第42回日本SF大賞エントリー一覧

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劇場アニメ『劇場版少女⭐︎歌劇レヴュースタァライト』YUKI
ワイルドスクリーンバロック、それが本作が掲げる概念である。『エヴァ』や『ウテナ』といった90年代作品を継承しつつ現代的な物語への"再生産"を演出しきったTVシリーズ。続く形で制作された劇場版は、オールディスの定義するところのかのSFサブジャンルの捩りにふさわしく、古今東西の映画やポップカルチャーの引用を爆装しながら過去を未来を爆走し、いまだ観たことのない地平へと到達する。演劇学校を舞台に描かれる、卒業というごく普遍的な通過儀礼。しかしクライマックスにて、緞帳――第四の壁と呼んでもいいかもしれない――が一枚剥がれたとき、物語の終わりとともに必然的に訪れるキャラクターの死というメタ的な構造が半ば暴力的に剥き出しにされる。日本的アニメーションの急先鋒である本作は同時に、それらが好んで選んできたSFというジャンルの最もフレッシュな表出でもある。わかります……か?
潮谷験『時空犯』潮谷験
自薦です。本作は、SFの定番であるタイムリープ(時間巻き戻し)と本格ミステリーの謎解き要素を組み合わせた上、設定を精緻に構築することで、壮大な世界観と緻密な犯人当ての両立を目指した作品です。以上自画自賛ですが、出版後どちらかといえば取り上げていただいているのはミステリー界隈が中心になっているため、SFクラスタの皆さんにも本作を評価していただき、両ジャンルにさらなる化学反応を起こしたいという理由からエントリーさせていただきます。
月村了衛『機龍警察 白骨街道』あぼがど
"強い物語がここに在る。冒険小説とハードボイルドの復活を高らかに謳い上げる「機龍警察」シリーズ最新作。作品の主な舞台となるミャンマーで、連載中に現実に起きた政変に対して、物語の展開は当初の構想からほぼ変更されなかったという。まるで現実を予期していたかのような、極めて現実的な虚構。そこで語られるものは、人間の内に潜む獣についての物語だ。冒険小説、ハードボイルド、その他様々な名称で糊塗しようとも、人間を描くという行為は人間の内に潜む獣を描く行為に他ならない。ミャンマーで、京都で、死地に赴き窮地に立つとき、人は己の内に潜む獣の咆哮を聞き、獣のように躍動する。それは決して本の中だけの出来事ではなく、頁をめくる自分の中にも同じような獣が居ることを知り、獣の思いに共鳴する。そんな読書体験を得られる。

その獣の名を「人間」という。機龍警察の物語に強度があるのは、強く人間を描いているが為なのだ。"
藤田和日郎『双亡亭壊すべし』田辺青蛙
本作はリチャード・マシスンの小説『地獄の家』やスタニスワフ・レムの小説『ソラリスの陽のもとに』といった作品に部分的な影響を受けている怪奇漫画の傑作です!立ち入り禁止の不気味な洋館という設定にグッと来るSF好きなら読め!読めば脳が揺らされるから!!
Youtubeチャンネル『ヨーロッパ企画【公式】』
"過去に制作したSF映画の裏話や、舞台の裏話。企画性が強すぎた舞台の話などを毎週配信しているYoutubeチャンネル。劇団のチャンネルなのですべてがSFというわけではないですがタイムトラベル専門書店の藤岡みなみさんと時間SFについて1時間語る回は見ごたえがありました。
"
SF短編小説オンライン掲載プロジェクト「Kaguya Planet」匿名希望
"SF短編小説をオンラインで発表するプロジェクト。リリース当時SNS等で話題となった『冬眠世代』(蜂本みさ)をはじめ、狭義のSFの定義では取りこぼしかねない作品をも受け入れる懐の深さが、「サイエンス・フィクション」への苦手意識からSF全般を遠巻きに眺めるだけだった私のような読者の偏見を取り払い、SFという広大にして肥沃な沼へと足を踏み入れるきっかけとなっています。
掲載作品の質の高さ、いずれも12,000字以内の短編であることからくる読みやすさ、インディーズ作家の発掘によってもたらされる風の新しさなどから、Twitter上で読者による感想の投稿や意見交換が盛りあがり、能動的な読書を促す、SFの読み手及び書き手の裾野を広げるなど、日本のSFシーンの活性化において大きな役割を果たしています。
これらの貢献を高く評価し、また、さらなる発展への期待をこめて、当プロジェクトを日本SF大賞に推薦します。"
蜂本みさ「冬眠世代」匿名希望
"知的に進化した熊たちの、冬眠をめぐる物語。語り手となる三世代の熊たちの、さらには「夢」によって繋がった先祖たちの、時を越えて連なる数多の熊生を見せてくれるこの作品がたった7,363文字の掌編だということが、未だに信じられません。
滋味豊かな文章と唯一無二の世界観に手を引かれ、重層的な構造と挟みこまれる断章に幻惑されながら連れてゆかれる先に広がる景色は、幻想的でありながらも素朴で、寂しくも温かい。遠いはずの世界をいつかのどこかに確かに存在するものと信じさせてくれた上で、現実を生きる読者の思考と感情にゆさぶりをかけるというSFの力を十全に発揮しつつ、その定義をさらに広げた本作は「SFとしてすぐれた作品である」「このあとからは、これがなかった以前の世界が想像できないような作品である」「SFの歴史に新たな側面を付け加えた作品である」という条件全てを高水準で満たす、日本SF大賞にふさわしい作品です。"
北野勇作【ほぼ百字小説】北野勇作
" 自薦です。【ほぼ百字小説】は、2015年からほぼ毎日ツイッターに投稿された超短編群。同様の形式はすでにありますが、
1 一人の作者による3000篇以上の超短編。その量と質の高さは、SF大賞にふさわしい。
2 六年以上に渡って書かれることにより、それぞれの百字小説の間に時系列や因果関係が発生している。その取捨選択と配列によって新しい表現を作り出すことが可能。超短編群において、それはこれまでになかった新しい要素であり切り口。SF大賞にふさわしい。
3 朗読自由を表明している。小説の朗読、という行為が開く世界。短さとその多様な内容が、朗読を身近にする。小説がこれまでになかった世界を出現させる、というその要素は、SF大賞にふさわしい。
 自画自賛はまだまだできますが、四百字ではここまで。"
映画『夏への扉-キミのいる未来へ-』鬼嶋清美
SFオールタイムベストでありながらこれまで映画化されてこなかったロバート・A・ハインラインの名作『夏への扉』を、21世紀の日本で映画化されるとは考えもしなかった。そのことだけでも製作陣のチャレンジ精神を称えたいが、原作のセンスオブワンダーとウェルメイドな展開を近過去から近未来の日本を舞台に置き換えて映画化した三木孝浩監督をはじめとしたスタッフの皆さんと、青春映画としての瑞々しさをもたらした山崎賢人さん清原果耶さんらキャストの皆さんの力で、考えられ得る最良な形の『夏への扉』映画版が生み出されたと思う。きっとこの映画は5年後10年後30年後も原作とともに観られるだろうし、この映画が開けたドアは未来のSFファンへ通じるという確信を捨てようとはしないのだ。そしてもちろん、ぼくはこの映画の肩を持つ。
迷子『プリンタニア・ニッポン』あやこ
"Twitterによくあるゆるふわ動物癒し系マンガかと思ってました。最初は。
2巻まで出ていますが、ゆるふわもちもちの間に見え隠れする世界の不穏さ、生まれた時から不安定な世界を生きる登場人物とプリンタニアたちの描写と、ものがたりの作り方、ひさびさにちゃんとしたSFが描ける作家さんではと思います。
おススメです!!!!!"
荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険 Part8 ジョジョリオン』久永実木彦
あれっ? 『ジョジョリオン』の最終巻って9月発売じゃなかったっけ? ……とお前は言う。はッ! このマヌケッ! 最終回が掲載されたウルトラジャンプの発売日は2021年8月19日であり、今年の日本SF大賞の対象期間にきっちり完結しているッ! つまり、完結していないことを理由に評価が不利になることもないなあーーーッ! わたしが『ジョジョリオン』をSFとして推すのは、作中に登場する珪素生物『岩人間』の素晴らしさゆえである。『岩人間」の赤ん坊(体長28mm、体重15gほど)は女王蜂に寄生して17年間過ごしたのち、急成長して巣の蜂を皆殺しにし、以降は人間のフリをして人間社会に潜りこむ。この異種としての設定がもう素晴らしいが、なかでも非常に(ディ・モールト)素晴らしいのは彼らが炭素生物が行き詰まった際の『滑り止め』であることが示唆されている点である。圧倒的SF度! おれは推薦するぞ! ジョジョーーーッ!
日本SF作家クラブ編『ポストコロナのSF』伊野隆之
「コロナ禍」の今を正面から見据え、時代を記録するという役割を果たしたアンソロジー。収録作品のクオリティと多様性に加え、テーマ設定をレバレージとして普段SFを手に取ることのない読者へも訴求するとともに、日本ではあまり一般的では無いテーマアンソロジーの成功事例として、もしかするとSFのマーケットのあり方も変えるかも知れないという期待を持って推薦します。自作も収録されてます。
TV番組『ヨーロッパ企画のYou宇宙be』
昨年11月から今年3月まで不定期で5回の放送されたヨーロッパ企画とフジテレビ 新感覚SF総合バラエティー番組。SFドラマ、SFコント、昨年のSF生配信劇のドキュメンタリーなどありとあらゆるSF作品の詰め合わせです。TENET公開からわずか2カ月程度で放送されたパロディーショートムービー「トネッテ」が衝撃的でした。Youtubeでもみれます!
長月達平・梅原英司『Vivy Prototype』
2021年4月から6月に放送された「Vivy -Fluorite Eye's Song-」の原案小説。原作小説ともノベライズとも別の位置づけでアニメの脚本を書きおろすために執筆された珍しいタイプの小説です。ライトノベル作家の長月氏と脚本家の梅原氏による共作でアニメでは排除された難しいSF設定、各キャラの掘り下げがアニメより深く非常に読みごたえがあります。
宝塚歌劇団宙組公演『FLYING SAPA -フライング サパ-』三色すみれ
"宝塚とSFという異色の作品かつ挑戦的ですが心に響き、考えさせられました。
惑星で記憶をなくした主人公が記憶をなくしたまま、運命に導かれるように謎のクレーターに
赴きます。
クレーターでは2組のカップルが交差する。
戦争、家族愛、恋愛、友情、人間の愚かさ、
そして希望が描かれています。
タカラジェンヌの美貌がSFの世界を演じると
無機質な美しさとして輝くのかと感心しました。
宝塚作品としては少ない歌唱シーンも
人気スターだからではなく作品に最適でそして
納得させられる歌唱力をもった2名のみに
与えられた作品で、
スパイスとなる歌唱シーンでした。"
映画『サマーフィルムにのって』三瀬 弘泰
"映画部に所属する時代劇が大好きな女子高生ハダシ
自分の好きな映画が撮れない日々に悶々としていたがとある出会いが彼女の監督魂に火をつける。
ストレートなボーイミーツガールなストーリーと青春要素。
昭和の名作時代劇を殺陣を交えて語るヒロイン。
そこに謎のイケメン青年登場!
このどこにSF要素が?と思いますよね。
序盤に王道のSF要素がぶち込まれてきます!
いろんなSF作品はあると思いますが、これは知らなきゃぜったい観ない!
SFを愛する人たちにはこの作品を外すなんてもったいない!
そういった思いでこの作品を推薦いたします。
時代劇にドハマリしてる女子高生ってのも十分SF的ですけどね。"
TVアニメ『PUI PUI モルカー』タニグチリウイチ
生きたモルモットがクルマになった世界、という仮構の上でモルモットの生態を勘案し、モルカーたちが起こし、あるいはモルカーが存在するからこそ起こる出来事を想像して描き、ヴィジョンとして示した。そこより人間の身勝手さを炙り出し、異種族との共存の可能性を見せて、未来に希望を与えてくれた。あとゾンビ映画でサメ映画でタイムトラベル映画だった。
大木芙沙子「かわいいハミー」宇賀
"感情のないロボットが様々な人間と出会う物語はこれまでいくつもあった。これからもきっとあるはずだ。『かわいいハミー』もまたそうした物語の一つである。そっけないほど素朴な文章で描かれるハミーの視点。それがどうしてこんなに心を揺さぶるのだろう。
これよりも「凄い」SFや「新しい」SFが今年も多くあったはずだ。私自身そうしたものをたくさん読んだ。それでも私が今年読んだ中で、家族友人をはじめより多くの人に薦めたい、また実際に薦めているのはこの小さな物語だった。できて間もないサイトに掲載された新人作家のたった一万字にも満たない小説が、その物語力だけで一時タイムライン上に何度も現れた。読んだ人がみな誰かに薦めんとしてRTしたからだ。「推し」をエントリーし、「隠れた傑作」を掘り起こそうとしているこの賞に、『かわいいハミー』は最適ではないかと考える。"
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万城目学『ヒトコブラクダ層ぜっと』タニグチリウイチ
天地人のそれぞれを名に持った3人兄弟がチグリスユーフラテスというゲームを遊んでいる様に、神様の国作りかと思ったらただのドロボウたちで、それで稼いだ金を元手に山を買って恐竜の化石を掘ろうとしたら捕まって、自衛隊に放り込まれてイラクへと遠征させられそこで異様な体験をする。いったいどこへ向かうのか。万城目ワールドならではの先がまったく見えない展開に翻弄され、突拍子もない設定に唖然とさせられる物語が誰にも至福の読書体験をもたらす。これがセンス・オブ・ワンダーだ。
日本SF作家クラブ編『ポストコロナのSF』樋口恭介
新型コロナウイルス感染症をフッテージとしたアンソロジー。自分の作品も含まれているので微妙なのですが、ここにおさめられた作品群のバリエーションの豊富さから言えば、自信をもって推薦することができます。天沢時生の「DQN・タオル・宇宙SF」には度肝を抜かれた。マジでヤバイ。
高野史緒『まぜるな危険』林譲治
換骨奪胎という言葉がありますが、この短編集は、ロシア文学(あるいはロシア社会)を下敷きとして、著名な短編を再構築するというものです。しかもその再構築されたものが、どれもSFに着地しているという恐ろしい技を披露している。これは再構築される元の短編を暗記するほどの熟読理解があって初めて可能なこと。文学の遊びといえば遊びだが、日本SFでいま一番手薄なのが、まさにそうした遊びの要素であると思うのです。
高山羽根子『暗闇にレンズ』天瀬裕康
この著者の作品は10年ほど前からSFの賞の候補になっていた。林芙美子賞や芥川賞が先行したがこの著者、著書の特長はSF的な持ち味にある。本書はハマの妓楼「夢幻楼」の娘・照を中心とした一族が、明治~昭和、日仏米と激動の時空をさまよいながら展開する。映画と映像にまつわる時空は、歴史そのものではあるまい。もしかしたら我々の知っている歴史が虚構なのかもしれないが、彼らは、最強の武器はレンズであり、撮ることは祈ることだと信じて、監視カメラだらけの街を歩き小型カメラで撮り続ける。それはSFと一般文学の垣が崩れた不思議な時空である。大宇宙にロボットが絡み、タイムマシンが登場するお子様SFに厭きた読者も少なくないだろう。その点、本書は将来にも評価の残る作品と思われるのだが、出版の波にもまれて初版後1年、本書を覚えている者も少なくなった。SFではないと言えるかもしれないが、あえてSF大賞に推薦する次第である。
相川英輔「星は沈まない」門田隆彦
"店長の発注ミスを起因として、コンビニエンスストアにAIが導入される。接客や会計などを完璧にこなすAI『オナジ』。人間は主役から引きずり降ろされ、AIに取って代わられる。
ここまでは遠くない将来現実にも起こりうる話だが、中盤から物語は分岐し、私たちのまだ見ぬ未来を見せてくれる。
ストーリーの妙もそうだが、とにかく『オナジ』が魅力的。『鋼鉄都市』のR・ダニール・オリヴォーや、『マーダーボット・ダイアリー』の弊機に匹敵するキャラクターが日本でも現れた。
至近未来SFの隠れた名作として推薦する。"
菊石まれほ『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』深恵遊子
"これほど衝撃を受けるSFがこの現代で生まれたことに私は敬意を表したく、推薦させていただきます。
ロボットと人間のバディ物。この言葉を一見しただけでは「鋼鉄都市」の焼き直しに見えるこの作品に私はいたく惹かれました。
人物、舞台、事件、伏線。この作品を彩るもものは数ありますが、最も素晴らしいのは「敬愛規律」の概念でしょう。
「敬愛規律」は平たくいえばロボット三原則のことです。これを未来ではどのように生活に寄り添っているのかリアルに描いているところがこの作品の特色と言えます。
人の心とは何か。心を機械が持つとはどういうことなのか。神経の塊である人間と何が違うというのか。ロボット三原則を下敷きとして今までのロボットものでは漠然と触れられていた領域に大きく踏み込んでいるSF大賞に相応しい作品だと思います。"
酉島伝法『るん(笑)』樋口恭介
"すごい力を持った小説です。読みながら本当に体調が悪くなりました。でも読み終えたあとの現実も同様に体調の悪くなるもので、言葉を失いました。初読時の感想ツイートを以下に抜粋します。
「『るん(笑)』読んでるときは「早くここから出してくれ…」という感想が去来してきたんだけど、読み終わって現実に帰ってきたら、「早くここから出してくれ…」という感想が去来してきた。 午後5:58 · 2020年11月28日·Twitter Web App」"
三島芳治『児玉まりあ文学集成』(3)DaysXMa≠na
"彼女の言葉は
文学的である

めくるめくレトリックの洪水に翻弄されるまま、
気が付けばありふれた学園生活の放課後の光景はもろもろと崩壊し、
おそろしく異様に、

記述されていた…

心ときめくスぺキュラティブ・フィクションが急展開を告げる第3集!
(つづきもたのしみ)"
海老原豊『ポストヒューマン宣言』海老原豊
自薦します。ポストヒューマンという最新潮流を意識してSF作品を論じてみたものの、この切り口は、昔からずっとSFにあったもの、もっといえば、人類と不可分な思想と関係しているのではないかと気づきました。もちろんポストヒューマンで個々の作品を論じることが寿分に楽しかったのですが、1冊できあがってみれば「SFとは何か」というジャンルを語る本にもなりました。この本の射程と野望は広い! と思います。(続編も書きたいです)
竹田人造『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』海老原豊
エンターテインメントとして完成していて、非常に読みやすい。登場人物の配置、ストーリーの展開、クライマックスやテーマの提示など、よく計算されている。(選評を読むとそれがステロタイプすぎる、という批判はあったようだが)本作のSFガジェットの肝である人工知能についての解説や議論も、難しい言葉が入りながらも、世界観の設定と、ストーリー上の仕掛けを説得力あるものに仕上げている。科学者なのか、それともエンジニアなのか? 人間的な知能なのか、人間以上の知能なのか? 作中で問いかけられる「大きな問い」がストーリーの進行と絡み合い、この物語の世界像の解像度を上げている。
日本SF作家クラブ編『ポストコロナのSF』海老原豊
「コロナが落ち着いたらさ」と枕詞に会話しているとき、「新しい生活様式」はテンポラル(一時的)なものとして了解されているが、ふと不安に駆られることはないだろうか。この生活様式は本当に一時的なものなのだろうか? これを機会に起こった変化は不可逆的なものではないのか? 本書はSF作家19人がコロナ禍以降=ポストコロナの人・社会・時代・世界を描いた短編集。パンデミックをテーマにしたSF作品は昔もいまもあり、いわばパンデミックに「免疫」のある作家たちが紡ぐ物語は、「新しい生活様式」がすっかり普通となった社会の断片だ。ここまで大きく想像力の射程を広げてほしい。SF作家だけではなく、現在進行形でパンデミックを生きる人たちに。そう思える短編集。
藤本敦也・宮本道人・関根秀真(編著)『SF思考――ビジネスと自分の未来を考えるスキル』海老原豊
今年でたSFプロトタイピング本のなかでもっともワークショップに寄せたものだと思います。これをマニュアルとして実際にワークショップをやれるのではないか? と思えるほどに詳細に手順や注意点が書かれています。SFプロトタイピングは「読んで終わり」というものではないので、ワークショップへの興味をかきたて、参加を促す本書は、この点において優れたプロトタイピング本だと思います。
樋口恭介『未来は予測するものではなく創造するものである ─考える自由を取り戻すための〈SF思考〉』海老原豊
SF小説家であり現役のコンサルタントでもある筆者が、SFとSFの想像力が可能にするイノベーションを語る本書は、SF論としても読めます。もちろんSFプロトタイピングの本でもあり、実際の取り組みや、その結果として完成した小説も入っていて、一読すればワークショップの追体験にもなります。個人的には筆者のSFの潜在的な可能性について、とことん語るという姿勢に共感できました。
宮本道人・難波優輝『SFプロトタイピングーーSFからイノベーションを生み出す新戦略』海老原豊
2021年の大きな収穫はSFプロトタイピングという概念と出会えたことです。知った今となっては「なんでもっと早く知っておかなかったのか」と思うほど、あって当たり前の概念となりました。日本におけるSFプロトタイピングのパイオニア的存在として本書を位置付けられると思います。
十三不塔『ヴィンダウス・エンジン』小林悠太
架空の症候群をトリガとしながら、現代のテクノロジーから手が届きそうで届いていない近未来を描いたファンタジー作品。科学的な世界観の中に、身体的な徒手空拳のバトルと最新兵器のバトルが織り込まれ、はたまた電脳の超進化生物に別次元への悟りと、二律対比の要素が散りばめられて、読者の世界観を揺さぶり広げてくれる作品です。テーマとして流れる様々な切り口での双子、鏡写しの多次元性の中に、倫理観や死生観も踊る様が、テンポよく繰り広げられる筆致で、知的興奮と共に爽快な読了感を味わえます。
石黒達昌(著)伴名練(編)『日本SFの臨界点 石黒達昌――冬至草/雪女』5京m
"架空のノンフィクションという形式で語られる物語は、世界から失われゆく知られざる存在の輪郭を描き出している。リアルな科学的手法の描写を交えつつ、対象から距離をおいた客観的記録を積み重ねた先に垣間見えるのは、生の本質とは生き延び永続することのみならず、存在を全うし消えゆくこともまたその一面に他ならないという生命観である。そして世界について理解し操作しようとする人間の理知の限界と、その理知の果てに現れる美しさでもある。真実を探求する科学という営為が生と死の切実な有り様と交錯するシチュエーションを、エッセンシャルな想像力と堅実な筆致によって描き出している。
科学的事実を理解することの必要性が人々の生とかつてないほど直結している現在に、本書の内容は深く響いている。"
酉島伝法『るん(笑)』5京m
科学とスピリチュアルが逆転した社会を描く連作短編集。作中の世間を覆う不気味な「無理解」はその内に生きる人々の暮らしを徹底的に損なっているが、それと裏腹に、主人公たちが体験する出来事や抱いている記憶は真に切実なものとして描き出されている。我々にとって本書は、正しい理解が失われることへの警鐘であると同時に、不確かな世界で生きる小さな個人の体験をすくい上げる慰めでもあると思う。こうして示されるのは、その人が真実を理解する正確さとは全く無関係に、人間の物語は面白くかけがえのないものとして存在しているということである。このような真実と人生のパラレルな関係を、本書では現実から地続きの異形の社会を構想することで、特殊な場合に限らない普遍的なものとして読者に突きつけている。科学的事実を理解することの必要性が人々の生とかつてないほど直結している現在に、人の営みの見過ごされてきた一面を浮かび上がらせている。
クリハラタカシ『ゲナポッポ』藤田一美
感染症禍にささくれた気持ちに、明るい色彩の表紙はうれしかった。表題『ゲナポッポ』はうどんの切れ端のような姿の存在の名前。ユーモラスで不条理、不可解ながら親しみ持て、ゲナポッポのことを、なんだなんだ?と考えるうちに、閉塞した日常を、なんとかやり過ごせる気になった。作者の発想の柔軟さとそれを表現する方法がたいへん好ましく思った。
安里アサト『86 −エイティシックス−』オオヒラ
"AI搭載の無人兵器の侵略に対抗する為、人権をはく奪された第86区の住民=エイティシックとして、多足戦車の「生体プロセッサー」という扱いでに送り込まれた少年少女たちの物語。
人種差別、生存率1%未満の過酷な戦場、崩壊していく国家、その中で問われる尊厳と矜持、そして出会いと別れという重いテーマを扱っていながら、登場人物たちの前向きさと、軽口、ブラックジョークやラブコメ要素にに思わずページをめくる手も軽くなる。
十三不塔『ヴィンダウス・エンジン』ヤクモ
"主人公は動かないものが一切見えなくなるというヴィンダウス症に羅漢した韓国人で舞台は中国成都、設定はぶっ飛んでいますが、中身は最近少ない本格SFという組み合わせが気に入りました。
会話のテンポやワードセンスも秀逸で、設定に頼りきらず読ませる作品になってます。"
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シェルドン・テイテルバウム&エマヌエル・ロテム(編)中村融・安野玲・市田泉・植草昌実・山岸真・山田順子(訳)『シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選』夜田わけい
シオンズ・フィクション イスラエルSF傑作選は私が読んだ中で最も印象深く重要な素晴らしい短編集だ。記憶の中に生きながらえようとする主人公たちを描いたラヴィ・ティドハー『オレンジ畑の香り』、保護地区のスロー族の差別を描いたガイル・ハエヴェンの『スロー族』、空間ワープフィールドでアレキサンドリア図書館にアクセスするケレン・ランズマンの『アレキサンドリアを焼く』。本著においてはイスラエルSFというものの存在を知らしめたという点が何よりも大きな功績に値する。
てのひらのうた製作委員会『てのひらのうた: 超短編小説アンソロジー』匿名希望
200文字~300文字のSF・ファンタジー・ホラーの超短編小説であること、六つのテーマのうち最大五テーマまで投稿できること。応募要項はそれだけの公募企画により誕生したプロ・アマチュア混合のアンソロジー。北野勇作『100文字SF』を想起させますが、文字数は2倍から3倍ですこし自由度が増している分さまざまな世界が広がっています。また41人131作を収録しているため、多種多様な超短編世界を覗くことができるのも魅力です。SFはまだまだ自由になれるということを表すアンソロジーだと思います。
牧野修『万博聖戦』ゆまひらゆうま
"色々クソやなとは思うけど、日々楽しく仲間と大笑いしながら過ごせばダイジョーブかなと思っていた。
最近は少し怖い、脅かされる感じがする、直感として。
でも腹立つからスタンスは変えない。なんならもっと冗談言ってバカ笑いして過ごすよ、という決意がより固まった。うんこ笑
#万博聖戦 #牧野修

上記、2020.11.27 01:52に読み終えたママの感想ツイートでございます。
現況はよりクソです笑
ゆえにこの作品が在り得たこと、読む機会にありつけたことが、より尊く、救いと感ぜられるのです。"
カズオ・イシグロ(著)土屋政雄(訳)『クララとお日さま』荒巻義雄  
 ノーベル文学賞受賞第一作の本作が、SFであるいう事実に注目。表題のクララは語り手の〈わたし〉であり、未来社会の普通の店で売られている商品の一つ、人工知能を持ったお友達ロボットである。しかし、読み進めると、設定はSFでも、文体はSFではない。もしかすると、この作品は、未来のSFが純文学へと変貌する姿を先取りしているのかもしれない――と、直観する故に、気になる作品である。  
ジョナサン・スウィフト(著)高山宏(訳)『ガリヴァー旅行記(英国十八世紀文学叢書2)』荒巻義雄
" 幼稚園のころに読んだ絵本以来、いろいろな「ガリヴァー」訳を読んできたが、今度出た高山訳は驚くほど完璧である。「出版社より読者へ」というリチャード・シンプソンなる人物の著作紹介が冒頭にあったことも、はじめて知った。さらに、最後に「ガリヴァー船長の従兄シンプソン宛書簡」なるものもあり、これも初見参。などなど、これだけ揃っていれば、SFファン必携の宝箱だ。18世紀人スイフトは、まさにマニエリストであり、SFの元祖の一人だったのだ。
"
筒井康隆『ジャックポット』荒巻義雄
" 日本文学における特異なあの形式、私小説というものを解体した、筒井式〈脱構築〉短編集と言うべきであろう。書名の『ジャックポット』とは、スロットルで7が3つ揃うなどの大当たりの意だ。ハインラインの『大当たりの年』にひっかけられている。白眉は胸詰まるような短編「川のほとり」だ。この川は三途の川のこと。亡くなった筒井伸輔さんには、美術系大学受験の前に一度会ったことがある。 蜻蛉の装画も伸輔さんである。
"
竹田人造『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』匿名希望
AIが日常に入り込んだ近未来がよく描かれている。現時点でのAIの応用と限界がよくわかると思う。テンポよく進むリーダビリティの高い作品で、ストーリーの運び方はいかにも娯楽映画的だが、一方で安心して読める。
佐川恭一『ダムヤーク』佐川恭一
本作品集の表題作「ダムヤーク」は、謎の言葉とそれに伴う不可解な動作が世界中に蔓延していき、当初は下らぬ現象を引き起こすのみと思われたものの、それが徐々に深刻化し、人類の文化を滅ぼしかねないことが示唆されるという筋である。SF的なパンデミックものをユーモラスに料理した本作は、コロナ禍を予想していたかのような作品とも、ミームがいたずらに増殖するSNS社会への警鐘を鳴らす作品とも言われ、現在読まれるべき最重要テクストの一つであると言う者も何名か観測されている。荒唐無稽とも思える展開(そしてそれ故小説に豊かな奥行きが生まれていると言う者も数名)は、執筆当時生活に追われシュルレアリスム的自動筆記に近い執筆法を採らざるをえなかった、という著者の現実的事情によるところが大きいが、とまれ著者の想像力が外的要因によって最大限に引き出された今作は、SFの新たな地平を切り拓いたと言えよう。なお、自著である。
TVアニメ『PUI PUI モルカー』浅木原忍
かわいらしいモルモットの車たちが繰り広げる、キュートでちょっとブラックなパペットアニメである本作は、同時に作品全体が「AIによる自動運転社会」のメタファーになっている。運転手の意志と無関係に判断・行動する車(1話、3話、12話)や、自我を持った車と人間との関係(2話、4話)、そして自我を持った車自身の権利の問題(10話におけるアビーの自己決定権)まで視野に、あり得べき自動運転社会のひとつの形を夢想したSFとしてぷいぷいしたい、もとい推薦したい。ぷいぷい。
久永実木彦『七十四秒の旋律と孤独』三笠
宇宙時代を描いた表題作は主人公の戦闘ロボット紅葉が起動していないうちにあっという間に何十年も経過するのですが、紅葉の活躍や想いはクライマックスの僅か七十四秒に集約されていて、その時間的構造がとにかくスゴいと思いました。時間的構造はその後のマ・フ・クロニクルでさらに巧みになっていて、こちらは人類の滅亡、復活、没落、再興が描かれているのですが、数万年先の遠未来がじつは表題作の数万年前の遠過去にも見えるという仕掛けになっています。この時間の円環構造が主人公ロボットのナサニエルの循環する思索と呼応していているところがまたすごいところです。ナサニエルの人生(マ・フ生?)は希望と絶望の間を巡るものでしたが、最後に希望を残す優しいエンディングは宇宙の回転が螺旋状であり、同じような歴史や過ちを繰り返したとしても知性は少しずつ前に進めるんだというメッセージにも感じました。すごいものを読んだという感じです。
新城カズマ(著)伴名練(編)『日本SFの臨界点 新城カズマ――月を買った御夫人』竹田人造
うっかり読み耽ってしまうのにぴったりな短編集です。
初手のノンストップ街頭演説サスペンスから手が止まりませんでした。サスペンス以外にもお嬢様系、聖書パロ、疑史モノと、ネタのバラエティがとにかく豊富で、そこに追従する文体の変化ぶりもカメレオン以上。
こんなに変幻自在に書けたら生きてて楽しいだろうな、などと思わずにはいられません。
個人的な一番は、表題作と『議論の余地はございましょうが』の二択です。ベクトルは全く別なのですが、どちらも最後はほろりと来てしまいました。
アジアSFアンソロジー製作委員会『万象: アジアSFアンソロジー』匿名希望
「アジアとSF」をテーマにした実力派アマチュア作家(発行当時)によるアンソロジー。全て1万字にも満たない掌編作品のみの収録だが、想像力を掻き立てる内容の作品ばかり。アジア出身作家によるアンソロジーは増えているが、アジアそのものをテーマにしたSFアンソロジーはまだ少ないのではないか。表紙イラストも見事です。
竹田人造『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』竹田人造
自推で失礼します。「帯に書ける肩書が欲しい」を分厚いオブラートで包んで、推薦の理由をご説明させていただきます。
SFにおけるAIって、被造知性の思考実験用の道具として扱われることが多いのかなと思うのです。全然そんな事なかったら、もうすみません。
それに対し、本作は徹底して“道具としてのAI”を描いており、そこに夢を見ることを止められないエンジニアという形で、異なる知性への道を表現しています。ある種、AI(というより機械学習)が身近になった時代ならではのSFを開拓した……ということにして貰えませんでしょうか? 思ったほどただの藤井太洋先生フォロワーの成り損ねでもないってことになりませんか? 意外と深いと誰か勘違いしてくれませんか。いかがでしょうか。
読者と選考委員のみなさまの過大評価を心よりお待ちしております。
宇佐楢春『忘れえぬ魔女の物語』タニグチリウイチ
夏休みの2週間が8回にわたり繰り返されるテレビアニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』のエピソード「エンドレスエイト」に覚えた困惑を、今一度味わえる作品だ。生まれたときから同じ1日を数回、たいていは5回ほど過ごし、そのうちの1日がランダムに選ばれ翌日へと繋がる人生を送ってきた綾花という少女が、運命の少女と出会いながらも悲劇的な2日が訪れ、混乱に陥る。宇宙を観測できる人間の存在が、時間という概念を作り出しているのかもしれないと思わされる設定の深さに嘆息し、固すぎる時間の檻から抜け出すための方法も考えさせられる物語だ。
TVアニメ『ゴジラS.P<シンギュラポイント>』miyo_C
とにかく、毎放送ごとの引きが強く、次週の公開が楽しみになる作品でした。
ゴジラのアニメ?
今更ジェットジャガー?
そんなこと、ごちゃごちゃ言わずに一度見たらこれぞSF大賞にふさわしいとあなたも思う!かもしれません。
シリーズ構成、脚本が円城塔さん。こんなにもエンターテインメントに振った脚本を書けること、新しい一面を見せてもらいました。推します!
十三不塔『ヴィンダウス・エンジン』えぬ
近年の中国SFの勢いは物凄く、黄金期と言えるかもしれません。昨年も立原透耶氏が特別賞を受賞したように、中国は一つのキーワードだと思います。そんな情勢の中、本作品の作者である十三不塔氏は、大胆にも中国自体を舞台にしました。日本の作家が中国を書く――まずはその挑戦を称賛したいです。加えて本作品は、中国のダイナミズムをうまく捉えた結果、電脳世界という大掛かりな仕掛けを矛盾なく成功させています。挑戦と成功。新人作家がその2つを達成したことを高く評価してください。
竹田人造『人工知能で10億ゲットする完全犯罪マニュアル』えむ
過去に『浸透と拡散』があり、SFは他のジャンルと交じり合った――そんな話を聞いたことがある。一方でSFプロパーは、心のどこかで他ジャンルとの差別化を願う部分がある。SF独自の尖った作品を楽しみ、SFの定義で盛り上がる。そして出版社も、このファン層を取り込むための戦略を練っている気がする。たぶんね。悪いことではないと思うけど、僕は古い価値観なので、更にSFを盛り上げるためにはプロパーの外の読者にも響かせたいと思う。本作品は、SFとしての筋を通しながらも、エンタメに強く力点を置いている。近年、ここまで一般受けするお話はないんじゃないかな?SFジャンルのためにも、本作品は評価されるべき。
大木芙沙子「かわいいハミー」関元 聡
ロボットの視点を通じて、感情とは何か、幸せとは何かを丁寧に描いた傑作短編です。SFですが難しい用語は何もなく、優しく穏やかな語り口で子供たちにもお勧めできます。また読む度に様々な発見があり、読み手の年齢や立場によっても見え方が変わる多面的な作品だとも思います。私は、幸せとは人とのつながりの中にあると同時に、自分の心で主体的に選びとるものだというメッセージと受け取りました。日本SF大賞受賞作として是非たくさんの人に届いたらいいなと思います。
TVアニメ『Vivy -Fluorite Eye's Song-』タニグチリウイチ
100年後、AIが人類に反旗を翻して起こす大虐殺を阻止するため、未来から時間を遡ってきたというAIに従って、歌姫のAIが歴史の修正に挑むが……。AIの自律と歴史の改編という2つの大きなSF的主題を巧みに絡み合わせ、スリリングでなおかつ驚きをもたらす物語を作り上げた。
芝村裕吏『マージナル・オペレーション改』オオヒラ
歩兵の戦争という一見地味な内容を題材に、後進国の少年兵、先進国の少子化による歩兵不足、大国同士のパワーゲーム、PMC、ドローン兵器、情報システムによる用兵の変化など、最新のテーマを織り交ぜて綴られる痛快英雄譚である。
本作は全5巻で完結したマージナル・オペレーションの続編にあたり、前作には登場しなかったドローン兵器「まめたん」や、米軍との共同戦線、空爆や戦車なども登場しスケールアップした戦いが繰り広げられる。
また、前述のまめたん以外にも、他の芝村作品で登場した人物や組織が登場し、独自の世界観を共有しているのも特徴である。
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和久井健『東京卍リベンジャーズ』大野和寿
殺された昔の彼女を救うため、過去へのタイムリープを繰り返す不屈の闘志を持つ主人公。何度、悲劇の現代を改変しようとも、新たなる障害が現れ、彼女の命は救われない。一体、どうすれば彼女が死なない現在・未来が来るのかを、サスペンス要素たっぷりに描き、プラス魅力溢れる不良たちの抗争と絡めるという、アクロバティックすぎる作劇は、21世紀のSFの一頁をめくったのでは。
高野史緒『まぜるな危険』高野史緒
筆の遅さ、病状、年齢からして最後のチャンスだったとしても不思議ではないので、図々しくも自薦させていただきます。当該作家はデビュー当時から「一人一ジャンル」と言われた他に類例のない個性的な作風を持ち、本書はそれを遺憾なく発揮したものかと思われます。本書は今年度の第四回細谷正充賞の受賞作であることも、その質の高さを証明していると言えましょう。同賞受賞者からは複数の直木賞や星雲賞も出ておりますので、同賞による評価は確かなものかと思っております。よろしくお願いいたします。
津原泰水「カタル、ハナル、キユ」匿名希望
「ポストコロナ」のテーマでも最もデリケートで扱いにくい「亡くなった者」への想いを真っ向から描きながら、相変わらずの津原節で目に見えない「病」を捉え、それを架空の(いや、もしかしたら存在するのかもしれない)音楽文化と共に表現した怪作。収録アンソロジーの他作が”SF”的にコロナウイルスや伝染病というものを緻密に分析、あるいはそこから飛躍して物語に反映させていた中、本作の”想像力”は一歩先を行っていたように感じる。他作品が”ポスト”コロナの号令のもと、未来志向、その先、これからの私(たち)、といったものを表現していた中、無念にも亡くなってしまった人たち(またその想い)を丁寧に、そして割り切ることのできないままに想い、読み取り、追悼したその想像力、優しさも評価したい。ぼんやりと響き続けるイムのように、亡くなった人たちへの想いを胸に留めて”ポスト”コロナを眼差す、これぞSFと呼ぶに相応しい一作。
映画『Arc アーク』タニグチリウイチ
人が死に勝つとは、死を克服するのではなく、死を受け入れることなのだ。ケン・リュウの短編小説「円弧(アーク)」を原作に『蜜蜂と遠雷』の石川慶監督が実写映画化した『Arc アーク』は、そう諭される映画だった。不老が現実となった世界で、施術を受けたもと受けられなかった者の間に生まれた流れる時間の違い、そして離別の悲しみをどのように人は感じ取り、受け入れていくのかといった展開を、静謐な映像とモダンな背景で描いた。
TVアニメ『ゴジラS.P<シンギュラポイント>』白龍
国内外で数多く作られたゴジラシリーズの中で、放射能という要素を排除し、物理学的要素から新たな解釈で怪獣を再定義したこと、日常が非日常に取って代わられる様を現実と地続きの世界で描き出したこと。そしてSF作家とSFに長けた監督がガチで組んで練り上げたら、アニメでこんなハードSFが作れるんだ!と驚愕させられた作品です。加藤和恵先生の等身大のキャラが魅力的で、でも内面なんてものをすっ飛ばして理論でぐいぐい責めていて、それが面白いというかつてないテイスト。何よりシンギュラリティを超えた存在として描かれる2人のAI-ペロ2とジェットジャガーが、それでも主人に寄り添い、自己犠牲を持って世界を救おうとするさまが、AIといえば暴走して人類を滅ぼすもの、という観念がはこびっているSF界において、大いなる救いをもたらしたと感じました。
日本SF作家クラブ編『ポストコロナのSF』宗方 涼
「小説よりもめちゃくちゃな事実なんて、誰も求めてないよ、ばーかばーか」(by池澤春菜会長〜まえがきより)と、パンデミックに翻弄されながらも抗った、19編プラス鬼嶋清美事務局長(当時)によるSF大賞受賞を巡るドキュメンタリーは、その心意気とともにこの1年を代表する1冊であると考え、推薦します。
吟鳥子・中澤泉汰(作画協力)『きみを死なせないための物語』BB
最終話を読み終えたとき«٩(*´ ꒳ `*)۶»「物語のその先を知りたい!」という思いと「見事な着地でこれ以上の結末が思い浮かばない」という気持ち良すぎる読後感に浸れる作品。
そして、いかにもSF的な「宇宙に浮かぶコロニー」という舞台装置が、タイトルが、何重もの意味を持っていること気付く。
ハラスメントが極端に排された人間関係、愛と生殖、命の価値、人類の進化と宇宙進出…。
色々なテーマが印象的に(しかし子どもも理解できるわかり易さで)描かれているけれど、大人になったからこそ"現在でも近未来でも根本的な考え方は変わらないであろう"ことに気付けるのかもしれない。
人類は果たして"その先"へ行けるのだろうか。
読む人を選ばない、老若男女問わずおすすめできる名作です
VRゲーム『ALTDEUS: Beyond Chronos』5京m
プレイヤーの視点となる主人公のクロエは、人類の敵により最愛の人コーコを失った痛みを抱えたまま、巨大兵器のパイロットとして戦いに臨む。
「自らの腕とリンクする搭乗型ロボットの操作」
「巨大な未知の存在との、生身での対峙」
「VRであることを生かした作中AR技術の自然な体験」
「物理の制約を受けないバーチャルアーティストによる、目の前から遥か彼方まで視界全面で展開されるパフォーマンス」
等、SF的想像力によるビジョンが心を奮わす眼前の出来事としてVRで現実化される。それによって紡がれる物語にプレイヤーは体と心で触れ、その存在感によって深い感銘がもたらされる。
見たこともないものを生み出すセンスオブワンダーの表現の、新段階を切り開いている。
吟鳥子・中澤泉汰(作画協力)『きみを死なせないための物語』First_Noel
ある人には理想郷、ある人には地獄である近未来の宇宙コロニーにおける人間模様を描いた重厚なSF少女漫画です。宇宙考証を徹底して宇宙工学に裏打ちされたその舞台は現代技術の延長線上にあって、従ってそこで生活する人々は読み進めればいつしか我々自身と地続きとなっており、実は我々がいま抱えている多くの社会問題をこの作品は取り扱うことから多くの読者の心に響くとともに大きな救いともなり得る作品です。
劇場アニメ『シン・エヴァンゲリオン劇場版』タニグチリウイチ
1995年のテレビ放送から始まり最初の劇場版を経て序破Qを経た「エヴァンゲリオン」シリーズに決着を付け、生きづらい世界をそれでも生きていくための糧をもたらしてくれた。あるいは同作を含めた「エヴァンゲリオン」シリーズ全体として、完結を機に改めて授賞すべきではないかとも考える。
夜田わけい『霧雨が降る中、私は傘を差してルビが降るのを防いだ。』夜田わけい
鮭を神として崇めまつるカナダの少数民族の末裔として生まれた主人公の自己のアイデンティティの揺れが、物語の外注という枠物語的な設定に昇華され、Wordファイルで可能な形式としてあらゆる芸術性を可能な限り追求しており、その作品の構成や設計は比類なき芸術の域である。
夜田わけい『バルブオイルの25時 私はいかにして記憶のない小説家になったか』夜田わけい
時間の遡行というTENETで題材にされたテーマをも包含しながら、主人公のかつての過去が文字を逆から書くという通常の物語の時間軸の遡行のテクニックとして昇華されていて、可読性を極限まで失わせており、物語として極限の域に達している。
夜田わけい『無摩擦の世界』夜田わけい
イリヤ・プリゴジンの哲学とリミックスされた可能な限りの可読性を度外視した複雑なルビの構成や物語の設計によって、通常の文章芸術の領域を極限まで超越した、円城塔『文字渦』に比級する高度な芸術性を達成している。
夜田わけい『エターナロイド』夜田わけい
あらゆる音楽という音楽のリミックスであり、吹っ切れた言語である。色文字、絵文字、フォントの変換、ルビを使った遊び、文字の掠れ、歌詞の引用、科学記号、そういったあらゆるものが集約され、一つの作品として結実している。物語はごく普通のボーイミーツガールだが、そこにサンドウィッチされるエターナロイドの北条紗雪の書く小説が、またどれもこれも遊びとなっていて、小説内小説として比類ない。そして物語の世界は二つに分岐し、時間逆行のところでは逆方向に書かれた文字が現れ、通常の可読領域では不可能な高度な芸術性の域に達している。
諫山創『進撃の巨人』タニグチリウイチ
異形のモンスターを相手にした凄絶なバトルを描いて衝撃を与え、そして世界を押し広げることによって関係性を逆転させ、人が生きることの意味を問い戦うことの厳しさを説く物語りへと発展させていった。類い希なる想像力と確かな構想力によって貫かれた傑作だ。
久永実木彦『七十四秒の旋律と孤独』える
いま会社がテロリストに占拠されています。みんな携帯を没収されましたが、私は携帯を持っていないと嘘を吐きました。なぜならエントリー初日である今日のうちに、この推薦文を提出したかったからです。
私は本作品を強く推します。間違いなく傑作だと思うからです。
本作品はリーダビリティの高さや優しい文章で人気を集めますが、私は『公平性』というテーマに惹かれました。差別や格差が問われる現代社会において、このテーマは重要な意味を持ちます。
私は三冊購入し、うち二冊を友人のえむ氏とえぬ氏に贈りました。二人は私に「とても面白い。この作者の小説ならいくらでも読みたい」と言いました。特にえぬ氏はAmazonで絶賛の感想まで書きました。私の知るかぎり、読んだ人間の100%がこの作品を傑作だと言います。
試しにテロリストにも一冊渡してみました。泣きながらテロは止めると言っています。これは現代の聖書なのかもしれません。
久永実木彦『七十四秒の旋律と孤独』星野☆明美
「行き先は特異点」で最初に目にしました。その後電子書籍で読んだときに、マ・フと呼ばれる主人公のロボットが、宇宙貨物船が特殊な航行をする七十四秒間敵と闘って、力尽きる寸前に青い眼の彼女の元へ行く話に相まって、In your blue eyes.と書かれていていいな、と思いました。その後単行本が出て購入したら、他のマ・フたちが出てくるクロニクルになっていて、お得な気がしました。
空木春宵『感応グラン=ギニョル』門田充宏
一冊にまとまるのが待ちきれず、短編「地獄を縫い取る」を昨年の日本SF大賞にエントリーしてしまった空木春宵待望の初単著である。刊行が告知された際、私は本書は必ず今年の大きな収穫になるとTwitterで呟き、そしてそれは当然のように現実となった。無論予知能力の賜物ではない。本書に収載されている作品のうちどれか一作でも読んでいれば、百人が百人同じ結論に到達しただろう。本書で描かれている作品はどれも、まるで分厚い抜き身の刃物、それも的確にこちらのもっとも弱い部分にぞぶりと突き立てられるもののようだ。普段目を逸らしている、だが世界に確実に存在している痛みと苦しみ。それを描き出す作品は他にもあるだろう。だが本書が優れているのは、そうした感情を読者自身の内側に発生させるところにある。観客でなどいさせない、いさせてたまるか——何よりもまずその凄みを、自身の身をもって是非体験して欲しい。
久永実木彦『七十四秒の旋律と孤独』門田充宏
第8回創元SF短編賞受賞作である表題作では、朱鷺型人工知性(マ・フ)のみが認知可能な七十四秒間に起きる物語が端正な文章で綴られている。ヒトと共に働き、しかしヒトではないマ・フが求めたものが明らかになるそのラストの美しさに、溜息をついたのは私だけではないだろう。その始まりの物語から続くのは、語られることのない欠落の時期を越えた先の出来事だ。かつて確かに在り、今は失われたものを信じるマ・フたちの規律正しい生活は、やがて少しずつ「特別」になっていく。作者が静かな文章で綴るその物語は、ヒトでないものが痛みを知り苦難を越える過程であり、マ・フたちがその経験の先にそれぞれの選択を行う姿は、読者の心を静かに、だが深く揺さぶることになるだろう。もしまだ未読の人がいるのであれば、主人公であるナサニエルの選んだ道に、そしてそれを象徴する最終話のタイトルに、是非触れて欲しいと心から願う。
久永実木彦『七十四秒の旋律と孤独』久永実木彦
マ・フと呼ばれるロボット――人工知性体の数万年にわたる神話的年代記である。彼らは人工物ならではの純粋な感覚器官を通して、美しいものを美しいものとして感受する。しかし人間の理不尽が彼らの電子頭脳に怒りや恐怖、嘆きといったよどみのようなものを生じさせる。嘆きは愛を生み、愛は嘆きを生む。長い年月の果てに、彼らの認識と記憶はどこへたどりつくのか――。新たなる古典ともいえるこのSF叙事詩が、多くの人に読まれることを願ってやまない。あなたはそこに知性にたいするいくつかの普遍的な問いかけを見つけることができるだろう。なお、自著である。自著を推薦しているからといって、彼は賞がほしくて小説を書いているのか? などと思うなかれ。そんなもののために小説を書くことはない! 大好きな作品だから推薦するのだ! 本作には、わたしが美しいと思うもの、残酷だと思うものを詰めこんだ。次回作が出るまでは、これが最高傑作である。
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