぱいになれる作品です。
忍澤勉『終わりなきタルコフスキー』大野典宏
著者はこう記している。 「映画は瞬間の積み重ねであり、その演出上の機微は画面を凝視しなくては分からないこともある。(略)もちろんその難しさは作者の意図である。(略)それらの永劫たる瞬間はデジタル時代になってやっと観客に「発見された」と言っていいだろう」。
 本書は「タルコフスキー監督が残した作品を少しでも理解していくための補助線」をたくさん提供してくれる貴重な研究書である。画面に現れる記号、描写などの「元ネタ」について詳しく解説されている。作品を横断して描かれる共通のテーマや記号を丁寧に解説されている。
 タルコフスキー監督は「これから無数の解説書が書かれるべき映画作家」であると示した良書。
ゲーム『ヘブンバーンズレッド』匿名希望
Keyの麻枝准が15年ぶりに手がけたスマホ向けゲームアプリ。ソロゲーなので気楽にプレイできるが圧倒的なテキスト量でとにかく「読ませる」。外宇宙から飛来した生命体と戦う少女達の物語だが、章が進むたびにプレイヤーはシナリオに翻弄され、4章まで配信されている現在でもまだその世界全貌が見えない。世界観や設定がかなりしっかりSFしているだけでなく、ゲームとして考えた時のメタな構造や作劇そのものにも非常にSF的な感性が感じられる。それを端的に示しているあるイベントを、ネタバレにならない範囲で紹介したい。主人公が映画を見るシーンで「SF映画」を選ぶと『インターステラー』をもじった映画を見に行き、鑑賞後に「考察のし甲斐がある…それが名作の証なのかな」とつぶやくのだ。ひたすら考察したくなる本作はその定義に照らして間違いなく「名作」であると思う。https://heaven-burns-red.com/
劇場アニメ『劇場版 RE:cycle of the PENGUINDRUM』吉田隆一
2011年に放映されたTVアニメ『輪るピングドラム』を前後編に再編集した劇場版アニメです。再編集でありながら、全24話を手堅くまとめた総集編的な内容ではなく、同じ場面に別の意味合いを与えたりもする、いわば「再構築版」と呼ぶべき内容となっています。2010年代の価値観の変遷を踏まえ新たな生命を得ています。そして「世界に絶望しない方法を示す」姿勢はTV版から一貫しています。歴史に名を刻むSFが共通して持つ「想像力による飛翔」が物語を推進し、最後に「着地」するのではなく、彼方に飛び立たせます。そして新規パートで目にした東京の風景が、優れた映像作品だけが持つ言語化不能なイメージ喚起力により、いつまでも残ります。傑作です。
演劇「俺とマリコと終わらない昼休み」新恭司
第33回全国高等学校総合文化祭優秀校。いまや説明不要のジャンルとなって久しい"タイム・ループ物"を扱った高校演劇。授業の合間の休憩時間が何度も繰り返されていて抜け出せないことに気付いた少年は、同じくループを認識しているクラスメイトの少女と対話し、自らの行動によって世界を変えようとするが……コロナ禍、ロシアによるウクライナ侵攻、そして日本のとりわけ青森の人たちにとって身近な危難である弾道ミサイルの飛来など世相をまとめ上げ、意外な着地点に収斂させてゆく、高校演劇の新たな地平を開拓した意欲作。同校演劇部の過去の舞台「俺とマコトと終わらない昼休み」をブラッシュアップした作品。
https://www.kobunren.or.jp/page-2549/
荻堂顕『ループ・オブ・ザ・コード』匿名希望
帯の推薦文にあるように、伊藤計劃の『虐殺器官』や『ハーモニー』を想起させる、思弁的なSFサスペンス。
反出生、コロナ禍、人種、アイデンティティ、民間信仰、生物兵器、あやとり、代理母出産など、てんこ盛りな要素を400P(二段組)でまとめ上げた手腕、というか豪腕に驚嘆。そして、著者がまだ20代、デビュー二作目であるという事実を知り、さらに驚愕。年齢のことを言うのはフェアではないとは思う。が、物語のラストには、著者自身の、切実な祈りにも似た想いを強く感じた。
こんな時代だからこそ、熱烈に支持したい作品。
迷子『プリンタニア・ニッポン』よる
生体プリンターから生まれたもちもち生物と、猫に管理される人類のほのぼの日常ストーリー!1話目からかましてくる濃い目のSF要素に、ほのぼの穏やかかわいい生き物と人類たちが噛み合って最高のバランスを生んでいます。可愛さに油断することなかれ、これは弩級のSFである。
十三不塔「絶笑世界」Ridiy
「笑い死ぬ」という比喩的に言われる事象だけど、それが実際に起きてしまい、まるでパンデミックのように伝播して、笑いで人々が死んでしまう世界。
そんな世界で唯一の特効薬が、真剣に漫才をするが絶望的につまらない漫才師「全損バルブ」のコンビ。
漫才劇場で静寂さを生む彼らの漫才が、笑い死ぬ寸前の患者達に対して漫才を披露するとビタッと笑いを止められる。

滅茶苦茶な設定だけど、葬式で笑っちゃいけないのに笑いが込み上げてきたりする、そんな自分の意志とは関係なく笑いとは襲ってくるものでもあるし、そんな時母のヌードを思い浮かべて冷静さを取り戻すような、そんな対処療法としてのスベリが話の肝として機能しているのが面白い。
笑いへのリスペクトが感じられるし、現代の無菌な自主規制や過剰な先回りに対しての作者の答えのように思え、共感できる。
キッズリターンの「まだ始まっちゃいねーよ」に通ずる終わり方も好きです。
web漫画『Timeless』匿名希望
<タイムレス>は今まで見られなかった魅力的な世界観を持った作品だ。

作品は「不老不死」の人生が可能だが、150歳になれば死ななければならない世の中を見せてくれる。
不老不死は東西古今を問わず人間の念願だった。
しかし、それが実現した作品の中の世界は暗鬱なだけだ。
読者に多くのことを考えさせる。

日本を越え、全世界に展開できるグローバルな素材も強みだ。
映画としても制作できる作品だと思う。
魅力的な作画は漫画を見る楽しさを増す。


* https://mechacomic.jp/books/152605
アニメ《マクロス》シリーズタニグチリウイチ
『劇場版マクロスΔ 絶対LIVE!!!!!』及び『劇場短編マクロスF 〜時の迷宮〜』を2021年10月に公開した「マクロス」シリーズ。1982年の誕生から40周年という節目を迎えてもなお、異種族との交流であり歌という文化が持つ情動を誘う強さであり戦闘機からの二足歩行ロボットへの変形でありといった多彩なSF的要素を、最初の『超時空要塞マクロス』にて提示して以後、ブラッシュアップを重ねて最先端のビジョンとして提示し続けている。その世界に比類ない活動と成果を最新作の公開も行われて40周年というメモリアルイヤーを迎えた今、改めて検証して顕彰することこそがSFの役割であると考える。
劇場アニメ『地球外少年少女』匿名希望
2008年に『電脳コイル』でSF大賞を受賞した礒光雄監督による15年ぶりの新作アニメーション。AIがシンギュラリティを起こした後の世界である2045年を舞台に、彗星の衝突事故に巻き込まれた子どもたちの成長を描く。『電脳-』の魅力であった未知のワクワクさと現代と地続きであることの両方を感じさせる近未来技術の描写は健在で、本作はさらに折り紙技術を応用した宇宙ステーションなどポップなビジュアルを全面的に打ち出すことで従来の重厚な宇宙アニメのイメージを覆すことに成功している。また、昨今のトレンドであるAIのシンギュラリティそのものではなく、シンギュラリティ「後」の人間の選択についてオリジナルの用語を交えつつ丁寧にフォーカスしていることも本作の魅力の一つである。ジュブナイルものとしても完成度が高く、ハードなSFファンからライト層まで様々な人が鑑賞や考察を楽しむことのできる良作であると考え、推薦する。
SF作家、八杉将司の全業績岡和田晃
八杉将司氏は『Delivery』で第33回日本SF大賞最終候補にノミネートされていることからもわかるように、その実力に疑問の余地はない。けれども、例えば昨年の日本SF大賞において(物故者に与えられることの多い)功績賞・会長賞ともに贈賞がなされていない事実一つに鑑みても、適切な評価がなされているとは口が裂けても言えない状態にある。その業績は私が作成した八杉将司氏の作品リスト(https://prologuewave.club/archives/9048)で一望できるが、フッサール現象学を使った長編としての遺作「LOG-WORLD」や、多角的解釈を許容する――没後公開となった――短編群「宇宙の選択」「やり直す」をはじめとした作品群の再評価にはずみをつけるためにも、八杉将司氏を改めて顕彰するのは喫緊の課題であろう。
ゲーム《サイバーパンク2077》シリーズ岡和田晃
ミラーシェード・グループが基礎づけた流れに、ゲームデザイナーとしても活躍していたウォルター・ジョン・ウィリアムズらのエッセンスを加味して生み出されたのがマイク・ポンスミスらのTRPG『サイバーパンク』(第2版が邦訳のある『サイバーパンク2.0.2.0.』)だった。それを源流とするビデオゲーム『サイバーパンク2077』は、ともすれば忘却されていたとも揶揄された「サイバーパンク」を誰も文句が言えない形で復活させ、TRPG『サイバーパンクRED』やアニメ『エッジランナーズ』等、関連作品を含む一大ムーヴメントになっている。並み居るゲーム作品のなかで、もっともSFのコアに近いものの一つであるにもかかわらず、狭義のSF文壇はそれを無視している。外部の方が“新しさ”に敏感なのだ。私はSFとゲームを車の両輪として活動している書き手として、同シリーズにしかるべき位置を与える必要性を訴えたい。
伴名練(編)『新しい世界を生きるための14のSF』高橋文樹
単行本未収録作品からなる14編のSFアンソロジー。掲載作の多様性や新奇性もさることながら、各テーマ(AI・超能力・異星生物)ごとに設けられた編者による解説も見もの。推薦者は寄稿者でもあるのですが、普通に勉強になりました。巻頭言で「未来から来たSF」と銘打たれてるように、これからのSFシーンを占う意味でも必読の一冊になっています。
紅坂紫「シルクロード・サンドストーム」匿名希望
砂漠化は進み、都市と都市は分断され、時代は進んでも同性婚合法化には至らない社会。そんな一見絶望的な舞台の上で、圧倒的なホープパンクを展開するのが本作だ。抑圧されてきた女性たち、それも「クィア」な女性たち(パンセクシャル、アセクシャル&ジェンダーフルイド、レズビアン)が、静かにかれらなりの反撃の鬨をあげるのである。
斧田小夜『ギークに銃はいらない』高橋文樹
著者はゲンロンSF創作講座出身かつ、米国・英国など数カ国でソフトウェアエンジニアとしての勤務経験あり。しっかりとした知識に裏打ちされたテック小説「ギークに銃はいらない」や、スタートアップの開発した入眠デバイスをめぐるSF「眠れぬ夜のバックファイア」、ブータン・チベットを思わせる山岳地帯で暮らす人々を描いた連作「春を負う」「冬を牽く」の四編が収録されています。
特にル=グウィンを思わせる「春を負う」「冬を牽く」の連作は途中から衝撃のSF展開を迎えることで、著者の才能をビンビンに感じます。日本SF第七世代に属する著者の力量があらわれた傑作短編集です。
宮澤伊織『神々の歩法』青の零号
神々の歩法とは何か。それは身体的所作によって時空間に影響を及ぼし、これを改変するための一連のコードでありルーティンである。
『裏世界ピクニック』で現実から異界への侵入を書いた宮澤伊織はそれ以前に「異界から現実への侵犯」についての物語を上梓していた。そこではウクライナ人の屈強な農夫が機械化された米国特殊部隊と死闘を繰り広げ、チェコの魔法少女が南米から来た死の女神と世界改変の術式を執り行う。リアルでハードな描写とコミカルでナンセンスなモチーフの組み合わせはライトノベルの感性を積極的に取り入れたものだが、同時に伊藤計劃や円城塔といった現代日本SFへの目配せも感じられる。著者の原点にして発展型でもある本シリーズが一冊にまとまったことを喜びたい。
高山羽根子・酉島伝法・倉田タカシ『旅書簡集 ゆきあってしあさって』渡邊利道
いまや現代日本を代表する奇想SF作家である三人が、デビュー間もない2012年からウェブでスタートした架空の旅の三往復書簡集。文学フリマで「実物」も展開した、おのおの別の土地(架空)を旅しながら出し合った手紙やスケッチ、写真、お土産などを集成し大幅な加筆修正を施した本で、それぞれの土地のいかにもその作者らしい風情も冒険も、連続活劇を読むような楽しさに溢れていて、これまで読んだことがないのに強烈なノスタルジーも感じさせる不思議な本。
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山野浩一(著)岡和田晃(編)『いかに終わるか 山野浩一発掘小説集』渡邊利道
タイトルの通り、SF第二世代の作家で、サイエンスフィクションとしてのSFをスペキュレイティヴフィクション(思弁小説)に転換する「ニューウェーヴSF運動」を日本で推し進めたラディカルな批評家としても知られる山野浩一の単行本未収録作を批評家の岡和田晃が発掘収集し、丁寧な解説を付して編んだ本。その批評性が現在のSFに対しても決して時代遅れになっていないアクチュアリティを有しているのはもちろん、作品自体、どれもクールな官能性が生み出すポエジーが濃密に匂い立つ傑作揃いであり、作家の文業を再評価する格好の機会と考え、日本SF大賞に推薦する。
新馬場新『サマータイム・アイスバーグ』あわいゆき
夏を舞台にした青春タイムリープSFですが、主人公とヒロインの王道的な男女関係を直接描くのではなく、「主人公ではない」サブヒロインの安庭羽を中心に据えることで、これまでとは異なる読み味の小説となっていました。また、高校生のひりついた自意識の描写が抜群にうまく、特に年老いてお節介ばかりしてくる祖母とのエピソードは最初から最後まで秀逸。屈折した自意識をSF的なストーリーラインと重ねていく構造も巧みで、青春/SFの両側面から「主人公性」を獲得していく展開はテーマの一貫性がみられました。青春SFライトノベルの新たな代表作です。
小田雅久仁『残月記』あわいゆき
月にまつわる中篇・短篇を三作収録。物語の進行自体は王道ながらも、幻想・SF的な設定に説得力を持たせるためのディテールの詰め方と、新たな世界を立ち上がらせる文章力が圧巻でした。独創的な比喩、徹底した細かい描写、リーダビリティの高さは作品に漂う幻想的な風景を損なわないまま、現実に起きている出来事だと錯覚してしまうほどのリアリティを作り出すことに成功しています。次から次に出てくるガジェットの一つひとつに、月の裏側に思いを馳せたくなるような味わいの良さがありました。
春暮康一『法治の獣』あわいゆき
ハードSFの新時代を予感させる短編集。未知なる存在とのファーストコンタクトを題材にしながら、重きが置かれるのは未知なる生命体の〈社会性〉。彼らの社会の営みには、彼らなりの生き抜くすべが存在している。その切実な生きざまを突きつけることで、理解できない生命体が身近な存在に感じられるようになっていました。
また、異種生命体と人間の距離を近づけることで、二種のあいだにあった境界線はとけていきます。どれだけ発展していても宇宙の前には同じ生命でしかなく、知性の下に彼らを侵犯するのは、あまりに傲慢ではないのか。まだ見ぬ存在を見据えた問いかけは、より普遍的なものへ、現代の地球を生きる私たちの問題につながっていました。
荻堂顕『ループ・オブ・ザ・コード』あわいゆき
疫病の流行によってトラウマを抱えた人間が多く存在する近未来で、生物兵器による民族浄化を行い世間の反発によって〈抹消〉された国家が舞台。ルーツが失われた国に生まれた子どもが発症する病気の手がかりを追いながら、盗まれた生物兵器の行方を追っていきます。
あらゆる点で完成度が高い作品なのですが、特に凄まじいのは、近未来を舞台にしながら、現代に蔓延るあらゆる問題を照射しようとするその大胆さです。「連続性の断絶」によるアイデンティティの否定をテーマに、反出生主義、代理母出産、ケア、親子関係など、個人と社会の両側面からあらゆる問題に接続していきます。それらを担っている近未来に生きる人物の描き込みやモチーフの使われ方、エンターテインメント的な起伏も隙がありませんでした。「連続性の断絶」自体を徹底的に突き詰めて、未来から現代を回収していく2022年SF界隈最大のダークホースです。
川本直『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』あわいゆき
戦後を代表する米文学作家「ジュリアン・バトラー」の生涯を、膨大な参考文献に裏付けされた近代米文学の歴史とともに綴っていく回想録の和訳……であることを徹底したフィクション。
米文学の歴史を忠実に細かく追いながら、ジュリアン・バトラーという架空の存在をその中心に位置づけさせることで現実に虚構を織り交ぜる試みは、ただ偽の歴史を築き上げていくSFには留まりません。これまで隠されてきた米文学の新たな側面を浮かび上がらせると同時に、「物語を語ること」の意義についても問いかけていきます。小説だからこそできる問いかけと壮大な試みは、SFと呼ぶにふさわしいスケールの広がりを見せます。
久永実木彦「わたしたちの怪獣」林譲治
この夏、SNSなどで複数のSF作家に敗北感を味合わせたのが、「紙魚の手帖」に掲載されたこの短編であった。ネタバレはしないけれども、この短編によって怪獣という存在の解釈は新たなページを刻んだのではないだろうか?
上田早夕里『獣たちの海』林譲治
本作はオーシャンクロニクルシリーズの短編集である。本短編集の白眉はやはり「カレイドスコープ・キッス」ではないかと思う。細かい内容については触れないが、社会にとっての異分子と目された存在の拒絶と受容という問題提起は、架空の話ではなく、すでに身近な問題となっている。作品が描く状況は厳しい、しかし、作者は希望の可能性を捨てていない。
樋口恭介(編)『異常論文』林譲治
こうした大賞の候補作に関しては、基本的には作品だけで判断すべきで、その周辺事情は考慮すべきではないというのが私のポリシーなのであるが、本作は例外的にその周辺状況から考えるべき作品と思う。作家と編集者のSNS上のやり取りから企画が生まれ、賛同する作家が集結して一つの作品集が生まれた。エントリー作品において「時代」が重要な要素であるならば、本作はエントリーされなければならないものと考える。
小田雅久仁『残月記』大森望
月にまつわる全3話の連作集。全体の半分強を占める表題作は、「月昂」と呼ばれる感染症が広がる2048年の日本を舞台にした独創的な改変歴史SF。一党独裁政権が支配する日本では、すべての感染者を療養所に収容する徹底した隔離政策で月昂を抑え込んでいる。この設定のもと、満月の時期に超人的な体力を発揮する彼ら月昂者を選手として徴用し、幹部党員らの前でひそかに開催される「剣闘技大会」の裏側が描かれる。恋愛小説としてもディストピア小説としても圧倒的な鮮烈を誇る傑作。すでに吉川英治文学新人賞を受賞しているが、SFとしてもぜひ顕彰したい。
バーチャル美少女ねむ『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』RUKESU
この本を手に取ったきっかけはテレビニュースだった。次に来るビジネスとしてメタバースが紹介されいた。テレビでこの次世代の概念を知った私はもちろん「最先端」の情報を持ってなかった。私はまだ19歳で、これからの技術の進化においついていかなくては、と思い本屋に行き、4種類のメタバース関連の本を読んだ。そこで最も情報が多く、わかりやすい本であった「メタバース進化論」を推薦する。この本の強みは何と言っても、統計的データをもとに現実と今後の考察をしているところだ。著者のねむ氏と彼女の友人であり人類学者であるリュドミラ・ブレディキナ氏による「ソーシャルVR国勢調査2021」という全世界のソーシャルVRユーザーを対象に行った調査を根拠に考察が行われている。そして、この本は、「メタバースの定義」を定めていて、イメージのしにくいメタバースという概念を初心者でもわかりやすかった。以上が凍の本を推薦する理由だ。
バーチャル美少女ねむ『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』路傍の医師
SF映画やアニメで想像していた世界はすでに現実になっており、むしろ想像を超える領域まで実際に”起こっている”ことを知り驚きを隠せなかったです。実際にメタバースで暮らし、生きる人々の生の声・データが示す驚くべきメタバース可能性。読んだあと、自分もメタバースを体験してみようと思うこと間違いなしです。「メタバース」と聞いて抱いていたイメージをガラッと変えてくれるというか、開眼させてくれる一冊。
バーチャル美少女ねむ『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』メフィラス
「SF世界へのリアル潜入ルポルタージュ」として世界初のものであり、間違いなくSF界のエポックになりうる作品で、大賞にふさわしいと断言できる。『ソードアート・オンライン』『マトリックス』などSF作品に登場する、自在な姿になり、生きていくことのできる仮想世界そのものだ。筆者はウィリアム・ギブスン『ニューロマンサー』を始めとした初期のSF作品が「仮想世界」の概念を生み出し、現在のメタバース、つまり「現実の仮想世界」を生み出したと主張する。この作品の後のSF作品は大変だ。『メタバース進化論』を超える世界を描かなければ『SF』として認められないのだから。
円城塔『ゴジラS.P〈シンギュラポイント〉』高槻真樹
テレビシリーズ版アニメもゴジラの概念を覆す画期的なものであったが、脚本を担当した円城自身の手によるこのノヴェライズ版もまた、ノヴェライズの概念を覆す画期的なものとなった。アニメ版の主人公たちはほとんど登場せず、別の登場人物の視点から語り直される物語。だがよくあるサブエピソードやスピンオフではなく、物語の質感を大きく変更させ小説ならではの強みを生かしたものとなり、ガラリと印象の異なる展開となった。まさに円城節な語り口でありしかもゴジラでもある。
劇場アニメ『地球外少年少女』氷川竜介
『電脳コイル』で大賞受賞歴もある礒光雄原作・監督のSFアニメです。宇宙旅行がカジュアル化した未来社会、地球外で生まれた者、地球から来た者、少年少女たちの出会いと対立、サバイバル冒険の背後から人工知能の行末が浮かぶ。しかし身近でユーモラスに描いていく点で、突出した作品です。若年層に希望の未来を語る点でも一級品です。公式サイト
https://chikyugai.com/
荒巻義雄『出雲國 国譲りの謎』Nassy
荒巻SFの真骨頂でもある歴史の読み直しである。邪馬台国のルートをSF作家ならではの着眼点で膨大な資料とともに読み解くわけだが、そこには、敗戦直後の日本を舞台にした設定とともに殺人事件がからみ、ページをめくる手をとめることがない。そして、最終的には、現在もアメリカと中国のあいだに浮遊する日本の抱えた「地政学的宿命」を浮かび上がらせるという大胆な発想が本書を貫いている。
荒巻義雄『SFする思考 荒巻義雄評論集成』Nassy
A5判2段組で830頁に詰め込まれた日本SF史の一面が、作家の視点から活写された一冊。海外SFをどのように需要したのか、思想をどのように作品に反映していったのか、また、一流の作家がほかの作家を、そして作品をどのように評していたのかなどなど、このような歴史の証言を残すことはとても意義のあることであるし、SF作家のみならず、SFを評しようとする向きにも必読の一冊である。
山口優『星霊の艦隊1』好きよ届け
人知を超えた存在、「星霊」を作り出した人類はそれの処遇で三つの勢力に分かれた。
星霊を憎む者、星霊とともに生きる者、人類は不要だと切り捨てる星霊。それぞれの主張がぶつかり合い、10万隻の艦隊が銀河規模で激突するスペースオペラ。
この本を初めて読んだとき、今までの私の読んできたSFとは違った雰囲気に魅了された。超光速で艦隊戦を行う宇宙船や、余次元方向に「飛航」する飛航機、それらすべてを可能にする人工ブラックホールと星霊。一見とんだ空想の産物だが最新の物理学に基づいて創られたこの世界はフィクションと現実が巧みに繋がっている。
ハードに作りこまれた世界観とそこで感情いっぱいに躍動する登場人物たちによって紡がれるこの物語は「SF読んでてよかった!!」と心から感じた至高のハードSFだ。
荻堂顕『ループ・オブ・ザ・コード』高木
「ポスト伊藤計劃」を掲げた作品は数多あれど、正面からその看板を引き受け、かつ今取り上げられるべきテーマを盛り込んだ作品がようやく出てきたと感じる。反出生主義や優生思想など、答えが出ない(あるいは出すべきではない)テーマが主軸ながら、スピード感のあるストーリー展開で、二段組の分厚さも忘れて読み進めてしまった。言語実験や思考実験と相性の良いSFというジャンルは、ともすれば「出来の良い作品を読んだ」という満足感のみで終わりがちである。しかしこの作品を読み終わったときの、何とも言えない苦さを含んだ希望のような気持ちは、初めて伊藤計劃を読んだ時の衝撃を想起させるものであった。良い読書体験は、最後のページを閉じてから始まるものではなかったか。今年も素晴らしいSF作品は多かったが、折に触れて思い出すのは本作だけである。読者を甘やかさず、真正面から作品を通じて問いを提示した若き俊英に一票を投じたい。
久永実木彦「わたしたちの怪獣」増田まもる
映画「シン・ゴジラ」は、怪獣に襲われた市井の人々の生活や内面をまったく描写することなく、緊迫した状況をたたみかけることによって、圧倒的なリアリティを獲得した。対照的に、本作「わたしたちの怪獣」はおなじような怪獣の襲来を背景に、ひとりの少女の絶望的な状況を丁寧に描いていくことで、まったくあたらしい地平を切り開いたといえるだろう。
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斧田小夜『ギークに銃はいらない』匿名希望
北カリフォルニアを舞台としたギークに憧れる少年たちのリアル青春SF! というだけでなく現在の米国における見えない差別も描いたという点で表題作は十分に評価に値するだろう。くわえて青と黄色を基調とした装丁は現在も進行し続けるウクライナの危機に思いを寄せたものとして2022年を代表するのではないだろうか。
サラ・ピンスカー(著)市田泉(訳)『いずれすべては海の中に』水土
宇宙移民船からスーパーヒーローまでSFでおなじみのアイディアが、余韻の深い中短編になっている。2022年の日本でも実現を聞くようになった産業技術も登場し、現代的な価値観が当たり前に存在し、ヒューマニズムと不穏さの名作アルバムのようでたまらない。喪失と、喪失の予感と、それらを超えて未来を生きる可能性を感じられる。
一作目の「一筋に伸びる二車線のハイウェイ」は、先端技術と一次産業の思いがけない出会いだが、モノ(場所?)がけなげでいとおしくなる異色作。
最後の「そして(Nマイナス1)人しかいなくなった」は、あらすじからギャグかと思いきや、サラ各人を抱きしめたくなるような話。
中年の古傷をいたわり、若者をなんとかなるよと勇気づけてくれるような作品集。
大木芙沙子『花を刺す』水土
2021年に「かわいいハミー」で、人間と人生について多くの読者の心を揺さぶった著者の短編集。SF作品とともに、ファンタジーや幻想文学的な作品も含まれるが、異質な他者との独特な交流を描く作品群は、SFと人生と社会が連続していることを思わせる。
宇宙のモチーフのある「金子さん」「流星ピストル」は、社会で他人と働いたことのある者ならば、胸をしめつけられるような、応援したいような気持になるのではないか。「朝食みたいなメニューが好き」は、宮沢賢治「銀河鉄道の夜」や夏目漱石「夢十夜」の現代版のような雰囲気があり、まだなじみの薄い、しかし温かい人間関係が描かれる。
視覚のミュージカルのような表題作「花を刺す」をはじめ、暗い井戸の底で息をひそめて暮らすような日々の中で、夜空の星の光を仰ぐような読後感。
カニエ・ナハ『メノト』音無村
フェミニズムやシスターフッド……いま意識されるべき重要なテーマが未来を舞台として描かれた詩。
詩だからこそ明示される事のない暗喩の力、散文形式だからこそ広く開かれている事が閉じられたジャンルである現代詩の面白さに光を射し、その扉を開くことに成功している。
そのために選ばれた世界観がSFであったことが推薦の理由となります。


メノトから一部引用

むかし、おとこというものが存在した。そのころはいくさがたえなかった。やがて、不吉な存在とされて、駆逐されていった。歴史のなかからも消えていった。いま読むことのできる本の多くが、余白たっぷりとあるのも、かつてはおとこが書いたり、おとこについて書かれたものばかりが多かったためだった。
ひかりみたいね。
ひとのひかり
おとこというひかりが余白となって、文字である、女を印画した、かつてだったのかもしれなかった。そこに不在の存在をとどめているのだった。
伴名練(編)『新しい世界を生きるための14のSF』野川さんぽ
14人の新鋭作家の作品を集めたアンソロジー。作品と編者の解説とが融合し、日本SFの〝今〟が見事に表現されている。
とりわけ、混沌とした作品群の傾向を腑分けし、サブジャンルを明確にしてゆく編者の見識に舌を巻く。これまでの日本SFの成果の上に、現代の作家たちがどのような試みを重ねているかが示され、わくわくしてくる。
SFを書くこと、SFを読むこと、SFについて語ること。すべてが一体となり、この一冊そのものがひとつの作品になっている。
小川哲『地図と拳』野川さんぽ
架空の都市の変転を描く歴史SF。満州国の実態を背景にSF味を可能なかぎり薄くし、しかも、まごうことなきSFであらしめている――というのは、SF読者の我田引水的な読みかたかもしれませんね。
多数の人物を動かし、いやおうない歴史のうねりを伝えるダイナミックなプロットが素晴らしい。時世におもねる暴力に蹂躙される都市の地図という「夢」。はかなくも美しい人間の営みに胸が熱くなります。
浅羽通明『星新一の思想 ─予見・冷笑・賢慮のひと』野川さんぽ
まずは星新一の人となりを「アスペルガー症候群」に近いのではないかと指摘したことに驚かされる。しかし、この見解は個人的な印象からいっても適切だと思う。
作品分析は病跡学の段階にとどまらず「人間嫌い」が文明論的、文学的にどのような世界を展開するかを教えてくれる。
解読がむずかしかった星新一作品群に対する随一のアプローチで、星さんの全業績をしっかりと位置づけた。お見事。
小田雅久仁『残月記』野川さんぽ
月をめぐる3つの中編からなる。どれもSFというよりは幻想小説と呼ぶのがふさわしいが(現実の月を反映しておらず、空にある「もうひとつの世界」として描かれるので)、なによりも強烈な物語の力に圧倒される。ジャンルに関係なしの傑作。
桜瀬彩香『薬の魔物の解雇理由』むつき
「同じ世界の中に複数のあわいや前の階層があり、その境界を渡るお話」として描かれる物語は、いくつものレイヤーで重ねられた謎を背景に、世界の残酷さや美しさ、孤独と愛する喜びを描いています。何度も再読しては自分もこの世界の一部になりたいと思うのです。
残念ながら、作者は今年3月に逝去されましたが、この物語に一人でも多くの方に出会ってほしいと想い、ここに推薦します。

書籍版 https://tobooks.shop-pro.jp/?mode=grp&gid=2661437&sort=n
WEB版 薬の魔物シリーズ( https://ncode.syosetu.com/s2211f/ )
山口優『星霊の艦隊1』山口優
本書は、人間とAIの確執を主題としているが、人間を超えたAI知性と人間の知性との構造的差異を具体的に描写しているのは従来のSFにはない特徴である。
従来であれば、異種族との共存については、「表面的な差異にとらわれずに相手をみれば、人間と同じだから共生可能」という描写が多かったが、本書では、具体化された知性の構造的差異の描写を生かし、そうした考えとは異なる立場に立って「人間の知性には本質的な課題があり、人間と異なる知性体との共存による課題解決が必要」とする。
更に、本書は現実の科学技術の延長としての未来の科学技術の描写に拘ったハードSFとしての側面も持ち、一方で親しみやすいキャラ小説でもある。
異なる構造の知性体との共存による人間知性の課題解決の可能性や、現実の科学技術の発展の可能性を、親しみやすい入り口で導入する本書を、これまでになかったSFの可能性を示すものとして、SF大賞に推薦したい。
動画『(実在しない)切り抜きチャンネル』匿名希望
VTuber(バーチャルYouTuber)の生配信を切り抜き(=短く編集し)、字幕をつけた「切り抜き動画」をアップしているYouTubeチャンネル。
https://www.youtube.com/channel/UCQijv5KlpWn64n0ybHx_Jzw/featured
ただし、紹介されているVTuberは、いずれも実在していない。

彼ら・彼女らが配信で語るのは、現代とは“どこかが違う”世界の「雑談」である。
軽快な語り口も相まって、次第にフィクションとリアルの境界があいまいになっていく様は心地良い。
それでも失われない不思議な「実在」感は特にユニークである。
毎度切り口が変わるエモーショナルな物語も見逃せない。

人間の想像力と、「実在しないもの」が我々にもたらす力をまざまざと見せつけられる、正に現代のSFである。
YOUCHAN個展「本を巡る冒険2」高野史緒
イラストレーターYOUCHANの作品群をSF大賞に推薦いたします。YOUCHANは幅広い範囲にわたって書籍の装丁、イラスト等に活躍していますが、同氏の業績はことにSFのジャンルにおいて顕著に優れており、対象期間中に行われた個展では、同年の集大成として素晴らしい作品群が展示されました。同氏はまだまだ活動を続けておりますが、いずれかの段階でSF大賞を以て顕彰べきと考え、同個展をその区切りとして推薦いたしました。っていうかどう考えてもYOUCHANはSF大賞クラスでしょ。もうそろそろ受賞してもいいと思っています!
熊倉献『ブランクスペース』コメキャット
SF的なアイディアとメタフィクショナルな視点を援用しながら、物語と人間についての関係、物語と暴力についての関係を描いた作品。漫画表現の可能性を広げるような新しい表現もSFだからこそできるものだと考える。
荒巻義雄『SFする思考 荒巻義雄評論集成』佐藤 武
829ぺ―ジの分厚き本である。SF作家、詩人でもある著者。哲学、精神学、言語学、宇宙科学、美術史、他の分野おいても高い知識を持ち、各分野の深潭まで入り込んだ詳論集成の一冊である。この手の本は難しく感じる人もいるが、SF作家である荒巻義雄さんならではの明解に書かれた詳論集成である。読むほどに膨大な知識を持ち研究されていることが良く分かる。混沌とする時代背景に、SFする思考を読み取ることが出来る。多くの方に読んでもらいたい一冊でもある。本書はSF大賞にふさわしい一冊と言える。
劇場アニメ『アイの歌声を聴かせて』青の零号
生活の中にAIが浸透した実験都市で人型ロボットの実証試験に投入されたシオン。彼女が巻き起こす様々な騒動を通じて、内蔵されたAIに秘められたエピソードが明かされていく。物語が進むにつれて歌とAIの進化に密接な関係があると気づかされる展開はSFならではの醍醐味であり、ミュージカルという意外な形式にも説得力を与えている。AIとロボットについて継続的に取り上げてきた吉浦監督ならではの「人間とAIの幸福な共存」という強い信念も感じられる傑作アニメ。
柞刈湯葉『まず牛を球とします。』タニグチリウイチ
「まず牛を球とします」。それは牛肉を食べやすくするための方法に留まらず、牛という生物とは何であり牛肉という食物とは何であるかという根源に迫った果てに、人間とは何かといった深淵なる命題へと挑んでは多面的な可能性を感じさせる物語だ。短くても深淵にして長大な可能性を含むこの一編を含み、日常に異質を紛れ込ませてそれを異質を感じさせない世界の有り様を異質と感じさせる作品群をとりまとめた、読むほどに心を引っ張り回され引きずり回される短編集だ。
劇場アニメ『地球外少年少女』青の零号
宇宙ステーションでの事故とこれに遭遇した少年少女のサバイバル物語を軸に、AIのシンギュラリティ問題やヒトの意識の拡張までを取り上げて本格的なSFに仕上げた意欲作。当代一流のアニメーターによる競演で描かれる宇宙生活の姿はリアルなディテールに満ちている一方、アニメならではの稀有壮大なヴィジョンも提示してくれる。これが日本の、いや世界におけるSFアニメの最先端と言えるだろう。
https://chikyugai.com/
TVドラマ『TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇』タニグチリウイチ
シュルレアリスムの画家であった岡本太郎の作品は、それ自体が画家の想像力を経て形象化された産物であって、見えないものを見せてくれる驚きに溢れていた。『TAROMAN 岡本太郎式特撮活劇』はそんな岡本太郎の作品群を、特撮ドラマの中に折り込んで紹介し、理解へと近づけるという役割を見せつつそうした作品群が持つ熱量を、それ自体がシュールな構成を持ったドラマを通して世に示し、触れた者たちを異空間へと引きずり込んで「なんだこれは」と驚かせた。内なる衝動を誘い外を見る感性を煽るドラマとして素晴らしいものがあった。
マーサ・ウェルズ(著)中原尚哉(訳)『ネットワーク・エフェクト』
企業への権力集中が著しく人権や高度な知能を持ったユニットやボットの権利が制限されている世の中で、平和な世界を築いているプリザベーション連合の人々と、「弊機」という一人称が印象的な警備ユニットが惑星調査任務に赴くというのが『マーダーボット・ダイアリー』シリーズの本三冊目。
タイトル「ネットワーク・エフェクト」は「人間がネットワーク-身体を直接結合できる世界を仮定した時、それが如何なる影響をもたらすのか」という極めて独自かつ先端的な筆者の提起があると感じ、私に正統なSF精神を思わせてくれた。そして弊機の魅力的な語り口と冒険譚とで提起が普遍的な物語として紡がれていく様は、今ここにある文学を想起させてくれる。人間存在の豊かさや愚かさから、船萌え、ツンデレユニットまでをカバーするすごい作品。
また本作はネビュラ賞長編小説部門、ローカス賞SF長編部門、ヒューゴー賞長編小説部門を受賞している。
川本直『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』大恵和実
現代アメリカを駆け抜けた作家ジュリアン・バトラーの生涯をそのパートナーであったアンダーソンがまとめた衝撃の回想録にして愛の結晶。いわゆる擬史(または偽史)小説の傑作。これだけならばSFとするには物足りないかもしれないが、本作品は架空の作家であるジュリアンとアンダーソンを通して、あり得たかもしれないクィア文学史、アメリカ文学史、さらには現代史を幻出することに成功しており、歴史SF の傑作の域に達している。擬史(偽史)ものをはじめ、今後の歴史SFの水準を押し上げた作品といえよう。
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竹田人造『AI法廷のハッカー弁護士』長谷川京
法律とAI、ふたつの巨大なロジック同士が交錯して生まれる謎とワンダー。
『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』の竹田人造さんの二作目の長編作品であるこの作品は、AIが人を裁くようになった日本で、あえてそのAIの穴をつき、勝訴をもぎ取るハッカー弁護士が活躍する、AI法定ミステリ連作集。
抱腹絶倒の会話劇にキャラクター、実際の機械学習の仕組みに即した極めてリアルに描かれたロジックには、どんどん引っ張られるようにページを捲ってしまいます。
張り詰められた伏線が、最後に紐解かれ驚きとともに現れる、圧倒的な楽しさは本当に圧巻でした。
真剣にAIに向き合いつつも、どこまでもエンターテイメントで面白い、今まで感じたことがないSFです。
浅羽通明『星新一の思想 ─予見・冷笑・賢慮のひと』山岸真
星新一の小説のみならず、エッセイはもちろんインタビューやコメントまで可能な限りにあたった上で、発表順を考慮しつつ網羅的・体系的にいくつもの切り口で分析がなされている。いつかはだれかが書かねばと「みんな」がずっと思ってきたであろう「総合的な」作者・作品論。中期・後期の作品にも比重が置かれているのも画期的。
バーチャル美少女ねむ『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』kure
本書はメタバースとは何かを解説する本であると同時に我々が生きる物理現実に著者が「訪問」してその世界の素晴らしさを語り私達をいざなっている。
未来を予知していると言われるSFは数多くあるが、これは本当の意味で現実を描いた作品であり往年のSF作品が描いた世界が訪れつつあることを知らせてくれる。
メタバースはまだ生まれたての概念であるがゆえに人類に幸せをもたらすのか、それともディストピアの始まりなのかは今を生きる我々に委ねられている。
川野芽生『無垢なる花たちのためのユートピア』本とフルート
幻想的で柔らかく鬱屈した世界を舞台にした六つの物語。ひとつひとつはひどく現実からかけ離れているのに、読み終わったときには、「これは私の物語だ」と感じられた。人の持つ性を鋭く、しかしごく柔らかに救いとっている珠玉の短編集であり、現代社会が抱える問題が美しく残酷に描き出されている。
北野勇作【ほぼ百字小説】高野史緒
北野勇作さんがTwitter等で発表し続けている「ほぼ百字小説」の作品群をSF大賞に推薦いたします。同作品は、かつてない形式で書かれた創意にあふれ小説群であり、多くの書き手に影響を与え、「小説」というものの地平自体を広げたとさえ言えるでしょう。量ばかりでなく、一つ一つの作品の質が高く、北野勇作という作家の力量を余すところなく表しています。まだ「完結」してはいない活動ですが、どこかの時点で顕彰しなければならないものなので、本年度にも推薦させていただきました。
魚豊『チ。-地球の運動について-』甘木零
SFとは真実を語るための嘘の物語である。
『チ。地球の運動について』は「真実と嘘」の根幹に迫る作品であった。
本作はすでに手塚治虫文化賞の大賞を受賞し漫画界において最高の評価を得た。しかし激しい毀誉褒貶を目にする作品でもある。批判の原因理由はふたつだと思う。
まず魚豊氏の漫画描写が読者の感情を強く揺さぶること。
そして本作が、すべてを虚構世界のできごととして完結したことである。
宇宙の真理追究に命をかける人間と、神の教えに疑い抱く者を拷問死させても構わないと信じる人間を描く本作。それを「現実の科学裏面史」として読んだ読者は、感動の末に「すべて嘘でした」と言われ反感を抱いたのではないか。
以上はすべて私個人の狭い考えに過ぎないが、SF読者は真実と嘘の両方を求めている者だと私は信じている。
人間心理の追求と宇宙への果てない憧れを嘘の物語として描き切った本作をSF大賞にエントリーするものである。
佐川恭一『アドルムコ会全史』佐川恭一
SFマガジンでも紹介された本書だが、収録作『パラダイス・シティ』では脳に埋め込まれたチップで個々人の幸福度を計測・課税する制度が施行された社会が描かれる。これは執筆当時孤独のどん底にいた著者の「彼女持ち」への強い怨恨から捻り出されたSF的発想であり、本作はそれをバネに書かれた前代未聞のディストピア群像劇である。また『キムタク』はカフカの『変身』をベースに、朝起きてロンバケの頃のキムタクの顔になっていたらどうなるかという人類普遍の疑問を具体的に検証した史上初の試みとなっている。表題作『アドルムコ会全史』の登場人物は時空間の移動や異世界との行き来を縦横無尽にやってのけ、荒唐無稽とも見えるストーリーは暴れ馬の如く読む者を振り回す。ここで疑われているのはSFの、文学の、そして私たちの生活を可能にしている世界全体の〈常識〉なのである。自薦とはいえ、SFの歴史を更新する傑作群の登場を素直に喜びたい。
杉村修『アポカリプスエッジ』匿名希望
クトゥルー神話書籍を出す創土社・クトゥルーミュトスファイルズの新作です。菊地秀行先生など多くのクトゥルー神話作品を生み出してきたクトゥルーミュトスファイルズの新人作家の力作。賛否両論あれど、世界の神話とクトゥルー神話をからめた作品を王道ストーリーになぞらえた作品は「基本」に忠実なファンタジー神話SF。これからそのスタンダードになるであろう作品に仕上がっています。キリスト教などの話に出てくる堕天使ルシフェルを主人公にした物語で、ルシフェル自身が主から許された作品としても珍しく、さらにそれが許される日本の多様な文化の象徴である「表現の自由」による素晴らしさも、この作品はものがたっています。
どうか何卒、宜しくお願い致します。
岡和田晃(編)『再着装(リスリーヴ)の記憶――〈エクリプス・フェイズ〉アンソロジー』伊野隆之
テーブルトークRPGを背景にした日米合作のシェアードワールドのアンソロジーだというだけでも画期的なのに、収録作家も(特に米国サイドは)ケン・リュウをはじめ、蒼々たるメンバーが揃っている。多くの作家が一つの世界を描く事により、ゲームの世界に深みを与えている。ゲームと小説のシナジーに新しい可能性を切り拓いた事と共に、本作を実現した岡和田晃氏の「熱さ」もSF大賞にふさわしい。
なお、推薦者の作品(SF PrologueWave掲載作のスピンオフ)も収載されているので、自薦の要素を含んでいる。
飯野文彦「第43回SF大賞対象期間にSFプロローグウエーブに発表した作品群(「六十年タイムマシン」「影を喰らう」「落花生」「いない世界」「甲府日記・四景」)」伊野隆之
飯野さんがエントリーされた5作品のうち、「いない世界」に登場人物として出ています。飯野さんの自薦コメントでも既に十分に作品の魅力を伝える事が出来ていると思うのだが、端正な文体で幻想と現実を混ぜ合わせ、思いがけない方向に異質さをエスカレートさせていく手業に驚嘆する。これらの優れた作品が、いずれ紙の書籍という形でまとめられ、広く読まれる事を期待して、本作(品群)を日本SF大賞の候補作品として推薦する。
SF作家、八杉将司の全業績伊野隆之
昨年、12月に八杉将司さんが亡くなった。ご遺作である「やり直す」と「宇宙の選択」のSF Prologue Waveへの掲載は昨年の12月末である。この2作だけでも小説家、八杉将司のすごみを垣間見られるのだが、日本SF新人賞受賞作の「夢見る猫は、宇宙に眠る」にはじまり、視覚描写を排した「光を忘れた星で」などの長編や、「アンダー・ヘイブン」シリーズなどの電子書籍、多様な媒体で発表された数多くの短編小説などの作品は、八杉さんが存命だった場合に書かれたであろう多様な小説世界を想起させる。加えてSF Prologue Waveを創刊し、運営を軌道に乗せたのみならず、寄稿者としても多数の作品を寄稿してきた。また、八杉さんの日本SFへの貢献は、SF Prologue Waveに寄せられた追悼文でも伺える。これらの業績は日本SF大賞にふさわしい。
荻堂顕『ループ・オブ・ザ・コード』MOMOTA
医療ミステリと国際謀略小説の要素を併せもつ近未来SF。舞台は〈疫病禍〉を経験した世界。20年前に、歴史、文化、言語の一切が〈抹消〉され、〈イグノラビムス〉という新たな名を与えられた国家で、児童200名以上が謎の病を発症。WEO(世界生存機関)に所属するアルフォンソは現地調査を命じられるが――。

疫学調査、国際紛争、ジェンダー、人種、児童虐待、そして反出生。現代のありとあらゆるイシューが盛り込まれながら、タイトルにもある「ループ」と「コード」に帰結していく展開は圧巻で、終盤に主人公が下す決断も含めて、全編にわたりとにかくエモい。

「一切の歴史が抹消された国家」という大胆な設定も魅力的で、いま書かれるべくして書かれた、いま読みたかったSF作品、との思いを強く抱いた。また、「ポスト伊藤計劃」に自覚的であるとともに、それを乗り越えようとする作者の姿勢と胆力にも大きな感銘を受けました。
肉村Q『ジャイアントお嬢様』むねみつ
「巨大娘」という比較的尖った表現分野に並々ならぬ入れ込みのある作者が、"街中で美少女が巨大化すると何が起こり、われわれはどんな感情を喚起されるのか"を1話ごとにあらゆる視点からシミュレーションして読者に紹介し、提案し、いつの間にか引き込んでゆく。ファンタジーと割り切る要素と徹底的に質感を追い込む部分との取捨選択も作品コンセプトに適っており、読者の想像力を掻き立てるための力と技とセンスを感じさせる。
UMA CREW PROJECT『パレット上の戦火』夜田わけい
作中においてUMAがストーリーで人間の側ともヴァーリアントの側ともつかない役割をしていて、そこが従来のUMA観を覆しており、それまで人間存在から隔絶された神秘的な存在であったUMAを人間にとって身近なものに仕立てている。また活気ある特徴的なキャラクターヴィジュアルも所々に挟まれて作品を読むものを楽しませる作品となっている点に、SF作品としての新規性がある。

https://note.com/umacrew/m/m34dccb173509
関元聡「リンネウス」都築良継
恥ずかしながら、星新一賞という賞を知ったのはつい最近のことでした。直近で開催された第9回の結果をわくわくしながら待っていたところ、飛び込んできたのは「リンネウス」の文字。どうも生態系の探査を行う話らしい、というあらすじを見て、このタイトルは生物の学名の定義をしたリンネにちなんだものではないか!?と驚愕。電子書籍で読めるようになるのを心待ちにすることになりました。まだ見ぬ生命の探索のため偽装炭素として生態系の中を巡っていくというアイデアはまさにリンネであり輪廻であり、そこにある人々の物語がアクセントを添えてくれます。あの動物に宿った偽装炭素内の意識は、いったいどこへ向かうのか、その結末は読者の皆様が確かめていただきたいです。生物SF好きにはたまらない設定の本作、おすすめです。
TVドラマ『機界戦隊ゼンカイジャー』日本SF読者クラブ会長
45年続くスーパー戦隊。日本を代表するカルチャーであります。そこにひとつの特異点ともいえる作品がこのゼンカイジャーです。すべてが”脱「これまでの」戦隊”。どこに向かっているかわからない展開。最後の最後まで「これはキチンと終わるのか?」と不安になってました。しかしその不安すら「ゼンカイジャーだからいっか!」と思うように私たちは毎週の番組を視聴することで”異常”だったとんでも戦隊が”通常”になっていくのです。それは次に続く「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」にも引き継がれ「おかしいことはおかしくない。そのおかしさを楽しめ!」という思考転換にもなりました。これは画期的であるし、こういった歴史あるSFものでさえ、さらにSFできると世の中に知らしめたと思います。その功績を推薦の理由といたします。
新馬場新『サマータイム・アイスバーグ』日本SF読者クラブ会長
まずタイトルの響きが良い。”サマータイム”という字が広い空や景色を想起させる。そこに続くのが”アイスバーグ”。いったいなんだ?夏に氷山ってわかんないんだけど?のっけから読者を混乱させてくれます。しかし読み進めて行くとその疑問は氷解していく。そこにブッ込まれる王道SFギミック!やっぱり夏のSFといったらあれだよネ!ライトノベル・レーベルの賞を獲得してはいるが、地の文章の多さはまさに文芸。読ませるじゃあないですか!昔からあるSFジャンルの物語ですが、その要素に新しい切り口を見せてくれたことに対して推薦したいと思います。
人間六度『スター・シェイカー』日本SF読者クラブ会長
なんといってもアイデアのデカさ!SFにはセンスオブワンダーが必要だと思うがその要素を300%装備していると言ってもいいのではないかと思う。登場するキャラクターもなんだか変。でもそれが物語ってやつでは?リアリティも大事だけど創造でしか出せない世界や人間、事象ってあるよね。そういったものが溢れんばかりに誌面から湧き出してくる。そう、私は思ったんです「これこそ今の時代に必要なエッセンスなんだ!」と。SFとはなんだ?というのを思い出させ、SF界に必要な一撃を与えてくれた、目覚めを呼び起こす作品だと思うので推薦いたします。
牧野圭祐『月とライカと吸血姫』グラノラ
米ソ宇宙開発競争を架空の国に置き換え、人間と吸血種族の軋轢を描き、相容れなかった国と人びとが様々な思惑を抱えながら月を目指す。2016年より刊行されていたシリーズが完結した。

冷戦時代を生きる人びとが未来への夢を語り、米ソ共同での月着陸を進めるほど、現代社会の愚かさが浮き彫りになる。新冷戦版の宇宙開発競争、核戦争の危機、激化する人種差別、国家による隠蔽、失われた月面着陸技術。『偉大な飛躍』から、人類はいかように進化したのか。史実をベースにしているが、作中で起きる問題は、今を生きる我々が解決しなければいけないものばかりだ。

米国製ドラマ『For All Mankind』ではソ連が宇宙開発に勝った世界を描いているが、それとは異なる切り口で、単なる宇宙開発モノではなく、ライトノベルという媒体を使ったエンタメ的キャラクター群像劇として成立させつつ、現代社会への問題提起をした作品として推薦する。
メディアレーベル〈anon press〉匿名希望
海外とくに英語圏では数多存在するSFFウェブマガジンへの寄稿でキャリアを積みながら長編小説や商業アンソロジーでのデビューを目指すが、日本ではその役割をKaguya Planet一本が担ってきた。そのためKaguya Planetとはまたカラーの全く異なるウェブジンが登場したことは称賛に値する。編集者二人が本当に面白いと思ったものだけを厳選して掲載するそのスタイルで日本の短編小説のみならず、翻訳、漫画や短詩、AIによるイラストまでを取り上げてきた。掲載作家のジェンダーバランスなど気になる部分もややあるが、商業誌にはできなかったことを次々挑戦している姿に今後を期待して推薦したい。
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恩田陸『愚かな薔薇』タニグチリウイチ
萩尾望都の『ポーの一族』に重なる、吸血鬼という存在が持つ悲劇性を描きながらも、それを正反対にねじ曲げて、人類にとって重要な存在であるかもしれないということを示唆する壮大なSFだ。特装版の表紙絵を寄せた萩尾が、推薦コメントに「これは21世紀の『地球幼年期の終わり』だ」と書いたように、人間が変化し、進化して宇宙へと向かう可能性を見せてくれる作品だ。
谷口忠大『僕とアリスの夏物語 人工知能の、その先へ』匿名希望
人工知能の研究者自らが手がけた、SF部分と、その大真面目な解説部分が交互に織りなされる意欲作。たいていのSFに登場するロボットは「中身が最初から人間」だが、本書中のAIは、知的に未熟な状態から、周囲との相互作用を通してどんどん成長し、徐々に「人間」になってゆく。SF部分は現在からするとおよそ「ありえない」筋書きだが、読み進めるうちに、これが実現する未来はそう遠くないことが実感させられ、大きな知的興奮を味わえる。
神林長平《戦闘妖精・雪風》冬川蒼真
数十年にわたり読者に愛されており、現在もなお刊行・発表の続く作品は、まれだ。
また、語句・文体・構成の変化もシリーズにおいて重要な作品であり、神林長平の柔軟な知性や鋭いセンス、および先見性をうかがわせる。
流行を取り入れたのみならず。

本作は「もし人類の敵がいるならば、それはなんなのか、どのようなアプローチが有効で、どのように戦えばよいか?」──を、細密に書いている。
さらには言葉のない世界にまで入ろうとしており、小説としての進化も見てゆける。
じつに不思議な作品だ、フムン。

わたしが雪風シリーズを推した理由は、それまで保っていた価値観を、さまざまな意味で塗り替えられてしまったからだ。
このシリーズには、その力がある。新しい神林長平ファンにも、これからSF世界へ入ろうという人にも、ぜひ読んでいただきたい作品だ。

そして最後になってしまったが、作者に深い敬意を表したい。
平方イコルスン『スペシャル』不璽王
田舎の学校に転校してきた女子高生視点の、日常漫画だ。著者独特の味があるセリフ回しは一度味わうと病みつきになり、一癖も二癖もある登場人物たちはみないきいきと描かれる。人の域を超えた怪力を持つ伊賀こもろなど、中には一筋縄ではいかない事情を抱えている人物もいるようだが、おおむね世界は平和に見える。最終巻となる4巻までは。
ずっと続くと思われていた日常の水面下に隠れていた、人の、世界の悪意。それらが表出したあと、翻弄された登場人物たちはもう二度と元の日常に戻ることが叶わない。
日常ー非日常の間にある、薄膜一枚に満たない淡い境界の輪郭を描ききった傑作SF漫画である。
斧田小夜『ギークに銃はいらない』駿瀬天馬
著者の斧田小夜は本書の刊行に際して次のような言葉を述べている。“私は自然科学を愛し、テックを愛し、SFを愛して生きてきた。SFの装置なら人生のきっかけを作ってくれると、SFが私たちを自立させてくれると信じている。”この言葉のとおり、本作のすべては“SFであること”によって微かな希望が示される。私たちはいつも残酷な世界にたいして、ままならない現実にたいして、あまりにも無力でちっぽけだ。それでも斧田はテックを駆使し、SFを使い、それらに立ち向かう。“残念ながらダサい”少年たち、機能不全家族で育った女性、閉鎖的な村と慣習の中で大人になった男。収録されているのはいずれも異なる属性・境遇の者たちの話であり、物語の手ざわりもそれぞれまったく違う。幅広いイメージや感情を喚起される一冊の本としての完成度、そして何よりその異なる者たちそれぞれにさしのべられるSFの光明を、多くの人に目撃してほしい。
UMA CREW PROJECT『パレット上の戦火』乾(代理)
作中においてUMAがストーリーで果たす役割が、SF的で新しく、UMAたちの魅力をより一層引き立てていて、人間とヴァーリアントの二項対立を超えた超越論存在となっている。またキャラクター造形が立っていて作品がイキイキとしており、魅力的な作品となっている。
荒巻義雄『SFする思考 荒巻義雄評論集成』横山信義
「SFする思考」は、荒巻義雄さんが、六十年近くに亘る文筆活動の中で手がけられた評論を一冊にまとめた大著です。
収録された評論の一本一本が珠玉とも呼ぶべき内容であり、SF界でも屈指の知性による思索活動の成果であると考えます。
収録作には、作家論、作品論も数多く、荒巻さんが日本SF界と一体になって歩んで来られたことをうかがわせます。
日本のSF史における資料的価値も、極めて高い一冊です。
以上の理由から、日本SF大賞に相応しいと考え、エントリーさせていただきます。
魚豊『チ。-地球の運動について-』津久井五月
今年6月に全8巻で完結した漫画作品です。中世末期(近世初期)の欧州を舞台に地動説を研究・継承しようとする人々を描いた群像劇ですが、登場人物や物語の大部分は史実に基づかない創作であり、「もしコペルニクス以前に地動説の研究が進み、宗教勢力の一部が血みどろの弾圧を行なっていたとしたら?」という歴史改変SFの構造を持っています。その上で、地動説という当時最先端の「科学的思弁」がいかに個々人の内面に作用し、人生に美と信念と苦しみをもたらすかを、非常に説得的に描ききった傑作です。これまで多くのSF作品が表現してきた「科学的真理の美」「理性への信頼」「歴史と個人の対立」といったテーマを、一般に“SF的”とされる世界設定やガジェットを用いることなく物語に落とし込むことに成功しています。SFの感性を新しい方法で紐解き、非常に多くの潜在的SF愛好者を生み出したであろう点で、SF大賞に相応しい作品だと考えます。
和久井健『東京卍リベンジャーズ』男の美学
タイムリープと不良の抗争という、史上最も関係なさそうな組み合わせを、アクロバティックに表現した異色作にして傑作。
サスペンス要素全開で引っ張る序盤も楽しければ、後半は魅力溢れるキャラクターたちの生き方に痺れさせられ、何度でも読み返せる超一流の作品。
口に出して言いたいい日本語満載。
「日和ってるやつ、いねえよな?!」
バーチャル美少女ねむ『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』Nyanko@ことほむ
現在可能性が未知数のメタバースにおいて日々の生活の一部にメタバースを取り入れ、メタバースの可能性に挑戦していく思考レポート。まだ開発段階であるメタバースソーシャルサービスの世界であるが、この本を読むことで可能性の一端を読み取ることができる。未来の歴史書となる可能性が詰まっている内容なのでぜひ推薦したい。
伴名練『百年文通』匿名希望
2021年、「コミック百合姫」の表紙に1年間連載されていた時間SF。先行きがどうなるか誰にもわからないコロナ禍のなかで、感染症との戦いが社会や歴史をどう変えていくのかを真摯に、かつ大胆に空想して、そのうえで希望を歌い上げた快作。

伴名練は近年アンソロジストや評論家としても活躍の幅を広げているが、この書き手はまず何よりも優れたSF作家である。発表形態の新規性、時代と向き合う覚悟、小説的な技巧、未来への飛躍力。すべてをもって日本SF大賞に推薦する。
バーチャル美少女ねむ『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』はがね
本書の最大の魅力はメタバースとそれに付随するバズワードたちの概念をきっちり分けて理路整然と説明されている点です。NFT、web3、VRなどとメタバースはどう違うのか?本当にメタバースに必要なのか?読めば明確に説明できるようになります。
また、本書はテック(メタバースの技術)でもなくビジネスで(メタバースの活用)もなく、ライフ(メタバースで生きる)の分野の本です。メタバースという、定義すら曖昧なバズワードも、冒頭のメタバースの暮らしの描写があるので、非常にイメージしやすいと感じました。全人類が読むべき一冊。
最果タヒ『パパララレレルル』大滝瓶太
最果タヒの言葉は意味よりもはやい。
小説の言葉が意味から選ばれるのではなくて、言葉が先に小説のように並んでいき、それらが作る幾何学のなかに見る物語が最果タヒの小説だ。現実やおとぎ話を含め互いに独立に存在するたくさんの世界から生まれた言葉の一度限りの配列だけで見れる夢こそ、ぼくにとって理想のSFだ。
荒巻義雄『出雲國 国譲りの謎』荒巻義雄
『古事記』神代・古代史を扱った小樽湊シリーズ(全三巻)の完結編。今日、国産最古の歴史書『古事記』を読む人は少ないと思うが、古代日本人にとって大陸の存在は、新知識を学ぶ先進地域であると同時に、侵略されるかもしれないという不安の源でもあった。(現に後の元寇の例がある)つまり、大陸と日本列島との地政学的関係は、2000年前から今日まで変わっていない。
 また、『古事記・神代』を、太安萬侶が書いたSF小説として読むことも可能です。
 さらに、『古事記』からは完全に抜け落ちている邪馬台国への道を、作者独自の『魏志倭人伝』読解によって、瀬戸内海ではなく日本海ルートとし、大和纏向の地に比定する完全解を提示しました。
荒巻義雄『SFする思考 荒巻義雄評論集成』荒巻義雄
日本SF勃興期に当たる1965年から2021年に到る私的SF史。きっかけはプロデビュー評論「術の小説論」の英訳が、私の『神聖代』(THE SACRED ERA)の翻訳者でミネソタ大学のPOSADAS氏・訳、巽孝之氏・解説で決まったからである。PC普及前の古原稿をデジタル化する苦労もあったが、最終的に400字詰めで約2500枚になってしまった。制限字数内では書き切れないが、現代SF思想の基礎となるポストモダン哲学解説、SF小説解説と作家論、エッセイ、そして同人誌コア時代のSF論、および「術の小説論」である。すでに200冊近い単行本を出版している第一世代作家の肉声で語られた日本SF史とも言える側面を持つ。
N・K・ジェミシン(著)小野田和子(訳)『オベリスクの門』あかつき
作家の背景や思想も含めて取り沙汰されることが多いイメージで、それはそれで大事なことだとも思うのだけれど、とにかく純粋に物語が面白い! スケールが大きいのに感情が置いてけぼりになっていない。ページをめくる度に引き込まれる。類い希なるストーリーテラー。彼女の他の作品も是非翻訳されて欲しい。
マーサ・ウェルズ(著)中原尚哉(訳)『逃亡テレメトリー』シンユカ
安定した弊機シリーズの魅力。加えて今回はプリザベーション警備局員のインダーらが世界観をより豊かにしてくれる。短編の「義務」はシリーズ全体の起点であり今後をも包括する充実した小品。「ホーム」も別視点で物語を多層化。安心して読めて新しい発見もある嬉しい一冊。
マーサ・ウェルズ(著)中原尚哉(訳)『ネットワーク・エフェクト』シンユカ
冒頭、海賊との渡り合いからエンディングまで「弊機」の魅力が炸裂しっぱなしの一冊。超高性能AIであり友人でもあるARTの消失をめぐり苦闘する前半戦と、敵システムと戦う後半戦、いずれも一気に読ませてしまう勢いとパワーが。機械知性のアイデンティティ獲得や子作り、仲間作りなど興味深いテーマも織り交ぜなられている。ディストピア的世界観なのにハッピーな基調で読めるのも嬉しい。
津原やすみ『五月物語』『五月日記』同人誌版の発行匿名希望
旧作の復刊にまつわる件であるが、昨年の「業績」として推薦する。著者の津原は20世紀末、少女小説で活躍した。再刊されたのは、当時ものされた長篇SFの中の2冊である。30年、活動の場を広げて執筆を続けてきた津原による、往年の読者のためのコレクターズアイテムとして企画されたのが今回の2冊であった。自費出版には疎い津原が編集協力を乞うたのは、サークル「少女文学館」。少女小説で育ち、今はみずから創作に携わる作家たちの集いである。中でもイラストを担当した鳴海ゆきは、当時の本作の愛読者。作品の本質を捉えた美麗なイラストからは、並々ならぬ思い入れが溢れる。SF界に鮮やかな痕跡を残した津原泰水の文筆活動は、少女向けのSFから始まった。その最初期を支えた読者たちのための復刊は、彼女ら自身の協力を得て遂げられた。本来、作品は二十数冊に及ぶ。続報を告げることなく津原は世を去ったが、読者は残されている。続刊を願う。
小川哲『地図と拳』タニグチリウイチ
ありえたかもしれない歴史を想像力によって創造し、男女逆転の世界をリアリティたっぷりに見せたよしながふみの『大奥』とも重なって、王道楽土を夢見て大陸雄飛に挑んだ多くの人の希望を呑み込んではすりつぶした満州に、もしも理想郷があったらという可能性を示しつつ、結果として『大奥』と同じように”もしも”が潰えていく様から、欲得から逃れられない人間という存在を描いてのけた手腕を支持したい。
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芝原三恵子 ゲーム小説『Paleorium~古生物水族館の飼育員~』匿名希望
イラストつきで、ゲームを楽しむように読み進めることができる「ゲームノベル」作品。
本作は、現代の水族館で水棲古生物を飼育し古代の海を再現することがテーマとなっている。古生物の飼育の定番といえば巨大恐竜だが、本作ではあえて巨大生物は取り扱わず、主にカンブリア時代の海に生息していた生き物を飼育。いわゆる恐竜モノとは全く別のビジュアルとドラマが展開される。
水族館の飼育員が大真面目に三葉虫やハルキゲニアの飼育に必要な要素を議論している姿が楽しい。

話ごとに言葉では伝わりづらい古生物の奇妙な姿にイラストがつけられ、ゲームノベルという作品形態ともよく合った作品。
林譲治『大日本帝国の銀河』Rey.Hori
 第二次大戦初頭&日米開戦前というややこしい時期に主要各国に現れた異星人。彼らの干渉により、幾つかの技術史的な時系列の逆転を含みつつ歴史は架空方向へ進むのだが、彼らの目的が明かされない状態が全5巻中5巻の前半まで続く。そこから作中の時間テンポが急上昇、彼らの目的の開示や人類のしたたかさ、両者の未来の提示をも含めた結末を迎える。そこで4冊半がこの終盤のための長い序章だった事に改めて気付くのだ。

 前述の技術史の逆転も興味深いが、本作で絶対に無視出来ないのが日本に現れた異星人「オリオン太郎」だ。互いの思考論理の違いから「言葉は通じるが日本語が通じない」状況が度々生じる。さる理由でアンパンや羊羹ばかり食べているどこか憎めない彼は魅力的なキャラだ(彼をエントリーしようかと考えたほど)。彼を含め、他にも軍事はもちろん、科学・経済・教育など多数の着目すべき視点を持つ本作を推したいと思います。
宝塚歌劇団月組公演『今夜、ロマンス劇場で』そらみ
元は邦画を宝塚化。現実世界の青年とシネマのお姫様の恋愛物語。触れたら消滅してしまうという次元の壁が題材のSF作品。
宝塚化にあたり、衣装セットの華美さだけではなく宝塚オリジナルキャラの作品へのスパイスや
登場キャラのバックボーンに深みがました秀作。
藤本タツキ『ルックバック』鬼嶋清美
Webで143ページが一挙発表されるやまたたく間に話題となった藤本タツキの中編マンガ。マンガに魅せられた二人の少女がマンガを描くことの喜びと挫折と、ライバルへの憧れと嫉妬と友情と別れの感情を駆け抜けていく物語。一方の身に唐突に起きた事件と引き裂かれた悲劇に救えなかった後悔。あってほしかったもう一つの人生を、タイムマシンのようなガジェットを使うのではなく、コマ割りとレイアウトで見せる力業は、これこそ作者のセンス・オブ・ワンダーと呼ぶべきだろう。なお、Web発表後に起きた批判を受けてセリフなどが一部改変されたが、さらに修正されて2021年9月にこの1作で出版したジャンプコミックス版を、最終的な作者の答えとして支持したい。
樋口恭介(編)『異常論文』匿名希望
賛否両論の作品群である。
というか、好みが分かれる作品を選んでおり、あざといのである。
「異常論文」と標榜しておきながら、収録作が似たような作品ばかりでなく「範囲」が広いため(編者による定義では、論文であることを求めない、とまで述べている)、結果としてSFというジャンル内に「異常論文」という枠組みが生み出そうとしている。

以後、国内の論文っぽいSFは、「異常論文であるか否か」の尺度を求められるようになり、過去の論文っぽいSFは「異常論文なのか」を検証される。
そして、読者はある作品を読み「これ異常論文っぽいじゃん」とコメントするようになるのだろう(文学作品に関わらず)。
つまり、編者の狙い(煽り)が達成されているのである。

否定的なレビューで、もっと異常なものを読ませてほしい、という声もあるのには少し驚いた。
「異常論文」の可能性は、切り開かれてしまったのだ。
映画『シン・ウルトラマン』マキシマム
55年の歴史を持つ空想特撮シリーズ「ウルトラマン」を作品の大ファンである庵野秀明がレシピを書き、下味をつけ、樋口真嗣が調理した一作。
かつて彫刻家・成田亨が夢見た巨人の姿を忠実に再現し、正体不明の銀色の巨人が地球と人類を救う英雄になるまでを描く大作。
「何故怪獣が日本にしか現れないのか?」「何故似たようなデザインの怪獣がいるのか?」といったメタ的な問題にまで掘り下げ、大胆な解釈を持ち込んでくる2022年代の空想科学の扉となる作品
北野勇作【ほぼ百字小説】北野勇作
 北野勇作の【ほぼ百字小説】を自薦します。 
 2015年10月からツイッター上に投稿された百字の小説です。ほぼ毎日投稿され、現在も続いています。たとえば、2022年8月31日だと、これ。
https://twitter.com/kitanoyu100/status/1564917612840370176
 ()は通し番号。つまり、こんなのが4000個ほど並んでいます。

 加えて【ほぼ百字小説】の解説半分エッセイ半分的な文章をnoteで同時公開しています。 
https://note.com/yuusakukitano/n/n176b2b9640cf#evTAe

 ひとつひとつの要素(ツイッター小説、noteとの連動、等)は、既にあるものでが、こんなふうに複合的で未知の可能性に開かれているものはこれまでにないと考え、推薦します。もちろんその質と量共に、ふさわしいと考えます。
森りん『水の剣と砂漠の海 アルテニア戦記』匿名希望
かつて起きた大戦により高度な機械文明は滅び、湖は涸れ、砂漠が広がり、汚染された物質が人々に病をもたらすという世界。しびれるほど鮮やかな世界観が印象的なディストピアSF。ボーイミーツガールなファンタジーの皮を被っているが、世界観は緻密に作られていて、語られるストーリー以上の広がりを感じさせる。王道の冒険ものであり、みずみずしい感性を感じさせる恋愛小説ではあるが、SF好きであればニヤリとするようなガジェットがキーとなって出てくるのも面白い。女性向けレーベルからの発売であるため、普段SFに触れることが少ない女性でも楽しめる作品となっている。
Nemo Ramjet(著)hiropon(訳)『オール・トゥモローズ』匿名希望
トルコのアーティスト、C.M.コーセメン氏がペンネームのNemo Ramjet名義で2006年にネットで発表したSF作品です。
宇宙に進出した人類の10億年にわたる未来史が綴られており、海外ではネットミーム化するほど話題になっているものの国内での知名度はほとんどありませんでした。
このたび原作者の了解のもと日本語訳が公開されことにより、この壮大な作品人を広くSFファンの皆さまに知っていただきたく推薦するものです。
掲載サイト https://ameblo.jp/specuevo/
上田早夕里『播磨国妖綺譚』林 譲治
 ハードSFとは何かという定議論は昔からあるが、多くの場合、そうした議論は高度工業技術製品と哲学もしくは思考法としての科学の区別がついていない論者の議論になりがちで、結果として小難しい理屈と機械が登場すればハードSFと呼ばれることも稀ではない。
 しかし、物語の論理性と主人公らの思考の流れが真に科学的であるならば、ガジェットは本質などではない。本作品は陰陽道という論理体系の中で、問題をその体系内で科学的な思考のもとで行う点で、ハードSFの要件を満たしているのである。
日本SF作家クラブ(編)『2084年のSF』あぼがど
いま、ここにある日本SFの現在を、幅広い読者に向けて提示する日本SF界のポートフォリオ。2084年世界という統一されたテーマで描かれた、硬軟取り混ぜる新進気鋭の作家を中心に取り揃えた23本。一読すれば必ず琴線に触れるものがあるでしょう。それと同時に自分の琴線には触れない作品もあり、更には世の中にそれを評価する誰かが必ずいるのだと、幅広い読者に向けて開かれた門戸に思いを馳せる。日本SF作家クラブが編んだのはそういう一冊です。
ゲーム『地球防衛軍6』式さん
地球防衛軍(EDF)は侵略者から地球を守るTPSだ。世界観を一新した前作5では主人公の活躍により侵略者を撃退するも、仲間は倒れ人類は絶滅寸前に陥った。
今作で主人公はある出来事を機に「いるはずのない仲間」と再会する。だが「いたはずのない敵」の暴虐によりまた仲間はいなくなり、未来はあるべき姿に収束した。
――もし、である。もしあるべき未来を決めるのが「君」の役目だとしたら?
EDFはミッション制のゲームだ。君は難易度を変えて何度も同じミッションに挑む。君は「未知」を「既知」に変え、侵略者と戦い続ける。君はEDF1~4、そして5でも同じことを繰り返してきた。
だからEDF6、さらにその先も君は繰り返すはずだ。「勝つまで諦めない」戦いを。
眼前に広がる、絶望の輪廻。だがそこは到達すべき世界ではない。君には地球を、希望の涅槃に導く力がある。
地球を救うのは、君だ。これからも、そしてこれまでも――。
春暮康一『法治の獣』林 譲治
ファーストコンタクトを扱ったSFは遡れば一〇〇年以上の歴史を有するが、この短編集はそうしたコンタクトSFのなかにあって、科学的な合理性に基づき、さらに一段進化させたとものだとの印象を受けた。今後この分野のSF作品を書く人は、本書の存在を前提にしなければならないだろう。
ナガノ『ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ』秋永真琴
ファンシーグッズが大人気のキャラクターですが、Twitterで週に何度か不定期に更新されているマンガは、牧歌的だけどディストピアめいた世界を舞台に、かわいいだけでは済まない「上位存在に管理された実験場」のような不穏さを随所で発揮しており、SFとしての魅力を大いに備えた作品だと思います
佐川恭一『シン・サークルクラッシャー麻紀』佐川恭一
「サークルクラッシュ」というのは、女性比率が低い集団の中で複数の男性が特定の女性に強い好意を抱くことにより人間関係が崩壊してしまうという、突き詰めれば脳科学的現象の一つである。京都大学にはこれを長年研究している院生も存在し、今後の悲劇を防ぐためにも体系的な学術書の早期刊行が待たれるところだが、本作はフィクションの側からこの現象の本質に迫ろうとした意欲作である。
 言うまでもなく、フィクションは現実を戯画化し、また拡張することによって現実の諸問題を浮き彫りにし、見る者をそれ以前にはたどり着けなかった場へと導く想像力の翼を与える。本作に現れる脳科学的現象とそれに抗う/抗えない意志としての個体が織りなす物語は、人間存在の限界と可能性を過去に類例のない主題から問う新時代のSFと言えよう。なお、自薦である。
桜瀬彩香『薬の魔物の解雇理由』イシュ
恋愛系FTとして出版されていますが、内容は定まっている理を超えてパラレルワールドへ呼び出された現代女性の物語というSF的要素も大いにあり、軽妙かつ美麗に描かれる世界観の根本はかのタニス・リーの『平たい地球』シリーズに匹敵するほどダークかつ壮大な作品です。「魔術でなぜか解決」といったご都合主義とは異なる設定の細かさを読み解く楽しさにもあふれており、検証討論もファンの間では盛んにおこなわれています。
「超大作」ですが、進む人間関係、イベントの複雑さ、美酒・美食に気を取られていつの間にか読了し、つい伏線部分の読み返しがしたくなること請け合いです。
作者が今年お亡くなりになってしまい、今後の出版予定が危ぶまれている状態ですが、ぜひ全文出版され新たな「日本を代表する作品」と評価されるのを期待してやみません。
https://tobooks.shop-pro.jp/?pid=160344240
Nemo Ramjet(著)hiropon(訳)『オール・トゥモローズ』都築良継
人類の進化、というと皆さんは何を思い浮かべるでしょうか。過去や現在に思いを馳せる方も多いと思います。それでは遥かな未来については?もし、地球外、銀河系に広く叛図を広げた人類が、とある理由でそれぞれの姿に進化を遂げたら?本作はトルコのアーティスト、Kosemen氏が描く、10億年にも渡る人類の子孫たちの進化を描いた思弁進化SFです。著者自身のサイトで長らく無料公開されていた本作を、熱烈な思弁進化ファンであるhiropon氏が著者の許諾を得て翻訳、公開したものになります。思弁進化がお好きな方々、ワイドスクリーンバロックがお好きな方々に広く読んでいただきたい一作です。
https://ameblo.jp/specuevo/entry-12761027130.html
飯野文彦「第43回SF大賞対象期間にSFプロローグウエーブに発表した作品群(「六十年タイムマシン」「影を喰らう」「落花生」「いない世界」「甲府日記・四景」)」飯野文彦
第43回SF大賞対象期間にSFプロローグウエーブに発表した以下の五作品を一連の作品として自薦します。
「六十年タイムマシン」(https://prologuewave.club/archives/8938)では、人生をタイムマシンに見立てて二つの世界を表現し、「影を喰らう」(https://prologuewave.club/archives/9132)の最後の展開は、このモンスターを使った作品では希有なものになっています。「落花生」(https://prologuewave.club/archives/9217)や「いない世界」(https://prologuewave.club/archives/9394)「甲府日記・四景」(https://prologuewave.club/archives/9467)においても、現実か幻想か迷路のような世界に入りこむ感覚を表現できたと自負しております。これらの作品群は、これまでに無い独創性や意外性を持った幻想世界を想像/創造したもので、SF大賞の推薦基準である「SFの歴史に新たな側面を付け加えた作品」に該当すると考えました。
UMA CREW PROJECT『パレット上の戦火』八木舞紫
完全オリジナルストーリーの「パレット上の戦火」。2022年4月まで連載がnoteでされ、人気ものだった。島田秀平のニッポン放送のラジオでも「面白い!」と紹介されていたほど、UMAマニアでは盛り上がった。イラストもストーリーも非常によく、よみごたえある。UMAやSFやオカルト要素を盛り込んだ、超本格SFストーリー!人種をこえた登場キャラクターたちが、なんとも良く、親子や夫婦や姉弟などの絆をのりこえながら、彼らは悲劇的な闘いにのぞむ。最終回は常連の読み手たちが涙した冒険SF。https://note.com/umacrew/m/m34dccb173509
マシーナリーとも子 web漫画『スシシスターハンター』りょーいち
「バチカンから派遣された、寿司を握って吸血鬼を退治するシスター」という無茶苦茶な設定を、「江戸前寿司の起源はヴァン・ヘルシング」という大法螺や実際の寿司や吸血鬼に関する知識の積み重ねで成立させていく、画は粗いもののストーリーのドライブ感で読ませる作品。
https://rookie.shonenjump.com/series/pGBIkZkAMfY
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荒巻義雄『SFする思考 荒巻義雄評論集成』匿名希望
ハードカバー829ページ。SF作家の評論集としては空前のボリュームである。1970年、荒巻さんが「術の小説論」で評論デビューして以来、小説執筆の傍ら書き続けてきた評論の文字通りの集大成。SFを、文学のみならず哲学、文化人類学の知識を駆使して位置づけた冒頭の力作「SFの理論」に始まり、作家論、美術史、精神医学、言語学、現代詩、現代俳句、SF史、文明論、そしてマニエリスムに至る関心の幅広さは圧倒的。まさに「SF作家」にしか書けない評論集であり、大賞にふさわしい金字塔と言える。
荒巻義雄『SFする思考 荒巻義雄評論集成』Kei-one
プロデビュー時から〈小説〉と〈評論〉の二刀流だった89歳の現役SF作家、荒巻義雄の評論集成である。アマチュア時代の評論から多数の新たな書き下ろし評論までで構成される800ページを超える大冊には、SFと向き合う著者の姿勢が余すところなく書きこまれている。また、日本SF黎明期からのSF作家との交流や、同志であった諸作家への批評など、インサイダーにしか書けない文章は、日本SFの歴史の証言ともなっている。さらにこの『SFする思考』という書名にこめた思いは、社会とSFの現状のみならず、その未来に向けた著者のメッセージでもある。本書こそ日本SF大賞にふさわしいと考える。
バーチャル美少女ねむ『メタバース進化論――仮想現実の荒野に芽吹く「解放」と「創造」の新世界』バーチャル美少女ねむ
これまでSF作品で数多く題材とされた「仮想世界」での生活が実際にはどんなものなのか、我々人類はこれからどこへ行くのか。現在注目される「メタバース」の住人への実地インタビューや大規模アンケート調査による、世界初の「仮想世界の潜入ルポルタージュ」である。『ニューロマンサー』『攻殻機動隊』などのSF作品や日本のサブカルチャー文化が現実のメタバースに与えた影響を分析し、実際に仮想世界で美少女や人外の生き物となって暮らす人々の生活実態を統計的に明らかにすることで、今後の人類がどのように「進化」するのかを予見する。従来のSF作品を「すでに起こった事実」として過去のものとし、これからの人類が直面する未来を現実の地続きとして描く、全く新しいスタイルの「SF作品」である。

本作品は日経新聞・毎日新聞・全国の地方紙の書評欄で特集記事が組まれ、発売3ヶ月で6刷重版が決定する大ヒットとなった。
三崎しずか web漫画「美術部の上村が死んだ」ネビュラ
もしも人生の目標や夢を実現することが「絶対的に」否定されてしまったら? あらゆる心の拠りどころが崩れ去ったら? それでも生きてゆこうと思えるだろうか? 
SF的設定を通して、想像だにできない状況から人生の意義を問いかけ、考えさせてくれる作品として推薦します。
https://shonenjumpplus.com/episode/3269754496854369150
TVアニメ『メイドインアビス 烈日の黄金郷』ばっふぁ
冒険家の娘が母を訪ねて地上に開いた大穴の奈落を下降してゆく物語のシーズン2。ついに辿りついた第六層にあった成れ果ての村で繰り広げられる価値を巡る愛憎の物語は、あまりに異様すぎてむしろ美しい唯一無二の物語。
若木未生《ハイスクール・オーラバスター》匿名希望
当初より「SF」として書いた、と著者は語るが、少女小説レーベルより売り出されたときの惹句は「学園ファンタジー」だった。「少女小説では、SFと謳うと売れないから」。世紀を跨ぎ辿り着いた完結に際し、インタビューではSFに賭けた思いの丈が語られた。「SFと謳われる小説は買わない少女」だったとうに少女ではない読者(私です)は喫驚する。幼い頃から夢中で追いかけ続けてきたこのめくるめく物語、これが「SF」だったのか、と。32年越しの功績に、敬意と感謝を。
ヨツミフレーム VR『PROJECT˸ SUMMER FLARE』蘭茶みすみ
ゲームエンジンでアバターやワールドを制作し交流できるVRChatに、ヨツミフレーム氏が2021年9月23日に公開したワールド「PROJECT˸ SUMMER FLARE」。VRメタバースの交流性や身体性を活用し「現実とは?」「仮想とは?」を問いかけた空間作品だ。

人類が「狂気」に感染した未来の世界を「再生」するという入れ子構造のストーリー。水族館のある海岸から始まり、謎を解いていくと、荒涼とした未来の世界に視界が転換する。襲ってくる機械を銃で倒したり、梯子を登ったりと、協力して体を動かすところもVRらしい。

事前情報がなければ純粋に夏の空が広がる綺麗なワールド。いるだけで「仮想世界で再生されている意識の1つ」になるという意味でも、SF映画の主人公になった感覚だ。

VRChatでは「夏を壊したか」が合言葉になったほど。同作品の設定資料は氏が公開しているが、ぜひVRで体験して欲しい。
牧野圭祐『月とライカと吸血姫』タニグチリウイチ
ソ連とアメリカの宇宙ロケット開発競争をモチーフにして、架空の二大国がそれぞれの政体の中で開発に取り組む姿を見せつつそこに吸血種族という人材の存在を織り交ぜ、差別される存在として描いて実際の社会にもある問題を浮かび上がらせた。そして現実ではなかなか折り合えない二大国とそして世界が融和へと向かう道を示し完結した本作を古典的SFのジュブナイルによる再掲として評価し推薦する。
劇場アニメ『アイの歌声を聴かせて』タニグチリウイチ
人間の少女にそっくりな姿を持ったAIが巻き起こす騒動を描いたストーリーは、人間とはやはり差があって限界もあるAIのポンコツぶりを描いているように見せかけて、その実は愚直なまでに使命を遂行しようとしたAIのまっすぐさを描いて感動を呼んだ。いずれ来るAIがあふれ出した世界のビジョンを風景と物語によって見せてくれるSFアニメーションの金字塔だ。
神林長平『アグレッサーズ 戦闘妖精・雪風』冬川蒼真
ジャムとはいったい何か、人間が人間たり得る為にあるのか。それとも違うのか?
新登場キャラクターも魅力的な、戦闘妖精・雪風シリーズ第4巻。文体がライトで読みやすく、まるで作者自身が若返ったかのような、テンポのよい躍動感がある。
最近になってSFを読み始めた人にもお勧めできる。
市川大賀『折口裕一郎教授の怪異譚 葛城山 紀伊』市川大賀
自薦ですが、周囲の反響や評判が多いので立候補させて頂きました。現代に残る『古事記』『日本書紀』の謎を求めて民俗学教授が事件や謎に遭遇するフォーマットはありきたりですが、かなり『記紀』の深い知識を読者に要求しつつも、その教養に疎い読者をも引きずり込み、怒涛の謎解きで展開するクライマックスは、既存の作品にはなかった新たなSFの形だと自負しております。
TVアニメ『サマータイムレンダ』miyo_C
全25話で語られた小さな孤島で繰り広げられる謎の存在との対決。
明かされる過去、俯瞰しろ今、勝ち取れ未来。
主人公の両親の事故死。
引き取られた先の姉妹との関係。
東京に旅立った主人公がある夏に帰省することになった理由。
いくつかのSF的要素を組み合わせて、アクションを組み立て、マニア向けだけでないエンタテインメントとして成立させることに成功した作品に仕上がりました。
動物文明史研究会『鳥の文明史 先史時代編』都築良継
動物が知性を持っていたら、このテーマは古今東西様々な童話・寓話・神話・物語において描かれてきたテーマである。ならばもし、本当に動物たちが文明を築いたら、それはどんなものなのか…それを探求して来たのがこの動物文明史研究会。同一の世界設定、地球とは似ているけれど少し生物相の異なる世界を舞台にして、過去にはビーバーや、大型動物に住まう動物たちなどを描いてきた。今回は鳥を主軸にした作品で、先日高度な言語機能を持っていることが研究で判明したシジュウカラを起点に、多くの動物たちがそのネットワークを活用し、知性化していく様子が描かれる。思弁進化と文明史という異色かつ高度なコラボレーション、これからも注目していきたい。
春暮康一「方舟は荒野をわたる」都築良継
だめだ、何を言ってもネタバレになってしまう。ともあれ、勧めないことには推薦文にならないので、書いてみよう。舞台は遠未来の宇宙、太陽系外への進出を果たした人類は、地球外生命、特に知的生命の存在を求め、様々な宙域に進出していた。敵対勢力の反乱によって胚から生成された主人公は、反乱者たちに促され、とある惑星の調査を行うことに…という筋書き。そこに何があるのかは、ぜひご自分の目で確かめていただきたい。アイデアの奇抜さもさながら、様々な生物SFを踏まえていれば、その生命の形にあっと驚かされることは間違いないだろう。宇宙生命ハードSFがお好きな方に勧めたい。
藤崎慎吾「分子の手紙とシャボン玉の封筒」都築良継
植物が出している様々な化学物質を用いた「会話」をもし、人間が読み取ることが出来たら、そんなアイデアに則った掌編です。近未来、指に改造を施すことで植物の「会話」を読むことが可能になった世界、とある他愛もない世間話が書かれた手紙が主軸、最新の知見に基づき書かれた本作は、ブルーバックスの連載の小コーナーという性格上、あまり注目されにくいですが、そこは流石作者である藤崎慎吾氏、科学的知見を活かし、短いながらも骨太な作品です。最新の知見を得ながら、その先にあるものを垣間見られる、というのがSFの醍醐味ですね。この他にもDNAオリガミ、人工筋肉を題材にした掌編がブルーバックスの連載に書かれています。
https://gendai.media/articles/-/93474
涼海風羽『雷音の機械兵』斉藤仁
熱くて泣けて面白い、エンターテイメント性の高さが高評価。構成は往年の映画的な流れであるが、読んでいる間にその展開は読めない。キャラクターの描き方はライトノベルを称するだけに人間ドラマが若年層に向けたものである。伏線の貼り方、文体は洗練されており、これからのSF小説読者を引き入れていくための裾野を広げる役割は十分にある。
プロジェクト『蒼穹のファフナー』高峰昂士
宇宙からやってきた巨大な光子結晶体ミールが北極に落下。その後、人類とミールが生み出すフェストゥムと呼ばれる珪素体生物との戦いが始まりました。物語はミールが北極に落下してから30年ほど経った時代から始まります。
アニメーション、ドラマCD、小説、コミックとすべて受動型のメディアで展開している作品であるにもかかわらず、ある条件を満たした時、能動型の作品に変化します。あなたも主人公と一緒にフェストゥムと話をしてみませんか?
青島もうじき「ロプノールとしての島」匿名希望
氏は若手作家の中でも群を抜いた作品をいくつも発表しており、今後も豊かな物語を生み出していくと確信している。特に本作は、氏の作品群における魅力が詰まっており、SFという枠組みで人と物語を、繊細さと雄大さを、語りすぎずに十分に語っている。
漫画や映画では味わえない緻密で美しく強度のある本小説は、広く、日本に留まることなく、世界に向けても紹介されるべきである。https://note.com/anon_press/n/n045b9a10c999
井上彼方・編『新月』藤井太洋
日本にもオンラインメディアのSF短編からキャリアを始められる場所があるといいのに……という願いが現実のものになりました。
サブスクリプションで短編を読めるKaguya SF Planetから始まったVG+のフィクションパブリッシングはかぐやSFコンテストとクラウドファンディングを経て、25編もの傑作短編を収録した堂々たる作品集を生み出したのです。ここに収録された作家たちがいない日本SFの未来を私は想像することができません。
Webから生まれたSFアンソロジー『新月』を、第43回日本SF大賞に推薦いたします。
田鵺功空 web漫画『やり直し姫は夫と恋したい』さわやかハーブの森パスタ880円
当該作品は膨大な一遍の物語からスフィア姫視点の物語を10年分抜粋した漫画である。
8歳のお姫様と24歳の王子様のラブロマンス。
2022年のマイベストである。
タイトルからも分かる通り、いわゆるループ物語。
数多いループ題材であるが、他との大きな違いがある。
ループ能力者は凡人、特別な能力はない。
壮大な力に直面する人間の喜怒哀楽がとても真に迫っている。
そしてお姫様と王子様の事情が明らかになるに連れ、物語の加速性が半端ない。
読むデトックス。心のビタミン。物語の要所要所で、きっと悪いものが涙と一緒に流れ落ちていくだろう。
読んで泣くのが自分だけだと勿体ない。もっと沢山の人間を泣かして欲しい、脚光を浴びて欲しいと願って推薦する。
https://shonenjumpplus.com/episode/3269754496389553638
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