第36回日本SF大賞エントリー一覧

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アニメ『放課後のプレアデス』東條慎生
宇宙船修理のための物探しをプレアデス星人に頼まれた五人の少女が魔法使いになって奔走するという可愛らしい物語ながら、その背景には平行宇宙設定や国立天文台の協力に与った科学考証がある。それらを物語的には「魔法」で済ませる語り口の巧さが際立っており、子供の小さな悩みを宇宙スケールで描く第四話などの詩情も卓抜。科学と詩の先達宮澤賢治を踏まえた繊細で緻密な脚本、音楽とリンクした場面演出、最新データで描かれた土星の輪ほか宇宙を描く背景美術など、映像作品としての完成度も高い。物語は空や星を夢みる権利を肯定し、宇宙の旅の果てに人と人のなかにある「私」を見つめ直して、日々の小さな一歩へと着地する。敵役はいても悪のいない優しさと、かといって甘くはない峻厳さもある、真摯な倫理性は貴重だ。児童書版や菅浩江による別視点の小説版など、子供向けにもSF的にも広がる懐の深さをもつ、ジュヴナイルSFファンタジーの傑作。
水玉螢之丞『SFまで10000光年』戒能靖十郎
2014年12月に逝去された水玉氏は、SFをはじめとしてアニメ・ゲーム・漫画・フィギュア等々、あらゆるオタクカルチャーをポップな絵柄でディープに描き様々な雑誌にあらわれては絵の可愛さになにげなく読みだした人間を底なしのマニア道に引きずり落とす、愛すべき悪魔のような方だった。「自分の仕事は画集や単行本として残らなくていい、消えてなくなるものだ」とは実兄に語ったという水玉氏の言葉だがふとしたきっかけであらゆるジャンル・メディアへとつながっていく広大すぎる混沌は時代のあだ花とするにはあまりにも惜しく、水玉螢之丞という存在そのものがまさしくSF的な奇跡でありその一時代の足跡を記した本作はSF大賞にふさわしいと判断し、推薦させていただきます。
TV番組『ロンリのちから』魂木波流☆京フェスで火星三部作読書会しよ
論理性について学ぶEテレの高校生向け学習番組二期&一期。二期は演劇部の生徒が、自分たち以外の人間が消えた世界をさまよう少年少女たち、という舞台を作る過程で生じた疑問を、論理的な思考を学ぶことで解決していきます。公式サイトで全話配信中。
ダン・ゲルバー、グレッグ・コスティキャン、エリック・ゴールドバーグ『パラノイア【トラブルシューターズ】』日本語版(New Games Order)岡和田晃
会話型RPGとSFは、歴史的にジャンルとしての相互影響関係が根ざしている。にもかかわらず、本賞では軽視されてきた。しかも、翻訳作品をSF大賞に取り上げるのは趣旨に合わないと、あるSF作家クラブ会員から耳にしたこともある。だが、『パラノイア』は四半世紀もの間、この国において伝説のゲームとしてその名を轟かせてきた異色の作品であり、本年度、日本の業界的常識からすると型破りな販売形態で成功を遂げたダークホース、ハンディなどものともしない。というのも本作は、ザミャーチン、ハックスリー、オーウェル、バージェスといったディストピアSFの内在的論理をルールシステムとして表現することに成功した傑作であり、SNSやドローンといった流動化する監視社会の現状を先取りしてもいるからだ。このゲームを知らずしてSFを語るのは、ちょっと恥ずかしいよ。(参考:「TH(トーキング・ヘッズ叢書)」No.63、田島淳のレビュー【監修は筆者】)
藤井太洋『アンダーグラウンド・マーケット』いたばしさとし
SFは科学を描くのは上手い。しかし貨幣と経済を上図に描けた例は少ない。本作は仮想通貨の構築を技術の面から描きつつ、それにともなう社会の変容の可能性をスリリングに描き、SFのステージと可能性を広げることに成功した。
生頼範義 (著), オーライタロー (監修), みやざきアートセンター (その他)『生頼範義 緑色の宇宙 (玄光社MOOK illustration別冊)』渡邊利道
つい先日訃報が伝えられ日本のみならず世界のSFファンに衝撃を与えたイラストレーター、画家の、生前初の大規模な個展の内容を元に作られた画集。小松左京や平井和正の小説はもちろん、スター・ウォーズなどの映画ポスターやゲームパッケージイラストレーションなどもふくめて忘れがたい偉大な作品。ぜひとも全国で展覧会を開いていただきたいものです。
『国際SFシンポジウム全記録』渡邊利道
1970年と2013年の、二回おこなわれた世界のSF作家を招いて討議やパーティの記録。記念写真や新聞記事の切り抜きなど、資料性も高くとても興味深い内容で、これまでバラバラにはいろいろ読んできたものですが、こうして一冊の本にまとめられた意義は大きいと思います。
水玉蛍之丞『SFまで10000光年』渡邊利道
突然の訃報に驚き、呆然とし、自分で思っているようよりもずっと大きな喪失感に襲われてまたあらためてその仕事の大きさに驚きました。毎月読んでいたイラストエッセイがまとめられた本書は、何度読み返しても当時の思い出が濃密に蘇ってくる素晴らしい記憶の喚起装置です。
佐藤哲也『シンドローム』渡邊利道
まるで楽譜のような小説。朗読したくなるリズミカルな文章とイラストでレイアウトされるページをめくるごとに驚きと楽しさが溢れる作品で、日本SFのタイポグラフィックな系譜を更新した小説だと思います。もちろん見た目ばかりでなく物語内容の現代性も見逃せない。
福地翼『サイケまたしても』匿名希望
掲載誌『週刊少年サンデー』。池に飛び込んで溺死することで、その日の朝に戻ってくる能力。主人公がその能力を平気で何度も使うバトル漫画です。
神林長平『だれの息子でもない』市村肇
第一に、基本アイデアだけなら同じ作者の『帝王の殻』にも相通ずるが、まったく別の、しかも非常に今日的なテーマを扱った作品に仕上がっているのが驚異的に思えたこと。
第二に、本書が書き下ろしやSF専門誌に掲載されたものでもなく、「小説現代」に掲載された連作中篇三篇をまとめたものであるということ。
以上の点から、神林が一貫して書いてきたSFは、インターネットの普及などにより、今の方が理解しやすくなっているのではないか? 
と考えさせてくれた作品でした。
九井諒子『ダンジョン飯』1~2巻natsu1985
サイエンスファンタジー、あるいはそれのパロディ的解釈に新生面を切り開く快作。似たような発想はこれまでにごまんとされてきたことでしょうが、一線を画すのは九井諒子の持つ対象を即物的に突き放す一貫した視点。
「食」というテーマを軸にモンスター達は生態系を持った生き物として、異種族間の思想の違いは生存戦略の違いとして容赦なく定義し直される。この徹底度は今までに類を見ないものでしょう。本作はまだ始まったばかりですが、著者に長足の進歩を感じた故、推薦します。
西UKO『となりのロボット』natsu1985
アトム以来の「ロボットの成長」テーマと百合恋愛ものを鮮やかに織り合わせた傑作。ロボットと人との認知機構や身体性の違いという現代SF的なトピックから、プライヴェートで切実な感情を見事に掬い上げております。
「ナイトランド・クォータリー」および「ナイトランド叢書」岡和田晃
ハイ・ファンタジーがSFのサブジャンルだとみなされるのとまったく同じ理屈で、怪奇幻想小説も鬼っ子として隅に追いやられる傾向がある。ただ、レ・ファニュやラヴクラフトを読めば自明だが、総合的な完成度は何ら見劣りするものではなく、単にラベリングの弊害を受けているだけの話だ。「幻想と怪奇」誌(1973~74年)の正嫡と呼べる「ナイトランド」誌もまた、2012年から13年にかけて7冊を刊行した後に中断を余儀なくされ、計画されていた「ナイトランド」叢書も頓挫した。けれども、2015年から版元を変えて雑誌タイトルに「クォータリー」を加え、みごと不死鳥のごとく復活を果たしたのだ。古典の新訳と最新作品の紹介、実力派日本人作家の投入をバランスよく実現しているのが素晴らしい。懸案の「ナイトランド叢書」も発刊を開始し、今回の対象期間内だけでもホジスン、ハワードが紹介され、翻訳文学の地図を塗り替えつつある。その志と勢いを買いたい。
アニメ『放課後のプレアデス』リュート.
宇宙と時を翔る、魔法使い達の可能性を巡る旅路。この物語の主題は可能性、何者でもない者が何者かになることにある。
ジュブナイルとして、彼らは自身がどうありたいか悩み考える。魔法使いとして、可能性を持つ者だけが魔法使いになれる。そしてSFとして、その魔法は任意に可能性を確定させる科学技術だ。この作品は多くの要素を内包している。魔法、SF、愛、天文、文学。
特に魔法とSFは相反する物とも言える。しかしながらこの作品ではそれら個々がそれぞれ立ちながら、主題に繋がることで一つになっている。
ただ出鱈目に話を詰め込むのではなく、それぞれを追及しながら共通の軸を持たせることで一つの秩序を生み出し、私達を強く動かした。。ただ魔法、ただSFではない。既存の型にただはめられるものではない。
これは一つであり、全てでもある、比類なき美しさを持った作品である。
映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』秋永真琴
荒廃した近未来を描くさまざまな物語に大きな影響を与えたシリーズが、たまらなく豪快で、おそろしく精緻な、最先端の作品として見事に帰還しました。
緻密な考証が、強烈なエンタテイメント性と、きわめて現代的なテーマ性を支えるこの映画は、ふたたび「以前・以後」のマイルストーンとして、末永く記憶に残ると思います。
宮内悠介『エクソダス症候群』牧眞司
パノラマのごとく展開される「狂気の歴史」「精神医療の歴史」と、重層的に仕掛けられた世界構造が圧巻。患者と医者の立場が画然とせず少しのバランスで交換してしまうことを、起伏に富んだ物語として表現している。
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宮内悠介『エクソダス症候群』匿名希望
綿密な取材に基づき、誠実すぎるくらい誠実に書かれた上で、思い切った論理の飛躍を持ち込んだ小説。この慎重さと荒唐無稽さのバランスの取り方や、多声的なキャラクター配置の技術面にはまだまだ著者の手探りを感じますが、仮定に仮定を重ねる蛮勇が必要であるのと同じくらい、この種の誠実さも小説には必要だなあと思いました。作者および日本SFの可能性を示す一作だと思います。
円城塔『シャッフル航法』いたばしさとし
読者に知的ゲームを仕掛けてくるが如き意表をついた文章とSFギミックのタペストリー。読者のSFマインドをも脱構築しかねない不思議な魅力。再読を必要とする難解な作品も多いが、美味いスルメイカの如く何度も噛みしめて味わう価値がある。
谷甲州『コロンビア・ゼロ:新・航空宇宙軍史』小谷真理
久しぶりに航空宇宙軍史が更新され、感動。暗い宇宙を体感するような雰囲気にひきこまれた。厳しい宇宙環境と人類生存を保証する徹底的にコントロールされた人工環境の接点で繰り広げられるギリギリの闘い。生真面目で渋い甲州節の宇宙SF。これですよ、これ! と興奮。今回はサラディン博士やマリサ・ロドリゲスといった女性キャラも素敵。ライフワークに心から敬意を評します。
藤崎慎吾『深海大戦・漸深層編』小谷真理
『深海大戦』はとにかくカッコイイ海洋SF。前作にひきつづく第二作目だが、単独でも充分面白い。深海でのロボット兵器激突など陸上の常識とは異なるところを科学的に探求しつつ、海洋資源をめぐる日本内外の国際情勢を思弁的に描いており、圧倒的な迫力。海という未知のフロンティアの可能性と魅力とともに、海洋国家・日本の発想力の凄さを思い知らされた。
小野不由美『営繕かるかや怪異譚』小谷真理
 物怪に憑かれた家と、それを霊的にリフォームする営繕屋の活躍を描く。実力派である著者ならではの迫真のプロット、その書きぶりはむろんのこと、なんでも壊してゼロから新しくしようとするより、古きものを優しく未来へと残そうとする考え方(思想 ? )が魅力的。旧時代の建築物といかに共存していくかに関心が集まる今の時代を反映しているようで、深く考えさせられた。
「現代詩手帖」2015年5月号「【特集】SF*詩――未知なる詩の世界へようこそ!」岡和田晃
 現代詩とSF・ファンタジーの相性がよいのは、論証するまでもない事実である。どちらも言葉を駆使して、言葉では表象不可能な領域を瞥見しようと試みる表現だからだ。にもかかわらず、マーケティング的なものへの批判的視座を欠き「空気」に流されやすい日本のSF文壇においては、本格的に融合が試みられた過去がなかったのである。こうした袋小路を打破した画期となる本特集では、円城塔「シャッフル航法」、飛浩隆「La Poésie sauvage」、酉島伝法「橡(つるばみ)」といった秀作の驚くべきクオリティ、ラングドン・ジョーンズ『レンズの眼』、リチャード・コールダー『デッドボーイズ』(いずれも増田まもる訳)を現代詩として再評価する視座の提示、さらには生野毅「「未来」と「回帰」――SFと詩の〈岬〉に向かって」、橋本輝幸「英語圏のSF詩」といった批評の充実により、交わらなかった二つの回路が通じあった。さらなる興隆を願って大賞に推す。
荒巻義雄『定本荒巻義雄メタSF全集』波津博明
 荒巻義雄氏の初期作品を集めた「定本 荒巻義雄メタSF全集」が彩流社から刊行された。「SFの歴史に新たな側面を付け加えた」ものとして、この企画を日本SF大賞に推薦したい。荒巻氏の初期作品群が日本SF史において占めるユニークな位置を思えば、久しく入手不可能だったそれらの作品が全集として刊行されたこと自体が快挙である。しかし、出版の価値はそれにとどまらず、この全集は、巽孝之氏が第1巻の解説で書いているように、「(テクストの異同が)作者本人や翻訳者たち、そして批評家と編集者たちをも交えるという国際的水準において現在進行中」という「文学全集そのものの伝統を根本から脱構築し続ける全集」である。全集のあり方自体が、「SFの歴史に新たな側面を付け加えた」画期的なSF的事件といえる。
映画『世界の終わりのいずこねこ』/西島大介『世界の終わりのいずこねこ』匿名希望
現代の地下アイドル状況の絶望と希望をを2035年の関西新東京市というSF的設定で描いたインディ映画『世界の終わりのいずこねこ』(竹内道宏監督、西島大介共同脚本&出演)、およびそのコミカライズ『世界の終わりのいずこねこ』(西島大介著、太田出版)をSF大賞に推します。ちなみに映画は米魂でも上映されました。
YOUCHAN『TURQUOISE(ターコイズ)』岡和田晃
 イラストレーターとして四半世紀のキャリアを持つYOUCHANが、これまでの軌跡をまとめ直した初めての商業画集。オリジナルの描き下ろしにこだわり、個展で見るセンス・オヴ・ワンダーをそのまま作品化したようなイラスト群(「思想」や「読書」等)は一段と独創的だし、『予期せぬ結末』シリーズ(扶桑社)の挿画群や「ハノークは死んでいた」(牧野修、「SF Prologue Wave)は、ホラー/サスペンスの雰囲気をコンセプチュアルに表現している。『小学音楽 音楽のおくりもの』(教育出版)の表紙絵は、子どもが親しめる楽しさに満ちている。総じてその作風は知性的で、カート・ヴォネガットの研究書を編集した著者によるテクストの“読み込み”が、如実に反映されている。SF小説のカヴァー・アートの多くが萌え絵に席捲されつつある状況において、台風の目となる画集だろう。(「TH(トーキング・ヘッズ叢書)」No.60、同名個展へのレビューを改稿)
佐藤哲也『シンドローム』岡和田晃
第23回の候補作となった『妻の帝国』、第30回の候補作となった『下りの船』は、そのクオリティに比して意味不明な評を受けて落選することとなった。ぜひ、今回の『シンドローム』が三度目の正直となることを切に願う。『宇宙戦争』等の「コージー派の侵略・破滅SF」(山岸真、牧眞司)を批評的に咀嚼しつつ、歴史と表象を問うた作品である。歴史修正主義にも通じる「物語」の暴力を巧妙に迂回し、「(注‥事実という)空白の空間を包み込む網目状の構造」(佐藤亜紀『小説のタクティクス』)に、実証史学的なアプローチとは別個の正確性をもって接近する。巧妙な文章配置、トーベ・ヤンソンの昏さを継いだ西村ツチカの挿画、トーマス・ベルンハルトばりの「国語」への激烈な非難といった方法で、世界内戦下に生きる人々の「顔」の不在を浮き彫りにする。(「図書新聞」2015年04月11日号掲載、連載文芸時評での言及箇所を改稿)
田辺イエロウ『BIRDMEN』霜月
ある事故がきっかけで人ならざる者となった少年たちのSFジュブナイル。ジュブナイル、というジャンルならば人ならざる変化は成長のメタファーと読み解くことは容易い。
だが、彼らの変化は子供と大人の枠組みを超え、社会から逸脱する存在となり得る事を意味している。努力しなければ他者との相互理解に不自由する現生人類と、意図せずとも(時には知られたくない事柄までもが)共有される彼ら「鳥男」。
優劣は自ずと明らかに見えるが、主人公は「望まない変化なんかしない」と人に対する執着を宣言する。これは、『幼年期の終わり』を進化した側の視点から描いたものなのかもしれない。
朗読版『銀河英雄伝説』RRJ橋満
田中芳樹先生の事務所(らいとすたっふ)様より許諾を頂いて、銀河英雄伝説 本伝・外伝の全15巻を全て朗読化させて頂きました。
また、一人の声優、下山吉光さんにて、全て朗読させて頂きました。
作品はもちろんのことながら、国内でシリーズ作品を完全に
朗読化したものはなく。
更に、一人の声優が行った作品は自分の知る限りございません。
ナレーションとお芝居を一人で行ったと言う意味においても語り手の匠の技が光る作品だと思っております。
オーディオブックや朗読の認知がそもそも低い中で、
この様な挑戦をさせて頂いたのですが、あまり存在を知って頂けていないのも事実でして。
もし、エントリーする事で朗読作品を知って頂く機会になればと考えております。
総朗読時間は8000分となっており、分数だけでも恐らくは日本随一だと思っております。
富野由悠季監督『ガンダム Gのレコンギスタ』さやとう
ダイジェスト展開すら味わい深い疾走感と、使い捨て感覚すら愛しいMSとMAたち。2Dメカアニメを観る愉悦に満ちたアクション描写のキレは素晴らしいの一言。御大の「深さ」に慄くしかありません。
カプセル兵団『GHOST SEED ~It's Wonderful World~』山池拓人
グリーンフェスタ2015の最優秀賞を受賞した舞台。登場人物が全て善人、人間と生きた人形たちの心の優しさを描く切なくも温かい号泣必死の作品です!
バンダイナムコゲームス『鉄拳7』さやとう
AC対戦格闘ゲーム史上初の店舗間通信対戦が話題(のひとつ)となった本作は、ロケーションや時間帯の制約を越えて、同レベルのプレイヤー同士のマッチングを可能としました。
それは、AC対戦格闘ゲームを愛好する人間なら一度は想像するかもしれない「未来のゲームセンター」を思わせるものでした。ゲームセンターのパラダイム・シフトを予感させる『鉄拳7』の存在はエポック・メイキングなものであり、SF大賞への推薦に相応しいと判断します。
生頼範義 (著), オーライタロー (監修), みやざきアートセンター (その他)『生頼範義 緑色の宇宙 (玄光社MOOK illustration別冊)』小林直行
 2014年 みやざきアートセンターで開催された「生頼範義展」に行ってきました。圧倒的な質、量に改めて氏と氏の作品の偉大さを感じました。
なのに昨年エントリーし忘れてしまいました。
 「SFファンは、何らかの形で生頼範義氏に対するお礼を形にしなくてはならないのではないか。ご存命のうちに」と思って、本作品集をエントリーしようと思い、でも「ご存命のうちに」とは失礼と考えているうちに、氏は旅立たれてしまいました。
 本作品集は、購入しやすい価格で発売された点も高く評価したいと思います。
九岡望『エスケヱプ・スピヰド七』タニグチリウイチ
これでシリーズ完結。架空の日本でサイバネティックな人間兵器たちがそれぞれに違った異能を振るい、バトルする迫力たっぷりの描写で読ませた。武装を捨てて平和に生きるべきか、騒乱を求め武装によって君臨し統治すべきかも問うた。
山口優『サーヴァント・ガール』タニグチリウイチ
斥力場や電磁場といった物理学の現象を、別次元から来た機械奴隷たちが異能の力に変えて戦う描写がユニーク。人間を遙かに超越した存在を奴隷として従える高揚感と敗北感を同時に感じさせる点も良い。百合成分も乗ったSFアクション。
王城夕紀『マレ・サカチのたったひとつの贈物』タニグチリウイチ
誰かがあるから自分がある。他人がいるから本人でいられる。主体から客体へと向けられる線上の意識の広がりではなく、客体から主体へと寄せられる関心の編目の連なりによって成り立っている、人の世界の姿を描き上げたSF。
映画『世界の終わりのいずこねこ』タニグチリウイチ
未来、その時がくるかもしれない可能性を感じつつ、僕達は困難さを増す今を生きる。その生き方にひとつ希望を与えてくれる映画。僕達が残した思いを誰かが生きて広めてくれるという希望があれば、明日滅びても笑って滅びていけるのだ。
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カタリスト『デイグラシアの羅針盤』青海ムツキ
事故によって深海に沈んだ潜水艇を舞台にしたSFサスペンスADV。ゲームという媒体を生かした構造及び演出は、最小限に抑えつつも最大限に作用して、プレイヤーに「選択」というテーマを投げかける。ゲームというものはその性質上、最善の結果を目指してプレイしがちなのだが、この作品ではゲームでありながらもそういった行為の是非を問うているのだ。作品の中で展開されるドラマも、歴史や医療、道徳、文学など様々な方面から「選択」を描き、それを見事に纏め上げている。更に、結末を若干ぼかすことによって、自分でプレイする意味も持つ。ゲームとしてSFとして高い完成度を持っていると持っていると思う。
石川博品『明日の狩りの詞の』タニグチリウイチ
ハードな狩猟小説になりそうな題材を、宇宙生物の到来という非現実の器を用意し、ある程度管理された状況の中で少しばかり進んだ文明を使って行われる狩猟といった設定を持ち込み、高校生による狩猟の物語を成り立たせた。宇宙民族学小説。
粟岳高弘『いないときに来る列車』タニグチリウイチ
こことは違う不思議な世界で生きる人たちの、不思議を日常として受け入れ暮らしている穏やかなライフスタイル。いつか異星人と出会うこともあるだろう人類の、それでも慌てず粛々と順応しながら生きていくだろう姿を想像させるSFだ。
SFマガジン2014年12月号「R・A・ラファティ生誕100年記念特集」らっぱ亭
SFマガジン12月号R・A・ラファティ生誕100年記念特集を推薦する。プロ・アマを問わず熱烈なファンが多い愛すべき異色作家ラファティの生誕100年を記念して組まれた空前の大特集であり、監修のラファティ番長こと牧眞司の旗振りで本邦のラファティ人脈が総結集したもの。本国のファンたちに「なぜこれがわが国じゃなく日本で実現したんだ!」と驚嘆せしめ、海外のブログやファンジンでも大いに紹介された。本特集を中心として、11月にはイベント生誕100年祭一期一宴が開催され、トリビュート同人誌「つぎの岩」発刊、本邦でのラファティ・ムーブメントは最高潮に達した。ラファティはもはや単に翻訳紹介された一作家ではなく様々なSFなひとたちの血肉となり、遺伝子に組み込まれて次世代へと受け継がれる存在と言っても過言ではないだろう。もしラファティがいなかったら、今の日本SFはまったく異なったものとなっていたことは間違いない。
カタリスト『デイグラシアの羅針盤』伊東桂花
かねてよりノベルゲームという媒体を批評的に捉えた名作は多く、本作もまたその系譜にあります。他聞に漏れず繰り返す物語の選択、分岐に焦点を当てた作品ではありますが、その中でもひとつの選択が持つ重みは類を見ないものとなっています。また、近未来を舞台としていることもあり、作中のガジェットにも面白みがあります。本作の鍵を握る要素の一つはクトゥルフ神話に着想を得たものですが、単に古典を援用するのでなく、現代のサイエンスを用いた独自の視点でクトゥルフを再解釈しており、解釈の斬新さと高い説得力を兼ね備えた設定はた作品とは一線を画するものです。作品構造の面と作中設定の面の双方で高い自己批評性を持ち、科学的かつ論理的な裏付けを持った本作は、遅れて来たゼロ年代の総括と言えるのではないでしょうか。
水玉螢之丞『SFまで10000光年』にゃぼにゃ
密度が濃すぎてネタの殆どを私が理解出来ているかは心もとないですが、その密度の濃さが良い。描かれてきた時代の息吹みたいなものも感じられるけど、でもそんな古臭く感じられない。私たちの時代のSF年代記だと思います。
オキシタケヒコ『筺底のエルピス』匿名希望
退魔伝奇ラノベの衣をまとった本格SF。
戦闘用ガジェットはたった一つ、時間を停止するフィールドのみ。
そのたった一つが使い手によっては剣となり檻となり爆弾となり、千差万別の武器に変化する過程は読み手に驚愕と快感をもたらす。
退治した「鬼」は殺した相手、すなわち主人公たちに取り憑くのだが、その鬼の呪いを時間停止フィールドを使って解く方法がこれまた仰天動地。
そして、その過程で垣間見る未来の地球の光景がどこか物悲しく、けれど不思議とやすらぎを覚える清涼剤となっている。
TVアニメ『スペース☆ダンディ』山岸真
昨年9月までの放送なので今回も対象。SF(とアニメ)のシチュエーション、手法の見本市。基本は毎回投げっぱなしなのをちゃんと締めくくりに持っていった終盤と、円城塔脚本の見事な映像化(2回)がとくにすばらしい。
九井諒子『ダンジョン飯』1~2巻高槻 真樹
ありきたりのゲーム調ファンタジー世界を舞台にするが、ダンジョンの中のモンスターを食べることを主題としたことで、極めて斬新なSFへと変化した。そのために詳細な生態系を構築して、モンスターの生物学的構造を決定していかなければならなくなるからだ。スライムは、ドラゴンはどんな味なのか、どうやって調理すればうまいのか。現実には存在しない料理をまことしやかに提示し、思わず食べてみたくなるレベルまで描き切った力業には喝采するほかない。グルメ漫画版「完全な真空」というところだろうか。
神野オキナ〈あそびにいくヨ!〉シリーズ村 孝
最初はファーストコンタクトものかと思ったが、並行世界、時間旅行、巨大ロボット、オーヴァーロード(ぽいもの)そのほかにもガジェットがちりばめられていて、ほとんど地球近傍での話になっている。最近の政治情勢も包含していてよい。
吉村ことり著『航宙船長「まる」』魔法使いしなさま™
航宙船長「まる」はスペースオペラであるが、硬派なSF物語の主人公が猫に置き換わるというだけで何故にこう、行間から生命の輝きがにじみ出るのか。SFを読んでいるつもりがいつの間にか猫好きに感化されてしまったようだ。いや、そもそも猫こそがサイエンスかつフィクションな存在なのかと、ありもしない納得をさせられる、そんな力がある。時空間を縦横無尽に駆け巡る巨大航宙船。率いるはリアルな美人猫。ついでに圧倒的なSF感。一体何なんだ。この小説こそが第36回日本SF大賞に相応しいと推薦するものである。URL:http://ncode.syosetu.com/n3852ck/1/
飛浩隆「海の指」/木城ゆきと「霧界」継堀雪見(眠)
漫画誌「イブニング」で展開されたSFコラボ企画は、近年の短編SF史上に残る豊かな実りを生み出した。飛浩隆「海の指」で描かれる幻想的な災厄〈海の指〉と”音響”による復元という奇想がもたらす異様なヴィジョンは他に類を見ない。木城ゆきと「霧界」は卓越した画力と構成力で、独特の世界観を漫画化することに成功している。「海の指」が甘美な別れの物語であるのに対し、「霧界」は爽やかなボーイ・ミーツ・ガールものであり、同一設定という”縛り”を上手く活かした上で鮮やかな効果を挙げていることも特筆すべきだろう。それぞれ単独作としての評価も一応可能であるが、原案/漫画の関係性やシェアワールドの成功例であることを鑑みて、「1作品」扱いと見なし、推薦する。
葦原大介『ワールドトリガー』速人
読むといろんなことを考えだしてしまう。
瀕死の生身を異次元に格納しアバター体で四年間を過ごしている主人公・遊真。人格を持ち判断を行うロボット・レプリカ。死後に脳から吸いだしたデータをドローンに搭載して復元された人格・エネドラ(しかも自分が死亡したことを理解している)。作中人物は彼らを友人として、互いに相談し、組織での役割を与え、共に娯楽を楽しむ。彼らは生きているといえるのか? 自我があるといえるのか? 作者は明確な答えも問いも提示しない。ただ作中人物はこう扱っていると、状況を描写してみせるだけである。
他、エネルギー資源がヒト由来生体エネルギーだったら何が起こるか? 現代日本で少年兵を中心にして戦争しなければならなかったら? と様々な種をさらりと描写し読者の前に転がしている作品である。
葦原大介『ワールドトリガー』7巻霜月
個の力vs数の力、少年マンガならば強い力を得たヒーローが有象無象の悪役を薙ぎ倒す展開がセオリーだろう。だがこの作品においては、圧倒的強者である異界人に主人公たち防衛隊員が集団で立ち向かうのだ。隊員個々人の能力差は無論ある。
が、それに頼りきらずに各人が任された役割をこなし、組織であることの強みを最大限に活かし、ある隊員が敗北と引き換えに得た情報を元に別の隊員たちが再び戦う。その様は人類の進化の過程を見るようにも思える。
ネットワークを形成し、他者と結びついてきた事こそが人類の生き残りへと繋がってゆくのだ、と。
佐藤哲也『シンドローム』高槻 真樹
しばらく中断していたボクラノエスエフが、とびきり野心的な作品で殴り込んできた。待たされただけのことはある衝撃作。ジュブナイル侵略SFだが、主人公は事態にまったく関与できない。ただただ流され、あまり重要ではないことに拘泥するその他大勢の一人にすぎない。だがその無力感が逆に、起きている事態の巨大さを際だたせる。講読層である少年少女を挑発するとは大した度胸だが、これぐらいやらないとイマドキの子どもの心には刺さらないかもしれない。かえって「これはオレだ」という共感を呼ぶのではなかろうか。
牧野修『月世界小説』 増田まもる
表紙を担当したYOUCHANが推薦文でおっしゃっているとおり、牧野さんがこれまでに培ってきた言語SFの集大成であり、命をかけて書き上げた渾身作だと思います。読んでいるあいだつねに小松左京の『果しなき流れの果に』や山田正紀の『神狩り』などの日本SFの傑作がつぎつぎと脳裏に浮かぶ恐ろしい作品でもあります。
小野俊太郎『フランケンシュタインの精神史――シェリーから「屍者の帝国」へ』 増田まもる
すぐれた評論とは新たな創作であり、論理的かつ詩的な想像力の発現であると思います。そういう意味で、本書はまさに最良のSF評論となっています。メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』が人々の想像力をかきたてて、現代SFに連なる豊かな系譜を生みだしてきたことがよくわかります。
YOUCHAN『ターコイズ』 増田まもる
いまやSFイラストレーションの第一人者であり、彼女が表紙を描いた作品はよく売れると評判のYOUCHANの作品集です。そのやわらかな色彩と描線の背後には、見るものの想像力をかきたててやまない豊かな物語性が満ちあふれています。
荒巻義雄『定本荒巻義雄メタSF全集』 増田まもる
荒巻義雄がSFマガジンにデビューした『大いなる正午』の衝撃はいまだに忘れられません。あのころの荒巻義雄の想像力はまさに神がかっていたと思います。その時代を超越した作品群をこうしてみごとな装丁の新刊で読むことができるのはまことにありがたいことです。
「現代詩手帖」2015年5月号、特集「SF×詩――未知なる詩の世界へようこそ!」増田まもる
書下ろしの競作と翻訳とエッセイと論考を通じて、現代詩とSFがもっとも本質的なところでつながっていることをあらためて確認させてくれる好企画です。そこにあるのは既成概念にとらわれない自由な想像力でしょう。すでに第二弾、第三弾も予定されており、今後の展開が非常に楽しみです。
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田丸雅智『海色の壜』ありんこ
道端で、知り合いにとてもよく似た人とすれ違いました。「あれ?今の、絶対あの人だったと思うんだけど…」私はその人の後を追うことにしました。そうして、気がついたら、この世ではない世界に来ていました。どこか懐かしく、切なく、温かい。そんな感覚に陥る本。不思議な世界で感じる、生きてきた記憶。ショートショートはいろんな顔を持つ。「少し不思議」という広い意味でのSFとして、推薦します。
花月仁著『ささひと①』魔法使いしなさま™
「ささひと」はミュータントSFである。人間社会の中で当たり前に振る舞う少年が愛くるしい子パンダに置き換わるだけでここまで日常感覚が破壊される物なのか、と狼狽え振り回されるのは狭い常識に囚われた大人だけであって、子供達にとってはパンダもただの「少し変わった奴」でしか無いようだ。ミュータントSFの様式をとりつつ若き青少年が抱く獣欲をふんだんに実現せしめんとするパンダささひとの生き様は俺達SF者の代弁でもある。SF大賞に相応しい。
ni_ka×仮面女子コラボレーション展覧会『after3.11 TOKYO GIRL』魔法使いしなさま™
東日本大震災以降に興ったアノニマスな女子の生き様を、サイバーパンクSF的なアートで示した企画展である。スマートフォンやガスマスクなど、情報機器と非日常の装備とで戦う21世紀の女子を描いた意義深い展示となった。ni_kaは単なるアイドル展に留めず、震災被害者への弔いもアートで行った。SFの様式美で現実世界を風刺した展示内容はSFそのものである。SF大賞に相応しい。
日経 星新一賞魔法使いしなさま™
星新一の名を冠した賞の設立により、星新一という良きSFの夢を再びSFファンのみならず、子供たちにも示し、SFファンの新しい裾野を広げた。巨星の一人であった小松左京も亡くなった今こそ、日本SFを構築した星新一の作品、名前を思い出し再び子供たちに蘇らせる機会を定着させた業績は、SF大賞に相応しい。
牧野修『月世界小説』匿名希望
Web上の月世界小説の感想には、SF的な有名作品への言及が多く見られる。月世界小説が、SFっぽいギミックをけっこうな広範囲で集約してしまったからではないか。『銀の三角』を再読したら「そういえば柘榴界は」と思考がそれた。もう月世界小説を思い出さずにデビルマンは読めない。エヴァを観たら「累がさぁ」、マトリックスの電話シーンで「そこでポリイですよ!」とか絶対に言いたくなる。他作品が月世界小説に紐づけられてしまう。リミックス?MAD?みたいな手を使ったオリジナルSF。しかも要素それぞれが、誰もが何かを連想するようなメジャー級。面白い。
そして何より、本でも映画でもいい、SFを好む人は「なんでそんなの読む(観る)の?」「それ面白いの?」と聞かれて口籠もった経験はないだろうか。私はある。楽しいから読むんだけどそれだけじゃねえんだ、と思えど説明できなくて。質問に対する1つの解が、月世界小説だ。
カタリスト『デイグラシアの羅針盤』ジュピター
『デイグラシアの羅針盤』は近未来の深海を舞台にしたサスペンスADVです。本作の特長として、メタ的な物語構造がクローズアップされがちですが、海洋SFとしても極めて優秀なタイトルです。例えば深海に潜む巨大生物や、細菌、ウィルスの脅威が、さもありなんと理由付けされる様は、荒唐無稽なものを理屈で現実に引き寄せるSFジャンルの真価を再認識させるものです。単なる思い付きではなく現実に起こるとされる事象から近未来を想定したであろう設定が物語の随所に配置されることで単なる衒学の域を超え、「嘘っぽくない」近未来を描くことに成功した貴重な作品として取り上げるべきものでしょう。
西UKO『となりのロボット』yama-phs@
2014年11月発刊の西UKOの単行本。少女とロボットの恋を描く百合モノの範疇に入る作品。ロボットは成長(開発?)途上で、主人公の少女と一緒にいる間にアレコレと学習していく。少女のロボットを一途に思う気持ちと、無垢な気持ちで少女に接するロボットとの恋を、開発者同様手に汗握り見守るように読めるのが本作の醍醐味かと。また、ロボットがいかに少女を愛していたかを知る瞬間は、キューブリックよりもスピルバーグよりもハッとするクライマックスになっている気がします。内容は恋愛コミックですが、SFファンが気軽に楽しめる作品だと思います。
推薦文でノミネートに落とされる事があるのでしょうか? 拙い文章で恐縮ですが、これをきっかけに、もっと広く読まれてもいい作品だと考えますので、推薦します。
円城塔『シャッフル航法』宮内悠介
エントリの一覧にないことに気がついてしまったので、すごく僭越ながら……円城塔さんの三年ぶりの新刊、『シャッフル航法』を推薦させてください。『NOVA』で「Beaver Weaver」を読んだときの衝撃はいまも憶えています。収録作についてはすでに多くのかたが語っていますし、私が附け加えられることは(能力的にも)少ないのですが、私が感じる魅力は、あたかもメタフィクションやポストモダン文学からハンドメイドの限界を外され、さらにその先が示されているような点、そして何より驚異的なのは、この仕事量のなか、文章が決して弛まず、読むことそれ自体の快楽が、いまなお保たれていることなのです。
内村薫風『MとΣ』宮内悠介
内村薫風氏の『MとΣ』を推薦させてください。タイソンとマンデラ、そしてドラクエを強引に繋ぐ上で、SF的な用語を並べるだけでなく、ロジックが用意されていたと感じたためです。
無人探査機「ニュー・ホライズンズ」による冥王星の探査Basso Profundo
従来の予測を覆し、複雑な地形があり、かなりの高度まで大気のもや持つことが明らかになり、「銀河鉄道999」や「宇宙戦艦ヤマト」等で描かれてきた“氷の惑星”というイメージが過去のものとなった。現在も探査データの送受信が続けられており、新たな事実の発見が期待されているが、SFの歴史に刻むべき一点としては、探査機がフライバイを行った2015年7月14日をマイルストーンと位置づけるのが妥当と考える。
王城夕紀『マレ・サカチのたったひとつの贈物』白雨
「量子病」になり、世界中のいろんな人のもとに跳ぶようになった坂知稀。学習型翻訳ソフトの「ベバル」によって、ネット上では人々が言語の壁も国の壁も越えてつながっている。国家間格差は平準化し、一部の富裕層が超多数の貧困層を支配する世界。ワールドダウンにより騒乱が広がる世界の中、坂知稀は跳んだ先で様々な人々と出会い、別れることを繰り返す。見え隠れする世界を裏で動かす存在。「永遠の楽土」。変わらないことを目指した人が辿りついたデジタル技術。ある老人のもとに跳んだ坂知稀は、ある決断をする。坂知稀のそれまでの全ての出会いが収斂したその決断と、青い衣服と靴以外なにも持ち得ない坂知稀が贈った「たったひとつの贈物」、素晴らしいです。人々がある選択を行ってもおかしくない世界設定や、ユーモアがあるのにひとつも無駄のない文章が魅力的です。本書の構成は人の意識を表しているようで面白いです。このSFに出会えてよかった。
佐藤哲也『シンドローム』匿名希望
まず、声に出して読んでも目で見てもここちよい文体と、それを支えるブックデザインが素晴らしい。また、SF的侵略者を「異質な価値観を持つ他者との遭遇」「日常と対立する非日常」として持ち出すことが陳腐で大仰で気恥ずかしくなってしまった現在において、日常と非日常が渾然となった現実や、それと向き合わざるをえない主人公の内面を描くために、そのSF的お約束を再構築・再利用している手際がとてもスマートで現代的に感じました。
TVアニメーション『プリパラ』石持圭
女の子は誰でもアイドルになれる仮想世界「プリパラタウン」で神アイドルを目指す個性的な女の子達の物語。
年頃の女の子に届く「プリチケ」を専用施設でスキャンし入場できるプリパラ内の設定はどれも女の子向けにカスタマイズされたSF要素に満ちているが、特筆すべきはファルルというアイドルである。
プリパラの女の子達の、アイドルになりたいという気持ちの集合体として生まれたファルル。人の意識の集合体として生まれた存在が自我を得ていく、まさにSFの王道ながら、歌うこと、伝えたいこと、友達、そういった女の子のためのアイドルアニメの主軸と見事に絡められ、毎話挟まれるライブの歌、ダンス、演出全てでファルルの変遷が描かれる様は圧巻。
また難解な言葉や設定を用いず自然にSFの基本に馴染めるので、これをみた少女が数年数十年後にSFに触れたときに「わかる」と感じられる土壌になっている点も素晴らしい。
水玉螢之丞『SFまで10000光年』匿名希望
「いさましいちびのイラストレーター」の中に蓄えられた膨大な知識と鋭い観察眼が、森羅万象を「SF」として読み解く傑作! SFに限らず、複数ジャンルを横断し、それらを有機的に結びつけながら、かわいらしいイラストと正鵠を射るテキストのスタイルに育てられたオタクは多いはず。一人の作家の、SFを核にした10年間の思考(嗜好)をビジュアルとして概観できるメディアはなかなかないと思います。
TVアニメ『ワールドトリガー』sirono
日曜日の朝、所謂「ニチアサ」に放映中のSFアニメ。
原作は週間少年ジャンプで連載中の漫画。原作の作り込まれた設定に対して、解説パートを添え噛み砕く・お子様の興味をひくためか作中のお子様キャラの出番を増やすなどの工夫が見られる。
放映時間が6:30と少々早くはあるものの、この作品がお子様(とそのご両親・祖父母)をはじめ、幅広い層の目に触れ、SFの面白さを知るきっかけとなるのであれば、SF界の未来を少し良い方向へと導いてくれるのではないかと期待が膨らむ。
宮内悠介『エクソダス症候群』匿名希望
火星を舞台にしながらも、精神病という普遍的なテーマを追求した力作。その中で題名ともなり、作品の中で異彩を放つ「強い脱出衝動を伴う妄想や幻覚に悩まされる病」エクソダス症候群。通電療法、ロボトミー、薬物投与、画像診断等様々な技術が交錯した後に訪れるラストはいかにも作者らしい。未来を見て今を論ずる、今年マストな作品だ。
スタジオコロリド制作『台風のノルダ』柴田弥司雄
アニメーション映画。2015年6月5日公開。監督:新井陽次郎。 http://typhoon-noruda.com/。

短い中であっても、丹念な背景描写をおこない、少し不思議な世界を描ききった正当派ジュブナイル として。
アニメ『宇宙戦艦ヤマト2199(第1章から第7章までと「星巡る方舟」を含む全話)』いたばしさとし
すでに完結していたが、第24.5話にあたるエピソードが新たに制作されたので、改めてエントリーしたい。かつて社会現象ともなった宇宙戦艦ヤマトに現代の物理学・天文学の知見を加えて大人の鑑賞に耐えられるニュースペースオペラとして復活させた。加えて海外SF諸作品を上手くオマージュし、生活に埋もれていた中高年層にかつてSF少年 だった頃の感動を思い出させ、行き詰まりがちな現代に生きる我々に勇気と活力を取り戻させた感動作だった。
海部宣男・星元紀・丸山茂徳編『宇宙生命論』いたばしさとし
近年続いている系外惑星の発見で現実味を帯びてきた宇宙生物学についての総合的な啓蒙本。SFではないが、今後長期間SFに骨太で魅力的なテーマを与え、読者にとっても書き手にとっても重要な参考書になり得ると思われる。
菅浩江『放課後のプレアデス みなとの星宙』いたばしさとし
好評を博したアニメの小説化。昏睡状態で夢見ている「みなと」の意識が、宇宙船のパーツ探しを通して、一時は励ましを得、一時は絶望を深めていく。「みなと」の絶望は想像を絶するものだがこれを昇華する「すばる」の優しさに作者の人生経験と母性の豊かさが読み取れる。天文学・宇宙物理学の知見を物語に活かし、俯きがちな幼い精神を宇宙的な広がりに目覚めさせ、実存に帰結せしめるその結末は、少年文芸の王道とも言える爽やかさを持つ。これからSFを読むことになるだろう若い読者に強く薦めたい。古参読者もSFを読み始めた時の新鮮な感動を思い出すであろう。日本SF大賞に相応しい美しい物語だった。
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小川一水『美森まんじゃしろのサオリさん』夕顔
近未来の限界集落、新しい技術、集落特有の神話という一見してバラバラの要素が組み合わさりとてもリアルな未来が描かれています。田舎である地元に対するやや歪んだ愛情を持つヒロインに他の作品にはない魅力を感じます。
創土社『クトゥルー・ミュトス・ファイルズ』北野勇作
『クトゥルー・ミュトス・ファイルズ』(創土社)という企画に。狭い間口に見せてじつは、クトゥルーならなんでもあり(そんなことは公言していないが)な作品を送り出す場として機能している。それはかつて日活ロマンポルノという場が生んだ様々な異色作を思わせる。
牧野修『月世界小説』北野勇作
SFでしかありえない小説、そして小説でしか成し得ないSF。なぜそうなのかは読んで体験してください。オープニングからイメージ全開のめくるめく世界に酔いましょう。こういうものが評判になって売れてくれないと困る。
佐藤哲也『シンドローム』北野勇作
SFではいわばお約束の光景が、正確な想像と描写の積み重ねによって見たことのない光景に変わる。とくにラスト近く「それが起きた翌朝」の空気をこれほど正確に描いたものは見たことがない。青春小説としての鬱屈も極めて正確。
山本弘『プロジェクトぴあの』山岸真
いくつか見た範囲のネット書店では八月発売だし、ぼくも昨年八月にネット書店で購入・読了しましたが、奥付上は今回の対象かと。テクノロジーを軸にした文化・社会・日常生活・人の変貌を、現在の世相等を取りこみつつ約十年後という扱いの困難な近未来を舞台にトータルに描きだし、終盤で大きく展開を広げ加速する。この十年あまりの作者の作品には受賞レベルの面白さのものがひしめいていますが、これは上のほうに推したい一冊。
神々廻楽市(ししば・らいち)『鴉龍天晴(がりょうてんせい)』山岸真
東西に分割統治される「もうひとつの日本」の幕末。真田家の子孫と伊賀生まれの秘剣の使い手、ふたりの青年が戦場で相まみえるまでが、多数の魅力的な人物と陰陽道と超技術が入り乱れる中、ハイテンションで語られていく。時代小説ファンにもお薦めの破天荒な物語。
機本伸司『未来恐慌』山岸真
広い意味でなにかを「作る」話が多い作者の長篇の今回の対象は、「未来」。小松左京賞からデビューした作者が小松左京も深く関わった未来学をいま題材に選び、現在の社会と、現代における未来の意味を問う。
作品のテーマと関わる人物名が大竹、中松だったり、「銀座カンカン娘」の使いかたなど、小松左京自身へのオマージュも隠し味。
梶尾真治『怨讐星域〈Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ〉』野川さんぽ
梶尾真治のみならず20世紀SFの集大成とも言ってみたい大オムニバス長編。先人が築きあげてきた宇宙像と宇宙進出の夢を踏まえ、自分自身の世界を思うぞんぶんに展開している。SFって、こんなにも夢と愛にあふれたジャンルなんだよと誇りたい。
高山羽根子『うどん キツネつきの』野川さんぽ
読みやすい見事な文章と、親しみやすい登場人物たちが織り成す物語は、実は、謎に満ちている。小説の形をとっていながら、通常の小説を超え、哲学的冒険に満ちた幻想の世界が描かれているのだ。こんな読書体験は初めて。素晴らしい!
筒井康隆『繁栄の昭和』野川さんぽ
今更ながらの大家の作品集ですが、これほど自由で、刺激的な一冊が候補にも並ばないようでは情けないにも程がある。星新一さんに『つねならぬ話』という尋常ならざる作品集があるように、筒井さんの突き抜けた至芸を見せつけられる傑作だ。
佐伯瑠伽『環八イレギュラーズ』野川さんぽ
すでに一つのジャンルとなった『20億の針』系統の宇宙刑事ものですが、本作は、はみだした人々への優しい視線と、ユーモアに満ちた励ましが溢れ、秀逸。老若男女が楽しめるSFになっている点も、大いに評価したい。
森岡浩之『突変』野川さんぽ
ご町内が時空をスリップして、異世界へ。
一見、無能な人たちが集まって、なんとか生き延びてゆく過程が楽しい。キャラクターの造形や異世界の描写の巧みは、ベテランの域に達した著者の力量の大きさを感じさせる。
林美脉子 『エフェメラの夜陰』岡和田晃
現代日本のあらゆる文化と同じように、現代詩もまた、高度資本主義社会に包摂されたシミュラクルとしての相貌を露わにしている。紡がれる言葉はとかく「ゆるふわ」で、手垢のついたイマージュの反復に終わっている、というわけだ。しかし、林美脉子はどう見ても別格である。第34回に『黄泉幻記』を推薦した私は、日本SF大賞が詩に冷淡であり続けてきたことを批判したのだが、実は詩壇もまた、「宇宙の神殿を支配し、王さえも自在に操る」巫女の託宣とも言うべき、林の反時代的な詩的言語への黙殺を続けてきたというほかない。その強度に恐れをなしたからだろう。けれども『エフェメラの夜陰』の光芒が消え去ることがないと私は知っている。空知野というトポスが培ったヴィジョンが、宇宙の最深奥を鋭く穿つ。瞠目せよ、ステープルドン、ラヴクラフト、レムの系譜に連なりながら、彼らが描けなかったジェンダーの領域にも鋭くメスを入れる真の傑作に。
蝉川夏哉『異世界居酒屋「のぶ」』YOUCHAN
読むとお腹が空いてしまいますが、幸せな気持ちになれる作品。異世界につながってしまった日本の居酒屋。そこで繰り広げられるファンタジー世界の人間模様がこれまた楽しい。異世界の設定も、異世界とのつながりを司るしくみも、すべてが愛らしく、肩肘張らない展開がとても心地いい。現在、第3巻まで発売されており、Webと雑誌でコミカライズも進行中の注目度の高い作品です。トリアエズナマ!
音楽 吉田隆一/新垣隆「皆勤の徒 ~酉島伝法に~」桔梗花
バリトンサックスとピアノという稀有な組合せで、一度読めば頭から離れない「皆勤の徒」を一度耳にすると忘れられない旋律を奏でる。異世界を音楽で表現しきった素晴らしい作品。
大森望・牧眞司編『サンリオSF文庫総解説』牧眞司
(1)書誌情報がシッカリしていて、(2)ほかでは得られない証言もふんだんに盛りこんだ、(3)通り一遍のストーリー紹介ではなく偏愛に満ちたレビューの、読んで面白いガイドブック。そんなのがあったら凄いじゃん! と思って企画したらできちゃいました。自画自賛です。自薦です。あの当時、サンリオSF文庫を貶した奴らのハナをあかしてやりたいので、クラブのみなさん、SF大賞候補に推してください。まかりまちがって受賞したらまたタイヘンなことになって、それもまたまことに面白いよなあ。
王城夕紀『マレ・サカチのたったひとつの贈物』戒能靖十郎
現実で起きている問題を敷衍・誇張した未来を描くことで問題の本質を抉るのはSFにおいてありふれた手法だ。『マレ・サカチのたったひとつの贈物』で描かれる、経済破綻とテロに脅かされ、民衆がネットを通じて操られていく世界は、まさしく「いまこの瞬間も近づきつつある未来」だ。しかし本作はそうした未来をただシミュレートするのではなく、「量子病」という、いつどこへ瞬間移動してしまうのか誰にもわからない奇病に冒された女性を主人公とすることによって、あらゆる事象を断片化し、変わっていく世界とそのうえでなお不変なるもの、その双方を描くことに成功している。日本SFの10年代は伊藤計劃を失った状態で始まり、3.11を経て、もはや半分を終えようとしている。中間地点となる2015年において、この時代・この瞬間の世界を再認識させ、未来に普遍的な希望を抱かせる本作は、まさにいま読んでおくべきSF作品だ。
森岡浩之『突変』鬼嶋清美
小松左京『日本沈没』は、戦後復興の繁栄の階段を駆け上がりつつあった日本の「いつかくる不安」を代弁していたが故に、戦後日本SFを代表する国民的作品になった。それから40年の時を超えて発表された森岡浩之『突変』は、東日本大震災後を経験した我々が共有する「すぐ隣りにある災害」の中で、どう人々が生きていくかを描いた作品として、かつて『日本沈没』が担った国民的作品の役割を担っていくに違いない。できれば『日本沈没』のペースよりも早い第二部の発表を、作者には望みたい。
森岡浩之『突変』天瀬裕康
文庫用に書下ろされた本書一〇〇〇枚には、新聞記事と同じ程度のリアリティがある。
日本の某市一帯が、突然、異世界へ変移するなど、とても常識では考えられないが、それが抵抗なしに大脳皮質へ受容されるのは、世の中が不安を内蔵している点があるにしても、著者の筆力によるところが大きい。
科学小説にならなかったのは、癌の妻を抱えた男、家事代行会社の女、スーパーの店長、市会議員、子連れパート主婦などの群像の反応を書き込んだことによるのだろう。
とにかく面白い。
小野俊太郎『フランケンシュタインの精神史―シェリーから『屍者の帝国』へ』天瀬裕康
小野俊太郎『フランケンシュタインの精神史―シェリーから『屍者の帝国』へ』(彩流社、二〇一五年八月)は、文学論であると同時に科学文明論でもある。
怪物(フランケンシュタイン)には、へそがないという「はじめに」から説き起こされる第1部は、作者メアリー・シェリーの遺産としての、生命と機械と心理の問題だ。
第2部の戦後日本におけるフランケンシュタインでは、ロボットやサイボーグへの変容や神や対抗文化の問題を通って伊藤・円城の『屍者の帝国』に至る。
その結果を著者は「あとがき」において、日本に受容されたこの怪物との出会いを読者に投げかけており、興味深い。
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荒巻義雄『定本荒巻義雄メタSF全集』Kei-one
待望久しかった荒巻義雄の初期SFを網羅したSF全集が全巻刊行された。昨年夏にこの全集刊行を聞いたときには、全7冊に別巻まで加えて本当に予定通りに出版されるとは到底信じることができず、その完遂自体がSF的な驚きである。収録作品は1970年のデビュー以来多くのSFファンを魅了してきた珠玉の名作ぞろいである。時代の移り変わりは使用が控えられる用語も数多く産んできたが、作者による精緻な見直しを経て刊行に漕ぎ着けたようである。諸作の発表当時を知っている者としては、既視感に似た感覚を伴って新しい作品を読むようで、とても心地よい。中野正一が描く想像力豊かな表紙画は、幻想的な作品群を収めた全集をさらに引き立てている。荒巻義雄は日本SFの創世期と発展期の両方に跨る特異な位置を占める作家であり、日本SF界の「大いなる遺産」とも言うべきその『定本荒巻義雄メタSF全集』を日本SF大賞に強く推薦する。
細田守監督『バケモノの子』巽 孝之
 これをファンタジー風味の典型的な任侠映画と評する向きもあるが、わたしは目下複雑怪奇をきわめる渋谷地下を舞台に虚実入り乱れる魔術的リアリズム的SFオデッセイと見た。その最大の理由は、SF的想像力の原型のひとつである十九世紀アメリカ・ロマン派作家ハーマン・メルヴィルの『白鯨』( 1851年)の大海原をみごとなまでに二一世紀東京の大都市に移し替えるばかりか、本邦初訳たる阿部知二訳『白鯨』テクストの第十章「腹心の友」における孤児イシュメールと銛打ちクイークエグの朋友関係を師弟関係ならぬ疑似家族関係へと再解釈したところにある。白鯨モビイ・ディックはまぎれもなく鯨油によって世界が廻っていた時代におけるエネルギーそのものの隠喩であり、原子力以降にはクラーク&キューブリック『 2001年宇宙の旅』のモチーフとしても受け継がれたが、それをあえて 3.11以後の世界に甦らせた問題意識には、並々ならぬものがある。
小野俊太郎『フランケンシュタインの精神史ーーシェリーから「屍者の帝国」へ』巽 孝之
  著者は SF畑出身ではなく英文学を専攻した文芸評論家である。しかし、主流文学における知識もさることながら、 SFをもその一翼とする大衆文学および大衆文化への深い造詣にはかねがね感嘆してきた。もちろん、いまや SFは現代文学の一環として広く認められているから、主流と大衆を横断する評論家も決して少なくはない。シェリー夫人の『フランケンシュタイン』を素材に単行書をものす向きもたくさんいる。けれども この著者は凡百の境界横断評論家の中でもひときわ輝く。いわゆる SF外部の評価に対してアレルギーを示しがちな SF界も、本書で SFの起源『フランケンシュタイン』が英米 SF小説のみならず映像メディア、果ては手塚治虫や小松左京、山田正紀、荒巻義雄以降、伊藤計劃&円城塔の唯一の共作長編『屍者の帝国』におよぶ日本 SFの半世紀にまで影を落としていることを説得力豊かに語る批評的想像力には圧倒されることだろう。
谷甲州『コロンビア・ゼローー新・航空宇宙軍史』巽 孝之
 谷甲州が小松左京との共作『日本沈没 第二部』に取りかかった時、まさに適任と思ったゆえんは、彼が小松同様、壮大な未来史を構想したうえで執筆する SF作家であるからだ。本書は 22年ぶりの航空宇宙軍史最新刊だが、 93年の傑作『終わりなき索敵』に感動した者としては、まさに瞠目すべき新展開を堪能した。 2099年の外惑星動乱で航空宇宙軍と外惑星連合が人類初の宇宙戦争を展開し疲弊し切ってから 40年、新たな戦争の予感が通奏低音として響き続け、クライマックスに来て、もはや老朽化し戦勝記念艦を展示する観光スポットになり果てたはずの軍港にて、開戦の火蓋が切って落とされる。物語を連綿と貫く緊張感と未来宇宙ですら免れない歴史の悲哀は、いまや谷甲州にしか書けない日本 SFの至宝である。
旭蓑雄『レターズ/ヴァニシング2 精神侵食』Doubly
本作は万物を構成する「世界言語」とそれを操作する事の 出来る能力者達の物語である。1巻では世界言語を有する物理世界という視座を読者に紹介しながら、万能三歩手前で留まる能力者達の苛 烈な闘争(と逃走)を描き、2巻では世界言語から発生した架空のテクノロジーを下地に、世界言語を有する人間の言語的意識と実在の言語学、バ イオテクノロジーを縦横無尽に用いて、珠玉のサイコヒロイン鵬珠を核とした物語のギミックを構成している。SFの問題意識の一つとして「言語」が重要な位置を占めてきた事 は明らかであり、またライトノベルレーベルがSFの一翼を担ってきた事も、認めざるを得ないだろう。既に推薦されているオキシタケヒコ氏「筺 底のエルピス」と併せて、日本SFの一つの先端として、本作を推薦したい。
荒巻義雄『定本荒巻義雄メタSF全集』マダムロボ
スペキュレイティヴなSFから仮想戦記ものまで多彩な作品を送り続けてきた荒巻義雄氏、齢八十余歳にして2013年には同人誌ではありましたが、新作を発表しています。その彼の基になっている初期作品集です。定本といいながら加筆や時代に合わせた修正も入り、荒巻義雄氏のいまだ衰えない創作意欲を顕著に表しています。
YOUCHAN『ターコイズ』その他作品マダムロボ
イラストレーターYOUCHANの画集です。
クルクルした目、くるんとした輪郭、丸い可愛らしい絵が特徴ですが、しかしその引かれている線は鋭角で時空間を切り取っていくような鋭さがあります。
可愛らしさの裏にはなにか冷たいものが隠れているのです。
荒巻義雄『定本荒巻義雄メタSF全集』14行詩《そねっと》
初期の入手困難な荒巻義雄氏の作品を一堂に集め、なおかつ書き直しを行った完全版を刊行したことは非常に大きな意義がある。特に若い読者が簡単に手に取ることができるようになった功績は大きい。今読んでも新しく、難解で哲学と絵画への造詣の深さは新しい読者に、それまで気づかなかった世界を与えるきっかけになるものと思われる。ゆえに、日本SF大賞に推薦する次第である。
小野俊太郎『フランケンシュタインの精神史―シェリーから『屍者の帝国』へ』荒巻義雄
多くの作家が誤解しているようだが、ことSFに関しては小説が主体なのではない。さらに、SF小説とSF評論が自動車の両輪ですらないのかもしれない。
日本SF創世期からSFに携わってきた眼からみれば、SFの第一目標はSF小説の普及ではなく、その本質は〈SF思想の研究および普及〉であったと思う。
SF作家である前にわれわれはSF人であるべきであるし、21世紀に入った今日、〈SF思想〉が、わが国のみならず、21世紀世界の方向性を決める新思想に成長するはずだという確信を、強く持つべきだと思う。
本書の内容は、SFマガジン編集長福島正美氏監修の『SF入門』の時代からすでに周知のとおり、〈フランケンシュタイン・コンプレックス(複合体)〉の発展系であり、第一・第二世代の手塚治虫、小松左京、荒巻義雄、山田正紀以降、伊藤計劃『屍者の帝国』へ至るフランケンシュタイン思想の系譜を的確にたどる良書である。
アニメ『下ネタという概念が存在しない退屈な世界』ジュール
華氏451、1984年のような設定のはずが、下ネタという一単語をぶっこむだけでこれほどまでにおかしな作品ができるのかと、ある意味驚愕した作品。かなりディストピアな作品世界のはずが、どうしてこれほどまでにバカバカしく見えてくるのか。下ネタとディストピアについて真剣に考えさせられた一作。
日本アニメ(ーター)見本市ジュール
スタジオカラーと株式会社ドワンゴによってはじめられたプロジェクト。アニメーターの育成とアニメーションの可能性、表現の深化と多様化。アニメの未来を開拓するために始まった本企画ではすでにサードシーズンを終え、多くの作品が発表されている。そうした中には数多くのSF作品があり、日本SFとアニメーションの深い関係性がうかがえる。これから先のSFアニメ文化のためにも、本作を日本SF大賞にエントリーしたい。

参考URL http://animatorexpo.com/
漫画『新世紀エヴァンゲリオン』ジュール
漫画版もしくは貞本版エヴァはアニメ版のエヴァンゲリオンを元にしながら基本骨子は壊さず、著者の独自色を追加しながら描かれた。最も顕著な違いは主人公、碇シンジの性格だ。引きこもるという印象を与えるテレビ版とは違い、漫画版のシンジはどこか投げやりだ。物語的には些細な違いではあるのだが、その些細な違いが徐々に読者の胸に募っていく。そして最後、漫画版を読み終えたときに読者が感じるのはテレビシリーズ、劇場版で感じた思いとは真逆のすがすがしさのようなものだ。長きにわたるコミカライズの完結を祝して、本作を日本SF大賞にエントリーしたい。
ドラマ『アオイホノオ』ジュール
本筋ではないものの、SFファンダム史をテーマにしたドラマ作品。DAICON FILMとしてSF大会のオープニングアニメを制作するまでの過程が史実を元に、多少(?)脚色を加えられながら、面白おかしく語られる。2015年第46回星雲賞自由部門を獲得したこともあり、SF大賞を受賞してもおかしくない作品だ。
牧野修『月世界小説』菱屋修介
人類とその存在を脅かす〈非言語的存在〉との果てしない戦いを描く本格SF。本作は、山田正紀『神狩り』に対する言語学的オマージュではあるが、牧野修の独特の作風をふんだんに盛り込んだその複雑さと壮大な世界観、そして絶望的な最後を迎えるかに見えて一転して心揺さぶられる救いでしめくくる結末など、物語としてもSFとしても『神狩り』そのものを越えたといってもいいのではないだろうか。
早川書房編集部・編『伊藤計劃トリビュート』白雨
伊藤計劃の作品は過去のものですが、この短編集ではその過去を消化した上での未来が描かれていると感じます。八作品に圧倒されました。長編の冒頭の作品もあり、この本からSFの未来が生まれるのではないでしょうか。
荒巻義雄『定本荒巻義雄メタSF全集』novatriton
いわゆる新作はほとんど入っていないが、全体が重要と思えるので3つの理由から推薦したい。1つ目は入手困難な初期の作品がまとまったこと。これによって、ビッグウォーズや艦隊シリーズ以降のファンにも別な面が見えた。2つ目は定本とするにあたって、加筆も含めてバージョンアップされたこと。これは作品と作者の関係がまだ濃厚に続いていることをしめす。3つ目はまとまったことで、従来にない作品世界の構築をめざす「メタSF」にとっての参照枠がはっきりしたこと。いわば乗り越えていくお手本がはっきりと見えるようになったのだ。以上の理由から推薦に足りると考える。
映画『ラブライブ!The School Idol Movie』節足原々
皆は1977年に公開された伝説の映画『VALIS』をご存知だろうか? ロックスターのエリック・ランプトンが製作した『VALIS』は暗喩と神秘的啓示に満ちており、脳にピンク色の光線を放った。それから38年後、巨大にして能動的な生ける情報システムの導きにより、日本においても神秘的啓示を放つ映画が誕生した。この作品は、衝撃的な解散宣言を出した実在のスクールアイドルμ’sの軌跡を追ったドキュメンタリーであるが、様々なニューウェーブSF的な仕掛けがある。例えば、登場人物の外世界と内世界の間の壁は故意に曖昧になっている。主人公たちの行動には外世界から見たリアリティは伴っておらず、時間軸や因果律の束縛からも解放されている。そして、至る所に宗教的メタファーが散りばめられている。主人公の影は十字架となり、最後には蓮の上で踊る。70年代アメリカと同じように政治的動乱の渦中である日本でこのような映画が公開されたのは示唆的である。
アニメ『がっこうぐらし!』節足原々
わたしはなにを認識しているのか? わたしが認識している世界は外世界なのだろうか? そのような疑問を否応なしに目の前に持ってくる作品が『がっこうぐらし!』である。このレビューには一話のネタバレがあるので見てない人はすぐに読むのをやめよう。一話を見た人なら作品の基本構造は理解したと思う。そうだ、典型的な日常系アニメだと思っていたのは主人公の妄想であり、外部には凄惨な世界が広がっていたのだ。重要な点は、この妄想が作品外まで広がっていることだ。声優ラジオや予告編では、平和な日常系アニメがはじまると布告されていた。『魔法少女まどかマギカ』がメタ魔法少女アニメであるのと同じようにメタ日常系アニメであるのだ。アニメはコンテンツの潮流それ自身をネタにする段階へ入っている。これからの流れを予想するとメタアイドルアニメが誕生するのではないだろうか。
カヅホ『キルミーベイベー』節足原々
本作品は秀逸なホラーSF漫画である。一般的な日常系四コマ漫画はイデア界に通じる門を秘めているが、本作品は奈落の液体がにじみ出る特異点に寄生されているといってもよいだろう。シリーズはじまりの頃からなにかおかしいという予兆はあったが、2015年に出た七巻をもって予感は確信に変わる。この作品は狂っている。特異点からにじみでてきた液体は我々の正気を持っていってしまう。例えば、オウムだ。この作品のオウムは例に漏れず様々な言葉を喋る、そのなかに明らかにこの世界に存在してはならないものの声があるのだ。いったい、オウムはなんの声を真似しているというのか?また、スルメ工場に迷い込んだ主人公のパートナーは、スルメと入れ替わってしまう。その後の彼女はスルメなのだ。これまでこれほど原初的な恐怖を描いた日常系四コマがあっただろうか。いや、ない。
アニメ『アイカツ!』節足原々
アイカツ!とは情報論SFである。なぜ情報論SFであるかは去年のエントリーを読んでもらえれば分かる。本作品は今年に入り、科学技術と未来社会についての重要な示唆を更に放つようになった。未来のSFの地平はアイカツ!なしでは語れないだろう。特にSF性を感じられたのは映画版の『スマホで応援上映』だ。『スマホでおうえん』の回では、アプリをダウンロードすることにより、映画の場面ごとにスマホが連動しライブシーンではサイリウムとなったり、キャラの情報が見れたりする。作品中で、主人公たちは観客の脳情報が拡張現実に反映される『アイカツシステム』の助けを借りてライブをするのだが、この試みはアイカツシステムのプロトタイプといえるだろう。アイカツシステムが拡大した世界においては、自分-観客-舞台-アイドルの区別は消え去り、重なり合い、互いに調和(harmony/)する。まさしく、ポスト伊藤計劃SFだろう。百合だし。
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Sound Horizon 『Nein』八十八
Sound Horizonとは歴史、神話、童話を題材にとり、そこからオリジナルの世界観を編み上げ、CDとしてリリースする音楽集団である。
『Nein』では、《遮光眼鏡型情報端末》が意識を持ち、SHがこれまで発表してきた物語が収められている書庫に接続しては不幸の原因と思われる因子を否定し、物語の改変を行う。
この端末をつけて物語を観測していたキャラクターが、物語とはいえ勝手に悲劇だとして改竄すること自体を「否定」するまでが、11曲の楽曲で描かれる。
作者の似せ姿でもある端末は、言葉のない歌をうたい、納得のうちに意識を手放す。そこからは、作者が作品を手放す覚悟、作中のキャラクターの生を認めるヒューマニズムが感じられる。
衆人環視の檻の中にいるようでありながら、作品の胎内で未生の状態の胎児のようでもある、虚構の存在。彼らについて考えずにはいられない作品だ。
荒巻義雄『定本荒巻義雄メタSF全集』全7巻+別巻YOUCHAN
長らく入手困難だった荒巻氏の初期SF作品群が読める幸せときたら! それも恐ろしいことに月刊ペース。読むのが追いつかないと嬉しい悲鳴があちこちで起きていました。アートを志す人であれば荒巻義雄は必須科目、絢爛豪華で毒々しさと華々しさを併せ持ち、あっというまに異世界にトリップしてしまう。そんな体験は、全7巻+別巻という美しい書籍の宇宙が実現してくれました。それまで点在していた名作たちを「全集」という形にまとめあげた企画に、大きなエールを贈りたいと思います。
牧野修『月世界小説』YOUCHAN
装画を描くためゲラを受け取り、いつものように寝転がって読み始めました。が、まさかの「い
きなりクライマックス」に、がばと跳ね起き「なにこれ!?」と声を出してしまったなんて、装画の仕事では後にも先にもないことでした。冒頭の、少女漫画のように切なく丁寧なディティールから一変、繰り出される怒涛の言語戦にクラクラし、その戦いに大興奮し、やはり美しく収束したラストに舌を巻く。が、しかしそれはまだゲラ段階。感想をだれとも共有できないことを歯噛みしたものでした。待望の発売以降、読了した方々のTwitterでの反応が大きく、読者が率先してTogetter感想のまとめをアップデートする等、草の根的な支持が非常に大きかったことは見逃せません。これまで牧野氏が培ってきた言語SFの集大成であり、一人のSF作家が体当たりして書き上げた渾身作だからこそ、大賞にふさわしいと思います。
森岡浩之『突変』YOUCHAN
特異災害(パニック)SF超大作と銘打たれながらも、物語の始まりはとても身近な日常。まるでゆっくり自転車のペダルを漕ぎだすように走り出します。大勢の登場人物たちの視点が交互に描かれるにつれ、いつのまにかフルスピードに。異様な世界観がごく自然に浸透してしまっていることに読みながら大変驚きつつ、ページを繰る手が止まりませんでした。アニメ化されてもいいのに! もしかしたら続編もあるのかな!?と期待せずにはいられません。
森岡浩之『突変』若木未生
ものすごく、おもしろい。推薦理由は、正直この一言に尽きるので、以下は蛇足である。七百ページをこえる大長編だが、一度ひらいたら止まることができずに最後まで読まされてしまう魔物のような迷惑な本だ。「突変」すなわち時空転移という災厄が、日常に溶けこんでいる時代。ごくありふれた日本の小さな町が「移災」し、「裏地球」へと飛ばされる。ド直球のパニック小説だが、群衆が恐怖と破滅に陥れられるかといえばそうではなく、世界を双肩に担うヒーローが出現するわけでもない。描かれるのは平凡な市井のみなさんの人間くさい行動と選択、そして彼らの行動に筋道を与えるために用意されたいくつかの社会システムである。じつはこの「システム」の構築に注がれる偏執的なまでのエネルギーこそが、著者の持つ特異な才能であり、日本SF界における突変なのではなかろうか。
富野由悠季監督『ガンダム Gのレコンギスタ』若木未生
『機動戦士ガンダム』三十五周年の年、富野監督が世に放った最新作は、現役ガノタなオジサンオバサンのための内輪向けファンサービスではなく、将来クリエイターとなりうる子供たちのための巨大な遺産であった。半世紀を費やして彼が築きあげてきたテレビアニメーション技法の真髄。映像の快感とは何かを惜しみなく伝え、日本製リミテッドアニメの矜持を後世に刻む豊潤なコンテ。駆け足すぎる展開と混沌とした世界観は視聴者に優しくはないが、つきつめれば一人の少年が宇宙を冒険し成長するというスタンダードな物語を、主人公と同じく混沌にまみれた不透明な世界を生きる現代の少年少女のため、最先端のSFマインドをまじえ、かつてなかったトイレ付きのモビルスーツ(!)とともに、健やかであれという祈りをこめてお茶目に製作された、至極挑戦的な傑作である。
田中ロミオ〈人類は衰退しました〉シリーズジュール
短編集が出たためエントリー。ライトノベルでありながら、序盤から様々なSF作品としての要素を兼ね備えた本作は終盤、これまでの謎をすべて解決し、素晴らしい大団円を迎える。これまでの田中ロミオの作風を生かしながら、新たな境地に達した本作を日本SF大賞に推薦したい。
舞台『魔王 juvenile remix』ジュール
2015年4月から5月にAiiA 2.5 Theater Tokyoと新神戸オリエンタル劇場にて公演された、魔王 juvenile remixを原作にした演劇作品。原作漫画における第二部である「潤也
編」を中心として、第一部のエピソードを混ぜながら語られる本作は、舞台としてはもちろんのこと、それぞれのキャラクターがしっかりと再現されており、原作ファンも満足させる舞台となっている。原作の超能力が出てくる独特なストーリーを舞台という3次元上で再現し、2.5次元とでも言うべきものに作り上げた本作を、日本SF大賞にエントリーしたい。
ドラマ『アイムホーム』ジュール
木村拓哉主演のドラマ作品。原作は石坂啓の漫画である本作は、帰宅途中、爆発に巻き込まれて記憶を失い、家族の顔が仮面に見えるようになってしまった主人公の物語。記憶を失い、かつての自分と記憶を失った今の自分。その差異に悩まされながら、自分とは何か、家族とは何かを考え、見つめ直していく。最終回において、精神内において過去の自分と対面し、会話をするシーンは自身の内面に迫るSF作品として非常に面白い作品だ。
映画『ゲム─解夢─』ジュール
大阪芸大卒業制作作品。OVER LOAD FILMの第二作。仮面ライダーや戦隊ヒーローモノばかりになりがちだった特撮作品が、近年、ガメラやゴジラの復活、パトレイバー、進撃の巨人の実写化と少しずつ特撮文化が盛り返してきている。そんな中で製作された本作、解夢は大阪芸大の卒業制作として作られた作品で、第二回 全国自主怪獣映画選手権さぬき大会や大阪芸術大学 卒業制作展などで公開された。その完成度はあまりにも高く、ただの卒業制作作品ではない。より多くの人に本作を知ってもらうため、そして、これからの特撮作品への期待を込めて、本作を日本SF大賞にエントリーしたい。
柴田勝家『ニルヤの島』ジュール
第二回ハヤカワSFコンテストの大賞作品。作品の随所に伊藤計劃の影響を感じられる作品。だが、伊藤計劃の影響を受けながらも、ただそれだけでは終わらない。著者独自の要素、民俗学を加えて語られる、人間の死とその概念。それらが混ざり合い、独特の読み心地と作品世界を生み出している。これから先、伊藤計劃以後を語る上では欠かせない一作だ。
大森望編『NOVA+ バベル』ジュール
現状の日本SF界において、考えられる限り最高の作家人によって作られたSFアンソロジー。宮部みゆきの戦闘員から始まり、円城塔のφで終わる。どの作品も傑作と言える作品ばかり。特に表題作バベルは長谷敏司作品の中でも屈指の名作。長谷敏司作品の良さが存分に詰まった作品と言える。高レベルなアンソロジーとして、本作を日本SF大賞に推薦したい。
高山羽根子『うどん キツネつきの』宮内悠介
高山羽根子さんの『うどん キツネつきの』を推薦させてください。軽妙なとぼけた味わいと洒脱な会話、その裏の練られた文体、愛嬌、エスニシティ、そして何よりもこちらの理解を軽く超える幻想性と、とても私には真似ができないものばかりです。
伴名練「フランケンシュタイン三原則、あるいは屍者の簒奪」ムテキノヒーロー@近日更新予定
『屍者の帝国』の設定を活用し、伊藤計劃が『ハーモニー』で書き洩らした、あるいは意図的に残した「嘘」をこれ以上なくうまく利用した極上のエンタテイメント。単著ではありませんが推薦させていただきます。
YOUCHAN『ターコイズ』中野晴行
現代におけるSFイラストレーションの第一人者による初の作品集。刊行にあわせて行われた個展「ターコイズ」とともに推薦します。
一見可愛いようでいて実は毒を含んだ独自のビジュアル表現は、文字による原作を損なうことなく、読者のイマジネーションを刺激します。
YOUCHANの描くものは、今では、SFの出版において、なくてはならない存在になっていると思います。
辻村七子『螺旋時空のラビリンス 』タニグチリウイチ
時間を遡り美術品を持ち帰る泥棒たちの組織から逃げた女を捜しに19世紀のパリに飛んだ青年を待ち受けていた時間の檻。同じ時間を繰り返し、見えない出口を探して足掻いた果てに得られる解法の妙味と解放の歓喜に喝采を贈りたい。
市川春子『宝石の国』若木未生
市川春子の漫画は、登場自体がすでに事件であった。その才能と個性は周知のものであるし、遅れて称賛を上積みするまでもない、と思ったが、この『宝石の国』が著者初めての連載長編であり真っ向からのエンタテインメント作品であることを、われわれは「さらなる事件」として真摯に評価するべきだ。性別なく、死を知らず、ただ砕け壊れては再生される身体をもって「月人」と戦う、美しい宝石たち。主人公フォスの飄々としたキャラクターと一見素朴な描線が読者を物語へと誘うが、一歩踏みこめばグロテスクな愉楽にゾゾッと背筋が冷える。「この星にはかつて『にんげん』という動物がいた」……人間を知らぬ宝石たちと月人の果てのない戦いは、架空の絵空事ではなく、人間とは何か、生命とは何か、自我とは何か、わたしたちとは何者なのかを、鏡うつしに問いかけてくるのだ。
萩尾望都『AWAY』若木未生
突然、18歳を境として、世界中の大人はHOMEに、子供はAWAYへと分離された。大人不在の街で少年少女は生き延びるすべをさがす。だがこの物語を支配する空気はつねに「死」だ。子供が子供を殺す。保護者が消えた家には子供が放置され死ぬ。HOMEで誕生した赤ん坊はAWAYに落ち、誰かに育てられねば死ぬ。満18歳の誕生日、子供はAWAYからHOMEへ強制帰還させられる。帰還を望まず命を絶つ者の増加。子供が子供を弔う葬儀の描写。少女が出産して親となり、18歳になって子の前から消える。「世界の秘密」は語られるが、AWAYとHOMEの帰趨は語られず、怪物の棲まう深淵を覗いたような震撼をもって彼らの物語は断ち切られる。「これはきみたちの未来の話だ!」そう叫ぶ預言者は正しいのか? この「未来」の二文字に、SFの使命がおそらくある。
アニメ『ガッチャマンクラウズインサイト』 木下猩々
いわゆるSF要素として宇宙人や人工知能なども登場するが、本作をSFたらしめているものは、あくまで既存技術であるスマホとSNSだ。作中で作り上げられたディストピアは、もはや現実はSFに追いついたのだと実感させる。
小野寺秀樹『桜七(サクラナナ)』倉本浩一
近い将来起きると言われている巨大地震や火山噴火とSFのタイムトラベルを絡めた物語で、地震で壊滅する東京やその周辺の様子が描かれている部分を読んで怖くなりました。
読み始めから20%ぐらいまではあまり動きが無く飽きそうになりましたが、そこから話が急展開し最後まで一気に読めてしまうタイプの小説でした。処女作とのことでそれなりの文章力でしたが、個人的には気取った言い回しの小説よりもすんなり読めるところが良いと思いました。続編を読んでみたくなる内容でした。
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オキシタケヒコ『波の手紙が響くとき』地上最後のマリ本D
人間には5つの感覚があるが、本書はその中でも聴覚をメインに、人のこころから生まれた謎を優しくときほぐす連作短編集である。前半2つの短編はそれぞれが独立したSFミステリとしても非常に質が高いが、3つ目の短編で起承転結の「転」をむかえた後は、本書の後ろ半分を占める表題中編で連作としての繋がりが見えてくるとともに、ハードSFとして大きく飛び立つことになる。そんな本書に、それこそ通奏低音として流れているのが「優しさ」である。飛浩隆氏が帯に「(前略)ハードとハートが手を取りあうこの本は、あなたの大切な友になる。」と寄せたように、本書は音とはまた違う波によって読者のこころを響かせ、優しさのこもった「手紙」を届けてくれる作品である。
最近『アリス・イン・カレイドスピア』鞴虎
魂のないホモ・サピエンスは人間かな?知的異種族は?アンドロイドは?人型に押し込めた獣は?もう一歩踏み出して二次元キャラクターはどうだろう?
アリス・インカレイド・スピアは、ポスト・ヒューマンストーリー。『人は絶対にわかり合えない』という決定的断絶の象徴として"哲学的ゾンビ"を掲げながら、様々な人の形を問いかける。
お祭り騒ぎなかで、"魂がない""醜い""感情がない""知性がない""わかりあえない"と冷徹に断じると同時に祝福し、自分の中の価値観を打撃していく力強い物語だ。
谷甲州『コロンビア・ゼロ:新・航空宇宙軍史』吉田隆一
谷甲州『新・航空宇宙軍史 コロンビア・ゼロ』(早川書房)を推薦します。谷甲州氏の未来史「航空宇宙軍史」22年ぶりの新作ですが、過去作品への寄りかかりは一切無く、今書かれ今読まれるべきSFとしての力を感じさせます。磨きぬかれた文体と構成力は宝石のようです。
原作・万乗大智、作画・八木ゆかり、企画協力・古市直彦/土屋理敬『無重力ガール』sS
「無重力ガール」全二巻(原作 万乗大智 / 作画 八木ゆかり / 企画協力 古市直彦・土屋理敬)を推薦します。
マンガボックス https://www.mangabox.me/ にて2014年4月から2015年3月にかけて連載されていた作品。連載打ち切り後に単行本化されたのでSFとしての見せ場が始まる前に終わってしまったのが惜しいが、急展開でネタばらしをしたり無難にまとめたりするようなことはなく第一話からの勢いで最終話まで突き進んでいて、この作品ならではの魅力は損なわれてはいない。SFとして求められる新しさ、最新の科学やテーマや哲学や思索など新しい要素がこれといってなくても、宇宙を目指す意志と困難に立ち向かう姿を描くだけで十分SFになるのだと再認識。いつか続きが描かれることを望む。
神林長平『だれの息子でもない』ジュール
第一線で活躍し続けるSF作家、神林長平。彼の最新長編は『いま、集合的無意識を』から続く、意識というテーマその意識に関する考察の一つの到達点であると思う。様々な意識に関する出来事を得て、主人公がたどり着く答え。神林長平は決して古びない。いつだってまっすぐに未来を向いて、最新であり続ける。本作が描いているのは果たして未来の話か、それとも、もはや過去になり果てたのか。その答えは神林長平だけが知っている。
倉田タカシ『母になる、石の礫で』ジュール
第二回ハヤカワSFコンテスト最終候補作の一作。ハードSFであり、サイボーグSF、ある種のサイバーパンクSFとして読むことができる傑作。3Dプリンターをテーマの主軸として扱い、母という存在、その意味について問いかけてくる。かなり特殊な造形の登場人物たちが数多く登場し、読者の脳内を絶えず、刺激し続けてくれる。個人的には第二回ハヤカワSFコンテストの中で最もSFを感じさせてくれた作品だ。
アニメ『楽園追放 -Expelled from Paradise-』ジュール
ストーリーの内容はよくあるサイバーパンク作品である。だが、本作の見どころ、SFとしての重要度はそこではない。本作で評価されるべきはその映像である。全編3DCGで作られたアニメーションでありながら、いわゆるディズニー的な描き方ではない、日本アニメーションの描き方を完全に再現しきっている。その日本アニメーション的3DCGの完成度は異常の一言。その進化具合はまさしくSF。ありえないような映像とサイバーパンクの世界観が完全にマッチしており、かつてギブスンが描いたニューロマンサーの世界を映像の中で作り出している。攻殻機動隊とはまた違う、新たな時代の新たな技術で作られた、素晴らしいサイバーパンク3DCGアニメーションだ。
唐辺葉介『つめたいオゾン』ジュール
唐辺葉介の作品、その文体は常に乾いている。どこか悲しく、どこかつめたく、そしてあらゆる点で寄り添うことができない、寄る辺なさがある。本作は世界中であらゆる奇病が発生し始めた世界で、アンナ・メアリー症候群という病気になってしまった一人の少年と少女の話。アンナ・メアリー症候群とは二人の人間の人格がやがて一つに統合されるという奇病。夢を持つ少年と絶望した少女。アンナ・メアリー症候群になった二人、その関係が描かれている。人格の統合とは、それは他者との理解か、寄り添うということなのか。物語終盤で語られる奇病の原因、その予測。SF的な物語設定の中、人の精神、そのあり方が本作では描かれている。
江波光則『我もまたアルカディアにあり』ジュール
本作は日本独特のキャラクターノベル、そのSF作品の到達点の一つだと思われる。特殊なキャラクター達。どこかみんな壊れていて、狂っている。どうしようもない平凡な人たち。だけど、どこか、到達点にたどり着こうと必死にあがいている。平凡な人があがく。本作は単純に言えばそんな一言でまとめられてもおかしくない。スタートは絶望的、どうしようもない状況で、しかしそれでも人は生き続ける。人という生き物、その生き方について書かれた小説だ。絶望的な状況でそれでも生き、あがく人。今を考えるためにも必要な、多くの人に読まれてほしい名作である。
法条遙〈re~〉シリーズ(リライト、リビジョン、リアクト、リライブ)ジュール
法条遙のリライトは時をかける少女へのオマージュである。だが、その作風は真逆。リライトが描くのは真っ暗な青春小説。特にそのラストは凄惨。青春小説に真っ向から対立するような作品になっている。そして、その続編としてリビジョン。謎を明かす作品としてリアクト。すべての作品、その答え合わせとしてのリライブがある。これら時の四部作はオマージュとしての完成度もさることながら、それ以上に時間SFとして完成されている。最初、本作を真っ暗な青春小説と書いたが、すべてを読み終えたとき、そのイメージが一新される。リライブによってたどり着いた最後はリライトの黒さゆえに際立ち、彼と彼女の物語をこれまで彼らが歩んできた物語、四季とともに彩る。本作は間違いなく日本の時間SFに新たな側面を付け加えた作品であり、以上の理由から本作を日本SF対象にエントリーしたい。
Todaysart(2014-)藤田直哉
先端的なテクノロジーを用いたメディアアートの祭典。日本人作家Norimichi Hirakawaの作品などはメディアアートであり、SF的センスに溢れている。ぼくらの認識や世界観を拡張する総合的な体験として大賞に推す。
上田岳弘『私の恋人』藤田直哉
三島由紀夫賞を受賞した純文学作品であり、純文学の文芸誌に発表されたが、中身は、シンギュラリティSFや、カート・ヴォネガットの作品に近い。巧みな語りの構造と、人類そのものを見据える科学的で冷徹な視線や主題から、SF大賞に推薦する。
水島精二監督『楽園追放 -Expelled from Paradise-』藤田直哉
インターネット時代以降の、逆サイバーパンクと言うべきか。3DCGを使った視覚的な描写も魅力な完成度の高いオリジナルSFアニメ。クラーク『都市と星』現代版として、大賞に値する。
アニメ『放課後のプレアデス』 沼Utsubo
宇宙を舞台に魔法少女となった少女たちの、思春期特有の儚さを優しいタッチで描き切った良作。リアルな宇宙の描写が登場人物たちの内面世界とも重なり、危うい美しさを演出している。子供にも大人にもオススメしたい一級のジュブナイルSF
なるしす『3つのボタンでカービィボウル』浅木原忍
なるしす『3つのボタンでカービィボウル』を。94年発売のゲーム『カービィボウル』を、ツールアシストを用いた使用ボタン制限で攻略するニコニコ動画のプレイ動画シリーズ。それの何がSFかというと、この動画ではゲーム内で発生する挙動が物理学・数学的に検証され、それが講座という形で視聴者に共有されること。この科学的手続きにより、打数削減という目標のための奇想天外なルート構築が理論的説得力をもって提出される。20年前のゲームが1ユーザーの手により5年がかりで徹底解析され、構築された理論により200打の可能性が理詰めで検証される展開には、本格SFミステリの持つセンス・オブ・ワンダーがある。20年前のゲームが一種の空想科学だったことが発見され、その検証と実践がもたらす感動が動画文化により共有された事実は現代に生じたSF的現象でしょう。
crow『少女牧場』crow
インターネット小説(URL http://ncode.syosetu.com/n8617cp/)食用人間をテーマにし、発達した科学技術を用いて行われる、外道の行いを描いた作品です。発達した科学技術は、人類を幸せにばかりするものではなく、使用する人間によってはこのような残虐な行為にも使用されるということを、正常な人間の倫理観と、狂人の感性の対比で表現しています。
荻野純『γ』全5巻地上最後のマリ本D
昨今、漫画業界内において、いわゆる「アメコミ」に題材をとった作品が増えてきているように感じる。これは『アベンジャーズ』を始めとしたMARVEL映画作品の、日本国内における一定の好意的な評価からも大きく影響を与えられているからだろう。その中で本作は、「SFとしてのアメコミ」に着目して、果敢にパロディを行った作品である。表現手法としての「パロディ」への無理解と、アメコミを題材として用いた漫画作品として世間に出るのが早すぎたためか、実質的な打ち切りとなり、最後が尻すぼみとなった感は否めない。しかし、その先見性と、果敢にパロディを行った意気込みをもって、私はこの作品を推薦する次第である。
アニメ『放課後のプレアデス』猛武
プレアデス星人に壊れた宇宙船のエンジンのカケラを集めて欲しいと頼まれ、5人の少女が放課後の魔法使いとなりカケラを集めていく物語。5人の少女は皆聡い一面があるが、実際は各々悩みを抱えている子供たちであり、カケラ集めの中でその悩みと向き合い乗り越えていく。壮大な宇宙に考証を重ねた神秘的な宇宙の現象の中で、ちいさな少女たちのちいさな心の変化を描き切った本作は、ジュブナイルSFとガールミーツボーイの素敵な組み合わせだ。「銀河鉄道の夜」や「星の王子さま」などの文学作品に「星めぐりの歌」や「月の光」の音楽、最新の科学考証、現代科学では不可能の個所に高度に発達した科学=魔法を交えて描いたのが、子供たちの成長というちいさな物語といったところにこの作品の真価があると思う。本編のストーリーに沿った児童書が発売されたように、この作品は大人だけでなく子供にも触れてほしい作品である。
梶尾真治『怨讐星域』いたばしさとし
SFマガジンで8年に渡って不定期連載された年代記。二つの道に別れた人類が艱難辛苦に負けず健気に生きる姿を描いた。憎しみに捉われていた人々が、和解と協力に転ずる場面は、戦乱絶えぬ我らが世界への作者なりの異議申し立てなのだろう。
アニメ『放課後のプレアデス』Ta. Miyoshi
スバルPRV出自のドライブシャフトやエンジンの欠片といった縦糸と、国立天文台mitakaの見せる世界の構造を横糸に複数時間線の邂逅というシチュエーションを紡ぎ出し、登場人物の成長譚と未来への希望を描いた傑作ぽわーむSFです。
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