第37回日本SF大賞エントリー一覧

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漫画・大崎ミツル、ストーリー協力・砂阿久雁、世界観監修・長谷敏司『天動のシンギュラリティ』匿名希望
高度な技術を魔法のように扱う時代の近未来ものマンガです(今だ連載中でそろそろ終盤)。
作中に登場する「紅螢(ホンイン)」というキャラクターが実にすばらしい。
高度な技術やAI、ロボットが居る中で「人間」として苛烈に生きている様が印象に残りました。マンガではビジュアルが楽しめ、巻末の小説ではより詳しく読むことが出来て、さらに「BEATLESS」から続くアナログハックオープンソースともつながる実験的な作品です。
個人的な理由で推薦してもかまわないとの事なので、今年この本が出てよかったと思えるので推薦します。
小林泰三『失われた過去と未来の犯罪』小谷真理
人類全体に、記憶が十分くらいしかもたない、いわゆる長期記憶障害が起きてしまったら? 本書は、この想像したくもないifの状況を、淡々と詰めていく。でも、しおらしい破滅SFではけしてない。あの、黒い笑いの小林泰三なのだ。人類を襲う危機又危機。手作りの発想でいちいちその場を乗り切ろうとするけなげ(?)な人類。「えっ、そっち行きますか、まじですか?」と何度唖然としたかわからない、まさに抱腹絶倒、想定外の展開であった。まさに七転び八起きしてしまう人類のサバイバルの秘訣(?)を暴いた傑作。絶好調の作者の想像力に感服です。
北野勇作『カメリ』桔梗花
泥とあるのに脳裏に浮かぶのは泥ではないコーヒーとカヌレとアコーディオンが聴こえる川沿いのカフェ。美しい写真は載っていないのに旅に行きたくなる不思議。現実には無いものだらけの世界でこんなにも日常を感じることができる感覚がスゴイ。
藤元登四郎『〈物語る脳〉の世界―ドゥルーズ/ガタリのスキゾ分析から荒巻義雄を読む』大和田始
「シュルレアリスト精神分析」に続いて、著者がふたたび荒巻義雄にとりくんだ長編評論集。前回はダリのパラノイア・クリティックを援用しての分析だったが、今回は荒巻の初期作品を、それより後に登場したドゥルーズガタリのスキゾ分析にもとづいて分析している。日本SFの稀有な達成である荒巻作品を多角的に分析して見事である。「SF機械」とか「脱領土化」などの用語も楽しい。
アニメ『コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜』沈流
昭和20~40年代を中心に、日本の漫画・アニメ・特撮史を「それらの登場人物たちが現実に存在した世界」として再構成した意欲作。
その緻密な世界設定は、綿密な時代考証に基づいてリアリティをもって描かれ、メタフィクションを得意とする原作者ならではの作品と言える。
また2016年は「特撮史を代表するヒーロー達の周年記念」「ゴジラの復活」「米大統領の広島訪問」「オリンピック」等、奇しくも作中でモチーフとなったキャラクターや事件が復活したかのような話題にも事欠かなく、本作品のTV放映にオーバーラップする形で視聴者をも現実と虚構の狭間へと誘ってくれた。
樺山三英『ドン・キホーテの消息』岡和田晃
セルバンテス没後四百年の節目にあたる今年陽の目を見た本作は、“最初の近代小説”を大胆にアップデートさせた快作だ。数ある“ドン・キホーテもの”のなかでも、大江健三郎『憂い顔の童子』や殊能将之『キマイラの新しい城』のような新しい作品がふまえられているが、中核にあるのはホルヘ・ルイス・ボルヘス「『ドン・キホーテ』の著者ピエール・メナール」が直面した創作と批評の不可能性へと、果敢に切り込む蛮勇だろう。レイモンド・チャンドラー風の探偵小説を擬した語りには安定感と、川崎康宏『銃と魔法』を彷彿させる愛嬌がある。海外文学の研究者や愛読者は趣味的な空間に自足し状況へ関心を持たないと思われがちだが、本作には近代そのものを問い直す過程にて、「みんな」でスケープゴートを探して回るSNS時代の同調圧力を相対化する強烈な批評性がある。(「図書新聞」 2016年9月10日号、連載文芸時評での言及箇所を抜粋)
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ロブ・ボイルほか『エクリプス・フェイズ』岡和田晃
ブルース・スターリング『スキズマトリックス』を一つとモデルとしたポストヒューマンRPGの基本ルールブック。シンギュラリティが到来した未來の太陽系を舞台に、肉体や遺伝子に改造を施したトランスヒューマンを演じる。日本語版の文字数にして百万字を超える大著で、ナノテクや知性化動物など、SFのありとあらゆるシチュエーションを表現できる材料が揃っている。グレッグ・イーガンやチャールズ・ストロスなど新世代のSFの要素を貪欲に取り込んでいるのも特徴だ。「SF Prologue Wave」上では長く小説企画が継続しており、また、「ナイトランド・クォータリー」Vol.06では、ケン・リュウの『エクリプス・フェイズ』小説「しろたえの袖(スリーヴ)――拝啓、紀貫之どの」が訳載された。「Role&Roll」上でのシナリオやリプレイ記事とも連動しつつ、SFとゲームを横断しつつ両者の結節点を探る壮大なシェアードワールドは、ジャンルの垣根を打ち破る潜勢力を秘めている。
藤元登四郎『〈物語る脳〉の世界―ドゥルーズ/ガタリのスキゾ分析から荒巻義雄を読む』岡和田晃
藤元の前著『シュルレアリスト精神分析 ボッシュ+ダリ+マグリット+エッシャー+初期 荒巻義雄/論』は、自費出版ながら第33回日本SF大賞の最終候補作に選出された驚嘆すべき著作であった。本作では前著の方法論をいっそう洗練させ、文字通りに“SF・文学・現代思想を横断し「脱領土化」する、平滑的な比較精神史”が提示されている。一貫しているのは、どこまでもSFをカウンター・カルチャーとして捉える観点なのだが、それは分析ツールとして用いられるドゥルーズ&ガタリの『アンチ・オイディプス』や、読解される荒巻義雄『白き日旅立てば不死』が書かれた時代(ともに1972年)にも密接に関連するものだった。のみならず、本書は精神科医たる藤元がそれらのどこにリアリティを感じるのか、そこが明確である点において、ドゥルーズ&ガタリと荒巻義雄を取り結ぶ回路を、藤元は直線上ではなく網目(リゾーム)状に設定することに成功した。
高原英理『アルケミックな記憶』岡和田晃
名アンソロジー『リテラリーゴシック・イン・ジャパン』の編集に関する逸話が語られているのにまず目が行くが、本作のSF評論としての新しさは、第一世代の日本SFから始まり伊藤計劃(あるいは「伊藤計劃以後」)をも見据えた視点と、中井英夫・澁澤龍彦・稲垣足穂らにまつわる批評的なヒストリオグラフィーが、評者の身体において連関していることだ。『少女領域』や『無垢の力』に見られた硬質の論考と、『ゴシックハート』や『ゴシックスピリット』に垣間見えた実践的なオピニオンリーダー精神とが、肩の力を抜いた形で融合を果たしている。ここから鑑みれば、「リスカ」や『不機嫌な姫とブルックナー団』などの作家としての近作に見られたやわらかな文体は、背後にある綿密な蓄積と計算に由来するものだということがよくわかる。何より、本書のような領域横断的アプローチでなければ語れない作品が、いまのSFにはあまりに多い。
牧眞司『JUST IN SF』匿名希望
幻想文学からエンタメSFまで幅広いタイトルを扱っており、SFの今を切り取るいい書評集だと思いました。
トクロンティヌス『魔法大学院第三呪術研究室には研究費がない』ritzberry
科学の代わりに魔法が発見され発達した世界を舞台に、魔法大学院博士後期課程で博士号取得を目指しで魔法(呪術)の研究する若者の姿を描いた作品です。肝心 要の研究費が研究室に無いところから始まり、日々の実験に悪戦苦闘し、足掻き、予想外の結果に途方に暮れ、さらに実験を繰り返し、やがてその世界の秘されていた真理の一部に到達し、それが博士論文公聴会で一気に明らかにされる。
一つの研究をまとめるために描き出されるその流れはすごく泥臭くてすごく綺麗で大変な爽快感を与えてくれます。本職の科学者である筆者が、科学を魔法に置き換えて、若い研究者の研究人生を自分の信念とちょっとばかりの願望を交えて描いた妙品だと思います。より多くの人に届いてほしいと願っています。 https://kakuyomu.jp/works/4852201425154885756
アニメ『Go!プリンセスプリキュア』佐賀通
少女たちが「プリンセスプリキュア」というヒロインとなり、「夢」を奪おうとする「絶望」の体現した存在と対峙し、人々の夢を守り、そして自分自身の夢と向かい合っていきます。
その話を通じて最終的に対峙すべき相手である「絶望」という存在に対して一つの答えを出し、そして「夢」とはなにかを一つの見方ではなく、様々な角度から見つめていくSF作品です。
赤野工作『The video game with no name』ヒゲ
2115年に開設された、レトロゲームのレビューサイト。
私たちにとっての未来であり作中の時間軸では過去に存在した「低評価を受けたゲーム」の解説と、「2115年を生きる作者自身の物語」が主な内容。
低評価ゲームに関する作者の造詣の深さと実践経験が作中の未来に今と地続きの現実感を創り出し、語られるゲームへの愛情はもはや業とも言える領域に。
登場する「未来のゲーム」がSFガジェットをこれでもかと活用する点も熱い。
最先端の技術が庶民の娯楽として、それも低評価を受けるような形で消費される未来こそ、現在の先に存在するクソッタレのロマン溢れる未来ってもんじゃあないでしょうか。 https://kakuyomu.jp/works/1177354054880928816
映画『シン・ゴジラ』FNL
「恋愛要素」も「親子の絆」も「観客動員を狙ったアイドル的人気の俳優の起用」も「話題性を高める有名人のカメオ出演」も「真っ暗で何が映っているのかわからない場面」も「ひそかに開発されていた秘密兵器」も「いつの間にか事態に深く関わっている民間人」も「子供の活躍」も「英語の歌詞が混ざる主題歌」も「製作費いくらの超大作というあおり」も「わかりやすい会話」も「専門用語の解説」も「祈りの声」も「愛の奇跡」も
面白いSF映画には必須ではないってことを実感しましたですよ。
テレビドラマ『時をかける少女(2016年版)』魂木波流
これまでの映像化作を踏まえ、新たな青春ドラマになって帰ってきた「時をかける少女」。文化祭の第3話と、15の夜の吾朗ちゃんな第4話が出色です。第2話も切ないですよ。
そのぶん最終5話の展開に納得いかない気持ちにもなるんですが、未来という異物を排除しようとする現在の冷徹な意思であると考えると、あれはあれでなかなかだと思います。主人公未羽がフォトグラファーであることを最大限に活かした展開も良かったです。
映画『シン・ゴジラ』雨宮朱里
既に他の方々が推されている作品であるので、私がこの作品において感想とは別に一番驚いた部分を挙げる。それは、このシンゴジラという作品で初めてゴジラ映画を見た、という人が多かったことだ。
歴代シリーズ好きとしてはゴジラ復活に期待半分、不安半分といったところだったが、迷っている時にこれも初めてゴジラを見た同僚から「映画館で見るべき」と背中を押された。結果、期待以上の作品にハマり、同僚と同じく友人たちに「映画館で見るべき」と勧めて回った。
その際、ゴジラを見たことがないという同世代の友人、後輩の多いこと。私にとっては12年の沈黙を破り再び咆哮したゴジラだったが、若い世代はこれがファーストコンタクトという人も多いだろう。
作品の面白さに加え、次の世代へ日本の特撮映画、そしてゴジラという存在を繋いだことは功績と呼べるのではないかと思い、大賞に推す。
河合莞爾『800年後に会いにいく』匿名希望
SFといえば、遠い未来の話だったり想像上の異世界だったり、現実ではあり得ないことが起こったりすることが多いですが、本書では、現代のリアルな日本を舞台に、現代の技術によって、本当に800年後にタイムスリップする方法を提示していることが、まず秀逸です。
ファンタジーな要素がなくても、ロジカルなSFが成立することを見事に証明してくれまいた。
また、原発問題やサイバーテロなど、今世界が抱えている「深刻な問題」が、私たちにとって決して他人事ではないことを再認識させられます。
その一方で、純愛やラブコメ的要素もあり、喜怒哀楽すべての感情をこの1冊で味わうことができました。
SFは苦手という人にもお勧めできるリアルなSFに、ようやく出会えました。是非、もっと多くの人に読んでほしいと思います。
映画『シン・ゴジラ』吉上亮
「シン・ゴジラ」を推薦するのは、何と言っても本作が、2011年3月11日に発生した東日本大震災および福島第一原発事故――いわゆる「3・11」を真っ向から捉えた作品であるからです。未曾有の災害が発生したとき日本政府はいかに行動し、その対処のため、どのような手段と決断をもって死力を尽くすのか?
という問いかけに、本作は「ゴジラ」という存在を介しながら極限まで思考を研ぎ澄ました結果、シミューレーションされたもうひとつの日本、もうひとつの3・11を戦い抜いた人々の記録映像を描くことで答え切ったものと考えます。ゆえに私は、『シン・ゴジラ』を第37回SF大賞に相応しい作品として推薦いたします。
万城目学『バベル九朔』富岡薫
小説家志望、小さな雑居ビルの管理人・九朔の言ってみれば「冴えない」日常を、ユーモアと少しの毒でおもしろおかしく読んでいると、ところどころに不穏で、不可思議な要素がチラつく。さらに読み進めるうちに、5階建てだったはずの雑居ビルが、いつのまにか99階建てに…!
塔と化した雑居ビルで九朔を待ち構える様々なテナントと謎、味のある人物、浮かび上がる「夢」「努力」の存在意義。ラストは不思議な爽快感に酔いしれ、しばらくはこの物語が頭から離れなくなります。
永田礼路『螺旋じかけの海』渡邊利道
異常気象のためか水没した未来世界を舞台に、高度に発展した遺伝子工学が経済と法律によって管理された世界から脱落した人々を、自身汚染された遺伝子を持つ生体操作師が助けるバイオ人情SF。SF的ガジェットと思弁を巧く人間ドラマに落とし込んだ好編。
黒田硫黄『アップルシードα』渡邊利道
80〜90年代を代表するSF漫画の別作者による現在形でのリメイク。アニメ企画の一端として執筆されているのだが、まったくそういった「状況」から超然としたたたずまいで、作者固有の世界を淡々と展開している。近年過去の名作のリメイクが多く見られる中でも理想的な作品。
川上弘美『大きな鳥にさらわれないよう』渡邊利道
作スタイルで、絶滅していく人類と、それを見守る人工知能と、新たなものたちについて描いた一種のユートピア小説。静かで微笑ましくて、ちょっと怖い。理知的なものをたっぷりの情感でつつみ、かえって突き放した奥行きのある世界を作り出している。日本製ニューウェーヴSFの新作といった趣さえある。日本SFの女性作家の系譜、例えば『チグリスとユーフラテス』などの横に置いても面白いだろう。
樺山三英『ドン・キホーテの消息』渡邊利道
チャンドラーを思わせる探偵ものと、現代に蘇った主従の旅を交互に語りつつ、演劇の舞台を契機にして虚構と現実が迷宮的に混交していき、時と世界の果てとでも言った終末的光景があらわれ、黙示録的なクライマックスが訪れる。切断力のある速い場面展開と余裕のあるユーモアを湛えた語り口が夢のように楽しく、現実に深く根ざした想像力は素晴らしく不吉。
椎名誠『ケレスの龍』渡邊利道
〈北政府〉もの最新作。浮遊する多視点とでもいった語り口でほとんどいきあたりばったりのようにとんとん拍子に展開し、ついに宇宙にまで行ってしまう。造語の多い独特の世界から、オーソドックスな宇宙SFへと語彙がガラッと変わってしまうのも驚きで、次作以降どうなっていくのだろうと静かな期待が高まる。
円城塔『プロローグ』渡邊利道
二部作の二。2015年に刊行された短編集『シャッフル航法』や、翻訳を担当した『雨月物語』などとも関連し、小説執筆のためのコンピュータ・プログラムを自作、オカルトだったり文学だったりする旅を繰り返す作者の私生活を大胆に活用した小説を生成する機械の物語。作品の外部を作品内に取り込んでいくメタフィクション的技法を徹底的に酷使した文芸SF。
円城塔『エピローグ』渡邊利道
二部作の一。ミステリとラブストーリーを枠組にして、情報理論やソフトウェア工学、位相幾何学といった作者お得意おなじみのモチーフをふんだんに取り入れて百花繚乱の華やかさで展開した長編小説。物語の組立の複雑さと、醸し出される情感のシンプルさがマッチしたハイブロウなエンターテインメントSF。
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上海アリス幻樂団『燕石博物誌』『旧約酒場』浅木原忍
近未来の京都を舞台にした《秘封倶楽部》シリーズの7・8作目。2作でひとつの物語なのでセットで。CDのブックレットに記されたストーリーという形で音楽とともに語られるこのシリーズの魅力のひとつに、断片的に語られる近未来ビジョンがある。『燕石』における「情報の電子化が進みきったことで情報の速度や量は価値を失い、紙の本に記された個人の珍しい体験の希少性が価値を持つ」、『旧約』の「安価で安全な新型酒の普及により従来の酒が希少で高価になり、金持ちほど汚い店で酔い潰れることを選ぶ」といった鋭くも逆説的な近未来像がファンの想像力を刺激し、数多の二次創作を産み出し続けている。即ち《秘封倶楽部》とは、読者に対してスペキュレイティブ ・フィクションの思索・創作を誘発するSFなのである。
オキシタケヒコ『筺底のエルピス』ニニム
「時間そして空間」の二つの要素から拡張されてゆくSFの世界観がバトルに与える多彩さ、展開との統一感をたまらなく美しいと感じました。SFとバトルがどう関わるかの一つの形として、日本SF大賞に十分ふさわしい作品だと思います。
石川博品『トラフィック・キングダム』らっぱ亭
道路は疾走する車の群れに占拠され、人間は街中に張り巡らされた高架リンクをパケットに乗って移動する閉塞感溢れる近未来。夜毎つるんでパケットで暴走するDQNな少女たちはどこへむかうのか? 野心的ラノベかつ青春SFの傑作!
樺山三英『ドン・キホーテの消息』宮内悠介
ハードボイルドの形式を借りて、過剰なまでに思索的であったはずの著者がドン・キホーテ型の主人公に挑む! すでにそれだけで面白いのに、入り混じった奇想と風刺、何より洒脱なユーモアが光る。
著者の新たな一面が垣間見れるとともに、樺山作品の入口としてもお薦めしたい一冊です。
芝村裕吏『セルフ・クラフト・ワールド』タニグチリウイチ
期間外の3で完結して得られた人類進化のビジョンをこそ相応しいと思うもののバーチャル空間の人工生命の進化とそれを元にした現実社会の技術革新といったアイデアを物語に落とし込んで描いた2巻まででも評価に値すると考える。
映画『劇場版 蒼き鋼のアルペジオ -アルス・ノヴァ- Cadenza』タニグチリウイチ
原作漫画を独自改変したテレビシリーズの先に人類と地球的な存在との邂逅を入れつつ異質な存在が感情を抱く様を描き空間をねじ曲げ移動し戦うギミックも入れと主題、設定に多彩なひらめきがあった。
万城目学『バベル九朔』タニグチリウイチ
作家志望者が迷い込む異界。繰り出されるビジョンの不条理でシュールな情景に引っ張られ惑わされ、どこへ連れて行かれるのかといった不安にもみくちゃにされる。日常に混ざった異界を描いて来た作家の新境地。シリアスで切実で緊張感がある。
梅田阿比『クジラの子らは砂上に歌う』/舞台『クジラの子らは砂上に歌う』タニグチリウイチ
砂の海を泥クジラという巨大な船で行く異能の力を持った人々を描いた物語は、その罪深い過去が暴かれ襲撃を受けて退け、新天地をめざす物語が見せる異世界のビジョンが素晴らしい。
多崎礼『血と霧』タニグチリウイチ
『煌夜祭』でも見せた未だ見ぬ世界を創造する筆が半ば埋まった巨大なカタツムリの殻に暮らす、血によって多彩な力を持った人間たちによる国を描き異能の力によって起こる事件を描き謀略を描いて読ませた。そんな世界にあって純粋を貫いた少年に、涙。
椎名誠『ケレスの龍』山崎貴之
『ケレスの龍』は、「小説野性時代」二〇一四年一月号~二〇一六年四月号に不定期連載(全十五回)された長編を単行本化したものです。舞台は『武装島田倉庫』をはじめとする椎名誠作品の未来SF群、いわゆるシーナ・ワールドに共通して登場する国家で、大きな戦争のあと、生態系が破壊され、気候が変化し、大きく様変わりした異形の世界が背景になります。主役のひとりである灰汁も、椎名SFにはおなじみの人物です。椎名誠小説作品ではSFが本線といってもいいくらいだと思いますが、これまで大気圏を離脱したことはありませんでした。この未来では、戦争後も軌道エレベーターが運用されていて、登場人物たちは正規の手続きを踏んで地球から旅立ちます。椎名SF独特の懐かしい雰囲気と、宇宙開発SF的なテクニカルタームが奇妙に入り混じり、かつて読んだことのない、なんとも不思議な味わいだのSF小説となっていますので、ここに推薦をさせていただきたく思います。
立原透耶『立原透耶著作集1 凪の大祭』ナッシー
作家にとって、我が子同然の作品が、「品切れ」「絶版」となり、流通から消えてしまうことほど悲しいものはない。1991年にデビューした著者の初期の作品群も同様である。しかし、小出版社が「著作集」として新たな命を吹き込むことで、読むことができる仕掛けを作った。新作を出していくこともいい。しかし、こうした試み自体にも背中を押してほしい。むろん、表題作であるSF長編第一作『凪の大祭』から、デビュー作「夢売りのたまご」、「天使の降る夜」、そしてダークファンタジー『闇の皇子』ほか、「天と地」「上下運動」でしか描くことのできない珠玉の作品群はいま読んでも斬新そのもの。立原作品は、一読すると「砂糖菓子」のような甘い読書体験を実感する。しかし、その読後感は違う。その「甘い砂糖菓子」には、ちょっぴり涙の塩味が隠されているはずである。
山田宗樹『代体』柏井伸一郎
エンターテインメントに徹しながらも、今話題のAIやVRに繋がる時事的なテーマ性、かつ終末医療や尊厳死の問題にまで結びつけている社会性を内包した作品です。とはいえ、決して難解ではなく、一気読みできる娯楽性とカタルシスを追求しており、幅広い方々に読んでいただける普遍性を持っています。AIやVRが日常となった世界を前向きにとらえている点も、SFというジャンルをより身近にさせることに成功している作品と思います。
着想をされた時期は数年前になりますが、刊行するまで、そして刊行してから、より現実が『代体』の世界に近づいてきた印象です。著者の先見性、そして今でしか描けない小説、今だからこそ描くべき世界を表現した作品だと思います。
恒川光太郎『ヘブンメイカー スタープレイヤー (2)』 匿名希望
「十の願い」を叶える力を手にしたスタープレイヤーをめぐる未曾有のSFファンタジー長編!
先住民や来訪者、そして万能のスタープレイヤーが共存する広大な異世界で、人間の本質を描きあげた力作。
前巻の世界観をさらに深化させ、ファンタジーの地図を塗り替える比類なき創世記は、SF大賞の受賞作にふさわしいスケールとクオリティを有していると考え、推薦いたします。
千早茜『夜に啼く鳥は』岸本亜紀
海に突き出した岬には古い祠があり、一族の始祖と言われる八百比丘尼が祀られている。お屋敷に住む一族の末裔で強大な力を得た御先【みさき】は、緑色に光る蟲を操り、どんな傷も病も治す能力を持っていた。御崎を心から慕う雅親【まさちか】を突き放し、里を出た御崎。夜の店で働いていた四【よん】と出会い、行動をともにするようになり“事件”に巻き込まれた。現代の都会の闇に紛れ込み、不老不死の一族の哀しみに満ちた生と死。
*かつて、これほど美しくて哀しい“化け物”がいただろうか――愛しい人を探し続ける不死の一族の物語。* 泉鏡花文学賞作家が放つ現代奇譚。千早茜が好きなものを全部入れて書いたというファンタジー傑作です。カバーイラストは、作品世界のイメージ通りの中村明日美子が描き下ろし。
樺山三英『ドン・キホーテの消息』増田まもる
すでに世に知られている作品を題材にして「だれも見たことがないもの」を表現するのは至難の業[わざ]だと思われるが、作者は前世の業[ごう]なのか、それにとりつかれており、これまでもすぐれた作品を生み出してきたが、とにかく読んで楽しく、それでいながら思弁は限りなく深い。傑作です。
天瀬裕康・編著『増補改訂版 SF・科学ファンタジー句集』増田まもる
思えば松尾芭蕉が俳諧を生み出したとき、芭蕉を駆りたてたのも「だれも見たことがないものを表現したい」という欲望であった。したがって、俳句・俳諧はSFや現代詩とおなじように、ひとり一ジャンルである。本書はそのことをあらためて考えさせてくれるすばらしい作品である。
三島浩司『ウルトラマンデュアル』増田まもる
作者ほど「だれも見たことがないもの」にこだわるSF作家はいない。そんな彼が既成のウルトラマンを題材にして想定内のドラマを描くはずがないと思ったら、まさしく作者ならではの独創的な世界観がくりひろげられて思わずうなってしまった。
浅尾典彦『幻想映画ヒロイン大図鑑―永遠の恋人から絶叫美女まで』増田まもる
「だれも見たことがないもの」といえば、幻想映画の歴史はまさにその追及であった。本書は長年にわたって幻想映画を研究してきた作者の該博な知識と豊富な資料を総動員した余人にはまねのできない大図鑑である。
福田和代『緑衣のメトセラ』増田まもる
ミステリー、サスペンス、アクションで活躍している著者が、最新の遺伝子科学とファンタジーを融合させた意欲作であり、作者ならではの「だれも見たことがない」幻想的なイメージが心地よい。
藤元登四郎『〈物語る脳〉の世界―ドゥルーズ/ガタリのスキゾ分析から荒巻義雄を読む』増田まもる
SFとは文学のジャンルではなく、シュルレアリスムとおなじ芸術運動であり、その駆動力は「だれも見たことがないものを表現したい」という欲望である。本書は『シュルレアリスト精神分析』で初期荒巻義雄論を展開した著者がドゥルーズ/ガタリを応用してふたたび荒巻義雄論に挑戦した意欲作である。
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東山彰良『罪の終わり』巽孝之
二一七三年六月十六日のナイチンゲール小惑星の地球衝突以後の世界が舞台に、人々がいかにサバイバルしていくか、そのさいにナサニエル・ヘイレンという美青年が、母親や兄を殺した前歴を持ち食人をも正当化するにもかかわらず、いったいどのようにしてイエス・キリストにも似た救世主的人物(黒騎士)として祭り上げられて行くかを、緻密にしてダイナミックな筆致で描く。二二世紀には今日のインターネットをしのぐニューラル・ネットワークが張り巡らされ、人間と電脳空間が VBと呼ばれる義眼埋め込みを通して直接アクセスできるようになっているという設定はサイバーパンク以後では定番だが、6・ 16により、偉大な文明的達成も崩壊の一途を辿り、小惑星迎撃のため各国の核攻撃が推奨され、じつは日本が核弾頭を隠し持っていたことも判明するという展開はスリリングきわまる。6・ 16が指し示しているのは、歴史的結節点どころか、むしろさまざまな事件を頻発させている現代の国境そのものだ。トランプ大統領候補以後の世界を多角的に思弁する上質の現在小説は、現在だからこそ達成しえた SF小説としてもみごとな出来映えである。
白井弓子『WOMBS』匿名希望
本年度に完結したSF漫画の成果のひとつとして、本作を推薦します。女性が戦場で闘う物語は数多くありますが、それらの中で、「多数の成人女性の身体性」と「SFアイデア」を直結させたものは少なく、さらに、この要素を通して、社会風刺・組織風刺・民族間闘争への風刺、科学技術に対する視線、異質な知性との対話にまで、柔らかな感性で斬り込む作風と思想性、および強靱な文学性は、現代SFにおいて最も評価されるべき点でしょう。複雑な構造を持つ題材を扱いながらも、エンターテインメント作品としての面白さも抜群です。男女ともに、多彩な性格を備えた魅力的な人物が登場します。全五巻で完結していますが、本作の背景には、まだまだ膨大な物語があることが予想されます。著者の白井弓子氏には、ぜひこの世界を語り続け、深めて頂きたく思い、その一助とすべく、本年度の日本SF大賞推薦作とさせて頂きます。白井氏のさらなる飛躍に期待します。
柞刈湯葉『横浜駅SF』NoshiMeiro
Web小説という新しい媒体で発表したこと、及び「際限なく増築した横浜駅が自己増殖した未来」というキャッチーな題材の2点で話題となり、SF小説の門戸を新たな読者へ広げたことが理由です。 https://kakuyomu.jp/works/4852201425154905871
小川哲『ユートロニカのこちら側』長谷敏司
本書はユートピアの物語です。そのわりに、社会のエッジやそれに反対する人々との関係が多く描かれています。しかも、描かれる都市自体は、善でも悪でもありません。ただの生活環境です。
けれど、ここが優れているところです。
つまり、ユートピアか、ディストピアかは、よほど極端な事例に触れない限り、実際に生活するうえでは明確な基準がないはずだからです。
合理性と正しさ、合理性と快適さ、そのバランスが崩れるとディストピアになる。
本書がすぐれているのは、この違いを物語の中で、あるいは底流として掘り返し続けていることです。
ディストピアの見切り線は、現実には曖昧である。
それが身に降りかかる生活の問題になった時、ボーダーラインの基準を明確にすることすら極めて困難で、他人と共有するのはさらに難しい。社会やコミュニティ、家族の中ですら見切りのラインは違うからだ。
そして、これを解決するのはとても難しい。ユートピアの力ではなく、人間関係や各々が積み上げた人生の力で解決するしかない。
我々が、急速なデータ化や自動化の中で知らないうちに直面している問題に近い、すぐれた物語です。
映画『シン・ゴジラ』ヨーグルト
内容・演出もさることながら、視聴後多くの人々の間でもちきりとなり、通常では流されてしまうようなありとあらゆる細部を考察させるまでに至った社会現象を推す理由とする。
アプリ 『ひとりぼっち惑星』ヨーグルト
生体兵器により荒廃した遥か遠い未来の地球が舞台。
今や人類は宇宙へ旅立ち、地球では人工知能同士が争うなかただただひとり生きるプレイヤー。
ありきたりな設定だが牧歌的な表現をすることでセカイ系の新しい側面を見せた。
特筆すべきはこのアプリのシステムはSNS社会の現代で敢えてメッセージの送受信を完全一方通行に絞った、所謂ボトルメール的なシステムである。このシステムは「誰かに匿名でこの思いを発信したい」というSNS社会から発展した相反する欲求を一度に満たすというものである。SNS 社会の現代だからこそ生まれた新しいSNS 、という観点から推薦する。
紅白歌合戦 Perfume『Pick me up』ヨーグルト
言わずと知れた存在になったテクノポップユニットPerfumeが2015年紅白歌合戦で披露したパフォーマンス。オリンピック閉会式の演出を手掛けたライゾマティクス、MIKIKO、中田ヤスタカのコラボレーションがお茶の間でも手軽にかつ壮大に繰り広げ「クールジャパン」を日本人に示したことから最先端の技術、引いては希望を広く知らしめた意味で推薦する。またチームPerfumeでは近年ハイテクノロジーな演出によって生身の3人による繊細なパフォーマンスを際立たせるということに注力しており、「技術で人間の生身さをどこまで魅せるか」というところにも挑戦している点にも注目したい。
弐瓶勉『シドニアの騎士』いたばしさとし
みんなが知ってるあの作品だが誰もエントリーしないようなので推しておく。2009年6月号から2015年11月号までコミックアフターヌーン誌に連載された漫画作品。描かれる人類はテクノロジーによって人工進化し、まるでトランスヒューマニズムの展覧会のようだ。その過酷な戦いと生きざまに戦慄しつつ、活劇的要素の力で読まされていく。後半、宇宙生物と人類の融合体が登場すると俄然面白くなる。異形の人工生命体が主人公と関係を深めていく過程と結末に、我々の平凡で素朴な人間観が気持ちよく壊されていく。この快感こそSFの醍醐味だろう。
澤見彰『ヤマユリワラシ』いたばしさとし
幕末岩手を舞台にした歴史ファンタジー。岩手県遠野市に残された供養絵額をモチーフに、実存に悩む主人公の武士、生きる場を見つけられず心を閉ざす少女、貧困と無理解そして圧政に苦しむ庶民がそれぞれに込める思いが切ない。更に後半登場人物たちの息苦しさの原因が藩政の矛盾と失敗にあることが明らかになり、主人公の思いは三閉伊の大一揆にむけて駆け出していく。ファンタジーであり歴史劇であり革命劇でもある本作の読解は、幕末岩手をめぐる予備知識を必要とする。断片的な読みでも十分楽しいが、読み込めば落涙必至の傑作である。一時の話題作として消えていくには余りにも惜しいので、ここに推薦する。
三島浩司『ウルトラマンデュアル』いたばしさとし
早川書房と円谷プロのコラボ企画として書かれたオリジナル小説版ウルトラマン。ウルトラマンと侵略宇宙人が拮抗し、地球人は宇宙人に半ば占領された状態で中立を保っている。この新たな設定が物語に緊張感を与えている。活躍するデュアルは完全なウルトラマンではなく、光の国の技術で変身した地球人で、補給もままならないレジスタンスの孤独と不安に中、自らの選択を信じて戦い続ける。その姿は人びとの希望となり、読者の期待と一体化して、ついに本物のウルトラマンがやってくるクライマックスのカタルシスにつながる。本作はウルトラマンと言うテンプレートにSF的な設定の厚みを加え、中高年読者のノスタルジーを刺激しながら、読み物として高い完成度を誇る傑作だったと評価する。
アニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』草野原々
あなたはアニメに見られたことがあるだろうか?「アニメは見るものであり、見られるものじゃない!」そのような意見もあるかもしれない。ラブライブ!サンシャイン!!の最終話を見たとき、わたしは明らかにアニメに見られていた。画面の奥のほうから、アニメの眼球がまっすぐこちらを向いていた。本作は、九人の人間が出てくる話だ。本当に人間か?人間なのか?人間ではない。アニメキャラクターだ。人間がアニメキャラに変化していく物語だ。最初、九人は人間であった。視聴者に非常に近い存在だ。エピソードが重ねられていき、彼女たちはラブライブというシステムに出会った。人間をアニメキャラに変化させるシステムだ。人間がアニメキャラに相転移するときのエネルギーを使いラブライブが増大していく。それだけではない。ラブライブは虚構と現実の壁を破る。アニメキャラに作中作を演じさせ、それを見ている存在=あなたをまたシステムに組み込まれる。
リオ五輪閉会式・東京プレゼンテ―ションgryphonjapan
賛否もあろうが、やはりゲーム・アニメの特に「SF的想像力」の日本の代表ともいえるドラえもん、マリオなども登場する構成で、またARも活用した映像は評価できる
https://www.youtube.com/watch?v=sk6uU8gb8PA
ツカサ『ノノノ・ワールドエンド』矢吹竜彦
その夏、突然発生し世界を覆い始めた霧は、巻き込まれた人間を消滅させてしまう”気化現象”をもたらした。霧の広がりとともに消失者の数は増え、人類は消滅へと向かう。この終末世界で出会った少女二人、世界の終わりを願ったという「ノノ」と世界を壊してしまったという「加連」が、お互いの欠けた場所を埋めあうかのように心を通わせていく様子が、幻想的な背景のもとで切なく印象的に描かれる。終末へと向かう世界の中で自分たちの居場所を確かめようともがく二人の少女の描き方が秀逸。そして、二人が寄り添って静かに世界の終焉を迎える終章は、美しいとしかいいようがない。終章でありながら、まるで二人の新しい世界へのプロローグであるかのような印象さえ与える。人の心情に深く切り込み、静かではあるが深く人間を描こうとするSF小説として、ぜひとも多くの人に読んでもらいたい。
西條奈加『刑罰0号』山岸真
SF的題材を取りこんだミステリ仕立ての連作が、やがて「人類のあらゆる“罪”と対峙する」という帯の煽りにふさわしい内容にスケールアップしていく。現代世界の種々の問題とむきあった、社会派SFと呼びたい力作。
川端裕人『青い海の宇宙港 春夏篇・秋冬篇』山岸真
(長篇二分冊なのでセットでのエントリー)宇宙開発の“足もと”を描いた極近未来SF。主役は小学六年生たちながら、大人たちも視点人物になってその考えがしっかり書きこまれた、決してノスタルジーだけでなしに全年齢の読者対象の作品。技術に裏づけられた“夢のある”光景、伝承的要素と科学の言葉との融合など読みどころ満載ですが、なにより、あくまでもポジティヴなスタンスが魅力。
映画『シン・ゴジラ』山岸真
作品評価や位置づけは山ほど語られているので細かい点をあげていくと、公開までの情報の出しかた、第二形態の顔が映ったときの、対戦怪獣ものなの!?というパニックめいた意表の突かれかた、そこから音楽で一気に運ばれた先で初代映画の音楽とともに第三形態に変化したときの、やはりこいつがゴジラだったのか!というもう参りました感(以下略)、そして公開直後にネットにあがった感想のほとんどが、だれにいわれたわけでもなかろうに一様に、一見かなりネタバレしてるようなものでもその部分をしっかり伏せていたこと(中にはさらにミスディレクションを仕掛けていたものすら)、などなど現象面まで引っくるめて大賞に推します。
六冬和生『松本城、起つ』山岸真
お気楽タイムスリップもののようにはじまって、シビアこの上ない展開へ、タイムループものへ、さらに苛酷な運命の強制へ、とハイテンポで畳みかける時間SF。ちょっとゆるいようでいて決してあまくはない端正な歴史SFとしても収穫。
阿部智里『玉依姫』山岸真
シリーズ第五作にして和風異境ファンタジー世界の出自が明らかになる一方、この巻の物語は半村良的伝奇SFの現代版(作中のこちらの世界は近過去ですが)的広がりを見せる。結末まですでに構想されているらしいシリーズの途中巻だが、これまでの謎・問題にある程度決着がついたこの時点で名前をあげておきたい。
アニメ『コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜』山岸真
1期・2期合わせてのエントリー。「シン・ゴジラ」が第一作をリセットし、円谷怪獣特撮のなかった世界を描いたのに対し、あらゆるアニメも特撮も漫画もすべて「実在だった」世界を描き、そこに昭和史・世相(おもに40年代相当まで)を、当時それらの作品のメインターゲットだった世代が現在の目で見たかたちで重ね、さらにフィクションの持つ力を問う。各話、全体ともに(構成、設定、デザイン、映像、音楽などなど多方面での)凝り具合もすさまじい力作。
乙野四方字『僕が愛したすべての君へ』『君を愛したひとりの僕へ』山岸真
作品の構造ゆえに二作セットでのエントリー。時間が超えられない壁になるというロマンチック時間SFの定石パターンと同質の感動を、並行世界を題材にそれぞれの長篇がもたらし、さらに二作を重ねることでプラスアルファが生まれる。日常茶飯事な世界線移動という、なにげないようでいてすごい設定の説得力(“さっきここに置いたはずのものがない”のは並行世界のせい)にうなる。
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オキシタケヒコ『筺底のエルピス』山岸真
人類の存亡を賭けた逆説的に壮絶・壮大な基本設定だけでもすごいが、さらに能力者バトルの数々のそれぞれに息をのむようなアイデアが次々と投入される。未完で、対象期間内発表の最新巻の結末は大転換・新展開のはじまりだが、ひと区切りでもあるのでここでいちどあげておきたい。
奥泉光『ビビビ・ビ・バップ』山岸真
イーガンSF的題材をハードルの高くないかたちで描くという面もある作品、という趣旨のことを作者がどこかで語っていたと思いますが、それを作者の趣味全力全開手加減なしの狂騒的楽しさで仕上げた巨篇。全人類・全地球的スケールの物語(事件)が、『鳥類学者のファンタジア』を引きついで(ただし前作を知らなくても楽しめる)、宇宙論レベルのヴィジョンにまで到達する。
小林泰三『失われた過去と未来の犯罪』山岸真
無理ゲーとしか思えない極限状況を人類がどう切りぬけるかという前半を踏まえて、後半は作者十八番の記憶(情報)と自我という題材のショウケース的展開、集大成となる。ミステリーやホラーでも活躍する作者の、現時点でのSFでの代表作。
山田宗樹『代体』山岸真
作者には同題の短篇があるが、イーガン初期短篇を連想させるガジェットは共通するもののその長篇化ではなく、完全新規のストーリー。基本設定もかなり組み直されていて、全体としての展開は『順列都市』『万物理論』を思わせる面もあるスケールのデカイものになっている。
篠田節子『竜と流木』山岸真
作者の長篇では『絹の変容』『夏の災厄』の系譜の作品。篠田版の『ジュラシック・パーク』ともいえる(展開や力点の置きかたも含めて、あくまでも篠田版)。ぶっきらぼうなユーモアや神話的イメージのまぶしかたも最高。
川上弘美『大きな鳥にさらわれないよう』山岸真
数千年以上に及ぶ人類の未来を14話の連作で描く。執筆時期にして約70年を隔てるクリフォード・D・シマック『都市』のヴィジョン(人口減少と集落の孤立化、身体の変容など)に、現代の視点と題材で取り組んだとも読める作品。
三島浩司『ウルトラマンデュアル』山岸真
番組(シリーズ)の基本設定を巧みに残しつつ、世界観を根本から更新した作品。未来への展望がひらけない状況と、その中での日常と希望という作者の持ち味が全開で注入され、現代の〈ウルトラ〉のひとつの解につなげている。ヤングアダルト小説としても感動的。
小川哲『ユートロニカのこちら側』山岸真
住民が自主的に企業と契約して個人情報を提供した上、行動監視を許容し、働かなくても暮らしていける自治区の変遷を、短篇連作で描く。ディストピアSF定番の非人間的超管理社会のようでいてそうではないはずの社会に、落とし穴はないのか? 各話はミステリやサスペンスの要素を交えつつ深みのある人間ドラマを滑らかな語り口で展開し、最終話の手前で意識と社会の関係という問題が浮上する。SFになじみのない読者にも読みやすく、完成度の高い作品。
奥泉光『ビビビ・ビ・バップ』野川さんぽ
SFで、風俗小説で、音楽小説。そして何よりもエンターテイメント。
素材も手法も語り口も自由自在。こんなに楽しい小説は、そうありません。
北野勇作『カメリ』野川さんぽ
心和む黙示録。人類愛をちょっとズラして見せたところに、SFの真髄を見ました。
宮内悠介『彼女がエスパーだったころ』野川さんぽ
厳密にいえばSFというより、SF的な(現実の)出来事をためつすがめつした作品集。SFを成り立たせる「不思議」の追究が素晴らしい。
神林長平『絞首台の黙示録』野川さんぽ
現実とは? 生とは? 死とは?
切実な問題を、これまで培ってきたフィクションの技法を駆使して展開する。SFのみならず、小説全体の歴史に残すべき傑作。
天瀬裕康・編著『増補改訂版 SF・科学ファンタジー句集』穂井田直美
SF俳句? なんなの、それ。
 と、いわれそうですが、この世界で最も短い文学表現にSFを封じ込める野心的な試みがあることを示しているのが本書です。著者は、SF側の視点から、自らの句作活動も含め、俳句史の流れを辿り、SF俳句とは何かについて述べています。萌芽したばかりの動きなので、ジャンルとして未熟な部分は少なくないのですが、著者の熱意と期待が、それをカバーして余りある作品になっています。SF俳句確立に向けてのガイドブックとして、本書を推薦します。
カシワイ 『107号室通信』妙ヶ瀧くおん
顕微鏡で覗いてみた様な淡くやわらかな色彩で描かれる「世界」と、対照的にあっさりと線描されている「わたし」。確かにそこに存在して、だけど瞬きの間にも擦れ違ってしまう日常の光景。ささやかなものたちへ向けられる「わたし」の眼差しは当に詩歌の作法でありながら、同時に観察という科学の方法論に支えられてもいる。その刹那の邂逅に見出される、眩くて愛おしい物語群。
山田胡瓜『AIの遺電子』たかし
人間とヒューマノイドの共存世界・生活を描く。1話完結のスパッとした切り口に、少年漫画とは思えないほどの情感を練り込む作者の手腕が光る。
SFのようでSFらしからぬ。人間を描いているのか、ヒューマノイドを描いているのか。はたまたそのどちらでもないのか。
未来に進むほど曖昧になるであろう両者の境界線を、痛快に暖かく描いている傑作である。
http://arc.akitashoten.co.jp/comics/idenshi01wa/1
多崎礼『血と霧』縞田理理
吸血鬼だけの社会が存在するとしたらそれは如何なるものになるのかというifを都市・社会・経済・食・家族・婚姻・宗教・テクノロジーなど多岐に亘って突き詰め、それによりこの古いモチーフの新しい可能性を示したと思います。蒸気機関に支えられた螺旋のような地下都市、血の三属性による階級社会など独自性の高い世界観が非常に魅力的です。


天瀬裕康・編著『増補改訂版 SF・科学ファンタジー句集』宮本英雄
SFは多様な表現が可能である。その可能性を追求しようとした意欲的な作品である。
過去の作家の作品からSFと見られる作品を洗い出すことから始めて現代の作家の作品の紹介まで著者のカバーしている範囲は幅広い。伝統的な俳句、短歌の決まりにとらわれず作者は大胆にも横書きを推奨する。さらにSF句はもっと自由になれると思考を進める。知的な冒険作品として評価したい。
長山靖生『奇異譚とユートピア - 近代日本驚異<SF>小説史』登張正史
明治期以降、ヴェルヌやロビダの影響を受けながらも独自に発展した「未来小説」「政治小説」「冒険小説」「科学小説」「怪奇小説」「伝奇小説」をテーマ別に紹介、当時の世相とその生成過程の関わりを分析、近代日本の夢想力の凄さに驚く画期的な論考です。
三部けい『僕だけがいない街』gryphonjapan
「時間ループ」「悔いの残る過去を改変」「事件の犯人捜し」という主題自体は斬新ではないが、逆に「集大成/典型」とでもいうべきわかりやすさ、一般性を備え、これらの面白さを伝えた。
http://www.kadokawa.co.jp/sp/bokumachi/
阿部智里『玉依姫』増田敏
シリーズ第一作でもストーリー途中でそれまでの読者の予想(王朝風ファンタジー)をあっさり裏切り(ミステリアスな異界モノに)清張賞につながるワケだが、今作もシリーズの流れを力ワザでワープさせます。和風ファンタジー好き、イチ押し。
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山本弘『怪奇探偵リジー&クリスタル』光森優子
本書は、1938年のロサンゼルスを舞台に、グラマーな美人私立探偵とSFオタクの少女助手が、不可思議な事件に挑む連作短編集です。パルプマガジンの表紙絵にそっくりな惨殺死体、幻の特撮映画フィルムを上映中に消える人々、ひょんなことから中世イギリスの錬金術が甦ったことでおきる怪奇、謎めいたタイムトラベラー、異空間からまぎれた怪獣の暴走……事件の特殊性にも探偵と助手の秘密にも、読者はほくそ笑んでしまうでしょう。パルプマガジンを思わせるキッチュさとざらざらした空気感もなんとも言えず、ハリー・ハウゼンやブラッドベリなど、実在の人物が活躍するのも痛快です。また、自由奔放で痛快なエンターテインメントでありながらも、当時の確たる科学的な知識と、こまやかに調べられた歴史的な事実が屋台骨となっているのが、本書の凄み。キャラクター小説としても、ミステリとしても最高に楽しめる最高にキュートでグロテスクな1冊です。
映画『シン・ゴジラ』礒部剛喜
率直に言って本作『シン・ゴジラ』を日本SF大賞候補作にすべきか迷いがあったし、いまもある。多方面から傑作との声が上がるものの、疑問も多い作品であるからだ。これまでのゴジラ映画を敷衍したものなく、白紙からの物語だとしても、どうしても第一作と比較せざるをえないからだ。当然そこにはゴジラとは何者か?というテーマが遍在している。核実験がゴジラの起源であるというメッセージは第一作では極めて強く、ゴジラがその姿を見せるまでのプロットは実に秀逸だが、本作では明らかな失敗だ。フクシマ原発事故の影響という視点はあるが、核廃棄物とゴジラ誕生の因果関係は不明瞭だ。
 にもかかわらず、内閣ご一党が全滅し、若い政治家たちに日本の命運を委ねざるえない後半部は成功している。爆薬を満載した新幹線をゴジラにぶつける展開は意表を突かれた。
 欠陥を備えつつも『シン・ゴジラ』という映像作品は、このままで終わってはならなず、次回作へのスタートでなければならないのではないだろうか。それゆえに、アンバランスな全体像であっても、日本SF大賞に値する作品なのではないだろうか。
アニメ『コンクリート・レボルティオ~超人幻想~』東條慎生
「昭和」のパラレルワールド「神化」の日本という、さまざまなヒーロー、超人、怪獣、妖怪が遍在する世界における「正義の味方」を通して、サブカル史、昭和史を描く野心的なアニメ作品。戦後日本を舞台とする本作の特徴のひとつは、数多の昭和史的事件を通じた政治性・社会性の導入だろう。そこで問われることこそが「正義」で、正義の相対性のまえで立ち止まること、「現実を変えることなどできないと笑う」シニシズムへの批判を通して昭和のヒーローを読み直す。エネルギー、原爆、原発がSF設定の鍵にもなっており、きわめて現在の問題への意識が強い作品でもある。サザエさんをSF的に読み換えたエピソード等の一話完結ものの秀逸さとともに、全体構成も凝ったもので、また見る人の世代や知識によっても読み取れるものが大きく変わってくるだろう多面的、多層的作品でもある。
樺山三英『ドン・キホーテの消息』東條慎生
行方不明になった戦後裏社会の首領(ドン)を捜索する探偵と、400年の時を経て現代に甦ったドン・キホーテとサンチョ・パンサの遍歴を交互に描き、現実と虚構、正気と狂気、書物からインターネットへ至るメディア環境、民主主義における「みんな」と「わたし」の問題を一挙に連繋させていきながら、『ドン・キホーテ』とともに生まれた民主主義の未来、つまり「ドン・キホーテの消息」をも幻視する、異様なる現代ハードボイルドSF小説。『ドン・キホーテ』とその研究史をも丹念に踏まえた叙述から、現代ネット社会や原発といったアクチュアルな話題へと繋げていく飛躍ぶりも鮮烈なきわめて挑戦的な傑作。
映画『シン・ゴジラ』伊木棚司
「シン・ゴジラ」はエントリーに入っていなければならない作品である。ポリティカル・フィクションの傑作であり、擬似イベントものの傑作であり、ゴジラをSF的に解明する作品である。
宮内悠介『スペース金融道』いたばしさとし
遠い未来、人類が銀河の彼方まで進出した時代のサラ金のお話。必要とあらばロボットにも異星人にも仮想生命(プログラム!)にも貸し付ける銀河の取り立て屋の大活躍。と言っても貸し剥がしはひとつも無く、債務取り立て場面での優越感を楽しみたい人は肩透かし。主人公の上司はムスリムで金融屋と言う意味不明のチンピラ。でも実は金融工学の天才で超大家。金融リスクを時間から並行宇宙に広げることを構想する元天才だったりする。かわいそうなのは部下である主人公。サラ金的な理不尽に振り回されるのは客ではなく、この部下。弥次喜多道中記的なコメディとしても楽しい。主人公が体験させられる様々な理不尽にポストヒューマンSFの楽しみを見出すことも出来る。特に最終話は傑作。人類以外の認知をああいう表現にするか!反則だろ!(笑笑笑)
大正前衛詩かと思ったぞ!!!
なお、うっかり経済小説だと思って手に取った人は、この小説が金融活動の本旨をついていることに苦笑するかも知れない。とにかく上司は天才なので返済が滞った顧客への再融資が抜群に上手いのだ。金融がそれ自体で利益をあげるものではなく、具体的な経済行為の循環を促すものであることを上司は絶対に忘れない。本来の仕事を忘れてしまった感のある我が国の金融界にはちょっと耳の痛い話しかもしれないよ。
森博嗣《Wシリーズ》匿名
『彼女は一人で歩くのか?』 2015年10月刊/
『魔法の色を知っているか?』 2016年1月刊/
『風は青海を渡るのか?』 2016年6月刊/
人工生命体と人間の違いを見極める研究をしている主人公が命を狙われるところから、物語は始まります。
舞台は、人類の寿命が延びた代わりに、生殖ができなくなった未来です。
人間とは何か、生命とは何か、いくつもの謎が提示されます。
シリーズ続刊中で、著者によると「長いシリーズになる」そうですので、完結を待つよりも、スタートを記念して推薦したいと思います。
北野勇作『カメリ』いたばしさとし
人類が去ってかなりたつどこかの町で人間を模して生きている人工生物たちの日常を描く。愛らしい人工生命たちのユーモラスな日々の営みに読者は微笑みを禁じ得ないだろう。その健気さはきっと読者の心をつかむに違いない。やがて読者は物語の終盤に、人類どころか生態系すら存在せぬ終末SFかもしれないことに気づいて戦慄を覚えることになる(ただし説明されない。もしかすると仮想空間かもしれない)。ギミックの説明が殆ど無いにも関わらず、こうした幅と深みを読み込ませる作者の力量はずば抜けている。登場人物たちへの優しい眼差しと終末の寂寥感を隔てること無く描くのは川上弘美「大きな鳥に…」とも共通する。一読して良し、再読して良しの万能小説と言える。SF初心者からコアな読者までひろく満足させてくれる傑作だった。
大森望・編『屍者たちの帝国』Uotsuki
伊藤計劃に捧げられたトリビュート。一人の作家が残せなかった作品を、一人の作家が組み上げ、それをまた他の作家たちが組み替えていく。日本のSF界で起きた激震の、その道標として。
映画『GARMWARS ガルム・ウォーズ』Uotsuki
SFで散々脳に刷り込まれた光景ーー荒涼とした惑星、滅びゆく生命、サイボーグたちの戦争、巨大な空中戦艦、自我の探求、神との遭遇、終わりの始まりーーその全てがここにあり、群れが現代を見据える。泣く程傑作。
火浦功『昭和な街角 火浦功作品集』Uotsuki
何も言えません、火浦功の新刊が出た! もうその事実がSFですよ! 実は描き下ろしではなく未単行本化短編集なのはトリックです。
ハヤカワ文庫補完計画の完結鷲羽巧
ハヤカワ文庫の70周年を記念して行われたこの企画では、数多のSFの傑作が装いも新たに蘇りました。SFを黎明から支え続けた早川書房のこれまでの偉大な功績を振り返り、そして次へと繋げる、素晴らしい企画だったと思います。
往年のファンは思い出の作品の復活に喜び、新参のファンは名前だけしか知らなかった幻の名作を手に取れ、SFを知らないひとには新たな世界への扉を開けたこの企画の大きな意義と、これをきっかけとしたSFのさらなる飛躍を想像し、推薦する次第です。
ゲーム『Pokémon GO』浅木原忍
AR(拡張現実)を日常の光景に変えたという一点において、『Pokémon GO』の登場はSFが現実化した瞬間である。海外メーカーによる開発・海外先行配信ではあるが、これを一般に普及させ得たのはポケモンという国産ブランドの力であり、ポケモンが世界を変えたという意味で「日本」SF大賞を受けるに支障はないと考える。VR/AR元年と言われる2016年のひとつの象徴としても、まさに今日本SF大賞が与えられるべきであろう。
柴田勝家『クロニスタ 戦争人類学者』夕顔
自己相という技術より感情や人格、果ては殺意までも制御できるようになった世界で真に自由な人々というロマンを追い求める主人公が非常に印象的。
また人間の認知機能が持つ現実と意識のタイムラグにより発生する世界の認識と、そのタイムラグを持たない種族の文明の行き着いた先がとても考えさせられました。
天瀬裕康・編著『増補改訂版 SF・科学ファンタジー句集』天瀬裕康
SF俳句としてもよいような作品は江戸時代にもないではなかったし、前衛的な作品の中には、多中心的に発生していた。『定本荒巻義雄メタSF全集』の別巻に収録されているメタ俳句自選百句も、大部分はSF俳句と考えてよかろう。が、ここで編著者は、次の時代は異端者が作る、次の主流は傍系から生まれると信じ、いろいろな実験をしているところがユニークである。
日下三蔵・編『筒井康隆コレクションⅢ 欠陥大百科』天瀬裕康
「ア」から「ン」まで、ブラック・ユーモアとドグマに満ちた異端の解釈であり、文庫未収録という魅力もあるが、初期作品集の『発作的作品群』や単行本未収録のショートショートもさりながら、『NULL』の復刻も懐かしかった。船越辰緒とか杉山祐次郎たちの名は、知らない人が多いのではあるまいか。それらが狂気の中に巻き込まれているのだ。
白井智之『東京結合人間』匿名希望
男と女が互いの身体を結合させて「結合人間」となるという、特殊な生殖を行う世界が舞台。この結合の過程でときおり、一切嘘がつけない結合人間=オネストマンが生まれる。その後、孤島にオネストマン7人だけが集められた状況で、殺人事件が発生。容疑者7人は嘘をつけないはずだが、なぜか全員が犯行を否定し……。「結合人間」という異形の存在が登場する本格ミステリでありながら、超弩級のSF作品とも言えるはず。昨年度最大の衝撃作だと思います。
ゲーム『刀剣乱舞-ONLINE-』中里友香
歴史に実在したとおぼしき名剣・名刀の付喪神が、歴史修正をもくろむ遡行軍と戦う。
そのために審神者(プレイヤー)が刀剣の付喪神を鍛刀したり鍛錬したりして育てては、刀剣男士を戦場に送りこむ。
ゲーム内容は敷居が低く、至極シンプル。
また「時は西暦2205年」という少々ぶっとんだ時代設定が大胆かつ大雑把。
……にも関わらず、キャラクター造形が単純ではなく魅力的だし、結果的に昨今の「刀剣ブーム」と呼ばれるにふさわしい状況に火をつけたのは紛れもない。
その現象に、モデルとなる実在の刀剣を所持している美術館や博物館、自治体などがこぞって良い感じに油を注いでいくスタイルが、ちょっとしたムーブメントになっていて、地域活性化に貢献している感もあり、多層的な楽しみ甲斐があります。
オンラインゲームとしての枠を超えた遊びに変化を遂げつつあります。
市川春子『宝石の国』中里友香
宝石が人格をもって月人と戦う世界観が、まれにみる壮大なスケール。
毎度やってきては災いをもたらす月人は、時にはエヴァンゲリオンの使徒を彷彿とさせる部分もありつつ、その神々しい造形美の気色悪さは実に独特である。
硬質な宝石の体を持つ登場人物同士の軽妙な会話は、その都度、味があって実に表情豊か。
市川春子節とも呼ぶべき趣で、ありきたりではなく、読むほどに癖になる作風です。
宮内悠介『アメリカ最後の実験』匿名希望
幼い主人公を日本に残して西海岸の難関音楽学院に留学した父は、中途退学し、謎の楽器〈パンドラ〉を残して失踪した。成長した主人公は父を追い、学院が行う対戦形式の入試に挑む。いきなり明かされる〈パンドラ〉の謎を読んで驚いた。ブルースがハードSFの題材になるのか! 格闘漫画のように次から次へと登場する仲間やライバルが描かれる過程で、実験国家アメリカの姿が浮き彫りになっていく。ただしその視線は大上段には語られない。著者が入念に設定した、自己のよりどころを求めて彷徨うわたしたちのものだ。
著者、三度目の受賞にふさわしい傑作だと確信する。
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池澤春菜『SFのSは、ステキのS』碧フクロウ
SF入門者の私にとって、このエッセイはSFをより親しみやすくし、SF文学に強く関心をもって、思索を巡らせる楽しさを教えてくれました。
素晴らしいSF作品は数あれど、今までSFに興味がなかった人や、SFに対して抵抗を感じていた人に「SFはとても楽しいものだ」、「SFにはたくさんの素晴らしいS作品があるのだ」と教えてくれるものはないと感じます。
この作品がSF人口をさらに増やして、この分野をより活性化してくれる事を願って。
松本保羽『銀河連合日本』kayou
宇宙人、宇宙船、未来技術といった歴史的なSFの轍をなぞりつつも、現代日本の社会事情をリンクさせることにより、今までになかった味わいのSF作品となっています。読者はあたかも、現代日本に生きながら、同時に作品世界を生きているような錯覚を味わえます。そして何よりも素晴らしいのが、老若男女、層を問わず、すべての人が楽しめる作りになっていることです。夢見るほど面白く、考えさせられるほど興味深く、しかしやっぱり面白い。そういう、有りそうで無い小説だと思います。
水玉螢之丞『SFまで10万光年以上』にゃぼにゃ
生前のSF関係のお仕事がまとまった贅沢な本です。私はSFの造詣が余り深くありません。なので、コラムのネタが分からないものも結構あります。でも、分からないから楽しくないかと言えばそんなことはありません。ディープなネタは「これが分かったらもっと面白いんだろうな」と思わせてくれます。そうすると、他の沢山のSF作品を読んでみようと思うのです。少なくとも私はそうでした。コラムに触発されて、今年はSFの本を沢山買って読みました。私はまだまだSF者とは言えないですが、水玉さんのおかげでその道に入り込んでいます。そういう人は結構いらっしゃるのではないでしょうか。直接的なSF作品とは異なりますが、SFの世界を知ることのできる本だと思うので、推薦させていただきます。
小林泰三『失われた過去と未来の犯罪』富岡薫
全人類が記憶障害に陥り、長期記憶を取り外し可能な外部装置に頼るようになった世界を舞台にしたSF作品。心と身体をバラバラに分解し、ミステリの、物語の、人間の新たな可能性を探ります。第一幕は、記憶障害が起こったばかりの時期、人類がどのようにしてその危機を乗り越えたかが、女子高生を中心にブラックユーモアたっぷりに描かれています。中でも扱いに細心の注意が必要な電子力発電所での対応は、あえてコミカルに描かれていながらも、手に汗握るリアリティと展開。第二幕からは、「私」の一人称。なぜか覚えている様々な人生――謎――を回想しながら、自分が何者なのかを思い出していく。第一幕に巧みにはられた伏線を通し、人類の「進化の果て」が浮かび上がれば、驚愕すること間違いなし。
篠田節子『竜と流木』牧眞司
SFの骨子に生態系バランスのアイデアを据えながら、背後に文化人類学的な神話世界のイメージが広がり、物語には無垢/成熟、調和/暴力を軸とした親子のドラマを織りこむ。しかも、それぞれが別個ではなく有機的に結びつき、いっそう鮮明に立ちあがる。じっくり読みこむほどに凄さがわかってくる傑作。
宮内悠介『スペース金融道』牧眞司
宮内作品は『スペース金融道』『アメリカ最後の実験』『彼女がエスパーだったころ』のすべてが候補にふさわしいのだけど、ここはいちばんハードSFっぽい『スペース金融道』を推します。ポストヒューマンのヴィジョンをトボけたユーモアに落としこむ手つきが最高!
北野勇作『カメリ』牧眞司
カメリがかわいい! ヌートリア擬人体のアンも名脇役! この世界の背後にある機構はおそらくイーガンやテッド・チャンに通じるものだけど、北野勇作はテクノロジカルなタームを弄したりせず「テレビのなか」と言いきってしまう。そのセンスの良さに脱帽です。
北野勇作『ほぼ百字小説』匿名希望
2015年10月16日の夜、北野さんがTwitterで印象的な短いお話を書き始めました。そのとき、Twitterのタイムラインが一変したことを覚えています。北野さんの小説は、いつも終わりも始まりもぼんやりとしていて、登場人物たちは不条理な世界を淡々と受け入れて過ごしていて、本のページの最後まで続きます。ですが、Webメディアは本と違って、書き手が終わりを宣言するまで終わることがないので、北野さんの世界観との親和性が非常に高い。Twitter小説は数あれど、比類なき存在であることを確信しています。北野さんの投稿は現在も継続していて700本を超えています。なお、最新版の『年刊日本SF傑作選 アステロイド・ツリーの彼方へ』には2015年のTweet分から100本が収録されています。
参考URL:http://togetter.com/li/898026 ※ファンの方がまとめてくださっている『ほぼ百字小説』Togetter
有村とおる『地を継ぐ子供たち』あかいK
謎の感染症の蔓延により人口が激減した暗い未来。石棺化された福島第一原発にはいり込んだ7人のうち、助かったのは、まひる少年だけだった。彼の尋常ではない生命力はどこから来たのか。はたして人類滅亡を回避できるのか。正統SF小説。電子オリジナル作品として発表された。
ヤマシタトモコ『花井沢町公民館便り』gryphonjapan
壁などで「隔絶された空間」を想定したSFは多いが「小さな町で、物資や通信は自由だが人の行き交いだけが途絶している」という想定から、数多くのドラマを一話完結で描いた。
特に、やはり2011年の東日本大震災などを寓話的にデフォルメしての、社会の偽善や残酷さ、人が動けないからこそ重要な「コミュニケーション」などのテーマを、この設定を生かして興味深くつづり、全3巻で完結した。
http://kc.kodansha.co.jp/product?isbn=9784063880410
で第一話が読めます
久坂部羊『反社会品』いたばしさとし
医療テーマの連作短編集だが架空のテクノロジーを用いておりSFとして良かろう。どの作品も患者や家族の醜悪な欲望や欺瞞を描く。更には新自由主義の愚劣さにも容赦ない。作者の遠慮の無さに痛快さを覚える。今年度最高のブラックユーモア作品かと。久々にSFが持つ毒を楽しませてもらった。なかなか刺激の強い清涼剤だった。
吾嬬竜孝『鉄腕アダム』新恭司
未知の宇宙文明から襲来する“蝶”に立ち向かう、心を持ったロボット、アダム。近未来の話だが作中で描写される科学考証の要件はいまの現実に存在するものから引いていて、『オービタル・クラウド』などに続く最新の科学冒険譚になっている。何匹もやってくる“蝶”はあとになるほど学習し、強くなるボーグのような存在で、毎回掃討の方法を苦慮し試行錯誤しながら立ち向かってゆく。「鉄腕アダム科学講座」では元ネタになった科学研究なども解説されていて作品の読み方を広げる助けになっている。
星野之宣『レインマン』中野晴行
ポルターガイストや体外離脱など、超心霊現象を最新の脳科学と量子力学、人工知能技術などを駆使して解明しようとする新時代のサイキックアクションコミックです。主人公の大学生・雨宮瀑(たき)は、賽木超心理学研究所にスタッフとして参加しています。ある日、彼の前に自分とソックリな男・漣(れん)が現れます。漣は瀑の目の前で高層ビルから飛び降りで死んでしまいますが、巨大団地のポルターガイスト現象を調査する瀑の前に、「霊」のような存在として現れ、自らを「レイン」と呼んでくれと告げ、瀑を体外離脱に導きます。漣は、脳という制御器官を取り去ることで意識は無限に広がる、それが体外離脱なのだと説明します。そう、瀑にも脳がなかったのです。次元を超えた量子コンピュータ化することで暴走する人工知能などアクションシーンも豊富。作者の新境地となる作品として推薦します。
白井弓子『WOMBS』森岡浩之
重厚なミリタリーSF漫画。漂着者によって開拓された惑星に、第二次移民団が来訪し、支配権の移譲を迫る。ほとんどの国家が屈服する中、ハスト国だけは抵抗する。先進文明を持つ第二次移民に、ハスト国は原住生物の超常能力を借りて抵抗する──ある意味、王道作品だが、現在的なテーマが盛り込まれている。なにしろ主人公は、異生物を擬似妊娠することで、その力を借りて戦う兵士なのだ。SF者が未読で済ますには、惜しい作品だと思う。
映画『キングコング対ゴジラ<完全版>』4Kデジタルリマスター版の制作鬼嶋清美
『ゴジラ』シリーズ最大のヒット作でありながら、初公開以降失われてしまった<完全版>が、オリジナルネガの発見と4Kデジタルリマスターによって、オリジナルの姿を蘇らせたことは、怪獣映画ファンとしてまさしく僥倖であった。今後も多くの名作が同様に本来の姿を取り戻してくれることを期待して、今作のリマスター作業を行った東京現像所のスタッフを受賞対象者として、日本SF大賞に推薦したい。
(注 2016年7月14日のTOHOシネマズ新宿での上映会及び同日の日本映画専門チャンネルでの放映を発表日としておきます)
映画『シン・ゴジラ』鬼嶋清美
怪獣映画というジャンルは本来「この世界に異形のものが現れた驚き」を見せるものだったはずが、シリーズ第1作『ゴジラ』以降「怪獣というものを見せる」ものとして確立し、そのためにマニアのジャンルとして矮小していった。しかし今作で、庵野秀明総監督以下スタッフがマニアックなまでに細部に拘って、『ゴジラ』第1作以降は失われた「この世界に異形のものが現れたらどうなるか」を改めて見せることで、多くの観客を呼び込んだことは天晴の一語に尽きる。怪獣映画というジャンルを洗い直した今作の影響を、今後同ジャンルを作るものは無視することは絶対にできない。
 今作を日本SF大賞に推薦する。
早川書房編集部・編『ハヤカワ文庫SF総解説2000』鬼嶋清美
1970年にハヤカワ文庫SF1番として『さすらいのスターウルフ』が刊行されて四十数年。多くの人にとってSFに触れるきっかけが、ハヤカワ文庫SFと創元推理文庫SF(創元SF文庫)のどちらかであっただろう。このふたつのレーベルが今日まで途切れずに続き日本のSF文化の中心を担ってきたことは間違いない。この『総解説』が2000番『ソラリス』までのガイドブックであると同時に、各解説者の解説が、どれだけこの文庫から影響をうけたかの証明ともなっていると思う。
 ハヤカワ文庫SFのこれまでの業績を含め、この本を日本SF大賞に推薦したい。
平野耕太『ドリフターズ』gryphonjapan
今や一ジャンルとなった異世界SFにおいて、時空を超えるという性質を利用して「古今東西の英雄豪傑の対決・共闘の場」として描き、新たな可能性を開いた。また、古今の名将が一から国盗りをする過程で、普遍的な政治哲学や軍事史を例えば種子島などに仮託し、分かりやすく語る点も魅力の一つとなっている。
連載はまだ5巻で、全貌が見渡せないことは受賞の検討ではマイナス点かもしれないが、今年映像化されたことを考えると逆に一番いい受賞タイミングではないでしょうか。
TVドラマ『仮面ライダードライブ』浅木原忍
『仮面ライダードライブ』を。「車に乗った仮面ライダー」という設定や刑事ドラマ要素の陰に隠れているが、敵は機械生命体、敵味方の中心にそれを産み出した科学者が配置され、最終的な黒幕の目的が全人類のデータ化であることなど、平成2期ライダーの中でも『フォーゼ』と並び非常にSF要素の強い作品である。怪人である機械生命体ロイミュードが必ずしも絶対悪ではなく、ハート様の主役側をも食いかねない圧倒的カリスマと魅力は、本作のテーマが「テクノロジーは使う人間の意志によって善にも悪にもなる」であることを示しており、人間とテクノロジーの未来に希望を託す結末は、野尻抱介・藤井太洋らに連なるクラーク派(Ⓒ大森望)のロボットSFとも言えるだろう。それを抜きにしても仮面ライダー×熱血刑事ドラマとして楽しめる本作は、現代娯楽SFの模範的傑作である。
映画『シン・ゴジラ』りょう
「現実対虚構」というキャッチフレーズから複数の意味を想像できる作り込みの秀逸さに加え、東日本大震災の記憶も生々しい私たちの心象をかき立てる。社会的な反響の大きさを含めて、この1年間を代表する作品といえる。
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興奮社・編『こんなのはじめて』烏賊釣漁船干瓢巻
ツイッター上で書き手を募集し、エロをテーマに競作された同人誌。
エロを主軸にすることによって、私のSFへの偏見を変えてみせ、かつ各同人の表現地層の幅を広げようとした視点にも一票を投じたい。
そして、単純に面白かった。
円城塔『エピローグ』いたばしさとし
OTCの侵攻によって変容し、人類の認知能力を超えた世界の有り様を不条理かつユーモラスに描いた。文あるいは物語の有り様について読者の思い込みを毎回気持ちよく壊してくれる円城塔だが、今回も円城節は健在。読者の意識は多宇宙にまたがる事件に右に左にふりまわされる。そもそも多宇宙がほころんで超時空的に錯綜している世界の話なので強い目眩感に襲われるのも仕方がない。本編のむこうにメタな構造があり、登場人物も物語も記述機械によって記述された言語の編み物と言うことになっているらしく、しかもそのほころびを紡ぎ直そうと言う話なのだからややこしい。物語を貫くものがラブストーリーであり、物語を生むシステムとラブストーリーの出会いによってこの一冊がようやくまとまりを見せたとき、難解な数学問題を解いた後のような心地良い疲労感に襲われる。この快楽を一度感じてしまったら円城作品から逃れることはもう出来ない。
筒井康隆『モナドの領域』いたばしさとし
決定論的な哲学論議のふりをした流行りの多宇宙小説。多くの哲学説を引用したGODの語りからてっきり認識をめぐる哲学小説と思いきや、くそー、騙された!
GODの言説に思考と論理をフル回転させられ、物語は予想がつかず、それでも最後まで読まされてしまったのは、物語中の登場人物たちと同じくGOD=作者の罠にはめられたってこと。
GODはもちろん作者自身で、巻末のメタ小説っぽくなったところで、読者は作者の手のひらの上で踊らされて、作者の物語論、作者−読者の関係論にむりやり付き合わされていたことに気づく。だが時既に遅し。読書はほとんど終了している。
書き手の力量と言ってしまえばそれまでだが、すげー心地よい敗北感。ったく、筒井のおやじめ!また予想外に面白いものを書きやがって!
帯には「わが最高傑作にしておそらくは最後の長編」などと書かれているが、どうせこれも嘘っぱちだ。作者の執筆欲・創作欲は依然として旺盛。この一作はとても面白いのだが、何が最高傑作だ!どうせ次の作品はもっと面白いにきまっている!作者のしてやったり顔が目に浮かぶようだ。
川上弘美『大きな鳥にさらわれないよう』 いたばしさとし
人類の静かな終末を綴った連作集。遠い未来における人びとの生活を淡々と描いているだけなのに、ジワジワと終末感が強まっていく。読者はまるで高齢な身内の死を迎えた家族のように、人類の優しい終末を見つめることになる。母性的な穏やかとる滅亡への諦観を両立し、重厚で深刻な主題を見事に書ききった。
法月綸太郎『挑戦者たち』マリ本D
本書を、「ストレンジ・フィクション」としてのSFとして推薦する。本格ミステリにおいて挿入される「読者への挑戦状」をネタに、レーモン・クノーの『文体練習』よろしく99の様々な「挑戦状」や、それにまつわる(架空の)エッセイなどが乱舞する。元ネタも多岐にわたり、人気漫画や美少女ゲーム、さらにはTwitterで流行った「今…あなたの…心に…直接…呼びかけています…」などさまざま。しかし、それだけで終わらないのが本書の一筋縄ではないところであり、ジャンルや、さらにはスタニスワム・レムの『完全なる真空』みたいな本書自体への自己言及などが、本書にメタフィクショナルな雰囲気を漂わせている。「SF」の多様性として、本書のような「奇妙な」小説も評価されるべきと思い、推薦した次第。
神林長平『絞首台の黙示録』ジュール
始まりが唐突であるなら、終わりも唐突。
物語は終始会話で、その先にたどり着いた場所はある意味見たこともない景色。
神林長平の最新作はどこか地味だ。序盤は永遠に会話が続いていくだけ。物語は動いているようで動いていない。
いったいどこにたどり着くのかわからない、その思いを主人公とともに共有しながら読み進めていけば、固定された何かを壊されるような最後に。
この面白さは、発想は、想像力はどこから来るのか、これから先の著者により一層の期待が持てる素晴らしい一作。
アニメ『コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜』ジュール
これほど語る場所が多く、どこをお勧めすればいいのかわからない作品も珍しく、しいて言うならすべて。
キャラクター、展開、演出あらゆる点で高水準。現日本アニメにおいても最高峰の一作といえる。
アニメとしての完成度、素晴らしさはもちろんのこと、それだけでなく今も続いているオタクカルチャーの意味をも問いかける會川 昇さんの手がけるストーリーは多くの人々の胸に突き刺さる。
最終回における主人公のセリフにこの物語のすべてが込められているように感じる。
多くの人々に、アニメファンに、SFファンに見られるべき一作。
つばな『第七女子会彷徨』dbr
昭和の時代に描かれたよう懐かしさ。ゆったりとした表現で、変わったところから攻めてくる斬新さ。SFは「見慣れたものを、見慣れぬものに変える」あるいは「見慣れぬものを、見慣れたものに変える」ことで未来を描く文芸だが
この作品はその両観点が入り乱れていて、不安定なのに確固たる、わけの分からない世界を構築している。それでいてあっけなく崩壊させたりもする。主人公にとっては変な状況なのに、周囲が気にしていないからまあいいかみたいな適当さ。センスオブワンダーな作品。
粟岳高弘『取水塔』タニグチリウイチ
女の子たちがセーラー服やスクール水着や裸で動き回る世界で描かれるのは、遠大な時間を経て実現した異星人と地球人との関係。つまりはコンタクト。SFとして古今の東西で描かれたテーマを、ぬぽぽんとした画風の中にきっちりと表現してみせた。
宮内悠介『スペース金融道』タニグチリウイチ
どこであっても誰であっても借金を取り立てるというモチベーションを土台にアンドロイドも含む人類以外の生命や知性の再定義を試みた上に経済や金融の要素を乗せて来たる宇宙時代の社会のあり方を見せてくれた。こんな手法があったとは。
ゲーム/アニメ『Rewrite』 ジュール
SFにおける名作と呼ばれる作品は映画や小説に多い。そんな中、田中ロミオはアド
ベンチャーゲームで数多くの名作SFを生み出してきた。繰り返す、というゲーム特有
の要素をうまく織り交ぜたCROSS†CHANNEL。哲学思想を織り込み、超能力者を扱った
作品、最果てのイマ。今作Rewriteはこれら二作品において、田中ロミオが練り上げ
てきた哲学思想、SF要素をより高度なレベルに昇華し、それでいてゲームの面白さを
損なうことが無いように作られた、田中ロミオSFの到達点である。一見すればよくあ
る学園アドベンチャーだが、五つの個別シナリオを進めるごとに、想定していた作品
世界が崩壊していく。そしてクリア後、解放されるmoon、terraルートにより、世界
観がガラリと変わる。今回アニメ化によって第六のルートが追加され、作品の深みが
増し、SFとして、エンターテイメントとして面白くなったRewriteは間違えなく、SF
大賞にふさわしい作品だ。
アニメ『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』dbr
いま作らねばいつ作るのだというテーマ。21世紀現在のような閉塞的世界。大国や多国籍企業の経済的都合で武力衝突が始まるが、戦場となるのはそれとは無関係な場所。
死ぬのは生き残るために戦っている無関係な人たち。資本的活動に見せかけた植民支配と奴隷搾取の被害者。フィクションは過去と未来、いずれを舞台にしても現実を反映するものなので似ているのは当然だが、違うのは少年兵たちが帰るべき故郷と未来を取り戻したこと。
円城塔『プロローグ』『エピローグ』ジュール
繋がりがあるので二つで一つの作品としてエントリー。
すごい作品、がそのすごさをどう説明すればいいのかわからないし、どれだけ言葉を尽くしたところで、この作品の素晴らしさを伝えられると思えない。とにかくすごい、とにかく面白い、とにかく素晴らしい、とにかくエンタメ、とにかくSF。バカみたいな言葉の羅列になるけれど、とにかく読んでいただければ、この作品のすごさがわかると思う。間違えなく、一つの到達点……何の到達点なのかはわからない。
宮内悠介『彼女がエスパーだったころ』ジュール
盤上の夜で華々しいデビューを飾った宮内悠介氏。彼女がエスパーだったころは、そんな氏のデビュー作、盤上の夜のDNAを受け継ぎながら、より進化させた素晴らしい短編集。日常の中に潜む非日常とでも言うべき数々の事件、それを盤上の夜と同テイストで描き切る。と思っていたが徐々にそこにキャラクターとでも言うべきものが付与される(もちろん、物語を邪魔しない程度に)。盤上の夜では語り手にキャラクターが与えられていなかった。ある種それも盤上の夜の魅力の一つでもあったが、今作ではキャラクターを付与したことで、物語により没入できるようになり、SFとしてもエンターテイメントとしても楽しめる一作に仕上がった。SFを普段読まない人にも、SFを読む人にも普遍的に人々に受け入れられる素晴らしいSF作品だ。
ゲーム《メタルギアソリッド》シリーズジュール
メタルギアソリッドには多くのSF要素が存在している。メタルギアや光学迷彩といった兵器はもちろん、ストーリーやキャラクター設定、作品そのものに至るまでメタルギアには様々なSFが含まれている。特に最新作にして完結作、メタルギアソリッドVファントムペインには多くのSF的要素が含まれている。
 開発会社は今後もメタルギアシリーズを作ると言っているが、そこに生みの親である小島監督は関わらない。であれば、それらはもはや正当なメタルギアのミームを受け継ぐ作品ではないだろう。そうした意味で正当なメタルギア作品、その完結編であるメタルギアソリッドVファントムペインの完成を持って、メタルギアというゲームを評価するべきだ。メタルギアシリーズは間違いなく日本が誇れるSF作品である。


映画『君の名は。』ジュール
新海誠は初期作品ほしのこえからいくつかSF要素のある作品を作ってきた。異星人や並行宇宙、ロボットなど。しかし、雲のむこう、約束の場所以降はSF要素はなりを潜めてきた。星を追う子どもでファンタジー要素は出てきたものの、秒速5センチメートル、言の葉の庭ではSF要素は皆無だ。そんな新海監督がこれまでのSF要素と初期から描き続けたすれ違いの恋愛というテーマを最大限に使い、SFでなければ作り得ないエンターテイメント作品を生み出した。君の名は、はSF作品であり、SFだからこそ描ける恋愛作品だ。これまで監督が描き続けた恋愛要素を最大限に生かすガジェットとして、入れ替わりというSF要素を組み込み、これまでで最もすれ違いの大きい、同時に最も距離の近い恋愛作品に仕上げている。SFとして評価されるべき素晴らしい一作だ。
映画『シン・ゴジラ』大正(おおまさ!)
見るべき点の非常に多い作品ですが、特に「映画「ゴジラ」の存在しない世界」という設定は、SFというジャンルにとって非常に意義深いものです。小松左京氏の作品に顕著なように日本SFは、その歴史の出発点に敗戦体験がありました。
その意味で、核への恐怖の象徴として登場した怪獣「ゴジラ」の存在は日本SFにとって常に自明のものであり続けてきたということであり、それを抹消するということは、日本SFの歴史を白紙に戻すことをも意味します。
つまり「シン・ゴジラ」は、作中最大のSF設定がそのまま「日本SF」に対する強い批判意識へと接続しているのです。その点において、この映画を日本SF大賞として評価する意味は非常に大きいと考えます。
映画『君の名は。』Ta. Miyoshi
美しい風景、糸守と東京をつなぐ2人と周りの人々の日常。失われた伝承は観客にも見えないが、もしも〇〇という少し不思議な物語として楽しめる作品に仕上がっている。中高生の観客の楽しそうな姿からも未来に日本SF大賞として残したい。
聖悠紀『超人ロック』ろく
~SFファンとそうでない人に~ 
1967年に聖悠紀先生によって生み出された本作品は、日本のエスパー漫画の代表作と言えるでしょう。50年後の今もヤングキングアワーズ、コミックフラッパー2誌に同時連載されています。
漫画界にサイコスピアなど超能力の本格的描写を導入し、また「リプレイ」という超能力を持つが故のロックの決して癒やされることの無い悲しみ、壮大な銀河連邦~帝国史など重層的なストーリーで多くのファンを魅了し続けています。
これらの日本SF界への多大な貢献はSF大賞受賞に相応しいと考えます。
ALISON『宇宙の死を見た不老不死』浅木原忍
これは東方二次創作である。そして、あまりにも壮大なセンス・オブ・ワンダーに満ちた宇宙SFの大傑作である。
不老不死の人間は、この宇宙が死んでもなお生き続ける。その時何が起こるのか? 宇宙の死を前に彼女たちには何ができ、そして何を選択するのか? カーズが考えるのを止めてしまったその先を、この作品は蓬莱人たちの目を通して、我々に平易に見せてくれる。
その存在は理解していても、あまりにも遠すぎて想像の及ばない「宇宙の死」。東方projectの設定を駆使して、我々の想像力の限界の先を見せる本作の感動は、紛れもなくSFでしか得られない感動であり、東方二次創作だからこそ描けるセンス・オブ・ワンダーだ。
現代SFに対する宇宙一壮大な生命賛歌のアンサーとも受け取れる本作は、東方二次創作という枠を遙かに超えて、日本SF大賞に相応しい作品である。
参考URL:http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=56677797 もしくは http://seiga.nicovideo.jp/comic/21234、https://twitter.com/i/moments/782192837051854849
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